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シナリオ詳細

<タレイアの心臓>ふりかえってはいけなかったの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ラウランから弓を突きつけられたアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は迅速に動いた。
 なんの躊躇もなく前進、しかるのち弓手をしたたかに打ちのめし、寝技でもってラウランを組み伏せる。
「いだだだだ」
「ラウラン殿、説明してもらおうか、すべて」
「まったくだ」
 横合いからかかった声にアーマデルは素早く振り向いた。
 雪を蹴立ててアルトゥライネル(p3p008166)が近づいてくる。彼はラウランへ近寄ると、その頬をぶちのめした。
「アンタがしたことは、つまり時間稼ぎだったんだな? そうなんだな?」
「……」
 ラウランは黙り込んでいる。
「ラウランさん、聖女について教えてください。貴女の知るところを、余すところなく」
 反対側から桜咲 珠緒(p3p004426)がやってきた。彼女を守るように前に立つ藤野 蛍(p3p003861)は、厳しい表情を崩さない。
「なあ、ラウラン殿。貴殿は聖女へ心酔しているのか? 俺にはそこまでにはとてもみえないのだが」
 冬越 弾正(p3p007105)がしゃがみこみ、ラウランの目を見ていった。
 しばらくもがいていたラウランだったが、やがて観念したのか自白をはじめた。
『聖女』は絶望を食らう。特に子どもの絶望を好む。それをかき集めるために一芝居うったのだ。ただ雪に閉ざしただけでは真に絶望させたことにはならない、ゆえにイレギュラーズにいったん村を解放させ、再び雪に閉ざすさまを子どもたちへ見せることで、より強い絶望を生ませる意図だった。村が解放されたように見えたのは簡単なトリックで、聖女が一時的に呪いをといただけにほかならない。
「いまごろふたたび氷漬けになった村を見て、子供たちは落ち込んでるはずだったんだがな」
 やけになってしゃべくるラウランにアーマデルは問うた。
「なぜこんなことをした」
「……謝らないぜ。聖女さまに協力しないと俺の村が氷漬けになっちまう」
「そういうことか」
 まだ彼の中に残る人間性に、アーマデルは胸をなでおろした。
「聖女とやらに脅されていたのか」
「それもあるが」
 ラウランはがっくりとうなだれている。
「なんでだろうな、言われたとおりにしなきゃならない気がしてたまらないんだ」
「聖女の名は?」
「トリーシャ」
 アーマデルは薄くまぶたを落とし、弾正はぞわりと総毛立った。一歩前へ出る弾正。
「今なんといった」
「だからトリーシャだ」
「そいつは魔種だ!」
「……知ってる」
 こんなことするやつがまともなわけないだろとラウランは低い声でつぶやいた。


「つまらないわね……」
 凍りついた水鏡を前にトリーシャはため息を落とした。そこへは先程までイレギュラーズたちの活躍が映っていた。
 そのおかげで、食料となる子供たちの心に余計な雑味が芽生えてしまった。余計な雑味、すなわち希望というものが。
 トリーシャを恐れて黙りこくっている子供たちだが、きっと助けてもらえると信じ始めている。これ以上雑味が増える前に食らわなくては。
「……わたしは良質な絶望がほしかっただけなのに」
 味にうるさいトリーシャのこと。せめて今の心情のままフリーズさせてやろう。彼女は子供たちを振り向いた。息を呑み、身を寄せ合う子供たち。彼らを茨が覆った。子供たちは次々と眠りに落ちていく。茨がうごいた。小さな体を操り、コアをむき出しにしたレガシーゼロのように動き回る。
「移動しましょうか、邪魔が入る前に。そこでゆっくり食べてあげる……」


「俺はアーマデル、こっちは魔種の手先のラウラン・コズミタイド」
 アーマデルは淡々と説明した。
「こいつは魔種と契約を結んでいて、あっちの居場所がわかる」
 弾正も深くうなずく。
「いまごろ魔種トリーシャは15人の子供たちを手元に置いているはずです」
「放っておけば子供たちは心を食われて永遠に目覚めなくなってしまうわ」
 珠緒と蛍がかわりばんこに用件を伝える。
 アルトゥライネルがあなたへ手を差し伸べた。
「ことは急を要する、協力してくれるか」

GMコメント

みどりです。湿気が!湿気が私を殺しに来る!

