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シナリオ詳細

【月夜の華】桃源郷を欲しいままに

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・二人だけの桃源郷

 死者の魂を捕らえるのは、決して容易いことではない。

 華国において、生者と死者は別の存在である。死者は一度その身体を手放している時点で、人間の域から外れている。だからただの人間が、死霊――鬼を繋ぎとめようとすることなど、そうそうできるものではないのだ。

 とはいえ、方法がないわけではない。よく鍛錬を積んだ人間であれば、鬼をこの世に閉じ込めることはできる。それこそ鎖で繋ぎとめるように、死者の自由を奪うことだってできる。
 しかし、これも特別な人間の話。術者になり得ぬ者では、まず不可能とされてきた。

「なあ、兄ちゃん。もう一度会いたい人、いるだろ」

 たとえ出来ないにしても、わずかな希望には縋りたい。そんな気持ちを利用して、ある術者がその秘儀を民衆にばらまいた。

「会いたい人の簪か何かあるか? 貸してごらん、とっておきの術をかけてやるから」

 必要なものは、呼び寄せたい鬼が生前に持っていたもの。

「これでしばらくの間、あんたの愛した人を、あんたの元に呼び寄せることができる」

 奇跡を呼び起こすための代償は、鬼を求めた者の命。
 それを理解していても、術をかけられることを、人は躊躇わない。

「どうなってもいいよ。俺は、あの人を俺の側におきたい」

 ある男は、愛した女の魂を呼び寄せた。
 ある女は、憧れの男の魂を抱きしめた。

「この命で、こんな夢を見られるのなら。いくら差し出しても良い」

 そうして、鬼は常夜の世界に捕えられた。
 牡丹の香りが漂うこの場に、ぽつぽつと現れた理想の世界。

「まるで桃源郷みたいだね。もう一度君と、一緒にいられるなんて」

 術をかけられた人間の命はすり減り、やがては魂すら残らなくなる。そうなれば、死者の世界で大切な人と再会することは、叶わなくなる。輪廻の先で、想い人と再び巡り合うことも、叶わなくなる。

 桃源郷は夢でしかない。本来の世界で、想い人と出会うために。術にかけられた人間の目を覚ましてくれないだろうか。


・夢はただ、儚い

「もう一度会いたい人、いるかい?」

 そういう人、多そうだけど実際どうなんだ? 本の表紙をいじりながら呟いたのは、境界案内人の雨雪である。

「死者が生者に焦がれることもあれば、その逆もあるわけだ。今回は、生者が死者を求めたお話だよ」

 常夜の世界、華国。死者の世界と隣り合っているそこでは、本来ただの人間は、死者を呼び寄せることも、繋ぎとめることもできない。だが、それを可能にする術がばらまかれてしまった。

「鬼、つまり死霊が生前持っていたものに、術をかけるんだってさ。そしたら、死者が呼び寄せられてくる。人間の命を代償にしてね」

 術をかけられた小道具が壊れるか、手放されるまで。もしくは鬼を求めた人間の命が尽きるまで。死者の魂は、生者の元に縛り付けられる。

「でもさ、人間の魂自体が食い潰されてしまったら、死者の世界でも、生まれ変わった後の世界でも会うことができないんだぜ?」

 雨雪は本をぱらりと捲る。

「だから、止めて欲しいんだ。説得してもいいし、無理やり小道具を奪ってもいいよ。とにかく、人間の命が尽きる前に」

 夢に溺れた者は、自分から目覚めることはできない。だから、誰かの手が必要なのだ。
 どうか、覚めぬ夢に落ちている者を、すくい上げてほしい。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 中華風味の世界で、愛を求めた人間と会う話です。「月夜の華」の三番目の話ですが、今までのものを読んでいなくても問題ありません。

世界観:
 中華に和を混ぜたような「華」という国です。常夜の世界で、月や星が空を支配しています。牡丹の花が年中咲き乱れていることも特徴です。
 華国は、死者の世界と隣り合っています。死んだ人間は鬼と呼ばれる死霊となり、死者の国に住みます。鬼は華国と死者の世界を行き来できますが、人間はできません。
 本来死者の魂は、他人の手によって拘束されることはありません。しかし、特殊な術が出回ったことで、それが可能になりました。鬼が生前に持っていたものに術がかけられ、鬼を望んだ者の手元に鬼は縛り付けられます。


