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シナリオ詳細

<チェチェロの夢へ>秘密仕掛けのチェスゲーム

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ブラックハンズは死なない
 並ぶ飛行探査艇を端から順に点検し、手にしたクリップボードにペンを走らせる男がいた。
 黒い軍服にすらりとした体型。頭をすっぽりと覆う鉄仮面は、あまり人に好かれるタイプの装いではない。
 しかしその様子に、どこかショッケン・ハイドリヒの面影を……佐藤 美咲(p3p009818)は見たのだ。
「何見てるの? 知り合い?」
 横からぐいっと顔を突っ込むように覗き込んできたのは、ゆるくウェーブした茶髪の女性だった。
「ひゃあ!?」
 頬がくっつくほどの距離まで近づかれたことに驚いた様子をみせ、さっと距離を取る美咲。
「急に現れないでくださいよ。びっくりするじゃないですか」
「そう? とっくに気付いてると思ったけど……」
 茶髪の女性は自分の髪の毛の先をつまむと、自分のほほをくすぐるようにいじる。
 美咲は表情にも声にも出さず、しかし内心で『するどい』と呟いた。
 この茶髪の女は鉄帝国の軍曹長を務めるセレナ・シャヴィーという。酒場でたまたま意気投合した(と美咲は見せかけている)人物で、美咲からすれば鉄帝軍部にコネクションを作るための人物だ。
 言動が物凄く馬鹿っぽいし天然なのでそこに付け込んだつもりだったが、彼女の妙に鋭いカンに美咲は警戒せざるを得ないというのが現状である。
 そんな二人のやりとりに気付いたようで、鉄仮面の男が振り向いた。
「来たか。セレナ軍曹。それと……」
 そちらは? という視線を向けてくる鉄仮面に、セレナは紹介するように手をかざした。
「彼女は美咲。友達よ。ローレットのひとなの。こちらはミギーさん。階級は下なんだけど、新兵の教育係をしている人よ。私もお世話になったの。今はこっちで……」
「雑用係をさせられているだけだ。紹介する必要もない」
 そっけない態度だ。不自然なほどに。
 美咲がその態度に疑問を抱いたところで……もう一人の声がした。
「『ローレット嫌い』がまだ治らない?」
 三人が振り返り、同じ方向を見た。腕組みをして立つ彼女を、ミギーと美咲は知っている。しかし全く別の側面として。
「『ショッケンが倒せなかった女』」
 ミギーが思わず呟いた二つ名に、美咲がハッと顔を見る。
「……レイリーさん?」
「まあ、昔の話よ」
 レイリー=シュタイン(p3p007270)は腕組みを解くと、彼女たちのもとへと歩み寄った。

●ショッケン・ハイドリヒの縁
 背景を、あるいは舞台を語ろう。
 ここは鉄帝上空に発見された浮島、アーカーシュ。
 遥か古代精霊都市レビカナンの遺跡であり、その機能を失いやがては墜ちる定めにあるという島である。
 今はこの島の村レリッカ近隣に帝国軍基地が作られ、ワイバーンや探査艇が停泊している。
 ぱっと見れば、鉄帝軍が新たな資源地を見つけて現地人と協力しながら開拓を進める……というふうに見えるのだが。
「軍務派。得にパトリック・アネルの動きがあやしいの。何か知っているんじゃない? ミギー」
 油くさい整備ヤードの片隅で、火の消えたスチームストーブの脇に置かれたパイプ椅子に腰掛けたレイリーはそんなふうに切り出した。
 鉄仮面の口部分を開き、缶コーヒーに口をつけるミギー。仮面の下には酷い火傷の跡がみえ、仮面以上に人に好かれづらい外見をしていることが見て取れる。
「なぜ彼が? 教育係をしていると聞きましたけど……」
 美咲が問いかけると、レイリーはこともなげにミギーを手でさし示す。
「この男は『元ブラックハンズ』だ。鉄帝国の工作機関だが、知っているか?」
「…………」
 知らない筈がない。美咲にとってショッケン・ハイドリヒとはやや特別な人間だった。あくまで、ROOという現実と似て非なる仮想世界においてだが。
 ブラックハンズは『現実のショッケン』が率いていた工作機関であり、過去はその一員であったとも聞く。
 しかし機関はギアバジリカを巡る騒動のなかで古代兵器の独占を狙っていたことが発覚。ショッケンは死亡し部下たちも様々な罪に問われ投獄された。当時ショッケンの副官を務めていたミギーも同じく投獄されていたが、復興に当たって新兵教育のスタッフとして再雇用されたのである。その口利きを行ったのが、レイリーというわけだ。
 レイリーと美咲。一見繋がりのない、変な縁もあったものである。
「『特務諜報機関ゲハイムニス』。鉄帝国軍の軍事機密を取り扱う組織のひとつでパトリックの所属組織だ。ショッケン様の失墜によって派閥勢力を拡大したパトリックは、このアーカーシュへの開発計画に深く食い込んでいる。私にも接触はあったが……」
 ミギーはハアとため息をついた。
「ブラックハンズへの未練がまっとうな暮らしを求めさせたか」
 苦笑するレイリー。ミギーはむっつりとした無表情をつくった。
「連中はアーカーシュの探索に熱心だ。諜報機関がたかが畑の開墾に精を出すとは思えない。たとえば、ショッケン様が『たかがスラムの地上げ屋業』に熱を出した時のように……」
「…………」
 アーカーシュが古代精霊都市レビカナンの遺跡であることは明白だ。
 しかしどんなテクノロジーが眠っているかはわからない。だがパトリックにとっては派閥を強く食い込ませ、軍部と特務の派閥争いを起こすくらいには重要な確信があるということだろう。
「『そういうこと』であれば、全力で邪魔したい。『そういう黒歴史』はブラックハンズだけで充分なんでな」
 なるほど、という顔のレイリーと美咲。
 そのなかでずっとシリアスな顔をしていたセレナだけが、やっと……。
「ごめん、さっきから何の話?」
 全然別ってないことを告白した。

