PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ドアベルが鳴って

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 柔らかな日差しが大きな窓から降り注ぐビルの二階。
 再現性東京202X希望ヶ浜の繁華街に、そのカフェはあった。
 クリームホワイトの壁に温かな木目調のデザイン、柔らかなソファにはアクセントに北欧柄のファブリッククッションが置かれ、観葉植物の緑が心を和やかにさせる。
 ナチュラル系の内装は誰もが落ち着くカフェであろう。

 そのカフェ『cradle』のオーナー星川靖之は行きつけのスナックで頭を抱えていた。
「タピオカは、もう……お終いだ」
 数年ほど前にタピオカなる食べ物をジュースに入れて飲むというものが流行った。
 炎天下の中、長蛇の列を成し、やっと有り付ける冷たいジュースに、人々は魅了されたのだ。
 しかし、流行は過ぎ去り、客足はまばらになるばかり。
「このままでは、店が潰れてしまう――」
 何とかしなければ。オーナーは酒を煽りながら、スナックのママに「どうしたらいい?」と涙ぐみながら縋ってみせた。
「あらあら、星川さんったら、仕方ないわねぇ……じゃあ私がちょっと手伝ってあげるわ。知り合いの子達にお願いして盛り上げてもらうのよ」
「……流石、ママ! ありがとう!」
 ママは懐からaPhoneを取り出して、軽妙な手さばきでメッセージを送信する。
「これで良しっと……じゃあ、当日は知り合いの子達をよろしくお願いするわね」
 オレンジ色のまあるい笑顔のスタンプを押したママは、「ふふっ」とあろん声で微笑んだ。

 ――――
 ――

「ボディ、お前……その格好」
 とある人物からの依頼でカフェ『cradle』へと足を運んだ『刃魔』澄原 龍成(p3n000215)は、親友であり一つ屋根の下に暮らす『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)の姿をまじまじと見つめていた。
 ――メイド服。
 黒髪をツインテールにして、ホワイトブリムが乗せられ、白いブラウスは腰のコルセットの相乗効果で胸がはち切れんばかりである。
 しかも、フレアスカートの丈はものすごく短く、太ももが露わになっていた。
 柔らかそうな太ももを締め付ける白いオーバーニーは、程よい80デニール。
 これは、膝を曲げた時に内側の肌色が浮かび上がってくる良い塩梅だ。
 フレアスカートの中のパニエも量が多く、ヒラヒラ揺れと心を擽られるだろう。

 ――完璧なミニスカメイド服である。

「こ、これは……依頼の中で、指定がありまして……」
 aPhoneのメッセージに届いた依頼内容にはカフェ『cradle』の販売促進を行うため、それぞれのコンセプトにちなんだ服装を身に纏うという指示があったのだ。
 龍成はボディのミニスカメイド姿に目が釘付けになってしまう。
 たゆんとした胸元と露わになった太もも。これで給仕の際に前屈みにでもなった日には、色々とやばい。
 もやもやとした気持ちを抱え、自分もバトラーの姿となる為、龍成は紫色のシャツを脱いだ。
 そして、そのシャツをふわりとボディに掛ける。香りが、移る。
「龍成?」
 依頼の指定がある以上、従わなければならないだろう。
「何でもねぇ……」
 これは何の意味も無い、ちょっとした独占欲(やきもち)なのだ。

「何時もと変わらんくねーか? この格好」
 龍成とボディが話し込んでいる傍ら、同じ男子更衣室で。
『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)は袴姿に身を包んでいた。
 普段も和装――作務衣を好んで着ている清舟にとって袴はむしろ動きづらいものだった。
「足袋も履かんといけんのか?」
 袴の裾を持ち上げた清舟の足下。白い足袋が袴の間に揺れる。その袴と足袋の隙間――
 もちろん、依頼人の指定である。従わなければならないだろう。
「うむ、カイト! 良い筋肉だ!」
「………………いや、何で居るんだよ????」
 猫耳カチューシャを着けた『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)がプリティな衣装を身に纏い、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)を褒め讃えていた。
 一方のカイトは『ギャル』と呼ばれる格好で、白いブラウスに、プリーツスカート、紺のハイソックスをパツパツな感じで押し込めていた。
「何時もより、布面積が狭いからな、筋肉がよく見えるぞ、マイフレンド!」
「いや、だから! 何で!?」
「フェデリア島まで折角遠征したんだ。他の国にも行ってみたいと思ってな。なぁに、結構すぐだったぞ。それで此処へきて彷徨っている間に、カイトがこの店に入って行くのを見かけてな!」
 よりにもよって、この格好を見られてしまうとは。カイトは遠い目で窓の外を見上げた。

