シナリオ詳細
<Celeste et>寝物語にゴーストハント
オープニング
●知ること
ひらりひらりと、左右非対称の翅をもった蝶が舞い、奇妙な蜘蛛の巣に引っかかった。ハープのような、縦糸でよりあわされた蜘蛛の糸。引っかかった蝶は蜘蛛に食まれて可憐な断末魔を奏でる。……死に際に、七色の鱗粉を落とす。
これは、生き物を狂わせる。
混乱した蜘蛛が自らの巣を破壊する。
とばっちりを受けたのは、木々の下で水を飲んでいた生き物である。狂乱したサイに似た生き物が、角をこすり合わせ、これもまた、おののくような音楽を奏でる。それがまた別の獣を呼び寄せて……。
ああ、未知なるアーカーシュ。
なんと怖ろしいものであふれていることか!
恐怖を和らげるには、唯一、「知る」こと。
恐怖を知るするためには、「名付けて定義する」こと。
学者達からなる、アーカーシュアーカイブス(学会)は、いつでもイレギュラーズの挑戦を待っている……。
新たに発見された、伝説の浮遊島『アーカーシュ』には、地上では見慣れぬ未知がひしめいている。
●臆病
時刻にして深夜。
「うううう~~~~~怖いよおぉお怖いよぉおおお」
がくがくと震えているのは、遺跡の村レリッカに住む男である。この男、もうとっくに成人しているのだが、鉄帝のルーツを持つにあるまじき怖がりであった。半ば半泣きになりながら、レリッカの南の泉にやってきていた。
「うううううーーー……」
遺跡の村レリッカには、一つの言い伝えがある。南の泉には、夜の間は絶対に行ってはならないと。幽霊が出るというウワサがあるからだ。それでも、この男はここに来なくてはならなかった。
昼間、木こりをやっているときに、うっかり落とした結婚指輪を……明日、妻が帰ってくる前に見つけたいのだ……。幽霊よりも奥さんが怖い。いや。もっと言えば奥さんに嫌われるのが怖い……。
ああ、いったいどこに落としたのやら。確かこのあたりだったはずだ……。
「……あ!」
きらきらと持っているランタンに反射して何かが光る。あれだ。きっとあれだ。湖のそばに落っこちている光を追いかけると、水面には不気味な顔が浮かんでいるではないか。
「うぎゃあああーーーーーーーー!!!!!!」
●ここらでいっぱい幽霊が怖い
「レリッカの南の泉にはさ……。出るらしいんだよなあ~! お化けが!」
うんうん、と頷くのはキータ・ペテルソン(p3n000049)である。
「でもな。不思議なことに、必ずじゃないんだ。誰かがビビってないと出ないらしいんだよなあ。連中。
レリッカの村の酔っぱらいがよたよた寄って水浴びすることもあったらしいけど、そのときはなんともなかったってさ。なんだか、ずいぶん人を選ぶみたいで……」
キータ曰く。
幽霊が出るのは、誰かが『おっかながっているとき』だけらしいのである。そのせいで、出たり、出なかったり。
「まあ、そんな、きっと誰かが怖い、怖い、って言ってるものをどうこうするような? 未知のナントカ……。生き物とか、そんなものだと思うんだけど。で、一泊キャンプをして、怪談話でもして、いっちょおびきよせて! 幽霊の正体を掴むのが仕事、ってことだな!」
というわけで、たくさんの数のロウソクが用意されている。
今日は泊まり込みで、幽霊が出るという南の泉を調査することとなる。
少し冷え込むかもしれない。しっかりと支度をして、幽霊の正体を見極めてやろう。
キータは空を見上げた。レリッカの島は、たぶん。ずいぶんと星が近い。
- <Celeste et>寝物語にゴーストハント完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月10日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●スパイスの香りはこわい
「ここが浮遊島、ですね」
『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は広い島を見渡した。シナモンの色をした髪が風に揺れる。
