シナリオ詳細
ヘイズルという女の依頼。或いは、バーデン・スミスに逢いに行こう…。
オープニング
●文化の収集
錆びだらけの古いライフル銃。
造りは良いが、すっかり壊れていることが一見すればよく分かる。
それを手にした獣種の女は、乾いた唇を舌で湿らせ「ふむ」と小首を傾げて見せた。
「バーデン・スミスと書いてあるな? これは銃の作者の名か? はて……ネフェルストへの道すがら、寄った遺跡にそんな名前の女がいたな」
そう言って女はライフル銃を、袋に仕舞って肩に背負った。
灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫だ。
縫い目の粗い外套を纏う体は細く、しかし引き締まった筋肉に覆われている。
すらりと伸びた脚の先は蹄のようで、いかにも力が強そうだった。
彼女の名はヘイズル・アマルティア。
遠い遠い砂漠の果てから、ネフェルストへとやって来たある小部族の戦士である。
ヘイズルの目的は文化の収集だ。
故郷を出奔した彼女は、仲間を集めて自身の部族を作ることを目的としている。
現在は、部族を作るための土地と人を求めてラサを旅しているというわけだ。
そんな彼女が、砂漠で拾った銃こそが上記の古いライフルであった。
「バーデンのいた遺跡には人頭獣体のゴーレムがいたな。バーデンの奴め、私と話をしたいならゴーレムを退けて見せろなどと奇妙なことを言いよって」
当時のやり取りを思い出したのか、ヘイズルは苛立ったような仕草で地面を蹴りつけた。
蹄に抉られた土砂が盛大に辺りに撒き散らされる。
バーデンの挑発に対し、ヘイズルは当然に受けてたった。
結果は敗走。
バーデンとは短い挨拶を交わしただけで、それっきりというわけだ。
しかし、現在ヘイズルはバーデンの造ったものらしいライフルを持っている。
「どこに店に頼んでも、触るのも嫌という様子だった。どうにもバーデン本人でないと直せないとか。さて……困ったな。あのゴーレムは奇妙な問いかけをしてくるから苦手なのだが」
ふむ、と。
顎に手をあてて、ヘイズは暫し思案した。
●ヘイズルの依頼
「暫しの間思案した結果、イレギュラーズに協力を求めて来たっすよ。向かう先は砂漠の奥にある古い遺跡っす。大きな三角の塔と、その周囲に広がる石造りの迷路が特徴っすね」
迷路とはいえ、石で壁を作っただけでの代物だ。
壁の上を歩くなり、空を飛ぶなりすれば容易に抜けられる。
そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はくっくと肩を揺らして笑った。
迷路の攻略方法として、それで良いのか気になるところだ。
「さて、迷路はともかく問題はヘイズルさんの逢った人頭獣体のゴーレムっすね。遺跡の番人らしいっすけど、何でも奇妙な問いかけをして来るとか。えぇっと……確か」
①『想像せよ。あなたは水でいっぱいの部屋にいる。部屋には窓もドアもない。どうすればその部屋から出られる?』
②『それは若い時は背が高くて老いていくと短くなる。それは何だ?』
③『右手では持てても、左手では持てないものは何だ?』
④『16、06、68、88、?、98……?に入る数字は何だ?』
⑤『それは動かず傷つける。それは触れずに毒する。それは真実と嘘を生み出す。それは大きさで判断してはいけない。それは何だ?』
「ヘイズルさんが聞いた問いは以上の5つ。まぁ、クイズっすよね。ヘイズルさんがクイズの答えを外す度にゴーレムは強くなり、彼女は【塔】の状態異常を受けたそうっす。つまり、正解を答えれば弱体化するんじゃないっすかね?
