シナリオ詳細
<チェチェロの夢へ>風船鮫、けちらして
オープニング
●風と泳ぐ
目もくらむような快晴の青空を、風船鮫が泳ぐようにすいすいと飛んでいる。
浮遊小島が幾つも集まる外周浮遊小島群。岩ほどの小さめの島がつづく、空の道の先。とある浮遊小島に、遺跡がある。
世界のすべてから忘れ去られたような、空の端。
長い時の果て、半ば自然に還ってしまったような、苔むした石壁の目立たない入り口。
地上へと燦燦とふりそそぐ太陽は眩く明るく、すべてを照らし出すみたいに輝いて――けれど、遺跡の深奥まではその光は届かないに違いない。
風船鮫は、ぷかぷかふわふわと泳ぎを止めて浮く。
そうすると、そよそよとした風がその身を流していくようで――然れど、ふたたび泳ぎ始めれば、風がどちらの方角に流そうとしても風船鮫が流されることはなく、彼らは行きたい方へ、望むがままに飛び泳ぐことができるのだった。
●空の勇者たち
レリッカ村の近くに構えられた鉄帝国軍による基地に、メンバーが集まっている。
「セララ君、いつもすまないな」
軍務派のユーリ・フォン・ヴァイセンブルクが菓子箱を受け取って蓋を開ける。こういった本は、今まで母が一番先に見ていたのだが今回はユーリが最初に受け取るチャンスをゲットしたのである。
「最新の本が描けたよ!」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)はそんなユーリへとイイ笑顔を向けてヒソヒソと――「あ、あれは……」【空の守護者】 ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク (p3p000497)は偶然、そんな場面を目撃した。
――袖の下といった感じで菓子箱を差し出すセララと、受け取る兄を。
「風船鮫? お任せください、私が命名者ですわ!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が右の拳で自分の胸をぐっと押してドヤァって顔をしている。今日はベビー服もおしゃぶりもガラガラもないようだ、と呟いて『閃電』バルド・レームがヨハンに視線を移した。
「というわけで、今日から軍務派だヨハン」
軍務派に協力することにしたバルドは、もったいぶった所作でパワーアンクルを渡した。息子がそれを喜ぶに違いないと信じるような眼差し――『悠青のキャロル』
ヨハン=レーム(p3p001117)はずっしり重いそれと微妙に暑苦しい父をジト目で見比べた。
「これをつけて依頼に挑めと……?」
「ここぞと言う場面で外すんだ」
「なぜ……です……?」
「そうすると、格好良いと思わないか」
一行が案内されたのは、外周浮遊小島群。
浮遊小島のひとつにある、遺跡の入り口。其処に至るまでの道のりには、ヴァレーリヤが命名した古代獣『風船鮫』がフワフワすいすいと飛びまわっている。
「あの遺跡は攻略予定の遺跡だが、『風船鮫』が邪魔をしていて近づけない」
こうして、『風船鮫』を倒すだけの簡単な仕事――ウラもオモテも何もない、ただ力いっぱい撃破するだけの――純然たる戦闘依頼が始まった。
「ああ、パワーアンクルは多めに渡しておくから、希望する仲間がいたらプレゼントするといい」
バルドは息子にそう言ってパワーアンクルがどっさり入った箱を持たせてくれた。
鮫が向かってくる。
さあ、冒険のはじまり、はじまり――、
- <チェチェロの夢へ>風船鮫、けちらして完了
- GM名透明空気
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月13日 22時05分
- 参加人数9/8人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 9 人
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参加者一覧(9人)
