PandoraPartyProject

シナリオ詳細

恐怖の植物

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●呑まれた者達の話
 領主すら知らぬ小さな集落を形成した者達が居た。
 貧困に喘ぐ民が人知れず集まり、他よりも圧倒的に土壌が良質で作物がよく育った事が起源だという噂もあったが、その話が本当かは定かではない。
 確かに土壌は良いかもしれないが、それはあくまで集落のある森自体が微かに魔力を有しているからだろう。
 魔物や大型の肉食獣はその魔力の気配を警戒して森に入って来ない。
 聖教国ネメシスの騎士も、領主も『実り無き魔の森』だと認識して入って来ない。
 多少の生活用品は近くを通る行商から物々交換で得れば問題無いのだから、ここはきっと数少ない安住の地だと思われていた。
「我らが神に、今日も感謝を……」
 日々、信仰を捧げながら慎ましやかな生活を送る。
 隣人や家族と穏やかな愛を育む、それがなんと尊い事なのか。
 ……場面は暗転する。
 或る日。集落の畑仕事を手伝っていた若い娘が土の中から出てきた枝で足を怪我してしまう。
 それ自体が珍しい事では無かったが、異変は彼女が怪我をした翌朝に起きた。娘は全身に無数の棘を生やして死んでいたのだ。
 刺されたのではない。『生えていた』。

「何かの呪いではないか」
「いいや、奇病かも知れない」
「様子を見よう。どちらにせよ我々にはどうにもできない」

 楽観的、とは言わないが彼等はこれっきりの事だと思い込んでいた。
 数日経って今度は娘の母親が、次は隣に住む家の幼い少女が、さらに次はまとめ役の長の妻が、次々と同じ様にして死んだ。
 僅か三十人足らずの集落は混乱と混沌が渦巻いた。もう疑い様は無い、これは呪いだと。
 意を決して呪術を祓う神父を呼びに町へ行った長は見つかり、拷問にかけられて処刑された。集落の存在が知れなかったのはまだいいが、彼等は自分達に逃げ場がない事を知った。
 ……そんな時、若く勇ましい集落で一番勇敢だったはずの青年が恋人をその手で殺めてしまった。
「この女を殺せば生き延びられると思ったんだ! 見てろ、これで呪いは止まるぞ!」
 青年の言葉は的中した。してしまった。
 何故か、止んだのである。恐ろしい呪いによる死病が、それから一カ月以上も止まったのだ。

「まさか、なぜ?」
「呪いを受けた者には黒い痣が体のどこかにある! そいつを殺せ! 魔に侵されたに違いない、躊躇うな!」
「女達の身体を調べよう、引きこもってる怪しい男達もだ!」
「殺せ! 神の名に於いて神罰と浄化を与えろ!」

 最早そこからは止まらなかった。
 世界に見捨てられたような気になっていた彼等は、疑心暗鬼になって次々と愛する者も隣人も殺し始めた。自分こそが正しく、清く、神に愛されて生きるべきだと主張して。
 そうしていると、次第に外へ逃げ果せる者も出て来る。
 杭で貫かれて燃やされるのに比べれば、聖騎士に首を刎ねられた方が遥かにマシだったのだ。

●そして呪われた者は眠る
 『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は静かに話に耳を傾けていた。
 事の顛末を語っていたのは、件の集落から逃げて来たという子連れの男だった。
「……貴方はそれらの現象、原因に心当たりはありますか?」
「話した通りだ。俺は……最初の犠牲者の娘が足に負った傷、あれだ……きっとあそこからなにかが……
 なあ、頼む。俺の子供はどうなる、あいつは無関係だ、大丈夫なんだ。あっちにいる司祭様と騎士様に言ってくれ」
 震える手を伸ばして来た彼は、その手が途中で枷に繋がれた鎖によって止められる。
「ご安心下さい。ご子息には最上の慈悲を与えて下さるように、私から伝えますので。
 ……まだ聞かなくてはならない事があります、もう少し頑張ってください。
 集落の位置と、詳しい状況、そして生き残りの人数を。それと『黒い痣』の特徴は? 何か分かっている事があるなら教えて下さい」
 ミリタリアは目を逸らして問いかける。
 男は無数の棘をその身から生やしていた。それなのに彼は瀕死の状態で何故か言葉を紡ぎ続けていたのだ。
 彼は差し出された紙に聞かれたことをどうにか書き、或いは言葉で報せた。
「次は…………分かりました。ご協力に感謝を、ジャック様……後はどうかお任せを」
 ミリタリアは牢の鉄格子に寄り掛かったまま眠りについた男に頭を下げ、その場を後にした。

