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シナリオ詳細

天高きジュヴェーロ、罪深きテクシート

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●教科書に載ってない
 白い翼に包まれ、ゆっくりと移動する球体があった。
 目も鼻もないにも関わらずぴくりと止まり、何かを探すように回転を始める。
 実際、探していたのだろう。
 派手に半壊したフルシチョフカ的集合住宅の影に、体育座りの格好で身を縮めた少年の姿があった。
 無意識にでも声を漏らしてしまわぬよう、両手でしっかりと口と鼻を覆い、しかしそれでも不安なのか目を見開き小刻みに震えている。
 球体は暫く行っていた回転をやめ、元々公園だったであろう荒れ地の上を通り過ぎていく。
 少年はやっとその影が過ぎ去ったのを見て、手を口元からはなしほんの僅かに息をつ――

 ――二つの球体が、影に潜む少年を覗き込むように現れていた。
 悲鳴はあがらない。それよりも早く、白い触手がのびたから。


 いつしか発生したアドラステイア下層フォルトゥーナ実験地区へローレットが行った大規模襲撃作戦によって、当地区は完膚なきまでに破壊されていた。
 厳密には、襲撃後に駐屯基地を据えつけかねないローレットを警戒したアドラステイア側が激しい爆撃を行うことで地区をまるごと破棄。残った黒焦げの荒れ地には人間を無差別に攻撃する聖獣を放ち巡回させるという対応をとったのである。
「ん……」
 レコードプレイヤーが古いジャズミュージックを奏でるカフェの、窓側の席。
 情報屋ラヴィネイル・アルビーアルビーは取り出したノートを開き、集まったローレット・イレギュラーズたちを見た。
「当然ですが、中層への扉『ディダスカリアの門』は中層側から封鎖され使用不能になっています。そのかわり、アドラステイアはこの旧フォルトゥーナ地区への監視を緩めることができなくなりました」
 『監視カメラは置くこと自体が隙になる』という泥棒の言葉があるが、現在旧フォルトゥーナ地区は絶好の陽動ポイントとなったのである。
 このエリアに突入し聖獣狩りを行うことは、監視用の聖獣をそのたびに新規かつ人為的に送り込む必要を中層側へ与えるのみならず、その戦力が門を破壊しないとも限らないというプレッシャーを与えることが出来る。
「中層への潜入計画は少しずつですが進んでいます。ある程度情報が集まれば、もっと明確な行動が起こせるでしょう。そのためにも、継続した陽動は必要になるのです」

 独立都市アドラステイア。
 それは天義の教義を否定し神ファルマコンへの信仰をもった人々の都市であり、高い壁に覆われた宗教都市である。
 下層はバラック小屋だらけのスラム街となり、天義から連れてこられた大量の孤児たちが頻繁に魔女裁判を行っては互いを消しあっている。
 更には『オンネリネンの子供達』なる傭兵を海外へ派遣し、粗末な装備だけをもたされた子供達を外貨へと変えていた。
 そのほかにも数え切れないほどの悪行に満ちた都市だが、未だに壁はありつづけ、鐘は鳴り、祈りは続けられている。
 下層で声高に不正を叫んだとて、街中で政府陰謀論を叫ぶ者と大差ない視線を向けられるだけだろう。あるいは、よってたかって純粋な子供達に刺されるかだ。
 故に、より深部への侵入を果たし、この支配体制そのものを破壊しなければならないのだ。

「今回は、旧フォルトゥーナ地区での聖獣狩りです。
 『ジュヴェーロ』という聖獣で、宙に浮かぶ翼に覆われた球体のようなシルエットをしています。
 人間を見つけると触手を伸ばすなどの方法で捕獲している様子が観察されていますが、詳しい戦闘方法はまだ不明なままです」
 ラヴィネイルが絵に描いてみせたのは、確かに翼に覆われた球体だった。
 顔は勿論のこと手足すら見当たらない。色は白く、白鳥のような羽で覆われているらしくその様子だけをみるなら確かに聖なる獣と呼ぶに相応しいのかもしれない。
 まあ、そういうものは大抵人間を殺すためだけに地上へ落とされるものなのだが。
「数は多くいるようですが、巡回している『ジュヴェーロ』を4~5体ほど倒してくれば充分でしょう。撤退してかまいません。それと……」
 ラヴィネイルはそこまでの説明をしてから、ぱたんとノートをとじた。
「調査員によれば、現地にはまだ取り残された子供もいるとのことです」
 『いるとのことです』とだけしか、言わなかった。
 それをどうしろと、言える立場に彼女はないのかもしれない。
 あるいは、どうしてほしいのかを暗に訴えたのか。
 ラヴィネイルは『あとはよろしくお願いします』と述べて報酬諸々をまとめた書類だけを置いてカフェを出て行った。その後ろ姿は、すこしだけかすんでみえた。

