シナリオ詳細
約束のペンダント
オープニング
●また出会えると信じて
それは好き合った幼き二人の約束。
きっと、もう会うことはない――幼き二人はなんとなくわかっていた。
それでも、一縷の希望をかけた願いを託して。
もし、もう一度出会うことができたのなら、お互いのことがすぐわかるように、そう願って交換したペンダント。
引き裂かれた少年と少女は、いつまでも大切にそのペンダントを握りしめていた――。
「まったく嘆かわしい」
不満、という言葉では足りぬほどに苛立ちと嘆きを含む言葉を漏らすのは聖教国ネメシスは辺境の村ディスシスの司祭。
その日、部下の警備兵からの情報を受け取ると、大げさにため息をついた。
「神に仕えることを義務づけられた聖女たる乙女が、まさか男と密会とは……嗚呼、ほんと嘆かわしいことだ」
ディスシスの教会に身を寄せる少女達は清らかな者であること。それがこの司祭の善とすることだった。
故に、手塩に掛けて育てた見習いシスターが男と密会、それも一夜の間ともなれば、あるまじき背徳行為である。
「悪徳を積むとは、何という裏切り行為か。
しかも一人だけではない、警備の者もたらし込んでいると来ている。
もはや、このような悪魔に憑かれた魔女を放置しておくわけにはいくまい」
不埒な魔女に神の鉄槌を。
どのように追い詰めるか。幾許かの思案の後、司祭の頭に浮かんだのは最近噂に聞く何でも屋の話だった。
「すぐに連絡員を用意しろ。ローレットとやらに連絡を取るのだ」
司祭の指示の下、すぐに事態は動いた。
●
「聖教国ネメシスからの依頼よ。
ある少女と、それを取り巻く男性達に神の鉄槌を――ってことなんだけれど」
思案顔の『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)がそう言って依頼書を渡してくる。
「なにか問題あるのか?」
「うーん。情報の裏は取れてるから、問題という問題はないのだけれど。
依頼主の司祭さんが妄執的というか……立場を利用してひどく独善的に事を進めているみたいね」
クライアントの悪口はどうかと思うけどねと、リリィは肩を竦めつつ本題へと入っていく。
「オーダーはさっきも言ったように不義を行った少女とそれを取り巻く男性達に『神の鉄槌を与える』こと。
男性の内訳は、非武装の少年が一人に、武装している男性――元は警備兵だったみたいだけれど、それが五人いるわ」
少女達は、連れ添って辺境の村ディスシスから西の森へと逃げ込んでいるらしい。
「鉄槌については、方法は自由。依頼達成の証明は特に要求されてないけれど……肉体の一部とか某かの証明をしたほうが良いでしょうね」
それだけ言うとリリィは不意に怪しく瞳を輝かせると、顔を寄せて耳元で呟く。
「神の鉄槌を下す、方法は自由、依頼達成の証明は適当で構わない。――つまり、ターゲットと接触し、話を聞いた上で処遇を決める……そう、たとえば『死の偽装』、なんかも可能というわけよ。
調べたところ、クライアントが言う不義を働いたようには見えないし、貴方達のやり方次第だけれど、主旨を間違わなければ『ソレ』をローレットが止めることはないはずよ。
どうするかは……貴方達次第ね」
肩を叩くリリィはいつも通りの妖艶な微笑みを湛えて、
「そう難しい依頼じゃないけれど、気を緩めずにね。
ローレットは依頼達成に全力を尽くす。それを忘れないようにね」
それだけ言って立ち去った。
イレギュラーズの手元には依頼書だけが残されるのだった。
●
「嗚呼……セリオス。どうしてこんなことになってしまったのだろう?
