PandoraPartyProject

シナリオ詳細

マボロシの果て

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アクト
 洋館には男が一人──
「ああ、どうして……どうして……」
 うわ言のような言葉、男は腫れぼったい目を擦り、うろうろと忙しなく歩く。
 手には一枚の写真。そこには女が微笑む。男は写真を見つめ、嬉しそうに笑う。
「ああ……」
 男は薄汚れた顔を撫でかぶりを振る。
「母さん……」
 呟いた言葉は瞬く間に消える。男は呻き、大きな瞳からぽろぽろと涙を流す。男は医師であり、その名はレベラー・シエスタという。
「母さん……ごめん、ごめんよぉ……」
 レベラーは呟く。その身は痩せ、顔色は悪い。レベラーは一週間前に母親を病気で亡くしてしまったのだ。
「僕が、僕が!! もっと……早く母さんの病気に気が付いていれば……僕がもっと、もっと!! 優秀だったら……」
 レベラーは震え、嗚咽を漏らす。しっかりと握られた拳には骨が浮かぶ。部屋の隅には真っ白な骨壺。
「母さん、嘘だよね……ああ、死んだなんて嘘だ。ねぇ、この前まで話していたのに……もう、その声も何もかも……僕は失って……ああっ!」
 レベラーは言い、長椅子に座る。両手を顔で覆い、レベラーは目を細めた。
「嫌だ。そんなの嘘だ……母さん、もっと長生きするって言ってたじゃないか……どうして? どうして、嘘を吐くの?」
 レベラーは顔を上げ、壁をぼんやりと眺める。
「僕は、僕は……母さんに何もしてあげられなかった……ねぇ、母さん……今日は友人と旅行の予定だったじゃないか……母さんはずっと楽しみにして……」
 レベラーは息を吐く。
「……旅行? 母さんは旅行……? ああ、そうだ。旅行に行って──」
 叫び、レベラーは立ち上がった。
「そうだ! そうだよ、母さんは死んでないんだ。いないのは……そう、旅行に行ってしまって……」
 奇妙に微笑む。その瞳に光はない。

●何処にもいない
 ギルド『ローレット』でイレギュラーズ達は『ロマンチストな情報屋』サンドリヨン・ブルーを(p3n000034)を眺めた。サンドリヨンはそっと息を吐く。
「今回の依頼は、レベラー・シエスタという男のココロを取り戻すことです」
ココロ──?
 イレギュラーズの一人が首を傾げた。
「ええ、ココロを。レベラー・シエスタは優秀な医師でした」
 医師でした? 過去形なのか?
「そうです。彼は一か月前に母親を亡くし、洋館に引きこもってしまったのです。同僚達は代わる代わる洋館を訪ね、彼に母親の死を伝えました。ですが──」
 ですが?
「……彼は信じてはくれませんでした。彼は母親が友人と出かけていると信じているのです。いえ、本当は解っているのかもしれませんが……」
 サンドリヨンは悲しそうに目を細める。
「レベラーさんは同僚の言葉に耳を貸そうとせず、終いには怒りだしたようです」
 じゃあ、そのまま、母親の死を受け入れるまでそっとしておけばいいじゃないか。
 イレギュラーズの一人が言った。サンドリヨンはかぶりを振る。
「駄目です。レベラーさんは殆ど、食べていないようなのです。このままでは彼は……」
 イレギュラーズ達は黙り込む。
「そう、皆さんにしていただきたいことは彼に母親の死を受け入れさせ、彼に食事を食べてもらうことです」
 サンドリヨンは頷き、「大丈夫、皆さんなら」と微笑む。

GMコメント

 ご閲覧いただきましてありがとうございます。
 さぁ、母親を亡くしたレベラー・シエスタのココロを取り戻してください。

●依頼達成条件
 レベラー・シエスタに母親の死を受け入れさせ、彼に食事を食べてもらうことです。

●依頼人
 レベラー・シエスタの同僚達
 彼を心配し、依頼をしました。
 
●場所
 二階建ての洋館
 特徴のない洋館、レベラー・シエスタは二階の母親の寝室におります。
 洋館は汚れ異臭を放っています(洗われぬままの衣服や生ゴミ)洋館の周りには枯れた花壇があります。


