PandoraPartyProject

シナリオ詳細

正しいならば殺してもよい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●そうして全員殺していけば、みな正しさを信じるだろう
「ようこそ。我らが信心深き聖なる都へ」
 三角形の頭巾に顔を隠した集団が、白とゴールドで彩られたきわめて清潔な部屋に並んでいる。
 円形のテーブルについているのは一人。同じように顔を隠した何者かだ。
 だがそれが『どういう人物か』は、ローレットで依頼を受けたことのあるイレギュラーズには分かっていた。より正確に言うなら、彼らから依頼を受けたことのある人間が少なからずいた。
「諸君らにはこの姿のほうがなじみ深いと思ったが……どうやらあまり歓迎されないようだな」
 テーブルについた男は覆面を脱ぎ、テーブルに置いた。
 男性である。
 特徴を端的に述べるなら……。
 スキンヘッド。
 片目に眼帯。
 頭に無数のボルト。
 顔の左半分に火傷跡。
 鼻はそぎ落とされ唇の損失から歯が一部露出していた。
「驚くことはない。この顔は神が与えた試練だ。信仰と正義が私を生かした。私はこの顔を誇りにしている」
 一切トーンの変わらない口調でそう述べると、男は改めて席につくように促した。
「さあかけてくれ。茶を運ばせてある。改めて名乗ろう。私はスナーフ。この国で教会のひとつを任されているのだ」
 まるで表情をかえず。
 まるで声を揺らさず。
「役職は――異端審問」
 と、彼は言った。

●正しさを信じなければ、殺せばよいだけのことだ
「皆も知っている通り、この世には偽りの宗教家がはびこっている。
 人々を騙し、悪に染め、狂気にかりたて、破滅を導く存在だ。魔種かそれに類する何かであることは疑いようもない」
 それまでとは変わって、反論を許さない口調だった。
 口調というよりは、空気と言うべきだろうか。周囲の、覆面を被ったままの者たちが、『貴様は異教徒ではあるまいな?』という視線を、目を血走らせながら送ってくるのだ。
「この国より逃げだし、幻想国へ隠れた者たちのあぶり出しと罰の執行は粗方済んでいる。それもひとえに諸君らローレットの協力によるものだ。改めて礼を言う。
 その上で――邪教狩りの仕事をしてもらいたい」

 スナーフが取り出したのは『ヤドリギ委員会』という組織のパンフレットだった。
 あぶり出しで記されたパンフレットで、普通の手段で配られたものでないことは一目瞭然。
「彼らは、天義の教義を愚かなものであると唱え主張活動をする増やす悪しき集団だ」
 その時点で一部のイレギュラーズたちは『なにか』を思ったが。
 次の言葉で気持ちを変えることになった。
「天義の教会で働く者たちをとらえ、吊るし、火で炙った後に教会の門扉に捨てるという活動を繰り返している。女子供見境無くだ」
 スナーフの濁った目に、炎が宿ったように見えた。
「死には理由があるべきだ。
 我々も多くの者を死に至らしめてきたが、根本的に意味が異なる。
 彼らはただ己の過ちを顧みず、ありもしない敵を眼前の民衆に割り当てては破壊し、恐怖から逃避しているだけだ。決して許せるものではない」
 スッと差し出されたのはコインの袋だ。
「奴らに徹底の死を求める」

GMコメント

【オーダー】
 成功条件:『ヤドリギ委員会』構成員全員の死

 このシナリオは隠れ宗教の壊滅と抹殺を目的としたものです。
 基本的に真正面からの対人戦(建物内に籠もった敵への襲撃)になると思われます。

【ヤドリギ委員会】
 ごく限られたメンバーが信用できるルートだけを使って秘密裏に活動している組織です。
 『天義のやり方は間違ってる』の所まではダヨネーと思うところですが、『だからこの国の人全員火あぶり』という明らかに間違ったゲリラ行動を繰り返しています。
 弱者を選び、見せつけるように殺す手口から、彼らの目的が『他者を攻撃して自身の正当性をでっち上げること』であることが分かります。

