シナリオ詳細
虚栄なる鋼鉄艦
オープニング
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海洋王国東部セフォラ海域。
かの地には海洋王国の手が入っていない島があり、海賊の拠点があるとされた……
そして調査の末に事実であることが判明。海洋王国の軍船二隻が討伐の為に派遣された――
そこまでは良かった、のだが。
「な、なんだあの黒い船は……? まさか鋼鉄艦か!?」
「鉄帝国が使っていた様な、か!? 馬鹿な! そんな代物を海賊如きが持つ筈が……!」
王国側の軍人が目にしたのは『漆黒たる船』であった。
最初は色をそのようにしているだけか、と思ったがどうにも違う。それは……かつて海洋王国と鉄帝国で争いが在った時に見据えた『鋼鉄艦』に酷似している船であったのだ――堅牢なる防御力を宿し、海に慣れた王国軍人ですら真っ向勝負では中々苦戦した艦隊の船。
「――いいやそんな筈はない、偽物だ! 撃て撃て! 化けの皮を剥がしてやれ!」
だが王国側は只の模造艦であると断じて砲撃を開始する。
一斉射撃。全砲門を開きて敵艦を撃滅せんと。
けたたましき音を鳴り響かせ、海賊船に数多の砲弾が直撃し――
「馬鹿めそんな程度の砲撃でこの『テール・ギュント』が沈むかッ!
撃ち返せ! 今こそ俺達の逆襲の時だ――!!」
直後。響き渡るは海賊側の船長の声だ。
――無傷。いや、無傷と言うのは言い過ぎかもしれないが、しかし海賊船は健在であった。幾つの砲撃を受けても……海賊船の表層に張り巡らされた鉄の板が砲撃に耐えきったのである。
そう。これは鉄帝国が保有する鋼鉄艦そのものではない。
鋼鉄艦を模し、防御力を高め鉄の堅牢さ(と、なんか名前のニュアンス)だけは再現した――お手製のレプリカであったのだ! まぁレプリカとは言え徹底的に敷き詰めた鉄の板があらば実際、防御力だけはそれなり以上のモノだ。
そして海賊船は悠々と沈められぬ堅牢さを保持しながら……砲撃戦を行うもの。
さすれば海洋王国側がジリ貧だ。
こちらの砲撃は通らないが、あちらの砲撃は通る――となれば結果は見えたもの。接近しようにも海賊船は中々大型であり砲門も多く……厚い弾幕が軍船を近づけさせないとあらば。
「く、くそ……! 一旦撤退だ、撤退しろ!!」
「ハハハ! 見ろ! 王国の馬鹿共が退いていきやがる……!!
よし、このまま近隣の島に舵を向けろ!
俺達の天下だ――誰も俺達の邪魔など出来んぞ! 面舵いっぱーい!!」
やがて海賊船からの砲撃で一隻が甚大な被害を負ったのを契機に、状況を立て直す為、王国側は撤退。
一方の海賊側は勝利に酔いて、そのまま略奪の宴へと往かん――とするのだが。
「……おいどうした? 早く進路を切り替えろ! 何してんだ!!」
「船長! この船重すぎで足は遅いんでさぁ! ちっとばかし待ってくださいよぉ!」
当然というかなんというか、あまりにも速度が遅い。
それはそうだ。とりあえず鉄の板を敷き詰めて無敵になれるのならば、当の昔から誰もがそうしている。鉄帝国の技術の上辺だけを真似た船だと、こうなって然るベし……
「くっ……ひとまず連中の足が遅い事だけは幸いだな……
まだ付近の島に辿り着くまでは時間があるだろう……
その前に、連中を倒す戦力を整える……!」
尤も、機動力が死んでいる以外は中々の性能だ。
半端な戦力を持ち込むだけでは、またも返り討ちにあうのみ――
如何な手段をもってしてあの船を撃沈するか。王国側の船長は思考を巡らせていた……