「どうですかな、シュトラーセ殿」
「残念ながら今回ばかりは異論はありません」
「では仕方ありませんな。心苦しいですがこれもまた神の与えた試練だと思いましょう、例の子供は我々に任せなさい。安らかに眠らせてあげるつもりです」
「私情に対する厚意に感謝します、フィンズ司祭」
「……あまり『他』でそのような的外れな事は言いめさるな、ここが片田舎の教会だった事が僅かに幸いしただけの事ですぞ」
 司祭は去り際にそのような事を告げた。
 ミリタリアはその表情を憂鬱な物に染めて教会を出て行く。
 その後、彼女は酷い顔でイレギュラーズ達に依頼を任せるのだった。

GMコメント

 ――かつて、魔種の仕業だと騒がれた植物が在った――

 以下情報

●依頼内容
 魔の森で増殖した『魔樹』を全て破壊、燃やす

●情報精度A
 想定外の事は起きません。

●魔の森に関する伝承
 冒頭の内容、OPに関する情報はミリタリアから伝えられています。
 今回『偶然放浪していた哀れな天義の民が辿り着いた廃村』で通称『魔樹』が増殖してしまった様です。
 これらは魔物ではなく。活動停止して枯れた状態の棘状種子が人間の血液に触れる事で活性化し、
 活性化した魔樹は傷付けた対象の血液に極小の芽を植え付け、十数時間で体内で発芽。
 最初の寄生主が死亡するまで、皮膚上に突出した棘状種子に触れた他の人間に次々と感染させるという恐るべき寄生型食人植物です。
 その正式名は『イビル・クイン』と呼ばれる、近年では全く見なくなった植物です。
 今回依頼された森にはその恐るべき植物の種子が未だ残されているとされ、これまで長い間その記録を封印。領主達も近寄らなくなっていました。
 
 本件における生存者は全員既に『死亡者』として扱い、感染者、遺体、土壌に残る枯れた種子含め全てを粉々に砕いた上で最終的に燃やして下さい。
 皆様は極低確率(GM側によるプレイングからの判定)でしか感染しませんが、万一感染した場合は無傷でもパンドラが減少します。

●感染者
 初期感染者である死体、死亡したばかりの者、未だ生存している者。
 魔樹は周囲の生命体が感染した事を知る事が出来、事前の調査で既に廃村に居た人間は全員感染している事が分かっており、『死者が歩き出した』とも判明しています。
 数は過去の死者含め27人。殺害または無力化した上で燃やして下さい。
 魔樹はBS【火炎】の付与に成功すると即死します。

 『屍樹』
 感染者の死体を乗っ取り、生きた人間を襲うべく行動を開始した個体。正確な数は不明、注意して下さい。
 高耐久、低機動、至近攻撃。

 以上。
 少なくとも今回の植物を完全に滅さなくては近隣の都市に被害が出る可能性があるでしょう。
 魔の森に巣食う、凄惨な結末を生み出した悪しき芽に負けない心が必要です。
 イレギュラーズの皆様、宜しくお願いします。

  • 恐怖の植物完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月18日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
不破・ふわり(p3p002664)
揺籃の雛
十六女 綾女(p3p003203)
毎夜の蝶
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
アニー・ルアン(p3p006196)
鳳凰

