シナリオ詳細
<光芒パルティーレ>インシデント、サンクチュアリ・ベイ
オープニング
●二番街:楽園港にて異変あり
うみねこたちが歌う港では、今日も市場がごった返している。
魚の競市はもちろんのこと、果物売りから保存食の専門店。水夫が大量に出入りする派遣事務所からちょっといかがわしいお店に至るまで、漁と船旅に関するものならなんでも揃うのではと思うほどの賑わいようだ。
「……楽園港(サンクチュアリ・ベイ)……」
冬葵 D 悠凪(p3p000885)はほわあという声を出し、港の熱気にあてられたように景色を眺めていた。
「本当にここがあのフェデリア島なんですか?」
悠凪は随分と前。それも二年ほど前のフェデリア島を思い出しながら呟いた。
あははと笑うモカ・ビアンキーニ(p3p007999)。五番街と二番街にそれぞれcafe & Barの店を出し結構な成功をおさめつつある女である。
「無理もない。この島の成長はあまりにも激しいからな。
けれど、これで『例の夢』にも近づいたんじゃあないのか?」
「どうでしょうか」
苦笑で返す悠凪。彼女には自分の書店をもつという、その店を大きくするという夢があった。
確かにこのくらい活気のある港街に店を開けば儲かることは間違いがない。幻想豊穣鉄帝による三角貿易の中心となったここには数多の文化が通り抜け、書のバリエーションもさぞかし豊富だろう。
更に言えば、かのヒストリア戦役で戦ったローレット・イレギュラーズは島でも有名な英雄だ。悠凪だって、あれからのブランクを感じさせないくらい街の人達に振り返られ、たまに声をかけられたくらいだ。
「あのとき、戦った甲斐があった。ということさ」
「……そうですね」
一人の命を守ることは、無限の未来を守ること。
悠凪が時折感じていた『分岐点』の先に、よもやこんな未来があろうとは。
「まあ、今日は観光で来ただけなのだろう? ゆっくりしていけばいい」
優しく声をかけるモカ。悠凪が同意しようとした、その時。
――悲鳴が、聞こえた。
カチリ、と悠凪の感じる時間がスローになり、目の前に無数の『分岐』が出現する。それらはスローな世界でありながら絶え間なく増減を繰り返し、やがて片手で数えられるほどの個数へと収束していく。
そのひとつを選ぶことに、悠凪はまず迷わなかった。
「行きましょう!」
一も二もなく悲鳴のもとへ走り出した悠凪。
モカもそれに同意し一緒に走り出した。
場所は楽園港やや南側。
停泊していた船から露出した砲台が煙をふき、対面側の建物の壁が破壊されていた。
あがった悲鳴はこのためか。いや、まだある。
船からは豊穣風のみなりをした男達が次々に飛び出し、周囲の人々へと襲いかかり始めたのだ。
「豊穣風の海賊――海乱鬼衆(かいらぎしゅう)か!」
「海賊の略奪だと!? 港町でか!? 鉄帝軍は何をやっていた!」
巨万の富が行き交う港町。セレブだらけの三番街ほどでないにしろ、二番街の港にみすみす通すほどザルではない、はずだ。
商船に偽装していたとはいえ、無事に出る算段などどうやってつけたというのか。
モカと悠凪は同じ事を考えたが、やはり同じ決断をした。
「調べるのは後回しだ!」
「街の人達を守りましょう」
頷き合い、海賊たちへと挑みかかる。
- <光芒パルティーレ>インシデント、サンクチュアリ・ベイ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月05日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
フリントロック式のピストルから放たれた弾丸が、水色髪の女へと飛ぶ。
育ちのよく、清楚な雰囲気がある女だ。木陰で詩集でも読んでいればさぞ似合うだろう。
そんな――『氷晶の盾』冬葵 D 悠凪(p3p000885)は手にした盾を斜めに翳し、弾丸を跳ね飛ばす。
「栄えれば、その努力を奪おうとするものが出る。
生物、ひいては社会性を持つものであれば思いつくでしょうね。それが楽であると理由から、それを実施するものもいる。でも、被害を受ける人からすればたまったものではないから。弱いからと蹂躙されるなんて、嫌だから」
盾をどかし、悠凪の瞳には強い決意と炎があった。
「そんな理不尽に抗うと、私は決めたから。夢をかなえるためにも、平和を目指すと決めたから――護って見せる」
呟いた言葉は祈りのようで、実際祈りによく似ていた。
何度も何度も繰り返したであろうその決意は、彼女の心を燃え上がらせる。
「みんな、おまたせ!」
『銀雀』ティスル ティル(p3p006151)が市場の建物の屋根上を飛び、翼をするどく構えた滑空姿勢によって先ほど発砲した海乱鬼衆(かいらぎしゅう)のひとりを蹴り飛ばす。
「どこの誰かは知らないわ。けど、アンタ達の好きにはさせないから!」
「海乱鬼……海乱鬼と言ったか。鬼じゃん? 鬼では?鬼であるなぁ!?」
そんなティスルに抱えられる形で参上した『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)。観光中だったのか紙袋を放り出し、腕まくりをしてにやりと笑った。
「それとも鬼の威を借る小魚であったか?
