PandoraPartyProject

シナリオ詳細

港を開け、海へ行け! 或いは、簒奪者と魔導船…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不穏
 夜の静寂を切りさいて、女の悲鳴が木霊する。
 ラサ、南端部。
 砂漠の終わり、海の始まり。
 発展途上の港町。その片隅での出来事だ。
 
 プツリと女の悲鳴が途絶えた。
「これは……血の臭い? いえ、ですがそれにしては」
 形の良い小鼻をひくつかせ、蓮杖 綾姫 (p3p008658)は影から影へと疾駆する。
 悲鳴が聞こえたのは港の方だ。
 音もたてず、最短距離で港へ辿り着いた綾姫は、そこでピタリと脚を止める。
 夜闇の中にそびえるいくつかの石柱……否、黒い水晶が、小屋を倒壊させていたのだ。
 それから、海へ出て行く貨物船の影。
「血は……あれですか。水晶に貫かれたのですね」
 小屋にいたのは“アスクル学者団”の団員たちだ。
 開港に備えて、近海の水質や地形、生息している生物についてを調べていたはず。
 だが、小屋がこの有様では誰1人として生きてはいないだろう。
 ただ1人……水晶に腹を貫かれ、今にも息絶えようとしている女を除いて……。

「港にゃ船があっただろ? 近海の調査用にジョージが仕入れたって魔導船がよ」
 そう言って亘理 義弘 (p3p000398)は酒瓶を傾け、強い酒精を地面へ零す。
 上物の酒だ。
 命を落とした学徒たちへの弔いには丁度いい。
「あぁ、貨物船を改造したものだな。風が無くとも航海できる優れもので、学者たちを守るための機能を満載してる。まぁ……それが裏目に出た可能性もあるが」
 紫煙を燻らせジョージ・キングマン (p3p007332)はため息を零した。
 ジョージの持ち込んだ調査用の魔導船には、幾つかの機能が搭載されている。
 1つは、対空砲。
 1つは、神秘スキルや隠密系のスキルに反応するレーダー。
 1つは、魔術の精度や効果を拡大させる増幅器。
 それらを駆使し、アスクル学者団は近海の調査を行っていた。
 報告では、開港に必要な情報はもうじきすべて揃うという話だったが……。
「船ごと調査結果を持ち去られたというわけだな。当時、現場にいた最後の目撃者も夜明けを待たずに亡くなったわけだが」
 ラダ・ジグリ (p3p000271)は、視線を綾姫へと向けた。
 昨夜、事件現場へ最初に踏み込んだのは綾姫だ。
 唯一の生き残りであった女性を救助したのも、彼女の最後を看取ったのも。
「彼女が言うには、犯人は男女の2人組。そのうち片方は“悪魔の岩礁”の一族で間違いないでしょう」
「“悪魔の岩礁”か。たしか【懊悩】【魔凶】【石化】【混乱】【封印】を付与するものだったかな」
 顎に手をあてラダが呟く。
 以前、港で相対した術師は自分の命と引き換えに街1つを水晶で覆いつくしていた。
 現在はきっと、魔導船に乗っているのだろうが……。
「船には増幅器が積んであるな。俺が言うのもなんだが、優れた術師が乗った魔導船は動く要塞みたいなもんだ」
 なんて。
 広い海へと視線を向けて、ジョージは顔を曇らせる。