リプレイ

●養分と化した世界
「この辺で人間に寄生する植物の種子とかどこにあるかわからないかな?
 あの辺から危なそうな雰囲気がするとかでも良いけど! 他にもわかってる事とか気を付けた方が良い事があれば知りたいな」
 野花に話しかける『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は風と共に聞こえて来る『声』に数度頷く。彼女には植物と意思を交わす事で断片的ながらもそのイメージが伝わって来るのだ。
 そして、暫くして立ち上がったスティアは次の進路を指差して見せると、それに応じて偵察役の者が数人前へ出て行った。
 偵察を行いながら、先程から吹いている風に乗って聞こえる音の中に、虫や鳥の気配が一切無い事に『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は気付いた。
 動物の鳴き声もしない。静寂に包まれている森に漂っているのは言い様の無い悪臭だけだ。
 彼等イレギュラーズは既に魔の森と呼ばれる地へ到着して数時間経とうとしている。寛治はいよいよ近付いて来たのか、と慎重に辺りを見回しては木々の陰を、草葉の向こうを、その目と耳で冷静に見て行く。
「異世界だな、嫌な習性をもつ植物もあるもんだ」
 『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)も寛治の後を追いながら、周囲の警戒を図る。精悍な彼が足音を殺して進む様は頼もしさと力強さを背中で語っていた。
 そんな彼の呟いた声に同意を示すのは十六女 綾女(p3p003203)だ。
「生存者も死亡扱いか……ま、そうよね。大勢の為とは言え殺してしまうのは外聞が悪いもの」
 そう。今回の彼等が遂行する依頼において、生存者は彼等以外に想定されていないのである。
 動く物は全て滅せよ。怪しげな植物は根こそぎ燃やせよ。声を上げる者は死骸を撫でる風のそれだと思え。
 ……それが、彼等に依頼した近隣都市の司祭の言だった。
(まだ生きてる人がいても助ける術がないことがすごく苦しくて、胸がきゅーってするのです)
 胸元に手を当てて、落ち着かないといった様子を見せる。『玻璃の小鳥』不破・ふわり(p3p002664)は自分が選んだ仕事であるが故に、これから目にするであろう光景は避けられないと分かっていた。
 だがいっそ、村人達が既に事切れているなら……そう考えない所が彼女らしいと言えた。
 と、その時。
 前方で茂みから進行方向を伺っていた寛治が静止する合図を出した。後続の仲間達が近くの木々に隠れ、或いは武器を抜いて構える。漂って来る悪臭は既に限度を越えた類の臭気となっており、否応でも鼻を突いた。
 寛治は醜悪な光景を前にして司祭が命じた事は正しかったと納得した。
「この依頼、仮に天義でなくとも同様の対処となったでしょうね。
 伝染病の感染拡大防止のため、感染者を隔離する。為政者として、間違った施策ではありません」
 ましてやこれだけの惨状を招くのなら、と彼は一度だけ目を伏せた。
 寛治は手に長傘を握り締めて立ち上がった。既に周囲の警戒は済んでいる、ここから新たに接近して来る敵が出るとしても恐らく直ぐに気付けるだろう。
 静寂に包まれた廃村を歩き回っている『異形』を前にして、イレギュラーズは一斉に飛び出した。
 少なくとも、視界に生者は存在しなかった。
 
●凄惨なる結末
 『特異運命座標』サクラ(p3p005004)は微かに漏れ出た呼気と共に渾身の一閃を放つ。
 全身から目を逸らしたくなる様な棘を生やした死者、『屍樹』は振り下ろそうとした腕ごと斬り飛ばされその衝撃によってその場に倒れ伏せた。
 村の中央広場に広がる光景は凄惨極まりないものだった。家屋の扉が破壊され、水場であろう井戸のある石畳には明らかに人の手で行われた殺し合いの痕跡が有ったのだから。
(本当は斬りたくなんてない……でも、そうしないと災厄は広がってしまう。
 だから……ここで終わらせないといけないんだ……!)
 それでも躊躇することはない。それは、出来ないのだ。
 天義の騎士見習いとして、イレギュラーズとして、サクラにはこの世界を守る義務と矜持が確かにあるのだから。
「ごめんなさい……!」
 サクラは一心不乱に刀を振り、或いは雄叫びの如く声を挙げて周囲の屍樹を引き付けて。迫り来る異形を切り伏せて行く。
 そんな彼女を背後から見守るスティアは仲間の展開する陣形や足並みを常に意識して、中心に立つ様にしながら戦況を俯瞰する。
(みんな強い! そうだよね、こんな悲劇を繰り返さないように今回で終わらせないとだね!)
 オーカーが屍樹の前へ躍り出たのと同時に振り抜かれる炎拳が棘すら粉砕し、痛々しい人型が炎に包まれながら地面を転がって行く。前衛のサクラが叫ぶ度に屍樹達の向かう先は一点となる。動きさえ多少読めればバックスタブも回避も容易だった。
 一見すれば仲間や友人であるスティア達の事が見えなくなる戦い方は危うく見えるのだが、相手に知性が無かった事が結果的に戦況を有利にしていたのだ。
「魔物では無い………か、こんなものでも」
 サクラの一閃に怯んだ屍樹を斬り上げた久住・舞花(p3p005056)が宙を舞う。醜悪、しかしその顔に浮かぶ死相は悲壮なる物だった。直後に刀が音も無く一文字を描いて両断した。
 羽根の様な身軽さで着地した彼女は。死者をも操り、生者を求めんとする屍樹を目を細めて首を振った。いっそ魔物の類と言われた方が納得できる残忍さだった。
 横合いからオーカーに殴り飛ばされて来た屍樹を反射的に切り伏せ、頸椎から足元に至るまでを切り刻みながら舞花は目を伏せた。
「ッ、チィ……!」
 刹那、オーカーから舌打ちが鳴る。屍樹が半ば飛び掛かって来たのを殴り飛ばした際に棘が肩口を貫いていたのだ。
「オーカーさん、傷を見せて」
 直ぐに駆け寄って来た綾女が彼にヒールをかけ、治療する。それでも気休めにしかならない分、後は運次第なのだが……