「さあ! 楽しいキャンプの時間ですな!」
『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)はカラカラとガイコツを鳴らして笑った。
スケルトンであるヴェルミリオの姿は、話に聞く幽霊よりも本格的な幽霊のようだ。
けれども、ヴェルミリオの骨の音は打楽器のようにどことなく陽気で、ごく自然とイレギュラーズの輪の中に溶け込んでいたのだった。
「あっ、間違えました。幽霊捕獲作戦でした。いえ、忘れてなどいませんぞ! ええ、忘れておりませんとも!」
そう言って、せっせと薪を拾うのだった。
「世界は広い! いろんなヤツがいるな。ジョセ、ニル」
『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)は好奇心に目を輝かせる。
「みなさまと、キャンプ!」
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は、張り切る友人の隣でにっこりと笑う。
「きっと、とってもとっても楽しいですね」
「空が近いな。どう見える? E-A」
『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は空を見下ろす。
『ふむ、地平線ははるか下。星々に手が届きそうだね。懐かしいのでは? おや、あれは……』
先行していた『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)が頭上を羽ばたいていた。
ヤツェクがのろしのかわりにギターを慣らすと、ジュートは大きく手を振って降り立つのだった。
「こっちの方によさげな場所があったぜ! 今日はラッキーだな!」
とまあ、一息ついたところで、幽霊相手への作戦会議である。
「相手の正体が分からないが、命に関わるような事は現状、起きていないのだよな?」
「そうだね、まだいたずらで済んでいる範囲みたいだしね」
『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)に、『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――の稔は調理器具を広げながら、慎重に頷いてみせたのだった。
「ならば相手の正体を見極めるのが先決、そしてそれが排除すべき害あるものか判断したい。
殺すような取り返しのつかない手段は、他に選択肢の無くなった最後でいい」
「うん。同感だ」
「ふむふむ。おっけー、つまりこの辺りの幽霊くんちゃんは悪戯っこのお茶目さんって事だな? いいぜ、この状況を思いっきり楽しんでやろうじゃねーの!」
ジュートは鋭い牙を見せ、膝を叩いてにっこりと笑った。
「そうですね。貴重品を上手く取り戻せば」
ジョシュアは、村人たちから何を失くしたかのリストをまとめていた。
「無駄な犠牲を出さないためにも、こちらもケガなんてしないようにしないとね。水に潜られた後だと面倒だ。テントは水からは離れた場所がよさそうだね。それと……」
『火を起こして寒さ対策もした方がよさそうだな』
と、虚が忠告する。
「炎なら、おまかせあれ! ですぞ!」
ヴェルミリオの指先に茫洋とした炎が浮かび上がる。鬼火のような青い炎であった。
「マシュマロもおっかないですなー! いやー実に怖いっ、これで幽霊なんて出た日には、もう眠れないですな!」
「あ、なら、紅茶をお淹れします」
ジョシュアが手際よく、丁寧に紅茶を沸かしていった。
「ありがとよ! さーって、どうする? まず腹ごなしか?」
「キャンプといえば、カレー、と聞いたのですよ
ニルはカレー作り、したいです!」
「か、カレー! それはかなりかなりおっかないですぞー!」
「おっしゃー! 腹すかせてこようかな!」
「料理作るのは……無理かな……」
アーマデルはどこか遠い目をする。
「食べたやつがちっちゃくなったり、病院送りになった事がな……」
