PandoraPartyProject

シナリオ詳細

子育て支援ローレット!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●育てよ伸びよ
 日差し心地良い真昼時。ネオフロンティア海洋国の首都、リッツパークに住むとある貴族宅で悲鳴が上がった。

「ああ~~っ!! シッターの予約、忘れてたぁ!!」

 彼女、『コバルト男爵』の妻であるクジャーシアは迫る結婚記念日に向けて夫婦水入らずのデートを企画していた。
 だが、それが遂に数日前という段階になって我が子達を見てくれる者が居ない事に気付いたのである。このままでは結婚十五年目デートが大変な事になってしまう。
 ましてや働き者の夫の休日も兼ねているとなれば、とても無駄には出来ない。
 何故そこまで追い詰められているのかと言えば……

「ママ―! 見てみてー、イヌスラできたよぉ」
「ままー、おやつ食べたーい」
「まままま、このミミズたべていーい?」
「まんまー!」

 侍女や遊び相手もしてくれる使用人はいるのだが、それでもやはり母親が好きなのだろう。
 四人の幼い兄弟姉妹たちは皆クジャーシアに構って貰おうと遊び寄って来るものなのだ。
 これではとてもデートどころではない。
「どうしようかしら……」
 下町の託児所や首都にある保育施設は、貴族の子供を預けてどうなるか分かった物ではない。噂に聞く幻想に比べれば海洋は平和だが、どこから話が漏れて狙われるか。
 貴族御用達のシッター協会に頼むにしても最低一週間以上前から予約していなければ、急に来てくれないのだ。 
「……そうだわ! あそこがあるじゃない!」
 絶対に裏切らず、忠実に任務を遂行してくれて、急な話でも数日前に依頼すれば来てくれる機関。
 何でもできる者達。いるではないか。

●育児は大変
 ……という話を、未だ婚約者の決まらない『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は虚ろな目で聞いて来たらしい。
 曲がりなりにもミリタリアも貴族なのだろう。他人事ではない話にちょっとアンニュイな顔になっていた。
「まぁ、それでも我々のやる事は変わりません、良いですね?」
 アッハイ。
「依頼主は先にお話しした通りクジャーシア・コバルト様。海洋貴族です。
 依頼内容はコバルト卿の四人の子供達を二日間、皆様に面倒を見てほしいとの事です。皆様ならそれほど苦労はなさらないでしょう」
 と、言いながらミリタリアは指を一本立てた。
「ただし、これは依頼主のお屋敷に泊まり込んでの任務となります。ご子息に怪我や危険の無いように、ちゃんと見てあげて下さいね?
 くれぐれも! 変な遊びを! 教えたり! ビームとか見せてはいけませんよ!」
「なんでビーム!?」
 だってイレギュラーズなら撃ちそうだし幼い子供は直ぐ「破ァーー!!」とか両手を突き出して真似するものだから。
 ミリタリアは知り合いに心当たりでもあるのか、こめかみを抑えてそう言った。
 確かに、とイレギュラーズは同意した。

GMコメント

 本件にロリコンが混ざる事を禁ズ……(Byミリタリア)
 それは冗談です。皆様よろしくお願いします。

 以下情報

●依頼成功条件
 無事に二日間子供達の面倒を見る

●子供達
 長男『ミカエル』
 わんぱくな五歳児。両親と同じくウミネコの飛行種で、たまに目を離すと木の上に飛んで降りられなくなったりする。
 好きな物はアイスクリーム、夜は寝る前にトイレに連れて行かないと絶望の青の地図を描いたりする。

 長女『ルビー』
 おませな五歳の女の子。前庭で虫を探してはバケツ一杯に集めて来て使用人や両親をドン引きさせるテロリスト。
 好きな遊びはリアルおままごと。夜は添い寝しないと眠れない。

 次男『ウリエル』
 おとなしい四歳児。前庭にある砂場でよく何か作っては見せに来るが、褒めないと屋敷のどこかで体育座りしてすすり泣く。
 好きな物はスライムや可愛いマスコット。夜は何かお話を聞きながらでないと眠れない。