リプレイ
●パワーアンクル
『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が礼儀正しくバルドに挨拶をしている。
「お久しぶりですバルドさん、ヨハンさんも一緒にこうやって冒険が出来るのは楽しみです」
「やあ『炯眼の』マリエッタ。今回は肩を並べて戦えるのが嬉しいよ!」
戦意と鍛錬の成果を交わし合うのも好いものだけど、と笑いながらバルドは再会の縁を喜び、調子の良好そうな義手を差し出して握手を交わした。
「……けど、その……ええと、これつけなきゃいけないんですか」
パワーアンクルに恐る恐る問えば、バルドは涼やかに笑って「義務ではないよ」と言ってくれたが。マリエッタは頑張ってパワーアンクルをつけてみた。
「つ、つけられるだけ頑張ります。お、重いのですが……!」
「うん、どれどれ」
どんな感じかな? とにこやかに手を伸ばして、バルドはマリエッタを抱き上げてみた。お姫様抱っこの形で間近に首を傾げて「軽い!」と言う声が爽やかに一団の注目を集めている。
「元々非力なのが……き、厳しいです……うう……」
「外そうか?」
「い、いえ!」
「……ときに、何故重りのほとんどがヴァレーリヤさんに?」
『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)が涼風めいて問いかけた。
「ゼェゼェ……あのっ、なんだかっ、私の背負っているっ、パワーアンクルだけっ、やたら多くありませんこと!?」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がパワーアンクルを大量につけてワイバーンに近寄ると、ワイバーンが何かを察して一歩退いた。
「そもそも私、希望もしていないはずなのだけれど!」
「すげえ、ヴァレーリヤさんパワーアンクルをあんなに!? ……一人で!?」
『フロントライン』ヨハン=レーム(p3p001117)が父からマリエッタを救出しつつ、二度見する。若干顔色が悪い。というのも。
「ロケーションがな。そう、高所恐怖症の人間を何故ここに連れてきた??? 『軍務派』!! こら! 僕はいやだぞ!! おい!!」
――高所恐怖症だから。
「嫌だと仰ってますが」
いいんですか、と問われてバルドが「構わない。飛ばせてしまえばなんとかなる」とGOサインを出している。
「僕は思うんだよね、海は海種に、空は飛行種に、適材適所で戦うのがイレギュラーズの強みであり……やめろ! まだ心の準備ができてない!!! ア!!!」
「よろしいんですか、お宅のお坊ちゃん泣き叫んでますが」
「助けてはやらんぞ。パワーアンクルつけなかったし」
「流石だね……! ヴァリューシャ! そんなにパワーアンクルを装着して戦うなんて凄すぎるよ!!!」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は凛然とした笑みを浮かべてヴァレーリヤのパワーアンクルに手をかけた。
「ヴァリューシャ、少し分けて貰ってもいいかい?」
「マリィ、貰ってくださいますの?」
「ふふ! 私もいっぱい付けよう!」
お揃いだよ、と微笑む眼差しは、まるで王子様。
「なんかかっこいいよね! お、重っ!? 結構重いね!?」
ヴァレーリヤは頷いた。
「ええ、ええ、結構重いのですわ……」
「でも虎は負けない!」
マリアがきらきらとした声でそう笑ってヴァレーリヤの重りをどんどん自分に移していく。だから、ヴァレーリヤは重さに負けじと顔をあげた。一緒に見上げる視界は、果てなき青で、日差しが大切な貴方の輪郭を縁取って。ああ、神よ。ここに光が溢れているのです――、なんて、あたたかいの。
鉄帝の旗と、家門を示す旗がひらひら揺れている。
シンプルな依頼ですね、と呟くのは大柄な『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)。