GMコメント

●オーダー
 アドラステイア、旧フォルトゥーナ地区にて聖獣を倒します。
 4~5体程度倒せれば充分なので撤退してよいとのことですが、逆に言えばこの報酬で4~5体倒す程度の戦闘力を『ジュヴェーロ』はもっているということでしょう。
 それなりの手練れでなければタイマンをはるのは厳しそうです。

●フィールド:旧フォルトゥーナ地区
 爆撃と聖獣によって完全に廃墟となった地区です。
 かつてはフルシチョフカ式集合住宅(団地みたいなもの)が等間隔にたったりしていましたが、それらはことごとく破壊されています。
 元々清潔さの欠片もない、非常に寂しく汚い町でしたが今は炎と血で染まったあとになってしまいました。

●エネミー
・ジュヴェーロ
 宙に浮かぶ、翼で覆われた球体のようなシルエットの聖獣です。
 子供を見つけると触手を物凄い速さで伸ばして拘束したことが確認されています。
 触手につかまった子供はそのまま翼の内側にひっぱりこまれ、その後どうなったのかは確認されていません。あまりよい未来はまっていないはずです。

 戦闘力や戦闘方法については不明な部分が多い聖獣です。触手はせいぜい拘束手段の一つ程度にしか使われないと思うので、本命としてどんな攻撃がきてもいいようには構えておきましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

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●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●聖獣
 アドラステイアが保有しているモンスターです。
 個体ごとに能力や形状が異なります。
 当初はただのモンスターだと思われていましたが、現在は人間をイコルによって改造して生まれたものだということが判明しています。

  • 天高きジュヴェーロ、罪深きテクシート完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
三國・誠司(p3p008563)
一般人
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵

リプレイ

●住む場所なんかどこにもないんだから、どこでもない場所に住み着いたのよ。
 アドラステイア下層。旧フォルトゥーナ地区。
 実験区画として開放されていたこのエリアは、他の下層スラムとはいくつかの異なる点がある。
 そのひとつが、外部への門と中層への門がそれぞれこの一区画に存在しているということだ。
 外敵に対してリスクがあるこの構造を採用した理由は定かでないが、フォルトゥーナを刺激するにあたってこれほど都合の良いポイントもまたない。
 そして外部への門は、かつての襲撃によって破壊された状態のまま、残っているのだ。
 それでも悠々と中に入れないのは、かの聖獣たちが地区内に解き放たれ危険地帯となっているためである。
「なんですよこいつ! 聖獣ってこんなデザインばっかなんですよ?」
 翼をまるめた球体めいた聖獣『ジュヴェーロ』が侵入する一団を発見し触手を伸ばしてくるが、『反撃の紅』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は聖弓改造型接続式滑腔砲(つまりは聖なる力を打ち出す筒)を担いだ背から回して構えると、ジュヴェーロめがけて発砲した。
 エネルギーの球体がゆるやかな回転と放物線を描きながらジュヴェーロへと激突し、爆発を起こす。
「子供達の為にも、こんな奴ぶっ倒してさっさと救出するですよ!
 アドラステイアをいち早く解体しないと……こんなもんを存在させるわけにはいかないですよ」
 爆発の衝撃によって行動が阻害されたジュヴェーロめがけ、跳躍し距離を詰める『咎狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)の姿があった。
 ジュヴェーロが反応を終えるよりも早く、ラムダは鞘から刀を滑り出し、圧縮した魔力を刀身へと纏わせ恐るべき切れ味によってその翼の外殻を斬り付けた。
「我、無念無想、無我の境地に至れり。振るわれたる刃に映りしは物言わぬ骸、黄泉路に手向けるは緋の花弁――彼岸花」
 詩を詠むように呟くと、着地と共に鞘に刀を納める。
「聖獣狩りはともかくとして残された子供達……かあ」
 ズバッという音と共に、空中に赤と青の光がX字に交差する。
 翼の外殻を破壊した所へ更なる斬撃を撃ち込み、その内容物を破壊したのだ。
 『覇竜剣』橋場・ステラ(p3p008617)はラムダの隣に着地し、剣の形状にしていた赤青の発光エネルギー体を指輪へと戻す。
「子供達を見捨てたりはしませんよ」
「わかってる。ボクだってそんなつもりはないよ。けど……」
 破壊されたジュヴェーロが地面へと落ちる。が、それで死んでくれるほどヤワな相手ではなかったらしい。内部に格納されていた巨大な眼球の集合体が一斉にうぞうぞと動き、ラムダたちを見つめた。
 そう、眼球の集合体である。人間のそれとまるで変わらない眼球が大量に集まり、あの巨大な球体の中に収まっていたのだ。それらがうぞうぞと動く様に怖気が走り、その怖気が本能ではなく魔法的なものだということにラムダたちは気がついた。
「呪法です。下がって!」
 ステラが叫ぶと同時に、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が間に割り込んで両腕を交差させた。
 目に見えぬ手のひら大の刃がざくざくと腕や身体に刺さっていくのを、ウィルドは実感する。その刃ひとつひとつから染みこむように、肉体を蝕み精神を犯す呪いが広がることも。
 しかし、ウィルドはその頑強な肉体を壁のように立ち上がらせ、胸を張ってジュヴェーロをにらみ返す。
「……」
「まかせてっ」
 『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が『アハッ』と笑いながら飛び出すと、標的を変えたジュヴェーロの攻撃を自らの身体で受けた。激しい苦しみが襲うはずだが、ヒィロはまるで意に介さないという様子で笑みをより深く、そしてどこか狂気を帯びたものへと変える。
「あの翼の塊って見た目と人殺しって点は天使っぽいらしいけど、そしたらそれを殺そうとしてるボクは悪魔かなー?」
 次なる攻撃を挑発するようにくるんと回ってみせるヒィロ。
 攻撃が行われた瞬間、『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)が彼女の後ろから現れた。
 片手を翳し両目を覆うようにしていた彼女は指の間を開いて片目を晒す。
「戦場で長く生きれば悪魔呼ばわりされるものよ。聖なるものはかくあれかし、ね」
 美咲がそうやって見つめただけで、ジュヴェーロの眼球たちはぷちぷちと爆ぜるように潰れていく。
「継続した陽動戦闘……戦時で言う定期便ね。
 現場は破壊しつくされた後だし、気分は割り切りやすいかな。
 街並みとかが半端に無事だと、感傷的になりそうだもの」
「今でも充分イヤだけどね!」
 『一般人』三國・誠司(p3p008563)が壊れた門を通って駆けつけ、大砲にガポンと弾を込めた。
 カーブする暇すら惜しいとばかりに身をかがめ、片足だけを広げた個性的なフォームで大砲を発射。弾が直撃したジュヴェーロは今度こそ全ての眼球を破壊され、地面には翼の外殻だけがばらばらと落ちた。いや、落ちたあとに泥のように溶けていく。面影など、どこにも残しはしない。
 追撃をしかけようと弓を構えていた『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は、その必要が無いと察してそれを下ろす。
「ファーザーバイラムの実験区画……。解放しようとも、未だ取り残された子らがいて、それを喰らう聖獣がいるのですね」
「それでも、アドラステイア攻略が徐々にでも進んでいるとわかります。
 個人的にはこの魔女狩りじみた馬鹿な真似が横行する地獄のような都市を作り上げた連中と会ってみたいのですが……きっと話が合うと思うんですよね。この悪趣味な見世物の話で」
 ブラックなジョークを口にするウィルド。やや乱れたネクタイを直すと、仲間達の顔ぶれを今一度確認した。
「先ほどの攻撃は、肉体的なダメージと精神的なダメージをそれぞれ与えるバッドステータスのように感じました。遠距離からこれだけ不可視の攻撃を行えるのですから、触手でとらえて内部に引き釣り込むなどされた場合……」
 あまり想像したくない状態になるだろう、とうっかり想像してしまった誠司は嫌な顔をした。
「とにかく、あれに捕まるのだけは避けたいな。もしもの時は……」
 誠司が正純のほうをみると、彼女は頭に手を当てて顔をうつむけていた。
「……どうしたの?」
「いえ、別に。少し疲れてるのかもしれません」
「無理しないでね。最近ヘビーな依頼を受けすぎてたのかも」
「ですね」
 正純は顔をあげ、笑みを返した。
 気にすべきじゃない。自分を導くような声がしたなどと。