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「――と言う訳で、イレギュラーズの諸君に是非協力を願いたいのです!」
かくしてローレットの海洋支部に持ち込まれたのが海賊船の撃沈であった。
目標は海賊船『テール・ギュント』。鉄帝の鋼鉄艦を真似た船、とは聞いているが。
「実際は木造の船に鋼鉄の板を敷き詰めただけの船ではあります。故にと言うか……圧倒的に機動力は無いのですが防御力は高く、砲撃戦ではこちらの不利は否めません。一番いいのは乗り込んでの接近戦を行う事なのですが」
しかし海賊船は数多くの砲門を携えており、軍船では近付くのも容易ではない。
小型で機動力がある船であらばまだ可能性はあるが――しかし小型船では突入できる戦力が少なくなってしまう。生半可な突入となってしまえばそれはそれで各個撃破の恐れもあり……故にこそ少数精鋭。一騎当千の実力を持つイレギュラーズの力を借りたい訳だ。
「海賊船は現在、近くの島に向かってゆっくりと進撃中です。
此処には小さいですが村があり……奴らが辿り着けば略奪は免れないでしょう」
「――その前に攻撃を仕掛ける必要があるんだな」
「ええ。海賊船の注意を引く為、我々がまず攻撃を仕掛けます。
皆さんはどうにかその間に敵の警戒を突破し、乗り込んでいただきたいのです――!」
作戦はこうだ。海洋王国軍船が、まずは海賊船に攻撃を仕掛ける。
そうして敵の注意が逸れている間にイレギュラーズが小型船なりで接近をし――内部で混乱を起こしてほしいのだ。混乱によって上手く砲撃の手が緩めば、海洋王国の軍船も接近する事が出来て、彼らもまた乗り込めるやもしれぬ。
勿論、敵も近くから至る船がいないか警戒はしている事だろう。
全く気付かれずに乗船を果たす……事は流石に難しいかもしれないが。
「だが乗り込めさえすれば立ち回りは幾らでも出来そうだな」
イレギュラーズの一人が呟くものだ。
幸か不幸か、海賊船には砲門が多い……と言う事は火薬も多い筈だ。
火を付けて爆破でもしてやれば大混乱に陥ろう。
そして内部自体は木造船の儘であれば、尚に。
――鋼鉄艦を真似ただけの船。外面はともかく、はたして内面は如何なることか。
いざや海賊船撃沈の為。戦闘の場に赴かんと――歩を進めるのであった。
- 虚栄なる鋼鉄艦完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月28日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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海域へと辿り着くイレギュラーズ達。
成程。遠くから見れば確かにかの鉄帝らしき鋼鉄艦……の様に見えなくもないが。
「……いやまぁ、確かに手っての船を模しているし、海賊だってそれなりに場数は踏んでいるだろうが……アレに負けるってのはなぁ。船の大きさや砲門だけが全てじゃないだろ? そこはもうちょっと頑張ろうぜ」
『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は後頭部を掻きながらアレに敗北してしまった王国船に吐息を一つ零してしまうものだ。もう少しやり様はあったのではないかと。
「ま。とりあえずは向かうとするかね……こっちの準備は出来てるしよ」
「あぁ――しっかし鋼鉄艦か……苦い記憶を思い出させるねぇ。
あちらさんにも印象の残る船だったって事かもしれねぇが」
「ですが きっとにせもの に過ぎませんの……!