 次女『スピネル』
 ウリエルとは双子の妹、四歳。とにかく甘えん坊、誰かが常に付き合わないと拗ねて家に火を放つ癖がある。コバルト家最強の問題児。
 何でも好き。夜は【気配遮断】を駆使して屋敷のどこかにある【秘密の隠れ家】へ行ってしまう事があり、要注意。

●コバルト家
 広い屋敷の前庭には薔薇園や砂場、シーソー等の遊具があり。厨房には凡そ三日間以上は保つ食材や器材が揃っているため、技能があるなら何でも作って出せるでしょう。
 掃除や洗濯は三人の使用人が行っています。浴場は広めのジャグジー付き。
 依頼人からは『好き嫌いは無いけれど余り作り過ぎない様にしないとお腹を壊すかも』との事。
 また、それほど治安が悪いわけではありませんが不審者には注意して下さい。
 リプレイ開始時含め二泊三日の子供達との生活となりますが、子供は笑顔を好みます。是非楽しんできて下さいね。

 以上です。

 情報精度はA、上記を参考にしつつ皆様なりにちびっ子達の面倒を見てあげて下さい。
 それでは皆様のご活躍をお待ちしております。ちくわブレードでした。

  • 子育て支援ローレット!完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年08月16日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レオン・カルラ(p3p000250)
名無しの人形師と
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
星影 霧玄(p3p004883)
二重旋律
ライム マスカット(p3p005059)
グリーンスライムサキュバス
剣崎・結依(p3p005061)
探し求める

リプレイ

●いちにちめっ!
 約束された日はやって来た。
 澄み渡る程の晴天のリッツパークは今日も潮の香り漂う活気に溢れている。
 大量の荷物を従者に持たせ門前で別れを告げる依頼人、クジャーシア・コバルト。屋敷を出て行く彼女は実にエネルギッシュな後ろ姿だった。

「ふふ、偶には夫婦水入らずで過ごしたいですよね」
 苦笑混じりに見送った『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)。
「子供が出来ると二人きりの時間は減ると聞きますしね、そういえば子供達はどうしてるんでしょう? もう起きたかな」
「確か朝食中ですね、この後にお昼まで遊ぶみたいです。子守りは経験したことがないですけど、笑顔を忘れず、なんとか乗り切ってみせましょう!」
 屋敷へと戻りながら『空き缶』ヨハン=レーム(p3p001117)と『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)は前庭を通る。
 前庭から屋敷の食堂を覗いて見れば、使用人達が予めクジャーシアの作り置いた朝食をバタバタと走り回る子供達に並べさせている様だった。
 朝から元気な様子が遠目に見えた葵は思わず微笑みながら張り切って屋敷へと入って行った。

 そして始まる初日の触れ合い。使用人の一人が子供達を前庭へ連れ出して来て遂にイレギュラーズの面々と顔合わせとなった。
 エントランスに集まった子供達は首を傾げながら元気に騒いでいる。

「みんな元気ですねー! 今日と明日の二日間みんなと一緒に過ごすミミですよ、よろしくなのですっ」
 白い羽根を元気にぱたつかせながら首を傾げる子供達の姿に白い耳を忙しなく動かして応じる『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)。
「俺は星影霧玄。よろしくね?」
「ボクタチはレオンだよ」『カルラよ、仲良くあそびましょうね?』
 目線を合わせる様にして『二重旋律』星影 霧玄(p3p004883)や『名無しの人形師と』レオン・カルラ(p3p000250)に続き、それぞれが自己紹介をしていく。
 子供達の反応は、見慣れない旅人だったり鉄騎種だったりするイレギュラーズにたちまち興味を持ち始めていたりと、一同の表情を見て『イイヒト』として認識したらしい。触れ合う第一歩としては実に良い滑り出しだった。
 特に、白いふわふわした羽毛を散らして喜んでいたのはコバルト家次男のウリエルだった。
「スライムさん! お名前はー!?」
「ライムっていいます、君がウリエルくんかな? えっへへー! いっしょにあそびましょっ!」
 大はしゃぎで『グリーンスライムガール』ライム マスカット(p3p005059)に駆け寄って来た彼は小さな手でぱたぱたバタバタ。
「お母さんに聞いてるよ、砂で物を作るのが得意なんだよね? 僕も見てみたいな~?」
「うん! むつねせんせいも一緒にいこう!」
 ライムと霧玄の手を取ったウリエルは前庭の砂場目指して走って行くと、後は自然と子供達の雰囲気は『そういう時間』だと切り替わる。
 残った三人の子供達も一目散にイレギュラーズに駆け寄るのだった。

