PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<光芒パルティーレ>置いてけぼりは寂しくて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 燦燦と降り注ぐ太陽が眩く大海原をキラキラと輝かせている。
 潮風吹き付ける港には、何隻もの船舶が停泊していた。
 それはあるいは海洋王国のそれを思わせるキャラック船やらガレオン船であり、或いは鉄帝国の軍事力を伺わせる鋼鉄船であったり。
 どちらかといえば旅客船の類が多いのか、絢爛なる姿を見せている。
「――ここがフェデリア島……!」
 その光景にアメジストの少女は目を瞠っていた。
 それは少女――シンシアにとって、初めてをこれでもかとかき集めたかのような光景だった。
 かつてオンネリネンの傭兵として各地に赴いていた頃は海運能力のなかったがゆえに到達できなかった。
 イレギュラーズとなって、ワープが可能となったがゆえに初めて来れるようになった場所である。
 ここに来たのは、祖国ともいえる天義から一時的に離れるためだった。
 ローレットに所属してイレギュラーズになってから少し。
 魔種との戦いで傷を負ったシンシアは、少しの間ふさぎ込んでいた。
 そんな時、ローレットの情報屋から気分転換を兼ねてこのフェデリア島でのある案件に携わってみないか――とそんなことを言われたのだ。
(すごい……こんなにたくさんの船、初めて見ました……)
 暫しの間、その光景に目を奪われていた少女は我に返るとふるふると顔を振ってから港の方へと歩き出した。


 フェデリア島の発展は尋常のものではない。
 町の中に入れば、そこは人種の坩堝との表現に過言はあるまい。
 ある人はラサより訪れた歴戦の商人や傭兵を思わせ、ある人は海洋人らしく鷹揚とした雰囲気を見せ。
 またある人は鉄帝人然とした筋骨たくましい男っぷりを見せたかと思えば、風流な文化人を思わせる豊穣人が通り過ぎた。
 立ち並ぶ建造物には、超のつく高級店舗がざらりと軒を連ね、それらの建造物にはあまりにも先進性を思わせる雰囲気がある。
 かつて繰り広げられた海洋王国大号令は海洋王国に鉄帝国が絡んでいた。
 その結果、このフェデリア島は海洋王国の領地でありながら鉄帝国の租界が見られ、結びついた遥かなる東洋、豊穣――神威神楽との融合すら見える。
 混沌世界に存在する三ヶ国の文化が交じり合った、交易の中心地たる一大都市。
 それがこのフェデリア島だった。
 そうして――ここまでを見たのなら、これからを見たくなるのが人の性というものなのだ。
 おりしも、海洋王国における最大イベントの一つサマーフェスティバルを控える時期。
 アクエリア総督府はエルネスト・アトラクトス総督による号令の元、海洋・豊穣両国に働きかけ、富裕層向けの一大クルージングツアーを計画しているという。
 ただ、それには大きな問題が起こりつつあった。
「ダガヌ海域でまた船が沈んだらしい……」
「なんという恐ろしい話でしょう……本当にツアーは開かれるのでしょうか?」
 海洋か、あるいは幻想か、どこかの貴族らしき人達がこそこそと口走る。
 ――フェデリア島近辺に存在するダガヌ海域。
 三角形を形作る彼の海域は、そこに突入した船が高確率で遭難・難破・行方不明となっていた。
 事もあろうに、クルーズツアーではその海域を避けて通ることができない。
 そこで海洋王国女王イザベラから事態解決を命じられたファクル・シャルラハ大佐は原因究明のため、対策チームを結成した。
 それを受け、彼は直ぐに英雄であり海洋・豊穣にまで名声轟くローレット、イレギュラーズへ助力を求めた。
 ――オペレーション・光芒パルティーレの開始である。