『軍務派』だ『特務派』だ何だと面倒が絡みがちなアーカーシュ周り。然れど今回は依頼元も目的も明瞭な様子――ワイバーンの背に跨りながら、精悍な眼差しが前方に注がれる。声がかけられたのは、ユーリから。名乗られ、名を返す。同じ鉄帝の旗元にて戦う温度にて。
「北東部出身、オリーブ・ローレルです」
ユーリは興味津々でパワーアンクルを手に取り、「イレギュラーズがこれをつけるなら僕も」といそいそとその身に装着していた。
「パワーアンクル……? なるほど鉄帝らしいな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は提供されたそれに頷いて趣旨を理解しつつ、丁重に辞退した。
「確かに、見せ場はともかく、俺も最近自分の立ち回りが物足りなくて鍛えたいとは思うんだけど」
顎に手を当てて思案するのは、「依頼の現場でしなくても?」といった思い――プライベートの時間で鍛えて、現場ではコンディションを翳らせずに動きたいのだ。
「俺の場合は動きが鈍ると致命的になるから、今回は止めとくかな」
●空の旅
「ここまでオールグリーン、でありますな」
陽光が互いの髪に反射して、風に光が踊るよう。
『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が油断なき眼光で高度を高めると、兄がそれに合わせたみたいに高度を低くした。
ワイバーンが力強く羽ばたいて、景色が後ろに流れていく。
『魔法騎士』セララ(p3p000273)はハイデマリーの後ろでマリーお手製ドーナツをもぐもぐしながら空の旅を満喫していた。
「マリー見てみて! 鳥が下を飛んでるよ」
名前どんなのだったっけ、と二人で声をあわせて。
「せーの」
「「レインボーVDMトラオウム」」
たぶんそんな名前だね、とセララが正解祝のドーナツをあーんしてくれる。一緒に答えたから、半分こ。
近くで、二頭のワイバーンが並び飛んでいる。移動中のリトルと戦闘中のタイニーを見比べて、「えっ、空中で乗り換え? 正気か……」とヨハンが震えていた。
「もう僕は帰りたい」
戦う前に心が死にそう。そんな騎手にワイバーンが鳴き声で反応している。そんな周囲でくるりひらりと曲芸めいてワイバーンを駆るのは、父だった。
「ご父君はとても御熱心にワイバーン操縦技術を習得なされて。しかも半日で」
天才ぶりを見せつけてやがる……。ヨハンはうぐうと呻いて、ワイバーンの背に突っ伏した。ワイバーンが「こっちもあれ、やるの?」みたいな気配を見せているのがとても怖い――いいんだ、競わなくていい。
「なんていうかもう安全運転で頼むよ……名前とかあるのこいつ?」
上から「ないよー」というセララの声が降ってくる。下と上で視線が交差させられるのは、相手が上にいるからだ。下を見るのはちょっと。
「こいつを『たこ焼き』と名付けよう。こっちのこいつの名は『とうもろこし』だ」
「美味しそうな名前だね」
ヴァイセンブルク兄妹の和やかな会話が風に流れる。
「兄さま、アレは何でありますか?」
「何かあったかなハイデマリー?」
「しばらっくれてもダメでありますよ?? セララから何を受け取ったでありますか?」
「記憶にないな」
「何を受け取ったのかは分かってはいるんでありますよ? ただ、形式上確認しているだけでありますけど」
兄は無言で爽やかな笑みを浮かべ、高度を下げた。まるでレースでもするかのようにハイデマリーが追い縋る。
「漫画ですよね? あの漫画ですよね? また新刊とか出てたんですか? 一体今どこまで作られてるんですかそれ。どおりで小さい子から色々いわれるわけでありますな?」
ワイバーンを並べ、手が伸びる。
「没収!!」
「まだ読んでないのに!」
ワイバーンの羽ばたきに同調するように、近くを鳥が飛んでいる。
くわりと鳴き声を響かせるワイバーンたちの群れ、イレギュラーズの飛翔隊は、和やかな空の旅を楽しんだ。