●あそぼう!
 そんな快調な滑り出しから初日の遊び時間は始まった。
「初めまして! 私はノースポール。よろしくね♪ ポーって呼んでね!」
「ぽーせんせい! シーソーやろー!」
「シーソーかぁ、いいね! それなら剣崎先生も一緒に乗ろうって誘おっか」
 目線を合わせてコバルト家長男であるミカエルとハイタッチしたノースポールは、それとなく『探し求める』剣崎・結依(p3p005061)へ目配せをする。
 結衣はそれに軽く頷くと「二人は一緒に乗るといいよ、俺が動かすからね」と言ってシーソーへ向かう。
 ミカエルはその快活さをここぞとばかりに発揮した。最後尾に座って板が跳ね上がる度にノースポールと共にキャーキャー! と叫んで持ち前の羽根をばたつかせ、まさかの空中に取り残される芸を繰り返していたのだから。
 ちなみにそれの場合、もろに板の落下時の衝撃を受けていたのは結衣である事は明白である。
「き、きつい……」
 腰をさすりながら目の前でホバリングする白い鳥の二人を見つつ、結衣は微かに苦笑するのであった。

 ヨハンは目の前に広がる光景に、目がしんでいた。遠くでスタイリッシュシーソーしてるノースポールと目が合うが、軽く手を振る事しか出来ない。
「ひどいわレオン! 私という妻がありながら、使用人のヨハンとそんな仲だったのね!」
 コバルト家長女ルビー。彼女の怒りの声と共に指差された方向ではレオン達が花束とオタマを持たされて立っていた。
『どういう事なの! ルビー、あなたは結婚していたというの!? 私と付き合っていたのは遊びだったのね!』「ま、待つんだ二人共……いつの間にボクはスピネル以外と結婚していたんだ?!」

「ええっ!? すぴねる、れおんさんとケッコンしてたの!!?」
(どんな設定ですか……ッ!!)

 コバルト家次女スピネルの驚きに思わず胸の中で、喉から出る一歩手前、ぎりぎり声に出ないミリ前。ヨハンはツッコミせざるを得なかった。リアルおままごと、覚悟はしていたがそもそも四歳児と五歳児の幼子たちの遊びである。
 どう考えてもおかしい流れと配役にヨハンは話の流れに気合でついて行くしか出来ない。
 しかし彼の他にもまだまだ巻き込まれている人数は多い。
「もういいわ! ころし屋にけしてもらうんだから!」
 ルビーは自身を膝の間に挟んでいる葵の手をクイクイと引っ張る。その直後、葵の後ろからバスターソード(おもちゃ)を背負ったぬいぐるみが登場した。
 突然のサスペンスの予感に動揺する一同、そしてなぜか刃を向けられる、けされる予定のレオン。
 ヨハンは内心引きながらも助けを呼んだ。
「だ、だれかたすけてー!」
「呼ばれたのです!」
『あなたは……通りすがりのパン屋さん!』「伝説の傭兵、クロワッサンのミミだ!」
 何だかカッコいいポーズをしながら登場したミミがヨハンを庇う様に現れ、レオン達にサムズアップして不敵に笑う。スピネルから全力の歓声が上がった。
 ちなみに。

(これ……どこまで続くんでしょう?)
(わかりません……)
 ミミの問いにヨハンは首を振った。ここまでしかルビーから渡された台本には書かれていない。
 しかし終わる気配は無く、続けるうちに彼等は気付く。子供のおままごとは『なんとなく』の勢いで進行するのだと。
 それから二時間後、昼食時になるまで最終的にヨハンが鉄帝国王になるOMAMAGOTは休みなく続くのだった───