 構成員はある程度まで調べがついていますが、開示される情報はこちらが全てです。
・名前は『ヤドリギ委員会』
・とある住所の建物に集まり定期的に集会を開く
・構成員の人数は12~15人
・全員武装しており単独での接触は厳禁
・仲間に入って内部事情を探ろうとしたスタッフがその日のうちにバレて火あぶりにされた(偽装工作はやめたほうがいい)
・建物は半地下一階の無機質な建物。
 →常に見張りがおり襲撃は気づかれる筈なので、攻撃は勢いが大事
・予測される武装は魔術書。神秘攻撃型が多いと思われる。
 →襲撃の際は役割分担をきちんとして、連携を心がけていけばスムーズに進む筈。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 正しいならば殺してもよい完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月16日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セルウス(p3p000419)
灰火の徒
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
メリンダ・ビーチャム(p3p001496)
瞑目する修道女
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
イーリス・リュッセン(p3p006230)
掃除屋

リプレイ

●ここに罰はない。罪だけがある。
 きわめて清潔に整えられた石畳の道。全く同じ構造の家々がたちならぶそのなかに、かの建物はあった。
 それを遠目に見て、イレギュラーズたちは進む。
 隠れる場所などない。気づかれずに近づくことが無意味であるならば、むしろ自らを誇示することに意味が出る。
「此度の物語は異端審問。邪教殲滅。我等『闇黒神話大系』が参加するとは如何なる滑稽。故に愉悦と筆を齎さねば。真に不正義なのは誰だ。貴様等以外に在り得ない! Nyahaha!!」
 『Eraboonehotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が闇夜の霧がごとくゆらめき、見張りの兵士たちに姿を見せつけている。
 彼らが襲い来る敵なのかそうでないのか、未だはっきりせぬ以上、兵士たちは魔導書や杖を握って構えることしかできない。
「実に愚かな事だね。正しさの証明の為に罰する事を選ぶとは、それでは君達が異を唱える連中と同じだろう? 罰とはね、ただ粛々と過ちの修正でなければならぬ、それを見た者達が畏れる事で秩序は成るのだ」
 そこで止まれと叫ぶ兵士の声を無視し、『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は歩みを進める。戦闘用義手の指を順に握っていく。
 緊張は空気を吹き込まれた風船のように膨らみ、見えない圧力となって互いの間に詰まってゆく。
 『瞑目する修道女』メリンダ・ビーチャム(p3p001496)が目を閉じて、武器の柄を握る。
「狂信者同士の殺し合いだなんて……人間ってどこまでも楽しい生き物ね」
 『掃除屋』イーリス・リュッセン(p3p006230)は腰のホルスターベルトをなぞり、ライフルの位置と予備のマガジンを確認した。
「この世界に来て間もないけど、元々私がいた世界より碌でもない世界に見える。私も碌でなしではあるから、ある意味お似合いでしょうか……。いや、余計な事は考えるべきではない……。これも仕事」
 首を振るイーリスに『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)が頷きとともに応えた。
「そう……ただ言われた仕事を終わらせる。それだけです」
 引き受けた以上は遂行する。そんな思考の止め方も、時には必要なのかもしれない。

 緊張の風船は爆発寸前だ。
 『夜星の牢番』セルウス(p3p000419)は『コルヴァズの灯』というカンテラを翳して戦闘姿勢をとっていた。
「正面からぶちかまして制圧。天義らしいやり方だね」
 己に正義があると疑わないやり口だと思わない? 僕らにそんなものがあるかは、さておいてね。
 ……という、セルウスのいわんとすることを暗に受けて、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はどこか非憎げに笑った。
「ゼシュテルでは天義は戦闘でのメンタルの大切さをショウメイしてる国、なんて言って笑っていたんだけれどね。ジッサイ出会うと全く笑えないんだって、ソトに出てハジメテ知ったよ」
 兵士が攻撃の姿勢をとった。
 こちらも既に攻撃圏内だ。
 『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)は眼鏡のブリッジを弾くようにして位置を直すと、腕時計のスイッチを入れた。
「殺人はれっきとした悪徳だ。正義の名の下に行おうと、ギルドの依頼として行おうと、それは変わらない」
 赤いラウンドシールド型力場障壁が展開される。
「今から俺は殺人者になる。人を殺していいのはその覚悟を固めたやつだけだから」
 ついに飛来する魔術弾。
 初撃を受け流し、彼らは走り出す。
 撃鉄にうたれた銃弾のように、もはや止まることはない。