そう言ってイフタフは「奇妙な問い」の書かれたメモをイレギュラーズに手渡した。
また、実際にゴーレムと交戦したヘイズルは他にも【ブレイク】【飛】【石化】の状態異常を受けたという。
おそらく、ゴーレムが行っているのは腕試しのようなものなのだろう。
イフタフはそう予想していた。
「とはいえ、石で出来た巨大なゴーレムっすからね。攻撃を受ければそれなりに痛いし、大怪我することもあるでしょう。動きは早く、力は強く、状態異常にかかりづらく……とまぁ、1体しかいないものの相応に面倒な手合いっす」
無視して先へと進むだけなら、実際のところどうにだってなるだろう。
けれど、ヘイズルの目的は遺跡に住んでいるというバーデンを名乗る女性と会って、銃の修理を依頼することにある。
「まぁ、ヘイズルさんとバーデンが上手く接触できるように手伝ってあげてほしいっす。あぁ、彼女は何ていうか……すごく協調性に欠けるうえに自由な性格をしてるっす。勝手にクイズに答えた挙句、皆さんを巻き添えに……なんてこともあり得ると思うんで」
気をつけてください。
そう言ってイフタフは困ったように肩を竦める。
ヘイズル・アマルティア。
果たして、彼女は無事に銃の修理を依頼することは出来るのか。
「あぁ、それと……バーデン・スミスの銃って“呪われている”って有名なんっすよね」
- ヘイズルという女の依頼。或いは、バーデン・スミスに逢いに行こう…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月08日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ヘイズルの冒険
砂漠の彼方。
砂塵を超えた先にある、ごく小さな集落がヘイズル・アマルティアの故郷であった。
文化の発展に乏しく、時間をかけて衰退していく故郷について思うところは特にない。
そういうものだ。
流れには逆らえない。
例えばそれは、流砂のように1度流れはじめれば後は行きつく先を待つばかりのものなのだ。
けれど、それならば。
それならば、自分は故郷を後にし、新たな文化をこの目で見よう。この手で触れよう。
そんな風に考えて、1匹の山羊を引き連れてヘイズルは故郷を旅立った。
そうして、長い旅の果て……ヘイズルはラサの文化に触れた。中でもとくに気になったのが“銃”という、爆ぜる黒砂と鉛の弾を用いた武器だ。
これはヘイズルの故郷には存在しなかったものである。
銃を自在に扱う『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)や『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)を観たことで、ヘイズルは自分もそれが欲しくなった。
はじめは2人を連れて帰ればいいかとも思ったが、どうやらラサではそれをすると捕まるらしい。
しかし、運はヘイズルに味方した。
砂漠の中で偶然にも造りの良いライフルを手に入れたのだ。
しかし手に入れたライフルは破損しており、修理できる者は製作者であるバーデン・スミスだけという。
偶然にもバーデンの居所に心当たりがあったものの、彼女の用意した関門を突破できねば修理を依頼することも叶わない。そうしてヘイズルは、以前に既知を得たイレギュラーズに手伝いを要請。
ラダやリコリス、そして『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)といった見知った顔と再びの邂逅は嬉しいものだ。
おまけに今回は『こそどろ』エマ(p3p000257)や『ゴミ山の英雄』サンディ・カルタ(p3p000438)といった迷路を歩くのに慣れていそうな者もいる。
もしやイレギュラーズを纏めて部族に引き抜けば、ヘイズルの理想とするバロメット(集落の意)を立ち上げることも容易ではないか。
そんな想いを飲み込んで、一行は砂漠の真ん中にある古い遺跡へとやって来た。
事前に『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)や『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)から“ゴーレムの質問に対する回答”を教えてもらった。
以前はゴーレムの問いに答えられずに迷宮を突破できなかったのだが、これで問題は解決したも同義であろう。
「と、そう思っていたのだが……なぜ私とあなただけ別行動なのだ?」
「あぁ、えぇっとぉ、ゴーレムを見付けやすくするためですよぉ」