●状況開始
「さて、調査の結果、新たにわかったことが3つ」
 そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は指を3本立ててみせる。
「亡くなった女性の遺体を解剖したところ、水晶による傷のほかに、遠距離から狙撃された傷があるのも分かったっす」
 銃弾か、或いは矢のようなもので撃たれたのだろう。
 女の遺体を解剖したところ、内臓が焼け焦げていたという。
 そして【雷陣】と【致死毒】の痕跡も。
「そっちは岩礁の術師と組んでる“もう1人”の仕業だろうな。狙いはさほど正確じゃないようだが、傷の具合から見て射程はずいぶんと長いらしい」
 解剖に同席していたジェイク・夜乃 (p3p001103)の見立てである。
「そして2つ目は、犯人の候補について。こっちはチヨさんが調べてくれたっす」
 そう言ってイフタフは、チヨ・ケンコーランド (p3p009158)へと手を向ける。
 1つ頷いたチヨが前に出ると、テーブルのうえに1枚の紙片を置いた。
 記されているのは3つの文字列。
 “ピー・カブー”のヤーヤー・パレード。
 “教徒会”の祓い屋カトリック。
 2人組の“イレギュラーズ”。
「ヤーヤーとカトリックは荷馬車に紛れて街へ忍び込んでおったそうじゃ。街の住人や学者団の何人かが目撃しておる。ヤーヤーは身軽な大道芸人。カトリックは寡黙な計算高い祓い屋じゃと」
 そして2人とも、事件の夜を境に姿を消している。
「2人のうちどちらかが犯人と見るべきかの。もしかすると……学者団の誰かが黒幕という線もあるが。だとしたら、連中は頭が良いから厄介じゃの」
 水晶に閉じ込められた者たちの遺体は、損傷が激しく身元の確認が出来ていない。
「事件のあった夜、小屋に詰めていた人数と、遺体の数は合っているっすよね?」
「うむ。それは間違いない。ヤーヤーとカトリックがそこに混じっておらんとも限らんがの」
 そして、事件の夜に港を訪れていた2人のイレギュラーズ。
 詳細は現在調査中だが、その2人は遠目から魔導船の出航を目撃していた可能性があるという。
「仮に目撃しておらんでも、イレギュラーズであれば戦力として数えられる。見つけて協力を求めるという手もあるんじゃないかの?」
 以上がジェイクとチヨによってもたらされた新情報だ。
「そして3つ目……街の何か所かに魔術的な細工を施された痕跡があったっす」
 おそらく、犯人たちは再び街を黒水晶で覆い尽くすつもりなのだろう。
 となれば、現在は近海のどこかで大規模魔術の準備中か。
「あまり時間的な猶予は無いかもしれないっすね」
「だったら、早速動き始めよう。ここまで来て、港を滅茶苦茶にされるのは御免だからな」
 と、そう言って。
 ジョージは足元に落とした葉巻を、革靴の底で踏みにじる。

GMコメント

●ミッション
魔導船および“港の調査資料”の奪取

●ターゲット
・黒水晶の術者
ラサに古くからいる呪われた一族。
“悪魔の岩礁”と呼ばれる黒い水晶を出現させる術を使う。
魔導船を奪取し、現在は大規模魔術の発動準備中と思われる。

黒水晶:神遠範に中ダメージ、呪殺
 範囲内の対象に黒水晶を生じさせる魔術。


・港の簒奪者
アスクル学者団の調査隊を襲撃し、魔導船を殺めた何者か。
性別は不明。
弓かライフルを得物としているようだ。
容疑者は以下の3通り。
“ピー・カブー”のヤーヤー・パレード。身軽な大道芸人。
“教徒会”の祓い屋カトリック。寡黙で計算高い祓い屋。
“アスクル学者団”の調査員。頭がよく、レーダーや増幅器の扱いに長ける。
組織の命令で動いているのか、個人的な動機で動いているのかは不明。

狙撃:物超遠単に大ダメージ、雷陣、致死毒


●フィールド
海上および魔導船内部。
天候および接敵時刻は不明。
魔導船には以下の装置が備え付けられている。
・対空砲:飛行中の対象を撃ち落とす銃火器。
・レーダー:神秘スキルや隠密系のスキルを看破する装置。
・増幅器:増幅器に触れている者の神秘スキルを強化する装置。