 女子更衣室。
 ふわりとミニスカメイド服のスカートの端を持ち上げた『繰切の友人』エル・エ・ルーエ(p3p008216)に『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)はにっこりと顔を綻ばせる。
「エル様、とてもお似合いですよ」
「えっと、エル、メイドさんを、頑張ります!」
 花の眼帯を左目に着けた澄恋は、パンツスタイルのバトラー姿に着替えていた。
 細身の太ももを絞める金属のベルトが耽美な色香を漂わせる。
 黒い手袋をきゅっと身につけた澄恋はミニスカメイドを纏った『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)へと振り返った。
「すみません、手伝って貰ってしまい……」
「いえ、その義手では後の編み上げは大変でしょう……いつもはどうされているんですか?」
 澄恋はミニスカメイドのスカートを整えた星穹に問いかける。
「……いつもは自分で着れますし、難しいのは息子に手伝ってもらって」
「お子さんがいらっしゃるのですね」
 優しい微笑みを浮かべた澄恋に、気恥ずかしくなって俯く星穹。
 このミニスカメイド服を息子や相方に見られなくて良かったと心底安堵した。

「似合ってるね、二人とも」
 更衣室の外、『陽の宝物』星影 昼顔(p3p009259)は待ち構えていたように、龍成とボディの執事メイド姿を写真に収める。
「昼顔のそれは……」
「流石にミニスカメイドは事務所NGなんで……クラシックタイプのメイド服だよ」
 黒いロングのフレアスカートに、白いエプロンとブラウス。
 結い上げた長い髪はモブキャップの中にしまわれている。
「お前、見た目良いから、似合うな」
「そうかな……メイクしたら龍成氏も可愛くなるよ? やってみる?」
 普段であれば大人しい昼顔が、何時になく生き生きとしている。
 これは、一種の暗示なのだろう。『コスプレ』という名の魔法だ。

「皆さんお揃いですね。給仕の心得はそんなに難しいものではありません。自身がどんな姿であれ、恥じぬ心が大切です。柔らかな微笑みを浮かべ、誠心誠意、お客様をおもてなし致しましょう」
 胸に手を当てた『嘘に誠に』フォークロワ=バロン(p3p008405)が、執事の矜持を説く。
「――では、カフェ『cradle』開店でございます」
 カランとドアベルが鳴って、カフェの香りが広がった。

GMコメント

 もみじです。
 ミニスカメイド服を着て可愛いアピールをお願いします。

●目的
・カフェ『cradle』を盛り上げる
・夜妖を退ける

●ロケーション
 練達国希望ヶ浜。柔らかな日差しが大きな窓から降り注ぐビルの二階。
 クリームホワイトの壁に温かな木目調のデザイン。
 柔らかなソファにはアクセントに北欧柄のファブリッククッションが置かれ、
 観葉植物の緑が心を和やかにさせる。
 ナチュラル系の内装は誰もが落ち着くカフェであろう。
 今日は、イベントがあると、事前告知があり、いつもより客足が多いです。

 実は、夜妖の仕業で客足が遠のくように仕向けられていました。
 この夜妖を退けるには、ちょっと可愛い感じにお客様を満足させ、
 この場所が活気溢れる場所だと思わせなければなりません。
 細かい事はいいです。可愛くアピールしてください。

 メイドカフェといえば、カフェラテやオムライスにハートを書いてくれたり
 チェキをとってくれたり、一緒に歌い踊り。
 ちょっと、距離が近かったりする感じです。

●敵
 しょんぼりした夜妖。
 ちょっとやさぐれています。思春期ですかね。
 活気溢れる場所だと感じれば、去って行きます。

●カメラ
 昼顔さんが依頼人に報告するためカメラを持っています。
 盗撮ではありません。ご安心ください。
 依頼人からの指示ですので、仕方ないですね。

●オーナーと依頼人
 このカフェ『cradle』のオーナー星川靖之は今回の依頼に対してとても期待しており、何着ものコスプレ衣装を取りそろえています。
 途中で着替える事も可能なので、着たい服があれば言ってみるといでしょう。
 依頼人はオレンジ色のまあるい笑顔のスタンプをよく押してきます。
 スナックのママをしているようです。