他の7人とは別の入り口の前に立ち、バーデンは鏡(p3p008705)へ問いかけた。
しれっとした様子で鏡は「ゴーレムを見つけやすくするため」と言っているが、見上げるほどの巨体を持った人頭獣体のゴーレムなど、ちょっと遠くへ視線を向ければあっさりと発見できるのだ。
「ゴールの辺りにいるあれがそうだろう?」
「じゃあ、あれです。競争ということで……はい、じゃあこれ、マリエッタちゃんが纏めてくれた問いへの答え予想のメモです。ちゃんと読んでゴーレムに会ったらその通りに答えてくださいねぇ」
「じゃあて。まぁ、きっと考えがあるのだろう。あい分かった」
「何よりです。では、私は壁の上に登ってゴーレムの場所を探しつつ、道案内をしますから」
タン、と地面を蹴飛ばして鏡は迷路の上へと昇る。
それで“迷路への侵入”と見なされたのか、次の瞬間にはゴーレムが動き出していた。
迷路の壁の上を歩いて、近づいて来るゴーレムをヘイズルと鏡は、好戦的な笑みを浮かべて出迎える。
●迷路へ挑む
高く。
太陽へ向かって、エマが高くへと跳んだ。
「砂漠の遺跡、迷路に門番……とくれば、隠された金銀財宝とかありそうなもんですけどね、えひひ。っと、その先は右へ」
彼女の目的は迷宮の解読だ。
一たび中へ入ってしまえば、正しいルートも判別できない迷路であるが、こうして上から眺めてしまえば進路に何があるのかなんて、一目瞭然というわけだ。
迷路は非常に古いものだ。おそらく、迷路の建設当時にはエマのように高く跳べる者や、空を舞う者の存在が広く知られていなかったのだろう。
「右だってー! あ、ここかな! 左……じゃなくて右! あれ? 右って右だったっけ? 右ってなに? 誰が決めたの?」
「右は右ですよ。誰が決めたかは知りませんが、そこで右手を上げてください、リコリスさん。ほら、こっち」
左右へ忙しなく首を振っているリコリスの前に立ち、マリエッタが右手を上げる。
向き合うようにマリエッタの前に立ったリコリスも、真似をして右手を上げるのだが……前後の向きが変われば、右の方向も当然逆になるのである。
「あれ? ボクの右手がマリエッタさんとは逆の方向を向いてるよ!? なんてこったい……これが迷宮の罠ってやつだね!」
「罠などあれば私が解除しておきますよ」
リコリスの身体をくるりと反転させながら瑠璃は言う。
180度、向きが変わればリコリスの右手と、マリエッタの右手は同じ方向を向いたではないか。イッツ・ミラクル。
「ゴーレムは鏡たちの方に行っているみたいだな。今のうちに壁を越えてショートカットをためそうか」
「よし。それじゃ、俺が先に行くよ」
ラダの指示を受け、サンディが壁の上へと昇る。
壁から壁へと跳び越えて、数本ほどの道を突破し先へと進んだ。
「……これ、大部屋で向こうのチームと合流することになるんじゃねぇかな?」
「みたいですね。ゴールまでのルートは何本かあるようですけど、必ず大部屋を経由する形になってそうです」
壁の上で肩を並べて、サンディとエマは言葉を交わす。
高い位置からのナビさえあれば、迷宮の攻略は容易であった。
間違ったルートを進むこともなく、一行はあっさりと1つ目の大部屋へと到達。
「迷路って簡単だね。ボク冴えてる! 脳の回路がカチっと繋がった気がするよ!」
「それはいつも繋いでおくべきものでは? しかし、迷路と謎かけで知恵比べ、それから腕試しか。顧客を篩にかける以上の意味があるのか?」
大部屋に足を踏み入れながら、アルトゥライネルは首を傾げた。
ゴーレムはいかにも強力そうだが、迷路の造りは単純なものだ。
しかし、バーデン・スミスを名乗る女性はわざわざ遺跡に居を構え“迷路を突破した者の話だけを聞く”と言っている。
一体それにどんな意味があるのかと。
大部屋の出口付近で伏せたゴーレムを見据えながら、アルトゥライネルは疑問を抱く。
ライフルのストックを肩に押し当て、ラダはスコープを覗き込む。
通路の先から響いて来る足音に耳を澄ませて、引き金にそっと指をかけた。
「おやぁ? どうして銃なんて構えてるんですかぁ?」
「念のためな」
通路から現れたのは鏡とヘイズルだ。
敵でないことが確認できれば警戒は不要。ラダは銃を下ろすと、ゴーレムの方へと足を向けた。
『想像せよ。あなたは水でいっぱいの部屋にいる。部屋には窓もドアもない。どうすればその部屋から出られる?』
くぐもった声でゴーレムが問うた。
「以前は何と答えたんだ?」
「うん? 壁を蹴り砕くと答えたが?」
ラダの問いに、ヘイズルは平然とそう返した。
どうやら“クイズ”という概念が彼女の脳には無いらしい。
「今回はどう答える?」
「天井から出る!」
どうだ?
