PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<光芒パルティーレ>蜜月は夜明けまで

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●光芒マリアヴェール
 くぁーくぁーとどこか気の抜けた声で鳴く白い海鳥たちが、濃さの違う青と碧のあわいを飛んでいく。きっと近くの――と言ってもひとは船を使わねば行けないが――小さな島のどれかに塒があるのだろう。
 留まることを知らない碧は揺れ動き、キラキラと陽光を白く跳ね返している。ぱしゃんと飛んだのが水の音なのか魚なのか。解らないくらいにあちらこちらで、違う理由で海水が跳ねていた。
「危ないよ」
 白いドレスを風で大きく膨らませた女性の腰を、彼女よりも筋張った腕が軽く引き寄せる。後ろに流したヴェールも大きく広がって、彼女も一緒に飛んでしまうのではないかと不安に思う男性を心配し過ぎよと見上げ笑い、彼女は「ねぇ、見て」と海へと指をさす。
「世界に、あなたと私だけしかいないみたい」
 教会の直ぐ側の崖に立てば、そこはふたりだけの世界と錯覚してしまいそうになる。眼前には濃さの違う青と、雲の白。飛ぶ鳥や跳ねる魚。遠くに小さく、近くにあっという間に通り過ぎていく船たち。
 誰もふたりの邪魔をしない、ふたりだけの世界。
「本当のお式じゃないから、いいよね?」
 大抵の可愛らしいヒールのある靴は、ある種凶悪だ。踵の皮を食い破る前に手に取って、草原を駆けていく。すぐに背後に気配を感じるのは解りきっていることだから、くすぐったさよりも楽しさが勝る。
 借り物のドレスが汚れないかだけは気にしないといけないけれど。
 あなたとふたり、子供の頃にもどったみたいに草原を駆けて。
 白い花畑の中で優しいキスをした。

「今日はお世話になりました」
「とても良い思い出になったよね」
 夕日の差し込む教会で写真を撮り終えたふたりはありがとうございますと頭を下げ、寄り添い笑い合いながら帰っていく。
 観光地であるフェデリア島――シレンツィオ・リゾートの一角に立つこの真白の教会は信仰を集めミサを開く場所ではなく、ウェディングを主としたチャペルである。本当の結婚式を挙げるのは一日一組だけに絞り、メインはリゾート地ならではの美しい自然と景色を堪能し、腕の良い専属カメラマンが撮ってくれるフォトウェディングのほう。毎日たくさんの観光客がリゾート地での思い出を残そうと教会へ訪れていた。
 順風満帆だった。客たちは旅の土産話を各地でし、憧れた人々がまた訪れる。フェデリア島の観光事業としても成功していた。

 ――しかし、ある時から事件が起きるようになったのだ。

●ギルド・ローレット
「シレンツィオ・リゾートにはもう行った? そう、神威神楽と海洋王国の間にある島だよ」
 今、世界で最も経済の動くリゾートスポットとして名を轟かせている地だ。この数年で急速にリゾート地として急成長したその場所の噂を耳にして、既に遊びに行っている人たちもいるかもしれないね、と劉・雨泽(p3n000218)が笑った。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として今は多くの金を生み出す重要都市であるこの地なのだが――最近少し、色んな場所で『困りごと』が起きている。
「怪が現れたりするんだって」
 それらは豊穣にいるような妖怪や、海洋の海に棲まう怪物たち。最近は其れ以外にも――。
 悪い噂は、リゾート地の天敵である。
 だから早急に対処したいという依頼が入ったのだ。
「行ってもらいたいところは、南西の崖近くにある教会だよ。挙式もしているけれど、観光客向けの思い出作りがメインなようだね。ドレスやタキシード等の衣装を借りて、楽しく過ごせるみたいだよ」
 手元の資料をぺらりとめくる。
 地図と簡易的な外観図が書かれたそれには、『困りごと』の目撃情報も記されている。
「挙式をすると鐘を鳴らすでしょ? そうすると、海から怪物が現れるそうだよ」
 それはギョロリとした目を持つ、半魚人なのだそうだ。
 南国らしい美しい魚たちが見られるこの島の魚とは違う、もっと深海にいそうな気味の悪い見た目をしており――。
「其れが来るとね……ものすごく臭うのだって」
 崖から登ってきて教会へ向かってこようとするのだが、臭いで異変に気付いた人々は逃げている。だからまだ人的被害は起きてはいない。しかしそれは『まだ』なだけで、今後はわからない。噂を聞いた面白半分の旅行者がちょっかいを出そうとするかもしれないし、逃げ遅れる人だって出てくるかも知れない。何よりリゾート感のある美しさと開放的なイメージで観光業をしている場所での悪評は――客が寄り付かなくなってはリゾート地としては困ってしまう。
「人に被害が及ぶようになる前に、止めてきてほしいんだ。当日はチャペルを貸し切りにして、決行は人目につかない深夜。それ以外の時間は朝まで好きにして大丈夫だよ」
 それじゃあよろしくねと垂れ布を揺らして雨泽が笑う。
 せっかくリゾート地に行くのだから楽しまないとね、と。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 ジューンブライドへの抑えきれないこの気持ち……皆さんの蜜月へと馳せるこの想いは恋と呼んでもよいはずです。6月中に出せばセーフですよね!

