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シナリオ詳細

<無意式怪談・外伝>希望ヶ浜駅4.75番線ホームより電車が参ります

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ひみつの貨物列車
 鉄道員の制服を着た男が砂利道を歩いている。
 四つほどの鉄道線路が引かれた砂利道をだ。
 きっちりと手入れのされた制服の胸には『去夢鉄道』のロゴが刺繍され、彼の所属を示しているのがわかる。
 だがそうした情報以上に目立つのは、彼が能面をつけているという事実である。
 『三光尉』という種類の、顎髭を生やした男の面。
 そのうえに鉄道員の帽子を被り、さも当然のように列車のひとつへと歩み寄った。
 先頭車両に続き三つのコンテナが繋がれており、これが客車ではなく荷物の運搬を目的としたものだとわかるだろう。
 『三光尉』はそのうちの一つに手をかけ、側面にある液晶操作パネルに手のひらを当てる。
 スキャンを示すラインが走ったかと思うと、画面にunlockの文字が浮かんだ。
 レバーを操作して扉を開く。
 そこには……。
 顔のない自衛隊服の人型実体が数体、ガラスケースのような物体に梱包されて並んでいた。

「以上が調査員がファミリアー越しに取得した情報だ。どう思う」
 一連の情報を記述した報告書を片手に、無名偲・無意式(p3n000170)が顔を上げた。
 希望ヶ浜学園校長室。働かない校長として知られる彼がスマホに直接通知を入れてまで呼び出したのは、この学園の特待生として招かれているシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)。そして特待教員として勤務している金枝 繁茂(p3p008917)の二人だった。
 彼らは低い大理石のテーブル越しに、二~三人がけのソファに腰掛けて難しい顔をしている。
 先に声を上げたのは繁茂のほうだった。
「去夢鉄道の内部で、人身売買を行う非道な派閥が存在することは過去の報告書で見たことがあります。これはその一環ということでしょうか」
「『顔のない自衛隊服の人型実体』というのが気になるね。保管の方法からしても、人身売買よりずっとリスクやコストの高いことをしているように見えるよ。それに……」
 言葉を付け加えようとして、シキはすんと押し黙った。
 不思議そうに顔を見る繁茂。
「何か気になることでも?」
「うん、ええと……」
 歯切れの悪い様子で、シキは言葉を選びながら話し始めた。
「何でも既知の情報につなぎ合わせるのは良くないんだけれど……似たような存在を、最近見たことがあってね」
「「ほう……」」
 繁茂と無名偲校長が同時に同じ声を出して身を前傾させた。
 突然二人の男性に詰め寄られるような状態になったことでシキは若干身を退いたが、それだけだ。
「希望ヶ浜地区で、校長の依頼を受けて活動をしたときのことだよ。
 倒した夜妖から『命』を感じたんだ。普通の夜妖とは、感覚がかなり違った。そういうケースは他にもあるのかい?」
「幽霊や妖怪のたぐいとして現れることはありますが、明確に命を感じるとされたケースはあまり聞きませんね」
 繁茂が自分の顎を指でなでながら言うと、ちらりと無名偲校長を見た。
「俺が何か知ってると思うのか?」
「逆に、知らないんですか?」
「俺の持っている知識など、お前達の半分以下だ。俺ほど無知な存在はいないぞ。ミネラルウォーターの主成分も知らんほどだ」
「それは明確に水でしょう」
 そう浅い付き合いではない。無名偲校長が明らかな嘘をつくときは、話せない理由があるときだ。あるいは、話さないことでこちらを支援しているときだ。
 だから、追求はしないことにした。
「ひとまず、分かりました。『命ある夜妖』を確保し外部へ輸送しようとしている去夢鉄道スタッフがいる、ということですね」
「阻止すればすこしはわかるのかな?」
 期待を込めた意図でシキは校長の顔を見るが、校長は真顔で天井を見つめるばかりだった。
「さあな。むしろ、分からない事の方が増えるかもしれん。だが少なくとも、妖しい動きをする鉄道員を止めることくらいはできるはずだ」
 無名偲校長は懐から封筒を取り出すと、なかから依頼書を抜いてテーブルに広げた。
「ローレットへ正式に依頼する。輸送準備中のこの列車を襲撃し、事情を調べてこい。
 わからなくても、それはそれだ。つっつくだけでも価値はあるだろう」

