PandoraPartyProject

シナリオ詳細

エントマChannel/無人島編。或いは、チャンネル登録お願いします...。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●エントマChannel
 画面一杯に映っているのは、眼鏡をかけた少女の顔だった。
 猫のようなアーモンド型の瞳は妙にキラキラ光ってみえる。
『 Opa! エントマ・ヴィーヴィーの~! エントマ! チャンネル~!!』
 顔の横でピースサイン。
 明るく、大きく、はきはきと。
 彼女は何かの……おそらく、彼女が撮影している動画のタイトルを……口にした。

 エントマと名乗った少女は、わざとらしく大仰な仕草で数歩ほど後ろへと下がる。
 彼女が立っているのは、どうやら砂浜のようだ。
 燦々と降り注ぐ太陽の光と、寄せては返す波の音。
 遠くには、鬱蒼とした緑の茂りが見えている。
 天候から判断するに場所は海洋……とくに熱帯な海域のようだ。
『今、私は海洋の無人島“アレグレ”に来ています! えー、何をするつもりなのかって言うとね、今日からここで1ヵ月間のサバイバル生活を送るんだ! サバイバルの様子は、定期的に配信していくよ!』
 彼女がそう言った瞬間、画面一杯にはカラフルでポップな文字が現れた。
【エントマ・ヴィーヴィーが無人島で1カ月間サバイバルに挑戦してみた:part1】
 どうやらそれが企画の名前であるらしい。
 タイトルの後ろに流れるのは、どうやら島の映像だ。
 見渡す限りの青い海。
 真白い砂浜。
 流れる小川に、澄んだ水で溢れた泉。
 獣道と、生い茂る植物。
 熱帯な気候のためか、植物はどれも大型だ。時折、毒蛇や蜘蛛などの生物が映る。
 そして、太い木の幹に残された獣の爪跡。
 モザイク処理で隠された、体長2メートルほどの獣の姿。
 頭部から背面、そして尾にかけては白く、鼻先から腹部、四肢にかけては黒い体毛で覆われている。全体的なフォルムとしてはイタチに似ているだろうか。
 暫くの間、上のような映像を流した後、画面はぱっと切り替わる。
 次に映ったのは、砂浜に広げられたごく一般的なキャンプ用品。
 それから、3本の水筒と僅かばかりの保存食。
 そして、膝を抱えて項垂れているローレットの情報屋、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)の哀れな姿。
『はい、皆ちゅうも~く! この人誰? って思った人も多いよね? この人は、今回一緒にサバイバル生活に挑戦する新人動画配信者! 名前はイフタフちゃんです! ヨロシクね☆』
「……イフタフっす。よろしくお願いするっす」
 掠れた声でイフタフが挨拶を口にした。
「え~、それじゃあ皆さん。高評価&チェンネル登録、よろしくっす」
 と、そう言って。
 尋常ではないほどに疲弊した顔で、彼女は「はぁ」と、か細い吐息を零すのだった。

●イフタフからの手紙
 イフタフが島にいるのは偶然だ。
 密林島に異変があると聞いた彼女は、調査のために現地へ赴き、そこでエントマに捕まった。
 聞けば、エントマは練達を中心に活動している動画配信者であるらしい。
 あちこちの国や場所へ出向いては動画を撮影し、それを練達の人々にエンターテイメントとして配信するのだ。
 何でも、その体当たり的な配信スタイルからエントマの人気はここ最近、急上昇を続けているとのことである。
 そんな彼女が次の企画として立ち上げたのが、海洋の無人島にて1カ月間のサバイバル生活を送るというものだった。
 当初の予定では、現地ガイドのナビゲートに従いながらのサバイバル生活となる予定であったらしい。しかし、いざ島へと渡ってみれば、件のガイドの姿はなく、代わりにいたのがイフタフであった……と、事の次第はそういうわけだ。
 エントマに捕まったイフタフは、半ば強引にサバイバル生活に付き合わされているらしい。
 当初の予定である異変の調査もあって、帰るに帰れないのである。