※悪魔の岩礁
黒い水晶。
船内の至る所に仕掛けられているようだ。
接近すると中ダメージと【懊悩】【魔凶】【石化】【混乱】【封印】が付与される。


●選択情報
※調査の結果、以下のうち2つを事前に知ることができる。
①魔導船の進路について(索敵スキル、情報収集スキル無しでスムーズに接敵できます)
②接敵時の天候、時間帯について(天候、時間帯をプレイヤーが決めることができます)
③犯人の容姿について(男女2人のうち、どちらが術師でどちらが狙撃手かを知った状態となります)
④魔導船の設計について(レーダー、増幅器の配置場所、船内通路についてを知った状態となります)
⑤犠牲者について(ヤーヤー、カトリック、アスクルの調査員のうち1人を犯人から除外できます)


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。



●その他
港の利権を狙う組織。

■アスクル学者団
学者やその弟子、または研究者によって構成される知識の探求者たち。
港の発展のため、現在イレギュラーズと協力関係にある。

■チーム:ピー・カブー
文化、娯楽の伝道者およびクリエイターたち。
港の利権を狙う組織の1つ。
現在は非協力関係にあるが、住人たちの慰撫を建前に時折街に出入りしているようだ。

■教徒会
占い、予言、宗教といったスピリチュアルな分野を担う宗教家たち。
港の利権を狙う組織の1つ。
現在は非協力関係にあるが、敵対もしていない。

  • 港を開け、海へ行け! 或いは、簒奪者と魔導船…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年06月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
※参加確定済み※
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
※参加確定済み※
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
※参加確定済み※
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
※参加確定済み※
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
※参加確定済み※
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA
※参加確定済み※
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ

●海へ行け
 港の倉庫に遺体が並ぶ。
 何者かの襲撃に逢い、犠牲になったアスクル学者団の学徒たちだ。
「やられたな。あれだけで手を引くとも思ってはいなかったが」
 遺体を前に『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)が目を伏せた。開港に向け、近海の調査に当たっていたところを“黒水晶の術者”の手により殺められたのである。
「港や学者達に手を出した奴等を捕まえなけりゃならねぇ。いい加減、黒水晶とはオサラバしてぇしよ、気合い入れていかないといけねぇな」
 握り拳で壁を殴って『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)はそう呟いた。
 倉庫の外には、犠牲になった学者たちの友人が集まってきている。遺体を返してやりたいが、水晶に捕らわれ、串刺しにされ、炎に焼かれて……状態があまりにもひどすぎた。
 直視するにはあまりに惨い。
 しかし『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は構わず遺体に近寄ると、しゃがみこんで検分を始めた。
「可哀相に、まだ生きてやりたいことがあったでしょうに。せめて、果たそうとした責務だけは果たしてあげなくてはいけませんね」
 顔を虚空へと向けて『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)は彷徨う霊魂を眺めている。
 無念であっただろう。
 苦しかっただろう。
「……こいつは何だ? お手玉か?」
 遺体の幾つかを検分し終えたジェイクの手には、黒く焦げた木製のボールが握られていた。遺体はおそらく女性のものか。
「その方は学者ではないようですね」
「……あぁ、ヤーヤーって芸人が紛れ込んでいるんだったか」
 焦げたボールを遺体へ返し、ジェイクはため息を零した。
 “ピー・カブー”のヤーヤー・パレード。
 いつの間にか、街に忍び込んでいた大道芸人だ。
「収獲はあったな。早急に犯人を追い詰めよう……街全域へ指示を! 暫くの間、誰も入れるな、誰も出すな! それと、教徒会の者がいるのなら捕まえておけ!」
「えぇ、分かりました。脅してもいいのでしょうか?」
「りょーかい。抵抗されたら撃っていいか?」
 ラダの指示を受け、部下の女性2人が倉庫を出て行く。
 街の方はこれでいい。
 後は海へと逃げ出したという、船と下手人を追うだけだ。