●風船鮫、蹴散らして
やがて、ユーリの部下が「前方に敵」と報せを放てば、一団は戦闘体制に移行した。
紅の十字架が陽光にきらりと輝く。
あれが風船鮫ですわ、とヴァレーリヤが手を翳し、致命者に捧ぐ讃歌を唱えてメイスに焔を巻く。
「なるほど、風船鮫とはヴァレーリヤさんの命名でしたか」
マグタレーナが揺籃めいた声を寄り添わせている。
「好戦的で獰猛であるかもしれませんが、空中を泳ぐ姿は不思議な愛嬌があってそこも捉えた良いネーミングではないかと思います」
「ヴァレーリヤさんにしてはまともな名前がつけられている」
ヨハンも共感を洩らす中、風船鮫はすいすいと空を泳いで向かってくる。
「『にしては』?」
「戦闘開始だ、諸君!」
キリッと宣言して、ヨハンはふらふらと浮き島に降りて行った。マリエッタが付き添いみたいになっている。風船鮫が飛行する者を狙うため、支援組は浮き島に拠点めいたものをつくって安全に支援する事にしたのだ。
「地に足がつきますよ、お気を確かに……」
「安全に飛んでくれてありがとう、無事着いてよかった……」
バルドはそんな息子を見て「あれ? うちの息子大丈夫?」って顔をしていた。
――あれが、風船鮫。
実際の鮫と急所が同じかは分かりませんけど、と呟いて。
「マハロヴァさん、おかげで上手く飛べました。ありがとうございます」
オリーブが礼を言い、ひらりと飛び降りた。重力に引かれる落下軌道にて接敵する敵影を三白眼が見定め、長剣が抜かれる。真昼に月を招くような円閃からの直線振り下ろしは雷霆に似た。
「狙うは、鼻、次点で目です!」
目標を合わせるのは言うまでもありませんね、と呟くオリーブは鮫の背を踏み、下へと駆けたワイバーンに合流して滑るように次に向かう。
「敵からの被弾は分散させよう!」
赤い流星めいて飛翔するマリアが声を添わせている。
「さて。前は結構噛みつかれてしまったが、今回はそうはさせないぞ? ……ところであの鮫、普段は何を獲物としてるんだろうな?」
イズマはプロトコル・ハデスと摂理の視を夜空を抱く鋼の細剣で指揮を執るようにして紡ぎつつ、純朴な問いを風に乗せた。
「飛んでる動物なんてそんなにいないと思うが、遺跡付近に何かいるのだろうか。後で調べたいな」
それに、普通の鮫は嗅覚がよく、電気を感じる器官を持つらしい。風船鮫も同じなのかな?
視界に弾ける雷光を見て、イズマは首をかしげた。オリーブさんも狙うは、鼻と言っている――「オリーブさん、鼻を狙えばいいんだね」「はい、手応えはありました」風船鮫の生態がまたひとつ明らかになった瞬間であった。
「数も多くタフなようですので範囲攻撃で弱らせましょう」
いと白き太陽の翼にて蒼穹の加護を分け与えていたマグタレーナが光の帯をゆらりとうねらせた。時折ぱちりと爆ぜる光粒を撒くそれは、雷の鎖。蛇のように敵に迫り、辺りの空色をいっそう眩く照らし染めるながら絡めとる。
「無事遺跡への道が拓くため、どっ……いえ」
「ど?」
何か言いかけた。そんな気配に、傍を飛び回っていたイズマとオリーブが視線を合わせて「まあ、依頼をしましょう」「そうだね」するりと疑問を風に流し、代わりに剣戟音を響かせる。
到着、戦闘開始、と声をあわせてセララとマリーが「セラマリ名乗り? え? しな………」「す、る!」「……する?」と仲睦まじい声を連ねている。
ユーリは「生で観れるのか」と期待の眼差しを寄せていた。
――家族に見られながら!?
「いっくよー! これも漫画になるからお楽しみにー!」
「あっ、セララやっぱり……っ」
ひょこりとリボンを揺らし、セララが『セラフィム』のカードをインストールした瞬間に、光の花弁が絢爛に舞い。変身した愛らしい魔法少女が二人、健康的な手足が伸びやかにポーズを取り、リボンを青空に靡かせ、スカートがふわりとなって。輝く笑顔が声を揃えて。
「魔法騎士セララ&マリー参上!」
――まぁ、セララがする気満々だからですからね?