●罪を犯したことのない者だけが投げた石
 時間がスローモーションに見えた。
 イグナートの踏んだ一歩目が石畳を焼くように地を打ち、二歩目が彼から地上を捨てさせ、鳥の如く舞う彼の靴底が兵士の顔面をとらえた。
 爆風を伴って吹き飛んだ兵士が、背後の扉をやぶっておせじにも広くない玄関スペースへと転がり込む
 傘立てを砕いて散らす兵士が、寝転んだまま魔術弾を乱射してきた。
 途切れるスローモーション。頬を掠める魔術の火。
 セルウスがどこか陽気に火を放った。
「こーんにちはー。はい、パイロキネシス~」
 体勢の問題かそれとも偶然か、兵士の身体は激しく燃え上がった。
 起き上がろうとして失敗し、粗末な玄関マットと共に燃え尽きてゆく。
 玄関の通路を抜けてフロアへと突入していくオラボナとメリンダ。
「殲滅の時間だ。蹂躙の時間だ。物語の時間だ。肉壁の時間だ。親愛なる友の真似事だ。貴様等全員火炙り首吊り他諸々。我等『物語』に術は無いのだが。恐怖での抱擁は容易いな。皆々御覧じろ!」
 充分に戦闘の姿勢を整えた者が火花を放ち、氷の鎖を飛ばし、魔術を機関銃の如く放つ。
 対してオラボナはわざと身をさらし、背後に巨大な壁を形成した。
 否、形成されたのは壁ではなく幻覚だ。なぜなら煉瓦造りの壁のあちこちから無数の目玉がぎょろりと覗いているからだ。
 幻と分かっていても避けられないインパクトに、戦闘態勢を整えきっていない者の手が止まる。
 その隙をメリンダはまるで見逃さなかった。
「アッハハハ! 待ちに待った狂宴が始まるわぁ! 最初のお相手は……そうねぇ、あなたがいいかしら?」
 振り回したモーニングスター鉄球がはしり、壁にかかった魔術杖をとろうと伸ばした女の白い手をたたきつぶした。
 と同時に、メリンダの血のように赤く昏い双眸が露わとなり、相手を本能的に恐怖させた。
 オラボナとメリンダによるきわめて相性のよい組み合わせであり、きわめてインパクトの強い『先制』であった。
 乱雑かつ極端な言い方をあえてするならば、精神的優位をとった時点で襲撃者はその目的を果たしたようなものだ。
 一方で、彼らが十全な先制行動をとるべく必要なのが門番の処理だった。うっかりすると忘れがちで、下手をするとここで初動の時間を食われて精神的優位を奪われることすらあるが……。
「だいっきらいなんだよ! お前たちみたいに自分かわいさがにじみ出てるやつは!」
 史之の拳に赤いエネルギーシールドが被さり、抵抗しようとする兵士の顔面をカウンターぎみに殴りつけた。
 彼は残った見張りを押さえつけ、味方を先に進ませる役目を担っていた。
 裏から回る形で加わってきた敵へも対応すべく、イーリスと背中合わせのコンビプレイである。
「絶対に逃がさない」
 回り込み、建物の影から飛び出してきた仮面の者たちめがけ、ライフルでの射撃をしかける。
 下半身の安定した姿勢から、まるで銃座のように一定間隔の乱射。銃の頭を振って別の方向からくる敵に牽制射撃。
 弾の多くは建物の壁に当たってはじけるが、それが敵の侵攻を遅らせた。
 そうしているうちに、ラクリマとラルフはメインフロアへと突入。
 オラボナたちが作った巨大な隙をつくように、そして部屋を火炎放射器で焼くがごとく容赦なく魔術攻撃を放つ。
 ラクリマが藍晶石で作られた魔導書を翳して放ったのは白い呪いの歌であった。これを『氷蝕のディエス・イレ』という。
 精神を制したがゆえか、効果は想像以上に大きかった。
 痛む手を庇う女や、半狂乱になってエーテルガトリングを乱射する男がたちまち呪いの毒におかされていく。
 誰かを捕まえて逃走経路を吐かせるのもいいかと思ったラクリマだが、この状況ならむしろクリアリングを優先した方が効率的だろう。『鉈を研ぐ間に獲物を逃がす』ではよろしくない。
 ラクリマは表情を凍らせて、『蒼剣のオスティアス』という贄と祈りの歌を放った。
「馬鹿げた話だね」
 何を思ったか、ラルフは小さく呟いて義手を突きだした。魔力を集中し、開いた手首の砲身から魔力的破壊光線を発射する。
 それは剣を振り上げてすぐ近くにまで迫っていた老人を吹き飛ばし、不思議な形の彫像を破壊しながら奥の壁へとぶつけた。
 倒れた彫像の下には床下収納めいた蓋があり、開いてみれば階段があった。
 手首を戻し、合図を送るラルフ。
 オラボナたちが頷き、その後に続いた。