 イフタフから届いた手紙には、要約すると上のような話が記載されていた。
 それと併せて「折を見て島へ助けに来てほしい」という依頼も。
 どうやらイフタフはエントマという少女に気に入られたらしい。情報屋として培った知識や無人島に単身で調査に乗り込む行動力などが、彼女の琴線に触れたのか。
 ローレットの仕事がある。
 配信者に興味はない。
 上記のような説明をしても「そのうち良さが分かるって! 君なら人気者になれるよ!」と取り合ってはもらえない。
 夜の間に逃げようとすれば、彼女の放つ大音声に【停滞】【無策】を付与されたうえ、異常に高い機動力と反応速度でもって、あっという間に捕まった。
 イフタフ1人では、エントマから逃げ切ることは出来ないのだ。
『しかし、状況は非常に切迫している。島の動物たちが怯えた様子を隠さないこと、食用となる木の実などのほとんどが何かに食い荒らされていることからもそれは確実だ。私はその原因を、島のどこかに大型の肉食動物か魔物が潜んでいるからだと予想する。そしてそれは、木々に残った爪跡から【失血】【飛】【物無】を持っていることものと思われる』
 以上が、イフタフによる島の現状についての見立てである。
 幸い、島には泉と小川が流れている。
 飲み水に困ることは無いのが唯一の救いだろうか。
 しかし、そのような島で、戦う術を持たない2人が1カ月もの間を生き延びられるとは思えない。
 
 島で起きている異変の原因を突き止める。
 そして、イフタフを連れて島を脱出する。
 任務の内容を簡単に纏めるのなら、およそ以上のようになる。

GMコメント

●ミッション
島で起きている異変の原因を突き止めること

●ターゲット
■エントマ・ヴィーヴィー
眼鏡をかけた若い女性。
おそらく練達出身。
動画配信者らしく撮影用の自立式撮影機を携えている。
体当たり的な配信スタイルが好評らしく、現在は無人島“アレグレ”にて「1カ月間サバイバルチャレンジ」を撮影中。
ガイド役としてイフタフ・ヤー・シムシム(NPC)が捕まっている。
また、彼女は大音声を叩きつけ【停滞】【無策】を付与する技を身に付けている。

■アレグレの巨大獣×1(?)
島の生態系を乱している原因(と見られる生物)
エントマの撮影した映像から確認できる限りでは、体長はおよそ2メートル。
頭部から背面、そして尾にかけては白く、鼻先から腹部、四肢にかけては黒い体毛で覆われている。全体的なフォルムとしてはイタチに似ていることが分かるが、詳細はモザイク処理を施されており不明。
木々に残った攻撃痕から【失血】【飛】【物無】を有していることが分かる。

●フィールド
海洋の無人島“アレグレ”
気候は熱帯。
密林と小川、澄んだ水の湧く泉、崖や砂浜などが存在している。
安全とは言えないが、ガイドがいれば1カ月程度は素人でも生存可能な程度の危険度……だったのだが、現在は島から野生の獣や果実の類が消え失せるなどの異変が起きている。
なお、エントマが現地で合流する予定であったガイドの姿は見当たらない。
道らしい道はない。
また、エントマとイフタフが島のどこに拠点を造っているのかなど、現在時点では不明。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • エントマChannel/無人島編。或いは、チャンネル登録お願いします...。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜
レオナ(p3p010430)
不退転
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星
エリカ・フェレライ(p3p010645)
名無しの暴食

リプレイ

●エントマchannel
『 Opa! エントマ・ヴィーヴィーの~! エントマ! チャンネル~!!』
 顔の横でピースサイン。
 明るく、大きく、はきはきと。
 お決まりの挨拶から始まった配信は、初っ端からクライマックスの気配であった。
 上下左右に激しく揺れる画面の中には、頬に汗を浮かべたエントマの引き攣った笑顔。
 その後ろには、今回企画のコラボ相手であるイフタフ・ヤー・シムシムが今にも死にそうな顔で続く。
『皆! 来てくれてありがとう! 常連さんも、新規さんもOpa!』
 ニコッ☆と擬音が弾けそうないい笑顔で、底抜けに明るいウェルカムコール。
 モニターの右端を、ものすごい勢いでコメントが流れ落ちていく。
『あはー! こんなにたくさん来てくれてるの! ありがとー! えぇっと、それじゃあ早速だけど今日の企画を発表するよ! 今日はなんと……島に住んでいた怪物に、絶賛追いかけられてま~すっ!』
 そう言ってエントマは、カメラを背後へと向けた。
 血走った目に、口の端から零れる唾液。
 鋭い爪で地面を抉り、木の幹を裂いて、駆けて来るのは体長2メートルは裕に超える獣であった。背中側の体毛は白く、顔から腹、手足にかけての体毛は黒い。
 よくよく見れば、皮膚だってまるでゴムタイヤみたいに分厚く、頑丈そうであると分かるだろうか。
『今日の配信はあれから逃げるだけで終わっちゃいそうかも? 皆、応援の高評価、拡散、チャンネル登録、投げ銭、待ってまーす! ……ところであれ、何だろうね?』
『何だろうねじゃないっすよ! ラーテル!! あれ、ラーテルっす! 地上で最も恐れ知らずかつ狂暴な獣っすよ!』
 我慢ならん、といった様子でイフタフが吠えた。
 直後には、今の叫びで体力を大きく消耗したのか、ぜぁはぁ、と荒い呼吸を繰り返すだけとなったが。
『わっ! イフタフちゃん、博識だね!』
 なんて。
 冷や汗を浮かべたエントマは、しかしどうにかギリギリのところで笑顔を保ってそう言った。なるほど、向こう見ずで無鉄砲、危険に自分から跳び込んでいくスリルジャンキーな彼女はしかし、たしかにその道の“プロ”なのだろう。

