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シナリオ詳細

<タレイアの心臓>恋語る道は暗澹冥濛

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 大樹ファルカウを、制圧する。
 ローレット・イレギュラーズに課せられたその任務の重みたるや、今まで進めてきた深緑での反攻作戦、その難度と敵陣容を思えば並ならぬことなのは間違いない。
 アンテローゼ大聖堂、巫女の霊樹との疎通により奇跡を生み出しうる『大樹レテート』、協力関係を結んだ聖域『玲瓏郷ルシェ=ルメア』……そして、『咎茨の呪い』の解除用宝珠『タレイアの心臓』。
 並ならずとも、これだけの条件を揃えて逃げるという道理はなく。それを悟って集いつつある『冠位』の気配を思えば、警戒をしすぎて過ぎることはあるまい。
 それより何より。『大樹の嘆き』と称される防衛機構が指向性を持ってローレットへ敵対したケースを思えば、本気の本気で、やっと対等……とも言えるが。
 様々な思惑絡む国家を背景とするローレットであっても、深緑へ敵意を顕にする者は『かなり少ない』。それだけに、彼らの熱意はいずれの危機をも跳ね返す奔流となるはずだ。


「……などと、意気込みを持って勇んで登ってきたのだろう。待ちくたびれたよ、僕のロジェを奪った泥棒猫達」
「あら、いばら姫なんて姿にしてまで手元に置いていた女に逃げられてご機嫌斜めね。めそめそ女々しく泣いて。雪に涙なんて混ぜないで頂戴、気色が悪いから」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は駆け上がってきた先で待ち受けた相手……大樹に背を預けた『オルド種』のヴェロイドに憎まれ口を叩く。かつてひとりの少女を集落に縛り付けるため、魔種に与して茨の呪いを差し向けたそれは、しかし失ったものを過剰に嘆くでもなく、棍棒を持ち上げぎらついた目を向けてきた。
 全身から立ち上る鬼気はなるほど、以前のものより鋭さを増している。下手に守るものも優先して殺す相手もおらぬ今、邪魔なら誰彼構わず――というのが本音なのだろう。
「僕の得物を砕いてくれた礼も、僕の子等を好き勝手してくれた恨み節もまだだった。そうでなくても、僕は少し機嫌が悪い。手を組みたくない奴と手を組んでもいいかなと思うくらいにはね」
「私はあなたの事などどうでもいいのだけれど、『冠位色欲』のお嬢様にお呼ばれしたとあっては無下にできないでしょう。それに……いるんでしょう、フレイ」
 吹雪の中に現れた、白い姿を纏った女。その目は赤と白のオッドアイであり……ちょうど、フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)と鏡写しのようだった。尤も、似通っているのはその目だけだが。
「フレイヤ」
「どこまでも一緒。言ったでしょう、フレイ。迎えに来たのよ。もういいでしょう? いつまでもふらふらとあちこちに行かないで、私のものだけでいて」
 フレイはその女性、妹であるフレイヤ・ソーン・シュネーヴァイスの身から溢れ出る邪気を感じ取った。『色欲』か。この一件に噛んでいる『怠惰』と『暴食』ではなく、『色欲』。
「色欲まで出てくるなんていよいよもって世も末ね。あなた達、尻に火でもついたのかしら?」
「まさか。私もあの方も楽しんでいるだけよ。見て頂戴、この『嘆き』の生き汚さを。庇護する相手から手を振り払われても伸ばそうとするみっともなさを。私はこういうのが見たかったの」
 うきうきと楽しそうに語る彼女は、致命的に己が見えていなかった。
 心が壊れるほどの熱情を向け、歪な目を得てなお欲しがるフレイヤもまた、傍目から見たとして――。