とばかりに胸を張って、ヘイズルはゴーレムの前に出た。
瞬間、ゴーレムより発せられた瘴気がイレギュラーズを包み込む。どうやらゴーレムの想定していた解では無かったらしい。
「っ……でしたら、出口を想像するでいかがでしょう?」
マリエッタの解答を受け、ゴーレムは沈黙。
暫しの間を空け次の問いへと移った。
『それは若い時は背が高くて老いていくと短くなる。それは何だ?』
「蝋燭だ!」
1問目を間違えたというのに、ヘイズルは自信満々だ。一体、どういう環境で育てばこれほど前向きな性格に育つのか。
2つ目の回答を聞き終えたゴーレムは無言のまま、壁の上へと飛び乗った。
どうやら正解だったらしい。
ゴーレムの動向を警戒しながら、一行はさらに先へと進む。
「この間の囚人運び以来だな、ヘイズル。何か新しい物は見つかったか?」
「面白いものばかりだよ。どれも持ち帰りたくて仕方がない」
アルトゥライネルの問いに言葉を返し、ヘイズルは瑠璃へと視線を向けた。
否、正確には瑠璃のかけている眼鏡を見ている。
「あれも欲しいな」
眼鏡を持ち帰って、何に使うつもりだろうか。
「……ボクを持ち帰ったりしない? ならいいんだけど」
マリエッタの背に隠れ、リコリスはそう呟いた。
迷宮の進行は順調だ。
時折、近くまでゴーレムが様子を見に寄って来るが、今のところ攻撃を仕掛けて来る様子は見えない。
戦闘へと移行するには、何らかの条件が満たされる必要があるのだろう。
「それにしても、本当に何もないですね。お宝の1つも欲しいところですが……残念ながら今回はそういう代物ではないようで。まま、お仕事しましょっか」
えひひ、と笑ってエマは迷路の壁上で足を止めた。
次の大部屋が見えて来たのだろう。
『右手では持てても、左手では持てないものは何だ?』
「解答は“自分の左手”です」
瑠璃の答えに、ゴーレムは沈黙を返す。
瘴気が出ないということは、それで正解なのだろう。
『16、06、68、88、?、98……?に入る数字は何だ?』
続く問いへの回答も、既に準備が整っている。
無言のまま、瑠璃は【87】と記された紙片を、逆さまにして差し出した。
紙面へ視線を落としたゴーレムは黙したままだ。
暫しの沈黙の後、ゴーレムは再び踵を返す。
事前にヘイズルより聞いていた問いの数は全部で5問。
次の問いが最後となる。
ゴールを目前に控えた最後の大部屋。
中央に座したゴーレムの前に、イレギュラーズとヘイズルが並ぶ。
『最後の問いだ。それは動かず傷つける。それは触れずに毒する。それは真実と嘘を生み出す。それは大きさで判断してはいけない。それは何だ?』
「あぁ、これだけは分かったぞ。答えは“言葉”だ」
人を傷つけ、殺めるためにナイフも銃も必要ない。
心の無い言葉をなげつけるだけで、他人を傷つけ、殺めるに至る。
言葉とは心に染みる毒なのだ。
しかし、毒は時として薬にも転じる。
「真実も嘘も、集落を出て多く見聞きした。大言壮語を吐く輩は大勢みたし、その実、腕前が伴っていた者もいた。かと思えば、謙遜したような言葉を吐いている者が、私には想像もつかないほどの実力者であることもある。まったく、なんとも面白いものよな!」
呵々と笑うヘイズルへ、鏡とマリエッタが拍手を送る。
そして、ゴーレムはと言えばゆっくりと顔を上げ次の言葉を紡いだ。
『では、最後の試練だ。汝らが迷宮を抜けるに値するか否か力を示せ』
5つの問いに答えを返し。
ゴーレムを打倒することこそが迷宮攻略の鍵である。
前線へと飛び出すサンディの背に手を触れて、マリエッタは口の中で呪文を転がす。
淡い燐光がサンディの身を包むのと、ゴーレムがその巨腕を横に薙ぎ払うのは一切同時のことだった。
床を蹴って、壁に爪先を引っ掻けて、エマは高くへと跳んだ。
「あの守護者をぶっ飛ばすのみです!」
羽のように宙を舞い、ゴーレムの背中へと着地。刹那の間に一閃されたナイフの刃が、岩の体を深く斬り裂く。
背に乗ったエマを振り落とすべく、ゴーレムが後ろ脚で立ち上がった。揺れる巨体から飛び降りたエマへ向け、岩の爪が振り下ろされる。
しかし、爪がエマを裂く寸前でサンディが間に割り込んだ。
「不滅のサンディスタイルだっ!」
斜めに構えた盾で爪を滑らせる。
