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シナリオ詳細

<Paradise Lost>Tell me tha truth

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●サリュー城下炎上
 爆発と爆発。更に爆発があった。
 あがる炎は黒煙を膨らませ、黒煙を突き破り赤い炎が夜を茜色に焼く風景があった。
 特殊な魔術によって芸術的なまでに設計された爆発は、時として塔ひと棟だけを綺麗にくしゃりと潰し、時には噴水公園を巨大な噴水だけしかない場所へと変え、時には有名な四階建てアパルトメントの真ん中だけを消して三階建てに変えた。
 それらは人通りの『少ない順』に行われ、徐々に迫るかのような危険に人々の不安は増すばかりである。
 そんな中で、魔術的な記録音声が街中で垂れ流される。
『芸術的なショーを見てくれたかね、城下の諸君。
 これから最後にして最高のショーをお見せする予定だ。ぜひ見てくれたまえ。
 舞台はかの芸術的建築物として知られるアマティアズ・アリーナ。
 ここへ君たちの親しき隣人たちを招待してある。
 なあに、チケットを求めて走る必要はないとも。お代は諸君らの命だけで結構だ。
 楽しんでくれたまえ! ハハハ、フハハハハ!』
 こんな……児戯のごとく滑稽な、しかし決定的な脅威をもって、サリュー城下は混乱に震えることとなる。

●サリュー派閥からの依頼。あるいは、友からのシークレットレター
 幻想王国某所。昨今増えつつある庶民向けのレストランに、三人のローレット・イレギュラーズが呼び出されていた。
 ひとりはガーベラ・キルロード (p3p006172)。
 自身を悪役令嬢と公言して疑わない、毎月なんかの野菜をくれるきさくな貴族である。
 彼女の対面には同じくキルロード家の次男にあたる人物、ナハト・キルロードが座って居る。
 彼はさっきからマリトッツォとタピオカドリンクを前に『マジ映える』を連呼していた。
「…………」
 続いて魔法騎士セララ (p3p000273)。異世界からやってきた魔法少女で、王の開いたブレイブメダリオンランキングでは六位にランクインし、多くの声援のなかで新世代勇者として名を知られた少女であった。
 彼女の向かいには『薔薇の魔法少女』ミストルティン。
 隣でずっと映え映えいってる男を肘でこづいては肩身が狭そうな顔をしていた。
「…………」
 そして次に、オウェード=ランドマスター(p3p009184)。
 先述したランキングにてセララに次ぐ七位という記録を残し、歴史に名を連ねるに至る勇者の一人だ。
 ガーベラ、セララ、そしてオウェードはなんとも言えない空気のなか、互いの顔を見つめ合う。
 三人の共通点は、あるようで、ないようで、ある。
「もしかして私達を呼び出したのって……リ」
「「すとっぷ」」
 ナハトとミストルティンが全く同時に、異口同音に手をかざした。あまりに食い気味かつ息があっていたせいで三人同時に黙ってしまった。
「色々聞きたいことはあると思うけど、私達『表』の薔薇十字機関には情報は伝わってないの。『それ』を探ろうとした仲間もいたけど、先週から連絡がつかないわ」
 わざわざぼかして発言するミストルティンに、セララは何かを察した。
「ボクたちに、お願いしたいことがあるの? ミストちゃん……」
「ミストルティン」
「ミストちゃん」
「うん……」
 額に手を当てたミストルティンが、もう一度ナハトを肘で小突く。
「まあ俺っチ? お嬢にはマジドッグ寄りのドッグからの忠誠オブ忠誠フィーチャリング忠誠なワケ。だからトラストいかねーつってバックれかますとアウトオブアウトでお嬢様の役にたてねーじゃん? だからドサ&周りに甘んじ&卍なワケ」
「ん、ん?」
「うむ!?」
 すごい早口で言い出したハナトに、セララとオウェードが同時に振り向き、血縁のガーベラに翻訳を求めた。
 しかたないという顔をして、そっと耳に口を寄せひとに聞こえないような小声で説明を加える。
「ナハトたちはアーベントロートの私兵である薔薇十字機関の中でも表に出やすい仕事を担当しているメンバーですの。より厳密に言えば、今まで表にでていたリーゼロッテお嬢様に対して忠誠心の高いメンバーですわね。だから、今回の騒動では雑務を押しつけられる形で現場から遠ざけられているんですわ。けれど刃向かえば消されるでしょうし、コネクションを失えばお嬢様の役に立てなくなる。そういう立場に置かれているということですわね」
「すごいね。わかるんだこれ……」
「まるで暗号じゃのう」
 オウェードの言葉は言い得て妙だった。実際、ナハトは親しい人間にしか分からないような言い回しをわざと使っているのである。更に言えば、今の言い回しには『兄弟姉妹の間でしか使われない暗号文』が仕込まれていた。仮に言い回しを解読されてもその裏に真の意図が隠れているという二重暗号である。
「私達が言いたいのはそれだけよ。悪いけどあなたの力にはなれないわ」
 冷たく言い放ち、席を立つミストルティン。そして、冷たいまなざしのままセララに一度振り返る。
「ねえ、あなた……まだアキバと同じ事、してるの?」
 セララは一度まばたきをして、そして『うん!』と大きな声で言った。
 『勝手にしたら』と言って苦笑し、歩み去るミストルティン。
「今のは?」
「うーん……これも、暗号? みたいな?」
 どうやらセララとミストルティンの間でだけ分かりあえる何かがあるらしい。だからだろう。セララはスッとミストルティンと自分のグラスコースターをすり替え、自らのポケットへと入れた。