●ご注文は『死ぬよりマシな人生』でよろしかったですか?
 ゲートを抜けてすぐの場所には複数のフルシチョフカ式集合住宅が並び、それらに囲まれる形で公園らしき広場があった。『らしき』と表現したのは、あまりに不潔で荒れきった場所に焦げたドラム缶が一個置いてあるだけの場所だからである。
「とりあえず、ここを防衛陣地に利用できそうだね。ヒィロさん、瓦礫を集めるのを手伝ってもらえるかな?」
 広場の様子を確認した美咲は、四方にある道を部分的にバリケードで塞ぐことで防衛を効率化できるだろうと考えていた。道の一部は瓦礫で塞がり、別の道もややふさがった状態だ。多少いじれば進入路を限定することができるだろう。あの浮遊する敵が真上から来ないとも限らないが……そこまで遠回りかつ不利なルートを選ぶ価値は相手側にないだろう。
 相手の戦術レベルが動物並みだとうまくハマり、ちゃんと考えてくるなら逆に利用されかねない、といったところだ。
「時間のかかる所はドリームシアターでごまかせない? 保護した子供達もろとも幻影のガワで多うのはちょっと難しそうだから」
 ジェスチャー交じりに話すヒィロ。美咲はパチンと指を鳴らして『それでいこう』と同意した。瓦礫の上での作業はヒィロの身のこなしがよくハマる。この辺りは付き合いの長さが出た、流石のコンビネーションといったところだろう。
「あとは保護した子供達が何人集まるかだけど……」

 正純は集中し、耳を澄ます。
 暗い森で息を潜める弱者の声は、通常容易に聞き取ることは出来ない。しかし『人助けセンサー』なら、声なき声を見つけ出すことができるだろう。
『――救ってあげなさい。彼らは真実を知らない哀れな弱者なのです』
 導きの声も、同時に聞こえる。思わず同意してしまいたくなるような正しさで。
『――彼らがアドラステイアに残ったとしても、実験や魔女裁判や傭兵徴用によって失われるだけです』
 正しさ。
『――あなたが救わなくてはならないのです。誰かに任せては、きっと同じことが繰り返される』
 正しさ。
『――国は間違えました。魔種を同胞と見まがい数多の悲劇を見逃しました』
 正しさ。
『――仲間達は間違えています。友や家族に魔種をもち、あまつさえ同胞からも魔種が産まれます』
 正しさ?
『――ローレットは間違えています。集めたパンドラを自分達の都合で消費し、国家を身勝手な感情論で操ろうとしています。いずれ彼らが魔種にならないとも限りません』
 正し――
『――』
 ――。
『――』
「――ずみ、正純! どうしたの!? 具合わるいの!?」
 壁により掛かり、頭を抑える正純、肩に触れた誰かの手が自らを蝕む気がして慌てて振り払った。
「!?」
 驚き、固まる誠司の顔があった。
「ご、ごめん……」
 大きな声を出したせいで過敏に反応されたと思ったのだろうか。誠司がつい口に出した言葉に、正純は慌てて首を振った。
 微笑みを浮かべてみせれば、誠司もつられて笑った。
「いえ、私こそ」
「この先から反応があるよ。不気味なくらい霊魂がないのが気になるけど……とにかく行こう」
 誠司の言うとおり、建物の中を慎重に進んでいくと、身を寄せ合って振るえる子供の姉妹が見えた。

「瓦礫だらけで地形が悪すぎるな。飛行装置くらいもってくるんだった」
 などといいながらも、ラムダは発達した五感でもって崩れた工場の中を進んでいく。
「ウィルド、どう?」
「ファミリアーの便利さを今一度実感している所です」
 ゆっくりと屋内を進みながら、ウィルドは片目に手を当てて薄く笑う。ネズミを使役することで共有した五感からは、瓦礫の狭いスキマを抜けた先の情報を容易に得ることが出来た。
「崩れた教会の奥に部屋があります。そこに子供がひとり。食料を確保して立てこもっているようですね。声をかけても出ては来ないでしょう。頼めますか?」
「そこそこ得意だよ。最後は耳を引っ張ってでも連れ出せばいいんだよね」
 ラムダはやや棘のあるジョークを言ったが、ウィルドはそれを笑って返した。