 レベラー・シエスタ
 男性医師で母親の病気に気が付けなかった自分、そして、治すことができなかった自分を責めていました。母親の死を受け入れることが出来ずに母親は友人と旅行に行ったと思い込んでいます。母親が死んでから不眠と食欲不振、無気力になっております。勿論、顔を拭くくらいでお風呂に入っていません。父親は海の事故で亡くなっており、死に敏感です。ちなみに甘党です。

 ボレロ・シエスタ
 レベラー・シエスタの母親です。原因不明の病に倒れ帰らぬ人になってしまいました。一人息子のレベラーを溺愛しており、自慢の息子でした。ガーデニングが好きで、得意料理はナポリタンとカレーでした。

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 アドリブを入れると思いますがNGの際や注意事項がございましたら必ず、明記ください。どんな結末を迎えるかは皆様のプレイングにかかっています。

  • マボロシの果て完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年08月17日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
ミシュリー・キュオー(p3p006159)
特異運命座標

リプレイ

●アノヒニモドレナイ
 レベラー・シエスタは母親の寝室にいる。吐き気がするほどの眠気に触れながらレベラーは眠ることが出来ない。目を擦り、ふらふらと立ち上がる。カレンダーを見つめると、そこには『バカンス』と懐かしい字で書かれていた。今頃は友人達と美味しい物を食べ、笑っているのだろう。
「お土産は要らないって言っても買ってくるんだ。それも、僕は楽しかった」
 呟き、唖然とする。
 ああ、僕はどうして──
 涙が瞬く間に流れ出す。

●イロアセテイク
 イレギュラーズ達は静かに歩いている。ふと、『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593) が口を開いた。
「肉親の死は哀しいよね」
 ティアの言葉にイレギュラーズ達が頷く。
『不老不死でもない限り、いつ起きても仕方ないからな』
 ティアを操る神様が言った。
「ああ。きっと、医師であるレベラー氏もそれは理解しているだろうね。ただ、頭で理解することと、ココロが受け入れられるかは別問題なのだろう。それでも、ただ生きることでのみ我々は死者に報いることが出来るのさ」
『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275) は特徴的な瞳を細め、呟くように言う。
「そうだよね。親なら自分の子供には生きてほしいと思うし」
 ティアは言う。
『だな……そして、これは死神としての仕事でもある』
「うん、頑張るよ。レベラーさんとボレロさんを逢わせてあげたい」とティア。
「ああ、君達はとても頼もしい。そうだ、まずはあそこの屋敷に行ってみようじゃないか」
 イシュトカは指を指す。ライオンのドアノッカーを叩くと重厚な扉が開き、女が顔を出す。
「何かご用でしょうか?」
「レベラーさんのことを教えて欲しい」
 ティアが女を見た。
「レベラー? レベラー・シエスタのことでしょうか」
「さよう。医師であるレベラー氏のことだ」
 イシュトカは女を見つめた。
「そう」
 女は唇を舐め、上目遣いでイシュトカを見た。
「お母様はとても残念でした」
「ユラ? 誰と話している? レベラーと聞こえたが……」
 初老の男が顔を出す。
「なんだ、あんたら」
 男は顔を強張らせた。
「レベラーさんについて聞きたいって……」
 女は言う。
「悪いが帰ってくれ。私はあの男の話は聞きたくも話したくも無い」
「お父様、ちょっと!」
 女が慌て出す。
『それはどういうことだ?』
「あ?」
 男は訝しげにティアを見下ろす。
「その話、私に詳しく聞かせてもらえないだろうか」
 イシュトカは男の目を見つめながら言葉を続ける。
「我慢は良くない。我慢すれば心身ともに影響が出る。それはとても、良くないことだろうね」
「……あんたの言う通りかもな。あいつは別に悪くねぇんだ。ただ、全力で母親を治そうとした。それなのに、レベラーは俺達も同僚達も拒むようになっちまってよ」
「それは辛いことだ」
 イシュトカが頷く。
「ああ。それに可哀想だ。俺も妻を事故で亡くしてよ。あいつの気持ちが解るんだ。本当はまだ、生きてるんじゃないかって……ああ、後悔するよな。もっと感謝の気持ちを伝えれば良かったって。娘もな、レベラーに治してもらったんだ」
 男は女を見つめ笑う。
「みーんな、レベラーを心配している。たまに様子を見に行くんだ。中には入れてもらえねぇが」
 男は悔しげに唇を噛む。
「私達は彼のココロを取り戻すために来た。そう、それが彼の同僚達の依頼」
 イシュトカの言葉に男は息を呑む。
「そうか。なら、頼んだ。まぁ、臭いと思うがよ……あいつ、掃除が苦手なんだ」
 男はイシュトカの肩を叩く。

