シナリオ詳細
囂々と斬る
オープニング
●遊心、暇つぶし
乾燥した空気が草木の薫りを運んでくる。
青空高く遊ぶ白い雲の下、くすんだ青髪を靡かせて軍服の男が調整したばかりの義肢を慣らすように軽く動かしていた。背のプラグテイルは細く、気紛れな猫の尾めいてぴこぴこと揺れて機嫌の良さを物語る。
一見優男な彼が手に携えるのは、翠の闘気が漲り迸る細身の剣。出力を調整するように天にかざし、陽光に戯れに振るいて後はにこりと笑んで闘気を消して鞘に納め、地面の冷え具合を楽しむように今度はぺたりと胡坐をかいて座り込む。
見晴るかす観客席に人の姿はない。
今日は、貸し切りだ。
闘技場の扉が喧しく金属音を奏で、静寂を破った。手合わせ相手が現れた気配に、男は――バルド・レームは微笑んだ。足音は、8人分。息子と、その友人達だ。
バルド・レームは『鉄騎種のエース』『閃電』の二つ名を持つゼシュテル鉄帝国の剣聖。ただし、人々が彼を語る時、『かつての』という4文字が付くのだが。
彼は引退済である事実は、広く知られている。ラド・バウでの人気も高かった全盛期の彼は、魔物の襲撃から子供をかばい、負傷して五体満足に剣を奮えぬ体になってしまったのである。
それ以降の彼は、モジャモジャとした毛玉に義手義足尻尾という独特の姿で嫁の尻に敷かれる日々だったと言われている。故に人々の中には、彼をもはや戦えぬ過去の勇士、壊れて戻らぬ元英雄だと囁く者もいる――2年ほど前、祖国の危機のために義手義足をしつらえ、圧倒的強者の風格を見せて負傷前の人型で戦った事もあるが、それも一時的な復帰に過ぎなかった。
伝説の浮遊島アーカーシュの発見と、先発調査の成功は一大ニュースとなり国土を駆け巡鉄帝国はそれはもう大騒ぎで、民も記者も商人もおおいに興味を示し、湧き上がっている。
現在の鉄帝国内部は政治家である『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフの『軍務派』と軍人である『特務大佐』パトリック・アネルの『特務派』の派閥が発生している。今のところ『引退中』の彼は、どちらにも所属していない。
正直、暇だった。
「やぁ、こんにちは」
並ぶ8人に温かく笑顔を向けて、バルドは立ち上がって挨拶をした。シチュエーション的にはバルドは依頼人の立場であり、依頼内容は1対8の手合わせだ。
「話は息子から聞いているだろうが、バルド・レームだ。忙しい中、呼びつけてすまない。貴重な時間を使うのだ、楽しくやろう」
入場したパーティメンバーは、8人。
数人は過去にも共に戦ったものだ。
「さて、ヨハン。数名は以前も共闘したが、初対面のメンバーもいるようだ。お前の友達を紹介してくれるだろうか?」
『Safety device』ヨハン=レームは父の言葉にうなずいて、メンバーを順に紹介した。
曰く――
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)。
ドン引きするくらい硬い。ただひたすらに硬い。G退治でも頼りになる。
『特異運命座標』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)。
期待の新人。ややお母さんみを感じさせる本好きの世話焼き気質。
『甘い筋肉』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)。
変態。何かの間違いで戦場に来た。来たというか、いた。いい匂いがする。あと何をするか予測不能。
『魔法騎士』セララ(p3p000273)。
手堅い強者、愛と正義の魔法少女。勝ったらドーナツたくさん貰えると思ってる。
『犬の一噛み』わんこ(p3p008288)。
特攻隊長(すてごま)。RNは『そばわんこ』。いけわんこ、自爆だ!
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
酒乱パワーで剣聖の頭を粉砕だ! 恐るべきアルコールモンスター!