●君だけが分かるSOS
 リーゼロッテ・アーベントロートの危機に駆けつける。
 それは『表の薔薇十字機関』の多くが思っていることだ。しかしそれは、アーベントロート直下の機関であるからこそできない。
 ガーベラ、セララ、オウェード。ローレット・イレギュラーズへ、そんな彼らからリークされるという形でこの事件は伝わっていた。
「『爆炎の目』リディア・オクトーバー。そして『Bloodshed Bee』ナタリー・ラヴィスタール……なるほど、いずれも危険な魔種じゃ」
 険しい顔でボードの前に立つオウェード。
 セララが受け取った暗号シートとガーベラが受け取った暗号文。これらを解読しかけあわせたことで分かったのは、現在サリュー城下の街にて魔種と薔薇十字機関合同による大規模な破壊工作が行われているという事実だった。
 彼らの真の狙いはクリスチアンだろうが……彼の隙をこじ開けるために、無辜の民達を危険にさらされているのである。

 特にこのチームが注視すべき事件は、アマティアズ・アリーナに大勢の人質が捕らわれ、盛大な爆破予告までされているという事件だ。その主犯格もわかっている。
「ハナトの情報によれば、リディア・オクトーバーは『爆発狂』として知られる魔種ですわ。
 劇場型の犯罪を好み、爆発という手段を愛している。典型的なテロリスト体質ですわね。あと本人は『劫火のティグリディア』って呼ぶようにいちいち求めてくるらしいのでリディアと呼びますわ」
 後半、ガーベラの目から殺意が漏れた。より深い情報として、魔種ホムラミヤに連なる魔種であるとも言われるが、その真相は定かでない。いま必要な情報はまた別にあるということだろう。
 その必要な情報というのが……。
「ミストちゃんがこっそり手回しして、現場になってるアマティアズ・アリーナから人を遠ざけてくれてるみたい。それに、追加情報も貰ってるよ」
「それがナタリー・ラヴィスタールじゃな?」
 オウェードの言葉に、セララがこっくりと頷く。
 既に集まっているイレギュラーズたちと共にボードへと向き、想像図でしかない女性のシルエット画を貼り付ける。
「情報によるとヨアヒムに心酔してるタイプの貴族で、今回ヨアヒムが表舞台に出てきたのと同時に姿を見せたんだって。リーゼロッテお嬢様に強い悪感情があるって噂だけど……」
「それは、少し珍しいケースですわね」
 ガーベラが低いトーンで言った。椅子に腰掛け、背もたれに身をあずけ、図を俯瞰するように眺める。
「今回のテロには複数の魔種が確認されているそうですけれど、どれもヨアヒムにはあまり良い感情をもっていないようですわ。利害が一致したから協力している、というケースが殆どのようです。おそらくリディア・オクトーバーもそう」
 テーブルに肘をおき、指でトンッと台を叩く。
「熱量が違う……と?」
 言わんとすることを先周りしたオウェードに、ガーベラが沈黙による肯定を返した。
「付け入る隙は、そこかもしれませんわね。劇場型の爆破を行いたいリディアと、ヨアヒムに心酔し手柄を求めるナタリー。あまり仲は良くないでしょうし、あえて混乱を作り……」
「その隙に人質を救出できるかもだね!」
 ね! と笑顔を見せるセララ。
 やるべきことは決まった。あとは、動き出すだけだ。

GMコメント

<Paradise Lost>の第二幕はSDたちによる大舞台となっております。
事件全体の背景や経緯については特設ページをご覧下さい
https://rev1.reversion.jp/page/LaValse

※参加レベル制限についての補足
 当シナリオにはレベル制限がありますが、優先参加PCはこのレベルにかかわらず参加が可能です。

●おおまかな背景
 幻想三大貴族のひとつアーベントロート家にてこれまで表舞台で活躍し続けてきたリーゼロッテ・アーベントロートが、それまで死亡疑惑すらたっていたヨアヒム・アーベントロート侯爵にその任を解かれ指名手配まで受けてしまっています。
 リーゼロッテの逃走をクリスチアンが助けているという状況ですが、それらを追い詰めるべくヨアヒムは投入可能な魔種や『裏』の薔薇十字機関を投入しサリュー城下を攻撃しています。
 皆さんのポジションは、この城下町での事件を解決し無辜の民やリーゼロッテを助けることにあります。