「難儀すると思ったがね」とイシュトカ。
「ええ。レベラーさんは皆に想われているのですね」と『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381) は言った。
(この想いをきちんと伝えなくては。レベラーさんに立ち直ってもらいたい)
「では、情報も得ましたし館に向かいましょう」
 『特異運命座標』ミシュリー・キュオー(p3p006159) はイレギュラーズ達を見つめ、『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)に微笑む。
「リインさん、一緒に頑張りましょう」
「はい。宜しくお願いします! まずは気分を変える為にも、汚れた洋館の一斉清掃から! ピッカピカにしてレベラーさんを前向きにしてあげたいです」
 リインはぐっと拳を握り、元気よく叫んだ。ミシュリーが頷く。館に向かうイレギュラーズ達。その背を見送るのは『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569) とイシュトカ。下呂左衛門は頬を掻く。
(拙者自身が不精な生活でな。部屋も凄いことになっているでござるし、生活環境の改善には役に立てないのでござる。館には後に合流するとして……拙者は)
 下呂左衛門は依頼主を訪ねる。同僚達は下呂左衛門とイシュトカに興味を持つ。
(触っちゃ駄目かな?)
 男が目を細める。
(うう、とっても可愛い!! でも、可愛いって言ってはいけない?)
 女が複雑な表情をする。
(ふむ、何だか興奮しているでござるよ)
 下呂左衛門は咳払いを一つ。
「拙者達のことはさておき、彼や彼の母君の行きつけの店などがあれば情報を得たい。教えて欲しいでござる」
「行きつけの店? ありましたっけか?」と男。
「確かあったわよ。ほら、あの魚介が美味しいお店。レベラー君がよく、母親と通ってるって言ってたじゃない?」と女。
「あ、あったね! 名前は……アフターグロウ!」
「それよ、それ! チーズとハチミツのピザが好きってレベラー君、嬉しそうに言ってたわ」
「そうだね。何だか、懐かしいな」
「こら! 今度は皆で行けば良いじゃない」
 女は男を軽く睨みつける。下呂左衛門はうんうんと頷く。イシュトカは黙っている。下呂左衛門の話が終わった後、彼らに伝えたい事がある。
「アフターグロウは何処でござる?」
『確か』
 優しい眼差し。下呂左衛門は彼らの言葉をしっかりと聞く。