●『夢檻』
 当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

やること
1)子供たちを12人以上救え

●エネミー
魔種トリーシャによって操られた子供たち、全員そろって15人居ます。
茨によって無理やり動かされており、本人は悪夢を見ています。
HPが低く、反応、EXAが高いのが特徴です。
ダメージはコアである子供たちへ行きます。
近接タイプが10人、遠距離タイプが3人、支援タイプが2人という構成です。

●戦場
森の中です。遮蔽物となる太い木々がそこかしこに生えています。そこを子供たちが行進しています。

●その他
魔種トリーシャ
 邪魔してきます。今はまだ討伐はできないでしょう。しかし手の内を読む絶好のチャンスです。

ラウラン・コズミタイド
 道案内役でついていきます。彼がいないと子どもたちの居場所がわかりません。
 トリーシャに魅了されていますが、正気ではあるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

このシナリオは「<13th retaliation>ふりかえってはいけないの」の続編ですが、読む必要は特にありません。

  • <タレイアの心臓>ふりかえってはいけなかったの完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ルチア・アフラニア(p3p006865)
決死行の立役者
冬越 弾正(p3p007105)
黄泉路の楔
アルトゥライネル(p3p008166)
舞祈る
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
音色に耳を傾けて
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー

リプレイ


 雪を蹴立ててイレギュラーズが走っていく。彼らを先導するように一匹の栗鼠が懸命に走っている。
「避けてください、右、左、それから右」
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が大木だらけの道の先を教えてくれていた。
「雪の下に根があるから、足を取られないよう気をつけて!」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)も透視でもって一行の進軍を補佐する。
 一行を引っ張るようにぐいぐいとふたりは進んでいく、その後ろを『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)が楽しげについていく。
「魔種とやらにお目にかかるのが楽しみね、ねえラウランさん?」
 皮肉たっぷりのそのセリフにラウランは顔をしかめた。その背にある弓矢を見て珠緒は確固たる意思を秘めた口調で迫る。
「ラウランさん、武器は置いていってください」
 ラウランはぎょっとしたようだった。
「これは俺の大切な相棒で……」
「置いていってください。戦闘中に妨害されると、こちらも対処せざるを得ませんので。これはあなたのためでもあります」
 珠緒は再度繰り返した。『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も言い添える。
「ラウラン殿、申し訳ないが、武器は置いていってもらえないか」
 ラウランが顔を曇らせる。
「だけどよ、これは俺の命を守るものでもあって……」
「ラウラン殿の置かれた状況はある程度理解した。同行してもらう必要がある以上、対処は必要だろう。お互いのために……」
「そうは、言っても……」
 ラウランは逡巡の視線を己の武器へすべらせた。
「このままだと万一のときは不殺で殴るかもしれないが、勘弁してくれ」
 ラウランは答えない。しぶい顔のままでいる。
「では頼む。何があろうと……踏みとどまってくれ。あの夜、あんたと話したから、俺は弾正と話し合う覚悟ができたんだ。ラウランドのの行為は、俺たちの任務としては裏切りかもしれないが、ラウラン殿個人に限れば、故郷を人質に取られ、魅了された上で、致命的な邪魔をしたわけじゃない。あんたは縛りの中でわりと上手くやってる、と思う」
「そうだな」
『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)もまた声をかける。
「お前が俺たちの言うことを受け入れないならば、俺たちもそれなりの態度を取らざるをえない。お前の故郷を救うことも、できなくなる」
「……」
「俺たちが手を組む、そのためにはお前が正気でなければならない。裏切るつもりがないなら自分を殴ってでも踏ん張ってみせろ。俺に、もう一度殴らせるな……さっきは事情も聞かずに悪かった」
 ラウランがくしゃりと顔を歪めるなり、弓と矢を手放した。重い音が雪に吸われて消える。
「ああもうわかったよ! 信用できないのはこっちだって理解してらぁ!」
 半ばやけのような物言いにアルトゥライネルはむっとし、アーマデルはくすりと笑った。
「何がおかしい」
「いや、ラウラン殿らしいとおもって。守るものがたくさんあると、大変だな、ラウラン殿も」
「そういうものか」
 アルトゥライネルはこころを鎮め、また前へ進んでいく。
「ラウランさーんっ、本当にこっちでいいんですかーっ!? まじで魔種がいるんですかーっ!?」
「ああ。いる。俺の魂がそう言っている!」
 ラウランからどなりかえされた『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)はぺろりと舌を出した。
「なんですか急にっ! 中二はとうに過ぎてるんじゃないですかっ!?」
「そうとしか言えないんだ、察しろ!」
「からかうのはやめたげなよ、ウテナさん」
 苦笑いを浮かべた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が走りながらもウテナの肩を叩く。
「今はラウランさんの言うことを信じるしかない。たとえ遠回りさせられているとしてもね」
「きっついこと言うなあおまえ、これでも最短距離をいってるんだぜ? わからないかもしれないけれど」
「ああ、わからないね。でも信じざるをえない。今の頼みの綱はラウランさん、あなたなんだ」
 最後尾を走る『残秋』冬越 弾正(p3p007105)は皆の靴跡を踏み越えながら行く。
(このさきに、トリーシャがいる)
 子供たちの安否を思い、胸が痛む。きっとろくな目にあっていない、それだけはわかる。そういう魔種だ。儚く幼い外見を効果的に利用し、狡猾に動き回る。属性はおそらく怠惰。自分が仕掛けるよりは、周りにやらせることを得意とするはずだ。きっと今回も搦手で来る。
(注意してもしすぎることはない)
 どんな手を使ってくるか、弾正は緊張で胸がはち切れそうだった。心はせくばかりで子供たちのことが気遣われてならない。その勢いのまま脚へ力を込める。走るスピードが上がった。
「見えたわ!」
 蛍が声を上げる。前方の大樹の陰に小さな影がふわりふわりと落ちている。そして右へ左へ奇妙な動きをしながら歩いているのがわかる。
(追いついた。俺たちが来たことを、後悔させてやる)
 弾正は受け継いだ蛇鞭剣を手にした。