目的:
 鬼を華国に縛り付けている「道具」を人間から手離させることです。
 死者を繋ぎとめる術を利用するためには、人間は命を削らなくてはなりません。鬼を手元に置けば置くほど魂はすり減り、やがて残らずに消えてしまいます。その場合、鬼になることも、生まれ変わることもできなくなります。
 術を使って得られる幸福は、ほんの一時です。その先の幸福のために、術をかけられた道具を手放させてください。人間を説得しても良いですし、道具を無理やり奪っても構いません。

鬼について:
 死霊のことです。人間の域を外れた存在ですが、大した力を持ちません。生前と変わらぬ姿のまま、死後の時間を過ごしています。
 死者は成長をしませんが、生きている人間は変わります。生者の妄執に囚われ、その自由を奪われてしまう鬼が現れてしまいました。

できること:
・人間と対話する
・小道具を手離させる(説得、取り上げる、壊す等)
・鬼を解放する


サンプルプレイング:

 ねえ、好きなひとと、ずっと一緒にいられて楽しい? よかったね。
 君は、そう、そのこが生きている間に、結ばれることができなかったんだね。だから今幸せか、なるほど。君が今幸せなのは結構なことなんだけど、その幸せは今だけだよ。
 今の君に未来はないよ。だから、はやく、その鏡を手離して。


 出会う人間や鬼について希望があれば、特徴(性格、見た目、境遇、持っている道具等)をプレイングに記載していただければと思います。記載がなければこちらで出会う鬼を選ばせていただきます。
 よろしくお願いします。

  • 【月夜の華】桃源郷を欲しいままに完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年04月25日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ

・硝子

 魂が消えてなくなる。実に結構なことじゃないか。『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は口の中で呟き、目の前にいる男女を見つめた。
 女を抱える男の瞳に浮かぶのは恍惚としたもの。腕に囚われた女に浮かぶ表情は、悲しみ。釣り合っているものじゃない。

 死者の世界で会えたとしても、いずれは転生してしまうのだ。そして、生まれ変わったところで必ずしも出会えるわけではない。ならばいっそ、わずかな時間を最愛の人間と過ごすのも一つの手ではある。最も、相手の事を考えていない我欲的なそれは、愛というより執着心と呼ぶのに相応しいが。

 さて。鬼を縛り付けているらしい道具を、どう取り上げたものか。説得と破壊が可能な手段ならば、後者を選ぼう。説得は時間がかかるし確実性もない。
 駄々を捏ねられたら結局力づくになるのだ。それならば、最初から取り上げて壊してしまうほうがいくらか楽だし、その分多くのところを回れる。

 方針が決まれば、あとは実行するだけだ。

「何だよ」

 男は、世界がしようとしていることに気が付いたらしかった。さっと顔色を変えて、世界を睨みつけてきた。

「おれは」

 男の抵抗は激しかった。隠していた武器を向けてきて、どうしても彼女と一緒にいたいと叫ぶのだ。
 こんなことをしなくても遅れは取らないだろうが、素早い方が良い。威嚇術を使って無力化すると、彼の手に握られていた硝子細工が地面に転がった。

 硝子細工を拾い上げて、世界は男に問う。最後に何か言いたい事ややりたい事はあるかと。
 問答無用で道具を奪い取ったが、自分は悪魔ではない。多少の時間は待ってやろうと思った。強引なやり方とはいえ、遺恨を残したくはない。

 男は観念したように、項垂れた。道具がなければただの人間だ。もうできることもないのだろう。
 ぽつぽつと鬼に向かって囁かれる愛は独白のようで、海に落とされた雫のようだった。

 雫が流れ切ったところで、硝子細工を地面に落とす。それは音を立ててあっけなく砕け、同時に女の姿も掻き消えた。

 女の居た場所を見つめ続ける男に背を向け、世界は歩き出す。

 この事件の黒幕は、何故わざわざこんな事をしたのだろう。金目当てなら大金をせびるだろうし、まさかただの善意ということもないだろう。目的がいまいち掴めない。
 もうこんな面倒なことを起こさないでくれるといいのだが。そう空を見上げた世界を、月が見おろしていた。


・死者の想い

 死者の在り方、死者と生者の関わりのかたちは文化と世界によって様々だろう。だから『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も自分のルールを押し付ける気はない。ただ、問いたくなるのだ。死者の気持ちを考えたことはあるのか、と。