●ゆうがた!
 ミミが上機嫌に厨房へ向かうと、材料のチェックを終えた使用人と夕食について相談する。
「皮むきとかお野菜を洗うだけなら楽しんで貰えると思うのですが、どうでしょう?」
「お嬢様達もよく奥様のお手伝いを楽しまれていましたわ」
「特にスピネル様が手伝いに来てくれっからなぁ、良いと思うぜ」
 侍女や料理担当らしき男も賛同する。
 ならば、とミミは腕を捲って子供達と仲間のいる屋敷二階へと迎えに行った。

 ……子供達の相手を常に入れ替わり立ち代わりしている内に、気が付けば初日も残すところ数時間。ドタバタしつつ夕食を食べ終えた彼等はのんびりとした休息の時間に至る。
 すなわち、お風呂である。
 屋敷内にはジャグジーのある広い浴場以外にも使用人が利用する別館の浴室が存在する、子供達はお風呂担当の仲間に任せて他のメンバーは疲れと汗を流す。
 その一方でノースポールとライムは四人の子供達を相手に洗いっこをしていた。
「かゆい所はありますか~?」
「きゃっきゃ! ぜんぶかゆいー!」
「スピネルちゃんもウリエル君も、羽根の所くすぐったいんだね。ふふっ」
 ライム達が二人ずつ洗い、二人ずつお風呂に浸かるを繰り返すうちに子供達は次第に大人しくなっていく。楽し気にノースポールの背中を泡まみれにする女子たちの隣で、ライムの体に泡を付けては何故かスーッと消えていくのを静かに楽しむ男子達の姿に鏡越しにノースポールは笑ってしまう。
「ふふ、おねーさんは触っても加工できませんよー?」
「ライム先生はどうしてスライムなの?」
「なんでだろー? ひみつです♪」

●初日も終わり……
 一同が入浴を終えて寝る前、ノースポールがミカエルをトイレへ連れて行ったのを皮切りに全員でトイレ大移動。
 思いの外、子供とは多少『がまん』しててもそのまま疲れて寝てしまったりするのである。だが目の前で問われてしまえば否とは言えず、意識すると行きたくなるのだ。
 どうやら今宵はまさかの全員地図作製という隠しイベントを乗り越えられそうだった。

 そして使用人達も翌日の用意を終えた頃には屋敷全体が消灯され、子供達もそれぞれ添い寝した事で直ぐに寝てしまった。
 どうやらこの日ばかりは問題児スピネルも、ミミ達がルビーの遊びに混ぜた事で疲れたらしい。ミミと葵が横になって数分した時には可愛らしい寝息を立てていた。
「可愛いですねぇ」
「ですです。これなら抜け出さないと思うのです」
 葵はミミに頷き、部屋の隅に座らせていたぬいぐるみを手振りで指示を出して廊下へと向かわせた。式神である。
 ぬいぐるみはそれぞれ屋敷の外や内部へと歩き出して行く。

「おやすみ」
「はい、おやすみなさい剣崎さんっ」
 ぬいぐるみが歩いて行くと、ミカエルが寝た頃を見計らって出て来た結衣と会う。結衣は他にも部屋から出て来た夜警に出る者達と顔を見合わせると、お互いにどこか微笑んでいるのに気付いて笑い合うのだった。
「思ったより早く寝たみたいだな」
「そうだね、みんな可愛いや。ウリエル君もライムさんのお話を聞いてたら直ぐ寝てたよ、
 屋敷の回り方はどうしようか? 不審者が出るかもしれないとはいえずっと動き回るのも疲れるよね」
「それならそれぞれ時計回りに見回るのはどうだろう」『順番に回ったりポジションを決めれば少しなら休めると思うわ』
 レオンとカルラが首を傾げる。霧玄と結衣は人形の後ろにいる子供の方を見て何か言いかけたが、そういう物なのだろうと納得させた。
「それじゃあ、みんなよろしくね!」
 小声でおー、と腕を軽く上げるとそれぞれが真似をして頷いた。葵の式神もぬいぐるみボディを弾ませて応じる。