それに あいてが 船なら おまかせですの……!」
ま、なにはともあれと。
己が船、砕氷戦艦『はくよう』と共に鋼鉄艦へと赴かんとするものだ。
ただ『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)の目に写る様に、やはり鋼鉄艦と言う印象は『あの戦い』を潜り抜けた者達の記憶には深く根ざしている。偽の存在であろうとも思う所はあろう……
ただ、それでも『泳ぐ』事は海種の特権であると『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は確信している。それに見かけは立派でも必ずどこかに隙はあるものと思えば。
「ハッ。たしかに、アイツは張りぼての鉄鋼船だろうさ。
中にまで踏み込まればもっと分かりやすいだろうぜ。
――と。向こう側の砲撃も始まったみたいだな」
『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が気付くものだ。
海洋王国軍船からの引き付けが始まった、と。
イレギュラーズ達も動き出す。エイヴァンの『はくよう』が始動し、更には。
「いくよ……! 水中からの質量攻撃。すなわちこれがタイタニックアタックだよ!!」
「ふぅ――本来なら航空雷撃支援もお願いしたい所だったんだけど、様々な事情により『無理!』じゃあ仕方がないわね……フロッグマンの真似事で歓迎してあげようかしらね」
クジラ型の潜水艇と共に『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)が向かえば『狐です』長月・イナリ(p3p008096)もまた水中より敵船に接近する事を試みるものだ――フロッグマン。『水中工作員』の使命は気付かれぬ様に接近し……船へと干渉する事。
彼女は気配を潜ませ敵艦へと向かうものだ――
幸いにして海洋王国の陽動が効いているのか此方にはまだ注意が薄い様で。
「……この海賊船、ほんとーに動いてるのかな? のろのろカメさんだね。カタツムリかも。どー頑張ってもウサギさんに勝てそうにはないね!」
「カタくてオオキイってだけで偉そうにしてたらダメよね。大事なのはテクなんだから。
見掛け倒しのシロモノなんて、すーぐ保たないのがデフォルトみたいなもんだ・し」
そして。船の鈍さを見据えながら『青き大空のピーターパン』メイ・ノファーマ(p3p009486)や『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)も接近するものだ――飛行せしメイと、ワイバーンを駆りし夕子は空より至りて一気に強襲が目的。
態勢を立て直させたりなどはせぬ――!
「な、なんだぁ!? どうした――! 王国の連中は向こうだろうよ!!」
「船長、侵入者です――! 後方より襲撃が、うわっ!」
大砲そのものを狙わんとするメイ。同時に、夕子は己が身に戦の加護を齎しながら。
「さー実際どーなのよ? あーしが試してア・ゲ・ル♡」
妖艶なる微笑みと共に――甲板上に夕子が推参するのであった。
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「全く。あんな手作り海賊船にもう一隻まで撃沈されるなよ。
そこまでやわじゃあねぇよなぁ? ――頼むぜホントによ!」
同時。夕子らが乗り込み更に混乱が激しくなる中で――エイヴァンは海洋王国軍船側に発破の言を飛ばしつつ船を突っ込ませていた。敵の死角にして大砲の並びが少ない斜め後方側より。敵が動き出す前にエイヴァンが慣れた手で素早く舵を切りて――
乗り込む。堅牢な氷拳と共に海賊を薙ぎ飛ばしながら。
「なーにしてやがる! クソ、近接戦だ! 囲め囲めェ!!」
「――そうはいかねぇな。事、殴り合いになるってんなら……勝てると思うなよ?」
さすれば海賊たちも反撃せんと試みるものだ、が。