 おひとりでも、ペアを組んでおふたりでも。
 イマジナリー恋人とでも。
 大切なぬいぐるみや、お友達とでも。
 関係者さんとでも。
 ドレスやタキシードを纏って、楽しく過ごして下さい。

●目的
 教会やその周辺で楽しく過ごす
 海からやってくる『深怪魔』を倒す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。

●シナリオについて
 フェデリア島南西の海岸沿い、切り立った崖の近くにある教会が舞台です。
 挙式を真似たごっこ遊び、フォトウェディングが可能です。練達ではないのでカメラは古めかしい大きなタイプを想像して下さい。鐘を鳴らす前までなら専属のカメラマンが撮影してくれます。
 鐘を鳴らすタイミングは皆さんそれぞれの行動予定次第ですが、月が昇った後~日付変更前に鳴らされます。

●できること
 おやつ時くらいから翌日のお日様が昇る前まで楽しめます。
 基本的に、場所と時間が噛み合った場合は譲り合いの精神で交代制です。

・準備
 衣装選びが出来ます。色んな種類や色のドレスを試して遊びたい場合はこちら。
 ドレスは伝統的なタイプから膝丈の可愛らしいもの、パンツスタイルまで幅広く、タキシードも各種ご用意。性別問わず好きに着て良いです。
 豊穣と海洋の人が多く訪れるため、ドレスは背の高い鬼人種でも着られるサイズが用意されています。

・挙式ごっこ
 天窓から夕日が差し込む教会で。神父さんはいません。
 輝かしいステンドグラスの前で月光を浴びて。
 相手がいない? いる必要なんてありません! ドレスやタキシードを着て教会で気分を味わうだけでもサイツヨなんですよ。お友達と楽しむのも可愛いですよ。
 既に挙式済み? ごっこなので、何度体験したって良いじゃないですか!

・景色を楽しむ
  海を背景にした写真や教会を背にした写真等、教会周辺の景色を楽しむことが出来ます。近くにはノースポール畑やバラ園もありますので、そちらを散策することも可能です。が、レンタル衣装なので汚れないように気をつけてくださいね!
 お外での撮影は境界付近のみで(機材が大きいため、お花畑には持ち込めません)。光源の関係もあり、夕暮れ時までとなります。海に沈む夕日と海を背景にした写真が撮れます。
 夜明けを告げる太陽が空を染めるのをウェディングドレス姿で見つめる時間を過ごすのも可能です。
 サンドイッチの入った軽食をバスケットに用意してあるので、ピクニック気分を味わうのも良いかも知れませんね。

・その他
 他にやりたいこと等ありましたら、可能な範囲でお応えいたします。

●プレイングについて
 書いてあると嬉しいこと
 ・上記「できること」からふたつくらい
 ・衣装の詳細希望があれば
 ・戦闘以外の行動への時間帯希望があれば
 ・何らかの愛