『返の風』ゼファー(p3p007625)。
ヴァレーリヤの制御棒。真面目な戦力でもある。
「お父さんなら必要な手心等諸々をあれしてくれるはずだと言う信頼のもとにあれやこれをアレ」
「なるほど」
バルドは情報を咀嚼するうちに幾つか疑問も覚えたが、途中でまあいいかと切り替えた。要は戦えれば良いのである。
「息子と仲良くしてくれてありがとう。では、始めよう」
剣は未だ抜かずして、乾燥した大気が音を伝えるのを止めたが如く、にわかに張り詰めて世界が静寂と緊張に浸されるような錯覚を覚える。
蒼天を白雲が往く。
無観客の冷えたステージで、今先の視えない戦いが始まろうとしていた。
- 囂々と斬る完了
- GM名透明空気
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年05月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談9日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●快晴の0
冒険心を誘うような風が吹く。誘われて上を視れば、遥かな空が其処にある。
「えっと……その、ヨハンさんにはいつもお世話になっていまして……その、よろしくお願いしますね……?」
「嘗ての剣聖、義手義足の身となっても翳りを感じさせないその実りょ……」
『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)と『返の風』ゼファー(p3p007625)の声に神妙に頷いて。
「ついにこの日がやって来ましたのね……」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の脳裏に毎日2000文字X720日=144万文字分の冒険が蘇る。雨の日も風の日もワクワクの日もこのメンバーでいろんな冒険をしてきた。それは壮大な冒険の日々であった。
「相手は名うての剣聖だけれど、私達もイレギュラーズの名を背負っているのですもの。そう簡単に負けられませんわね。行きましょう、成長した私達の力を見せるために!」
ベビー服を着込みガラガラを手におしゃぶりを咥える26歳美女児スカヤ。この時本当はステージ違いに気付いていたがもう遅い。「せめて雰囲気だけでも「ちょっと待ちなさい。ヴァレーリヤ」ヴァレーリヤ担当のゼファーがストッパーの腕章を装着した!
「はい。すぐ片付けて来るからみんな待っててね」
「あら……」
「オーケー。Take2よろしく頼むわ」
スーッハーッ(深呼吸)、今日はシリアスな純戦をする――そんな想いを胸に集まったはずの仲間たちは微妙にコミカルだけどここからシリアスしていくわよ(byゼファーwith否定の翼)。
●2
数歩の距離にバルドを囲むように詰めようとするのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)、ゼファ&レーリヤ。
「面白いね」
バルドが間合いに飛び込む全員を歓迎するように笑う。紅いりぼんを弾ませてセララが一歩距離を詰めようとして。
「っ!」
(2年前と違う!)
ぞくりと背筋に感じる警鐘めいた悪寒。膚で感じる死線。間合いの感覚。強者の気配をびりびりと心臓に感じる。背が後ろに引っ張られるみたいな本能めいたものがわかる。
――でも! 詰める!
セララの瞳は迷わず姿勢を低く取り剣閃の軌道の下に飛び込んだ。唸音、衝突音、混じる笑声は誰のものか。退かずに来るのか、とバルドが笑むのが見えてセララは頷き、踵を滑らせる。『回避』――その舞踏は、セララの、或いはゼファーの得意分野。刃の余波が金糸の髪を数本攫っていく。予想よりも遠くまで被害を及ぼすそれに、ゼファーが口笛を吹く音が聞こえた。
避ける者もいるのか、とバルドが呟く。騒ぐ鼓動と冷や汗を意識しながらセララは聖剣の切っ先を天に突き上げる。どっちの雷剣が強いか勝負だよ、と切っ先が巻く風で語るようにすれば、青空が狭く感じるような不可視の圧が強まった。無意識に速まる息を意識して吐き、落ち着かせる額に汗が滲む。
(これが――ヨハン君のパパ!)
「全力全壊!」
(利き腕に!)