「ちっちゃく」
「病院送りに……」
ニルとジョシュアが顔を見合わせ、アーマデルの話に耳を傾ける。
「あれはそう……いや、やめておこうか」
「おれも罠をはる側に回るとするか。だから、あまり動くんじゃない」
ヤツェクはワイヤーを張り巡らせ、ギターの弦を確かめるように指先で弾く。
『で、制御は私かね。実際に頑張るのは私ではないのかね、ヤツェク君』
「監督・E-A。悪くないだろう? クレジットでもしておこうか? で、皆。カレーは任せてもいいか?」
ヤツェクの問いかけに、ニルが答える。
「前にもエドワードとごはんつくるのお手伝いしたことがあるのですよ
みなさまと作って食べたら、「おいしい」に違いないのです!」
「おう! まかせろよ」
「そうか。ところでここにミルクとチョコレートがだな」
「うん!? チョコレート!?」
ジュートがじっとチョコレートを見ていた。
「これはもしや……!?」
「ふむ……おまちください!」
すっとヴェルミリオがあぶったマシュマロを差し出す。ヤツェクのよこしたチョコレートのかけらをかけてみた。
「おっかねぇーーー!」
「酒が怖いだろう?」
ヤツェクの持ち込んだ酒に、ふらふらと寄ってくる霊魂がある。酒蔵の聖女はアーマデルを振り返った。『捩れた一翼の蛇の吐息』の残り香を求めて。
「そう。哨戒の手助けを頼めるだろうか?」
「チョコレートおっかないな! 覇竜から出てきて良かったぜ。なあヤツェク君、そのコインおかしくないか? さっきからずっと同じ面ばっかり」
「うん?」
ヤツェクとジュートはカレーが煮えるまで、運試しをしていたのだが――幸運の七つ道具のイカサマコインにジュートは首をひねっている。
「ジュート殿、運がないですな!」
「おおこわ! 次はそのサイコロで……」
「むむ! スケさん九死に一生ですぞ!」
と、あれこれやっているうちにも、カレーがきちんと煮えたようである。
「どうですか?」
ニルがジョシュアの手元をのぞき込む。ジョシュアは静かに口に運んで、微笑んだ。
「十分だと思います」
自分で作ったからには、控えめな表現だった。けれど、それは、とても美味しいカレーだった。エドワードの顔を見れば分かる。
「よかったです」
ニルはほっとした笑みを浮かべて、カレーをよそっていく。
「うん、美味しい」
と稔が請け負った。
ジョシュアがそれを配り、最後に自分の分をよそう。
「ニル様が料理を作って下さって、友人のエドワードがいて……誰かと一緒に食事をするのは温かい気持ちになります」
「はい、ニルもそう思います」
「あったまってきたな。おお、あったかな団らんはおっかないもんだ」
ヤツェクは酒瓶を逆さに振った。もうこれには一滴も残っていない。新しいのが必要だ。
ジョシュアは小さくスプーンでカレーをすくって、大事そうに口に運んでいる。それから、空を見上げた。
「一人でする野宿とはずいぶん違うのですね」
●ゆーれいがこわい
「早くゆーれい、出てくるといいのですけど」
ニルはジョシュアの淹れてくれた紅茶を両手で持って、そっと空を見上げる。ファミリアーを通じて周りの光景を見ているのだ。
「いろんな植物がありますなー!」
(それらしいのは見当たらない、か……?)
アーマデルの前に現れるのは……ホンモノばかりだが、いや、仲間を怖がらせるからやめておこう。害はないようである。
(そも、見えない感じない者にしてみれば、霊魂も精霊も区別は難しいだろう。
そして言動によって分類するのだ、「あれは悪霊に違いない」「あれはきっと精霊だ」とな)
今回の霊が……人を脅かすというモノが、悪霊として退治されてしまうのは本意ではない。きっと、それほどは害のないものだろう。なら、そのままにしてやりたい……。
「ニルは眠らないので、寝ずの番? も得意なのです。
キャンプファイヤー、焼きマシュマロ、みなさまとお話しながら過ごす時間
ニルはとってもとってもたのし……」
と、言いかけてニルは止まる。
「は。こわい、ってならないと、ゆーれいはこない?