 天気は快晴。
 時刻は夕暮れ。
 もうじき空が暗くなるころ。
 8人のイレギュラーズは、小型船に乗り沖へと出ていた。
「とりあえず魔導船の設計図は手に入った。随分と探したが、見つかって良かったよ」
 咥えた葉巻に火を着けて『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)はテーブル上へ紙束を投げ出す。
 それを手にとり『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)は船の設計に目を落とす。
「増幅装置は船首、操舵室に……対空砲は甲板に無数。レーダーはマストのてっぺんですね。通路は……船尾と甲板中央のそれぞれに船内へ至る入り口が2つ」
 目下のところ厄介なのは、レーダーと対空砲の存在だろう。
 接近すれば発見される。
 空を飛べば銃撃される。
 レーダーを残したままでは、船内に潜伏することも難しい。
「決まりじゃの」
「港ってボクの概念でいうところの「ナワバリ」ってところだよね? それを荒らされたとなれば、全力で報復しにかからざるを得ないよね」
 『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)がワイバーンの背に跳び乗った。その後に続く『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)と綾姫は、遥か海の彼方を見やる。
 海の先には船の影。
 空が荒れていれば船の発見にも時間がかかっただろうが、幸いなことに今日は快晴。船影もはっきりと目視できる。
「どうじゃ、リコリスちゃん。港で船を見たのじゃろ?」
「うん。間違いないと思うよ! あの船だった気がする!」
 そう言ってリコリスはフードを被った。
 リコリスとサルヴェナーズが、港を訪れたのは偶然だ。そこで2人は、事件の現場に居合わせた。成り行きもあって、2人は事件の解決に協力しているのだ。
 チヨの指示でワイバーンが移動を始める。
 まずは2人……ゆっくりと、しかしまっすぐに、魔導船への襲撃を開始した。

●魔導船攻略作戦
 断続的な銃声が響く。
 甲板に並んだ対空砲が、一斉に火を噴いたのだ。
 狙うはチヨの操るワイバーン。弾幕に遮られ、なかなか船へ近づけない。
「まーた悪ガキが港の封鎖を企んじょるのかっ!!」
 ワイバーンを傾けて、チヨは器用に銃弾を回避。
 弾みでリコリスの身体が宙へと浮いた。
「リコリスさん!?」
「だ、だいじょーぶ!」
 落下しながら、リコリスは自前のワイバーンを召喚。
 その背に乗ると、ライフルを構えた。
「……対空砲の数が多いよっ!?」
「レーダーです! レーダーを狙ってください!」
 対空砲の狙いはひどく正確だ。
 現在、そのほとんどはチヨのワイバーンへ向いている。その背に乗った綾姫は、銃弾を弾くだけで精一杯という状態だ。
 レーダーで、常にこちらの位置を観測されているためだろう。
「レーダー? どこなの!?」
「マストのてっぺんだ!」
 リコリスの進路を開くべく、追いついてきたラダが対空砲の1つを狙撃。銃弾1発では停止させるに至らないが、射撃の速度は幾らか落ちた。
 弾幕に一部、穴が開く。
 そこを狙って、リコリスのワイバーンが飛んだ。
「見えた……あぉーん!!」
 スコープを覗き込み、トリガーを引く。
 銃声。
 宙を疾駆する弾丸が、マストの天頂……レーダー装置を撃ち抜いた。

 レーダーを失い、弾幕の勢いが弱まる。
 レーダーによる観測範囲が減ったことにより、対空砲の操作に難が生じているのだ。
「さぁ、追いついたぞ。覚悟してもらおうか」
「皆さんも、今の内に乗船を!」
 ラダ、続いて綾姫が甲板へと着地。
 それと同時に、綾姫は剣を一閃させた。
 ごう、と吹き荒れる破壊の奔流。甲板を砕き、数機の対空砲を飲み込む。
 弾幕が途切れた隙を突き、サルヴェナーズが甲板へと降りる。
 