GMコメント

●オーダー
 希望ヶ浜地区にて交通を司る機関、去夢鉄道。
 鉄道網はもとよりタクシーやバスなども管理されており、希望ヶ浜内外の出入りにも深く関与している。
 そんな組織の中に、どうやら不穏な派閥があるらしい。
 今回はその調査のため、輸送列車を襲撃します。

・襲撃手順
 輸送用の電車は希望ヶ浜駅の地下にある隠しホームへと停車します。
 そこで荷物のチェックや物資の補充が行われるとの情報があり、こちらもそれに乗じて停車中の列車とその人員に対して襲撃を行います。
 地下ホームへの進入手段は確保されています。

・エネミー
 去夢鉄道スタッフが敵になると思われます。
 彼らの中には夜妖憑きが確認されており、戦闘となれば投入されることでしょう。
 OP冒頭の情報にあった『三光尉』もこの戦いに登場するものと思われます。

  • <無意式怪談・外伝>希望ヶ浜駅4.75番線ホームより電車が参ります完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
すみれ(p3p009752)
薄紫の花香
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜

リプレイ

●狭い世界の
「鉄道……か」
 ホルダーベルトに剣を通し、夏場にはやや熱いロングコートを脱いでくるくると畳んだ『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は、ノースリーブタイプのワイシャツの襟を正した。
 随分涼しげな格好にはなったが、黒い編み上げブーツが未だに厳つい印象を残している。
 そんな彼女のそばをフェンス越しに電車が通り抜けていく。強い風が髪をなびかせた。
「交通機関というなら、ワイバーンやドレイクだろう。生き物でもなんでもない鉄の箱が交通機関だというのだからな……速度はどのくらいだ? ワイバーンの衝突事故はそれはもう酷いものなんだが、これにぶつかる状態は想像したくないな」
 列車を初めて見たシャールカーニの一方で、列車には慣れている『薄紫色の栞』すみれ(p3p009752)たちは別のところに着目していた。
「顔なき人型に老人の面の敵。
 悪夢のような光景ですね、夢か現かわからなくなりそうです
 見ているもの全てが幻で、敵は能面が本体だったりして」
 夜の線路沿いを歩きながら、目的の駅を目指している。すみれのその言葉に『夜妖<ヨル>を狩る者』金枝 繁茂(p3p008917)がむっつりとした顔を向け、無言を返した。
「……え?」
「……」
「……もしかして、マジ(本気)なんですか?」
「過去に似た実例がありましてね」
 『三光尉』という能面を被った駅員が今回の敵。類似のケースとして、過去に『猿飛出』という能面を被った去夢鉄道駅員がいたが、彼の面を剥がすと能面だけがひとりでに浮きあがりどこかへ消えたのだという。
「聞いてませんけれど!?」
「言われていませんからね」
 まるで校長のようなことを言う繁茂。
「ちなみに、装着していた人は顔面が剥がされて死んでいたそうです」
「聞いてませんけれど!?」
「まったく校長もちょっとくらいは言葉をくれてもいいのにね!」
 そーだそーだ、と形だけでも乗っておく『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)。
「でもま、今回の依頼は私の我儘でもあるから……」
 などと言ってから、『顔のない人型実体』と『顔に張り付く能面の怪物』という二つがあまりにも都合良く結びついていることにいきなり気がついた。
「あれ? 今回の件、もしかして、すごく重要だったりするのかな……?」
 こんな突然の、横道のようなタイミングで?
 シキは若干の混乱を抱きつつも、首を振って気を取り直した。
「ふむ……」
 話を聞きながらスマホを弄っていた『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)が顔をあげる。スマホの画面には以前シキが経験したという卯没瀬自衛隊駐屯地についての報告が書かれている。当時彼らがaPhonを使って情報共有をするといってかわしたテキストファイルデータだろう。
「何があるのか私も気になるところだ。藪をつついてみようじゃないか」
「確実に蛇がでる藪だけれどね」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)がどこか皮肉っぽく笑う。
 ゼフィラは繁茂が先ほど述べた猿飛出の事件に直接関わり、調査をしていた人物だ。
「個人的に興味もあるのだけれど……この街に新たな火種を持ち込みかねない輩は、全力で叩かせてもらおうか。
 善悪の話が出来るほど潔白な身の上ではないけれど、この街を作り上げた先人には敬意を払っているものでね」
「ところで自衛隊というのは、なんだったか」
 『無名偲・無意式の生徒』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が聞き慣れない単語を調べるべくスマホを弄っていた。
「国の安全を保つために設置された部隊および機関……? 軍隊ではないのか? 深緑の森林警備隊のような?」
 ニュアンスは近い気がする。が、重要なのは『ここは日本ではない』ということだ。
「出自の妖しい人型実体。そいつを保管して持ち出す輩。あー、嫌な予感しかしねえ」
 頭をかりかりとやるマニエラ。
 『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)がハハハとわざとらしい笑い声をあげる。
「まあここはヒーローらしく行こうではありませんか。
 闇ある所に光あり。悪がはびこる場所にはヒーローが現れるものです」
「これがその、ヒーローらしい仕事なのか?」
 駅まで到着したマニエラたちは、誰かの忘れ物のごとく放置されていた旅行鞄をスッと手に取り、開く。
 中には去夢鉄道の制服と偽造された社員証が入っていた。服も返さねば脚がつくし、社員証も一日も経てばインクが滲んで使えなくなるような安い仕事だが、今日この瞬間を凌ぐには充分な装備である。
「まあ……ここの交通機関にはコネがありまして。知っていますか? 鮫島建設というんですが」
「ンンッ」
 咳払いするマニエラ。冥夜は軽やかに制服のジャケットを羽織ると、帽子を被って眼鏡をキラリとやった。
 驚くほど似合う。これを着るために生まれたのかと思うほどであった。
「さ、参りましょうか?」