●探索計画
 ミギーが懐から取り出したのは一枚の資料だった。
 アーカーシュの地下に広がるダンジョンの探索計画であり、その際に排除すべき危険生物や難所について記されている。というより、それらを排除するための作戦のひとつが記されていた。
「物事を理解するにはその渦中に飛び込むのが一番だ。そして最初にものを知ることが出来るのは、最初に蓋をあけた人間に他ならない」
「つ、つまり……!?」
 遠回しに言いすぎたせいで何も理解できなかったセレナが解釈をもとめてきたので、美咲が翻訳した。
「特務派があやしいから、いっちょ噛みして先に探索しちゃおうって話ですよ」
「なるほどー! 噛むのね!」
 完全に理解した! と手を合わせるセレナ。多分理解してない。
 美咲がレイリーに助けを求める視線を送ったが、レイリーは普通にスルーした。
「重要なのはその危険よ。わたしたちは何をすればいい?」
 レイリーの問いかけに答えるように、ミギーが資料をめくって突き出してくる。
「セレストアームズ(天空機兵)の排除だ。遺跡を防衛している自律タイプの機械だな。回路によって魔法的に動いていると思われる。破壊すればそれで充分だ」

 資料にあるのは機関銃とヒートソードを装備したセレストアームズ(天空機兵)であった。
 これが複数体。守っているのはレビカナンの遺跡のひとつのはずだが、どうやら深部に至る通路のひとつであるらしい。
「なんだかよくわかんないドロドロが多そうだけど……要は突っ込んで倒せばOKってわけね! わかったわ、一緒に行きましょ!」
 ビッと親指を立てて見せるセレナ。レイリーと美咲は若干の不安を覚えながらも、とりあえずは頷くのだった。

GMコメント

●おさらい
 OPの内容がやけに濃縮されていたのでざっくりと現状をおさらいしましょう。
 鉄帝軍アーカーシュ探索隊は現在、特務派と軍務派にぱっきり分かれ争っています。
 軍務派はアーカーシュの豊かな土壌に種を蒔くなどして鉄帝の食糧問題を解決したり現地人であるレリッカ村民を支援したり現地の高位精霊と取引したりしてWin-Winな探索をしようとしていますが、特務だけなんか動きがきな臭いのでした。
 それを嗅ぎつけたレイリーたちは、特務派が何を求めているのかを探るため探索作戦のひとつをこなすことにしました。

 今回皆さんにやってもらうのはセレストアームズ(天空機兵)というロボットの排除です。
(これがベースになっています https://rev1.reversion.jp/illust/illust/24134)
 侵入者に対してきわめて敵対的で、問答無用で攻撃してくるでしょう。
 装備しているのは機関銃とヒートソード。機動力を増すためのカスタムもされているようです。
 これが複数体。遺跡の大きな扉の前に陣取っているので、コレを倒してください。