 ───結果、この夜は彼等の気配に気づいた闖入者が引き返して行った。

●ふつかめっ!
 芳しいパンの香りが子供達の鼻をくすぐり、一同の目を覚ました。
「おはよう!」
 誰か、或いは誰もが明るい声と共に起き上がり、ミミとスピネルの居る食堂へ降りて行くのだった。

 ……二日目も子供達は元気良く朝食を終えると前庭へと飛び出して行く。
 ヨハン達は相変わらず『ショタコンの主人に仕える少年メイドが天義に異端審問にかけられる学園ラブコメディ』という、ルビーのおままごとに付き合い。霧玄達はライムの形をした砂の像を作り。ミカエルは結衣にスイングされ、投げられてはノースポールにキャッチされる遊びに華を咲かせていた。
 一方でミミと葵はスピネルと一緒に何やら厨房で準備をしている様だった。
 彼女達が準備をしているのは昼食後のイベント、『おやつ』の時間で出す物の下準備であった。

 昼食を終え、歯を磨き終えた頃には全員が集まっていた。
「みんなでおやつを作るよー! 私達はアイス作ろうミカエル君!」
「わーい! ぼくたちはアイスクリーム! ケンザキせんせいすげぇー!」
「料理は出来ないが、これだけは得意だ。好きだからな、アイス!」

「私達はゼリーを作っちゃいましょうか♪」
「確か粉末を混ぜるんだよね、ウリエル君がやってみようか?」
「ゼリー? 何色つくるのー?」
「勿論! マスカットです!」
「ライムせんせいを食べちゃうの!?」
「ちがうよ!?」

「ミミ達はパンケーキを……後は焼くだけなのです!」
「焼くだけ!?」『お手伝いしに来たのにいつの間に!』
「あはは、私達は午前中から準備してたからね。ヨハン君達、ルビーちゃん達も最後の仕上げ手伝ってくれますか?」
「おや。仕上げですか?」
「ですです。パンケーキには最後、お菓子やクリームをトッピングするのですよー」
「やるやる! ケーキ作りたーい! えへへっ、おいしくできるかなおねーちゃん」
「すぴにゃんならできるよぉ、がんばろうね!」
 各々が厨房を駆け回り、前日の間にミミが各自に聞いておいたおやつの材料を使用人から渡され、或いは用意しておいたケーキに乗せるクリームを作り始める。
 時にはかき混ぜていたゼリーをこぼしてパンケーキを一部浸水させたり。また時には、アイスを揉む手が滑って床にぶちまけたり。うっかりパンケーキの上にゼシュテルパンを刺してしまったり。
 失敗もあればハプニングがある。
 ただ、手伝うだけでなくイチから食べ物を作る事が初めてである子供達にはどれも新鮮で、刺激的で楽しかったのは間違いない。
 大事なのは見るだけでなく、触れる事なのだ。
 彼等は暫くして、この日だけの特別な『おやつ』を満面の笑顔で食べるのだった。

 おやつを食べ終えた所で雰囲気はねむねむモードに……きっとこのまま特にやる事が無いなら爆睡して夜中に全員脱走が起き、ない。ならない。何故なら眠気も吹き飛ぶイベントが用意されていたのだから。
「ようし、みんなでお絵描きしよう! 手とかで直接絵具を紙に……ってミカエルくんー!?」
 ドバシャァア、という豪快な音と共にぶちまけられる青い絵の具。そしてくっきりと残る魚拓ならぬミカ拓。両手を上げて目を><にした顔がなんとも言えない悲壮感を漂わせた出来であった。
 急遽離脱するノースポール達。
 それを見送る霧玄と結衣は二人共これ以上被害が広がらぬように目を光らせる事を静かに誓うのだった。
 という事もあったものの、後からノースポール達が戻って来る頃には前庭の中央で敷かれた大きな紙の上を子供達が自由に絵を描いていた。
 想像力が豊かになって来た年頃の子達は食べ物を空に書いたり、ついさっき食べたアイスやパンケーキ、ゼリーを食べる自分達とイレギュラーズを思い思いに表現している。上手い下手ではない『そのまま』を描ける彼等の見せた情景はどれも明るい色で満ちていた。
 特に、イレギュラーズ含め皆が笑顔なのだ。
 レオンが筆やバケツを軽快に踊らせる中、ヨハンが絵の具をギフトによる尻尾放電で弾いてグラディエ―ションを着け、ライムが召喚したファミリアーのリスがペタペタと足跡を残して行く。