「……練達じゃ最近はこういうモンが流行ってるのかい? 経験も知識もねぇやつが無人島で一ヵ月ってのは無謀にもほどがあると思うんだがね。俺にはわからん世界だ」
 白い砂浜に降り立って『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は紫煙を燻らす。
 先ほどまで見ていた動画で、一時的にエントマ&イフタフが拠点としていた砂浜だ。しかし、既に2人は移動した後。
 風と波とにさらわれて、足跡の1つも残っていない。
「さぁ、どうだろう? それにしてもイフタフさんも災難だな。巻き込まれたのには同情するよ……」
「中々にめんどくさい案件ですが、ご飯にありつけるならエリカは無問題なのです」
 十夜についで浜へ立つのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『名無しの暴食』エリカ・フェレライ(p3p010645)の両名だ。
 視線を左右へ巡らせてみれば、砂浜の隅に焚き木を起こした後がある。
 けれど、遮るものさえ何もないような砂浜では長時間の滞在にはやはり不向きなのだろうか。それとも“撮れ高”を求めて、危険な森……というよりも、ジャングルか密林といった様子だが……へ突撃したか。
「んもー、無人島サバイバルに行くならボクも呼んでよねっ! こう見えて、野良で生きていくのは結構得意なんだよっ!」
「リコリスじゃないが、こちらも長期滞在を視野に入れるべきか? サバイバルというわけじゃないがずっと貧しいまま耐えてきた時期もあったからな、いい感じにやれると思うが」
 意気揚々と森へ向かって進む『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)の襟を掴んで引き止めながら、『表裏一体、怪盗/報道部』結月 沙耶(p3p009126)は遥か砂浜の遠くを見やった。
 耳を澄ませば、波の音に紛れて、幽かな川のせせらぎが聞こえる。
「川沿いに進んでいると考えるのが自然か……しかし、少し急いだ方がいい。スコールが来るぞ」
 と、そう言って。
『亜竜祓い』レオナ(p3p010430)は腰のナイフに手を伸ばす。

 海洋の無人島“アレグレ”
 海洋国家の大海に、星の数ほどある無人島の1つだ。
 気候は熱帯。
 森と小川と泉に砂浜、食用に適した果実や山菜の類もよく取れる。
 危険と隣り合わせが常の無人島と考えれば、比較的安全な島だ。
「とりあえず、この状況で生き延びるのは得意だ。覇竜に比べればえんやこら、ってな」
 一つ。
 岩を蹴って跳んだ『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は、頭上の枝から果実を1つもぎ取った。
 林檎によく似た、甘い香りのする果実。
 それなりに高い位置にあったからか、島に潜む怪生物やエントマたちにも取られずに済んでいたのだろう。
「要するに樹上で暮らす猿やリスなんかも逃げ出しているってことだけど……2人だって流石に、火も起こさずに過ごしているという事は無いはず」
 火の痕跡を探しましょう。
 そう言って『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)は、小川の畔へと降りていく。
 燐火の頭上には1羽の小鳥。
 高く高く……島全体を見渡せるほどの高度まで、徐々に舞い上がっていく。