「ひどい……」
 ルチアは顔を覆った。茨に覆われた子供たちは全身に擦り傷を負っていた。血がジクジクと流れ、雪の上に小さな痕を残している。
「くっ、上等じゃない、全員救ってみせるわよ。イレギュラーズを舐めるんじゃないわよ?」
 幻想福音の楽の音が響き渡った。子供たちの擦り傷が次々と消えていく。
「あら、裏切ったの、ラウラン……」
 子どもたちの向こうから、トリーシャが無気力な視線をラウランへ合わせた。
 びくりとラウランが肩を震わせた。おこりにかかったように全身を震わせている。その前に立ち、アーマデルは蛇鞭剣を構えた。
「ラウラン殿、耐えてくれ」
「俺が我慢できるうちにやっちまってくれよ? あいつの言葉は俺にとって絶対なんだ……」
「ちょっといいかな」
 ラウランが振り向いた先にはイズマが居た。彼のやわらかな笑みを見ているうちにぼんやりとしてくる。魔眼だと察した時には既に術中にあった。
「トリーシャのために、動いてはいけないよ」
 ラウランが小さくうなずく、だが……。
(強固な障壁を感じる。俺の魔眼では防ぎきれない。けど初動を遅らせるくらいはできる、か?)
「ラウラン殿が操られる前に全員助け出すぞ!」
 イズマが活を入れ、戦場へ踊りだす。
「ヨキ・コト・キク、神へと捧げるこの文状、盟約せよハデス!」
 イズマの影がふたつになる。分裂した影が重なり合い、冥府の淵のような赤黒に変じる。それはイズマが力を手にしたことを意味していた。続いて摂理の視を己にかけると、イズマの周りにさざなみがただよいだす。さざなみは音符となって楽の音を響かせる。イズマは走り、遠くに居た支援役の子どもたちへ両手を突き出した。楽の音が衝撃波となって子どもたちへ襲いかかる。
「聞かせてくれ、魂の真実を、伝えてくれ、悪夢の晴れる時を!」
「「―――!」」
 響奏撃・波でもって叩かれたふたりの子どもたちが声にならない悲鳴をあげる。
「痛くしてごめん、でももう少しの辛抱だから許してくれ……!」
 イズマは自らも技に巻き込まれたかのようにつらい思いをしながら攻め立てていく。
「珠緒さん!」
「ええ、蛍さん」
 珠緒がまぶたを閉じ集中する。
「限界を超え、その先を見ん。散りぬるを急ぐにあらず、ただ走り、奔りたければ」
 珠緒の足元から金色の風が吹き上げた。爽やかなそれが珠緒のまわり吹き荒れ、一瞬冷気すらも吹き飛ばした。
「さあ、蛍さん」
「うん、ボクがんばるよ。だから珠緒さんもがんばって!」
「ふふ、もちろんそのつもりです」
 蛍からのエールを受け取った珠緒がゆるく微笑む。その愛しさが蛍の両足を踏ん張る力に変わる。
「さあ、おいで子どもたち! 鬼はこっちよ、手の鳴る方へ!」