 ───夕方を迎えた頃。完成した巨大なキャンパスを前に一同は半ばへとへとになりながらお風呂へ向かうのだった。

●さいごのよる
「それじゃあ、今夜は俺がお話でもするかな……」
「……」
「どした?」
「むつねせんせい、白髪になっちゃった」
「違う違う」
 霧玄がギフトによって出した分身体、別人格である『零夜』はウリエルに腕枕をしながら首をブンブン振った。
 ライムと霧玄の二人は既に夜警に出ている。
「でな、この貴族がまた小太りなのに足が速かったらしい。とんでもない祝勝会に来ちまったと俺は──……寝ちまったか」
 気が付けば眠っている。今日は昨日よりもずっと長く、楽しい時間を過ごしたのだから当然だろう。零夜は静かに微笑むと、戻って来た霧玄に手を振った。

「よはんせんせぇ……かっこ、ぃ……」
「何だか照れる寝言を言ってくれてますね、あはは……」
 ルビーが寝静まった頃、ヨハンが軽く夜警組の様子を見に部屋を出た時に聴こえて来た声に苦笑する。
 この二日間は虫を集めて来る事が無かった彼女だが、ヨハンはそれとなく少女に虫の命や生活について説いていた。これで今後の彼女に変化があればと思う。
 それはそれとして。
「……楽しかったですね」

 コバルト家最強の問題児と呼ばれていた次女スピネル、彼女の寝顔をミミは静かに見つめていた。
(起きませんよね)
 これ以上ないくらい、見つめていた。
(背を向けて暫くするとその度に息遣いが聴こえなくなるんですよねー、これ実はすごいのでは? 天才なのでは?)
 昨夜はそんな事があったのかと問われると、分からない。ミミも初日は疲れからすぐ寝てしまったものだが。
(これ、もしかしてミミ寝れないのでは)
 直ぐには寝れなかったが、代わりに。
 ミミがよく自分を見ている事に気付いていたスピネルは瞼の裏でそっと微笑んだのだった。

 ───結局、不審者の存在は最後まで無かった。
 或いはイレギュラーズの姿を見たのだろう、彼等は無事に最後の夜を終えた。

●またきてね。

 三日目、朝食を取ってから暫くすると直ぐにその時は来てしまった。
 フルンディン・コバルト男爵とその夫人、クジャーシアが帰って来たのだ。
「せんせいたち、かえっちゃうの……?」
「やーだー!! もっといるのー!!」
「お姉ちゃん、往生際悪いよ?」
「え……すぴねるちゃんおとなの顔になってる……」

 男爵と夫人は子供達の様子から、どれだけ素晴らしい二日間を経たのか理解する。
「君達に感謝する、子供達に良い思い出をくれたようだ」
 それだけではない。前庭に飾られた大きなキャンパスを見たのだ。
 子供達とイレギュラーズが笑って食事をし、笑顔で駆け回る。何物にも代えがたい素敵な一枚。
 皆で最後に一通り遊び、お別れの言葉を終えてもコバルト家は屋敷から帰って行くイレギュラーズを見送るのだった。

「「 またきてねー! 」」


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

子供達と共に楽しく、それでいて危険から遠ざけ、危機から防ぎ切る事が出来ました。
子供達は皆様の事をこれからも良き思い出として覚えているでしょう。
依頼人もその後、子供達がどこか成長した気がすると満足していた様です。

お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。

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