「対空砲を止めます。お先に船内へ」
 そう呟いたサルヴェナーズが、瞳を覆う布を片手で引き剥がす。
 瞬間、影が蠢いて、汚泥と共に泥や羽虫、毒蛇の大群が甲板を埋め尽くした。
 対空砲を飲み込んで、銃撃を止めた。
 サルヴェナーズの横を、2羽の鷹が飛んでいく。
 低く滑空した鷹は、迷うことなく船内へと侵入。
 その後を追って、ジェイク、ジョージ、義弘が駆ける。
「先ずは増幅器の制圧……いや、待て! 鳥がやられた!」
 船内へ飛び込むと同時に、ジェイクは仲間に待ったをかける。斥候として先行させていた鳥が、水晶に貫かれて床に落ちたのである。
 咄嗟に銃を引き抜くが、壁から飛び出した水晶によってジェイクの腕は貫かれた。
「っ!?」
「増幅装置の性能か? 精度がいいな」
 地面と天井から突き出した水晶を、太刀で受け止めジョージが言った。
 通路の先には、ローブを纏った女の姿。
 黒水晶の術師か、それとも港を狙うどこかの組織の構成員か。
 3人の姿を認めると、女は慌てて踵を返して逃げ出した。交戦の意思は無いらしい。どうやら出入口に鍵をかけに来たのだろう。
「……黒水晶の一族も随分こき使われとるの。彼奴らも1人身内が死んでおるから、仇討ちみたいなモンも兼ねとるんじゃろか」
「通路や扉、角にも気をつけろ!」
 床から飛び出す水晶をチヨが拳で殴り砕いた。
 通路の奥へ向け、ラダが銃弾を撃ち込む。しかし、ローブの女には届かない。
 逃げた女を庇うように、床や壁から無数の水晶が飛び出した。
「くそっ……時間を稼ぐつもりか?」
「どーすんだ? 射線が塞がれてちゃどーにもなんぇぞ?」
 数発。
 ジェイクの撃った大口径の弾丸は、幾重もの黒水晶に遮られて届かない。
 増幅装置の影響か、以前よりも精度と高度も上昇していた。
「よし……気合いで突っ切るぞ!」
 胸の前で拳を打ち付け、義弘は疾走を開始。
 腕を、脇を、黒水晶が貫くが、構わず彼は拳を振るった。
 一撃、まずは眼前を塞ぐ黒水晶を殴り砕く。
 前進しながら、壁を一撃。
 床から飛び出した黒水晶を、前蹴りで砕いた。
「なるほど。これが一番、速いか」
 義弘に続いて、ジョージが走る。
 義弘の切り開いた道を広げるように、ジョージが太刀を横に薙ぐ。
 砕けた水晶片が、ジョージの頬を切り裂いた。
「ジョージさん、問題無いんですか?」
「仕事柄、その手の相手には事欠かなくてな。必要に応じて用意するようにしている」
 綾姫の問いに是と返し、ジョージは前へ、前へと進む。
 義弘とジョージを先頭に、一行は操舵室を目指した。

 犯人は男女の2人組。
 そのうちどちらが雇い主で、どちらが“悪魔の岩礁の一族”かは不明だ。
 突き出してくる岩礁の間を駆け抜けながら、リコリスは次々、仲間たちを触れて回る。
「柄じゃあないけれど、こういうことも出来るんだよね、ボク」
 薄暗い通路のただ中を、燐光を纏った一団が進む。
 増殖を続ける黒水晶による影響も、幾らかは軽減できるだろう。しかし、ダメージばかりはどうにもならない。
「これで……最後だぁっ!!」
 顔を血で真っ赤に染めて、義弘が吠えた。
 踏み込みと共に放った拳が、幾重もの黒水晶を粉々に砕く。
「来た! 来たわよ!」
「ちくしょう、速いな!」
 操舵室に居たのは2人。
 どちらが発動したものかは不明だが、義弘の足元で黒い魔力が渦を巻く。
「う……おっ!」
 ピシ、と硬質な音が響いて、突き出した黒水晶が義弘の腹を貫く。
 血を吐いて、義弘は意識を手放しかけた。
 【パンドラ】を消費し意識を繋ぐが……眼前には、次の水晶が迫る。
 脳天を貫かれる直前……サルヴェナーズが、間に割り込み、代わりに水晶を受け止めた。

「首尾よく捕まえたら、尋問を。ギフトで辛い過去の記憶を思い出して頂いて、情報を吐いてもらいましょう」
 腹に刺さった水晶を抜いて、サルヴェナーズはそう言った。
 破れた皮膚から、腸と血が零れるのを、のんびりとした仕草で内へ詰め直す。
 じくり、と皮膚が再生された。
 腹の辺りは血で濡れているが、傷跡はすぐに塞がっている。
「……う、ぉぇ」
 それを見て、ローブの女が口を押えた。