私達はただ二人また出会えたことを神に感謝していただけなのに」
首に掛けたペンダントを握る少女。
「許してくれユイナ。僕が君の前に現れなければ……君が肌身離さずもっていたペンダントを僕が見つけてしまわなければ……。
二人を繋ぐはずだったペンダントが、こんな事態を引き起こすなんて」
手に巻き付けたペンダントを強く握る少年。
――セリオスとユイナ。二人は握りあった手に力を込めて、森を走る。
「二人とも死ぬ気で走れ――! あの司祭のことだ騎士達を嗾けてくるなんてこともありえるぞ。
国境まではそう遠くない。今は走るんだ――!」
二人と五人はただ走る。
訪れるであろう結末から逃げる。その為に――。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/11026/42e499e591496cb71d9a11ae109dc962.png)
- 約束のペンダント完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月17日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●追跡
天義ディスシス村の西に広がる森は、国境にほど近くそれなりの広大さを誇る。
その森に逃げ込んだ本依頼の目標ユイナとセリオス、そして彼女らを守護する五人を追ってイレギュラーズは森を駆けていた。
依頼主――ディスシス村の司祭からのオーダーは、七人に『神の鉄槌』を与えることにある。その方法は自由かつ指定された証拠の提示はない。
この依頼を受けた八名のイレギュラーズは、考え、思案し、一つの結論を出した。
――ユイナとセリオス、そして彼女らを守ろうと決起した五人を保護する。
詳しい話はわからない。二人がどのような人物かも知りはしない。
けれど、断片的な情報は二人の無実を想起させ、対して司祭の横暴な依頼はやり過ぎ――極論悪にも思われた。
依頼を受けた以上背任は許されない。だがこの依頼のオーダーには穴がある。
ならば、オーダーを完遂しながらにして、七人を救い出すのだとイレギュラーズの八人は相談を積み重ね、その方法を導き出した。
イレギュラーズが森を往く。
幼き頃から願った再会を果たしながら、悲劇によって逃亡を余儀なくされた二人を救うために。
「足跡があるな。まだ新しい」
『正直な嘘つき者』リュグナー(p3p000614)が地面を確認しながら仲間達にそう伝えると、『悪い人を狩る狐』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)がその大きな
狐耳をピクピクと動かし聞き耳を立てる。
「向こうの方、微かに足音が聞こえるのです」
「動物のみんな、あっちの方角にいる人達の足止めをお願いするよぉ……!
それと――」
『邂逅者』ヨルムンガンド(p3p002370)が森に住まう動物たちと意思疎通し、簡単な足止めを願う。
実のところ、広い森を探索する上で、このスキルはかなり有用に機能し、ユイナ達の足を大きく止めることに成功していた。
また、ヨルムンガンドは依頼人である司祭が自分達に監視をつける可能性も考慮し、周囲に不審者がいないかも同時に調べていた。
結果として監視を行うような人物はいなかったが、これから起こす行動の保証ができたのは大きいだろう。
「だいぶ近づいてきた気がするな。向こうにも気づかれてるかもしれないし、いつでも戦える準備はしておこう」
『蒼鋼』ユー・アレクシオ(p3p006118)の言葉に マルク・シリング(p3p001309)は頷いて、
「戦うことは本意ではないけれど、最低限身を守らなくては本末転倒だしね。……描いた未来図に辿り着けるよ、頑張ろう」
注意深く辺りを調べながら進む石動 グヴァラ 凱(p3p001051)も頷く。
「二人、に、やましいこと、が、ないので、あれば、そこに、救いは、あって、然るべき、だろう」
「それに今回のクライアントはなんぞ気に入らへんもんな。
間違ってターゲットを救ってしもうても、まあしゃーないよなーにゃははー♪」
陽気に八重歯を見せながら笑う『怪猫』道頓堀・繰子(p3p006175)だが、隣に並ぶ『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)と共にユイナとセリオスを説得する重要な役割を担当する。その陽気さの中には少しばかりの緊張も混じっているかもしれない。
「ええ、ええ。おっしゃるとおりですわ。
依頼主なんかより二人を助けて、ハッピーエンドといたしましょう!」
今にも高笑いしそうなドリルヘアーのガーベラだったが、ヨルムンガンドに制止されて、口をつむぐ。
動物たちからの報告を受けたヨルムンガンドが指さした先、視線を向ければ少女と少年、そして二人を守るように走る五人の兵士の姿が見えた。七人はなにやら警戒した様子で、周囲を見渡している。
見つけた。ターゲットだ。
イレギュラーズは、頷き合うと、作戦を実行に移す――。
●声を届ける
「見つけましたね。それじゃ作戦通りに――」
ルルリアがそう言うと、頷き合ったマルクとユーが前にでる。その後ろを残りのメンバーが続く。
誰かが踏んだ枯れ枝の音が森に響く。
その音に兵士達の足取りが止まる。緊張の最中剣を抜き放つ。
ユーが先んじて声を上げた。
「俺達は話し合いに来たんだ。武器を仕舞ってくれないか!