「どこの世界でも似たようなことは起こるのね。幸いにも私はこういうのに慣れているし、おあつらえ向きの依頼ね」
 片手間でマッチを放り投げる。既に前衛が仕留めた屍樹、三体の死骸に落ちた火種は彼女のギフトによって瞬く間に焼却されるのだった。
 それでも灰燼と帰すには火力が不足するだろう、『鳳凰』アニー・ルアン(p3p006196)は冷淡に燃え上がる死骸を見下ろしながら後でそれを回収する事を頭に入れた。
「さてと、集まって来てるし私も前に……?」
 背後に感じた視線に振り向く。誰もいない、屍樹もいなかったが、視線を感じた先に在ったのは拙い出来栄えの板を掲げた教会らしき建物だった。
 アニーはその建物を見やりながら目の前に迫る屍樹へ焔の衝撃波を浴びせるのだった。

「これで! 十一……!!」
 オーカーの放った拳に続いて寛治が傘で突き飛ばした瞬間、目にも留まらぬ一閃がまるで爆散させるかのような一撃で屍樹を両断した。これで村の外を徘徊していた屍樹は全滅させた事になるだろう。
 ふと、周囲を見れば全員無傷とまでは行かなかった様だった。それもその筈、は常に村の内部を移動しながら迎撃し、サクラに集う屍樹を全員で各個撃破する戦法を強いられていたのだ。
「村の外を捜さないとまずいかしら、これでも事前に聞いていた数の半分以下なのよね」
 綾女が息を整えて魔力を回復させながら首を回す。
「そうですね、先ずは村の中を一通り見て行くのが先でしょうか。我々の戦闘を見ていた方が居るならば逃げる事は考えないでしょう」
 寛治が応えたその言葉には暗に『隠れ潜んでいる者がいる』という事を示していた。
「それなら私が見て来るわ、寛治さんも来てくれれば大丈夫でしょう」
 頷いた綾女が近場の小屋へ向かって行った。
 その様子を眺めていたスティアは、ある程度の回復を終えたサクラを心配そうに見据えた。
(サクラさんはどんな気持ちなんだろう? おバカな事を言って気を紛らわせた方が良いのかな?)
 気を遣うようにしているつもりだが、彼女は気付いていない。サクラの目には未だ仲間の姿が映っていない事に。
「はぁ……はぁ……」
(つらいね、ただ静かに暮らしたかっただけなのに、魔物に憑かれて仲間を殺して……こんなこと、もう繰り返しちゃいけないよ)
 再び立ち上がったサクラは辺りを見回して更に暗い、しかし絶望とは真逆の色を合わせた瞳を瞬かせる。
 その様子を静かに見ていたオーカーがふと思い出した。
(そういや、アイツは天義の出身だったか。それも見習い騎士となるとこの惨状はキツイか)
 例え自身の領地や顔見知りでなくとも、自ずと見えて来る物はある。わざわざこんな地に人知れず住み着いた上にロクな助けも呼ばないで、取り返しのつかない段階になってから凄惨な結末を迎えたのだ。
 その背景にあるのはまず間違いなく彼等は教会や騎士団、領主を味方とは思えなくなってしまった類の者達だろう。それだけ追い詰められていた過去があるからこそ、『魔の森』とまで呼ばれていた地に縋りついてしまったのだろう。
 そんな村人達を手にかけ、火を放つ事を仕事だから仕方ないとは言わない。
「この罪も俺のモンだ」
 オーカーも、彼以外の誰もがこの時同じ思いだった。