●能面の裏側
 希望ヶ浜駅4.75番線ホーム。
 それは柱に偽装したエレベーターを下った先に、まるで魔法のように存在していた。
 開く扉の先、片面型の地下鉄ホームにも似た施設が広がっている。地上の希望ヶ浜駅とは違って飾り気がまったくなく、蛍光灯が等間隔に並ぶ以外にものはない。当然ベンチすらだ。
 線路側には既に列車が停車していたようで、扉を閉じて灯りを消しているものの、今すぐにでも動き出すことは可能そうに見えた。
 そんな中を、シャールカーニは息を潜め進む。運転室のついている先頭車両には能面をつけた駅員がひとり。よくしらない能面だったが、『三光尉』ではなさそうだ。
 駅員は黙って作業をし、運転室から出て鍵を閉めるようだ。
 シャールカーニが遠くへ手鏡を動かして合図を出す。

「お疲れ様です。交代しましょう」
「ところで荷は?」
 冥夜とゼフィラが、先頭車両前で指さし点検をしている駅員の後ろに立ち声をかける。
 彼は振り返り、『ん?』と声を出した。
 冥夜はすみれへ視線を送ってみるが、首を横に振るだけだ。駅員にどうやら敵意はないらしい。
 が、こちらが見慣れない人間だということに訝しんでいる様子だ。
「お前達……」
「扉、開けてくれるよね?」
 物陰から現れたシキが、剣を喉へと突きつける。