●フィールド『アマティアズ・アリーナ』
 サリュー城下町に存在するコロッセオ型競技場。戦闘に困らない広い芝生があり、天はドーム状の魔術結界に覆われています。
 客席にあたる部分に20人あまりの市民が捕らえられており、彼らの身体には特殊な爆弾が巻き付けられています。この起爆スイッチはリディア・オクトーバーが物理的に持っています。
 そしてリディアたちは、アリーナの中央でただ単に待ち構え、やってきた者たちを返り討ちにするというスタイルをとっているようです。
 一見ずさんな劇場型テロですが、相当以上の戦力を一気に送り込まないといけないうえに無視した時の被害が確実なので、陽動&人手の削り取りという点では非常に優秀な手であります。

●エネミーデータ
・『爆炎の目』リディア・オクトーバー
 自他共に認める爆発狂であり、美しい爆発を求める魔種。状況的に非常に自分好みであったためにヨアヒムに協力しているということですが、リディア本人はヨアヒムのことを気持ち悪いと思っているようです。(ナハト情報)
 触れたものを爆破させる魔法を用いたり、遠隔で大きな爆破を起こす魔法を用いたりと戦闘方法が非常に派手です。
 欠点は爆破に夢中になるあまり他のことを忘れがちになること、とのこと。

・『Bloodshed Bee』ナタリー・ラヴィスタール
 アーベントロート派の元貴族。調査によればラヴィスタール家は貴族位を剥奪されておりナタリー・ラヴィスタールの行方も知れていなかったが、今回の事件でヨアヒムとほぼ同時に姿を現した。
 ヨアヒム個人に対して心酔しており、今回の作戦への参加動機もヨアヒムを理由としているのは確実である。

・薔薇十字機関の暗殺者
 正確には第十三騎士団と呼ばれるアーベントロート直属の汚れ仕事専門部隊。しかもその中でもよりアンダーグラウンドなチームです。
 ヨアヒムの放った薔薇十字機関の暗殺者たちです。
 今回はリディアとナタリーを補助する目的で投入されており、直接的な戦闘能力に優れたメンバーが選出されている……と思われますが、この情報は確実ではありません。
 また、人数も掴めていません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。(確かなものはミストルティンとナハトによるリーク情報だけしかありません)
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●シナリオ同時参加の注意
 本日公開されている<Paradise Lost>のオープニングは複数同時に参加出来ません。
 どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。

  • <Paradise Lost>Tell me tha truthLv:50以上、名声:幻想20以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月15日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