  • ドアベルが鳴って完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年07月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費300RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
※参加確定済み※
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
※参加確定済み※
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
※参加確定済み※
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
※参加確定済み※
フォークロワ=バロン(p3p008405)
嘘に誠に
※参加確定済み※
星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物
※参加確定済み※
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
※参加確定済み※
唯月 清舟(p3p010224)
天を見上げる無頼
※参加確定済み※

リプレイ


 爽やかなグリーンが至る所に置かれ、日々の疲れが和らぐ香りがほのかに届く。
 カフェ『cradle』はそんな安らぎの場所だ。
 しかし、ここの所何故か客足が遠のいて、オーナーの星川靖之は藁にも縋る思いで、知人に助けを求めたのだ。そうして集められたイレギュラーズ。
『嘘に誠に』フォークロワ=バロン(p3p008405)のモノクルが陽光に反射して白く光る。
「このような執事業はいつぶりでしょうか。ふふ、腕が鳴りますね」
 元いた世界では主に仕える身であったフォークロアは、緩く口の端を上げた。
 まずは『慣れていない』であろう、仲間に給仕の手解きをする所からであろうか。

 集まった仲間――『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)へ銀の双眸を向けるフォークロア。猫耳とプリティな衣装から筋肉がはみだしている。
「うむ! 俺は何をすればいいんだ? カイト!?」
「うわあああああああああああ!」
「どうした!?」
 突然叫び声を上げた『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)にアンドリューは目を白黒させた。
「いやまってくれ……なんでアンドリューも一緒にいんの!」
「分からんが、何か困ってそうだったのでな! それに、カイトのイイ筋肉が見られて嬉しいぞ!」
 満面の笑みが眩しい。筋肉目線で褒め讃えられても……とカイトは複雑な表情を見せる。
 カイトはブラウスのボタンが苦しそうなパツパツのギャル姿でアンドリューを見つめる。
「いや……」
 この動揺を漏らすのはプロ(役者)の端くれとして生き恥なのだ。
「くっ、ならば見せてやろうじゃねぇか 本気のギャル接客って奴を……!!!」
「おお! 流石、マイフレンド! イイではないか!」
 パツパツのギャル姿のカイトと筋肉がはみだしている猫耳プリティアンドリューに、フォークロアは優しい眼差しを向ける。

「オーナー、このカフェ特有のおもてなしの仕方はあるのでしょうか?」
 給仕の仕方をレクチャーするにも、郷には入れば郷に従えという理がある。フォークロアはオーナーの星川靖之へ振り向いた。
「こういったカジュアルな場所での給仕は私も始めてですからね。アンドリューさんのように猫耳もつけたほうがよろしいのでしょうか?」
「そうだな。あんたは、執事服がよく似合ってるから、そういう路線で良いと思う。そこの二人は。まあ、鍛え上げられた筋肉を見る機会というものは少ないから意外とお客様からも人気が高いだろう」
 冷静にフォークロア、カイト、アンドリューのチャームポイントを説いていくオーナー。

「成程、それは参考になります。他の皆さんはどうでしょうか?」
 フォークロアは同じく執事服姿の『刃魔』澄原 龍成(p3n000215)と、その隣で彼のシャツを抱きしめている『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)へ視線を向ける。
「……シャツ良い匂いしますか?」
「え、いえ何でもありません。まだ何もしてませんから」
 フォークロアの問いかけに首を横に振ったボディ。龍成はハンガーに掛けてあった紫色の首輪とガーターベルトを手に取った。それをボディの首に嵌めたあと、手際よくオーバーニーを止める。
「龍成氏、何してるの」
「こっちの方が可愛いかなと思って」
 龍成の流れる様な一連の動作を怪訝な表情で見つめるのは『陽の宝物』星影 昼顔(p3p009259)だった。