 駅員が脅される形で運転席の扉を開く。
 それを確認してから、繁茂が安堵のため息をついて姿をみせた。いざとなれば自分が物質透過を使って侵入するつもりだったが。その場合中で敵と鉢合わせたらだいぶ不利なことになっただろう。
「私も初めて知りましたが、隠しホーム自体は普段から普通に使われているのですね」
「そうだろうね。あんな外見をしているけど、ここは人に向けて秘密を隠した街だから」
 シキはそう言うと、運転席内におかしなものがないかを確認し始めた。
 同じく確認を終えたラダがオーケーサインを出し、今度はマニエラへ視線を向ける。
「後続車両の扉をあけたい。できれば連結も切り離したいが……できるか?」
「流石に情報の少ない機械だからな……ここか?」
 マニエラの場合適当に弄っても案外うまくいくらしく、後続車両の照明がパパッと先頭から順に灯っていく。
「車両の切り離しは直接やらないとだめくさいなとりあえずブレーキかけて鍵をそのへんに放り捨てとけ。それで充分時間稼ぎにはなる」
 先頭の馬だけ切り離してどこかへやってしまうということができないのか……不便なのか安全なのか
 シャールカーニはなんとも複雑な視点からものを言った。
「それはそうと。さっきの運転手は敵ではないのか? こちらの偽装にも怪しむ様子がなかったが」
「去夢鉄道も一枚岩ではないということだろう。刹那的な悪人だらけなら、そもそも希望ヶ浜というデリケートな街を維持できない」
 ゼフィラはおそらく異世界にあるであろう、物凄く独特の言い回しの慣用句を口にした。
 あっと小さく呟き、指を立てる。
「『それが正常に作動しているなら、正常に操作している人間がいるはずだ』という意味の言葉だ。混沌ではなんていうんだったか? 『まっすぐな轍を追えばまっすぐな商人に会える』?」
「『賢い亜竜の巣には食べかすはない』では?」
「『経験人数は破局人数』」
「待って下さい話が逸れて――」
 繁茂が手をかざし話を戻そう……として、人差し指を口の前に立てた。
 エレベーターが到着し、扉が開いた音がしたのだ。
 全員が沈黙し、そちらを見る。
 エレベーターからぞろぞろと降りてきたのは、駅員の制服を着た数人の男女だった。
 着目すべきは、その全員が能面をつけているということ。先頭のひとりは『三光尉』という老人めいた面をつけている。
 その顔が、スゥ――とこちらへと向いた。
「ホッホウ」
 男性の声。だが、やや甲高い。アニメ声優がテンプレート通りに老人の声を演じたような、そんな声と話し方だ。
「予定にない人間が混ざっておる。どこの差し金かな? 佐伯? 音呂木? 静羅川……いいや、この顔ぶれ、学園の手のものか」
 すみれがいち早く構えた。ひいていたキャリーケースが開き、喪服の女めいた人形が立ち上がる。
 向けられた敵意を察知したのだろう。それは、もはやこの段階になれば皆も感じられたことである。
 ホームへ飛び出し、ラダは早速ライフルを発砲。一人を見事にうちとると、柱の裏へと身を隠す。
 他の能面をつけていた駅員たちは懐から拳銃を取り出し、それぞれに撃ちまくる。
「彼らの能面は……どうやら『猩々』というもののようですね。以前の情報にあった、異常のない面だ」
「今回もないとは言い切れないが、『猿飛出』のようなものが大量にあるとは思いたくないな」
 一方こちらは運転室に残ったゼフィラと繁茂。
 こちらにも銃撃は浴びせられ強化窓ガラスが次々にヒビいるが、二人は身をかがめそれをやり過ごしている。
「言っている場合ではありませんよ」
 冥夜はスマホを取り出しjuinアプリを立ち上げた。ポップで幾何学的なロゴマークとは裏腹に、画面に表示された禍々しい陰陽陣をスワイプ操作で起動。
「――『黒夜迅雷』」
 スマホをスッと運転室の外側出入り口から出すと、憎悪をかき立てる陰陽術を能面の連中うへと放った。
 何人かには命中したらしく、拳銃を下ろして駆け寄ってくる。
 対抗するのはすみれだ。
 車両内側の運転室出入り口を通して客車へうつっていた彼女は人形を操作。血色の爪を装備した人形が、駆け寄る能面の男女をなぎ払う。
「シャールカーニさん」
「得意な距離だ。任せろ」
 シャールカーニもまた車両から飛び出し、剣の刀身に真っ赤な炎を宿して能面の男を斬り付けた。
 脚を斬る、というよりはらわれた男は派手に転倒し顔面をコンクリートの地面にぶつける。バキンと音を立てて面が割れ、破片が刺さったのだろうか男は顔を押さえて転げ回っている。
「いったい何をしているのかは知らんが、必要もないのに面で顔を隠すような奴はロクな事をしていないと相場が決まっている」
 そこで転げ回っていろ、とブーツで蹴飛ばして端によせると、別の能面女性との格闘にはいった。
 ポケットから取り出した小ぶりなナイフを使って襲いかかる女を、シャールカーニは両手剣と蹴りによるコンビネーションで見事にさばききった。
 そうしている間に、残る能面駅員が運転室へ到着。拳銃を中へ突っ込むようにする……が、そこには誰もいなかった。客室へ移っている様子もない。困惑したように周囲を見回し――たその瞬間、ゼフィラは偽装のために展開していたホログラム映像を消去。もう一方の手から魔法の光を膨れさせる。
「キミたち、さては戦い慣れてないね」