 洋館に辿り着いたイレギュラーズ達は花型のドアノッカーを叩く。
「ん? 出てこないな」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103) は人型の姿で呟く。
「気が付いていないのでしょうか。ならば、もう、一度」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824) はドアノッカーを叩く。
 数分後──
 突然、扉が開く。そこには薄汚れた男。血走った双眸、頬には涙の跡、よれよれのシャツ。そして、つんとした臭い。レベラー・シエスタだ。
「君達は?」
 レベラーは小首を傾げ、ノースポールが歩み寄る。
「初めまして! 私達はローレットです。お母様のボレロさんのご依頼で来ました。館に1人きりの息子さんを心配されてましたが……大変な状況ですね。良ければ、お掃除しましょうか? このままではボレロさんも驚かれるでしょうし……」
 にっこりと笑う。
「ローレット? 母さんが依頼を?」
「はい! 息子のレベラーは掃除がとっても苦手なんだって困った顔で言ってました」
「酷いな、僕は母さんより得意じゃないだけで」
 レベラーは笑う。
「中に入っても良いでしょうか?」
 ノースポールは言う。
「どうぞ、とても散らかってるけど」
 恥ずかしそうにレベラーは言った。
「ありがとうございます!」
 ノースポールは頭を下げ、イレギュラーズ達がぞろぞろと館に入っていく。
(あわっ! 想像以上の臭いです!)
 ミシュリーは驚きながらリインを見た。リインは頷き、ガッツポーズ。
「ミシュリーさん、えいえいおーです! さぁ、行きましょう!」
「はいです!」
 ミシュリーとリインは廊下を駆け、窓を次々と開けていった。
「次は洗濯です! 量を確認してっと!」とミシュリー。
「!! 凄い量ですね」とリイン。
 ミシュリーとリインは大量の洗濯物を抱え、大きな桶に投げ込み、水に浸す。二人は館を走り回る。
『私達は蜘蛛の巣を除去しようか』
「うん、そうだね」
 ティアとティアを操る神様は竹箒で蜘蛛の巣を取っていく。ノースポールとレベラーは母親の寝室にいる。
「レベラーさんとボレロさんはとっても仲良しなんですね。いつもどんな風に過ごしているんですか?」
「母さんは花が好きでね。いつも庭にいて、僕は庭のチェアーで本を読みながら過ごしていたな。たまにお酒を飲みに行ったりもしたよ」
「そうなんですね! とても素敵な時間です」
「うん」
「二人で旅行には行かれたんですか?」とノースポール。
「旅行には行ったことがなかったな。連休が取れなくて。あ、同僚達は休んでいいって言ってくれたんだけどね、なかなか」
「お仕事、お忙しいですからね。仕方ありませんよ。おや? 顔色が悪いようですが……飴、いかがですか?」
「いいの?」
「はい。私も甘い物が好きで、いつも持ってるんですよ!」
 ノースポールは飴を手渡す。
「甘くて美味しいね。ありがとう」
 レベラーは何度も瞬きをする。
「どうしましたか?」
「分からないけど最近、眠れなくて……」
「レベラーさん! 生ゴミの処理はどうしたらよいでしょうか? 収集日が解らないので堆肥として埋めたいのですが」
 寝室に飛び込んできたミシュリーにレベラーは目を丸くする。
「あ、生ゴミ堆肥バケツが外に……」
 ミシュリーは頷き、力仕事が得意なリインがゴミ袋を何個も抱え庭に走る。ミシュリーは食糧庫に向かう。

「沢山の物がありますね」
 幻は廊下に置かれた像に触れる。廊下には油絵や甲冑が飾られている。
「どれも少しだけ埃が」
 指先を見つめ、呟く。
(きっとお母様がきちんと掃除していたのでしょうね。掃除は皆様にお任せして僕は)
「レベラー様。これは大変、珍しい物ですね」
 幻は寝室のレベラーに声をかける。ノースポールは寝室に散らばった衣服を集め、駆け出す。
「うん。これは父が昔、買ってきた甲冑でね。母さんは本気で嫌がったんだ。物騒だって。あ、写真でも見るかい?」
 レベラーは分厚いアルバムを幻の前に広げる。幻は目を細める。沢山の写真。レベラーは笑い、一枚、一枚、説明し始める。幻はその度に頷き、思い出に耳を傾ける。
「この写真はユラ様とお父様ですか?」
「そうだよ。彼女の病はとても重くて」
「治った際は喜ばれたのでしょう?」
「うん。僕もとても嬉しかった。医者になって良かったって本当に思ったんだ。で、これは母さんと僕を含めた写真」
「皆様、良い笑顔です」
 幻は目の細め、ボレロの容姿を記憶する。そして──
「きっと、お母様はこんな風に甲冑を掃除なさっていたのでしょうね」
「え?」
 幻は思い出を一枚の写真に変え、手渡す。
「消えてしまう前に」
 幻は微笑む。レベラーは驚く。
「そう、母さんはこんな風に幸せそうに甲冑を拭いていたんだ……僕がからかうと母さんは少しだけ真っ赤になって……あ」
 写真はマボロシのように消えていく。それでもその思い出はココロに残って。レベラーの瞳から涙が零れる。
「なぁ、掃除中は邪魔だから外に出ていようぜ」
 ハンカチを手渡しジェイクはにかりと笑う。ジェイクは幻とレベラーを散歩に誘う。
「行ったね」
『ああ、この間に寝室を整えておこうか』
 ティアとティアを操る神様が言い、部屋に踏み込む。
「ベッドシーツは」
『解っている。まだ、洗わない方が良いだろう』
「うん、消えてしまうから」
 ティアは目を細めた。微かに甘い花の香りがする。
(ボレロさんの魂はもう、此処にはいない)
 ティアは確信する。
『残念だ、母親と会話出来ればと思ったが』
「そうだね。でも……」
『ちゃんと天国に行けた。それは良いことだ』
 ティアは頷き、手を動かし始める。