同時に飛翔せし接近する義弘が、まるで着弾するかのように甲板上へ降り立つモノ。
瞬時。優れし三感で周辺の状況を確かめれば近場の船員へと拳一閃。
――派手に暴れてやるものだ。『他』で行動する仲間の為にも。
「さぁ長はどいつだ? 縮こまってねぇで出てこいよ」
「きゃーこーんなJK相手に逃げ惑うなんて、ホントに男の人なの? ふっしぎー♡」
「くそ、舐めやがって……! 殺せ殺せェ!」
人差し指で『来いよ』と示す義弘に続いて、夕子も挑発の言を重ねるものだ。
周囲の指揮を執る船長の顔を覚えながら――逃がさぬ意志と共に。
陰より出でる夕子の闇。薄く笑みを浮かべているのは影の者か、それとも……
「こいつらイレギュラーズだ! 散らばるな、一斉に攻撃を……ぐぁ!」
「おっと、悪いね。ちょいと邪魔だったもんで」
然らば直後には縁も乗り込み始めるものだ。
彼もまた小型船を駆りて操舵し急速接近。軍船による砲撃影響の波があれど、彼に宿りし祝福があらば然して大きな影響には至らぬものだ――むしろ波に乗る様に順調に。そして飛び込まんとする箇所に見張りの者がいれば吹き飛ばしてやろう。
その手より至る青き衝撃にて。道を切り開き、彼もまた海賊船を見渡し。
「それにしても、改めて近くで見ても見事だねぇ。ツギハギな所はあるが、砲弾に耐えうる程度には実用化するとは……これだけのモンをお手製で作るのは大変だったろ、お前さん方」
「へへ、そうだろ? これは船長の無茶ぶりで随分俺達も苦労したもんで……」
「あぁ――全くこれだけの事ができるなら、他の事に使っておきゃぁよかったな」
勿体ねぇもんだと。油断せしめる海賊船員に更なる一閃を紡ぐものである。
自らの私欲の為に己が技量を使うのであれば、斯様な討伐依頼が出るのも止む無しだと。
「いっくよ――! 其処に火薬があるんだよね、じゃあ全部壊してあげる! おしおきだー!」
「えぇい、飛び回ってるアイツを狙え! 爆風で吹っ飛ばしてやれ――!」
そしてメイは引き続き海賊船の周りを飛びながら大砲を狙うものだ。
魔砲一閃。全て貫き、爆風誘わんと……砲撃の死角になり得る位置を常に陣取りながら。
故にこそ海賊達も彼女を煩わしく感じているのか、何が何でも撃ち落としてやるとばかりに――直撃せぬでも爆風に巻き込まんとするものである。数多の乱れ撃ちが彼女に降りかからんとして……
「さぁ此処ね――こんなモニター艦……いえ、ただの装甲艦。化けの皮を剥がさせてもらいましょうか」
「ええ どれほど りっぱな 海賊船でも。
全部全部が ぶあつくなんて ないはずですの。
そんなことをしたら もう 動くなどという事も できませんの!」
が。甲板やメイの動きに気取られている間に――イナリやノリアが船底側に辿り着くものだ。
上の方こそ敷き詰められている鉄だが、ノリアの推測通り喫水線……つまりは船体が水面下に入っているより下の部分はそう厚く塗り固められていないようであった。そしてイナリが目指すのは舵だ。
其処を潰してしまえば敵の機動力は完全に沈黙すると……同じ事はЯ・E・Dも思っていた様で。
「旋回できなくなった船はただの鉄の棺桶だからね。
ましてやこんな重いだけの代物なんて――本当に只の置物かも。と言う訳で……」
――潜水艇を真っすぐに。最大船速で舵へとぶつけてやるものだ。
「盛大にやらせてもらおうか。これで海洋王国の軍船が接近して乗り込むことも可能になった筈だよ」
「全く。なんだかんだこんな大型船を用意した割には、警備が疎かじゃないかしら」
激しい衝撃。潜水艇を使い潰す勢いでぶつけたЯ・E・Dはそのまま壁を透過する術をもってして船内に侵入せんとする――直後にはイナリが全霊の一撃を此処に。数多の壁すら粉砕せしめんばかりの剣撃も放たれれば。
「くそ! 船底側にも侵入者がいるぞー! 排除しろ――!!」
「うごきが 遅いですの いまさら きづいても もう間にあいませんの」
海賊達がイナリ達の存在に気付いて好き勝手させぬと向かう、が。