 分厚い灰色の雲が陽光を閉ざしていた。
 薄暗い空の中、暗色の海を船が調査に駆り出されていた。
 内部に大小の無人島と大海原を持つダガヌ海域は、元来をして海流が激しく、運行は困難な難所であった。
「こんなにも暗いんですね、この海域は」
 シンシアの呟きに君も頷いてみる。
 船内はランプで照らされているが、ひとたび海の方へ視線を向ければ、水平線すら見えぬ暗さが見えている。
「でも、難破した船については全然見当たりませんね」
「そうだね……ただでさえ見えにくいけど」
「――おい、何かいるぞ! 海の中だ!」
 船員の誰かが声を上げた。
 ぎょっと目を見開いて船から海の中を覗き見て――息を呑む。
 ただでさえ暗色の海を、より黒く変色させる影が、船から零れるランプの光に照らされて見えた。
 巨大な魚影としか思えぬその影は、たしかにゆっくりと『真下』に浮かび上がっている。
 直後、水面が騒めきたち――海面から姿を見せたそれらが船体をひっつかんで登ってくる。
 それは人のようであった。
 だが、ドロリと溶けたような風貌は腐敗が進んだ証拠であり、口からはこちらへの怨嗟を吐き出していた。
「……どうして、こんなになってるのに……酷い」
 死してなお、冒されるそれらは、次々と船の中へ這いあがってくる。
 ――このままでは、船そのものを乗っ取られかねなかった。
「旋回! 急いで離脱するぞ! ローレット! あんたらには登ってくる奴らの対処を頼む!」
 船長らしい人物の声が響き渡った。

GMコメント

そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】バッカニアレイスの討伐
【2】海域離脱成功

●フィールドデータ
 海洋王国軍から手配された軍船です。
 速度と積載量を重視しているためか砲台の類が少なく、船体は広めです。
 現時点では視野は比較的良好ですが、ランプが破壊されるとどうなるかは不明です。

●特殊ルール1
 当シナリオはある種のタワーディフェンスになります。
 海域を離脱し、バッカニアレイスを振り切るまでの20ターンの間、
 船体を守り、航行に集中する海洋国軍人を守り抜いてください。

●特殊ルール2
 イレギュラーズは自前の小型船を起用し、
 外からバッカニアレイスが船体に取り付くのを防いでも構いません。
 ただし船内のメンバー数が少なくなればなるほど海洋国軍人を守り抜くのは難しくなる……かもしれません。

●エネミーデータ
・バッカニアレイス
 腐乱した人型のナニカです。
 刀剣類や拳銃などで武装しています。

 それはあるいは海賊風の衣装を身にまとっていたり、或いは軍人らしき衣装をまとっていたりもします。
 まだ腐敗の進みが緩やかな個体に関しては、どうにも当初に聞いていた救出対象のようにも見えます。

 戦闘開始時、船内には4人が乗り込んでいます。
 2ターン目以降、外からの防衛要員がいない場合には3人ずつ増えていきます。

 高位の【毒】系列BSやHA吸収攻撃、呪いなどを付与する攻撃を試みてきます。
 アンデッド属性です。

・バッカニアレイス・キャプテン
 戦闘開始から11ターン後に固定で登場する大柄な偉丈夫を思わせるバッカニアレイスです。
 他の個体よりも数倍は強力です。
 銃剣を握り海賊帽を被った人物で、
 バッカニアレイスの使うBSの他に【麻痺】、【痺れ】系列を多用します。

●NPCデータ
・シンシア
 イレギュラーズです。
 皆さんより若干ながら力量不足ではありますが、戦力として十分程度です。
 怒り付与が可能な抵抗型反タンクです。上手く使ってあげましょう。

●名声に関する備考
<光芒パルティーレ>では成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の二つに分割されて取得されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <光芒パルティーレ>置いてけぼりは寂しくて完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月16日 23時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ


 船長の指示を受けて、ぐるりと緩やかながら船体が横を向いていく。
 あらん限りの速力を出しながら、船が着た方角の方へと舵を取り始めた。
 「ほう、お化けですか。もうすっかり夏ですね!
 殴れないお化けだと困りましたが、どうやら違うようですから何も恐れる必要はありません。
 船が離脱するまでに全て海に帰すといたしましょう……と、その前に」
 拳を作り、少しばかりウォーミングアップを熟した『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)はくるりと振り返ると。
「お久しぶりです、シンシア殿。たくさん頑張っているみたいですね」
「はい。いつか、彼らに会うことになる日のためにも、私なりに」
 返ってきた言葉に、迅は微かに笑ったあと。
「最近はなかなかご一緒できませんでしたが、今回はよろしくお願いします。
 必ず皆さんをお守りしましょう。頼りにしていますね!」
「――はい!」
 ピリリと緊張感を走らせた少女から視線を外し、迅は先陣を切るように駆けた。
 速攻の残影百手が甲板にてゆらゆら動くレイスの1体を抉る。
 連打は2度、3度の強烈な打撃を撃ち込み、複数の風穴を開いたレイスはそのままどろりと溶けるようにして消えた。
「幽霊船には見慣れるほど対処してきたが、船を沈められて人がこんなに成り果てるのは見たくないものだ」
 事前に用意しておいた自身の小型船に乗り換えながら、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は周囲の海の光景に視線を巡らせた。
(本当なら全て討伐してやりたいが、今は海洋軍船の安全確保が先だな)
 軍船の周囲へとへばりつこうとするレイスの姿が幾つか見えた。
「誰も犠牲にはしない。守り通す……!」
 メロディア・コンダクターを構えながら、船を進めていく。
「ああああ……そういう感じ……?
 不明者が出てるって話と照らし合わせたらありえる話だった…」
 暗がりから這い上がってきていたモノを見て『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は顔を覆っていた。
「アンデットの類はちょっと、だいぶ、かなり、すっごく苦手だけど、振り切るまで何とか耐えるしかなさそうね……!」
 パチパチと頬を叩いて気持ちを立て直して、恐る恐る隣に立つシンシアを見やり。
「シンシアさんは平気? わたし、かなりだめ……」
「私は……平気、ではないですけど……どちらかというと、ちょっとだけ、怒ってるかもしれません。
 ……死んだ人に酷いことをしてるように見えて」
「そうなのね……はっ! とにかく、これ以上はさせちゃ駄目よね……!」
 ふるふると頭を振って、タイムは手を合わせた。
「これは後で船の掃除が大変だな……ってのはまぁ冗談として。
 余裕が出たら連中が船に上がってこないよう妨害してくれると助かる!」
 甲板へ降り立った4人のバッカニアレイスを見据え、冗談交じりの感想を述べたのは『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)である。
 海洋国軍の将校から了承らしき声が返ったのを聞くや摧波熊を構え、甲板へ奮い立つ。
 取りあえずの空砲を聞いてレイス達の視線がエイヴァンを見る。
「死は怖いよな……待ってる家族、友人、大切な人には二度と会えず、しかも大海原で死んだら遺体としても会えないのが普通。
 サルベージされる前に朽ち果てる可能性もある」
 パタパタと二羽の烏が空へ舞い上がっていくのを確かめ、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はトランプの山札から一枚を抜き、払うようにして床に投げれば。
「……でも、死者仲間を増やしてもどうしようもない。恨みはないが、誰かを泣かすような奴は蜂の巣だ!」
 輝きを放ったトランプから顕現した弓を引き絞り、矢を放つ。
 まさしくハチの巣の如く風穴を開いたバッカニアレイスが幾つか海上へと落ちていった。
「船室の扉は閉めて! 守りは任せて、操船に専念を!」
 マルク・シリング(p3p001309)は甲板からそう指示を出して、視線を横に向けた。
「シンシアさん、今度は全員守り抜こう」
「……はい! 今度は誰も失ったりしないように……!」
 そこにいたシンシアが僅かな沈黙ののちに剣を握りめるのを見た。
 そのまま少女が剣を掲げるや、まばゆい光が放たれ、2体のレイスの注意を惹きつけた。
 マルクは船体に上がってきてゆっくりと動き出したレイスの1体に魔弾を放つ。
 キューブ状の魔弾は幾つかの屈折を繰り返しながら一点に集束するように叩き込まれていく。
 バリバリとスパークを放ったその個体は、そのまま崩れ落ちた。
「此度は海域からの離脱を目的とするでありますが、何故斯様な事態が起きているのか調査したくもありますな」
 すらりと愛刀を抜いた『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)はレイスの方めがけて走り抜けた。
 両手でギュッと握りしめた愛刀を、思いっきり横に薙ぐようにして斬り結べば、レイスがレイスの身体からどろりと何かが抜け落ちていく。
「腐敗の度合いに差がありますね……それに、どうにも当初聞いていた救出対象と似通った特徴を多数持つ個体もいるようです」
 状況を確かめながら『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は敵の様子を確かめていく。
 落ち着いて、敵となる腐乱した死体の動きをつぶさに見据え、既知のアンデッドとの差異を見通すように。
(もし、救出対象であった彼らの身に何かがあり、それによって彼らが死に損なっているのだとすれば……単純に切り抜けただけでは事態の解決にはなりません)
 その双眸が粛々と相対する者たちの共通点を見出すべく走り続ける。