「汚れが凄いですね」
 ノースポールは桶を覗き込む。汚れた衣服が浮かぶ。
「それでも……綺麗にしますよ!」
 ノースポールは気合を入れ、洗濯板で衣服を洗い始める。ミシュリーはリインとともに花壇の手入れをしている。ミシュリーは雑草を抜き、リインは呟く。
「カスミソウ」
 一輪の白い花が風に揺れる。それだけは枯れずに──
「きっと美しかったのだろうな」
 イシュトカが花壇を見下ろしている。ミシュリーは近づきイシュトカにメモを手渡す。イシュトカはメモに目を落とし微笑む。
「新しい苗と食糧をお願いします」
 ミシュリーは頭を下げ館に戻る。リインは枯れた花を抜き続ける。
 そのまま、ミシュリーは他のイレギュラーズ達と部屋の埃とりや片付けを慌ただしく行う。

●ダイスキダッタ
 ハンカチを握り締め、レベラーは無言で歩く。
「お袋さんは花が好きだったのかな? 毎日、花壇の手入れをしてたんだろうな」
 ジェイクは言った。今は一階の廊下をゆっくりと歩いている。レベラーは黙り込んだ。
(気が付いたのか? いや)
「なぁ、医者を志したきっかけってなんだい? 親父さんも医者だったのかな? それともお袋さんが関係あるのかい?」
「僕は勉強が出来たんだ。だから、医者になった。母さんを楽にしてあげたかったんだ。父は貿易の仕事をしていたんだよ」
「そうか」
「母さんは少しだけ気にしてた。僕がお金の為に医者になったんじゃないかって。最初はとても嫌だった。血も怖かったし」
 その言葉にジェイクは笑う。
「それは凄いな。もう、慣れたのか?」
「ううん、今でも怖い。けど、それ以上に誰かを助けてあげたいって思ったんだ」