海を乱すと嘯きながら自ら陸に打ち上がる、これを愚かと言わずなんと言う。
散らばる光る石に魅入られるか、或いは運悪くこのワレと出会ったか……どちらにせよ、罪人の沙汰は決まっている。その薄汚い我欲、石のように積み上げこのワレにぶつけるが良い。ワレはソレを崩し続けよう!」
大演説をぶつ頼々に、海乱鬼衆たちは刀を向けた。
『紫闢頼守』。つまりは空っぽの鞘を腰からスッと伸ばす。居合いの世界であれば、相手が刀を抜いた時点で悪。斬られても仕方の無い事態だ。
しかし頼々は刀のない鞘を抑えるだけで、不敵に笑っている。
「なんだこいつ、刀を忘れたのか?」
「馬鹿。こいつ『虚刃流』だ! 構えでわかれ!」
海乱鬼衆のひとりが、仲間の後頭部をひっぱたいて怒鳴った。
「有名人じゃない」
ティスルは腕輪のついた両手を翳し、ぶんと振り下ろす。
すると腕輪が瞬間的に溶け、ふたつの刀の形をとってティスルの両手に収まる。
「仲間はこれだけかな? いや……」
『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が振り返ると、逃げ惑う人混みをかき分けるようにして『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が現れた。
おしゃれ着姿の『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)もだ。
「何かと思えばカムイグラの海賊か。
気になることは多いけれど、ここを荒らされるのは好ましくないね。
かつて私達が切り拓いた、絶望の青の航路……ここまで生まれ変わっていたとは予想外だったけれど、この変化も我々が手に入れた『成果』さ。
だからこそ、ここを荒らすのは私の冒険を汚す行為だ。看過はできないね」
「湾岸警備隊は到着が遅れるそうです。何かしらの妨害が起きていたんでしょうけれど……こうなってしまっては仕方がないですね」
両腕を晒して魔力を解放するゼフィラ。
マリエッタもまた腕の血印を晒すと、赤い魔力を湧き上がらせる。
そして何か頭によからぬことでもよぎったのだろうか、マリエッタの表情が一瞬だけ酷薄なものになる。
「おかしいなぁ……? ここ、観光地だって聞いてたんだけど。
直接街を襲えるほど治安が悪い場所だなんて思ってもいなかったよ」
更に別の方向からは『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)。
ね? と振り返ると何かを手の中でじゃらじゃらとやった『熱き血潮』エミリー ヴァージニア(p3p010622)が歩いてくる。
「軍に任せれば……と思ったが、時間がかかるようなら、な。折角の観光旅行だ。邪魔されるのは気に入らない。手伝おう」
モカは集まった(自分を含め)八人の仲間達の顔ぶれをみて『よし』と呟いた。
「まずは手分けをして海賊たちの鎮圧だ。大砲は――」
「私が行く。破壊には適してるわ」
ティスルがぴょんと飛び上がり飛行状態に入ると、ゼフィラがこつんとЯ・E・Dの肩をこづいた。
「なら私達二人もだ。射撃は任せる」
「ん、いいよ。じゃあ略奪してる海賊は任せていい?」
Я・E・Dが言うと、マリエッタとエミリーが『いってらっしゃい』とでも言うように手を振った。
「決まりであるな? では――」
「今この場だけは。無辜のだれかが悲しまない為にも!」
頼々が走り出し、悠凪もまた走り出した。
●
船から放たれた大砲。
黒い鉄球が回転をかけながら放物線を描き、はす向かいにある建物へと迫る。
二階の窓のカーテンをあけた老婦人が驚愕に目を見開き叫ぶ――その瞬間。
荷馬車を踏み台にして駆け上がった悠凪が盾を両手でしっかりと握り、老婦人と砲弾の間へと割り込んだ。
全身の力と回転をかけたスマッシュが砲弾をはじき、斜め上に飛んだ砲弾は建物の屋根を削っていった。
衝撃で吹き飛びそうになった悠凪だが、なんとか着地したところに周囲の海賊たちが振り返る。
「やるじゃあねえか、あんた。ローレットのお偉いさんかい?」
刀を突きつけるようにして尋ねる海賊たちに、悠凪はふうと小さく息を吐いた。
「あなたに名乗る名前はありません」
「そういうことだ」
