PandoraPartyProject

シナリオ詳細

抱擁せよ、アフロディテ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「かかさま、ここはたのしいところですね!」
「ふふ、エロスったら。すっかりはしゃいでしまって」
 清らかな川の傍で神々が宴会をしていた。
 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎの中、アフロディテとエロスの親子もまたその賑やかさを楽しんでいた。楽しい時間はあっという間に過ぎていって、宴もそろそろ終わりというところでズシンっと大地が大きく揺れた。
 その場にいた神々の一人の顔が真っ青に染まった。
「テュポンだ!! 怪物が出た!!」
 テュポン、かのゼウスに匹敵する力を持ち数多の怪物の父と言われるその存在が現れたことにより宴は恐怖と混乱の渦に巻き込まれた。

 神々が火が着いたように逃げ出し、例に漏れずアフロディテも子を抱いて必死に逃げる。
「良いですか、エロス。今から母と貴方をこの紐で繋ぎます。決して離れてはなりませんよ」
「はい、かかさま」
 素直に頷いたエロスに微笑み、柔らかな髪と肌を撫でた後、アフロディテはエロスと自身を固く紐で結び川へと飛び込んだ。
(この流れに乗れば、怪物からは逃げられるはず)

 実際アフロディテは懸命であった。
 いち早く川に身を隠したことでテュポンは親子に気が付かず、その姿はどんどん遠ざかっていく。

 助かった。

 アフロディテがほっと胸を撫で下ろしたその時――。

 ぶつり。
 糸が、縁が、絆が、切れた音がした。

「――エロス? エロスーーッ!!!」
「かかさまっ! かかさま、たすけっ」
 手を伸ばせど、川の激流に呑まれ愛しい子はみるみる小さくなっていく。必死に流れに逆らい、子を追いかけようとする母の愛を嘲笑うかのように流れはさらに勢いを増していった。
「いや、いやよ、いや、いやああああああっ!!」
 どれくらい経ったかは定かではないが岸に這い上がったアフロディテの手には千切れた紐が握りしめられていた。
「エロス……エロス……」
 我が子の名を呼ぶアフロディテの瞳からは、光が消えていた。

「ああ、可愛い子、可愛い子ね」
 美しく微笑むアフロディテの腕の中にはすやすやと眠る赤子の姿があった。ここに腕のいい画家がいたならこの神聖な光景を絵画に残し、後世に伝えたに違いない。
――腕の中の赤子が、本当に彼女の子であったならだが。
 子と逸れ、絶望に叩き落とされた愛の女神はその温もりを求め心の穴を埋めるべく人の子を知れず攫っていた。美しい微笑みを湛えてはいるが、光が失われた昏い瞳は彼女が正気では無いことを示していた。
「母がずっと居ますから、ね」
 ぽたりと赤子の柔らかな頬に落ちた透明な涙に、果たして彼女は気がついていただろうか。

「よぉ、今回もよろしく頼むぜ特異運命座標」
 黒衣の境界案内人である朧がついと片手をあげる。
「また星座の神話が歪められてる、今回は魚座だな」
 魚座はアフロディテとエロスの親子が怪物から逃げる為に川に飛び込んだ際に紐で身体を結んだ姿を象っている。
 通常はそのまま逃げ仰せたのだが――。
「今回はどういう訳か水中で紐が解けちまってエロスと離れ離れになっちまったらしい。
 絶望したアフロディテは子を攫い、自身の悲しみを癒しているみてぇだ」
 しかしそれは、悲しみの連鎖にほかならず。
 子を奪われた母親達は慟哭するしかなかった。
「エロスをアフロディテの所に連れて行ってやれれば、正気に戻るはずだ。
 母親と逸れてるからな、どっかで助けを求めてるかもしれねぇ。泣きじゃくってるかもな」
 エロスはまだ幼子だが神の血を引いている。亡くなってはいないだろうと、覚えは付け加えた。
「お前さん達なら、出来るだろ?」
 朧は貴女方を送り出した。

NMコメント

 初めましての方は初めまして、そうでない方は今回もよろしくお願いします。
 星座のモチーフ大好きな白です。
 今回はうお座の御話です、愛が深ければ深いほど喪った時の傷は大きい者になるでしょう。
 以下詳細。