リプレイ

●爆破予告
 サリュー城下町に存在する競技場、アマティアズ・アリーナ。
 仮にいまが平時の休日であったなら、町の人々がごったがえしたであろうこのスポットに――今は不自然なほどにひとけがない。
 『爆炎の目』こと魔種リディア・オクトーバーが堂々と爆破予告を行ったことで周辺一帯の避難が行われ、警備が敷かれ、そして精鋭であるイレギュラーズチームが突入するという事態になっていたためである。
「人質に魔種に配下の軍団にって手加減なしっスね。まったく、幻想の貴族ってのは性格悪ィ奴しかいねぇのかよ」
 アリーナの入り口を前に、サッカーボールを小脇に抱えて立つ『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)。ある意味この場所が最も似合う彼が選ばれているのは、運命なのか皮肉なのか。
「ったく、弱者を玩具のように扱いやがってよ。サリューのために動くのは癪だが、コイツは放っちゃおけねえよな」
 歩いてきて横に並んだのは『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)。むき出しのホルスターベルトをさげた白いパンツスーツ姿で、あえてジャケットの前を開いていた。
 腰に手を当て、真剣にアリーナを見つめる葵の横顔をみやる。
「まあしかし、クールに考えるとサリューを落とすにゃいい手かもな。梅泉含めあの達人連中をそばに置いて、なおかつ配下も優秀な連中が多い。クリスチアン単体でみても知力戦闘力共に桁外れだ。けど、貴族である以上民っつー弱点がある。
 弱い民を人質に取られれば対応しないわけにゃいかねえし……」
「そこに魔種まで配置されれば、精鋭を投入せざるを得ない……っスね」
「そこよ」
 長く重い槍を、お出かけポーチでもぶら下げるみたいに軽々ともって現れる『エピステーメー』ゼファー(p3p007625)。
 踵をならして足を止め、端正な顔を左右非対称にしかめた。
「デカい喧嘩は結構。好きにやりゃあいいわよ。でも、喧嘩出来ない子達まで巻き込むのは感心出来ないわね?」
「悪党の常套手段って気もするけどな。きっとタイムリミットは48時間なんだぜ?」
 一緒に現れた『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)が、どこか横行なジェスチャーで肩をすくめてみせる。
「俺のいた世界……っつーか国じゃあ貴族なんてもんはとっくに廃止されてたけどな、メンツが命より大事って連中はやっぱりいたもんだ。
 そういう連中は、下のモンに手ぇ出されて黙ってたらメンツが潰れるんだよ。この国の貴族社会でメンツが潰れりゃ即座に食いもんにされるんだろうぜ。まさに弱点だな」
「そういうところも気に食わないってーのよ」
 わざと語調を荒くしたゼファーに、英司が仮面の下でフッと笑った。
「わかるよ。マクロな話はムズカシイからね」
 ちょっとだけずれた物言いをした『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、近くの建物の屋根から飛び降りてきた。ジェットパックを使った軽やかな着地をみせると、アリーナの外に騎士団や魔物の気配はなかったことを伝えてくれた。
「それよりリーゼロッテだよ。リーゼロッテはトモダチだからね。トモダチが売られたケンカは買って倍にして返すのがゼシュテルの流儀だよ!」
(あの時、ワシは片思い故にリーゼロッテ様の救出に向かいたかった……。
 だが今は違う、ワシは今リーゼロッテ様を救出に向かっている……
 それにしてもナタリー殿は……どこかワシと似てる所があるのう……)
 一緒に見回りをしていた『薔薇に恋う』オウェード=ランドマスター(p3p009184)も加わり、黙って髭に手を当てている。
「じゃあ……敵はヨアヒム派のナタリーと、爆弾魔のリディア。あと薔薇十字機関の暗殺者たちだけってことでいいの? 暗殺者の数と能力もできれば知りたかったな……」
 『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)が(本人にしては)難しい顔で唸る。
 空を一話の鳩が飛んでいき、二度ほど旋回したのでスッと取り出したマスケット銃で撃ち落としておく。
 こちらの接近をはかるために敵がファミリアーでも飛ばしていたのだろうか。まあ、当然と言えば当然か。そしてこのことからも分かるとおり、魔種の二人にだけ注目していては敵の非戦スキルに足元をすくわれることになるだろう。
 すると、『魔法騎士』セララ(p3p000273)が胸を張って両手を腰に当てて見せた。
「大丈夫、なんとかなるよ!
 それにリズがピンチなら助けてあげないと。だって、ボクは友達だからね。
 それにこのままだと薔薇十字機関にいるミストちゃんも危険になっちゃうかも。
 元の薔薇十字機関に戻すため、まずはこの戦いを勝利するよ!」
「そうですわねえ」
 『noblesse oblige』ガーベラ・キルロード(p3p006172)がワントーン落とした口調で同意を示した。
 『薔薇十字機関の暗部は前からこういう雰囲気でしたわよ』とはさすがに言わないようである。なんといってもキルロード男爵家。
 アーベントロート派として古くから続く暗殺集団キリングロードを輩出する一族である。ヨアヒム治政下で政治の暗部に密着していたことはいわずもがなで、どちらかといえば『今のリーゼロッテのほうがおかしい』のである。おそらくナハトも、それを知っているから今回のような手に出たのだろう。
(お嬢様……昔はこうじゃございませんでしたのに。
 もっと遠くて、もっと刺々しくて、もっと『ひとでなし』でいらっしゃったはずですわ。
 イレギュラーズを好きになってしまって、距離が近くなってしまって、『人間』になってしまわれたのですわね)
 そのほうがずっと好きですけれど……とも、言わない。
 『皆の大好きなリーゼロッテお嬢様を助けるのだ!』というスローガンを、ガーベラは壊したくなかった。
 なので。
「リーゼロッテ様の為、何より無辜の民達の為、我がキルロード家の威信『ノブレス・オブリージュ』にかけて彼らを救いましょう、皆様!」
 バッと扇子を広げて(うるさくない程度に)高笑いを上げて見せるガーベラ。
 イグナートやセララたちが『おー!』といって拳や剣を突き上げた。

 舞台はアマティアズ・アリーナ。
 敵はヨアヒム・アーベントロートの放った魔種と、薔薇十字機関。
 人質を助け出し、この魔の手から逃れるのだ。

●アマティアズ・アリーナにて
 広いコートの中央。軍服にも似た深いグリーンカラーのスーツを纏った女性が立っている。
 スーツの上には白衣を纏い、伸びっぱなしにした髪はピンによって無理矢理視界をあけるようにどかされている。
 腕組みをしてじっと何かを待っている様子の彼女の目が、動く。
 スゥッと壁を透過してコートの端に現れた黒づくめの女をみつけてだ。
「リディア殿」
「『劫火のティグリディア』と呼べ」
「アリーナに部外者が侵入しました。ローレットのイレギュラーズと思われます。数は10」
「…………」
 腕組みしたままディアナはチッと舌打ちすると、報告してきた相手を睨んだ。相手はもうリディアのすぐそばに立っており、目を閉じて涼しい顔をしている。
「ミストルティンは、やはり始末しておくべきだったのでは?」
「我に聞いてどうする。貴様等薔薇十字機関が勝手にまいた種だろうが。その程度自分で刈り取っておけ」
 嫌みを返されたと思ったのだろうか、目を閉じていた黒づくめの女は薄目を開いて目尻をぴくりと動かした。
「その芽が出たなら刈り取るのがあなたの仕事でしょうリディア・オクトーバー。階級を持ち出されなければわからないか?」
「やってみろ。それで私を言いなりにできたらいいな?」
「ホムラミヤに触発された野良魔種風情が」
 挑発的に牙を剥くリディアとついに怒りを露わにした女がにらみ合う。
「どうかそのくらいに」
 仲裁するような声がして振り返ると、ナタリー・ラヴィスタールが木の椅子に座って本を読んでいた。ヨアヒムが若い頃に出版した著書だが、幾度も開かれたようなよれや削れがあった。まるで長く使い込まれた聖書だ。実際、彼女には『バイブル』なのだろう。
「ヨアヒム様のために働くのであれば皆同族です。下らないことで言い争わないで」
 次に『これだから平民は』と続けそうなくらい上からの物言いに、二人の表情が複雑に乱れた。とてもではないが、今から協力して戦闘をしようという雰囲気ではない。
 だがそれでも、各々の利害は一致しているらしく。
 フィールドへと現れたイレギュラーズたちへとその敵意は一斉に向いた。