ええと、ええと、ニルはごはんが……こわい? です!」
「こわいですね」
と、ジョシュアが言う。
あえて怖がることで、無害で怖くないものに化けて貰おう、という作戦である。
「よしよし。これで夜の準備はパーペキだぜ!」
ジュートはぶんぶんと網をふっていた。
「いや~、先ほどのカレーは実に怖かったですな」
ヴェルミリオが機嫌よく笑った。
「スパイスのきいた香りが漂ってくると思うだけで怖くてたまりませぬ。飯盒で炊いたお焦げ付きのご飯と一緒! 見事な火加減! ああ、恐ろしすぎて肝が冷えますな!」
「ニルもこわい、です」
同じきもちなのだろうか、と相手の顔を浮かべながら、ニルは慎重に口にする。言葉とは裏腹に、暖かい気持ちで。
「さらに、ラッシーも一緒に出てきたら怖くて立ち打ちできませんぞ〜ああ、皆さんと一緒に食べるカレーが怖くて仕方ない!」
ニルは幽霊も暗闇もあんまりこわいとは思わない。こうやって誰かと、かけがえのない友人とともにいると、とてもこわいという気持ちではない。
(本当に怖いものは……)
口には出さない。そう、幽霊には聞かれないように。ぎゅっと紅茶を支え直す。
「あ〜、怖いなぁ! お酒とか美味しいカレーが怖い!」
「しっかし怪談話ねぇ」
「火もこわいっ!」
ジュートが枝を差し出すと、ヴェルミリオは慣れたものでまた火をつけてくれた。焚火に入れるとまた奇妙な色に燃え上がる。
「亜竜じゃ練達みたいに文化が発展してない代わり、占いの的中率がハンパねーの! 今朝この依頼に来る前に、占い師のねーちゃんに呼び止められてさ。「貴方死相が出てます」って。「アンラッキーアイテムの『ローレット焼肉定食』を見たら死ぬかも」って!本当おっかねーよな!」
「や、焼肉定食ですとーーーー!」
ヴェルミリオは大袈裟に身震いしてみせた。
「真っ赤に焼けた炭火であぶられる肉。おお、こわい! こわいですなー!」
「あーっ、怖い話をしてたら厠に行きたくなってきたぜ。ぶるぶる」
ジュートはあえてそそくさと立ち去る。
『占い師のねーちゃんについて考えてるのかい、ヤツェク君』
「おっかないからな」
と、その時。ヤツェクの張った罠が鳴る。
『現れたようだね』
「ひいふうみいよ……ま、任せとけばいいか」
「ひいいーーー!」
ジュートの目の前に現れたのは、……焼肉定食であった。
ジュートからぽろりと落っこちた剣のストラップを、すかさず一匹が箸に化けて抱えていく。
「焼肉がこえぇよー……こえーから、食べちゃう! いただきます!」
えっ、と驚いたのは焼肉定食のほうであった。
「いや~、はっきりと見えますな! カレーが!」
ジュートを追い、はぐれたふりをしていたヴェルミリオは暗闇に逃れる皿を見逃さず、がっしりと、具だくさんのカレーを捕まえた。
「……ちょっとおかわりを食べてみても良いでしょうか? これ食べれますでしょうか!?」
「何事も度胸だぜ!」
「いきますぞーーー!」
強く発光するヴェルミリオがスプーンを掲げた。スプーンの曲面に反射して、邪悪を裁く光がきらめいた。
「メイドインメイドーーーーっ!」
「へぶっ! これはっ……」
果たして幽霊はどのような味がしたのだろうか。
……のちに二人は「今までにないくらい未知の味わいだった」と語る。
●眠れる美女
「うーん鳥籠の中に焼肉定食ってシュールだぜ。これ本当にお化け捕獲になんのかな?」
ジュートの持つアネモネ・バードケージには、焼肉定食が収まっていた。ジュウジュウと音を出してみたり、付け合わせの野菜にくるまったりしている。
どういう組み合わせが一番怖いのかを模索しているようである。
「霊魂か。近くのをまねたのか? 俺はこうだから霊は平気だ」
死神の徒であるアーマデルには、むしろ親しいものである。酒蔵の聖女はなっていないというように指を振る。アーマデルを口説くには、これらでは足りない。
「だがあえて怖いといえば……最近はドラネコが怖いな、あの可愛らしさはやばい」
くろねこダンジョーの喉をなで、アーマデルは囁くように言った。霊魂だったものは、真似をして奇妙などうぶつに化けるのだが、ねこを見たことがないのか、ちょっとずつ違う……。模様が似ていない。
「ダンジョーじゃないな、ははは」
アーマデルは無理だと見たのか、次に霊魂が狙ったのは酔っ払いである。
「怖い話と言えばあれだな」
酒が入ったヤツェクは、真剣な緊張する音色を奏で始めた。音楽には勝手に余計な旋律が混じる。……ちょっとへたくそだったので、心ばかり整えてやった。
「密室のはずの宇宙船にやってくる吸血美女だ」
じ、とこちらを見ている人影があった。宇宙人から慌てて美女へと変じた。それを肴に、酒をあおる。
「続きを」
アーマデルはヤツェクに酒を注いでくれた。ヤツェクもそれにこたえる。
彼が語るのは、壮大な宇宙の冒険譚。涙あり、笑いありの本当かどうかわからない話。
「でまあ、あれだ、乗組員にいつの間にか絆されて恋に落ちて、しかし正体がばれて泣く泣く銀河の海に帰っていく……羽衣型伝説が宇宙に行くとこうなるわけだ。多分違うな」
「おそろしいものだ」
「ああ、もう二度と会えないなんてな! だからおれはいいかんじにアダルトなディアンドルの似合う褐色美人のご婦人が怖いな」
女性は、意地の悪い誰かに、何かを吹き込まれたのだろうか?