 船体へへばりつくバッカニアレイスの数は多い。
 イズマはその中でも比較的甲板へ近い個体の方へメロディア・コンダクターを振るう。
 めぐる旋律が波を打ち、鮮やかに、強かに衝撃となってレイスに炸裂すれば、死角からの衝撃に船体へ身体を撃ちつけた個体が水面へと落下していった。
「2体取り損ねた!」
 けれど、それより早く上に辿り着いた個体を見据えながら声を上げる。
「そこか――」
 船のやや上を飛翔するウェールは、イズマの声を聞くや視界を見渡すと、ギリギリと弦を絞る。
 放たれた無数の矢が2体のレイスの身体を貫いて、片方が腕をもぎ取られてバランスを崩す。
「しつこいな、大人しく海に還れ――」
 助走をつけ、一気に飛翔する。
 トランプを一枚きって、その手に刀を握り締めれば、肉薄の瞬間にそいつの腕を切り裂いた。
 呪詛を吐きながら、そいつが海へと落ちていき、ばしゃんと水しぶきが上がった。
 ずるり、ずるりと身体を引きずるようにして、船の側面を登ってきた個体が、縁をがしりと掴み――身体を船内へ引きずりおろす。
「もう一度、落ちていただきます!」
 その刹那――その個体の頭部へと掌底が叩きつけられた。
 それは迅は放つ一手。爆発的な破壊力を帯びた掌底頭部を吹っ飛ばされた個体は、大きくぐらりと動いてそのまま海の中へと落ちていった。
「ここから、意外と怖くないかも……」
 タイムはほっと胸をなでおろしながら、祈りを捧ぐ。
 温かな幻想福音の音色を戦場に響かせ、レイス達の視線を惹く面々へと紡いでいく。
「――って、うわーーー!?」
 ぎしぃ、と音が鳴って、思わず目を開けば、そこにだらんとした腕が伸びていて。
「急に横から!?」
「キサにおまかせあれ!」
 割り込んだのは偶然近くにいた希紗良だ。踏み込み走らせるは落首山茶花。
 悲しいかな、首を落としても止まらないアンデッドの身体へ、連撃となる斬撃を見舞えば、軋む音を立てて崩れ落ちた。
 残心を終える頃には、次が来る頃合いか。
 猛毒の籠められたレイス達の身体がエイヴァンを覆いつくさんばかりにへばりつく。
 エイヴァンはそれを摧波熊で受け止めつつ、白狂濤を無理矢理に構えて艦砲をぶち抜いた。
 ドウと放たれた反撃の砲弾を受けたレイスがみしりと音を立てる。
 へしゃげた半身など気にすることなく、それらはそのまま立っている。
「多少の汚れは許してくれよ!」「
 肉薄したレイスの腹部へ砲口を突きつけ弾丸をぶちまければ、夥しいモノが甲板を濡らす。
 身体の過半数を消し飛ばされた個体が、上半身だけで移動するべく動き出す。
 船員の1人めがけて進むそれの行く手を阻むようにシンシアが割り込んだのを見るや、マルクはそちらへと魔弾を叩き込んでいく。
 放物線を描いて飛んだ魔弾は、着弾の刹那に強烈な光を放ち、ぱたりと倒れた個体が浄化されたように溶けていった。
「ありがとうございます!」
「シンシアさん、怪我はない?」
「はい、タイムさんや皆さんのおかげで、まだまだ大丈夫です――」
「申し訳ありません。あなた達を救うには、今の僕では力不足です」
 ハインは戦いの趨勢を見据えながら、水面に落ちていくレイス達へそう告げた。
 そのまま今度は海原にいる仲間達へと言葉を与える。
 的確なる戦術に裏付けされ、仲間達の航行がスムーズに走るのを見つめ、1つ呼吸を整える。