「あー、そうだね。龍成氏……ボディ氏が客と接近してても仕事だから我慢しなよ?」
「接近? どういうことだよ?」
「客の中にはある種の清らかさ……要するに『この子は相手居なくて、付き合えるかもしれない』を求めてる人はいるかもだしさ……リア充バレ……龍成氏が出てくると面倒な事になるかなーって……」
「ボディそいつと付合うのか?」
「?」
「いや、違うけど。ほら、そういう淡い感情をくすぐるのが、仕事っていうかね。だから、従業員同士に何か関係性があるって思われないようにしないとねってこと」
 髪を結い上げた昼顔は、端正な顔立ちで僅かに瞳を伏せる。
「何か、とは?」
「恋人同士とかね。まあ、なので。はい、これ」
 昼顔がボディの胸に着けるのは、『澄原(妹)』と書かれたネームプレートだった。
「妹……澄原ボディってことか?」
「確かに、同居しているのですから、兄妹に偽装した方が丸い、ですね」
 澄原ボディ……龍成とボディはその名前を口の中で反芻する。何だかむず痒く、照れくさいような。
 ボディは龍成のシャツを名残惜しそうにロッカーに仕舞って、くるりと振り向いた。
「……さぁ、依頼を頑張りしょうね。さぁ」
「ではカフェ『cradle』開店でございます――おかえりなさいませお嬢様」
 フォークロアの声と共に、ドアベルが鳴って。


『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)は正直な所、ドン引きしていた。
 メイド服が可愛いボディや、執事服が似合うフォークロアはまだしも、筋肉がはみだしているアンドリューやパツパツのギャル姿のカイトの柔軟性に、『これが、プロ……』なのかと。
「皆受け入れるの早すぎねぇか????」
 何故か、清舟には服装の指定があった。袴と足袋である。少し袴が短めで、素足が見え隠れする。
 ――絶対領域、良いですね。
 何処からともなくあろん声の囁きが聞こえた。後を振り向く。誰も居ない。
「ま、まあ。あんな短い履物履くよりは……しゃーない、接客も始めてじゃがなんとか……なるじゃろ!」
 接客にはまず、可愛さが必要である。そう昼顔がカメラを構えながら囁いた。
「いい歳した男じゃが? 可愛さ必要なん?」
 顔が良い故の圧の強さで昼顔が頷く。
「いやぁ、きっつい……きつくない?」
 されど、清舟には以前アイドルの仕事を熟した経験がある。だから、きっと大丈夫。
「なんとでもなりそう、ではある。いや、ならんわ」
 大丈夫。

「ほほぅ……すみれやエルちゃん、星穹嬢可愛らしい」
 清舟は『繰切の友人』エル・エ・ルーエ(p3p008216)と『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)、それに『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)を見遣る。
「こりゃ依頼も成功間違いな……どうして儂こんな格好を……」
 何だか、袴と足袋の間の絶対領域が、心なしか恥ずかしいものに思えてくる。スースーするし。
「儂みたいなのは変におべっか使うよりなあ」
 小さく零した清舟は意を決してオムライスを注文した客の元へ足を運ぶ。
「えっと……何か、書き……ましょうか」
 ぎこちない敬語。歳の割の幼さ。(冷静になったら負けみたいな)少し恥ずかしげに揺れる瞳。
「じゃあ、ハートで」
 ケチャップがにゅるにゅると黄色いオムライスにハートマークを描いていく。
「ど、どうじゃろか……あ、どう、ですか」
 思わず出てしまった素の言葉に頬を染める清舟。そのギャップがイイ!
 客の心をわしづかみにした清舟は誘われるままチェキを一緒に撮る。

「ここまで来たらもう客も友と同じよ!」
 立ち上がった清舟は客を誘うように、少し高くなったステージの上から手招きをする。
 店内のライトがパッと消え、何処からともなくペンライトの明りが視界に揺れた。

 ――――
 ――

「うーんうーん」
 エルはふわふわのメイド服を揺らし悩んでいた。
 何しろ、このカフェ『cradle』は沢山のメイド服や可愛い衣装が揃っているのだ。
「メイドさんの服は、色々と種類があって、エルは迷ってしまいます」
 何かを思い立ったようにエルはハッと顔を上げる。
「エルは、いいことを考えました」
 これだけの衣装があるのだ。毎回毎回服をチェンジすれば、より沢山の衣装が着られる。
「ふふっ。なんだか、魔法少女さんのように、変身しているみたいだって、エルは思いました」
 開店前に華麗に書き記したメモを取り出し、次のシフトの時間までの間に早き替えをするのだ。
「エルは、皆様の休憩のお時間や、忙しそうな時間に、とことこ頑張りたいって、思いました」
 シフト表を見ながら隙間で変身する。その楽しさはまるでスポーツのようである。