 『ピザ釜』。
 それが第一印象である。
 第二印象があるとすれば『魔女裁判』。
 第三があるなら『拷問部屋』である。
 熱の籠もった石造りの部屋。上階に熱が伝わっていないことから何かしらの魔術的処理がなされているのだろう。
 サウナのような暑さと、あちこちの燃えかすと、肉の焼けたような臭いと、部屋の奥に備え付けたきわめて儀式的な形状の人間固定具。その下にひろがった油のあとがいかなるものかは、詳しいものなら分かるだろう。
 何より印象的なのは、固定具の今まさに人間が固定され、あちこちに焼けたナイフが刺さっていることである。
「我らの儀式を乱すか。誰も救わぬ神を信じる狂信者どもめ!」
 そう言って、白い目をした老人が固定された人間の胸にナイフを突き立てた。
 様子から察するに、突入時点で既に息が無いことが見て取れた。先行突入したイグナートにもそれが分かったが……。
「ザンネンだけれど仲良くはなれそうにないね」
 血の付いた剣を抜き、聞き慣れぬ祈りの言葉を唱えながら飛び込んでくる仮面の人間たち。
 イグナートは魔力の籠もった剣をサイドスウェーでかわすと、素早く回し蹴りを放った。
 空中に発生した蛸足のごとき幻影が彼の足を阻む。
 更には伸びた幻影の触手が彼を狙って鞭のようにしなった。
「信仰に正しさを求める行為は難儀だねえ」
 そんな風に語りながら炎を放つセルウス。
「その行いが正しいなら女子供や老人の前に、天義の聖職者を狙わなきゃ。キミらのそれはそれただの弱い者いじめさ。ま、正しさの証明に他人の命を奪わないと成立しないのは天義もキミらも同じか!」
「一緒にするな! 正しいのは我々の方だ! これは狂信者たちの目を覚ます――」
 最後まで聞く義理などない。セルウスはさらなる炎を放っていく。
 イグナートの拳が追撃となり、仮面の者たちを押し返す。
「狂信者どもめが……!」
 血まみれのナイフを抜き、呪いの言葉を唱える白目の老人。
 大量に発生した触手の幻影――へ、オラボナの放ったおぞましい何かが食らいついた。
 声ならぬ声が石窯のような部屋に響く。
「一人も逃さないわよ。そういうオーダーなの」
 メリンダの放ったモーニングスター鉄球が老人の肩にめりこみ、薙ぐように倒した。
「この国の人をみんな火あぶりにするのが教義だったわよね? それなら私も手伝ってあげるわ」
 まだ使われていない……というより、これから使う筈だったであろう松明に火をつけて、老人へと放った。
 一方建物の外では別の戦いが起こっていた。
 入り口の兵士を制圧し終えた史之たちを逆に外側から取り囲み、亡き者にしようと仮面の者立ちが攻撃しているのだ。
 この期に及んで逃げだそうとしないのはいかなる理由かと思うところだが……。
「お前たちは間違っている。我々を殺そうとするのは権力の濫用だ! 我々を異端と見なして間違いから逃げるのか!」
 と、詭弁を用いて自己の正当化を図っていたからだ。間違っていることを分かっているが認められない人間たちの、最後の悪あがきである。
「悪いね。でも謝らないよ」
 史之はシールドを翳してタックルを仕掛け、押し倒した相手を幾度も殴りつけ、剣を突き立ててトドメをさした。
 徹底した彼の行ないを口汚くののしる者もいれば、いつまでも自分が被害者であることを主張する者もいた。
 相手へ一気に距離を詰め、銃のストック部分で殴り倒すイーリス。
「……覚悟は出来てましたよね。さようなら」
 倒れたところに連射を仕掛け、念入りにとどめを刺す。
「(個人的に火炙りで殺されるより、マシだと思いますね。火炙りで殺された人達の苦痛と恐怖を考えれば、ね……)」
 何かは間違っているのかもしれない。より正しいことがあるのかもしれない。
「けど、混同してるんだよ。あんたたちは! 相手が間違っていたら、なにをしてもいいわけじゃない!」
 剣を抜いて立ち上がろうとする史之。
 しかし相手が剣を握ったまま息絶えたがゆえ、すぐには抜けない。
 そんな彼に、魔導書を翳して魔術弾を打ち込もうとする仮面の者。
 その一瞬を、ラルフのカース・マグナムが打ち抜いた。
「人の最も重い罪は何だと思う? ……其れはな、裁く事だよ、裁く事を許された者など何処にも居ない。故に人は裁く時に神に許しを請う」
 倒れた者を見下ろし、残った者に銃を向けて呟くラルフ。
「俺たちが間違っていたっていうのか? そんな筈はない、そんな筈は……」
 理屈を超えた、狂乱の中でマジックライフルの引き金をひく仮面の者。
 飛来した魔術弾を、ラクリマは手で止めた。
 魔術を纏った手のひらが銃弾を停止させ、握り込んだことで凍り付き、そして砕け散る。
 仮面の者は銃を握ったまま引き金を幾度もひくが、弾がでることはない。かちかちと弾切れの音がするだけだ。
「あんたたちだって、人を殺した」
「思考の停止なんだ。その言い方は」
 ラクリマの短い歌が、仮面の者を貫いた。