●『深怪魔』マーフォーク
 魚に手足が生えたタイプの魔物です。得物は銛。ギョロリとした大きな目に、ぬるりとてかる気持ち悪い色の鱗を持ち、腐ったような生臭い臭いを発しています。
 最近になって現れるようになりました。楽しい気配と鐘の音に惹かれています
 鐘の音が鳴り始めると教会の直ぐ側にある崖を一生懸命登ってきますので、登りきったところを待ち構えてえいやーっと一斉攻撃すれば倒せます。

●名声に関する備考
<光芒パルティーレ>では成功時に獲得できる名声が『海洋』と『豊穣』の2つに分割されて取得されます。

●NPC
 呼ばれれば、弊NPC『浮草』劉・雨泽(p3n000218)がご一緒します。
 雑談からごっこ遊びまで、楽しいことには乗っかる主義です。
 ウェディングドレスのパンツスタイルって可愛いよね、って言ってました。

 それでは、素敵なプレイングをお待ちしております。

  • <光芒パルティーレ>蜜月は夜明けまで完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月09日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ライアー=L=フィサリス(p3p005248)
嘘に塗れた花
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

●華やかなりし
 どこまでも広がる青い空に、その下にぽつんと建つ白亜の教会。
 それはまるで一枚の絵画のようで、いつまでも眺めていたくなる。
「よォ、暇してるのか? 暇なら雨泽、付き合えよ」
「いいよ。僕も着替えようかと思ったけれど、今は人がいっぱいだからね」 
 風に垂れ布を煽られながら佇んでいた『浮草』劉・雨泽(p3n000218)に『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)がバスケットを掲げて見せれば、雨泽は笑いながら彼に歩み寄った。
「お、此処なんて良いんじゃねェか?」
 あちらこちらの景色を見て回り、適当な場所に腰を落ち着けた。バスケットから敷物を敷いて腰を下ろし、白い教会を視界に収めながらサンドイッチを頬張りながら溢れるのは他愛ない話。
「俺の館にゃ、幽霊のカワイイ姫サンがいてなァ」
 生前は病弱で、禄に外にも出られないまま幼くして亡くなった女の子。
 外の話を聞かせる少女霊のためにクウハは彼女の喜びそうな話を求めていた。
「そういうの、何かねェか?」
「それならね、」
 幼い女の子の好みそうな話をしていれば、あっという間に日は傾いた。
 そろそろ空いたんじゃねェか?
 ――等とピクニックを楽しんだクウハが思う頃、教会内の準備室はまだまだ大盛況であった。
「チック殿、決まりました?」
「う、ん………でもまだ、少し悩む、してる。……支佐手は?」
「わしも目移りしとります」
 そこにはタキシードもドレスも、たくさん溢れていて。
 定番の白もあれば、黒。南国らしい色に、鮮やかな赤。色彩に飲まれてしまいそうなくらいに溢れるそれらの間で、『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)と『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は右往左往していた。
(いつも着てる衣装みたいに、ひらひら……)
(上下色違えや黒尽くめは、ちぃと仕事着に似とってしっくり来そうじゃろうか)
 タキシードを別の機会に着たことがあるチックは主にドレスの方を見て回り、支佐手はタキシードを見て回る。タキシードなんてどれも一緒――なんて思っていたけれど、袖や襟、近づかないと見えない生地と同色の刺繍など、じっくりと見れば見るほど新たな気付きがあって驚いてしまう。
「……どう、かな? 変じゃ、ない?」
「おお、よう似合っとります」
 くるりと回れば、全面が開かれたスカートがふわりと広がって、白いマリアヴェールが宙に舞った。普段からひらひらとした衣装を纏っているせいか、違和感がない。
 チックの姿に笑みを浮かべると、支佐手も真似てくるりと回る。
「どうです、似合いますかの?」
「うん。ばっちり……だよ」
「大陸の祝言の衣装っちゅうのもええもんですの」
 男性である支佐手もタキシードを着てそう思うのだ、女性ならば尚の事だろう。
 ――そのはず、なのだが。
 好いた相手を着飾らせるのが好きなのは、男も女も変わらない。『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は自分のドレスを選ぶことよりも、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)の衣装選びを真剣に行っていた。
 縁には濃紺のタキシードを選び、自分は白い短めのオフショルダーのフィッシュテールドレス。ちらりと縁から向けられた視線には「足が見えてもええでしょ、見せても減るもんやないし。どない?」と艶やかに笑んで見せたが、いいんじゃないかと目を逸らされた。もうつれないお人と頬を膨らませた蜻蛉はすぐに目先の楽しみに気が向いて、彼の視線が落ち着き無く彷徨っていたことに気付かない。
 彼に似合いの深い海のようなタキシードに合うネクタイは何色だろうか。紫紺、臙脂、金の散る星月夜、それともやっぱり黒……? 当ててみて、締めてみてと、蜻蛉は真剣に――楽しげに縁を彩っていく。
「……なぁ。この手のモンは、花嫁が主役だろ? だったら俺のは適当でも構わ――っ、」
 突如グイッと締まったネクタイに息を詰まらせた縁は「わかったわかった……」と両手のひらを見せて降伏姿勢。
(あの『絶望の青』で結婚式なんて……とは思いもしたが、こりゃあ流行るわけだ)
 リゾート地と言う非日常が背中を押してくれる。縁みたいに常ならば踏み込めない人でも、『今日だけ』と言う魔法の言葉に魅せられる人々の心理を思えば――商魂の逞しさには全くもって恐れ入る。
「あの、お式の方は良いのですが……写真を撮っていただくことは可能でしょうか?」
 はたはたと綾辻・愛奈(p3p010320)の頬にブラシでくすぐるように適量の粉をはたいていたヘアメイク担当の女性が「あら」と短に声を上げ、微笑んだ。
「ええ、大丈夫ですよ」
「何枚か撮って頂いても?」
「折角お綺麗なのですから、この際沢山撮ってしまいましょう」
 ドレスは、幸せになる女性が纏うもの。
 華やかで美しい、幸せの象徴。
 それは眩しくて――眩しすぎて、愛奈には関わりがないものだと思っていたものだ。
(ごめんなさい、おじいちゃん。この姿を貴方に見せたかった)
 美しいドレスをいくつも試し、その度に眩しい光を浴びて姿が切り取られる。
 けれど。ああ、けれども。
 ――綾辻は私で末代です。
 暗い気持ちは写真には残らない。ただ美しい姿と淡い笑みを画に残して。