●目標
 エロスの捜索・救出しアフロディテの元へ連れていく
 
 本来の神話では親子は足を紐で結び、怪物テュポンから無事に逃げおおせます。
 しかし今回は紐がほどけてしまい離れ離れになってしまいました。
 絶望のあまりアフロディテは正気を失い、幼子を攫うようになってしまいました。
 結末(親子が再度一緒になる)が同じであれば途中の道筋が変わっても構いません。
 語り継がれた神話のうちの一つとなるでしょう。

●舞台
 神と人が暮らす星座の神話の世界です。
 今回は『魚座』の話の舞台です。

●敵
 アフロディテ
 美と愛を司る美しき女神で、エロスの母親です。
 彼女自身戦闘の意志はありませんが、武器などを見せれば真っ先に子を庇います。
 凍り付いて粉々になってしまった彼女の心を癒せるのはエロスだけでしょう。

●救出対象
 エロス
 アフロディテの子供です。人間の年齢に換算すると2~3歳児の幼子です。
 川に飛び込んだ後、紐がほどけて激流に呑まれてしまいましたが生きてはいます。
 母とはぐれて心細さと寂しさから泣いて助けを求めている事でしょう。

●備考
 OPに出てくるテュポンはシナリオ内には登場しません。
 
●サンプルプレイング
 ……それだけ大切に思っていたのよね。実の子だもの、私が同じ立場だったら同じことをしたかもしれない。
 絶対に息子さんとあわせてあげるから、もうこんなことやめて!
 
 こんな感じです。それではいってらっしゃい。

  • 抱擁せよ、アフロディテ完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年06月12日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
スースァ(p3p010535)
欠け竜
玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)
神ではない誰か

リプレイ

●女神の子守唄
「~♪ ~……♪」
(歌声が聞こえる……)
『神ではない誰か』玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)は、聞こえた歌声に足を止めた。
 他の三人と別れた彼は、我が子を失い、正気を喪っているアフロディテの元に単身向かう。
 美しい歌声を道標に茂みを掻き分け、開けた場所に出ると月明りに照らされた母親の姿を見た。
「あら……ごきげんよう、良い夜ね」
 すやすやと眠る幼子を抱いて桜花に向けられる微笑みは慈愛深い母親のものだ。その腕に抱いた子が攫ってきた子でなければの噺だが。
「――その子は、貴方の子では、エロス君ではないですよね」
 ぴしりと空気が凍り付く。
 虚ろな瞳が桜花を捉え、射抜いた。
「……良く聞こえなかったわ? どういう意味かしら?」
 敵意、威圧。
 そして『二度と奪われてたまるか』という執念めいたものを桜花は感じ取った。
「貴方の気持ちがわかる、なんて傲慢な事は言えません。私は……親ではないから。
 けれどその子の親も悲しんでいるはず、それはわかります」
 幼子を包む布を握りしめる手に力が籠った。
「落ち着いて、その子を離して元親に返してほしい、貴方本当は罪悪感を」
「嫌よ!!」
 叫んだ声は震えていた。
 桜花をきっと睨みつける目は光を宿していないのにも関わらず強い意志を感じさせる。
「本当は判っているわ! この子がエロスじゃないことくらい! けれど、けれど……!」
 腕の中の幼子の頬をアフロディテは撫でる。
 本当は判っている。解っているが、止められるはずもなかった。
 何処までも神の傲慢さで、何処までも人間らしい。屹度桜花が危害を加えるつもりは無いことも判っているのだ。けれど心が罅割れ凍り付いた彼女は嫌だ嫌だと幼子を抱きしめる。
 やはり彼女の心を溶かすのは第三者の言葉ではなく、愛しい我が子だけ。桜花は一拍置いてからアフロディテに告げた。
「――今私達の仲間が貴方の子、エロスを探している」
「……!?」
 ぴたりとアフロディテの動きが止まる。ゆっくりと上げられた顔に貼り付いた涙の跡と真っ赤に晴れた目が痛々しい。
「お願いします、我々を信じて待ってください。  
 捜索隊は優秀です。すぐ見付かりますから」
 大丈夫、大丈夫です。と桜花は懸命に語りかけアフロディテに寄り添う。アフロディテは狼狽していたが、やがて桜花の言葉が出任せではないと気付いたのか、ゆっくりと腰を下ろした。