 航行は順調に進んでいた。
 イズマによる海上からの支援攻撃、ウェール、迅、マルクらを中心とした水際での迎撃により、新たなバッカニアレイスの甲板への着地を可能な限り防いできた。
「……この海域に入ってきた時の速度を考えると、もうそろそろ半分ぐらいだ。
 こいつらが船を沈める気なら、もうそろそろ大物が出てもおかしくない」
 ウェールはぽつりと呟いた。
 最初にそれを見つけたのは、イズマだった。
 水面を裂くようにして姿を見せたその偉丈夫は、船体にへばりつくようにして登り始める。
 悲しいかなそいつの手が動く場所にいた個体は、襟元を掴まれ、ぽいっと海の中へと放り捨てられてしまう。
「大物っぽいのが出たぞ! みんな気を付けてくれ!」
 仲間達へ告げれば、イズマは一気に一曲奏でれば、海のような穏やかな旋律に導かれるようにバッカニアレイス達の動きが止まる。
 旋律を無視する偉丈夫が動きを止めたバッカニアレイスを放り捨てながら登り続けるのを見て、イズマはすぐさまな身を撃つように旋律を奏でる。
 確かな衝撃を与えども、偉丈夫の動きは止まらない。
「あれか……」
 ウェールは明らかにサイズの違うその個体を見つけるや、ギリギリと弦を引き絞る。
 その背にある飛行武装が形を変えて出力を大幅に上げた。
 視線の先、大柄のレイスは周囲のレイスを邪魔とばかりに叩き落としながら船の上へと登っていく。
 ウェールは巻き込みにあわなかったレイスを含めるように射程を調整すると、引き絞った弦を手放した。
 弾幕となった鋼の驟雨が一気にレイス達へと叩きつけられた。
 数体が零れ落ちるものの、それでもなお、大柄の個体は攻撃に怯むことなく船体を上がっていく。
「これは……気を引き締めなくてはなりませんね!」
 拳を握りなおす迅は腰を落とすや、一気に走り出す。
『ヴァァ!!』
 咆哮を上げる偉丈夫。
 けれどその腕が剣を振り抜くよりも遥かに早く、迅の足は偉丈夫の懐へ到達していた。
「全力で――」
 連続する残影は文字通りの百をも思わせる連撃となって籠められた徒手を叩きつけていく。
 初手、二手は真中するが――三度目には剣を握った腕が防いでくる。
「大物みたいだな。なに、やることは変わらん」
 エイヴァンは自分と同等な巨躯をしたその偉丈夫――を思わせるバッカニアレイスに視線を向けながら、引き続き武器を構える。
『ァ、ァ、ァ、ヴァァ!!』
 声帯がいかれているのか、それの声は声ですらなかったが、濃い呪詛が籠められていることはよくわかる。
 砲弾をぶち込めば、それにつられるようにその偉丈夫はエイヴァンめがけて再び雄叫びらしきものを上げた。
「シンシア、処理しきれない数が来たらその時は頼んだ」
「任せて下さい!」
 エイヴァンはそれだけ指示を与え――同時に盾へと叩きつけられた衝撃に重心を乗せて受け流す。
「怖いなんて思っても、服装の様子からして行方不明になった人、なのよね……?
 普通に生きていた人達がこんな風になった原因は何かある筈だわ
 死者を操る何かがこの地域にあるならそこを辿らないと解決出来ないのかも」
 やや距離があることもあり、タイムは今のところ落ち着いていた。
 敵の事を――だいぶ怖いけど――落ち着いてみる余裕はある。
「確かに今までの奴らとは一線を画すみたいだね。でもこれなら――」
 マルクは再びキューブ状の魔弾を放つ。
 放たれた魔弾は複数に分裂すると、複雑な軌道を描いた後、吸い込まれるように偉丈夫の身体を貫いた。
 それだけにはとどまることなく、全身をくまなく穿つように縦横に走り抜ける。
『ヴァァァ!!!!』
 激痛に対する悲鳴か、或いは高火力砲撃への激情か、偉丈夫の雄叫びが響き渡る。
『ヴァァァ!!!!』
 再度の咆哮と同時、偉丈夫以外のバッカニアレイス達が奮い立つようにその身を震わせる。
「其方はこの者らの主でありますか? なれば、何故問いましょうぞ」
 希紗良はその様子に察しを付けて偉丈夫へ声をかける。
 振り下ろしが仲間を打ち据えるその間を縫うように走り抜けて。
 全霊を籠めんばかりの斬撃を見舞う――けれど、それは生きていては不可能な動きで反応した腕によって防がれた。
「何故船を沈めようとなさるのか? この海域で何が起きているでありますか?」
『コォォォ――ガァァ!!』
 呼気と共に放たれた毒が偉丈夫の周囲を包み込む。
 けれど、返答はない――というより、意思疎通の類が出来ていない。
「知性のようなものは感じられませんね……反射で動いているようです?」
 ハインはその攻防を眺めみては判断を付ける。
「知性がない……ですが彼らの動きは反射では説明ができない点もあります……
 ということは、司令塔がいる……ということでしょうか?」
 ハインは冷静に推測を立てながら、それを仲間達へつなげていく。
 そこへ、新たなバッカニアレイスが甲板に姿を見せるのが見えた。
「私が引き受けます!」
 シンシアがそう言って戦場に再び光が放たれた。