 花壇ではリイン、イシュトカ、ティア。そして、イシュトカに連れられた同僚達が苗を植えている。そう、もう一度、此処で葬儀を行うのだ。

 下呂左衛門は館を訪ね、レベラーを探す。掃除は終わっているようだ。
(行きつけの店で話をしたいところでござるな。現実を知り、母親との思い出を話せば、気持ちの整理がおのずとつくでござる)
「……いないでござる」
 下呂左衛門は開け放たれた窓から身を乗り出し、はっとする。下呂左衛門は駆け出した。
「え、どうして?」
 レベラーは驚く。双眸には同僚達。
「花壇も」
 新しい苗。その刹那、花壇に白い花が咲き始める。幻の力だ。具現化した花は柔らかく揺れる。途端にレベラーは悲鳴を上げ、その場に座り込む。気が付いてしまったのだ。
「レベラー様、見てください」
「え?」
 幻の言葉にレベラーは茫然とする。椅子に座り微笑むボレロの姿。
「母さんの像?」
 幻は生み出した写真をレベラーに握らせる。
「お母様へ最後の言葉を伝えてあげて下さい」
「最後の? 僕は、僕は」
 レベラーは自らの頭を殴る。
「レベラーさんは出来得ることを全て行ったはずです。ならば、誰も貴方を責めるべきではないでしょう。勿論、レベラーさん自身も……」
 洗濯物を干し終えたノースポールが歩み寄る。両手には骨壺。
「あ、あ」
 レベラーは呻く。
「医者として死に向き合う事はとても多いと思う。でも、ボレロさんの為にも人の命を救う医者としてこれからも頑張ってほしい。ボレロさんの自慢の息子さんなんだから」
 ティアは言った。
「自慢の……母さん!」
 レベラーは像に抱き着く。
「ごめん、ごめんよ。苦しかったよね。僕も母さんが自慢だった、とても大好きだったんだ。本当は……解ってた。でも、認めたくなかった……認めてしまえばもう、母さんは」
「此処。此処にちゃんといるぜ」
「え?」
 ジェイクがレベラーの胸に触れる。
「大丈夫、おめえのココロにお袋さんはちゃんといる。だから、怖がることはないんだぜ」
 ジェイクは笑う。レベラーは唇を震わせ大粒の涙を流す。ジェイクはそれを見つめ、シャベルで穴を掘る。レベラーにノースポールが骨壺を手渡す。レベラーははっとし全てを理解する。
「母さん」
 墓穴に近づき、骨壺を置く。
「……ありがとう」
「これが永遠のお別れではないのです。お母様もお父様も貴方の心の中で強く息づいているのですから」
 幻の言葉にレベラーは力強く頷く。
「医者は職業柄どうしても人の死と向き合わなければいけない。死んだ人は救えないが、医者なら死にゆく人を救う事が出来る」
 ジェイクがレベラーの肩に触れる。
「おぬしはまだ生きていて、心配してくれる友がいる。彼等をおいていくつもりでござるか? 世知辛い世の中でござるが、もうひと踏ん張りしても悪くはあるまい?」
 下呂左衛門がレベラーを見つめる。
「それに、アフターグロウはいつでも開いているでござるしな。美味しい物を食べて仲間と笑うことは、とても大切なことでござる」
 下呂左衛門は笑う。
「ありがとう……みんな」
 その瞬間、胡蝶の夢が散っていく。

 ノースポールはレベラーに頭を下げる。真の依頼人と目的を伝え、嘘を謝罪する。
「本当は私達で考えたことなんです……」
「そうだったんだ」
「でも……本当にお母様も空から依頼されてたのかもしれません」
「僕もそう思う。母さんはとても心配性だったから」
「君にこれを」
 イシュトカが近づきカンパニュラの花束をレベラーに手渡す。
「君が以前、母親に贈った花束だと聞いたものでね」
「ありがとう……」
 レベラーは屈み、地に花を添える。
「ジェイク様、良かったですね」
 幻はジェイクに微笑む。するとジェイクは幻を強く抱き締めた。レベラーは幸福に目を細める。
「皆さーん! ナポリタンとカレーが出来ましたよ!」
 窓からミシュリーが手を振る。
「イシュトカさんが買い物の際に聞いてくれたお蔭で味は完璧です。さぁ、冷めないうちに! レベラーさんにはレシピや花壇の手入れ方法を書いたメモもお渡ししますね!」
「ああ、何だかお腹が空いてきちゃった」
 レベラーは恥ずかしそうに頭を掻き皆を見つめた。
「ん? なんか臭くない?」
 途端にその場にいる全員が吹き出した。レベラーは笑う。

「あ、母さんが好きだった匂い!」
 扉を開けると、室内は花の香り。アロマを焚いたのはミシュリー。レベラーはシャワーを浴び、ナポリタンとカレーを何度も食べ、久しぶりに眠りにつく。
 後日、レベラーはイレギュラーズ達、そして、同僚達、彼を慕う全ての人達とアフターグロウで朝まで騒いだのだ。

成否

成功

MVP

ミシュリー・キュオー(p3p006159)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

 皆様、ご参加いただきましてありがとうございました。青砥です。濃厚で緻密なプレイングをありがとうございました!また、MVPは館を走り回ってくださった貴女に贈らせていただきます。

 では、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。また、皆様とお会いできますことを。

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