 近接の子どもたちの群れに突っ込んだ蛍の周りに桜吹雪が舞い散る。桜の世界。輝かんばかりの美に酔いしれた子どもたちが我に返り蛍を追いかける。雪の上で急ブレーキをかけた蛍の靴底がザザッと音を立てた。
「さーて、イッツショウターイムですよっ!」
 ウテナの乗ったロスカが子どもの一人へ急降下した。ロスカが胸ぐらをマズルでつかみあげ、雪の上に放り出す。茨だけを狙ったショウ・ザ・インパクトはしかし、目論見儚くもやぶれ、子どもは茨ごと吹き飛んだ。
「うん、なんとなくわかっていましたっ。しかたないですねっ。こうなったらいつもの感じでよろしくお願いしますよロスカ! 威嚇!」
「くぁ~!!!!」
「もっとですよっ! がおー!!!!!」
 空気が震え、振動が皆の鼓膜を叩き割りそうになった。直撃を受けた子どもはふらふらとくずおれ、雪面に伏す。
 すかさずアルトゥライネルがその子に駆け寄った。抱きかかえようとして茨にはばまれる。したしたとこぼれ落ちる擦り傷からの血にアルトゥライネルはたまらない心地になった。彼は天を向き、殿が割れんばかりの大声をあげる。
「家族や村の者は無事だ! 次はお前達を開放する! 必ず全員助けてみせる! 少し痛みがあるかもしれないが、俺たちを信じて耐えてほしい! 一人一人が信じる正義の心が悪者への攻撃になるからだ!」
 その声を聞いた子どもたちに変化が生じた。悪夢に悩まされている子どもたち、その額のシワが緩んでいく。それ自体はごくごくわずかなものだったが、アルトゥライネルを奮起させるのに十分だった。
「宿り給え神の威光よ、正しき勅を下し給え。いずれかなる者を召すならばより悪しきをこの世より疾くいねいねとや!」
 アルトゥライネルが舞踏布陣を掲げる。ひらひらと空からさまざまな色の鮮やかな羽が舞い降りてくる。それはアルトゥライネルの上へ集まり、やがて巨大な光球となった。
「穿て!」
 光球から放射状に光線が放たれ、子どもたちへ突き刺さる。小さな顔に苦悶を浮かべた子どもたちは、痛みからさらなる悪夢へ飲まれたようだ。
「しばしの我慢だ。一時の悪夢は俺たちという希望で終わりを告げる……!」
 アルトゥライネルと同様に神気閃光を放っていた珠緒が倒れた子どもたちをじっと観察する。
「イズマさん、ウテナさん、気絶した子どもを戦場の後ろまで下げていただけますか。珠緒が外科手術で茨を取り除きます。この子らが見たであろう希望は否定させません。妥協なく全員親元へ返しますよ」
「わかってる。言われずともいくよ」
 イズマが動くが、子どもが意識を失っていても茨は動いていた。倒れた子どもに近寄ろうとすると、地面を叩いて威嚇される。イズマが手をこまねいていると、ウテナが我が物顔で腕を組んだ。
「ふふん、こういうときこそロスカの出番なのですっ!!」
 ロスカが茨ごとむりやり子どもを咥えあげた。そのまま戦場の奥まで後退する。勝敗は決しつつあった。