直線真一文字に天から下る苛烈な光が剣に奔り、衝撃を勢いに替えて振り下ろす。
――あんな風に父と切り結ぶ自分を想像しないわけでもない。
「利香さん、ヴァレーリヤさん!」
光の束が弾けるような視界に『Safety device』ヨハン=レーム(p3p001117)が福音を紡ぐ。
「ふふっ……」
利香は『犬の一噛み』わんこ(p3p008288)の近くで一回転して即座に起き上がり、妖しい薫気孕む魔剣を手に笑んだ。福音に合わせてマリエッタは指揮杖を廻し。
(……私がいていいのか……と、いう問答をする暇すらなさそうですね、これは)
わんこがここが一番、という間合いからさらに先へと大胆に迫る。
「ありがたく胸をお借りシマスネ……よっしゃ行くぞ剣聖!!」
五指を突き出せば、弾けるエネルギー弾――BANG! 回避する薄青の影へとわんこは距離を保ち「利香サマ!」「いひひ!」利香の雷桜閃の命中を導く。マリエッタが指揮杖を振り、包囲網を作ろうとしていた。
『おお炎前に蝋は溶け落ちて 吹き払え灰煙 狼煙に翳せ御手は我が前にあり』
ヴァレーリヤの聖句炎波にマッチョの剛腕が香しいオーラを放ちながら「カラメル色ニ、焼キ焦ゲロ!」無視できない薫圧を叩き込む! バルドが拳圧に目を瞬かせた。理想は天運を味方につけての英雄的回避だが、この時天はバルドに味方せず。
『あなた様は、……負傷したんじゃ?』
『引退したという噂――』
大衆の声が脳に再生されるようだった。
●追憶の1
青空の下、仲間たちは集いて。
「ヨハンサマにはお世話になっておりマス!」
「ココカ! プリンヲ求メル子供ガ次カラ次ヘト現レルトイウ場所ハ!」
特性プリンを届けに来たぞとマッチョがぷるるんと快声をあげ。
「……子供、居ナイゾ?」
騙したなヨハン、とぷりぷりすればヨハンはぷるぷるしてヴァレーリヤを指した。
「オオナンダ! イルジャ無イカ子供!」
マッチョは甲斐甲斐しく26歳児に特性のプロテインたっぷりプリンを提供しようとして「ねえヴァレーリヤ、何? 何それ? ちょっと?」ヨハンパパの闘気に気付いた。
「オマエ、プリンヲ横取リスルツモリカ!!?」
「勝ったらご褒美のドーナツパーティ!」
セララはドーナツプリンの可能性に夢をみている隣で利香が両手でバツを作っている。
「真面目な戦い以外は絶対にしたくありません! あの蒸し暑いキグルミ来たり! もう事前に自分が幼児化した姿を皆で見る地獄はこりごりですからぁぁ!!」
「ひんひん泣いてる……」
ヨハンは目的意識をはっきりさせていた。
「しっかりとした戦闘訓練で腕が鈍らないようにしたいんだよね」
その為にこれだけの面子を集めたんだ!
「でええい、これでも喰らいなさい!」
「ちょっと! カラメルソース飛んできてるんですけど!」
「ヴァレーリヤ! 哺乳瓶にウォッカ入れてくるんじゃありません!!」
「違いますわゼファー、これはウォッカミルクですの。赤ちゃんの成長に大事な栄養素が詰まっていますのよ!」
「っていうか飲んでる暇無いわよ! 私が気を引いてる内に態勢を整え……何? おつまみが欲しい? それは後にしなさい!」
そうか。この戦いはそういうノリなのか?
この時父は賑やかで愉快な仲間たちを眩しそうに見つめて微笑んだのだった。
「剣聖とはいえ初見で避けさしゃシマセンヨ……!」
「すまないが避ける……!」
「義足の新調代金は僕は払わんからな! 聖銃! おら聖銃!! たまには家事もしろ、と匿名希望の女性からお仕置き用に渡されたんですけどね! 誰でしょうねバルドさん!! おら!!」
「ヨハン! ドーナツパーティはお前が驕るんだぞ! あと父さんは匿名のコメントは一切耳に入れない事に決めているから!!」
父子が唾を飛ばし合う姿は実に血のつながりを感じさせる心温まる光景――あの時は同じ戦場の仲間として見るだけだったけど。
今度は正面から戦える! 利香は頬を上気させ、混沌一のたわわを押し付けるようにバルドに抱き着いてテンプテーション♡
「魅せてやりましょう……!」
(そしてあわよくばお父様も意外と息子同様に可愛いですしお持ち帰りしてむふふ♡)
「最近の流行は不倫モノらしいですレームさん」
「そ、そんな日曜日にたわわなんて」
●3
誘惑に抗う(屈した)痛打が浴びせられ利香が膝を突き、然れど手をついてふらつく自分に叱咤して立っている。
(なんて威力!)