次元多重思考を巡らせ、ハイデマリーはセララの笑顔をちらりと見てオールハンデッドを併せている。ワッと歓声があがり、視線を移すとユーリとその部下が「綺麗に決まったね!」「見れましたね!」と家門の旗を振っていた……。
「お、重りは厳しいですけれど、とにかくつけたままでも皆さんの支援ならばできそうですね」
マリエッタは汗をぬぐいつつ、飛行魔法で戦闘空域にほど近い浮島を選んで移動し、地に足をつけて落ち着いた。近くにヨハンがほてりと足を付けて一瞬ふらりと脱力した。
「た、高い所……苦手でしたか」
「うん……うん……」
「だ、大丈夫です?」
早速サンクチュアリの出番が……と腕を奮えば、「周りが全部、空だった」とゾッとしたような顔で語るヨハンに、上空のバルドが一瞬だけ残念そうな顔をしていた。
「マリエッタ、ヨハンをどう思う?」
「えっ、……とても頑張って、ここまで来られたと……」
自分で例えるなら、血溜まりの中を泳いできたようなものだろうから、と心から言えば、「そうか。うん……頑張ったな」とバルドは少し申し訳なさそうな顔をした。
「いくよ、マリー!」
上空では、セララとハイデマリーが息ぴったりに合体攻撃を繰り出している。虹色のパワーアンクルが空に舞う視界に、ハイデマリーがゴルトレーヴェを放つ。
「あわせるよーっ! ギガセララ~、ブレイクぅ!」
元気いっぱいのセララが、技を放った。その姿がきらきら輝いて見えて、ハイデマリーは心地よい日方に微笑んだ。
●どっせーい?
「数が減ってきましたね」
オリーブが器用に浮き島や敵の体を足場に跳び周り、マリアが高速で飛び回り、敵を攪乱している。
「怪我は大丈夫かい? 戦線は支えられるから、早めに治療を受けて!」
お見通しな眼で問えば。
「うぅ、パワーアンクルの影響もあって、実はそろそろ限界なのですわ……。マリィ、悪いのだけれど、ちょっとだけ場をお任せしてもよろしくて?」
「了解だよ! ヴァリューシャ! こっちは任せて一度休憩しておくれ!」
ヴァレーリヤが地上に降下して治療班に近付いていく。
「いやあ、それにしても、地に足が着いてるって素晴らしい」
ヨハンが呟いて、さっとセララにドーナツを投げる。
「セララちゃん、新しいドーナツだよ!」
キャッチしてCMにできそうな笑顔でドーナツにキスをするセララ。口付けた瞬間にふわりと花がひらくような光が咲いて、それがヨハンの治癒術なのだと皆が知る。
「器用だな」
薄く笑み、若干どやりがちな顔で部下に「あのヒーラーが私の息子で」「何かと器用で利発で」と語り始めるバルドに、部下は「最初から存じてますが」「自慢したいんだよ」と囁きを交わしていた。
「軍務派としての仕事なぁ、探索や索敵に専念せねばならんのだが風船鮫、あれは良いな」
一太刀、一太刀だけ良いだろ? バルド=レームが部下を振り切って突撃していく。
「護国の剣といえど暇なものは暇なんだよ! レッツゴーパーリーーー!」
そんなはしゃぎように心を揺らされた人物がいた。
「軍務派の同志、剣聖殿がパーリーと仰っている。ならばヴァイセンブルグ家もパーリーだ」
ヴァイセンブルグ家の嫡男ユーリもスイッチが入った目で前に出た。慌てて周囲が止めているが。
「若、我々は戦闘に参加する必要は……」
「かの剣聖殿が猛戦しているのにこの拳を奮わんで鉄帝軍人を語れようか」
口の端を持ち上げ、さりげなく見える位置にパワーアンクルをアピール装備したユーリが戦線に加われば、両家の旗が並び翻る。
「ヴァイセンブルク家の令息か」
「は。ユーリ・フォン・ヴァイセンブルグ、遅れは取りません!」
「ならば撃墜数を競うのは如何かな!」
友軍がお強いようで――、マリエッタは順調な討伐状況に肩の力を抜いて、空を見上げた。
「お怪我をなさったら、こちらにいらしてくださいね……!」
戦線を確りと支えるヒーラー陣を見て、バルドが「ありがとう! 安心して戦えるよ」と礼を告げた。そろそろ外していいよと視線がパワーアンクルを見ているから、マリエッタは楚々とした仕草でそれを外した。
「さあ、大詰めだね!」