 空くのを待ってから素早く身なりを整えたクウハと雨泽が聖堂へ入った時には、『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)と『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)を除く他のイレギュラーズたちは会衆席に既に着いていた。
「支佐手さんは写真を?」
「ええ。尋ねてみたら使うてもええと言われましたもんで」
 マルク・シリング(p3p001309)が傍らに座る支佐手の膝に大きな箱型の物を見つけて問えば、支佐手はよくぞ聞いてくれましたと言わん顔で饒舌に語る。本職のカメラマンみたいに上手には撮れないかもしれないが、それもご愛嬌。新郎新婦には祝いの言葉をたんと贈り、支佐手は豊穣では味わえない外つ国の文化や南蛮物に触れられる。
「ぎぶあんどていくっちゅうやつです。……マルク殿の、その手の花は?」
「ああ、これはね。フラワーシャワーをしようと思って」
「ふらわぁしゃわぁ」
「新郎新婦に降らせてお祝いするんだよ」
「ええですの。絵になります」
 そのシーンも撮ると決めた支佐手は箱から蛇腹のカメラを取り出した。重くて嵩張るが、これを弄れば姿を切り取れるというのだから、自分用にも欲しくなる。
 結婚式のマナーをよく理解した出で立ちの落ち着いた装いのマルクは、楽しげな支佐手を横目に自身の身なりをチェックする。袖口のカフスボタンもポケットチーフのズレも無い事を確認し、愛らしい小花の入った籠を膝に主役の登場を待った。
 聖堂の大きな扉が厳かに開かれて、外から黄金の光が差し込んでくる。
 逆光の中に影は、ふたつ。
 本物の結婚式ならばカイトは祭壇の前でリリーを待つが、今回はごっこ遊びな上に、二度目である。細かいことはお構いなしということで、ふたりは足並みを揃えてゆっくりと真っ直ぐに伸びる赤い絨毯の上を歩んだ。
 一歩、一歩。歩む度に、幸せの象徴である白い衣装のふたりの胸で赤い羽根飾りが夕日を浴びながら跳ねる。普通の結婚式なら、きっとしないアクセサリーも楽しめるのが、このごっこ遊びの醍醐味だろうか。
 ゆっくりと歩んでも、寄り添い合って互いを感じあって歩めば一瞬。
「何度でも誓うぜ、絶対に幸せにしてやるからな!」
「……こっちだって、絶対に幸せにするんだもん♪」
 夕日の差し込む祭壇前で見つめ合い、互いに幸せを誓い合う。
 カイトが身をかがめ、リリーは精一杯背伸びをして。
 そうしてふたりの影は黄金色の光の中で重なり合った。
「ヒューヒュー! お熱いねェ!」
「結婚、おめでとう!」
 クウハが冷やかし、マルクが万雷の拍手とともに、みな思い思いにふたりを祝福した。
 ありがとうとはにかみながらも仲間たちに笑みを向けるふたりは幸せ其の物で、そんなふたりを支佐手はカメラに収めた。
(……嗚呼、眩しい)
 やはり幸せの象徴のように祭壇の前で祝福されて笑むふたりは眩しくて、愛奈はそっと目を細める。ひとりでは叶えられない幸せをふたりで叶えていくその姿は、やっぱり憧れてしまう。
「支佐手さん、レフ版を持ちますね」
「おう、愛菜殿、お手伝い頂きかたじけない」
 この板は何だろうと撮影道具一式を眺めていた支佐手に、愛菜が教えてくれる。
 撮影の主役となる新郎新婦が映えるように写真を撮ったなら、微笑ましげに眺めていたプロのカメラマンが「折角だから」と言い出して、支佐手も愛菜も交えて全員で記念撮影をすることにした。
 外に出て、夕日で茜色に染まる教会を背にして。
 正装に身を包み、横に並ぶイレギュラーズたちの顔は、みな良い笑顔。
「写真、お土産にしたら?」
「あん?」
「可愛いお姫様に」
 幽霊の女の子はクウハがそうしている姿だってきっと見たいはずだから。
 作り話か解らないお話よりも『証拠』があった方が喜ぶだろうと囁かれ、「『連れてって!』ってせがまれちまうかもしれねェなァ」とクウハは笑った。
 全員で撮った集合写真は、夜になってカメラマンが帰ってしまう前までに整えておいてもらえる。支佐手は現像にも興味があるとカメラマンに着いていき、残されたイレギュラーズたちは誰かを祝うのって素敵な事だねと笑い合ってから再び解散した。