「まだ立てるとは」
攻守の視線が妖しく絡み合う。ゼファーが槍を躱され、すわ家庭崩壊の危機にヨハンは全力でキャロルを響かせる。頼むマッチョ……♪ マッチョが頷いた。
「ナラバコッチハ日曜日のぷりんダ! ――オレガ相手ダ!」
――お前は過去なのだと誰かが言った。
「世代交代、か」
バルド自身、何人もの消えていく好敵手を見送ったものだ。第一線にいた者はいずれ衰え、新しく参戦した若人に席を譲る、それは世の摂理――バルドは溜めずに一閃を放つ。闘志を貫通撃に変換して撃つ。限界を越えるように中距離を越えて刃を奔らせる。
(まだ伸びる。改善の余地がある)
口の端が上がる。
(まだ――強くなれる!)
観客のいない闘技場は静寂のうちに戦いの音だけを反響させる。闘士の眼には、指揮杖が捉えられていた。新人なのだという――緊張していたのが最初は傍目にもわかったが、今は冷静になっている、彼女。
「攻勢に出て攻め切ってしまいましょうか」
マリエッタは美しい村娘然とした顔に驚くほどの静穏を湛え杖を奮う。閃緑の戦術眼が分析する敵味方の対応力、命中の高さ、一撃の重さ――杖が味方に支援を飛ばそうとして、喉が引きつった音を立てた。胸がごぼりと鮮血を溢れさせる。命中したのは、『獲る』――その一念を形として成した凶悪な貫通撃。
「少し痛いかもしれない。すまない」
バルド・レームは故意に勝利を譲らない。
例え息子でも。息子の友人でも。自身の勝利可能性を高める一手を取らぬは闘士の恥だ。
「あ」
翠の剣風が駆け抜けるのが非現実的に感じられた。急速に失われていく活力に膝が折れ、ぐらりと廻る世界――倒れる体を誰かが抱き留める。
「今、治……!」
「ヨハンさ、ん」
治癒の光を輝かせた瞬間、翠の剣刃が再び踊る。ヨハンはマリエッタを抱きしめて衝撃に備え――滑るように衝撃の軌道に身を割り込ませたゼファーが背丈ほどもある長槍をかち合わせ、勢いを殺した痛撃を引き受ける。
(コイツは……!)
似た色の瞳が合わせ鏡のように絡み合う。互いに、その奥から溢れて止まらぬ熱がある。
「ヨハンパパには上にも意識を割いて貰うよ!」
仲間をサポートせんと天翔けるセララの視界の隅に、ワイバーンに乗って戦線復帰するマッチョが見える。
「2年前とはお互い違うね」
「ウオオオ!!」
雄叫び、マッチョが我が身を顧みず突っ込んで行く。プリンフェイスのつぶらな瞳が怒りに燃えていた。
「絶対に許さんぞォッ!」
「マッチョ……仲間を傷つけられて怒っているのか」
マリエッタを懸命に治癒するヨハンともども、仲間への想いが伝わったよとバルドは感じ入ったような目を見せたのだが。
「プリンハ仲良クダ!! 横取リナゾ許サンゾォッ」
「えっ」
「キャヒヒヒ!」
広範囲に吹き荒ぶ嵐の如き剣閃は味方の陣容をずたずたに切り裂いていた。痛みの中でチャーミングなギザ歯を見せてわんこが笑う。
「まるで捉えどころのない風――避けられてしまうデス!」
「大丈夫ですわ」
ヴァレーリヤが昂然と笑む。炎を巻くメイスを引っ提げて。その体の至る所から血を流して。決して膝はつかないと顔をあげている。
「昔、鉄帝の偉い人も言いました――大切なのはパワーとガッツですわ!」
陽射しに目を眇め、マリエッタが起き上がる。苦手な血にぞわぞわとするけれど、今は戦線を支えたい想いが勝った。
「大丈夫ですか?」
「――はい」
味方のうち最も傷が浅いのは、最前線のセララだった。
もとより優れた回避能力を持つセララは古いデータをもとにバルドに神秘技がないと決め打ち、パラディンのカードをインストールしたのだ。バルドはそんなセララを後回しに盾役を潰しにかかっている。
(数を活かして戦うこちらに戦況を譲ることはなく、刃は刻一刻と鋭さを増しているようにすら思えるます)
拮抗を崩さぬよう、倒れるわけにいかない――8分の1を担う重責にマリエッタが息を吐く。当たり前だね、とセララは頷いた。その顔は明るく、戦い慣れている。
「これからも成長するって気配がビンビンするよ!」
「僕も父さんやセララちゃんのような剣士として思うがままに剣を振るえたらと思うけど。まぁ、……母似、ということかな、こっちの方が性に合ってるのさ」
ヨハンが呟きを洩らせば、マリエッタがオールハンデッドを味方に送りながら首を傾けた。
「お母様もヒーラーさんなんですね?」
「狩人、ですかね。狩人は獲物を逃がしません。そう、父は狩られる側なんですよ」
語る肩は大きく上下し、蒼褪めた顔色が疲労を語る。
(少し飛ばし過ぎたか……)
戦線を一手に支えるヒーラーの負担は大きい。ヨハンは疲弊したマッチョの前に立った。
――決して、後方から癒すだけではない。この体が仲間の盾として勝利への天秤を傾ける力となる!