「……はぁ。どうして私まで接客をする羽目に」
 厨房で料理でもしていたかったと星穹は大きく溜息を吐く。
 相方や息子にこんな姿――太ももが露わになったミニスカメイド服――を見せるのは教育に悪い。
 されど、手を抜くのは信条に反するものだ。親になったからには規律正しく過ごさねばならない。
 パシャリと昼顔のカメラが鳴る。依頼人からの指定で何故か昼顔がカメラ役として抜擢されたのだ。
 せめて、写真だけは回収しなければと拳を握る星穹。
「あっ昼顔様。自分だけ逃げられると思わないことです。撮って差し上げます」
「カメラマンは自身を写せないからね。いやー、残念だなー。皆、僕の代わりに頑張って~」
 棒読みの台詞を吐く昼顔のカメラを奪い、代わりにその容姿端麗なメイド服姿を写真に収める。
「普通に美しい、ですね」
「そうかな」
 皆が楽しそうにはしゃいでいる姿に、昼顔は目を細めた。
「まさか皆でコスプレ接客するなんて思って無かったけど、楽しいや」

「お帰りなさいませ。お嬢様」
 星穹はカフェを訪れたオレンジ色の縦ロールの貴婦人にぺこりと頭を下げた。
「あら、貴女、とても可愛らしいわね」
 何故か顔がカメラに映らない貴婦人は星穹の肩に手を置く。
 指名ということだろうか。星穹は精一杯の笑顔を作ってみせた。
「この年齢のメイドは少々苦しいものがあるかと。身長も低くはありませんから」
「ふふ、それは魅力的なお誘いよ? さあ、このオムライスにハート……いえ笑顔のマークを描いて頂戴」
「笑顔……」
 何故か見覚えの有るような。笑顔のマークを所望する貴婦人。

「ほら、ご主人様。あーん、して差し上げます」
「あらあら、まあまあ。そんなサービスまでしていただけるの?」
「えっと、……まぁ、日頃から色々と鈍感な相棒を相手にして居ますからね」
 相棒とはあーんをする仲なのかと貴婦人は微笑みを浮かべる。
「……そうだ、出来立ては熱いですからふーふーしておきますね?」
 舌を火傷してはいけないと、オムライスに息を吹きかけ、貴婦人の口元に添える星穹。
「ほら、おっきく口を開けてくださいな。ふふ、いい子ですね」
「ふふふ……美味しいわぁ。そうだわ。一緒に写真を撮りましょう。チェキをね」
 貴婦人は昼顔に手招きをして、星穹の傍に寄った。
「ふむ……そうですね。失礼します、ご主人様」
「あら?」
 ふわりと持ち上がる貴婦人の身体。星穹がお姫様抱っこをしてみせたのだ。
「一応はメイドですから、危険から貴方を護るのも私の役目ということで。如何ですか、ご主人様?」
「ふふ……とても楽しいわぁ」
「貴方が選んだメイドは斯様にも愛らしさは欠けておりますが……後悔など御座いませんよね?」
 勿論と頷いて、貴婦人は星穹の頬をゆるりと撫でた。