彼女もまた『するん』と壁を通り抜け既に船内に潜入済み。手元にありしランタンと共に周囲を素早く探索すれば……イナリらの舵を粉砕する騒動に潜む形で、既に目当ての『モノ』を見つけているものだ。
それは――火薬。砲撃戦を行うに必要な代物。
探せばあるものだ。火薬庫……いや武器庫らしき所が。
砲弾として纏まっているこれを ふふふ こうして ちょちょいの ちょい。
「……ええと あとは 火薬をこぼして……いえ さすがにこれは ちょっと厳しいですの…… 手がぬれて どうしようもないですの」
準備は万端。後は更に火薬で線の形を作りて、その先に着火してから逃げる……つまり『この後の事態』の被害を避ける事までしたかったのだが、彼女は此処まで海の中からやってきた……! つまり濡れているのでどうしようもない。
更には揺れる船の中でどこまで正確に作業が行えるだろうか……
もしかしたら海賊たちに気付かれて集まられてしまうかも……
いやまぁ増援を呼ぶのはむしろ歓迎ではあるのだが。うん。
「――ま いいですの!」
「あっ! そこのお前、そこで何をして――や、やめろぉぉおぉ!!」
色々考えたが、まぁ『自分ならばきっとなんとかなる』という自負が其処に在ったので。
発火の魔法を掌に。火の雫が滴り落ちれば――
凄まじい爆発が、巻き起こるのであった。
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連鎖する。ノリアの起爆を始めとして、鋼鉄船の内部にて。
さすれば激しい衝撃が船全体を襲い……
「な、なんだぁコレは!!? ま、まさかテメェら……!」
「今頃気付いたの? あーしらはオトリよ。それに引っかかって船の中メチャクチャにしてあげたわ。こんなつまんない作戦に引っかかるとか、ほんと海賊ってざーこ。ざーこ。頭ちゃんと動いてるのぉ? 生きてる価値ないんじゃない?」
であれば――甲板上で戦う船長が気付くものだ。
下の方で工作された、と。さすれば夕子が引き続き挑発するかのような言を紡ぎ続ける――否。これはもう彼女にとっての平常運転に等しいか――ともあれ嘲笑うかのような気配と共にJK忍法たる一閃が舞う。
狙いはやはり船長。此処を瓦解させればきっと他の船員なんて、もっとざぁこになるだろうから。
――しかし甲板上だけであれば勢い自体は海賊側にもあった。
なにせ数が多い。ノリアやイナリ、Я・E・Dらが船底側から回り込んだ事もあり、戦力は分散している――勿論数多の戦いを経験してきたイレギュラーズ達の地力は高く、単純に数さえあれば圧し潰せるという程簡単な状況ではないが。
「やれやれ。ま、海賊は海賊なりに海のプロって所かねぇ……」
「つっても、本当にプロならこんな鈍重な艦作るかね――俺なら船乗りとしての技量が制限される船なんぞは御免だな。海賊に道理を問うても仕方のねぇ事なのかもしれねぇが」
実際、縁やエイヴァンは押し寄せてくる船員達にも十分に渡りあっていた。
幾らかの傷跡は刻まれるなど無傷ではないが、しかし反撃の一手は海賊達が紡ぐ一手よりも遥かに強力――縁の振るう糸の紡ぎが海賊たちの足を絡み取りて纏めて薙ぐ様に至れば、エイヴァンは絶対なる肉体と精神を此処に。振り絞る加護と共に――敵を叩き穿つ。
弾き飛ばされる海賊達。
船長指揮の下、なんとかイレギュラーズ達を退けんと力を振るうが――
「とりあえず、全部の火薬部屋を爆破しとけば、もう海賊は何もできないよね。
あっ。この部屋もそうかな? お邪魔します」
「さーて私はこっちに行くのだわ。ふふふ。どこを叩き壊してもいいっていうのはより取り見取りだわね」
そうしている間にもЯ・E・Dやイナリの工作は更に進むのであった。
Я・E・Dは透視の術をもってして、ある程度外からでも火薬などが保管されている場所を既に確認済みだ――収束させた魔力を砲撃の如く放ち、巨大な爆裂が生じれば即座に脱出して被害を最小にするもの。
そしてイナリは壁を穿つ。船体の片舷を集中的に狙い、中を浸水させるのだ……!