●エントマ・ヴィーヴィーの配信道
「ほら、笑って笑って! 私たちが泣いたり怒ったりしてちゃ、リスナーの皆もノれないよ!」
 囁くようにエントマは言った。
 島の中央、泉の畔で2人は絶賛、休憩中だ。
 否、正確に言うのなら倒木の影に潜伏中と称するべきか。
 バキ、と近くで木を踏み負った鈍い音。
 あいつだ……体長2メートル超えの巨大ラーテル(おそらく魔物であろう)が、すぐ近くまで来ているのだ。
「ったって、エントマさん。この状況、絶体絶命ってやつじゃないっすか?」
「そう。つまり“おいしい”場面ってことよね?」
「……あ?」
「ピンチはチャンス! 昔の偉い人は言いました!」
 やってやるぞ! と気合一声。
 エントマはカメラをオンにする。
『さぁ! リスナーの皆、準備はOK? それじゃあ、後半戦の始まりだよっ!』
『はぁぁっ!?』
 悲鳴をあげるイフタフを、半ば無理矢理に引き摺って。
 エントマは、倒木の影から飛び出した。
 そんな彼女の、緊張と興奮に上気した顔をカメラは斜め下のアングルから移す。
 すぅ、とエントマは肺いっぱいに澄んだ空気を吸い込んだ。
 それから彼女は、口元へと取り出したスピーカーホンを寄せる。
『っ! やばっ!』
 その気配を察知して、イフタフはすぐにカメラに付属するマイク機能をミュートへ設定。
 10日ほどの無人島配信生活の中で、すっかり彼女は機材の扱いに慣れていた。
 そのまま流れるように自分の耳を両手で塞ぎ、亀のように蹲る。
 直後……。
『-----------------------------■■■■■■■■■■■■!!』
 空気を震わす、爆音みたいな大音声がラーテルの辺りに響き渡るのだった。

 剣術の世界には“猿叫”と呼ばれるものがある。
 打ち込みの瞬間に絶叫を放ち、気合を入れる。または、敵を威圧、牽制することが目的だと言われている。
 要するに、エントマの放つ大音声はそれに近い性質を持つということだ。
「っ……! 飢え死にする前に見つけたはいいが」
 抜刀直後の姿勢を維持し、十夜は頬に冷や汗を浮かす。
 真正面からエントマの大絶叫を叩きつけられたのだ。鼓膜が破れそうなほどの大音声は、もはや衝撃派に近く、十夜の動きを一瞬その場に止めるに至った。
 一方、ラーテルはと言えば、太い前肢で倒木を砕いた姿勢のまま停止している。
 十夜と同じく、真正面からイフタフの絶叫を浴びて、身動きが出来ないでいるらしい。
「あれか。生態系を乱している元凶とも思われる巨大獣とやらは」
「かなり巨大だが……ラーテルだな。イタチ科の食肉類だ」
 レイピアを抜いた沙耶と、ナイフを逆手に構えたレオナが前に出る。
 動き出したラーテルを、後方へと抜かさないよう防御の姿勢を取ったのだ。
 密林を抜け、飛び出していったイレギュラーズをエントマおよびイフタフは視認しただろう。このような状況だ。武器を持ったイレギュラーズを頼って、逃げて来るものと判断したのだが……。
『あはっ☆ 突然知らない人たちが来ちゃった! 映しちゃ悪いし、向こうへ逃げよう!』
「え、ま……あれは私のしりあぁぁあああああ!」
 あろうことかエントマは、踵を返して逆方向へと逃げ出した。
「くっ、待て!」
「俺達は島の調査に来たんだ。エントマさんだろ? 練達で配信して……聞いてないな!」
 レーカとイズマが逃げて行ったエントマを追う。
 一方、ラーテルはと言えば、獲物を抜いて迫るレーカとイズマの2人を敵と判断したのだろう。地上で最も狂暴な動物という肩書きに恥じぬ獰猛さを見せ、2人へ向けて頭から跳びかかっていく。
「島の安全のためにも、巨大獣は討伐せねばならないか」
 一閃。
 レーカが攻撃を受け止めた隙に、イズマは細剣を奔らせる。
 目にも止まらぬ斬撃は、確かにラーテルの首を穿った。
 けれど、しかし……イズマの放った鋭い斬撃は、ラーテルの背に阻まれて、肉を断つに至らない。
「っ!? なんで……っ!」
「皮膚が分厚いんだ。その上、伸縮性と硬度を併せ持つ」
 イズマの抱く困惑への答えは、レオナによって齎された。
 通常のラーテルの皮膚でさえ、獣の爪や牙程度なら容易に弾く。2メートルを超えるサイズとなればなおさらだ。
「ちっ……物理主体の身ゆえタンクとしての役割に徹しよう」
 怒りのままに腕を振るうラーテルを、レーカは正面から受け止めた。
 壁役として十夜もそこに加わるが、その間にもエントマとイフタフの姿は遠ざかっていく。
「エリカが追います。ところで、傍迷惑なエントマさんは食べちゃダメ?」
「練達ははた迷惑なのは機械だけかと思いきや……人間にも迷惑なのがいるものだな。我慢してくれ。あれでも一般人だ」
「……そうですか、駄目ですか……残念なのです」
 ラーテルの鼻先を狙い、沙耶が爪の形に変えた影を打ち込む。
 一瞬、ラーテルが顔をそむけた隙を狙って、エリカは2人の後を追って駆けだした。彼女を先導するように、1羽の小鳥が飛んでいる。