GMコメント

●成功条件
・ヴェロイドの撤退or撃破
・フレイヤ・ソーン・シュネーヴァイスの撤退or撃破

●『オルド種・不変の執着』ヴェロイド
 『大樹の嘆き』の上位種にあたる『オルド種』の一体。怠惰勢力に内応した模様。撃破は必須ではありません。できれば万々歳なのですが、状況的に五分です。
 一般的な人間サイズ(身重180cm)でありながら、身の丈を大きく超える棍棒を振り回し、近付く者を徹底的に打ち据えてきます。なお投げても戻ってくる模様。
 再生能力を持ち合わせ、とくに氷や冷気に類する攻撃を受けた際それが活性化します。というかフィールド効果で少し活性化が進んでいます。
 前回(『<13th retaliation>いばら姫の沈黙』)にて棍棒を1本喪失していますが、その分『片手持ち』と『両手持ち』で戦法を切り替えてくる賢しさを身に着けました。
 性向的に怠惰側に与しています。フレイヤとの共闘もある種の呉越同舟でしかなく、寝首をかくことを狙っているような感じ。
・両手持ち(瞬付扱い、ブレイク不可。反応・機動大幅減、【BS無効】、スキル制限【レンジ0】、【必殺】付与、物攻大幅上昇)棍を両手に握りしめることで強烈な一撃に繋げます。
・投擲(物遠列、【ショック】【停滞】など)
・大振り(物近扇・【不吉系列】【凍結系列】)
・无何之郷(『両手持ち』状態でのみ発動。至、詳細不明)
などを使用。

●『彼方の白銀』フレイヤ・ソーン・シュネーヴァイス
 色欲の魔種。フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)の双子の妹にあたります。フレイさんに対し非常に強い執着心を持っており、反転してそれが悪化しています。
 自分の魅力を十分に理解していますが、それを何らかの手段で有効活用するよりは垂れ流しにすることで周囲を操り、自分中心に行動させることをよしとしています。
 常に彼女を中心に、10m以内にいる相手へ【魅了】付与の抵抗判定を迫ってくる香気を纏っています。
・ヴォン・ベート(神中単【疫病】【毒系列】【Mアタック】)
・ヴォン・ノワール(神遠域【石化】【呪殺】【呪い】)
・ヴォン・ノ・ル・ジューン(神超貫【万能】【凍結系列】【必殺】)
(上記は一例です。ここまで強烈なのばかりではないですが、BS多めだったり呪殺がしれっと混じったりします)

●執着種子β×15
 上述のシナリオでも登場したヴェロイドの配下です。
 変更点として、不用心に張り付いたりはしなくなりましたが、自爆はしますし射程がちょっと伸びました。なかには色違いが混じっており、これの性能はかなり高いとのこと。
 増援も現れなくなりました。その分底上げされてるんですが。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●『夢檻』
 当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <タレイアの心臓>恋語る道は暗澹冥濛完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