 一方でシキとマニエラは『三光尉』へと接近。蹴りと斬撃を同時に繰り出すも、『三光尉』は人間離れした動きでそれを回避した。
 跳躍し、反転し、天井に足を付けてこちらを見下ろすというなかなかな回避法だ。
 ハッとして見上げたマニエラめがけ、つき下ろす形でのパンチを繰り出してくる『三光尉』。
 直撃――したように見せて、相手の腕をつかみ取る。
 マニエラは仰向けに寝そべった姿勢から相手の腹に今度こそ蹴りを入れると、シキの名を鋭く叫んだ。
 その時には既に、シキの剣は『三光尉』へと命中、不思議な力で肉体は保護されていたようだが、バットで殴ったように思い切り吹き飛んでいった。
「ホッホホ――準備不足、といった所かのう」
 『三光尉』は手をかざし、カーテンでもしめるようなパントマイムをすると本当に彼の身体が消え――そして気配すら消えてしまった。

●人形か、あるいは
 気絶した駅員たちを拘束しホームへ転がすと、すみれたちは早速貨物車両を調べ始めた。
 開くのは簡単で、気絶させた駅員の手を片っ端から液晶パネルにぴたりとくっつけるだけだ。大体五人目くらいでロックは解除され、扉を開いてみると……。
「ほう」
 繁茂は低く唸る。
 並んでいるのは半透明なケース。棺のような形だが……。
「ガラスの棺だとしたら随分メルヘンなのですね」
 すみれはそう言いながら顔を近づけた。自衛隊員の服装をした人型の何かが一人ずつ箱に入れられている。デパートに飾られたマネキンのように顔はなく、鼻筋だけが通っていた。
 しかし……。
「人形ではないようです。おそらくですが」
「やっぱり、生き物だってこと?」
 シキはうーんと唸ってから、何か思いついた様子でケースに身をかがめた。
「初めまして! 私はシキ。どうぞよろしくね、なんて……」
 棺をノックして話しかけてはみるが、反応はない。
 シキはここで、するべき質問を周りにしてみた。
「……開けてみるかい?」
 いかにも何か変化がありそうな内容だが、ラダはむっつりと黙ったまま下を向いている。
 自分は決めないということなのだろう。
 ならばとマニエラを見るが、マニエラも決めあぐねているようだ。
「であれば……一つだけケースごと回収し学園へ持ち帰る、というのはいかがでしょう」
 冥夜の提案にシャールカーニが同意の声を出した。
「何かあっても学園……とやらの中ならば対応できるだろう。戦闘員も揃っているんだろう?」
「偽装してはいますがね」
 決まりだ、と繁茂たちは棺にてをかけ、持ち上げる。
 人間一人が入った大きな箱というわりには案外軽い。
 このまま放っておいたら先ほどの『三光尉』が戻ってきてこの人型実体たちを運び出すのではと思えたが、ここに誰かを見張りとして残しておけば問題無いだろう。
 ラダはエレベーターにケースを運び込むところまでを確認してから、車両とホームへ振り返る。
「…………」
 この街は、いつも何かを隠している。
 その裏で悪しき利益を得るものもいれば、人知れず悪を葬る者もいる。
「私達は選択することができます」
 何を考えているのか察したのだろうか。冥夜が声をかけてきた。
「選択?」
「ええ。しかし、闇雲に選ぶことはできません。多くの……そう、本当に多くの人々の人生が、この街にはあるのですから」
 多くの人生が街ごと壊れた瞬間を、冥夜は見たことがあった。自分の選択ひとつであれが再び起こるなど、できれば考えたくはない。
「だから、知らねばなりません。選択をするのは、その後でも良いでしょう」
「……そう、だな」
 彼らはエレベーターに乗り込み、ボタンを押した。
 扉がゆっくりと閉まっていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 『顔のない人型実体』の確保に成功しました。
 ケースごと学園内に運び込まれており、<無意式怪談>シナリオ内にてこれを開く、あるいは調査することができます。

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