……敵じゃない、と言っても信じられないかもしれないが」
マルクも続いて言葉を紡ぐ。
「話を聞いてほしい! 僕たちは君たちを殺しに来たんじゃない! 天義の目を盗んで君たちを逃がす、その意思と方法があるんだ!」
「何者だ! そんな言葉が信じられるか!」
「そうだ! 甘言で油断したところを狙っているのだろう! 出てこい!」
兵士達に一分の隙もなく。良く訓練された熟練の兵士に思われた。
イレギュラーズは、ゆっくりと木の陰から姿を現す。戦闘を歩くマルクは姿を見せると同時に武器を足下に置き、ゴーグルを外すと両の手を広げた。
「一体何者だ貴様らは!」
ユイナとセリオスが後ろに下がり、その前に兵士達が居並ぶ。
「……聴、け」
凱が慎重に間合いを詰めながら耳を立てろと声を掛ける。
「我らは特異運命座標。耳にしたこともあるのではないか?」
「特異運命座標!? 幻想のローレットに在籍しているというあの!?」
「ローレットと言えば何でも屋じゃないか! やはりあの司祭の依頼を受けて来に違いない!」
ローレットの名前を聞けば、やはり行き着くのはその結論となる。それはローレットの性質上仕方のないことかもしれないが、今この場に置いては誤解させておくわけにはいかないだろう。
「最初に言っておくと、僕ら八人は天義の断罪を良しと思っていない。だから依頼を受けた上で、君たちを逃がす方法を整えてきた」
武器を持たないマルクの言葉は、窮地に立たされている七人にとって、どこまでも救いのある言葉のように思える。
だが、身内である司祭によって追い立てられた七人はすでに疑心暗鬼の塊だ。甘い言葉であればあるほど、疑いが強くなり、反抗的となる。
兵士の一人が性急に声を上げる。
「ユイナ! セリオス! 逃げろ!
司祭の使わした者である以上、捕まったらどうなるか知れないぞ!」
「ウルバさん! あなたたちは!?」
「俺達の事は気にするな! 一度は捨てた命だ、お前のために使えるならそれで良い!
いけ! ……セリオス、ユイナを、俺達の女神を絶対に守るんだぞ!」
「くっ――! ウルバさん、すまない!」
裂帛の気合いと共にウルバと呼ばれた兵士がイレギュラーズに挑みかかる。
続けて残り四人の兵士も一斉に飛びかかる。ユイナとセリオスは反転し駆けだした。
「行かせませんわよ!」
「話だけでも聞いてもらわなあかんねん。堪忍してな」
逃げ出すユイナとセリオスをガーベラと繰子が先回りして道を塞ぐ。兵士の一人がそれに気づいてユイナ達の方へ行こうとするが、そこに間合いを詰めていた凱が立ちはだかり、分断に成功した。
「くそ――! ルカ! ジン! ロート! オクト! 覚悟を決めろ! なんとしても突破するぞ!!」
「俺達五人ユイナに救われた命だ! やってやるぞ!」
「司祭に与したのが間違いだったねぇ。悪いけどここで死んで貰うよ!」
気合い一閃、追い詰められた兵士達の剣技が冴え渡る。
戦闘経験豊富なイレギュラーズと言えど、その剣閃を凌ぎきることは難しく、一合、二合と切り結ぶ間に、大きく消耗させられる。
「ルル達は天義の人間ではありません こんなのは間違ってると思うのです」
「間違っていると思うなら俺達を見逃してくれ!」
兵士からの攻撃を受けながらルルリアが声を掛ける。