 それは、闘技場というフィールドにはこれ以上なく相応しい、ジャージ姿のサッカー選手――葵であった。
 しかし彼の放ったサッカーボールは紅蓮のオーラを纏い……。
「まずは一発! ――『テンペストバウンス』!」
 シュートされたボールは熱砂を纏い、どこからともなく現れた薔薇十字機関の暗殺者たちによって切り払われるかたちで止まった。
「ローレットの日向 葵。ヴァンパイアのエースストライカー……厄介な相手ですね」
 骨でできた短剣を手に、小さな丸眼鏡をした長身の男性が呟く。白手袋をした手で眼鏡の位置を直すと、瞬間移動の如き素早さで葵めがけて接近。短剣を繰り出してくる。
 巧みなフットワークで飛び退くが、葵の速度を超えるほどの斬撃だったのかジャージの腕部分がピッと切り裂かれ遅れて鮮血が吹き上がった。
「あなたお一人でしょうか?」
「当然、オレひとりで来るはずがねぇよな」
 葵がニッと笑い、その瞬間に闘技場の観客席から跳躍したイグナートが宙返りからの強烈な踵落としを丸眼鏡の暗殺者めがけて繰り出した。
 葵へ追撃をはかろうとしていた暗殺者は咄嗟に頭上へむけて防御姿勢をとり、気で硬貨したイグナートの踵と短剣が激突する。
「イグナート・エゴロヴィチ・レスキンっ! また厄介な――」
「トモダチのピンチだからね。さっさとゲキハさせてもらうよ!」
「簡単にやらせるはずがないでしょう」
 ぴょんと飛び退き、葵との間に陣取るイグナート。
 両手をやんわりと開き、いつでも受け止める構えをとる。
「超人的な握力をもち、近接戦闘では破格の対人戦闘力をもつファイター……それに変幻自在のボールテクニックをもつサッカープレイヤーですか。これは面倒な組み合わせに当たりましたね。貧乏くじかもしれません」
 そういいながら直立姿勢に戻る暗殺者。
 彼の後ろにアサルトライフルを装備した黒ずくめの兵隊が音もなく現れ、整列した。
「ですが、殺します」
「カンタンにやらせるはずがないよね」