リプレイ

 ●
「……まったく騒々しいね。きみ達ときたらこのファルカウですら静かにできないと見える。やはり新しい風はこの国には不要なんだろうさ」
「俺は博徒だ。賭して未来を変える者だ。だからよ、停滞や怠惰なんてもん認められねぇんだよ」
「想像以上に殺気立ってるわねえ。嗚呼、おっかないおっかない」
 ヴェロイドは棍棒を握り込み、己の前に立ったイレギュラーズ達を威圧的に睥睨する。数多の鉄火場を潜り抜けた『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)や『エピステーメー』ゼファー(p3p007625)にとってみれば、その殺気も微風のように感じられるかもしれないが。こと、ニコラスにとって停滞を是とする相手は唾棄すべきものだ。良きにつけ悪しきにつけ変化がない状況など、楽しい筈がないのだから。
(怠惰、あの動きが? 女に心揺れ、敵愾心をむき出しにして?)
 じりじりと間合いを測る執着種子達にちらりと視線を送りつつ、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はヴェロイドの強烈な執着心に疑念を抱いていた。停滞を望むのが怠惰だ、というなら間違ってはいまい。が、イーリンを待ち構え敵対者として対峙し、あまつさえ失った得物の分の戦術まで組み立てるなど怠惰と呼べるだろうか?
「ヴェロイド、やっぱりあなた可笑しいのよ。イレギュラーズが困惑してるわ。私には関係のない話だけど」
「フレイヤ、まさかお前とこんなところで再会するなんてな。俺がここに来ることをわかっていたのか、それとも俺を迫害した一族を滅ぼしにでも来たか」
「それこそまさかよ、フレイ。『怠惰』が殺すというなら、私が直接手を下すまでもないわ。私は与えることで忙しいの」
 あなたへの愛を。そう締めくくったフレイヤの怪しい笑みに、『Immortalizer』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)はおもわず閉口した。別に、フレイヤを毛嫌いしているつもりはない。
 寧ろ彼女を慮っている向きすらある。それが本当にフレイヤの為になるかは別として、今ここで殺せるかと問われれば躊躇だってするだろう。
「おお、怖い怖い。司書もフレイも大変だね……「ヒーロー、ヴァイスドラッヘ! 只今参上!」」
「司書殿、フレイ殿。助けに来たわよ」
 『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)と『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)はイーリンとフレイに浅からぬ縁があるがゆえに、両者に執着する敵対者に強い嫌悪を覚えた。守りたいと思える相手の窮地、それを活かせずして何ができようか。
「執着する相手を取られたとあれば、微細な同情はするがね。キミは写真の中の人に恋してればいいと思うよ」
「仮初の相手に懸想するような趣味はないとも」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)には想い人がいる。均衡が崩れれば狂を発すやもしれぬ程には。だから気持ちが理解できないとは言わないが、想っている相手が固定観念の中にある虚像だとすれば話は別である。そんなものと同列に扱われるなど心外極まりない――そんな挑発をヴェロイドに向けたのだ。冷静そうに聞こえるヴェロイドの腹の裡は、果たしてどれほど煮えているやら。
「いつもの如く、世情には疎い拙ですが、いつもの如く、やる事に変わりはありません。そこに敵が居るならば、斬り伏せて進むのみですとも?」
「まあ、そうねぇ。別に話し合いにきたんじゃないんだし、睨み合いしてる場合じゃないわね」
 『斬城剣』橋場・ステラ(p3p008617)の思考は真っ直ぐでブレがない。誰かと誰かの因縁も、世界にかかわる変化も、今この戦いを構成するノイズでしかない。邪魔をするなら倒す。それ以上があるものか。もとより似た思考回路のゼファーも、しびれを切らしたように大儀そうに槍を持ち上げ身構える。
「申し訳ないけど、邪魔をするというのなら押し通らせてもらうよ!」
「残念ながら、君達の快進撃もここまでだ。鼻っ柱を折らせてもらうよ」
 ウィリアムの宣言に対し、ヴェロイドは低い声で威圧する。呼応して動き出した執着種子、にやりと笑みを浮かべたフレイ。
「その『怠惰』、見極めさせてもらうわよ。『神がそれを望まれる』」