(……父の消耗も激しいはず!)
そんな息子の眼が同じように煌めく父のそれを絡み合う。真っすぐな眼差しは、目に見えぬ火花を弾けさせるように互いの強い闘気をぶつけあった。
「ヨハン。オレモサポート、デキル!」
マッチョが燦然と輝くエネルギーを周囲に開放すると、ヨハンは友を見上げて笑った。
バルドがぽつりと呟く。
「大きくなったものだ」
陽光が地上を隅々まで照らし尽くさんと輝いていた。狙われているらしく何度も攻撃された利き手の調子を確かめるようにバルドは牽制を飛翔するセララに――利香を狙いたくなる誘惑を振り切り――放とうとして、聖句に身を捩る。
『我らを憐れみ給え!』
虚空をメイスが通過する。避け切れぬ衝撃が半身を襲い、炎が総身を包んで義手が歪な音を立てた。
「最初は奇矯な司祭だと思ったが、実力は触れ込み以上だな!」
名声高きその実力を知らぬバルドでもない。当然、練度高き司祭を沈めんと幾度か狙いを変えようとはしていたのだが、「レームさん、いい夢見てってください……♡」「く、甘い香りが……」「さあ、わんこっ」当てますわよ! ヴァレーリヤが溌剌と声を響かせ、わんこが跳ねるように靴音を慣らす。
何度避けられようと、どれだけ実力差があろうと、鉄火場にわんこが弱きになる事はない。
(勝負はいつも――やってみなきゃあわかりマセン!)
「いっくぜぇぇぇっ!!」
わんこが目をギラギラさせて弾丸のように突っ込んで行く。好い目をしている――バルドが釣られるように表情を明るくしたのがわかった。
「いいぞ! 来いっ!!」
バルドは少年のように歯を見せて笑った。
まるで漫才でもしに来たようなメンバーだという初見だった息子の友人たちは、技を叩き込めば、当然の帰結として倒れ――だが起き上がった。何度も。何回も。
指揮者は高い統率力を見せ、個々の力を高めた。盾役は回復役は攻撃手は――笑い合い、冗句めいたやり取りを交わしながらも互いの力を高め合い守り合い、『バルドを追い詰めようとしている』!
「謝らなければならないな。君たちを誤解していた」
技を戦わせ、熱を衝突させるその闘気は本物だ。確かな絆が、その戦闘力を何倍にも引き上げている!
「さあ、全力で死合おう!」
亀裂と自壊の音を生む義手に力を入れ、バルドは限界まで負荷をかけた。
――まあまあだ。この義手は。
豪快に剣が啼く。
「楽しいじゃないか」
「そうね」
翠の一迅と競うように駆けるのは、血濡れた白銀の疾風。戦う槍と剣が高く澄んだ金属音を奏でる。二度。閃く剣は電瞬に槍を弾く。確かな手ごたえにゼファーが裂帛の息放ち、弾かれた勢いのまま翻る槍先。バルドは目を見開いた。
「『瞬天三段』」
バルドの剣弾に勢いを増して針の孔を通すように猛突する槍の絶技!