 偉丈夫の出現に伴い、戦いは佳境になりつつあった。
 甲板へ姿を見せたバッカニアレイス達の多くは引き続きエイヴァンが抑え込み、取りこぼしの分はシンシアに流れ、未だ船員の負傷者はいない。
「行かせるか!」
 ウェールは一気に矢を放つ。
 狙う先は偉丈夫ではなく、通常のバッカニアレイス達。
 空より放たれた矢はまさに驟雨の如く。
 優れたコントロールで放たれた矢が船室へ向かおうとしたバッカニアレイスの動きを食い止める。
 その勢いのまま、加速力を爆発的に押し上げ、偉丈夫めがけて吶喊する。
「時間は掛けられない!」
 マルクはワールドリンカーに魔力を籠めると、一気に爆ぜさせた。
 魔弾は巨大な立方体を形作り、隕石のように降り注ぐ。
 それが偉丈夫へ炸裂するよりも前、マルクは新たな魔力を籠めなおして別の魔弾を放つ。
 炸裂の直後、屈折を繰り返し、死角より迫った弾丸が偉丈夫に連撃となる痛打を叩き込む。
「おぉぉぉ!!」
 エイヴァンは尋常じゃない重さで振り下ろされた斬撃に応えるように雄叫びを上げた。
 全身の気を巡らせて体力を振り絞り、重ねて自らの代謝を活性化させて精神力すら振り絞る。
 安定した自己治癒に続くように、その身体を光が包み込む。
「うー……あんまり見たくないけど、なんだかあの人の服、古くない……?」
 タイムは仲間達と船員たちを守るためにもそれを見て、それだけは思う。
 いや、長くは見たくないが――と視線を背け、偉丈夫と競り合い始めたエイヴァンを支援するべく幻想の歌を奏でれば。
『ヴァァァ!!』
 その輝きに怯んだように偉丈夫が身動きを一瞬ながら止めた。
「流石に限界のようですね……決めます!」
 迅は一つ呼吸を入れると、一気に拳を叩き込んだ。
 残影は尽きれど、拳は潰えず。
 瞬く好きすら見せず、ただの突きは加護を砕き、守りを無視して確実なる死を齎すべく撃ち込まれる。