 倒した後は割と自由なので、扉の先を探索してみるなり帰って報告してみるなりしてみてください。
 また、今回の戦闘にはセレナ・シャヴィーも参加します。大砲をどかどかぶっ放しながら突撃するという非常に鉄帝ぽい軍人です。防御力とヘイトを集める力がかなりあるので、彼女を盾にして突っ込んだりすると有利にコトを運べそうです。

●特殊ルール『新発見命名権』
 浮遊島アーカーシュシナリオでは、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
 発見者には『命名権』があたえられます。
  ※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
 特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
  ※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
 命名権は放棄してもかまいません。
  ※放棄した場合には、何も起りません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <チェチェロの夢へ>秘密仕掛けのチェスゲーム完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代行業
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイスドラッヘ
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母
佐藤 美咲(p3p009818)
合理的じゃない
ファニー(p3p010255)
スケルトンの

リプレイ


 政治の話をしようじゃないか。
 といっても、法律や階級や税……つまりはルールの話ではない。
 『ルールを作る』話だ。
「人はよく忘れがちっスけど、『ルールの作り方にルールはない』んス。逆らう人間を全員殺して決めてもいいし、逆らう人間がイエスと言うまで柱に吊してもいいし、大量の槍を突きつけてイエスと言わざるを得ないようにしてもいい。大抵は前者なんスけど……私のいた国だと主に『ノーと言うと仲間はずれにされる』方式っスね」
 『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)が朗々と説明をしたので、途中まで聞いていた『鉄帝国軍曹長』セレナ・シャヴィーが握りこぶしを作ってそれをゆっくりと掲げて見せた。
「強い奴が勝ちっていうのがルールなんじゃないの?」
「そのルールだと人類の大半が大腸菌に負けません?」
 そ、それは……と困惑するセレナに、『スケルトンの』ファニー(p3p010255)が骨の顎をカチカチと鳴らして笑った。
「世の中には『ルールを守った方が楽しい』ってのもあるぜ。あんただって、カードゲームの途中で相手をぶん殴ったりしたら楽しくないだろ?」
 両手を翳し肩をすくめるようなポーズをしてみせるファニー。
「マナーとルールを混同させるんじゃないわよ。セレナがシャットダウンしかけてるじゃないの」
 目を回し座り込む寸前のセレナをぺちぺち叩くと、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はファニーを冗談っぽく睨んだ。
「わざとやったわね?」
「HAHAHA」
 先ほどのポーズのままカタカタ笑うファニー。
「今の話の要点は……」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が人差し指を立ててからゆっくりと円を描いた。
「『ルールを決める人間が一人ではない』……そして『ルールを守らないことへのデメリットが少ない人間がいる』ということでは?」
 先ほどの仲間はずれの例でいえば、元から一人きりの人間にとってルールはルールでなくなるということだ。それは孤独という意味ではなく、山野で獣のように暮らすという意味での『一人きり』だ。無論そのために暴力は存在し、彼らが結託し『仲間はずれグループ』を作り始めた時のためにそれを増強する必要にかられる。万事を解決できるワイルドカードは存在しないのだ。
「『力が強い方が勝つ』というのも、そういった意味では真理ですね。ルールを変えようとする人間には常に、ルールマスターを破壊することが可能なのですから」
 『群鱗』只野・黒子(p3p008597)が異様に大きなキャリーケースを引きながら現れた。馴染みのある仲間はあのなかに大砲が入っていることを知っているし、それをわざわざケースに入れて歩く合理性も知っている。
「じゃあ、今回の場合……ルールを決める人間が軍務と特務に分かれてるってことなのかしら? 彼ら自身ルールを守らないデメリットが少ないから、動きを注視すべきって?」
 石の段に腰掛けていた『紅蓮の魔女』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)。脚を組んで、そのつま先をふらふらと左右に振った。
「私達が作る側には回れないのかしら」
「それこそ」
 それまで聞くに回っていた『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)が口を開いた。
「力の大きい方が勝つのよ。ローレット以外の全体が、あるいは大半が合意するくらい抵抗をしめす行動を、彼らはとれないわ。今のところはね」
 ローレットには『特定の政治に肩入れしない』という大原則がある。
 鉄帝国に、幻想王国に、海洋王国に、いずれの依頼も平等に受け、そしていずれの国家からも特別な配慮をうけるための約束であり、担保だ。
 実のところ、ローレットはそういった意味で『ルールを作る側』になれているのだが、『ルールを作らない約束』をすることで自分達に押しつけられないように防御しているのである。
「私達は第三者よ。けど……第三者なりにできることはあるわ」
「セレナが起きたようだ。そろそろ先へ進もうか」
 それこそ聞きに徹し続けていた『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)が、立ち上がったセレナの肩をコンとノックしてから歩き出す。
「難しく考えることはない。依頼通りに敵を倒し、言いたいときにノーと言うだけだ。それに……」
 ルクトは視線を僅かに下げる。
 思えば、『ハンドレッド』たちに軍務派特務派どちらの息がかかっているか、まだハッキリとしていないのだ。わざわざ開墾作業と新種の調査ごときに民間の武器商人と武器職人が動員される理由があるとすれば……。
「……」
 ルクトは首を振った。いつまでも政治の話をしているわけにもいくまい。
 目的の遺跡が近づき、エコーロケーションにも動く物体の反応がかかった。
「『蒼空』、交戦開始。作戦行動に入る」
 フライトユニットを展開し、ルクトは空中へと飛び上がった。