 逃げる2人の背を見つめ。
 リコリスは、赤いフードを被った。
 地面を蹴って、近くの樹木へ足を乗せる。
 跳躍。
 樹から樹へと飛び移るようにして、リコリスはエントマの背を追いかけた。
 フードの隙間から見える顔は無表情。
 淡々と。
 逃げる獲物を追いかける、野生の獣か狩人とはきっとそんな顔なのだろう。

 腕に纏った魔力の光。
「貴方が異変の原因?」
 ピンクの髪と、黒いマントが風に大きくはためいた。 
「殴り飛ばして排除できる相手で良かったわ!」
 殴打。
 殴打、殴打、殴打のラッシュ。
 ラーテルの脇や腹を狙った燐火の拳が、その巨体を後方へ弾いた。
「っ……た」
 燐火の攻撃を、ラーテルもただ黙って受けていたわけではない。
 振るった爪が、彼女の拳から肩にかけてを深く斬り裂いていた。裂けた肉の間から、熱い血潮が噴き出した。
 自身の血で顔を赤く濡らした燐火は、歯を食いしばって姿勢を落とす。
 地面を蹴って、飛び出す刹那……。
「ぐ……はぁ」
 その傍らで、レーカが地を吐き地に伏した。

 密林に、少女の悲鳴が、木霊した。
「ちょっと! せっかく助けに来てくれたのに何で逃げるんっすか!?」
「仕方ないじゃない! プライバシーの保護とかあるんだよ!」
「守るべきは、プライバシーより身の安全っす!」
 言い合いをしながらイフタフとエントマは密林を駆ける。
 正確には、イフタフを抱えたエントマが密林を駆け抜けているのだが。
 飛ぶように、或いは野生の獣のように。
 エントマの身のこなしは軽く、そして速い。イフタフというお荷物を抱えていてさえ、そこらの一般人では到底追いつけないほどの速度であった。
『皆、見てるぅ? エントマChannel名物、エントマエスケープ!』
 逃げているだけだが。
 それにしたって、脚が早い。
 けれど、しかし……。
 タン、と。
 空気の抜ける音が鳴る。
 それは消音装置を通した銃声だ。
 直後、浮かばせていたエントマのカメラが砕け散る。
「……は?」
 思わず、といった様子でエントマは足を止めた。
 悪手だ。
 不測の事態に動きを止めるなど、危機管理が甘すぎる。
 けれど、イフタフにとっては好都合。
「リコリスちゃぁぁん! ここっす! 助けてほしいっす!」
 刹那の間さえ開けることなく。
 イフタフは、声の限り“助けて”の叫びをあげたのだった。