 操舵輪の手前、何かの装置が淡い光を放っている。
 おそらくそれが増幅装置だ。
 ローブの男女は、どちらもがそれに触れている。
「おい、誰の許可もらって触ってる」
 ラダの放った銃弾は、床から突き出した黒水晶に阻まれる。
 水晶片が飛び散る中を、ジョージが駆けた。
 太刀を一閃。
 進路を阻む水晶を斬り捨てるが、すぐに第2、第3の水晶が飛び出してくるのが見える。
 術を行使する速度が速い。
 水晶の出現位置も正確だ。
 しかし、状況は悪くない。
「確かに水晶は厄介だが、種さえ割れていれば、あとはどうとでもなる」
「おぉ、獲物は追い詰めてるんだ。やることは決まってるよな」
 敵は2人。
 一方、イレギュラーズは8人。
 水晶の術師の攻撃速度は大したものだが、手数はこちらの方が多い。
 銃を片手に、ジェイクは壁を足場に跳んだ。
 まるで獣だ。
 術師の死角を突くように、斜め上方からの銃撃。
 水晶で自分たちを覆うことで、術師たちはそれを防いだ。
「そりゃ悪手だろ。視界が塞がっちまう」
 ジェイクが呟く、その直後。
 地面を蹴って、チヨが飛ぶ。
「拳骨で殴るぞい!
 音を置き去りにした急加速。
 超高速の拳骨が、水晶に大きな穴を穿つ。
 砕けた水晶の先。
 片腕を掲げた男女の姿がそこにあった。

 片方は水晶の術師。
 もう片方は狙撃手だ。
 ローブで視線が隠れているせいで、両者の狙いが分からない。
 殴りつけるか。
 否、間に合わない。
 片方を殴りつけた間に、もう1人からの攻撃を受ける。
 防御の姿勢を取ったチヨへ、男が腕を突き付ける。
 チヨの背を突き破り、黒水晶が現れた。
 
 ローブの中で構えた腕に、銃を仕込んでいるらしい。
 銃声が響き、撃ち出された弾丸をサルヴェナーズが受け止める。誰を狙ったというわけでもないのだ。誰かに当たれば儲けものと、牽制目的での銃撃だろう。
 元より、さほど狙いが正確な方でもないらしい。
「銀弾ですね」
「なるほど“教徒会”の祓い屋ですか……どうぞ、こちらはお返しです」
 綾姫が腰を捻って腕を掲げた。
 頭上にあげた手の上に、1本の長剣が召喚された。
 一閃。
 腰を捻って、綾姫の投げた長剣が飛ぶ。
 疾駆する剣が女の腕から肩にかけてを切り裂いた。

 リコリス、そしてジェイクが駆けた。
 左右へ展開した2人を、術師とカトリックの視線が追う。
 術師はともかく、カトリックには既に攻撃手段は残っていないはずだ。増幅器からも既に手を離している。
「速いっ……くぁっ!?」
 腹へ、胸へ、喉へ、顔面へ。
 リコリスの掌打が叩き込まれた。
 数度の打撃を浴びてカトリックがよろけた。その胸元に手を伸ばし、リコリスは彼女を後方へ投げる。
「ごめん、こいつのことは頼みたいんだ。ボク手加減が出来ないから、うっかり殺してしまいそうでね」
「分かっている。資料の他に情報も吐かせたいからな」
 ライフルを構え、ラダは呟く。
 スコープを覗き、指先に少しの力を込めた。
 銃声が1つ。
 火花が散って、撃ち出されたのはゴム弾だ。
「残念だよ……仲良くはできずとも、敵対はせずいられるかと思っていたからな」
 しかし、こうなった以上もはや“教徒会”を信用することは出来ない。
 街に潜伏していた“教徒会”の連中も、追放処分ということになるだろう。
「やめ、撃たな……きゃぅ!?」
 眉間に1撃。
 昏倒したカトリックは、仰向けに床に転がった。
 