 一方、戦場の片隅では静かな戦いがくりひろげられていた。
 弾正とアーマデル。ふたりの熟練のイレギュラーズを相手にしてなお、トリーシャは余裕の態度を崩さなかった。トリーシャの放つ殺気は青白いオーラとなって、目に見えるかのようだった。
(うかつに踏み出せば首を取られる)
 アーマデルは唇をかみしめて戦闘態勢のまま待機し続けた。しんしんと冷たい空気が降り積もって体が冷えていくのがわかる。かつての世界で習った独自の呼吸法でもって体温を維持し、戦闘態勢を続ける。
(油断ならないわね、この二人……めんどくさい)
 トリーシャもまたふたりの実力を高く買っていた。唇をひとさしゆびで撫でながらふたりの出方を伺っている。
 睨み合う一体とふたり。時間だけが刻々と過ぎていく。
 その時、弾正が動いた。
「トリーシャ」
 魔種が片目をすがめる。弾正は用心しいしい言葉を連ねた。
「君はなぜそのような若さで魔種になった? いずれ俺たちは君を倒す。しかし……ただ憎んで倒すだけで、救えるとは思えない」
 トリーシャは鼻で笑った。自嘲を含んだような笑みだった。
「わたし、魔種になってからの時間の方がよっぽど長いのよ?」
「だとしても俺は……君を救いたい……」
「救う……? あなたが救われたがっているだけじゃないの……? 殺すと心が痛むから自分の理解できる範囲へ落とし込もうとしているのではなくて……?」
「それは!」
「弾正」
 アーマデルが弾正へそっと寄り添う。
「落ち着け、俺が傍らにいる」
 トリーシャが玩具を前にした猫のような目つきで弾正を見つめる。
「人はひとりでは生きることができないと、主上はおっしゃったわ……。つまり、支え合う人を失った人ほど、脆いものはないのよ……。人間には必ず心という、泥をこねたままの部分があるのだもの……。いまのあなた、絶望に淀んだ目をしている……」
「そんなことはない」
 弾正は言い放った。
「俺には恋人もいる。借りがある人もいる。おまえが俺をそう見下げても、俺は歌おう、希望の歌を!」
 言うやいなや弾正はマイクを取り出した。
「嘆きの壁を前にして、ひるむ君は正しいんだ。だけど拳を胸に抱き、光を信じればいい。君の後ろに誰かが続くだろう。君の往く道は、誰かを助くだろう。救済の時はきた。抱け希望を! 悪夢をさあ、踏み越えて!」