 少し前まで深い青い色をしていた海は、今や黄金色。
 揺れる波に夕日を反射して、美しい色を広げている。
 そんな夕日に染まる海を背に、蜻蛉と縁は寄り添い合っての写真を一枚。これもまた、集合写真を渡す時に渡して貰える。
「お日さんが溶けて水面を染めてく、海の色は青いだけやないのね。とっても綺麗」
 その美しさは、切り取って写真となる。写真は楽しみだけれど――沈みゆく夕日を眺めるのは、少し、切ない。このひと時は、今日という日は終わるのだと、夕日が告げているようだった。
「……折角だから、花畑の散歩でもどうだ?」
「花畑? 嗚呼、白いお花が咲いて――」
 思いがけない言葉に蜻蛉が瞬き――そして言葉尻は驚きとともに喉奥へと消えた。よっと、と短な声が聞こえたと思った時には、蜻蛉の視界は茜色に染まる空一色。それと、悪戯を思いついた子供みたいな笑みをする、わるいひと。
「ちょ、ちょっと……! 裾持って歩いたらええし……!」
「これが海の中なら楽勝だったんだがねぇ。運ばれ心地の悪さには目を瞑ってくれや」
 腕の中でばたついたって、どうやら離してはくれないようだ。
 もうっと膨らませた頬が赤いのは夕日のせいということにして、蜻蛉は広い腕と胸に身を預けた。望まずとも彼が自ら抱き上げてくれたことがこの上なく幸せで、この時間がずっと続けばいいと思う。少しでも長くいたいと思うのは、きっと悪いことなんかじゃない。
 もしかしたら――……なんて思ってしまうのは、蜻蛉の髪を見た時の彼が驚いたように目を見開いていたせいだけれど、縁は何も言わずに「お前さんはいつ見ても別嬪さんだな」と笑っていた。
 だから今は、ただ――。
 腕の中、甘えん坊の猫みたいに頬を寄せる。
 波の音よりも、彼の心臓の音が近くにあることが嬉しかった。
(うん、絵になるね)
 ノースポールの花畑を蜻蛉を抱き上げて歩む縁の姿を、マルクは幸せのお裾分けを貰うような気持ちでスケッチをした。蜻蛉と縁のスケッチを終えたら、次はもうひとつのカップル、カイトとリリーのスケッチを始める。当たりをつけてから鉛筆でサラサラと描き、色はまた今度。完成したら二組のカップルにプレゼントしようと楽しい気持ちを胸に、マルクは鉛筆を走らせた。
(いつか僕も、愛する誰かを連れて、ここを訪れる日が来るのだろうか)
 そんな夢を見てしまいそうな、美しい景色。
 幸せそうなカップルたちが、支え合う誰かがいることはこんなにも幸せなことだと思わせてくれる。
「ノースポールってリリーに似てるな」
「そうかな? リリーはカイトさんみたいって思うけれど」
「俺? どこが?」
「ふふっ、ないしょー」
 リリーを抱えてノースポールの花畑を歩むカイトの嘴に、首を伸ばしたリリーがちゅ、と口づける。夕日に赤く染まる姿は彼の色で、その中に見える黄色は嘴のようだから。
 花畑での写真は撮れないとのことだから、せめてたくさん見て回ろう。
 目を閉じたらこの光景を思い浮かべられるくらいに。
「カイトさん、夕日が沈んでいくね」
「そうだな」
 夜になれば、仕事の時間。
 夕日が海と空との堺に消えていく瞬間も、ふたりの影は重なっていた。