「そういえば、他におすすめはあるのかしら?」
 星穹を隣に座らせ、フォークロアに問いかける貴婦人。
「おすすめですか? ではお嬢様をイメージした紅茶とお菓子をお持ちいたしますね」
「まあまあ。どんなのか楽しみだわ。ああ、でもほら、絵を描いて欲しいのよ」
「成程。でしたら、カフェラテをお持ちいたしましょう」
 恭しく執事としての立ち振る舞いを完璧に熟すフォークロアに、貴婦人と星穹は感心する。
「お待たせいたしました、こちらカフェラテでございます。可愛らしいうさぎを描いてみせましょう」
 器用に動くフォークロアの手先をじっと見つめる貴婦人。
 優しく丁寧に描かれるうさぎは、愛らしく思わず笑みを浮かべてしまうだろう。
「……かふぇにおいてはお料理を提供する際に「もえもえきゅん」というおまじないがございまして」
「もえもえきゅん?」
 フォークロアの描いてくれたうさぎのカフェラテアートの前に燕尾服姿の澄恋がやってくる。
 眼帯の隙間から、薄く開いた左目が貴婦人の目に映った。
 一瞬だけ人差し指を口に当てて「シーっ」と微笑んだ澄恋は「もえ」について丁寧な説明を語る。
「『もえ』とは萌え以外に燃えとも記すことができ、二度繰り返すことで激しく燃え盛るようなぱわふるさを強調していると解釈できます。
 『きゅん』は鼓動の昂まりの擬音語で生命力を表しており、可愛さを意味する『きゅーと』の短縮版である可能性もあるとかないとか
 ――つまりは、お料理の冷める前に素早く志気と癒しをさーびすできる高速詠唱術なのです!」
 プロ花嫁の知恵を生かし、お客様へ最高のもてなしをする。それが給仕の心得。
「何だかすごいのね!」
 澄恋の言葉に顔を綻ばせる貴婦人。
「そしてこのもえもえきゅん、発動時に両手で印を結ぶ必要があるのですけれど。
 その印がはーとまーくなのですよね」
 はーと、とは。身体の核である心臓を表すもの。
 それを相手に見せつけることで活気溢れるエネルギッシュなイメージを与える事ができる。
 二人で作ればなおさら。
「一人でも口元で印を結ぶことで言霊がはーとの型に宿り、詠唱の成功率が上がります」
「何だか、わくわくしてきたわ!」
 ちなみに上目遣いで軽く首を傾げ、「きゅん」の時に軽く手を前に突き出すことで効果が倍増するらしいですよと澄恋はボディを見つめた。

「なるほど……」
 別のテーブルに付いていたボディは澄恋の言葉に頷いた。
 オムライスにハートを所望する男性客。早速その要望に応えるべくボディは向かいの席からオムライスに模様を描こうとした。されど、こちら側からでは少し遠い。
「失礼致します、ご主人様」
 ボディは男性客の隣に座り、ケチャップを持った。
 腕同士がぶるかる距離。男性客の視線がボディの胸元に釘付けになる。
「それで、えっと……次は」
 澄恋が言っていた魔法の言葉を唱えなければならない。
「……もえもえきゅん?」
 小首を傾げたボディは男性客をじっと見上げる。
「ふふ、可愛いね……君」
 ボディの肩に手を置こうとした男性客の手をそっと握ったのはエルだ。
「メイドさんに、おいたは、めっ、ですよ? 隠し撮りも、めっ、なのです」
「そうですよ。お客様? 俺がお相手しましょう」
 ボディの代わりに席へ座った龍成にエルはアイコンタクトで「お手柔らかに」と合図を送る。
「いらっしゃいませぇ、ちょーっとね、今日はね、色んなコがいんだよね。ゆっくりしてってねぇ」
 その男性客の向かいに腰掛けるカイト。そして隣に座るアンドリュー。
 男が四人、テーブルに付いている。
 否、正しくは。お客様、執事服、ギャル、猫耳プリティ衣装の四人だ。
 ここはカフェ『cradle』。どんなお客様とて包み込む揺り籠のようなお店を目指している。
 たとえ、カイトやアンドリューの身体が引き締まり筋肉がバキバキの成人男子であろうとも。
 所作振る舞いに、ギャルや愛らしさを降ろせばいい。
 則ち――カワイイは創れる!!!! ( ・◡・*)創れる!!!!

「無知故の、羞恥故の魅力もあるだろう。だが! 俺は、覚悟が出来ている!!!!」
 ガタリと立ち上がったカイトに、男性客はビクリと肩を振わせた。
「ハートをつくるやつだな!? カイト! ボディもさっきやっていたからなぁ!」
「そうだよねー。お客様、俺達(うちら)のハート、受け取ってほしいなー?」
 アンドリューとカイトは合わせハートで可愛さをアピールする。
 封殺するのは相手の手番だけではない。お客様のハートだって封殺(わしづかみ)してみせる。
 それが真のカワイイギャルというものだ。
「でもぉ、おさわりは厳禁なんだからねぇ?」
「カイト、今日は何だか可愛い喋り方をするな!? だが、それもイイ!」
 ――プロとして突き詰めるということは、親友の純粋な賞賛を一身に浴びるということだ!