 遺跡、とひとことに述べたのはその用途も内容も不明であるからだ。
 円形にならぶ柱と、中央にある大きな半球形あるいはドーム状の物体。いずれも継ぎ目のない石でできており、コンクリートとは異なる素材であることが外観からさっすることができる。
 が、ルクトにはいずれでも『どうでもいい』ことだった。
 必要なのはセレストアームズ(天空機兵)の大まかな個体数と、こちらを見上げるように頭部のレンズめいた石が光った様であった。
 いつ迎撃可能距離に入っても良いようにとそれぞれが地上で機関銃を構えるが――ルクトは両足を振り上げるようなフォームをとってアサルトライフルを握り込んだ。
「対空射撃は可能。ただし飛行能力はなし、か……なら、戦い方は決まったな」
 ドルフィンキックのようなフォームをとったかと思うとルクトは凄まじい速度で地上へと降下。相手の射撃可能範囲外から一気に距離を詰め自らの射撃可能範囲に入れると、広げた両腕から炸裂弾の発射口が展開。多目的炸裂弾頭『MRBL』を放つとセレストアームズたちの間を駆け抜けるかのように低空ギリギリを抜けていく。
 なんとか捕らえようとヒートブレードに持ち替えたセレストアームズが空振りした直後、着弾した炸裂弾が炎をあげる。何よりも目立った『狼煙』めがけてムーンリットナイトに跨がったレイリーが突進した。
「私はレイリー=シュタイン! といっても言葉はわからないかしら?」
 振り上げた腕から、格納された槍が展開。炎に包まれたセレストアームズの顔面を槍で貫くと、馬から飛び降りてセレストアームズたちの中央へと着地した。
 パッと翳した空の腕パーツが開き盾を展開。撃ち込まれた機関銃の射撃が装甲の上をはねて激しい連打を鳴らした。
「ほら、私を倒させない限り、この先進めると思わないことね!」
 スラスターからエアジェットを発して急接近してくるセレストアームズ。ヒートブレードが反対側から撃ち込まれるが、レイリーは踵から地面にピンを撃ち込むようにピックをたてるともう一方の脚からローラーを展開。急速にまわしたピボットターンで180度反転するとシールドそのものでもって後方からの斬撃を払いのけた。
「――司書殿、今!」
 叫んだ――と同時に『鋼鉄の女帝』ラムレイに跨がったイーリンが攻撃可能エリアへと突入。馬から飛び、『紅い依代の剣・果薙』をクルンッと巻くようにして槍状にまとめるとつい先ほどレイリーに射撃を与えたセレストアームズの背後めがけて突き立てた。
「さあ始めましょう――『神がそれを望まれる』」
 信管に触れたかのように突如として迸る紫色の魔力爆発が渦を巻き、巨大な槍でも放ったかのようにセレストアームズを貫いていった。
 それはレイリーのターンによって開いた20センチほどの空間を突き抜けたかと思うと先ほど剣を払ったばかりのセレストアームズの顔面を貫いて空へと消えていく。
「作戦通りに。孤立したセレストアームズを討つわよ」
 崩れ落ちたセレストアームズを蹴倒しつつ、イーリンは掃射される機関銃を射手からの周回軌道を描くようなダッシュで回避していく。
「孤立ってのはどういうこった。独りだけのこのこ出てくるってか? おいおい敵がそんなおばかさんなわけあるかぁ?」
 ファニーが手首から先をくるくる無限回転させるという変なジェスチャー(通称手のひらドリル)をしながら言うと、黒子がピッとレイリーのすぐそばで【怒り】の付与から逃れた個体を指さした。
「戦術的な孤立です。連携から外れた個体はもはや軍たりえません。これを各個撃破することで戦術有利をとるという基本戦術なのです」
「マジかよアンタら天才だな!」
 手のひらドリルがピタッと止まった。ここまで含めてジョークである。
 かと思えば、予め召喚を完了させていた巨大な頭蓋骨らしき物体がガパッと顎を開き赤黒い魔術光線を発射した。
 レイリーのすぐそばにいたセレストアームズの胴体を貫いて遠くのセレストアームズへと直撃。
 セレストアームズは機関銃に備わったシールドによってギリギリ受け止める――が、そのすぐ背後に赤いクリスタルがぱきぱきと音を立てて組み上がっていった。
 綺麗にキューブを積み重ねたかのような2.5m人型のゴーレムが完成すると、ハッとした様子で振り返ったセレストアームズの顔面めがけてパンチを繰り出した。
 側頭部をへこませてよろめくセレストアームズ。咄嗟の様子でヒートブレードを振り込むも、ゴーレムのすぐそばに立っていたジュリエットは身を低くかがめてブレードを回避。
 屈む勢いをころすかのように、右足でザッを大きな半円を描く。
 空振りした剣がゴーレムの手に止められる。
「――spinel」
 ジュリエットが唱えると、ゴーレムによる第二のパンチが今度こそセレストアームズを叩きのめした。
「魔力によって動くゴーレム、『セレストアームズ』ね……政治には全く関心ないけど、遺跡や遺物には個人的な興味が多大にあるわ」
 再び立ち上がり、カツンとジュリエットが靴を慣らした途端しつけられた犬の如くゴーレムが走り出しセレストアームズへと突進を開始。
 それを阻もうと機関銃を乱射するセレストアームズだが――。
「あまり知的な戦術回路を持ってはいないようですね」
「ええ、確かに」
 それを囮にして展開した黒子と瑠璃が絶好の射撃ポイントについていた。
 瑠璃はパチンと指を鳴らし、あふれ出した魔術的な花弁が突如としてセレストアームズを包み込んでいく。
「詳しい事は存じ上げませんが、過去の罪を悔いて同じ罪を犯そうとする者を止めようという気概は確かに受け取りました。
 パトリックさんの動向は今後注意させて頂くとして、今回は遺跡に介入し辛くなるよう、先んじて攻略させて頂きましょう」
 まるで相手を弄ぶように手をかざす瑠璃。遠近法を無視したかのように手のひらの上で踊る花弁たち。それを振り払おうとヒートブレードを振り回すセレストアームズだが、それがもはや失策であることには気づけないようだ。文字通り、瑠璃の手のひらで踊っているにすぎないと。
 キャリーケースを蹴っ飛ばすかのように倒し、レバーを握りこんで展開させる黒子。『8.8 cm大口径短身砲』が飛び上がるように現れ、それをキャッチした黒子はチューブ伸縮式の方針を伸ばして肩に担いだ。所謂携帯式の対戦車砲である。トリガーをひいて発射したことで砲弾は正確にセレストアームズへと迫り、爆発を起こし、転倒させ――。
「セレナ殿、出番っスよ」
 美咲が拳銃をしっかりと両手でかまえたまま囁いた。
「オッケー任せて!」
 腰部に装着された大砲を腕へとシフトさせると、セレナは猛烈な速度でセレストアームズへ突進。ダッシュパンチの勢いで『大砲を』叩きつけると、至近距離で砲撃した。
 重戦車スタイルと呼ばれるセレナの得意戦術であり、命中率の低さをおぎなうための割とれっきとした運用方法である。
 崩れ落ちるセレストアームズ。
 やったわ! といって振り返ってぴょんぴょんとぶセレナに、美咲は『お疲れ様でス』と言いながら丁寧にマガジン交換を行っていた。
 セレナは全然気付いてなかったが、セレストアームズが突如おかしな動きをしたのを察知して美咲は封殺効果をもつ魔術弾を的確に撃ち込んでいたのだった。