 リディアとナタリーは葵たちの迎撃に動こう……として、後方に気配を感じた。
 カッと物理的にも輝く存在に、嫌が応にも振り返らざるを得ない。
「騎戦の勇者である! 城下町への狼藉、たとえアーベントロートの手といえど目に余るわ!」
 『紅い依代の剣・果薙』を振りかざし、風に旗を靡かせるイーリン。
 その横には、『noblesse oblige』ガーベラ・キルロード(p3p006172)が扇子を広げポーズをとった。あまりにサマになったその姿勢に、つい誰もが注目してしまう。
「オーホッホッホ! 私こそキルロード男爵家が長女、ガーベラ・キルロードですわ!」
 あまりに鮮やかで、そして耳に残る笑い声である。
 そんな堂々とした二人に対して、ナタリーもまた堂々とした様子で顎を上げる。
「青薔薇一派が、今更なにができるというのです。あなたがたはもうじき、アーベントロート家から切り離されるのですよ。用済みとなったあの娘と同じようにね」
「あら。たかだか指名手配にした程度で実験を握れた気で居るのかしら? ローレットに対して極めて友好的だったリーゼロッテを手放した今、政治的に不利になったのはヨアヒムの方じゃなくて?」
 わざわざお上品な物言いで挑発を重ねるイーリン。
 ガーベラは口元を隠してくすくすと笑ってみせる。
「さあ、名乗る機会をあげますわ。そちらの方?」
 視線が動き、リディアをとらえる。
「『爆炎の目』リディア・オクトーバー」
 自らの名を名乗り上げると、リディアはバッと白衣を払って裾を広げた。背後で激しい爆発が起き、光が迸る。
「人呼んで――『劫火のティグリディア』!」
 爆発の勢いをそのままつけ、二人へと襲いかかるリディア。
 ガーベラはまだ口元を隠したまま、手を耳にかざした。
「なんですって? 放課後ウィキペディア?」
「安い挑発だ。その程度で『劫火のティグリディア』を乗せられると思うな」
 翳した手のひらを突き出すと、ガーベラへと爆炎がふきつける。
 間に割り込んだ英司が衝撃をクロスアームで受け止めると、両腕を開く豪快なフォームでそれを振り払った。
「立地も演出もわるかねえが、台詞回しがちょいと雑魚臭いぜ。さてはアメコミ出身か?」
 突き出した片手に人差し指をたて、『見本を見せてやるよ』と言って腰のベルトに手をかける。
「――変身」
 迸る黒い稲妻。
 自らを暗黒が多い、仮面のライン(実はとても視界が狭い)が暗黒の内側からカッと紫色に光ると、鎧を纏った騎士の姿で再登場した。
「怪人暗黒騎士、推参! そっちももう一回なのっていいぜ。よもや戦場の礼を欠くまいな、リディなんとか?」
「ハハハ、貴様」
 両目を見開き、目尻をひくつかせるリディア。
 そんな彼女へ無数の弾丸が飛来。リディアは腕を振って爆発を起こすと飛来する銃弾を全て破壊、あるいは弾き飛ばした。
「格好良く名乗る流れなのか? 俺はちょっと遠慮してえな。俺の分わけてやるよ、リディなんとか」
「ハハハ」
 リディアは額に血管が浮くほど表情を見出すと、両手をばきばきといわせながら指を動かした。
「そんな挑発に乗る私だと思うなよォ……」
「その台詞二回目よ」
 イーリンが『おかわいいこと』と言って黒い扇子で口元を隠して笑うと、ガーベラがどこからともなく取り出した発光弾をリディアめがけて投げつけた。
 攻撃力のかけらもない信号弾だ。リディアもそれをわかっていながら払いのける。
「あなたの爆発もこのくらい役に立つのではなくて? 平和利用、平和利用ですわリディなんとかさん?」
「ああああああああ貴様!」
 殺す! と叫び飛びかかるリディア。
 その様子をやや遠巻きに眺めていたナタリーは顔をしかめて首を振った。
「まるで児戯ですね。ヨアヒム様の手駒にこんな小物がいるだなんて、考えたくもない……」
 といいながら、翳した手には扇状に無数のスローイングナイフが握られていた。
 振り向きざまにそれらを一斉に放つ。
「むんっ!」
 斧をもったクロスアーム姿勢で防御したオウェード。彼の横をすりぬけるように走ったЯ・E・Dが黒いオーラを放出。なかから突き出た無数のマスケット銃がナタリーめがけて乱射される。
 が、それらの弾丸はナタリーの眼前でぱちぱちと弾けて迎撃されてしまった。
 見えない壁があるのだろうか。正体不明の能力にЯ・E・Dとオウェードは警戒をより一層深くする。
「あなたは確かリーゼロッテにくっついていた……今日は名乗るのが流行りらしいわ。名乗らせてあげる」
 どうぞ? と手に持ったナイフをついっとオウェードたちに向けてくるナタリー。
「オウェード=ランドマスターじゃ。お前さんはナタリー・ラヴィスタールじゃな? その名前を覚えたぞ」
「ほんと? よく覚えられたね、こんな没落貴族の名前なんて」
 Я・E・Dが目を細め、あざ笑うような表情をつくる。
 ザッと回り込んでオウェードと挟むような位置をとると、ナタリーを逃がすまいと身構えた。
「大体、ヨアヒム派っていうけど今までまるで活躍してなかったよね? 今だってあの爆弾魔が全部お膳立てをしたんじゃないの? きっとヨアヒムもあなたみたいな木っ端貴族くずれよりもリディアのほうを信頼するだろうね」
「やっすい挑発……何が狙い?」
 ジリッと動いて逃がさぬようにブロックに専念するオウェードとЯ・E・Dを交互に見て、ナタリーは顎に手を当てる。
「ヨアヒム様は私をずっと手元に置いておきたがるはずだわ。これだけの力を、私は手に入れたんですもの」
「でもヨアヒムのそばにいないよね、今回」
 おそろしく平淡な、つきはなすほどに冷たい口調でЯ・E・Dが言った。
 ナタリーの顔から表情が抜け落ちる。
「大事なら、そばにおいて一緒に戦うんじゃないの? もしかして……嫌われてない?」
「ッ――!」
 声にならない声をあげ、ナタリーがЯ・E・Dめがけてナイフを放つ。無数のワインボトルと堅いパンが黒いオーラの中から放たれ爆発することで迎撃――しようとするが、半数以上がそれを突破しЯ・E・Dへと突き刺さった。
「Я・E・D殿!」
 オウェードが叫ぶが、そんな彼の背後に迫る影があった。
 咄嗟に振り返ると、黒塗りのカランビットナイフを逆手に握った女が彼の首めがけてナイフを繰り出したところだった。
 防御を無視した急所攻撃を受けながらも、オウェードは大きく飛び退く。
 首から血は流れているが、幸いなことに致命傷には至っていない。首に手を当て治癒術を発動するオウェード。その間もナタリーはЯ・E・Dめがけ大量のナイフを放っていた。
 よくみれば、ナタリーの周囲の空間からナイフが直接現れそのまま発射されているようだ。投擲動作はどうやらフェイクだったらしい。
 Я・E・Dはそれを死なない程度にしのぐので精一杯のようだ。防御に優れていないЯ・E・Dを集中的に狙われる状態は、これ以上は避けたい。
「狙うならワシを狙え!」
 オウェードは回り込まれた女暗殺者の隙をついて走ると、転がるようにЯ・E・Dとナタリーの間に割って入った。
 飛来するナイフの群れを己の鎧と斧でたたき落とす。
 そんな彼に、Я・E・Dがハイテレパスで呼びかけた。
『これ以上ブロックしておくのは無理だよ。魔種相手じゃ実力差がありすぎて、どちらかが倒される』
『しかし……』
『作戦変更。ナタリーがガーベラやイグナートたちを狙い始めたらチームが崩壊しちゃうから、『あれ』が終わるまでヨアヒムをダシに挑発し続けよう』
「むむ……」
 それしかあるまい、とオウェードはつぶやき再びЯ・E・Dを庇うように腕を広げた。
「あの白衣の女はお前さんを信用しておらんぞ!」
「無名の貴族くずれだからね!」
「――ッ!」