「皆の魔力の効率化は、僕がやる。傷も治す。だから、皆は遠慮なく……手加減抜きで彼等を倒そう!」
 ウィリアムはイーリン、フレイ、ステラの三者の魔力循環を最適化し、継戦能力の拡大を図る。凄まじい勢いで魔力を浪費し、猛然と勝利へ突き進むタイプの彼等を長期戦に送り込むのならば、魔力を外部から供給するか効率化を行うか、さもなくばその両方で対処するしかないのだ。
「悪いわね、あんたの相手は後よ」
「よう。報告書で見たがお前さんがヴェロイドだな。最高に笑わせてもらったぜ。懸想してた相手を目の前で奪われたかわいそーな負け犬の顔ってのにはよぉ! おまけにフられたなぁ、たった今! 面白くて涙が出るぜ!」
「……言いたいことはそれだけかな? そして、遺言はそれでよかったのかな?」
 ニコラスは今にも大笑しそうな笑みを貼り付け、ヴェロイドの懐に入る。限りなく事実を羅列された事態に隠しきれぬ憤怒を織り交ぜて振り下ろされた棍棒の威力は、ニコラスでなくばまともに受けていただろう。めり込んだ先端の深さで、その威力が知れようか。
 如何に怒気が強かろうと、イーリンが彼を無視して勝利を取った事実は消えない。これが屈辱と感じないなら、何だというのだ。
「こっちに来い、俺がお前達の相手だ」
 執着種子達のいちばんの標的は、ヴェロイドと間合いを詰めたニコラスだ。だった、と言うべきか。一様にそちらを向いた直後、上空から降り注いだ黒雷に大半の個体が思考を塗り替えられたのだ。誰あろう、フレイの手で。
「面倒な奴はさっさと斬るに限るわ」
「一部の隙もなく同感です。一気に落としてしまいたいですが」
「つまりは、フレイごと。一気に叩き込むことになるってワケ」
 ゼファー、ステラ、そしてイーリンは三方からフレイに迫り、群がった執着種子を叩き潰しに入る。他の二人はまだいい。が、イーリンに至っては果薙をフレイごと振り下ろし殲滅にかかったため、傍目からみれば同士討ちの様相しか見えてこない。
「フレイ――?!」
 フレイヤの驚愕の声が漏れる。無論、彼女とて腐っても魔種だ。フレイがイーリンの斬撃で傷を負っていないことも、執着種子の攻勢が彼を簡単には殺せないことも、普通に振る舞っていれば理解できた。それより何より、フレイヤはフレイを手に入れたいと思いこそすれ、『無傷ないし五体満足で』とはいかないことも理解している。
 それら全てを振り切ってなお、イーリンの『狼藉』には目を剥いた。
「不愉快なら、相手してあげてもいいのよ? ……ねえ、フレイ」
 挑発的に笑う少女の姿に、しかしフレイヤの目は冷たかった。底冷えする寒さとはあれをいうのだろう。
 執着種子がフレイを執拗に狙い、攻撃を繰り返す。イレギュラーズはそれを確実に倒すべく統率の採れた動きを見せる。ヴェロイドは守りの固い者、根性のあるものが受ける。……理想的だ。『自分(フレイヤ)』の思考力を軽視した、たった一点を除いて。
「フレイに馴れ馴れしくしないで。フレイと肩を並べないで。私のフレイを、支えないで!」
 癇癪のように怒り狂いながら、フレイヤが視線を飛ばした先にはニコラスがいた。戦いぶり、立ち回り。彼一人で全てと言わずとも、倒れれば瓦解するであろう相手。彼女はそれを狙いにかかったのだ。
「博徒の旦那、隅に置けないねェ。我(アタシ)にとっても、まあ、ちょっとは痛いじゃあないかね」
「ニコラス殿、武器商人殿。少しの間、その『情けないお兄さん』の相手を」
 だが、フレイヤは冷静で居るようで、やはり癇癪を起こしているが為の視野狭窄に陥っていた。ニコラスはヴェロイドを抑えていた。それは正しい。だが、武器商人はそんな彼を庇い、最悪なまでに強靭な盾として振る舞っていて。そして、彼と連携するべく控えていたレイリーは、フレイヤへも油断なくランスを向けられる位置取りをキープしていたのである。
 愛馬・ムーンリットナイトに跨ったレイリーが一足でフレイヤの間合いに踏み込み、強烈なランスチャージを見舞う。
 振り上げた手でランスを受け止め、掴んで押し返したフレイヤであったが、当然無傷ではいられない。赫怒に燃える瞳はレイリーを見据え、あたり一面に向けて激しい呪いを振りまきにかかる。
 強烈で、凶悪で、そして悪夢的。普通であれば、正面切って、至近距離で切り結ぶ相手として選びたくない相手だった。仲間達だって、近付きたくはないはずだ。
「フレイヤ殿は強い。少し気を緩めれば私は倒れてしまうかもしれない」
「けど、強い『程度』で土俵に上がれはしないのよ。強いだけの相手なんて、幾らでも見てきたわ。……だから、その強さが仇になるのよ」
 レイリーはフレイヤの広域術式を受け止め、踏ん張る。イーリンも槍を構え、地力で以て受け止める。ステラとゼファーは、術式範囲から間一髪飛び退くことで直撃を免れた。フレイは言わずもがな、無傷だ。
 ……だとすれば、残ったのは。
「……っ、何よこの貧弱な配下は! ヴェロイド、あなたには誇りというものはないの!?」
 地団駄を踏み、強化された個体以外の執着種子が力なく倒れる状況に叫ぶフレイヤ。彼女は魔種となって実力を得たが、未だ戦闘経験の浅さがゆえに不実を晒したのだ。
「自業自得……っていうには少し可哀想だけれど、戦うなら容赦はしないけど?」
「拙はヴェロイドを抑える皆様の為なら、足止めも厭いません。ここで一枚落ちたとして、イーリンさんなら残りの仲間と勝ち筋を見出すでしょう」
 辛くも生き残った個体へ容赦なくトドメをさしながら、ゼファーとステラは油断なくフレイヤを照準する。明らかに不利な状況、『勝てなくはないだろうが面倒』な状況は、フレイの憐憫すら混じった視線で激しい熱を帯びた。
「……フレイ。あなたはきっと後悔するわ」
 フレイヤは言い残すと、大樹から飛び降りるようにして去っていく。あまりに唐突、そして見事な逃げっぷりは唖然とするほどに鮮やかであったといえるだろう。