 イズマとウテナが茨を取り押さえているすきに、珠緒が茨を切り削いでいく。やがて最後の子どもから茨が取り除かれ、珠緒は大きく息を吐いた。
「珠緒さん、おつかれさま」
「いいえ蛍さん、まだ親玉が残っています」
 イレギュラーズたちは続々とアーマデルと弾正のもとへ合流した。
「獏みたいに悪夢を食べる程度ならまだしも、絶望の心を食べて子どもたちが二度と目覚めないようにするなんて酷いな」
 イズマがメロディを口ずさむ。
 ウテナは胸を張って、ロスカの上からトリーシャを指差す。
「やるからには全員救いますよっ。ついでにトリーシャさんもぶったおしちゃいますよっ! それで大団円ですっ!!」
 トリーシャは興味なさそうな一瞥を返しただけだった。
(むむー! 腹たちますねえっ!)
 ロスカの背にしがみつくウテナ。
(救助対象を絞らせたのは子どもが居ない不自然さに気づかせないためか? 裏があるとは思っていたが……とんだ悪食の偽聖女様だな)
 アルトゥライネルは思考を中断し、ため息をついた。
「……まんまと踊らされていたのには腹が立つが、子どもを無事に帰すのが最優先だ。絶望を糧とするなら、一滴たりとも食わせてやるものか」
 一歩下がり、子ども達を守るように両手を広げる。舞踏布陣が風になびきはたはたと鳴った。
「……救うべき子供達と、その子達の心を喰らう魔種を目の前にすると、やっぱり落ち着いてはいられないわね。今度こそ本当に解放させてもらうわよ!! 村々のことも、その子供達のことも!!」
「まったくです。魔種については詳しくないのですが、動機が『美食気取りの食欲』とは、イレギュラーズが世界を巡る昨今、さぞや手間も増えたでしょう。いっそ諦めて断食でもされてはいかがでしょうかね」
 蛍と珠緒が言いつのる。アーマデルに付き添われて弾正はトリーシャを射殺さんばかりに見つめている。
「後悔ばかりの人生だ。その中で貴様を取り逃がした事ほど後悔した事はないぞ、トリーシャ。R.O.Oで世話になったハムレスは、変わり者だが一概に悪い奴ではなかった。全ての元凶たる貴様に、これ以上好きにはさせん!」
「……あいにくだけど、私そんなに優しくないの」
 トリーシャは瞬時に腕を長く伸ばした。速い。あまりの速度にかすったルチアの頬へ傷が走った。そのまま後ろにいた子どもを二人捕まえ、己のところまで引き戻す。
「なっ、よしなさいトリーシャ!」
 蛍が声を上げるが、遅かった。トリーシャは子どもの額へ手を当てた。眠る子どもの顔から生気が消えていく。その子が永遠に冷めない眠りへ旅立ったのだと蛍は理解した。
「まずい……、雑味がひどいわ……けど、ないよりはましね」
「およしなさい!」
 珠緒が突進した。だがまにあわなかった。ふたりめの子どもも同じように絶望を食らわれ、眠りの淵へ沈んだ。
(なんてこと、子どもたちへ直接手を出すだなんて)
 珠緒が思いを巡らせた一瞬のことだった。トリーシャの長い腕が珠緒の首を掴み、持ち上げた。
「ぐっ……!」
 気管が潰れる、痛みが走る。それでも珠緒は目を見開き、トリーシャを睨みつけた。
「これだからイレギュラーズって嫌いよ……。どんな時も希望を失わない……」
 そんな珠緒を見つめたトリーシャがふいに笑みを見せた。
「そうね……イレギュラーズにはイレギュラーズにふさわしい絶望があるはずよね」
 トリーシャが笑みを深くすると、漆黒の槍が雪を貫いて現れ、珠緒を串刺しにした。黒く、太いそれはあやまたず珠緒の心臓を貫いていた。
「珠緒さん!!!」
 蛍が絶叫する。その凛とした美しい顔は血の気が引いて真っ青だった。
「あら、あなたそんな顔ができるのね、すてきよ……」
 槍は大きく姿を変え、膨らみ、丸まって、黒い球のなかに珠緒を隠した。
「珠緒さん、珠緒さん、珠緒さん!!」
 我を忘れて駆け走る蛍。その痩躯が容赦なくトリーシャに打ち据えられ、吹き飛ばされる。
「くあっ、うう、珠緒さん……!」
「眠っているだけよ。それではそのうち……ね……」
「待って、珠緒、さん……」
 蛍は必死にトリーシャへ手を伸ばす。だがその手が届く前に彼女の姿は珠緒とともに消えてしまった。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

藤野 蛍(p3p003861)[重傷]
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)[夢檻]
比翼連理・攻
ルチア・アフラニア(p3p006865)[重傷]
決死行の立役者

あとがき

おつかれさまでしたー!

ギリギリ成功です。残念ながらトリーシャの手の内はあまり読めなかった模様です。
今回の功労者、珠緒さんが夢に囚われてしまいました。今はただ状況が動くのを待ちましょう。

またのご利用をお待ちしています。

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