彼女を追って飛び降りてきたモカの蹴りが海賊を蹴倒し、地面に手を突くと素早い回し蹴りによってもう一人の足をすくった。
転倒した仲間とモカから距離をとりつつ、海賊達は銃を構えた。
刀のリーチをモカがゆうにすりぬけた所を見たからだろう。距離をとって撃ちまくることにしたらしい。
が、それはモカの望むところだ。というより悠凪のというべきだろうか。
決意を燃やし割り込んだ悠凪は放たれた銃弾を盾で全て受け止める。
青い微光を纏った盾が弾丸をはじき返すさまを、物陰から見ていた誰かが『アスル・エスクード』と呟いた。
なるか昔、絶望の青から伝わる青き守護神伝説をさす名前である。
そんな評判を知ってか知らずか、盾の裏で悠凪がモカへ振り返る。
「耐える力には自信がありますが、そこまで長くはもちません。頼めますか?」
「ありがとう。充分だ」
モカは悠凪の肩にてをつき盾の上を飛び越えると、距離を詰めようと迫っていた海賊の顔面を両膝ではさみぐるんとその場に投げ落とす。
「30秒でカタをつける。それまで頼んだぞ」
一方、露天が並ぶエリアにて。
銃を乱射しながら奪った林檎を囓る海賊がいた。
商船に偽装して港へと入り込む作戦は思いのほか上手くいった。誰かの手回しがあったのかもしれないが、こうして無防備となった港で略奪を行えるのだ。それが仮に天の起こした奇跡かなにかだったとしても、あるいはひどい悪党が私腹を肥やすためにおこした陰謀であっても構いやしない。
もう一度林檎にかじりつこう……とした彼の足元にからからと光るものが転がった。
血のように赤い宝石だ。鴉同様光り物に目がない彼は林檎を放り捨てて宝石を拾い――あげようとして、宝石が勝手に浮きあがったのを見た。
「……え?」
三つ集まった宝石が赤い魔方陣を水平展開。気付けば彼の周りに落ちていたいくつかの宝石が一斉に同じ魔方陣を展開し、その全てがボウッと激しい炎を吹き上げた。
たき火に直接放り込まれた芋さながらの、それはそれはひどい炙られようであった。
悲鳴すら空気に詰まってあげられない海賊が黒く焦げて崩れ落ちたのは、力尽きたからではない。足が炭化してへし折れたからだ。
「その辺に転がっているものを不用意に奪おうとするからそうなる」
エミリーは笑い、クイッと指で手招きをすると宝石たちが彼女のもとへ集まるように飛び、旋回飛行を始める。
海賊達はチッと舌打ちをしてエミリーめがけて銃を撃ちまくった。
何発かが着弾。血が吹き上がり――その血が集まりまた新たな宝石となった。
「あはは」
笑うエミリー。新たに生まれた宝石たちが新たな魔方陣を作り、火炎の弾を次々に発射していく。一個一個は小さくとも無数に集まったそれは機関銃のごとき連射となって海賊たちを穴だらけにしていった。
「どうした、臆したのか? 我が血と富はここにあるぞ、身命を賭して向かっ来るが良い!!」
「早く終わらせましょう」
血と炎があがる市場を、酷薄な笑みすら浮かべる冷静さで走り抜けるマリエッタ。
彼女と対峙した海賊が反射的に刀で斬り付けると、翳した腕から血しぶきがあがる。
あがった血しぶきは螺旋状に絡み合い編み上がり、大鎌となって手に収まる。
あまりの様子にハッとした海賊の首が、その刃によって切り落とされる。
マリエッタは鎌をくるくると回し、今なお血の流れる腕を顔の高さまで掲げて見せた。
「他人の血を流すことに、あなたたちは躊躇しないのでしょう。
責めはしません。そうなるに至る過去がきっとあったのでしょう。
たとえば、あなたに病気の妹がいたとします。死にそうな犬や歩けない母親でもいいでしょう。子供の頃は素直で優しい子だったのかもしれません。将来はどこかで誰かを助けるかも」
肘まで流れ落ちる血を、マリエッタはどこかつまらなそうに見た。
「でも、死んでください。今ここで」
滴となって落ちる寸前。血は無数のナイフへと変わりマリエッタの周囲で回転。その全ての切っ先が海賊たちへむいたかと思うと、次々に発射された。
悲鳴と血しぶきがあがり、マリエッタはため息とともに肩を落とした。
「我が名は源頼々、鬼は殺すが……雑魚には優しいぞ?」
頼々は鞘をつかみ、首をまわしこきりと鳴らしながら悠々と桟橋を歩いていた。