さすれば船員が扉を閉めて浸水の被害を抑えんとする、が。
「無駄だわよ――此処を封鎖しても、私は次に行くだけなのだわ」
イナリは次へと移る。そして破壊する。その行動を止めるには数が少なすぎるのだ――上層で戦っているイレギュラーズ達の陽動が功を奏し、彼女達を止めるべくの人出と戦力がいない。こうなってしまえば後は時間の問題だ。
「ここまでやれば後は大丈夫だと思うけど、決着がつくまでは油断したらダメだよね。
一応、向こうも海には慣れてる海賊だろうし……うん」
船体が傾きを感じ始めるЯ・E・Dが上を見上げる――
やがてはこの船は直進すら困難になるだろう。グルグルと同じ場所を回転し始めてしまえばもう後は終わりを待つしかない……ましてやこんな重たい船などいつバランスを崩すか。
「……まぁ装甲板の都合でトップヘビーだろうから、横転しなければいいけど……
一気に傾いて一気に沈んでいくっていう可能性が無きにしも非ずというか……」
「まぁ 横転したら そのときは そのときなのです。
ただ 海賊なら 略奪したおたからが あるかもしれませんから……
それをなんとか 回収して もちぬしにかえして さしあげたい ですけれど」
と。イナリの言が零されれば更にノリアも合流するものだ――先の爆発にも耐えきり無事な様である。なんだこの半透明人魚。
ともあれノリアの工作も続き、最早海賊船はどこで誘爆が起こるかも分からぬ状況である。
事此処まで至れば後は放っておいても沈むかもしれず……更には。
「おっ! 王国の軍船も一気に近付いてきてるね――そろそろ年貢の納め時かな!?」
飛翔しつつ奮戦するメイの視線の先。
そこには近づいてくる海洋側の軍船の姿もあったのだ。イレギュラーズが散々に起こした騒ぎで、その進軍を止める砲撃を行う力は海賊船にはない。彼らも乗り込んで来ればいよいよ終わりだろう。
「はぁ、はぁ、畜生! どうしてだ! 鋼鉄艦を再現したってのに、どうして!」
「何か勘違いしてやがるな。もしも完璧に再現してたとしても同じだろうさ。
船だけが立派でも、その扱いを間違えてるんじゃ――場合によっちゃ素人にも劣るだろうさ」
さすれば船長が息を切らして焦るもの。
故に義弘は言う――邪魔立てする船員を一人殴り飛ばしながら、豁然と。
「終わりだな。どうする? 今すぐ降伏するってんなら……」
「えぇい誰がするか! 野郎ども、海賊の意地を見せてやれ――!」
「気概だけは立派だねぇ。だけどな……」
さすればもう破れかぶれに近い突撃指示を船長が出せ、ば。
義弘は拳に再度力を込め。縁もまた見据えた船長を――狙いすまし。
「さくっと終わらせて冷えたサマービールで乾杯といきたいんだよ。
ここらで仕舞だ。悪いねぇ、大人しく捕まってくれや――」
撃を紡ぐものだ。
断末魔と共に壁に弾き飛ばされる船長――衝撃と共に気絶すれば後は烏合の衆。
王国の部隊が乗り込んできて次々と海賊を捕縛していく。
……が。内部での爆破は止まず、未だ船は沈み続けており。
「わ。これは本格的に沈むのだわ! 脱出よ脱出!」
「みなさま 避難してください ですの! まだのこってる 砲弾も ころげて……あっ!」
故にイナリは未だ抵抗する船員を攻撃しつつ――も。これ以上は流石に限界だと脱出を決めるものだ。然らばノリアも声を張り皆に言を……と、その時。
まだ誘爆してなかった砲弾が大量に転げるのが見えて――
最後の大爆発が発生。
沈んでいく。鋼鉄艦を模した船が。
虚栄なる鋼鉄艦が。
「あ、ぁあ~俺達の船が~!」
「船の心配より、自分の首を心配したら?