●狂気の発芽
 家屋の中を一軒ずつ、内部に誰もいない事を確認してからイレギュラーズは手持ちの火種や魔法、元から家屋にあった油を撒いて火を放って行った。
 風による森への飛び火を少しだけ不安に思ったが、彼等が建てた家屋の周りの木を相当の範囲を伐採していた事が功を為したらしい。建物自体も隣接していない間隔を空けていたのが良かった。
 そして、村の中央付近で土中から突き出ていた『棘』をふわりが見つけ、その場所を掘り返してみるとそこで村人のカウントは『十四』となった。
「……恐らく感染初期の村人でしょう。彼等の埋葬されていたこの場に他の方々や悪しき物を投げ入れるのは心苦しいですが、丁度良い穴です。ここに集めましょう」
「聞いた限りでは生物の身体を苗床にして発芽するタイプの寄生型植物というところかしらね、本来は。だから彼等は他の屍樹のように動き出す事が無かったのかも」
 寛治に頷きながら舞花は酷い姿で縛られ埋められていた女性達を見下ろして首を振った。
 教会がこの『魔樹』の処理を騎士団ではなくローレットに頼る思いも理解できる。パンドラによって無効化できるイレギュラーズでなければ、ただ交戦するだけでも恐ろしいリスクが付いて回る。仮にこれだけの怪物と交戦した者が帰還したとして、果たしてそれ以降信用できるのか……
 故に、村の惨状も遂には魔女狩りの真似事が始まったのだろう。悪意の存在しない悪。舞花は改めてこんな植物が存在するのかと戦慄した。

 村から離れた位置に畑を耕している場所がある事を周囲の木々から聞いたスティアの情報を基に、最後に彼等は既に何人かが気になっていた教会の前に来た。
 この建物だけ、内側から閉ざされていたからである。
 そこで、ふわりが扉に近付いて行った。
「私達は教会に依頼されて来たローレットの者です、皆様をお救いに来たのです。
 どうかここを開けて下さい。まだ皆様は救う事が出来ます、この扉の向こうに居るあなたがまだ人間であるのなら……どうか扉を開けて下さいなのです」
 優しい少女の声音は静けさを取り戻しつつあった空気によく響いた。
 例え彼女が教会の名を出していなかったとしても、それこそ救いの天使の様な印象を与えただろう。特に、信仰と『救い』に偏っていた村人にとっては。
 程なくして、中で幾つかの閂が外される音と共に錠らしき物が開けられる音が鳴った。扉はふわりの小さな手で押しても開くようだった。
「私が先に」
 ふわりの手を止めた寛治がオーカーに目配せしてから代わりに扉を開けた。彼が中へ入った瞬間、扉が一瞬開いただけなのにも関わらず、その場におぞましい臭気が流れ込んで来た。
 それは――――