●チャンネル登録よろしくね
 刀の腹で、鋭い爪を受け流す。
 十夜と【パンドラ】を消費し立ち上がったレーカの2人がかりでも、ラーテルを抑えるのがやっとといった有様だ。
 全身に幾つもの裂傷を負い、2人はすっかり血塗れだった。
 ただでさえ狂暴な獣……それも魔物だ。島の生態系を壊すほどに強力な個体ともなれば、戦闘力も桁が違う。
「どうせやるなら、無人島の宣伝動画でも作ってくれりゃぁいいんだがなぁ。そっちの方が見るやつも増えるんじゃねぇかい?」
「いやぁ、十夜さんの戦いもそれなりに人気が出そうだけどね」
「いっそのこと、配信を始めてはどうだ?」
 左右から剣とナイフを振り下ろし、イズマとレオナがくっくと笑った。
「やめてくれよ。呼んでもいねぇ厄ネタまで引き寄せそうだ……と、よし捕まえた」
 2人の刃は、ラーテルに致命傷を与えるには至らない。
 頭部から背にかけての毛皮と皮膚はそれほどに頑丈なのだ。
 しかし、2人の攻撃に紛れ込ませた十夜の気糸がラーテルの四肢を締め上げる。
 動きが止まった。
 一閃。
 レオナのナイフが、ラーテルの鼻先に裂傷を刻む。
「これ以上生態系に影響出ても厄介だしな。早々に仕留めよう」
「というか、個体ってこれ1匹? かなりヤバいし、でかいけど外来種かしら?」
 沙耶の影が、ラーテルの顎を貫いた。
 悲鳴をあげたラーテルが、影から逃れるべく頭を逸らす。
 がら空きになった喉元へ、一瞬の間に燐火が駆け込み……。
「煮え滾れ、竜血。鮮烈なれ、我が魂魄。紅焔巡りし力の環、轟き吼えて威を示す。赫灼たれ、我が一撃よ!」
 口の端から火炎を吐いて、彼女は高らかに吠えた。
 右手に纏うは集約された眩い魔光。
 踏み込みと共に放たれた拳が、ラーテルの喉から頭部にむけてを打ち抜いた。

 すぅ、と。
 エントマが肺いっぱいに空気を吸った。
 口元に寄せるスピーカーホン。
 ビリ、と空気が僅かに震えた。
「み、耳を塞いで!」
 イフタフが叫ぶ。
 樹々を足場にリコリスが跳んだ。
 回避は間に合わない。
「エリカも動画配信者になりたいから教えてエントマお姉ちゃん♪」
 否。
 回避など必要ないのだ。
 背後より聞こえた媚びるような声音に惹かれ、エントマはそちらへと顔を向ける。
 そこにいたのはどこかぼうとした小柄な少女。
 にぃ、と耳まで裂けんばかりに口角を上げた歪な笑み。
 ゆらり、と少女……エリカの足元で、黒い影が意思を持つかのように踊った。
「……っヒ! な、なに」
「ねぇ、さっきの獣って食べられる? 食べるのならやっぱりステーキとかそういうのがいいかな?」
 食レポ配信は人気が高い。
「未知の獣が食材ともなれば、そりゃあ……あ!?」
「あぉぉーん! ほらほら、こわ〜〜い獣なら」
 一瞬。
 エリカの言葉に気が逸れた。
 致命的だ。
 獣を前に隙を晒したエントマの落ち度だ。
 弱肉強食の理を、エントマは真に理解できてはないのだろう。
 そして、悲しいほどに彼女は“配信者”だった。
 だからこそ、彼女はここぞという時に、思わず意識を“生き残ること”から“配信のネタ”へと移してしまった。
「ここにもいるよっ!」
 音もなく。
 迫る掌打がエントマの手からスピーカーホンを叩き落す。
 次いで、肩に一撃。
 肘、手首、腹、胸……たまらず、エントマはイフタフの身体を取り落とす。
「んも〜エントマさんたら、イフタフさんを1ヶ月もひとりじめするなんてずるいんだぞ!」
 コン、と。
 顎を打ちぬかれ、エントマの身体から力が抜ける。
 その場に倒れたエントマを見て、エリカの腹がくるると音を鳴らすのだった。

 危険に立ち向かう勇気。
 ラーテル相手に互角以上の勝負を繰り広げる戦闘力。
 密林を踏破するサバイバル技術に、逃げるエントマへ追いつく脚力。
 加えて、見た目も申し分ない。
「折角野生気分でサバイバルするのならボクも混ぜてよ!」
 なんて。
 ぷんすこしているリコリスの憤りさえ、エントマにはどうでもよかった。
 そんなことより、重要なことがこの世にはあるのだ。
「ねぇ……今度、コラボしよーよ。また、イフタフちゃんも一緒に」
 なんて。
 脱力し、地面に横たわったまま……エントマ・ヴィーヴィーは次の配信を企画した。

成否

成功

MVP

エリカ・フェレライ(p3p010645)
名無しの暴食

状態異常

十夜 縁(p3p000099)[重傷]
幻蒼海龍

あとがき

お疲れ様です。
島の異変は無事に収束。
エントマの配信は急遽中止&捕まっていたイフタフは解放されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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