●罪を罪で塗りつぶすよりも
 建物が火を噴いている。
 開けっ放しの地下扉から火が出て燃え広がったのだろう。
 そんな光景を眺めていたイレギュラーズのそばで、いくつかの馬車がとまった。
 馬車から駆け出すのは防火術の施された僧服に身を包んだ覆面の男たち。
 依頼を受ける際に見た、異端審問の連中である。
 彼らは馬車に積まれた消化液を太いホースで噴射しては建物の沈下をはかり、周辺の建物への引火を防いでいる。
「よくやってくれた。これは成功報酬だ」
 コインの詰まった袋を突きだしてくる覆面の男。声と目から察するに……。
「あら、神父様」
 スナーフであることが分かったのだろう。メリンダが小さく頭を下げた。
 覆面を脱ぐスナーフ。
「諸君らのおかげで外科手術的切除が最小限に済んだ。部下たちや町のモラルに任せると、周辺地区ごと焼き払いかねないところだった」
 スナーフの言い方に、史之やイーリスは仮面の者たちの振る舞いを思い出した。
「異端撲滅完了だ。我等『物語』こそが正義で在れ。我等『人間』こそが正義で在れ」
 おそれもせず、もしくは畏れをもって言うオラボナにぎょっとしたが、スナーフは唇の端だけを上げて見せた。
「我々を軽蔑するかね」
 直接的な言いかたに、ラルフやラクリマはあえて目を伏せた。
 それを返答ととったのか、スナーフは周囲に目を走らせる。
 火災を察知した住民たちが粛々と避難をすすめ、体力のある者は消火作業を手伝っている。
 まるで世界が切り離されたかのように、スナーフのまわりだけが静かだった。
「私もそうだ。我々はひどく無学で、浅慮で、そして愚かしいと思う。己の罪を認めることができず傲慢に罪をぬぐおうとする者。それを排除することを正義だと信じて傲慢にも新たな罪を働こうとする者。広義に魔種のたぐいと私は述べるが……その理由を考える者は少ない」
 肩をすくめるイグナート。
「ナンカイな言い方だね。オレの信じてるカミサマは鍛えたニクタイに宿ってるんだ」
「我々も、本当は同じだ。信仰をどこまでも鍛えれば、神の声とて聞こえるようになる。だが彼らは……内なる罪と神の声の聞き分けができぬまま狂乱したのだろう」
 セルウスが、地下から持ち出した儀式道具を突きだした。関連団体の調査に使うなりなんなり、好きにせよという意味だろう。
 受け取って、覆面を被り直すスナーフ。
「これでも皆生きている。国として結束している。この結束を、私は壊すわけにはいかぬのだ」
 だからこのことは内密にしておいてくれ。裂けた唇に指を立て、スナーフは歪んだ笑みを浮かべた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――hallelujah!

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