「このままあなた達を逃しても、きっと次の追っ手が来てしまうのです。
私達であれば、あの司祭さんを欺くことができるのです。
それを使えば、あなた達は追ってに怯えることもなく過ごすことができるようになるはずなのです!」
反撃は最小限に。大きく傷を受けながら助けたいという気持ちを伝えるルルリアの言葉は兵士に届いただろうか。迷える剣が、重くなるのを兵士は感じた。
「まるで疑心暗鬼の塊だな。――今は戦意を削ぐしかないか」
ユーの召喚した猟犬が兵士の攻撃を受けて消滅する。
防御に集中しながら、隙を窺い、大きな隙を見つければ手にしたトンファーを盾代わりに強打をお見舞いする。
蹈鞴踏む兵士に追撃はしない。自分達はお前達を倒しに来たのではないのだと、態度で示す。兵士が一歩後退する。
七人に亡命先を用意したとマルクが声をあげる。司祭を欺くための方法だってある。まずは話を聞いて欲しいのだと、真摯に声をかける。
「そんな話を信じられるか、一度ならず二度までも我らはあの司祭に殺されかけたのだ! 司祭の依頼を受けた何でも屋の言うことなど――!」
凱とヨルムンガンドと切り結ぶ兵士が怒りと嘆きの入り交じる声をあげる。彼らにどのようなことがあったのかは定かではないが、司祭は以前にも信仰を盾になにかよからぬことをしていたのかもしれない。
それでも、声を届けなくてはならない。
「あの二人だって武器を抜いていない。二人の話を聞いて欲しい――!」
傷付いた仲間を癒やしながらマルクが痛切に訴える。どうかその疑心に染まった心に届きますようにと。
傷付きながら、不殺を徹底するイレギュラーズに兵士達も心が動かされ始めていた。
立ち合ってわかる、イレギュラーズの戦闘能力。兵士達はイレギュラーズがその力を全力で振るえば、そう長くない時間の後、倒されているのは自分達であると理解していた。
疑心に駆られた心が俄に溶け始めていた。だが、それに歯止めを掛けるのはユイナとセリオス。二人の存在だ。
ユイナとセリオス、二人を守るのだという使命感が、最後の最後まで兵士達の抵抗心を砕かずに灯り続ける。
本当に救いに来たのかも知れない。そう思いながらも、兵士達は二人の言葉を聞くまで止まることはできないのだ。
「……武器、を、納めろ」
凱が眼光鋭く兵士達を睨む。ユイナとセリオスの方へ近づけさせないようにブロックし、自ら攻撃にでることなく、防御に集中している。
「く――ッ! なんて眼をしてやがる!」
兵士の一人が、その眼光に怖じ気づき後ずさりする。中途半端な攻撃では反撃で殺られる――そんな思いが胸中を巡り、攻めあぐねているのだ。
「どうか……手を止めて話を聞いてくれないか。
二人を死なせず鉄槌を下す提案があるんだ……!」
誰よりも一番前で兵士達の戦意を削ぐのはヨルムンガンドだ。多大な傷を受けながらも、その驚異的な再生能力で兵士達の前に立ちはだかり、力を見せつける。
それだけの力を持ちながら、ヨルムンガンドもまた不殺を徹底し、兵士達を殺す事はしない。
話すことが大切なのだと、切り結びながら訴え続けた。
そうして、イレギュラーズの六人がその身を削りながら戦っている最中、ユイナとセリオスを前に、ガーベラと繰子が言葉を重ねていた。
「オーホッホッホ! キルロード男爵家長女、ガーベラですわ!