「君は耐えるのに長けるわけではなさそうだ。だが、中てて避けるのは得手らしい」
「なんだぁ、負け犬らしく負けを認めたってか? あっちが盛況だからって少し弱腰すぎねえか?」
 フレイヤが癇気を起こす直前のこと。
 ニコラスとヴェロイドは正面から激しいせめぎ合いを続け、少なくない傷を負っていた。ヴェロイドにとっては自己補完の範囲だが、ニコラスはウィリアムの助けがなければ易くない域だ。だが、彼はそれで良かったと感じている。血を流し、極限に近付かねば出来ぬことがある。追い詰められてはじめて発揮できる力がある。安い挑発も、すべては勝ち筋が為。
「……そうか、覚悟はできているという顔だ。なら――この一撃を受けるか」
「遅すぎて欠伸が出たぜ。来な」
 ヴェロイドは『両手で棍を持った』。背中にかけての組織が爆発的にパンプアップし、先端を冷気が覆う。『无何之郷』。果てしなく、見渡す限り人の手の入らぬ領域を意味する技。
 それは、つまり眼前を押し並べて叩き潰し均しにいく、『文明を叩き潰す一撃』である。
 打撃位置から扇状に広がった衝撃波は、消耗していたニコラスの体力を一撃で危険域まで追い込んだ。傍らの武器商人にいたっては、その不死性と体力を差し引いても背水の陣を覚悟するほどの威力だった。
 この後の顛末を知る者なら、ここで武器商人が前にでなければニコラスが危険だったと分かるはずだ。そして、今の一合は十分すぎる情報を彼等に与えた。
「これで、死なないとは――」
「博打は俺の勝ちだな。これだけで倒せるなんて思っちゃいねぇが、種は割れたぜ」
 不敵に笑うニコラスを、ヴェロイドはその時真に強敵と見做した。手加減はしていなかったが甘く見ていた不徳を恥じた。
「おまたせ、ブン殴りたい顔を持ってきたわよ」
「ねぇ、いばら姫を奪われた情けないお兄さん。今度は乙女の誘いを袖にするの?」
 互いに火の付いた状況での攻防は、ウィリアムのサポートなくば早々に終わっていても恥じることがないほどの苛烈さだった。フレイヤと対峙した面々もなかなかの被害だが、此方に比べればw図化に温い。
 だが、本気だったからこそイーリン達が戻る暇を作れたのだ。ニコラスの射撃が、ヴェロイドの頬を掠めるどころか頬の繊維を切り飛ばすに至ったのだ。
 入れ違いでランスを突き出したレイリーを捌き、ヴェロイドは更に、さらにと猛る。最早イーリンへの執着ではなく、イレギュラーズへの戦意が勝っていた。
「お前には関係ない、大樹のためと突き放す。そのくせ執着する女はいる。貴方――助けてほしいんじゃない?」
「今となっては、どうでもいい話だね」
 ボロボロになり、再生が追いつかない肉体でなおもヴェロイドは棍棒を振るった。
 戦うために、戦って配下を打倒したイレギュラーズの前で、切り結ぶ前から倒れるものか、と。
 ゼファーの二本の槍を押し込み、レイリーのランスに阻まれ、イーリンの魔眼を受け止め。全力を尽くしてもあと一歩をウィリアムが押し返し、武器商人は倒れない。否、倒せはしよう。その一手を逸すれば、即座に死に繋がるのだ。
 猛威は振るった。存在を証明した。
 だから――ステラの一撃で残された棍棒が砕かれたとき、きっと彼の命脈も尽きたのだろう。けれど、と彼は手を伸ばした。
「あの色欲の娘の宿縁。お前だけは連れて行く」
 突き出された腕は切り落とされた、だが、その衝撃を推進力にフレイへ到達したヴェロイドの右腕は、フレイの頭部を掴んでその意識を奪いにかかる――。
 暗転。

成否

成功

MVP

フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)

状態異常

ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)[重傷]
名無しの
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)[夢檻]

あとがき

 成果報告。
 オルド種・ヴェロイド、撃破成功。被害は少なくないが相応の結果である。
 色欲の魔種、フレイヤ・ソーン・シュネーヴァイスは撤退を確認。可逆性の負傷多数。当座の出現は未確定ながら低確率。
 大樹奪還戦の当該区域の作戦成功。
 ……フレイ・イング・ラーセン、意識消失。

 お疲れ様でした。

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