「――――血の、臭い」

 教会の内部は小綺麗にされている、されているのだが。恐らくは残りの生存者十三名の殆どが礼拝堂の席に座したまま、全員仰向けに仰け反った姿で死の匂いを漂わせていた。
 死んだのは、『殺された』のは何もここじゃないのだろう。或る者は胸に包丁を、或る者は首に鎌を、時には割れた瓶を突き立てられている者すらいた。
 寛治は数瞬どうすべきか迷ったが、後ろ手に扉を数回ノックして仲間を中へ入れる事にした。
「……!!」
「ああ、本当に助けが来た! 俺達は神に愛されていた! 信仰が届いたんだ!」
 惨い姿の者達を目にしてサクラ達が目を見開いた。
 礼拝堂の奥にある祭壇らしき台の上で血に濡れた青年と、同じく初老の男、彼等の後ろで震えている女性の三人が未だ生存している者達の様だ。
 尤も、彼等が一体何をしてしまったのかを考えるなら救われるべきかどうかは定かではない。
「へ、へへへ……ッ、見てくれよ、俺達には黒い痣はねえ!! なぁ、早くここから連れ出してくれ! もうこんな村は嫌だ、俺達が何を……」
「私たちはなにもしていない? 理不尽? 聞き飽きたわ。そんなことを言いながら死んだ人間なんて、表に掃いて捨てるほどいるわよ」
 聖痕の刻まれたグローブに噴き上がる炎を両手に、アニーが淡々とした調子で告げながら進んで行く。
 青年から狂気の滲み出た笑みが微かに消える。彼女が何を言わんとしているのか、分からなかったからだ。
「だからあなたたちも滅びろ。自分たちだけが特別だなどと思うな」
 直後、アニーの手から放たれた火炎が避ける事すら知らぬ青年を飲み込んだ。
 その場に響き渡る悲鳴に思わず綾女とスティアが耳を塞いでしまう。焼け焦げて行く青年の服がボロボロに崩れた下には、炎の揺らぎがあっても分かる程に黒く染まった痣が幾つも浮かび上がっていた。
 それを見た女性と、初老の男は血相を変えて口々に叫び出した。
「ち、ちがうわ! 彼は呪われているかもしれないけれど、私は何も無いわよ!! 怪しむなら、裸になってもいいから……!」
「なにを言うんだこのアマ……ッ! 俺だって全部脱いで見せたっていい! ほら、見――
 男の言葉は最後まで続く事無く途絶える。一瞬にして駆け抜けて来た舞花の放った刺突が胸を貫き、続く一閃が首を刎ねたのだ。
 既に彼等も助からないと分かっていた。
 先ほどから身の潔白を訴えていた彼等だが、最初からイレギュラーズの目には黒い痣にまみれた者が喚いている様にしか見えなかったのだ。舞花もまた、狂気が狂気を生み出す連鎖を一瞬でも早く断ち切りたかったのである。
「……手遅れの、間に合わない、助けられない人を斬るのは、何度行っても慣れはしませんね……」
 返り血を拭う事も忘れて、舞花は隣に居た女性の姿が無い事に気付く。振り向けばその姿はアニーの横を腕を振り乱して逃走している所だった。
 眼前に迫る女性にサクラが鯉口を鳴らす。だが、彼女が居合を放つより先に寛治が素早く傘で足を払い、ふわりの魔術で縛り上げられた直後にオーカーが女性の首を一瞬で折り砕いた。
「悪いが仕事なんでな」
 後味の悪い仕事に舌打ちしながらも、オーカーは即死した女性を静かに降ろした。

「十七……二十……二十五……ここにいる彼等で全員、になるのかしらね」
 綾女、サクラが礼拝堂の村人達を数えて行く。外の屍樹も含めて二十七人、事前に聞かされていた村人の総数である。外部から村を訪れた者が犠牲者に、という話は聞いていなかった事からもこれ以上の魔樹は出て来ない筈である。
 一体どんな思いで自分達の手にかけた村人を集めたのかは分からないが、礼拝堂の中に横たわる者達を見てどうすべきか暫し悩む。が、やることは変わらないのだ。
 全てを灰にする他無いのである。
「……火を放つなら早く済ませた方が良い様ですね」
 視界の端で吹き上がった血飛沫に寛治がアニー達へ速やかに指示を出す。最後まで生き残っていた彼等は知らなかったのだろうが、この魔樹は死者すらも動かすのである。
 次々に発芽しつつある屍樹達を前にしながら、彼等は油を撒き、火種を並べた礼拝堂へ一斉に火を放った。

●全て、燃える。

「主よ。どうか彼らの魂をお救い下さい。彼らの罪をお許し下さい」
 赤々と燃え盛る村を前にしてサクラの祈る声が静かに聞こえて来る。
 教会を燃やした彼等の向かった畑にはほぼ全域に『棘』がある事が分かった為、結局村の一部だろうとそうでなかろうと、怪しい場所は土すらも、全て火の海にするしかなかった。
 サクラの祈る姿を後ろから見つめながら、イレギュラーズ達は様々な思いを巡らせる。

「恨んでくれて構わないわ。他の大多数を助ける為、なんて綺麗事を言ったところで切り捨てられる少数側は納得できないものね」
 綾女は最後に逃げ出そうとした女性の泣き叫ぶ姿を思い出して呟く。

(許して下さいとも、冥福を祈る事もしません……自分にはそんな資格は無いと思うのです)
 静かに目を閉じて思う。

「これでやっと終わりか、感傷に浸るというより。疲労感の方が先にきちまう」
 空を見上げるオーカーには、夕焼けが炎に見えてしまった。
 誰も彼もが疲労を浮かべていた。だがそれでも……彼等は一様に安らかに眠ってくれる事を願っていた。

「我々の為した結果から、目を背けてはいけない」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
 皆様の活躍により少なくとも、かの森の外へは二度と恐ろしい芽は出て来ないでしょう。
 探索にかける時間が最小限に済んだ事が皆様の消耗を抑えられた様です。

 結果は成功。改めてお疲れ様でした。

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