マリアが鮫と鮫の間をするりと垂直上昇してから大きく一回転して降下、滑空し、敵の動きを鈍らせている。
マグタレーナが相乗効果的に呪縛を撒き「呪縛しておけば他の方の攻撃チャンスが増えますね」と悠然と呟きつつ、内心では別の狙いにわくわくしている。
(風船鮫を千切ってはどっせえーーい!!! し千切ってはどっせえーーい!!! するのが見れるでしょうか)
微風めいて淡く口元を和ませて、フルルーンブラスターを備えるのは鮫が近づいてくるからだけれど。イズマが斜め下方から、オリーブが横合いからマグタレーナに接近する鮫を阻むように飛翔して、互いの剣を舞わせた。
「効率が良いですね、トーティスさん」
「ああ。こちらだ! 反撃の隙なんて作らせない。これで封じてみせる……!」
イズマが引いた数匹とまとめて鮮血を咲かすH・ブランディッシュを繰り出すと、鮮やかで華麗な乱撃に、後方の非イレギュラーズ軍務派がワッと湧いた。
ヴァレーリヤが「どっ……」いよいよ正念場、と若干しんどそうに「どっせい……」パワーアンクルをぽこっと置いて行く。ああ、生き返る心地。体が軽くなっていきますわー―マリアの頼もしい背中をほっと見ていると、「頃合いだね!」と笑ってくれる。
こちらが外すまで付き合ってくれたのだと気付けば、胸の奥から活力が花開くよう。
「ふふ! 鮫も中々やるじゃあないか……! でもね……虎である私は君達にハンデをあげていたのだよ……!」
多めに付けたパワーアンクルを外せば、心まで揺らすような重い音が鳴る。視線を落として、地面がひび割れてパワーアンクルがのめり込んでいるのを見て、「思ってたより多くつけてましたのね!?」とヴァレーリヤはびっくりした。
「ここからが本当の戦いだよ!」
華やかな雷光が彩を変えていく。
甘やかな林檎花火。
透き通るソーダスカイ。
「覚悟したまえ!」
そして純粋で眩い雪銀光。
「これが――白雷状態!」
揺れるポニーテールは楽し気に強者の貫禄を醸し出しながら天翔ける。
「うおおお! くらえー! 天槌裁華!」
だから、ヴァレーリヤもそれに続いて。
「よくも好き勝手やってくれましたわね! 撃ち落として捌いて、今日のご飯にして差し上げますわーーー!」
――元気いっぱい、会心の「どっせえーーい!!!」が響き渡ると、マグタレーナが「これを期待していたのです」と、とてもマイぺースにおっとり、ほんのり、にこにこした。
●遺跡の入り口
無事、戦いが終わり、マリアの声が溌剌と響いた。
「ヴァリューシャ! 皆! お疲れ様!」
「これは?」
「ええと……アイルスローン?」
遺跡の入り口でセララとハイデマリーが最新の植物図鑑を広げて確認している。兄ユーリはそんな妹たちを見て「仲が良いね」と笑いつつ、剣聖の技を「僕の格闘術に取り込んで……」と貪欲な眼を見せて「若、パーリーは軽率でしたぞ」「はっちゃけすぎては妹様にも見損なわれてしまいますよ」と部下に諫められていた。
未知を探した二人は少しだけ入り口から先を覗いて、道の脇に咲いた花の近くで、如雨露みたいなものを捧げた姿勢で動かなくなっている二対のゴーレムを見つけた。
「これ、修復できそうな」
「ゴーレム……?」
「既に身体が重い……これは明日、ものすごい筋肉痛ですわね……」
ヴァレーリヤがへたりくたりと座り込んでいると、マリアが優しく手を差し伸べた。
「ところでこの鮫、さっきはああ言ったけれど、命名するきっかけになった探索で食べてみたところ、なかなか美味しかったですのよ」
「ふむふむ。この鮫さんって食べられるのか。ヴァリューシャが美味しいというなら、ぜひ食べてみたいな……ちょっと調理してみる?」
「ここで食べるか、持ち帰るか、悩みどころですわね」
「ちょっと持って帰ってみよう! ね! ヴァリューシャ!」
「右翼に傷があるじゃないか。『とうもろこし』、よく飛んでくれた……」
ヨハンがワイバーンたちに傷がないか診察してまわっている。クアア、と鳴いて甘えるワイバーン『とうもろこし』は可愛らしかった。
「よしよし、僕たちはもはや一心同体の仲間だよ」