二人とも気づいているでしょう? このまま逃げてもあの司祭なら執念深く追っ手を差し向けるはず。
それにこのまま逃げても二人が幸せに過ごす場所にあてはあって?」
ガーベラの高笑いは神の祝福を受けた笑いだ。その一笑いだけで相手に好意的な感情を齎す。
「それは……」
ガーベラに反論する言葉を二人は持たない。わかってはいたのだ、この逃避行が無理無茶無謀であることを。それでも微かな希望を夢見て縋ってしまった。
ガーベラは言う、新天地で新たな人生を向かえる準備があるのだと。それには二人だけではない、護衛の兵士達も一緒だという。
「そんな、そんなことできるわけが――」
「できますわ! この私が言うんです、必ず約束しますわ!」
有無を言わさず言い切るガーベラは、この作戦が必ず成功すると確信している。自ら利用できる全てを使っているのだ。失敗などあるわけがないのだと、その強気な表情を崩さない。
「ぶっちゃけうちら的には天義の教義やとかそんなんはどうでもええねん。
そんな事より恋人同士が仲間同士が当たり前の幸せを当たり前に過ごされへん事のほうが間違ってる。
そう思ったから全部捨てる覚悟までしてここまで来たんやろ?」
繰子が二人の意思を確認するように問う。そう繰子の言うとおり、二人はただ一緒に居たいと願っただけなのだ。
「私は、私達はただ二人で一緒に昔の話をしていただけなんです……あの時を思い出しながら星を眺め語らって……そうして静かに眠りについただけなのに――」
「あの司祭はユイナを気に入っていた。
それが僕のような男が現れユイナを奪ったように思ってしまったんだ。
ただそれだけで、神の信仰を盾に全てをなかったことにしようとするなんて、絶対に許されることじゃない」
二人の話にガーベラと繰子は頷いて、
「うちらを信じてな。きっと悪いようにはせぇへん」
「大丈夫、私達が依頼を受けたことこそが、貴方達への神の救いだったのですわ。
さぁ、この手を取って、そしてお仲間方にも話をしてくださいな」
ガーベラの差し出す手を前に、ユイナとセリオスは見つめ合う。不安の残るユイナにセリオスが一つ頷いた。
震える手が、ゆっくりと伸びて、ガーベラの手に重なった。
その時兵士達の方も戦意を削がれもはや睨み合いに近い状態となっていた。
兵士達の幾人かは倒れ意識を失っていたが、イレギュラーズ側の消耗も激しく、中には戦闘不能やパンドラに縋る者もいた。
だが、倒れ傷付いても、誰一人として心を折れることなく最後まで説得に心血を注いでいたのは間違いなかった。その結果が、兵士達全員の不殺へと繋がったと言ってもよいだろう。
戦いが終わり、ユイナとセリオスの言葉に応じて兵士達は武装を解除した。
そうして、イレギュラーズの作戦は最後の仕込みへと移るのだった――。
●約束のペンダント
「よくぞ参られましたな、特異運命座標達よ。……それでは報告を聞かせて頂きましょうかな?」
ディスシス村の教会の来賓室でイレギュラーズを出迎えた司祭はそう言うと、依頼の結果を尋ねてくる。
報告を担ったのはリュグナーとルルリアだ。二人は司祭の前に立つと手短に結果を伝えた。
「依頼通り、貴様の言う不埒な魔女とその配下の者共には然るべき神の鉄槌を下した」
リュグナーは嘘をつかない。――だが、真実も明言はしない。
「ふふ、そうか。神の鉄槌は下されたか。それは実に喜ばしいことだ。さて……、特に要求した覚えはなかったが、成し遂げた証拠は用意しているのかね?」
「証拠……と言われてもな。貴様は、穢らわしい魔女とその配下の死体を触りたいと思うのか? 魔女は魔女の最後らしく火炙りにし、残った骨は野生の獣にでも遊ばせてやるのがお似合いだ」
そう言って取り出したのは、七人の髪の束と二つのペンダント。
「おぉ……紛れもないコレはユイナの髪だ。それにこのペンダント……そうかそうか、間違いなく奴らに鉄槌が下されたのだな」
髪とペンダントは血に染まり、土が被っている。その実、手を切らせてつけた血だが、真に迫るものだろう。
「ふむ、しかしここまで証拠を揃えられるのであれば、肉体の一部でも持ち帰って欲しかったものだが……」
ローレットとは言え所詮はただの何でも屋か。言外にそう言われているようにも思われた。
一つ大きく息を吐き出すとリュグナーは隣に控えるルルリアに合図する。
「正直持って来たくは無かったが、受け取るが良い。――焼いた罪人の腕だ」
「彼女達は確かにルル達の前で焼け死にました。
これを見せしめとすれば今後このようなことは起こらないはずです」