 残るは1人。
 術師の男だけである。
「人の顔に泥を塗った分、しっかりと返礼させてもらおう」
 ジョージとジェイクが攻め立てる。
 次々に突き出してくる黒水晶を、ジョージが切り裂き、ジェイクが銃で撃ち砕いた。
 しかし、術師の手は止まらない。
 顔を汗で濡らしながら、鼻から血を流しながら、吠えるようにして次々と術を行使する。当然だ。命の危険が目前にまで迫っているのに、冷静でいられるはずは無いのだ。
「ちくしょう! 来るな!」
「殺しゃしねぇ。出来る限り捕縛して連れ帰りたいからよ」
「拳骨はするがの。やったれ、義弘坊!」
 チヨが叫ぶ。
 ジョージとジェイクの開いた道へ、義弘は頭から飛び込んだ。
 それと同時に、綾姫の放った雷撃が増幅装置を貫く。
 バチ、と紫電が弾け……増幅装置が機能を止めた。
「おぉっ!」
 雄叫びを1つ。
 握った拳を高く振り上げ、大上段から叩きつけるように一撃。
「が……ぺ」
 頭部を叩かれ、術師は白目を剥いて苦悶の声を漏らす。
 衝撃で砕けた歯が飛び散って、術師は意識を失った。

●捕縛と交渉
「交渉だ」
 はっきりとラダはそう言った。
 ライフルの銃口は、カトリックの眉間に突き付けられている。
「こ、交渉? これが? 脅迫じゃなくて?」
「あぁ、ラサじゃ交渉はこうやるんだ」
 いけしゃあしゃあと、そう告げる。
 嘘である。
「わ、分かった。命を助けてくれるなら、もう港に手は出さない……聞きたいことがあるのなら、何でも答えるよ」
 顔を青くしてカトリックはそう言った。
 命と仕事とを秤に乗せて考えて……考えるまでも無く、彼女は後者を選択したのだ。
「何のために、港を?」
 術師に銃を突きつけたままジェイクは問うた。
「……貿易拠点が欲しいんだってさ。他国にも宗教を広めたいって奴はうちに幾らでもいるの」
「俺らは雇われただけだ。でも、もう手伝わねぇって約束するよ。うちは少数精鋭だからよ、お前らの恨みを買って、一族郎党お縄につくんじゃ割に合わねぇ」
 
 捕縛した2人は、貨物室へと投げ込んだ。
 扱いが雑だが、盗人と殺人犯なのだ。
 命があるだけでも儲けものだろう。
「さて、仕事は済んだな。これで少しでもいい方向に事が進めばいいんだがよ」
「あぁ、次はこちらの反撃だ。誰に手を出したのか、きっちりと分からせてやろう」
 義弘とジョージ、そしてリコリスは貨物室の見張りである。
 今のうちに、チヨや綾姫、サルヴェナーズは船の荷物を調べている。近海の調査結果が無事に残っているのなら、いよいよ港も開けるだろう。
「ところで、リコリスはさっきから何を?」
 思いついたようにジョージは問うた。
 扉の前にしゃがんだリコリスの頬は、パンパンに膨らんでいる。
「るるるるるるる・んぐるい! んんんんん・らぐる! ふたぐん!」
 何を言っているのか分からない。
 口の中は物でいっぱいだからだ。
 口を開けた拍子に、黒い水晶の破片が零れた。
「……食べ終わってからでいい」
 ジェイクはそれを、見なかったことにした。

成否

成功

MVP

サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

状態異常

チヨ・ケンコーランド(p3p009158)[重傷]
元気なBBA

あとがき

お疲れ様です。
この度もシナリオのリクエストおよびご参加、ありがとうございました。
魔導船は無事に回収されました。
また、カトリックおよび黒水晶の術師も捕縛完了。
教徒会は港から手を引くことになるでしょう。

依頼は成功となります。

また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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