「それで、私は何をしたら良い!? 確か噛むとか噛まないとか言ってたわよね!」
 ふんすふんすと息巻いているセレナに、美咲は『スクワットしながら見張っててください』と言葉をかけた。わかったわ! と元気よく言ってスクワットを始めるセレナ。
「……心配になるくらい素直ね」
「それが良いところなんスよ」
 美咲は割と『嘘をつけない人間』が好きだった。『利益がないと嘘をつかない人間』と同じくらいには。
 それならいいけど……とジュリエットは呟いて、壊れたセレストアームズの観察へとうつっていた。
 セレストアームズの観察には、他に黒子とレイリーが加わっている。
 分解されたゴーレムの中身は様々な(そして用途不明な)パーツで構成されている。木っ端みじんに爆破した個体はともかく、破壊の小さな個体は調べがいがあるらしい。
「所で、『造花回路』は脳を司ると聞きます。では魂は?」
 黒子が造花回路を取り出してしげしげと見つめる。ローレットが名付けたパーツのひとつで、ゴーレムの脳を司るパーツであるらしい。
「あら、ゴーレムに魂はいらないわよ?」
 ジュリエットは地面に三つの文字を書いて見せた。『スピネルサーヴァント』発動用の石を取り出し、そこに微弱な魔力を流し込みながらその上に翳した。
 文字と同じものが浮かび上がり、少しずつゴーレムが形作られていく。
「これは?」
 レイリーが文字を見比べながら唸っていると、ジュリエットが完成されたゴーレームに触れながら説明を始めた。
「そうね……真理や真実を意味する言葉よ。魔力の通電を切るとこう」
 三文字目がフッと消え、ゴーレムは石の状態へと戻った。
「死という意味の言葉に変わるの。『スピネルサーヴァント』はゴーレム生成を効率的に行えるようにしたシステムなんだけど、原理としては土の人形に言葉をあたえて動かす仕組みね。だから、魂はないわ。あるのは命令と思考だけ」
「それは……魂と違うの?」
 レイリーは仮想的なデータがあたかも魂のように振る舞うさまを、あるいは魂そのもに見えたことを思い出していた。
「さあ……副次的に産まれるかどうかは検証してないけど、少なくとも意図的に配合させてないのは事実ね」
「なるほど……」 
 レイリーはバラしたパーツをひとつひとつ確かめながら、魂のありかと意味について考えていた。