ごとり、とテーブルの上に置かれた荷物。包んでいる布をほどけば、そこには焼け焦げた腕があった。当然それはユイナ達の物ではなく、どこかの盗賊の腕なのだが――。
「お、おおぉ……、そうか、そうか。うむ、さすがはローレット。私の依頼を完璧にこなしてくれたのだな。うむ、感謝するぞ」
汚物を見るように口元を覆い眼を逸らしながら、司祭は笑う。決定的な証拠を前に司祭は確かな心の安息を得ていた。
「――曇った眼だな」
司祭に気づかれないように呟いたリュグナーはそっと口の端をつり上げた。
――ああ、何も『嘘』は言っていない。
こうして、依頼は終わり、イレギュラーズはディスシスの村を後にする。
国境付近に近づく頃には、その人数は十五名と大所帯になっているのだった――。
●穏やかな未来
幻想はキルロード男爵領の農園。
検問を免罪符を使って乗り越えて、ようやく辿り着いたそこは、穏やかな風がながれていた。
ユイナとセリオス、そして彼らを守る兵士達は、ここで新たな暮らしをはじめる――始められるのだと、喜んだ。
手を繋ぐユイナとセリオス。約束のペンダントはもうなくなってしまったけれど、ここからようやく二人で過ごす未来へ向かえるのだと、わき上がる感情が胸を突く。
「ユイ、セリオ。こっちに来なさいな。部屋へと案内しますわ」
ガーベラの声に誘われて、二人は歩き出す。
「ルルさん……あの二人、幸せになれるかな」
「……なれますよ! きっと!」
二人を見つめていたマルクの言葉に、ルルリアが笑顔で返す。
穏やかな風が二人の短くなった髪を揺らした。
それは二人の未来を見守るような、穏やかで暖かな風だった――。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
ご参加頂きありがとうございました。詳細はリプレイをご確認ください。
ユイナとセリオス。二人の未来を繋いでくれたことに感謝を。
ただ偽装して逃がすだけだと、危惧していたようにそのうち殺される運命にありました。
依頼結果はそれを覆す方法をしっかりと用意しそれらを最大限利用して、全員協力の下に依頼を達成した結果です。七人を責任持って救い出すのだという素晴らしいプレイングでした。
描写できなかった部分(特に偽装周り)もありますが、プレイングはほぼ適用されたと思って頂ければと思います。
MVPはまるで神の采配ようにこの依頼に参加してくれたガーベラさんへ。キャラ設定、ギフト、スキル構成、アイテム、プレイングと、必要十分なものを揃えた上でフルに活用していたと思います。
称号報酬が数名に配布されます。貰った方に拍手。
依頼お疲れ様でした。
私の短いGM経験の中で初の大成功となりますが、これに満足することなく次の依頼も頑張って頂ければと思います!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
逃避行の少女と少年の結末は――。
可能性は皆さんの手に委ねられました。
●依頼達成条件
・少女と少年、及び同行する男性五人の死亡を司祭に認識させる(方法問わず)
●情報確度
情報確度はAです。
想定外の事態は起きません。
●同行する男性五人について
元警備兵の屈強な男性達五人です。結構強いので注意しましょう。
自分たち以外は敵と思っていますので、見つかると即襲ってきます。
男性達の使用スキルは以下の通り
・格闘
・奇襲攻撃
・一刀両断
・戦闘続行
・フリーオフェンス
・ギアチェンジ
●ユイナとセリオスについて
ディスシス村でシスター見習いとして働いていた少女、ユイナ。
年齢十七歳。栗色の長い髪の毛緩く結んでいます。
ディスシスに派遣されてきたセリオスと一晩馬小屋に隠れて過ごしたことが発覚しています。
清楚な雰囲気で、村の人気者でした。
ディスシス村に派遣された見習い兵士、セリオス。
年齢十八歳。青髪の少年です。
ディスシスに派遣されて一ヶ月ほど過ぎた頃、ユイナを連れて馬小屋で一晩過ごしました。
それまでの評判は悪くなく、仕事に実直な良い少年だったということです。
●想定戦闘地域
辺境の森になります。木々は多いですが、戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
天候は曇り。午後十時です。
そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
Tweet