 偉丈夫を倒した後も、バッカニアレイス達は次々と甲板へ登ってきていたが、偉丈夫を切り抜けたイレギュラーズの敵ではなかった。
 そうしてしばらくの航行を続け、海域を離脱したその刹那、バッカニアレイス達は日差しに溶けるようにして消えていった。
「……勝ったみたいだね」
 マルクはほっと安堵の息を漏らすと、負傷者を確認してから改めて緊張をほぐすように一つ呼吸を入れる。
 その視線を周囲に向けて、きらりと輝く何かを見つけ――そっと近づいてみれば、ペンダントが一つ。
 拾い上げれば、そこには家族写真が入っていた。遺留品であろう。
「あの大柄の人が着てた衣装、すごい昔の物に見えたわ……
 うー……あとはお任せします……苦手なものは苦手なのお~~~!」
 げっそりした様子を見せたタイムは遠巻きに後退すると、自分が気づいたことだけは告げて、そのまま船の中へと消えていった。
「此奴らが悲しくも命落としたものであれば、弔いたくもありますな……」
 そう言った希紗良はそっと目を閉じて弔いの意思を示している。
 意思疎通は出来たとは到底言えなかったが、死んだ後も苦しんだであろう彼らに対する弔いぐらいはしたかった。
 イズマは海域を抜けた後、少ししてからシンシアに声をかけた。
 海域を抜けてから暫く、シンシアは祈りを捧げていた。
 それが終わり、そっと彼女が立ち上がるのを待っていた。
「シンシアさん、海洋にようこそ!
 ……なんて、依頼とはいえこんな酷い状況に対応してもらってから言うのもアレだが……
 でもこの国の光景は新鮮だろう?」
「ええ、とても。海ってこんなにも広いのですね」
 感慨深そうにシンシアが頷いたのをみて、イズマはどこか誇らしく思う。
「せっかく来たんだ、気分転換に少し観光するといい」
「そうですね、戻る前にもう少しだけ、色々としてみようと思います」
 そう言って頷いたシンシアに迅が声をかける。
「シンシア殿、リゾートの方へは行きましたか?
 せっかくここまで来たんですから素通りはもったいないです。
 美味しいものでも食べましょう!」
「はい、是非! すごく気になった所がいくつかあって――」
「オススメは二番街か四番街かな。一緒に行くか?」
 イズマの問いに驚いたように目を瞠った後、嬉しそうに笑ったシンシアに迅も大丈夫そうだと頷いて。
(際立って異常な点、あるいは彼らの共通点……)
 ハインは溶けて消えたバッカニアレイス達を見ながら、その共通点を見出そうとじっと見ていた。
「あっ、そういえば」
 ふと顔を上げると、ハインは船の縁へと近づいていく。
 この者達の共通点は酷く腐り落ちていたところ。
 だが、もう1つ――あるいは、そもそもの前提というべきか。
 この者達が姿を見せるその寸前――水面に浮かんでいたあの影。
 見下ろした水面に影はなく、ただ船が起こす小さな波が白く飛沫を作っていた。

成否

成功

MVP

タイム(p3p007854)
女の子は強いから

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせいたしました、お疲れさまでした。
イレギュラーズ。
果たして、どんな敵なのか……

PAGETOPPAGEBOTTOM