 一方でこちらはイーリンたち。
 ファニーと美咲が罠やへんな仕掛けがないかを確かめながら、遺跡中央にあったドーム状の施設へと侵入していた。
 そう、ドーム状。内側は空洞になっており、中に入ると薄暗いだけの部屋があった。
 ライトを点灯して天井を照らしてみると、文字のようなものが書いてある。
「こういのは……瑠璃?」
「お任せを」
 瑠璃が解読を始めると、それはどうやら『気温を操作する方法』について書かれているらしかった。
「つまり、この施設を使って気温を操作していたと?」
 ルクトはへんてこな物体群を眺めて訝しむ顔をした。機械にはとうてい見えない。練達には天候を操作するシステムがあると聞くが、それと同じものだといわれてもちょっと想像できない。
「本当だと思うわよ。ただ、今は動かないみたいだけど」
 イーリンは腕組みをし、ここにはない空を見上げた。
 厳密には荒嵐領域の先に思いをむけた。
「アーカーシュは古代精霊都市レビカナンの遺跡よ。そのシステムの多くには精霊術が用いられてる。精霊は空の上に離れて暴れっぱなしなわけだけど、その原因はアーカーシュのシステムが長らく停止していたせいよね」
「精霊がなんとかなればこの機械が動くってのか?」
 あんまりピンとこねえなあと言って首をかしげるファニー。
 が、一方で美咲はなんだかピンときていたらしい。
「こことは別に、水路を探索したことがあったんスよ。あそこはアーカーシュの水道インフラを管理するシステムでした。ゴーレムはそこの防衛……をしてたっぽいっスけど、それにしては配備する位置が変っスよね」
 それはどういうことだ? とルクトが目でうったえると、イーリンが秒で続きを言った。
「あの位置じゃ、余裕で施設を攻撃できちゃうわね。防衛するならもっと外側に配備しないと。だからこの配置はなんていうか……」
「整備?」
 瑠璃の一言に、イーリンと美咲が同時にポンと手を打った。
 ゴーレムの役割。島のしくみ。それらが明らかになる一方で、明確になった『不自然さ』にも彼女たちは気づき始めていた。
 そしてそれこそが、特務派の狙いなのではないか……と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 今回の調査結果はセレナを通じて軍務派へと回されます。

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