 一方こちらはステラとブランシュ。それぞれシスター(?)の格好をした二人は、ファミリアーを使用して調査を行っていた。
 といっても、二人は崩れた家屋の中に身を潜めつつだ。
「ブランシュさん、いい知らせと悪い知らせがあるんですが……」
「いい知らせから聞くですよ」
「北側にマンホールがあるんですが、その下に子供達が立てこもっているようです。かなり衰弱した子もいますね。今すぐ連れ出せば助かるかもしれません」
「……悪いニュースは?」
 なんとなく予想のついたブランシュに、ステラが顔をしかめて言った。
「全員武器を持っています。聖獣にもろとも爆撃された後ですからね……誰も信じられず、死を恐れながら振るえるのみといった様子です。無理に連れ出そうとすれば自決もありうるでしょう」
「それは……」
 ブランシュは自分とステラをそれぞれ指さし、不敵に笑って見せた。
「むしろ良いニュースですよ」
 二人は強力な交渉術の使い手である。しかもダブルで強化し説得にあたれば、彼らの警戒を解き同行を求めることは充分可能だろう。
「ここを担当したのが私達でラッキーでしたね」
 早速仕事を始めましょう。そう言って、ステラたちは立ち上がった。

●産まれた赤子が泣き叫ぶのは、この世を少しはマシにしたいからなのよ。
 仲間達が発見してきた子供の数はおよそ6人。これ以上が地区内に潜伏している可能性はなくはないが……。
「子供を小脇に抱えて戦えるほど器用ではないもので、ね」
 ウィルドはわざとらしく悪い言い方をすると、ポケットから取り出したサングラスを装着した。
 金色の指輪を三つの指にそれぞれはめ、メリケンサックのように平たく揃える。
 子供達は広場の中央。彼らを移動させたことはジュヴェーロウィルドたちは気付かれているだろう。バラバラに、そして小出しにやってきてくれれば楽だがおそらくラッシュは必至。何回かのウェーブを乗り切る必要があるだろう。
 封鎖した東西を一応警戒しつつも、南北2チームに分けれてこれらのウェーブに対応することとなった。子供達はあえて広場中央に固まらせている。下手に隠れたり逃げ回ったりするよりも安全だ。
「それじゃ、始めようか」
「来るよ」
 建物を曲がって複数体のジュヴェーロが出現。
 こちらを視認した途端触手を伸ばす個体と眼球群を展開する個体がそれぞれ現れたが、ヒィロがそこへ真っ先に突っ込むことでヘイトを集め、触手をわざと自らの腕にからめ引きずり落とす。
 そこを美咲の魔眼がにらみ付けることで、激しいにらみ合いにこそなったものの砕け散ったのはジュヴェーロのほうだった。
「集中砲火!」
 正純の呼びかけに誠司が応え、二人で同時に弓と大砲を構える。
 翼をばさりと動かし起き上がろうとしたジュヴェーロへ、後方から矢と砲弾を大量に浴びせていく。
 その一方で、南側から瓦礫を乗り越えて現れたジュヴェーロにブランシュとラムダが迎撃を開始した。
「こいつら、元が人間だったりしないよね? だったら気が滅入るなあ」
 そう言いながらもラムダは地面に剣を突き刺して魔術を行使。瓦礫がひとりでに動き出し、ジュヴェーロの進行を無理矢理阻んだ。
 ドッとジェット噴射をかけて急速に飛翔したブランシュが、唯一開いた上方よりブラスターメイスを両手持ちで構えた。
「『スパイラル』――ですよ!」
 穴開けドリルのごとく螺旋を描いた衝撃がジュヴェーロを貫通。瓦礫がやっと崩れたところに、ウィルドとステラが同時に襲いかかった。
 ぐわりと開いた眼球群めがけて拳を叩き込むウィルド。
「弱点が分かりやすくて助かりますね」
「弱点、でいいんでしょうか」
 ステラも赤と青の光を十字架の形に成形し、ナックルダスターのように両拳表面に固定。
 とんでもない速度でのパンチラッシュを叩き込み、ジュヴェーロに『目潰し』をくらわせた。

 この後も幾度かのラッシュがあったものの、なんとか防衛しきったイレギュラーズたちは子供達をつれて地区を撤退。
 かなりの数のジュヴェーロを撃破されたことで、アドラステイア側のリソースは随分と削られたことだろう。
「問題は、この子供達の引取先ですが……」
「この人数ならブランシュの領地で引き取れるですよ。う魔女裁判なんかに怯えることのないように。
 こんな事をする為に、みんな生まれてきてたわけじゃないんですから……」
 ウィルドの言葉にそうこたえたブランシュ。
 誰も反対などしなかったし、ラムダやステラも頷くことで肯定を示してくれた。
 しかし、皆の胸の内にはもやもやとした煙があがっている。
 アドラステイアの子供達を『すべて』受け入れることはできないだろうと。
 なぜなら、彼らは天義という国家が養いきれなかった人民であり、そのアドラステイアすら口減らしを実行する程なのだ。
 根本的に何かを変えなければならない。いずれ、かならず。そして自分達の手で。

成否

成功

MVP

美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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