船の上からは、数人ほど残ったであろう海賊が彼を追い払おうと銃撃をしかけてくる。
が、弾が飛来する寸前にありもしない刀を握り鞘を引く動作と連動して柄を握りくるりと返した刃を向け、そして斬る。
抜刀に一切の無駄がなく、斬撃に一切のブレがない。
そこに刀身がないという事実以外を除いては。
であるにも関わらず、頼々の放った『斬撃』は弾丸を真っ二つに切断しそれぞれを海面へと落としていく。
「どうした? ワレを殺したいのだろう? 鉛玉までくらわせたのだ。殺される覚悟もできているのだろうなあ?」
ゆっくりと、相手の調子を崩すようなトーンとテンポでいう頼々。
彼が船へと乗り込むその頃には、海賊たちは半狂乱になって銃を撃ちまくっていた。それが味方に当たることなどお構いなしに。
ついには刀をぬいた海賊がそれをまた半狂乱になって振り回すが、頼々はまるでなんてことのないような様子で刀を紙一重にかわし、むんずと海賊の肩を掴んで自分と位置を入れ替える。
入れ替えたさきの海賊の、それもよりによって顔面に刀がめり込み彼は絶叫をあげた。
絶叫を聞いたЯ・E・Dは『そろそろかな』と言うと黒いオーラを拡大。
「大砲で直接街の建物を攻撃するとか戦争をするつもりなのかなぁ。
さすがにおいたが過ぎるね。自分達がどうなっても、文句は言えないよ!!」
マスケット銃を無数に出現させると肩の上あたりに束ね、ガトリングガンさながらの回転をかけながら次々に発砲と再装填を行った。
また自らも両手にマスケット銃を持ち、船めがけて撃ちまくる。
今突き出したのは『リボルバーライフリングマスケットガン』とかいう、もう殆どライフルの域に達した銃である。
ガチンガチンと撃つたびに激しい音をたてる回転式弾倉。ライフリング加工のされた筒を通り飛び出した弾丸はかなりの安定性と貫通力をもって船の装甲を抜いていく。
狙うは大砲。もとい大砲を撃っているであろう船室の海賊たちだ。
「豊穣の海賊かぁ、最悪は船に穴を空ければ逃がさないようにできるけど。
それをやっちゃうと海賊が街側に逃げちゃう可能性もあるから、最後にした方が良いよね?」
「いや、構わない。むしろ街中のほうが彼らにとっては危険だ」
ゼフィラはグリーンのエネルギーを展開するとЯ・E・Dと自分を囲み治癒を開始。先ほどから打ち返してくる海賊たちの銃撃を帳消しにしていく。
すると次に自らの腕に指を当てて何かをタイプする動きをした。入力された術式が起動。ゼフィラとЯ・E・Dに半透明な緑色の翼が生えた。妖精のようなその『羽根』をうけて、Я・E・Dはすぐに理解する。
「ありがとう。飛ぶよ」
二人は飛行を開始。
ゼフィラの展開した魔術障壁で海賊の放つ次なる砲弾を受け止めると、Я・E・Dが全てのマスケット銃を放り出した。スッと黒いオーラの中に消えていく銃。かわりに、大きく両手をあげたЯ・E・Dに伴って巨大な銃がヌッとオーラから突き出した。
「おかえしだよ」
ぶんと振り込む動作に応じて砲弾が発射される。
砲撃は船室に穴をあけ――そこへ『真の弾丸』が撃ち込まれる。
つまりは、ティスルによる単身突撃だ。
「悪いけど、あまり足止めできると思わないでね?」
翼をたたみきりもみ回転をかけて突っ込んだティスルは、それを抑えようと身を乗り出した海賊たちをボーリングのピンのごとく吹き飛ばす。
両足を床につけザッとすべったティスルは刀を腕輪状態に戻し、それをガチンとうち合わせる。すると巨大な斬馬刀へと変形し、しっかりと握り込んだティスルは起き上がろうとする海賊たちへ振り返った。
「死にたくなかったらふせてなさい!」
ぶん、と横一文字にフルスイング。大砲を思い切り破壊し、どころかその周囲まで破壊したことで大砲と海賊たちが船から放り出されて海へと落ちていく。
「おっと……」
まとめて片付いたところで、ティスルはハッとして剣を二刀流モードへと戻した。
「壊しすぎたら沈んじゃうわね。あとでちゃんと調べないとだったわ」
「そういうことだ」
ゼフィラがЯ・E・Dと共に(さっき空いた大穴から)入ってくる。
ついでだとばかりに、ゼフィラは気絶した海賊のひとりを床に放り出した。おそらくさっきティスルが吹き飛ばしたうちのひとりだろう。
「事情聴取には相手が必要だからね。さて……」
外のほうも片付いたかな?