 忙しく駆け回るイレギュラーズ。
 本日何度目かの衣装替えをしたエルが、疲労困憊の顔で厨房へと入ってくる。
 シェフの差し出してくれた、イチゴジュースが身体に染み渡った。
「はふぅ……元気になったのです。これで、もえもえきゅんで、ご主人様を、元気にできます」
 再び、元気よくホールへと舞い戻るエル。

「貴方の好みに合わせて接客したいから……貴方の事をもっと教えてくれませんか?」
 ロングスカートのメイド服を着こなした昼顔は、その美しい顔で男女問わず客の心を魅了していた。
「昼顔ー! 昼顔ー!!」
 そこへ、清舟の助けを求める声が聞こえてくる。
「唯月氏! どうしたの?」
「な、なんか皆が手でハートマーク作っとる……!」
 どうやらメンバーが集まってチェキを撮る雰囲気になったらしい。
「儂ぼっち助けて! 儂ぼっち!」
 片手でハートマークを作ってスタンバイしている清舟の目尻に涙が浮かぶ。
「唯月さん落ち着いてください。深呼吸深呼吸、ひっひっふーですよひっひっふー」
 フォークロアは泣きそうになっている清舟の背を撫でた。

「周りの面子はリア充でも。ボッチなのは僕もだ。君を1人にはしないよ……!」
 清舟と昼顔の華麗なるハートマーク。
 それを、オレンジ色の縦ロールの貴婦人が満面の笑みを浮かべ、パシャパシャと写真に収めていく。
 ついでに、清舟の額に( ・◡・*)マークのスタンプを押して。ふふっとあろん声で鳴く。
「ママ! スタンプ押しちょる場合じゃない! 今額に押しとる場合じゃない!」
「うふふ。そうだわ。貴方も撮りましょう」
 貴婦人は見守るように立っていたフォークロアを手招きした。
「チェキですか、このように写真を撮られたことがないのでどのようなポーズをしたらいいかわかりませんね……ピースでよろしいのでしょうか?」
「ええ、ええ。ピースでも良いわ。どんな姿でも愛らしいもの」
 フォークロアと写真を撮ったあと、貴婦人はボディと龍成を呼んだ。
「あなた達兄妹なのね。ぜひ、一緒に映っている写真を見たいわ?」
「え?」
「兄妹でスタッフなんて、可愛らしいじゃないの。ハートをつくってね。ハート」
「り、了解しました……」
 貴婦人の要望により、龍成とボディはぎゅっと近くに寄って、指でハートを作る。
「で、では行きますよ龍s…お兄ちゃ、ん」
 パシャリと切られたカメラのシャッター。照れくさそうに映る龍成と、無表情のボディ。
 ふわりと香る龍成の香水の匂い。ボディは布越しに感じる温もりに少しだけ体重を掛けた。
 安心するけれど。胸の奥がむず痒い。少しだけ、変なエラーが出ている。
 龍成はこんなエラーが出ているのだろうかと、視線を上げれば、龍成の紫瞳と目が合った。
 むず痒い。頬が高揚する。こういう時はどうすれば良いのだろう。
「……も、もえもえきゅん?」
 澄恋から教えて貰った魔法の言葉。きっと、こうすれば喜んでくれる。そうに違いない。
 だって、龍成の顔が自分と同じように赤く染まったのだから。

 活気づくカフェの片隅に、寂しげに佇む夜妖の姿があった。
 その夜妖の肩を叩いたのは昼顔だ。
「此処は皆が笑顔で帰っていく店です。夜妖だからってそんな顔で帰らせる訳にいきませんよ」
 さみしがり屋の夜妖は、メイド姿の昼顔に嬉しそうな笑顔を見せた。

「ハッ!? 業務終了! やっと終わったぁ!!」
 清舟はClosedの看板を掲げ、解放された顔で振り向く。
 テーブルの上に広げられたチェキの数々に目を見開く清舟。
「え、写真撮られちょったのこれ????」
「うん。いっぱい撮ったから。盛況だった証拠を依頼人に送らないといけないからね」
 何故か、己の絶対領域が散見される写真達を見つめ、ぶんぶんと清舟は首を振った。
「お疲れ様です! ご主人様!」
「えっ」
 疲れた顔をした清舟にエルが笑顔でジュースを手渡す。
 ご主人様と言われる側になろうとは。何だかむず痒い気持ちで清舟は頬を掻いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 皆さんの可愛らしい姿は依頼人に届けられ、お店も盛況でした。
 ありがとうございました。

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