衝撃にサンディの腕が軋んだが、構わずにナイフを突き立てた。直撃こそ回避したものの、巨大な腕による攻撃は1人で受け止めきれるものではないらしい。
壁にぶつかり、サンディの身体が地面に落ちる。
けれど、一瞬でもゴーレムの注意を逸らせればサンディの目論見は成功したと言えるだろう。
「攻撃は……任せたぜ!」
「あぁ、長く戦いたい相手じゃない。短期決戦だ」
起立したゴーレムの額へ向けて、ラダは1発の弾丸を撃ち込む。
炸裂した弾丸から溢れる暴風と耳障りな不協和音。
ゴーレムの巨体が揺らし、風に押されて後方へと飛んだ。
戦闘の余波を避けるべく、マリエッタは壁の向こうへすり抜ける。
そこで彼女が見た者は、見知らぬ1人の女性であった。
「……え?」
「あ、あれ? もしかしてバーデン・スミスさん?」
なぜこんなところにいるのだろうか。
壁に半分埋まった姿勢のマリエッタを見て、女性は目を見開いている。
「最後の腕試しこそアンタの本領発揮、だろう?」
「その通りだとも! しかし、こいつ前よりだいぶ弱いぞ!」
呵々と大笑しながらも、ヘイズルはゴーレムを蹴り付ける。
鬱陶しいとばかりに叩きつけられる腕へ、アルトゥライネルは布を巻いた腕で掌打を叩き込んだ。
衝撃と花弁が飛び散って、ゴーレムの腕が後方へと弾かれる。がら空きになった肘へ向け、ヘイズルは蹴りを、瑠璃は黒き刃を突き立てた。
ピシと乾いた音がして、ゴーレムの腕に亀裂が走る。
罅を広げ、砕くべく瑠璃とヘイズルは連続して攻撃を開始。
体勢が悪いのか、ゴーレムは身を捩るようにして後退した。
「謎かけに答えたボーナスというところでしょうか?」
答えを外せば外すほど、不利な状態での戦闘を強いられる。
逆に答えを的中させれば、有利な状態で戦闘に移れるというわけだ。
「大きなゴーレムの癖に俊敏ですねぇ」
後退したゴーレムを追って鏡が走る。
ゴーレムの背後には迷宮の壁。それ以上は下がれない。
追い詰められた獲物の取れる行動など、ほんの2つしか存在しない。
つまりは、そのまま狩られるか、抗うか。
当然、ゴーレムは後者を選んだ。
罅の入った左腕で床を力任せに叩く。
否、爪を深く床板に突き刺したのだ。
鏡を庇うべくサンディが駆け込むが間に合わない。
「ちっ、下がれ下がれ!」
「もう下がってますよぉ」
ゴーレムは咆哮と共に腕を振るう。
岩の砕ける音がして、ゴーレムの腕と床が同時に砕け散る。
サンディと鏡を、床ごと纏めて宙へと叩き上げた。
●バーデン・スミス
宙を舞うサンディと鏡の身体を、エマと瑠璃が受け止める。
鏡とサンディを受け止めた2人は、衝撃に飲まれ地面を数度転がった。幾らかの擦過傷を追うものの、その程度の傷は慣れたものだ。
「エマさんは右。私は左から」
「えひひ、りょーかいです」
すぐに復帰した瑠璃とエマは、左右へ展開しゴーレムの攪乱へと移る。
大きなダメージを負ったものの、すぐにマリエッタが治療を施せば難なく戦線に復帰できるだろう。
一方、2人を吹き飛ばし、体勢を立て直したゴーレムはと言えば前足を1本失った状態だ。
「ボク塔ってキライなんだよね、一発が勝敗を決める狙撃手にファンブルは大敵なんだよ」
大部屋の隅で、じぃとそれを観察していたリコリスは……淡々と、フードを深く被った。
背筋に寒気を感じ取り、ヘイズルは思わず背後を向いた。
そこには、床に膝を突いた姿勢で銃を構えるリコリスの姿。
「ははぁ、何かするつもりか? それにしても、これは……いやはや、砂漠で野犴に遭った時に似ているな」
「放置されたお庭のお手入れに必要なもの、アナタに待ち受けるもの。共通するのは何か」
ヘイズルの隣をゆらりと抜けて、鏡はゴーレムへと肉薄。
振り下ろされた巨腕へ目を向け、腰の刀に手をかけた。
「答えは“死ばかり”ですよ」
音もなく。
ゴーレムの指が斬り落とされた。
粉塵の舞い上がる中、リコリスの目は確かにゴーレムの姿を捉える。
「バイバイしようね」
呟く言葉に、何の感情も乗ってはいない。
ただ“それが避けようもない真実である”と。
リコリスは銃の引き金を引いた。
リコリスと同時に、引き金を引いた者がもう1人。
眉間に2発の弾丸を受け、頭部が砕けたゴーレムが轟音とともに崩壊していく。
その様子を最後まで見届けることなく、ラダは迷路の先へと視線を向けた。
そこには、マリエッタと見知らぬ女性の姿があった。