 誰も居なくなった聖堂に、ひとり戻ってくる者がいた。
 扉を開けて誰も居ないことを確かめた『嘘に塗れた花』ライアー=L=フィサリス(p3p005248)はするりと扉の隙間に滑り込もうとし――つっかえた。
「まあ、そうでしたわ」
 今日はドレスを来ていましたわねと微笑んで、改めてするりと扉を抜ける。純白のドレスはひらりふわりと柔らかだけれど、ドレスの下にはドレスを膨らませるためのパニエを着用している。いつもと違うのは楽しくて、ふふ、と少女のような笑みが浮かんでしまった。
 けれど、良いのだ。ライアーの姿は誰にも見られていない。
 参列者は居らず、パートナーも居らず、神様だって――居るのかは解らない。
 ヒールは鳴らずに赤い絨毯に沈み、ただひとり、静かに祭壇へと向かう。
 祭壇の前で膝を付き、両手を組み、ライアーは『大嫌いで大好きな誰かさん』を思って瞳を閉ざす。手の届かないくらいずぅっと遠くにいる人のことを思う。会いたいと思わないこともない。けれど、遠くに居てくれることにライアーは安心している。幸せだと言ってもいい。
(だって私は、そういう風にしか愛せないのだもの)
 仕方ないでしょう?
 殺したくなってしまうもの。憎らしくなってしまうもの。
 けれど、愛しているの。
 だから手を出せないくらい遠くで祈りを捧げられればいい。
 愛の形は人それぞれだ。誰かに押し付けられるものではない。
 差し込む夕日が角度を変えて、祈りを捧げる内に気付けばとっぷりと闇の中。カランコロンと鐘が鳴り、ライアーは組んでいた手を開き立ち上がる。
「さあ、お仕事の時間ですわ」