 種族敵に高い戦闘能力をもつ魔種二体を相手に、更に薔薇十字機関の暗殺者までもを加えてたった八人で戦闘を維持することは非常に困難である。
 途中、リディアとナタリーの仲違いを狙うような発言を混ぜてはみたものの、わざわざこの場で互いを攻撃するほど逆上させるには至らなかったようだ。曲がりなりにも利害関係を一致させていることが要因なのか、あるいは先んじて自分達へ大きなヘイトを集めたせいで互いのヘイトが薄れたことが要因なのかはわからないが、少なくとも正攻法で戦わざるを得ない状態になったのは事実である。
 ナタリーを押さえ込むという作戦や、リディアと薔薇十字機関をそれぞれ個別に引き放すという作戦の前提も大きく崩れてきたことで、仲間はひとりまたひとりと倒されていく。
 そんな中……『残る二人』は何をしていたのか。

「皆、静かに」
 こっそりと、足音を殺して観客席に忍び込んでいた『魔法騎士』セララ(p3p000273)は捕らえられていた民間人の縄をひとつひとつ切っていた。
 切りながら数えていたが、人質の数は全部で19人。情報より少ない……ように思える。観察した人間のミスである可能性もあるが。
 幻想ではかなりのビッグネームとなったセララである。顔を見ただけでそうとわかった者もいるほどで、人質となっていた民間人たちはおとなしくセララにしたがってくれた。
「しかし……大丈夫なのですか? 壁をすりぬけたりする暗殺者もいたようです。見たところ、あなたひとりでここへ来たのでしょう?」
「大丈夫」
 セララは最後のひとりの縄を切ると、身を低くして移動するように指事を出した。
「『人助けセンサー』をはたらかせてるからね。嘘をついて人質のふりをしてる人がいたらすぐに分かるよ」
「な、なるほど……」
 厳密にはこれをごまかす手段はあるのだが、セララはあえて口には出さなかった。少なくとも人質たち全員が内心から助けをもとめていたことは事実だったためだ。ならば、今は彼らがパニックにならないよう安心させるほうが重要だろう。
 早くここを出よう。そう言いきかせてセララが人質たちの手を引いて先導する――が、その出口を塞ぐように仮面の二人組が現れた。
 目と口の部分に笑ったような穴の空いた白黒ツートンカラーの仮面である。
「おっとぉ、その子たちを連れて行ってもらっちゃあこまるわね」
「まあ? イレギュラーズの中でも精鋭中の精鋭が釣れた時点で役目は済んだともいえるけれど」
 二人はみるからに男性的なシルエットをしているが、口調はどこか女性的だった。仮面に片手をあて、くすくすと笑う。
 もうここまでくれば確定だろう。薔薇十字機関の暗殺者たちだ。
 大方、人質を助けに来たイレギュラーズを奇襲するつもりだったが来たのがよりによって『あのセララ』だったことで、正面から現れる作戦に切り替えたといった所だろう。
「『魔法騎士』セララ。有名人よねえ」
「新世代勇者、サリューの民を庇って死亡。いいニュースになると思わない?」
 セララはそんな剣呑な問いかけをする二人の前に立つと、後ろ手に『あっちから逃げて』のサインを人質たちに送った。
「二人がかりだって負けないよ! ボクは魔法騎士、輝く魔法とみんなの笑顔を守るセララだからね!」
「あぁら素敵」
「食べちゃいたい」
 二人の暗殺者はセララめがけて素手で襲いかかり、セララは跳躍し魔法の翼を靴から広げると相手の側面へと回り込んで剣を繰り出す。
 がしりと剣を手でつかみ、もう一方の手で固定しにかかる男。もう一人が彼の肩を足場にして跳躍すると、セララの頭部をはげしく蹴りつけた。
(ボク一人だとちょっと難しいかも。けど、みんなが逃げ切る時間は稼げるよ……!)