3代目、バーデン・スミス。
そう名乗った女性は、ヘイズルから預かった銃を修理しながら言葉を紡ぐ。
「呪いの銃だと騒がれて、すっかり嫌気が差したんだろうな。私と父を連れ、随分前にこの遺跡に移住したんだ」
鎚を降るバーデンの前に、リコリスが自身の銃を差し出した。
「カスタム銃だからパーツ集めには苦労するし癖は強いけれど、唯一無二のお気に入りなんだ、これ」
「……以来、バーデンの技術は一子相伝。まぁ、コツがあるんだ」
リコリスの銃を一瞥し、バーデンはそのまま話を続けた。
そんな彼女へ、ヘイズルが迫る。
「ゴーレムの試練はお前が用意したのか? それとも元からあったものか? まぁ、どちらでもいい。それよりお前、私のバロメットに入らないか?」
銃を修理するバーデンの手元を興味深そうに眺めつつ、ヘイズルはそう問いかけた。
そんな彼女の問いかけに、バーデンは少し困惑しながらも、楽しそうな笑みをを返した。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
迷宮を踏破し、無事にバーデン・スミスとのコンタクトに成功しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加およびご回答いただきありがとうございます。
ちなみに想定していた解答は以下の通り。
①想像するのをやめる
②蝋燭
③自分の左手
④87を逆さにしたもの
⑤言葉
です。
では、縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
ヘイズル・アマルティアをバーデンの元へ送り届ける
●ターゲット
・人頭獣体のゴーレム
数メートルほどの巨体を誇る人頭獣体のゴーレム。
遺跡の迷路を徘徊しており、来る者に襲い掛かる。
動きは早く、力は強く、状態異常にかかりにくいという特徴を持つようだ。
また、人語を介し時折、奇妙な問いを投げかけて来るという。
問いに沈黙、または誤った答えを返すと周囲にいる者全員に【塔】の状態異常を付与する。
また、ゴーレムの攻撃には【ブレイク】【飛】【石化】の状態異常が付与される。
※ゴーレムの問いは以下の5つ。
①『想像せよ。あなたは水でいっぱいの部屋にいる。部屋には窓もドアもない。どうすればその部屋から出られる?』
②『それは若い時は背が高くて老いていくと短くなる。それは何だ?』
③『右手では持てても、左手では持てないものは何だ?』
④『16、06、68、88、?、98……?に入る数字は何だ?』
⑤『それは動かず傷つける。それは触れずに毒する。それは真実と嘘を生み出す。それは大きさで判断してはいけない。それは何だ?』
・バーデンを名乗る女性
砂漠の遺跡にひっそりと隠れ住んでいる女性。
ヘイズルは彼女と逢ったことがあるらしい。
その際は「私と話をしたいならゴーレムを退けて見せろ」と言われ、敗走したようだ。
※バーデン・スミスという名の銃鍛冶はラサで知られた名前である。
バーデンの銃は多くの命を奪った“呪われた銃”として有名だ。
現在では一部の好事家が所有している程度で、持ち主は少ない。
●同行者
・ヘイズル・アマルティア
灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫。
砂漠の奥深く、砂塵を超えた先にある未開地よりやって来た。
身体能力は高いが、常識に欠ける。
砂漠で拾った古いライフルの修理を依頼するために、ライフルの制作者であろうバーデンの元を訪れた。
また「気に入ったものがあれば持ち帰る」主義。
●フィールド
ラサの砂漠にある遺跡。
三角形の塔の形状をした建物を中心に、周囲は迷路で囲まれている。
迷路の入り口は幾つもあるが、ゴールとして定められているのは必ず中央の遺跡のようだ。
また、ゴーレムは迷路の所々にある大部屋や、迷路の上を自在に移動するようだ。
※地面に壁を並べて造っただけの迷路であるため、壁の上を移動する、空を飛ぶなどすれば容易に突破は可能。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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