ふわふわした髪が編みこまれていって、少しばかり「あの人」に似る。けれども全く別人ではある。AIもそう親切ではないようで。
「酒樽も来てみろ。死ぬほど怖いな」
ぴょいんぴょいんと寄ってきた樽から、ヤツェクは水をくむようにジョッキをくぐらせる。それから、美女に注いでやるのだ。
「お酒飲む人しんから可愛い、飲んでくだまきゃなお可愛い……ってな」
とくとくと器に酒を注ぎこみながらヤツェクはギターをかき慣らす。幽霊はふにゃふにゃと飲みなれない酒を飲み、それからぐーすかと寝始めた。
慌てた様子でもう一体が現れて、必死の形相で自分も寝ようとする。本気でそれが人を怖がらせる手段だと思っているのだろう。バチバチと罠に引っかかってまた転んだ。かと思えばもう一体はねばねばにひっかがって団子になり……。
ヤツェクはちゃんちゃん、と一件落着の音声を奏でる。
めちゃくちゃにならないのは、ニルの保護結界のおかげだ。
「ご清聴ありがとよ」
●コイン跳ねる音がこわい
『「さて、一番怖いのは何だと思う?」』
Tricky・Starsの声はよく響いた。別人かと思われるくらいに。しんとした森は、彼らを見る。……いや、その場には一人しかいないのだ。
「ちなみに俺は硬貨が怖いな〜! チャリーンなんて音がしたらビビってパニックになっちまうよ」
……。
何かがちゃりんと空から落ちてくる、その時だった。
「い゛や゛だああああ!! こわ゛い゛よ゛お゛ぉ゛!!! 助けてママ゛ーーーッ!!!」
虚が渾身の演技をかましたのだった。それに合わせて、ヤツェクがギターをかき鳴らす。阿鼻叫喚の……音楽である。
アーマデルが英霊の残響を重ねて、刃が軋り歌う音がする。
みせかけだけは、すさまじい地獄のようだった。
「大丈夫かーーーーっ! ってあれ、演技!?」
「うひょおおおお! おや!? ま、負けていられませんぞ!」
ジュートの、ヴェルミリオの神気閃光が炸裂した。まばゆい光に照らされたコインがからっと落ちる。
「あっ」
と、ジョシュアが落としたのは小さな薬瓶だ。ヴォアレの紫薬。――月光にさらした、自身の血液。小さなウソのひとつだった。その瓶を掴もうとした幽霊を、ジョシュアはこけたふりをして、思い切り抑え込むのだった。
「ええ、怖いものですね、幽霊は」
「大丈夫ですか」
ニルの神気閃光が、追い打ちをかける。
ジョシュアの双刀『煌輝』がきらめき、逃げようとした影を縫い留める。
「ゆーれいもけがしてないみたいです、よかったです」
「うわあああああーーーーっ!」
虚の声は、驚きに任せた叫びだが――それは旋律であり、傷をいやすのだ。
虚のカバンではもぞもぞと何かが動いている。偽物のコインだ。虚が驚くたびにコインに戻る。
「さて人を驚かせては物を回収しているようですが、何のために?」
●湖の底がこわい
捕まった幽霊たちは、正体を現す。葉の形のような小魚だった。
食べられたものも、残った皿から姿を変える。
とても楽しそうである。
「そうか。人の感情が必要なのか」
アーマデルは頷いた。
どうも、驚かれることが栄養になるらしい。
「今日のふるまいをみると……ほんものの恐怖でなくてもいいみたいだね」
「あああああああーーーっ!」
虚が重ねて声を上げると、嬉しそうにぱちぱちと姿を変えた。あまりに強烈な演技。初めて見たものだったのだろう。
「なら、そうですね……村人達の落とし物、特に指輪などの貴重品は返していただきたいですが。そうすれば駆除とまではいかずに済むのではないかと。追い出されたくはないでしょう?」
魚たちは考える様子を見せると、群れになって湖に向う。
「ついていきましょうか」
「はい」