海賊は全員縛り首ってね。ワルい事して失敗したんだからトーゼンよ」
「ま。裁判だのなんだのが入るかもしれねぇが、機会があれば手前らの技術を売り込んでみるんだな――上手く行けば命ぐらいは拾えるかもしれねぇぞ? 保証はしねぇけどよ」
直後には炎上と共に沈む船を見据えて嘆く、囚われた海賊……に夕子は言いのける。
ワルい事するなら失敗しちゃダメなのよ。えっ、あーし? あーしは失敗しないからいいの。同時、海賊共を縛り上げたエイヴァンも後頭部を掻きながら言を一つ。
偽物とは言えこれだけの船を作る技術力があるのだ。それを海の藻屑に……とは些か惜しいとは思っていた。更生するかはコイツら次第ではあるが略奪を続けていずれ命を落とすよりは100倍マシだろうと。
「ま、これで俺たちの仕事は終わりだな――後は港に帰って一杯やらせてもらうとするか」
なにはともあれ義弘の言う様にこれで片は付いた。
処遇は王国に任せるとして……あとは港でゆっくりしようと。
吐息一つ零しながら――紡ぐものであった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
慢心した海賊ともなんと脆い事か……本当の鋼鉄艦には、そして皆さんの力には遠く及ばなかったのでしょう。
ありがとうございました!
GMコメント
●依頼達成条件
海賊船『テール・ギュント』の撃沈。
●フィールド
海洋王国の遥か東部セフォラ海域なる場所です。
周囲は幾つか小さな島が点在していますが、その中を後述する海賊船はゆっくりと突き進んでいます。放置しておくとやがて近隣の村に略奪に行ってしまう事でしょう……その前に撃沈してください。
時刻は昼。穏やかな天候で、今の所雨が降る様子はありません。
●敵戦力
●海賊船『テール・ギュント』
鉄帝国が誇る鋼鉄艦……を、模した模造艦です。
木造の船に鋼鉄の板を張り巡らせ頑強なる防御力を再現しています。よ~く見るとかなり手作り感が凄いのですが、しかし大砲による砲撃には耐えられる実用性はある様です。更には大型であり、幾つもの砲門を携えている為か攻撃力も高め。
しかし鉄鋼の板だらけの船の為、機動力は劣悪です。
旋回もきっと行いにくい事でしょう。そこに付け込む隙があるやも……
内部自体は木造の船のままです。
上手い事火薬などを爆破できると、とんでもない事になるやも……
●海賊船・戦闘員×16(内、1名が船長)
海賊船を構成するメンバーの中で戦闘を行える者達です。
戦闘能力に関してはまちまちです。
ただし一人だけ『船長』がいます。
船長だけはそこそこに高い近接戦闘能力と、周囲の戦闘員の能力値を向上させる指揮能力を宿している模様です。反面、船長を倒すことが出来れば海賊側は総崩れになる事も想定されています。
●味方戦力
●海洋王国軍船×1
海賊船討伐の為に派遣されていた艦です。本来は二隻在ったのですが、一隻は甚大な被害を負った為に修復中です。
陽動の為、海賊船に砲撃戦をまず彼らが仕掛けます。その後、状況の推移次第ですが彼らも海賊船に接近し乗り込んでくる計画もあります。乗り込めると、戦場に多数の味方援軍が現れますので戦況は大きく有利になる事でしょう。
●備考
・本シナリオは海賊船に接近する必要があります。その為、海上を移動するなんらかの手段が必要ですが『小型船』に属するアイテムが無くても、海洋王国側から支援として小型船を提供してもらえますので、必ずしもアクセサリー枠などでの持ち込みが必要と言う訳ではありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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