「……エロスが、見つかるまでは、この子を抱いていてもいいかしら」
「わかりました」
 僅かながら、アフロディテの眼に光が戻った。

●母の愛
「狂っちゃうことに納得はするが、まぁその行動を肯定するのは厳しいね」
(だからといって、放っておけもしないけど)
 水の中を探索していた『欠け竜』スースァ(p3p010535)が顔を出した。
 ぷはっと息を吐きだし、手に掴んだ紐をの切れ端を眺める。之が千切れて、親子は引き裂かれた。
(アタシだったら、どうしていただろう)
 頭に過ったのは母親が違う妹の幼い頃。
 お姉ちゃんと自分を慕ってくれる大切な存在。
 スースァ自身、もし彼女を失ったら正気でいられる自信は無かった。故に、アフロディテの行動も理解できないわけでは無い。だが、理解はできても肯定できる行為ではない。
「早く再会させてやった方が良さそうだね」
「うん、そうだね。なんせ子供を見つけたら息子と思い家に持ち帰ってしまうぐらいだ。
 相当思い悩み探し回ったのだろうからね」
 『言霊使い』ロゼット=テイ(p3p004150)は自身に嵌めた銀細工の指輪を見た。ゆうらり陽炎の様に揺らいだそれは予兆を持ち主へ教える。
 浮かび上がった印にふむふむとロゼットは頷き、肩を竦める。
「ふむ……誰かに保護されているのかと思ったが。そもそも誰にも見つけられていないらしいね」
「そいつはヤバイね。神様の子っても赤ん坊みたいなモンなんだろ?」
 ロゼットの占いの結果にスースァは周囲を見渡した。耳も目も人より良い自信はある。子供の声は聞き逃したくなかった。探してるから、という現実的な理由だけじゃない。
(やっぱ嫌だろ、悲しくて泣いてるってのは)
 小さい子が母を想い、今も一人で寂しく泣いている。
 想像するだけで胸が張り裂けそうだった。
「なぁ、星の巫女さん。なんか聞こえるかい?」
 スースァが『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)に問いかける。
「いえ、まだ。何も」
 その表情には若干の焦りの色が浮かんでいる。
(早く子供をみつけ、アフロディテ神を諌めねばなりません)
 ――これ以上母の愛を暴走させる前に
 今でさえアフロディテは子を喪った絶望から人の子を攫うという暴挙に出たのだ。
 愛が深ければ深いほど、絶望は大きくなり。
 どんどん境目を見失っていく。
 神が堕ちた神話は正純もいくつか知っていたが、その結末は大概碌なものではない。
 そうならないように、星の巫女はまた神話を正しに来た。
(運命とはどうしてこうも残酷な悪戯をするのでしょうか)
 歪められた神話に眉根を寄せつつ、正純は助けを求める声を探す。
(決して聴き逃しません。決して見逃しません)
 神の子とは言えまだ2~3歳の幼子なのだ。大好きな母と逸れてどれだけ心細いだろうか。
 正純は本親の顔を知らない。覚えてもいない。
 幼い頃どうして過ごしていたのかさえ、朧月の様に曖昧だった。それでも、手を繋いで抱かれて街を往く親子の姿を見かけるたびに胸が締め付けられた。
 子どもの孤独な心は何よりも知っている。
「だから、必ず見つける」
 一歩力強く踏み出した時、正純の耳に何かが聞こえた。はっと目を閉じ、耳を澄ます。

 ――ひっく、かかさまぁ……だれかぁ……!