悪夢のような反応速度を見せて動いた剣が驚異的な膂力で渾身撃を受け止めて――ピシ……パリィィン! 超負荷がトドメになったのか、その瞬間義手は砕けた。
――勝敗は決したのだった。
●冒険の空へ
白い雲が悠々と流れていく。
「本日は色々学ばせて頂きマシタ、お手合わせありがとうゴザイマシタ!」
わんこが元気いっぱいに頭を下げる。利香はバルドに艶のある視線を送っていた。
「お父さん、可愛いですねぇ……少し早い誕生日プレゼントで一晩だけお借り……だめですか? ぐぬぬ」
「プリンノ横取りハイケナイト分カッテ貰エタヨウダナ!! 安心シロ! ドノ道プリンハ色々持ッテキタ。ミンナデ食ベヨウ!」
「ねえプリン。頂いたこのプリン、美味しいのだけれどちょっと硬くありませんこと? いえ、タンパク質たっぷりで筋肉に優しいのは分かったのだけれど……」
「……ン? 何ダヴァレーリヤ、モットプリンガ欲シイノカ? ハッハッハ! オネダリサンメ! ナラバコノ『筋肉☆プリンゾンビ』ナドドウダ? イキガイイ上ニ熟シテ柔ラカイゾ!」
「ええい、胡乱な物を増やすのではございませんわ! ていうか、何ですのゾンビって!」
「ねえ、ドーナツパーティは?」
ゼファーはじとーっとした目をしている。
「何かぁ気軽な感じで誘われたんですけど、ねえ? 寧ろいつもよりヘビーな労働だった感あるんですけど?」
責任者のヨハンはゼファーアイズをスルーして、父が差し出した義手の拳に自分の拳をこつんとぶつけて片目を瞑った。
「それじゃ、父さん……またイレギュラーズの活動に戻るよ。母さんと鉄帝国を守ってくださいね」
「ああ。次の依頼で会おう」
「はい……は?」
去ろうとしたヨハンが振り返る。
「ヨハン、軍務派と特務派どちらかに参加するとしたらお前はどちらが好い?」
「……はい?」
Joy is found not in finishing an activity but in doing it.
『喜びは活動を終えることにあるのではなく、活動をすることにある』。
父子の会話を乗せて、風は遥かな青空へと吹きあがる――。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。依頼お疲れ様でした。
バルドさんは今回の戦いをきっかけに技の強化と義手の耐久度アップ、アーカーシュ調査への参加を決めたようです。
充実のプレイング、まことにありがとうございました。
GMコメント
透明空気です。このたびはリクエストありがとうございます。
●依頼達成条件
・『閃電』バルド・レームの義手義足4本のうち何れか1本を破壊する
●ロケーション
鉄帝国にある遺跡闘技場を貸し切りにしています。
観客なし。
戦場は遮蔽物無く暴れられる広めの円形ステージ。何らかの理由でステージ場外に出た場合、復帰には1ターンを必要とします。
※遺跡闘技場
定期的に開催されている特殊な闘技大会『カピエル・クラウ』に使用されている闘技場です。
今回、実は参加メンバーの中に1名だけクリア称号獲得者の方がいらっしゃるので、ログをご紹介しますね。
https://rev1.reversion.jp/arena/dungeon/result/1068417
遺跡闘技場は「【1】幼児化ステージ、【2】着ぐるみステージ、【3】純戦ステージの3種類」があります。
パーティの皆さんは、闘技場のギミックなし純戦ステージで戦いを挑んでもよいですし、ご希望であれば幼児化ステージや着ぐるみステージで戦闘してもよいです。3つのうちのどれか1つをお好みでお選びください。
●敵
【『閃電』バルド・レーム】
翠色に輝く雷電を剣に纏う軍服の男性。ヨハン・レーム(p3p001117)さんの実父です。
閃電の異名を持つゼシュテル鉄帝国の剣聖。卓越した剣技からラド・バウでの人気も高かったが、魔物の襲撃から子供をかばい両足を失い引退済でしたが、2年前の祖国の危機には最前線で義手義足で戦った記録あり。今回は再調整・改良した義手義足となっています。
ポテンシャルは高く、戦いの中でさらなる成長を魅せるかもしれません。
〔古い戦闘データ〕
※この戦闘データは、2年前のものです。
・特化戦闘兵装(P):自身のHPが0になった場合、義手、義足が機能停止し、EXF判定を無しに戦闘不能になります(デメリット)
・翠電一閃(A):物中扇 威力特大 【溜め1】【飛】【防無】【必殺】
・翠翔斬(A):物遠単 威力大 【弱点】【崩れ】【飛】
・ジェイドストライク(A):物中貫 威力大 【呪縛】【体勢不利】【連】
・インフィニティブリッツ(A):物至単 威力大 【防無】【致命】【連】
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
以上です。
それでは、よろしくお願いいたします。
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