親し気に言ってワイバーンの頬を撫でるヨハンを、バルドが微笑ましく見守っている。
――未知への冒険はいつでも素敵なもの。
マグタレーナは無事の経路確保に湧く一団に微笑んだ。
「遺跡にて、風船鮫に負けぬ発見があると良いですね」
倒した鮫も無駄にしない精神に則り、イズマが爽やかに皆に手を振った。
「料理するから、食事にしないか?」
二度めということもあり、「これが美味しいんだよ」とイズマが振る舞えば「本当ですね」と喜びの声が溢れた。
食材を持ち帰る者は自分の分を持ち帰りつつ、余った食材にて簡易食事会が催された。遺跡の入り口でのんびり、和やかに時間が過ぎていく――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆さん。素敵な蒼穹の冒険をありがとうございました。
MVPは演出に力を入れてくださったあなたに。
GMコメント
のびのびとした広い大空での冒険はお好きですか?
透明空気です。今回は鉄帝の依頼です。
●オーダー
・風船鮫X5体の撃破
軍務派がこれから探索する予定の遺跡までの道をすすみながら、敵を排除しましょう。入口まで排除してゴールです。
●ロケーション
・外周浮遊小島群
小さな島が沢山浮いているエリアで、岩ほどの小さめの島を飛行やジャンプで渡り歩いての冒険となります。浮遊島アーカーシュの地上部と同様に、いくつもの遺跡と広大な自然が広がっています。暴れている精霊が多い地域ですが、今回は風船鮫だけ討伐すればよさそうです。
※このシナリオでは飛行スキルや、飛行可能アイテム効果を持っていると戦闘判定が有利になります。
飛行を持たない場合は騎乗戦闘可能なリトルワイヴァーンを持っているものと見なします。この場合飛行戦闘は可能ですが、判定は有利にはなりませんのでご注意下さい。
また簡易飛行や媒体飛行は、飛行には含みませんので、ご注意下さい。
※アーカーシュについての特設ページ
https://rev1.reversion.jp/page/akasu
●特殊ルール『新発見命名権』
浮遊島アーカーシュシナリオでは、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
発見者には『命名権』があたえられます。
※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
命名権は放棄してもかまいません。
※放棄した場合には、何も起りません。
●敵
現地で遭遇する敵です。
・青い古代獣『風船鮫』X5体
命名者:ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)さん。
ぷかぷか、すいすい。がぶりっ。空中を泳いで移動し、主に噛みつき攻撃や体当たりをしてくるタフで好戦的なサメ。視覚に頼らず敵の位置を捉え、飛行している敵を常に優先で狙うという性質があります。
●関係者NPC
各関係者は基本依頼者の立場で、作戦に同行しませんが、EXプレイングで希望があれば同行扱いになり、一緒に戦ってくれます。
・ユーリ・フォン・ヴァイセンブルグ
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク (p3p000497)さんの関係者です。『軍務派』の鉄帝軍人。今回は回想に出てきたのみで、任務に同行はしていません。
・『閃電』バルド・レーム
ヨハン・レーム(p3p001117)さんの実父です。
閃電の異名を持つゼシュテル鉄帝国の剣聖。引退済の身でしたが、再調整・改良した義手義足の調子が良好だったので、『軍務派』として調査隊に協力することになりました。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、未知の土地なので不明点もあります。
以上です。
それでは、楽しい冒険になるよう願っております。いってらっしゃいませ!
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