 切なげな、酷く寂し気な声だっ。
「……っ、聞こえました! こちらです!」
 草履の鼻緒が指の間に喰いこんだが、そんなこと気にしていられなかった。夢中で駆け抜け続けた森の中。
 正純は淡い光を纏い、泣きじゃくる幼子を見つけた。その細い足首には千切れた紐が括りつけられている。
「かかさま、かかさま」
「エロス君……ですね?」
 そっと歩み寄り跪いて視線を合わせる。
 優しく語り掛ければ、ゆっくりとエロスが顔を上げた。真っ赤な顔でぼろぼろと大粒の涙を零す姿が心に刺さる。
「ひっく、おねえさ、だれ、ですか?」
「私は正純といいます。あっちの角のお姉さんはスースァさん、隣の金色の目のお姉さんはロゼットさんといいます」
 正純の紹介にスースァは軽く片手を、ロゼットは口に弧を描いてゆっくり頷いた。
「よく一人で頑張りましたね」
 ゆっくりと頭を撫でてやり、正純は微笑む。
「さあ、涙をふいて。私が、私たちが着いています。お母様の所へ帰り、安心させてあげましょう」
「かかさまのところ」
「ええ、お母様の凍り付いた心を溶かせるのはエロス君だけです」
 正純が腕を広げると、少し躊躇いを見せながらもエロスはその腕の中へ納まった。

●抱擁せよ、アフロディテ

 只管走る、奔る。
 一刻も早く、アフロディテの元へエロスを連れて行かなければならない。桜花の説得はどうなっただろうか。一抹の不安が過るも、今は唯エロスを抱いて駆ける事しかできなかった。


「……ほら、私の言った通りだったでしょう?」

 どれくらい走ったかは分からなかったが、桜花の穏やかな声が意識を現実に引き戻した。
「あ、ああ……」
 よろよろと立ち上がるアフロディテに、正純は息を整えエロスを降ろした。
「美の女神、アフロディテ。あなたの大切な子をお連れしました」
「ほんとうに、本当にエロスなのですか」
「はい。どうか、その悲しみと苦しみからご自身を解放してください。そして、なんの因果もないその子を、解放してください」
 アフロディテの傍で眠る幼子。
 経緯はともかく愛情を注がれていた事には違いなかった。
 愛の女神の名はその通りだった、だから。だからこそ正純は凛とアフロディテに告げる。

「星に仕える巫女として、あの空の瞬きをこれ以上汚すのは、どうかおやめ下さい」
「かかさま!」
「ああ、エロス……! エロスっ!」
 ぱたぱたと大好きな母の腕にエロスは飛び込んだ。間違えようもない愛しい我が子の温もりがアフロディテの凍り付いた心を溶かす。溶けた氷は涙となってアフロディテの瞳から流れ零れ落ちた。
「感動の再会ってやつかな、良かった良かった」
 スースァの翠の瞳が細められる。ああ、でもとスースァはアフロディテへ語り掛けた。
「なぁ、アフロディテ。攫ったのは神様だろうとよくないことってのは、子を思う母でもあるなら理解できるよな?」
「えぇ……この子の親には申し訳ないことをしました……」
 途端に憂いを帯びたアフロディテに責めているわけでは無いとスースァは付け加える。
「ただ攫われた方は不安ではあったろうから、神様なんだし加護とかなんかそういうの、少し与えて安心させてやったらどうかなって思ったのさ。
 ま、そこは神様の思うままだけどね」
「ええ、そうですね。……この子に愛の加護を」
 アフロディテは口づけをひとつ幼子の小さな額に一つ落とした。ふにゃりと笑った幼子に向けられる目は温かく光にあふれている。
「かかさま」
「ふふ、そうねエロス」
 控えめに母の服の服の裾を引くエロスにも、同じく口づけを落す。まごうことなき、愛の形であった。
「うん、無事に逢えたようで何より」
 ロゼットは満足そうに何度も頷く。胸にあるのは見事依頼を達成したという達成感と、雨の日の古傷の様なズキンとした痛みだった。
(もし、もし母が生きていれば)
 あんな風に抱きしめて、柔らかな微笑みを向けてくれたんだろうか。顔も知らない母が急に恋しくなった。その寂しさが言葉として紡がれることは終ぞ無かったけれど。
「……本当に良かった」
 目尻にじんわり浮かんだ雫を正純は拭う。
 夜空には美しい星が強く清らかに瞬いていた。

成否

成功

状態異常

なし

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