「リディア、貴方も『殊勝』ね。ヨアヒムの『前座』に消える覚悟なのでしょう」
 負傷した仲間を後ろに庇うようにしながら、イーリンはリディアへと武器を突きつける。
 薔薇十字機関の暗殺者の何人かは葵とイグナートという強力なカードによってリタイアさせることができたが、リディアやナタリー、そして残る二名ほどの暗殺者はまだ敵側に健在だ。
 対してこちらの戦力は四割をきったところである。
「前座、おおいに結構。しかし消えることはあるまい。なぜならここで――」
「あなた達を消すからよ」
 ナタリーが言葉を続け、大量のナイフを放つ。
 チッと舌打ちをして、イーリンは可能な限りの魔術障壁を張り巡らせた。
 イーリンに庇われる形で、背後からガーベラが呼びかけてくる。
「マズイですわね。完全に協力し合う空気ですわよ」
「同士討ちをしてくれれば最高だったのだけれど」
「他に誘導できるような材料はあるかね?」
 オウェードがガーベラに肩を貸す形で問いかけると、ガーベラは苦々しい顔で首を振った。
 英司が近寄ってきて小声で言う。
「ならもう、『アレ』をやるしかないだろ。強引に隙を作る。あとはアドリブで頼むぜ?」
 英司は突然『ウオオ!』と叫ぶとリディアめがけて突撃した。
 リディアは手をかざし爆破の魔術を発動させ、ナタリーのナイフが飛び、更には二名の暗殺者の短剣とカランビットナイフが英司の身体へ鎧を貫通して突き刺さった。
「クソが! 上から見下しやがって、一発ぶん殴ってやる! こっちへこい! 顔を近づけろよ!」
 みっともなく叫ぶ英司。
 クスクスと笑い、ナタリーが余裕ぶって歩み寄った。
 二人の暗殺者が押さえつける中、英司の腕が届かない程度の位置で立ち止まる。ウウウと悔しげに唸る英司。
 それを見ていたリディア――の背後に、『エピステーメー』ゼファー(p3p007625)が立っていた。
「――な!?」
 スパン、とゼファーの槍がはしる。
 それはリディアが腰の後ろに固定していた遠隔爆破装置のスイッチを正確に破壊。
 信号が爆弾へと飛ぶことは、これでなくなった。
「ナイスな演技だったわ。見とれちゃうわね」
 ゼファーは冗談のように言うと、咄嗟に振り返って掌底を繰り出すリディアの脇をすりぬけるよにして肩同士をぶつけた。ボンッとリディアの爆発が空振りする音がする。
「そんなだから、大事な爆破さえ奪われるのよ。劫火のティグリディア?」
 イーリンはそう言い残すと、負傷した仲間達に肩を貸す形で撤退を開始した。
 人質を無事に逃がし、自分達から死者をひとりも出さない。これが今回の『成功ライン』だ。
 そういう意味において、リディアたちは不利な立場にあると言えた。
 この状況でイレギュラーズたちが魔種を倒すことはありえないが、一方で魔種たちがイレギュラーズ殺すことは非常に難しい。
 人質たちを残して撤退するわけにいかないという状況を利用して、やっと魔種側に勝ち筋があったと言えるのだ。
 なにせ彼らの目的は『陽動』であり、それに手を出さざるを得ない精鋭たちの人員を削ることなのだから。
 ジェイクやЯ・E・Dたちが大急ぎで撤退する中、ナタリーが走り出す。
「逃がすものですか! 私を侮辱した贖罪を済ませていないぞ!」
 負傷者めがけ、トドメを刺すべくナイフを放つナタリー。
 が、それは間に割り込んだゼファーの槍によってたたき落とされた。流れるような動きで英司も高速から脱すると、ゼファーと共に走り出す。
「そういうのはまた今度にしてくれるかしら」
「流れのゼファー……彼女を殺すのは無理でしょう。それだけで作戦がひとつ要る」
 彼女たちを追うことをもはや諦めた様子で、丸眼鏡の暗殺者はかちゃりと眼鏡の位置をなおしていた。
 そんな彼をキッと睨むナタリー。
「もし逃がすなら私があなたを殺すわよ」
「我が身はアーベントロートのもの。ヨアヒム様の財を壊すと?」
「……ッ」
 忌々しげに歯がみし、獣のよに唸るナタリー。
 一方で、リディアは片手で顔を覆っていた。
「クク、ククク……我が爆発劇場で演じて見せるか……ガーベラ・キルロード。たかが男爵家と思っていたが、これはなかなか楽しませてくれる」
 戦いの終わったアマティアズ・アリーナに、リディアの笑い声が響いた。

成否

成功

MVP

ゼファー(p3p007625)
祝福の風

状態異常

セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
ガーベラ・キルロード(p3p006172)[重傷]
noblesse oblige
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護

あとがき

 イレギュラーズ――負傷者多数
 民間人――死傷者なし
 魔種リディア――健在
 魔種ナタリー――健在
 薔薇十字機関の損害――軽微

 結果としてリディア側は陽動作戦に成功し、イレギュラーズ側は救出作戦に成功しました。
 互いへの損害という意味では、痛み分け(被害はイレギュラーズ側が大きめ)となりました。

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