ジョシュアに、ニルが頷いた。
「おー、っあれとかどうよ?」
湖の真ん中で、ジュートの剣のストラップがぴかぴか光っていた。それを目印に網を投げ込む。
「よーっと。結婚指輪、見つかるといいなぁ!」
ジュートは編んだ網を使って、せっせと引き上げる。魚たちも返そうと探すのだが、ないようだ。今度は魚が恐怖を感じる番だった。
「つまみにしちまうか」
と、いわれて、魚が慌てて指輪に化けた。
「それは、本物ではないんだよ」
夜の水は暗い……けれどもニルは頷き、えい、と気合を入れると水に潜る。
「ジュート様のキラキラのキーホルダーも
誰かの大切なものを
みんなみんな、ちゃんと返しましょうね」
呼吸をする必要はない。……ほどなくして、一つの指輪を見つけた。
「おおっ、やったじゃんなー!」
「わるいものでなかったら……なかよくなれたらいいのになって思います
だって今日は、とってもとってもたのしいのですもの
ゆーれいも、こわがらせるのでなく、一緒にたのしくできたらいいのに」
「あんまりイタズラしちゃダメだぞ」
……そうしたら、ここで過ごしていける。
「共存は「手を取り合って仲良くする」事のみではない、程よい距離を保つのも『共存』のうちだからな」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
幽霊退治、お疲れさまでした!
指輪発見と相成りまして、幽霊魚たちもなんとか難を逃れたようです。
GMコメント
布川です。ビビりです!
●目標
・レッツキャンプ
・怪談話などをして、未知の「ゴースト(未識別名)」を捕まえる
●状況
ついたころには、夕方~夜になっていそうです。ただ、明かりは十分で、それほどの危険はないでしょう。
・野営の準備
湖の周りで、夜に備えてキャンプです。
腹ごしらえはしっかりと。眠ってはいけません。徹夜依頼になりそうです。寒いのでちゃんとあったかくしてね。
・怪談話
おっかない話でもして、幽霊(?)をおびき寄せてやりましょう。肝試しや、あえて一人になったりするのも効果的かもしれません。とにかくおっかながるふりをすると良さそうです。
●ゴースト(未識別名)×?
正体は木の葉の精霊……?
待っているとじっと視線を感じます。
「怖い、怖い」と喋っているものに化けて人を驚かし、驚いた弾みに落としたものを湖の中に引きこんで、回収していきます。誰かを驚かしているとき、落とし物の回収中は隙だらけです。
そんなに頭が良いわけではなく、結構なんでも真に受けるようです。「ここらで一杯酒が怖い」なんていうと、酒瓶に化けて出てきます。飲めます。飲むの!?
そこそこ言葉を理解する模様。
●その他
ついでに、レリッカの人たちが失くしたものが落ちてたりするので、持って行ったら喜ばれるかもしれません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。何の幽霊が出てくるかは分からないところではありますが、そんなに危険もないでしょう。
●特殊ルール『新発見命名権』
浮遊島アーカーシュシナリオ<Celeste et>では、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
発見者には『命名権』があたえられます。
※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
命名権は放棄してもかまいません。
※放棄した場合には、何も起りません。
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