「ファミリアーでも確認できたよ」
「えっちらおっちら登っとりますよ」
 これから落ちるというのに、大変なことだ。
 鐘の音に、それぞれ思い思いに過ごしていたイレギュラーズたちが集ってくる。一番最後に愛奈がたどり着いた時には、みな準備万端で得物を手にしていた。
「くっさい! んもう、服に臭いついたらどうしてくれますの!!」
 予め相談していたとおり、マーフォークが登りきるのを待つ。強くなる厭な臭いに、ライアーが半歩足を引いた。これだけ臭っては、どうにかしてくれと依頼が来てしまうのも頷ける。
「カップルに水差すのはヤボってもんだゼ? ちっと痛ェかもしれんが我慢しなァ!」
「他人の幸せに水をさすものでは有りませんよ」
「綺麗な場所には、お呼びやないのよ。……さようなら」
「――悪いな、“幸せのお裾分け”はおしまいだ」
 マーフォークが登りきったら、ドレスやタキシードの安全のためにもそれぞれが持てる最上の火力を叩きつけてやった。まさか崖を登ったら十人ものイレギュラーズたちが待ち受けているだなんてしらないマーフォークは無防備な状態でその身にその全てを受け――。
「落ちる、したね……」
 ぼちゃんと落ちる音だけが虚しく響いた。
「……さて……じゃ、続き、しよっか?」
 邪魔者はいなくなった。
 仕事を終えれば、夜明けまでは自由にしていいのだ。イレギュラーズたちはまた思い思いの時間を過ごすため、または仕事が終えたとその場を離れていった。

「カメラの人、もういない……?」
 カメラマンは月が昇る頃には帰ってしまう。
 無人の聖堂はしんと静まりかえっていた。
「僕が撮ろうか?」
 ふいに誰かが聖堂に入ってきて、ステンドグラスの前に佇むチックに声を掛ける。雨泽だ。彼は本職ではないから下手でも笑わないでねと、三脚にセットされた箱へと近寄った。
 天窓から差し込む月の光に反射して、ステンドグラスが煌めく。
(あの子が着たら。きっと、とても綺麗な姿なんだろうな……)
 その前に佇みブーケを持ってカメラのレンズへと静かに視線を向けるチックの頭の中にいるのは、自分ではなく弟のこと。
 カシャッと音がして、終わったよと告げた雨泽が「他の写真よりも遅くなってしまうけど、これも現像してもらっておくね」と箱から出した蛇腹を仕舞い、元あった通りに戻していく。
「そういえばチック、お揃いみたいだね」
「白い雨泽……少し珍しい、かも?」
 デザインは違うけれど、白いドレスのパンツスタイル。
 チックはベールで、雨泽はシルクハット。
 前に傾けて被ったそれに視線が向かうのに気付いた雨泽は、鍔を指で弄って。
「白も似合う? 勿論、チックは似合っているよ。今日も可愛いね」
 いつものひらひらも可愛いよねと軽く笑う。
「雨泽、ベール……被る?」
 交換? と尋ねる雨泽があまり角を晒さないということにはもう、薄らと気付いている。隠したいのだ、と。けれどチックは、その角を綺麗だと思っていたのだ。――だから、うんと頷いた。
 ふたりきりの教会には確かな明かりもなく、月光しか落ちては居ない。
「君が祈りを篭めて被せてくれるのなら」
 いいよと夜の静寂に囁く声。
 言葉とは裏腹に許しを乞うように膝を着いた雨泽に、チックは祈りを口にしながら自身が被っていたベールを掛けてあげる。
 幸あれかし、と――。

 今日幸せな笑みを浮かべていた皆に、沢山の幸せが訪れますように、と。
 他の場所でひとりで、それとも寄り添い合って、各々の時間を過ごすイレギュラーズたちも、きっとそう思っていることだろう。
 夜が深まれば、やがて朝がやってくる。
 愛しい人の肩に髪が短くなった頭を預けて微睡んでいた蜻蛉の頬を優しく照らし、その眩しさに睫毛を揺らして瞼を持ち上げた。
 嗚呼。
 吐息にも似た声が溢れる。
 いつもと変わらない太陽なのに、どうして大好きな人と迎える夜明けはこんなにも胸を満たすのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

みんな、しあわせになぁれ!
これからも皆さんの日々が幸せに包まれていることを祈っております。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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