そう言って振り返ると、縦を下ろした悠凪と武装を解除したエミリーたちが手を振っていた。
●海賊のその裏に
「ある人に言われたんだ。今日この時間に入港すれば海賊だとバレないって」
ふん縛った海賊のそんな言葉に、マリエッタとエミリーが顔を見合わせる。
「『ある人』って誰だ?」
「素直に言ったほうがいいよ」
頼々が鞘の先端で、Я・E・Dがマスケット銃の銃口部で海賊の頬をぐりぐりとつつくが、彼はヒイといって怯えるだけだ。
「し、知らねえよ。誰も知らねえんだ。ホントだよ」
「どうやら、嘘は言っていないようだ……」
ゼフィラが言うと、船のデッキから戻ってきたティスルが首を振った。
「こっちも同じこと言ってたわ。そもそもこの海賊たち、リーダーがいないのよね」
「どういうことだ?」
モカが『話せ』と言って海賊を見ると、彼女にしこたま蹴られたことを思い出した海賊がぷるぷると首を振った。
「いや、俺らは集められただけなんだって。魚が全然とれなくなってよ、食い詰めちまったとこに海賊業の誘いが来たんだよ。知り合いの知り合いからって感じだったかな……とにかく誰が出した案内かは知らねえよ。今回だって、言われた通りに襲えば儲かるって聞いたから……」
「まってください」
悠凪が手をかざし、話をとめた。
「あなたは、元から海賊をしていたんじゃないのですか?」
「そりゃあ……やりたくてやるモンじゃないだろ」
「普段は、猟師を? なぜ略奪など……」
「まあ、自分が食うくらいはとれるし。けど生きてくには金はいるだろ」
悠凪は深刻そうに黙り、そしてある本で読んだことを思い出した。
ある土地の獲得資源が低下するとその労働者たちは略奪に手を染めるという内容のものだ。
「シレンツィオリゾートが開発されたことで猟師に影響が? いえ、それならもっとそのことを喧伝したほうが彼らを動かしやすいはず。
ならもっと別の要因が……」
悠凪は考え込み、そして……。
「もう少し、調べる価値がありそうですね」
自分にできることはまだまだありそうだ。そう、思えた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●オーダー
二番街の港サンクチュアリ・ベイに偽装した海賊船が直接乗り込んできました。
詳しく調べるのは後! まずは港町の人々が逃げる時間を稼ぎつつ、海賊たちを倒しましょう!
●状況
海賊が港に偽装した船をつけ、かなりの数上陸してきています。
正確には分かりませんが、船に乗っている人間の大半が出てきているはずです。
港湾の警備隊が駆けつけるまでかなり時間があるので、皆さんしか戦える人間はいません。
船からは支援砲撃が行われており、周囲の建物に被害が出始めています。
民間人は早速逃げ出しているので直近の人的被害はありませんが、仮に皆さんが敗北した場合周辺の物資が奪われるだけでなく建物に隠れた人々が襲われるといった被害が出るでしょう。
●エネミー
・海乱鬼衆
ダカヌ海域に出没している豊穣系の海賊達の総称です。
なので厳密には彼らがどういう所属の人間なのかはわかっていません。
数は複数。海賊たちは刀や鉄砲を装備しており、船の大砲からの支援砲撃をうけています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●シレンツィオ・リゾート
かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
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●名声に関する備考
<光芒パルティーレ>では成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の二つに分割されて取得されます。
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