 手首を糸で結び合わせた男が二人、月明りの下に座っている。片方は俯いて唇を噛んでおり、もう片方は離さないとばかりに相手の手を握っていた。
 生者の首に下がるのは、石でできた首飾り。きっとこれが二人を縛り付けているのだろう。

 生者の命を代償にして、死者の魂を呼び戻して縛り付けるのなら、首飾りの男は放っておけば消えてしまうのだろう。恙なく生きて逝けば、死後は往くべき処で共に過ごせるというのに、それを捨ててしまおうというのか。

「先に逝った者を想いながらひとりで過ごす余生は色褪せ、味気ないものかもしれない」

 ただ、その術で魂をすり減らし、跡形もなく消えてしまえば、今度は死者が同じ想いをするのだ。

 アーマデルの言葉を、生者は遮ることなく聞いている。反論ができないのか、聞き入っているのかは分からない。それでも、語り掛ける余地はある。

 死者が生者と同じ想いを持ち、縁の糸を手繰り寄せて、撚り合わせた者ならば。生者が前を向いてその生を織り上げた後、鬼として死者の国を訪れるのを望むのではないだろうか。

「逆の立場、あんたが遺して逝った立場であるならば。ほんのひと時を過ごす為に果ての再会を捨て、消滅する未来を選んだ相手をどう思うんだ」

 自分は、大切なひとの、共に永い冬を越えたいと願ったひとの、大切なひとを守れなかった。それでも、理を曲げてでも死者を縛ろうとは思わない。そうすればきっと、彼をさらに悲しませ、苦しませることになるからだ。そんなことは、望まない。

「さあ、それから死者を解放してやってくれ。それは死者にとっては、牢獄だ」

 生者が首飾りを握りしめる。その手が、震えていた。

「さて、ここまで『こんなことやらかした生者と死者は生前親しく、友好関係』という前提だが」

 生者はすいとこちらから顔を逸らし、はぐらかすように笑う。

「よもや一方的に執着した上に、死後の安寧すら奪おうとはしていまいな?」

 彼は口の端を吊り上げた。

「好きなのは僕だけだったんだ」

 ならば気を使う必要など無さそうだ。アーマデルはひとつ息を吐く。
 容赦なくそれを壊してしまおう。


・永久の逢瀬

「みーんなマリカちゃんの『お友達』。ずっとずっと一緒だよ❤」

 ぐちゃり。ぐちゃり。どこからともなく現れた人の形をしたもの、地面から盛り上がる骸骨、魂が人間の形をとったもの。それらがぞろりぞろりと動き出し、桃源郷を壊していく。
 亡者を連れて歩くのは、『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)。マリカの歌うような言葉に合わせて、亡者は生者を求め歩き、その身体に手を伸ばす。逃げる者、向かってくる者、歯向かう者。それらに容赦はしない。

「第二の死を迎えず、永久の逢瀬が欲しいのかしら?」

 お友達の群れが、桃源郷を作り上げた生者に絡みつく。
 足をくれ。命をくれ。そんな呻き声が生者の悲鳴を飲み込み、喰らいつくしていく。

「容易いことだわ♪ 実った林檎を腐らせたくないのなら」

 動けなくなった生者、お友達に出会っていない生者たち向かって、鎌を振るう。鮮やかな赤が爆ぜて、生者はその定義を無くしていく。

「果実が青いうちに摘んでしまえばいいのよ」

 生者だったはずの物体はただの亡者へと変わり、死者の群れに紛れて歩き出した。

「ほら、こうすれば、あなたもあなたの大事なヒトも、ずっとずーっと、マリカちゃんの『お友達』❤」

 桃源郷なんて、所詮は消える夢でしかないのだ。だったら腐りもしないうちに、永遠に閉じ込めてしまえばいい。

 捕らえられていたはずの鬼も、マリカのお友達になる。そうして己を縛り付けていたはずの人間を貪りだすのだ。これではどっちが捕らえられているのかも分からない。

「アメミットにイブを捧げるのが宿命ならば、もとより被告席に立たなければいいのよ」

 ほとばしる赤が、地面に色をつける。

「死の審判も無く第二の死を受け容れるだなんて、オシリスにもアヌビスにも失礼だわ♪」

 焼く前のスポンジ生地はべたべたしていて、とてもケーキだとは思いたくない代物だ。だけど、焼きすぎて焦げた、真っ黒で苦いものよりはずっとずっと美味しい。

 広がっていくマリカとお友達の世界。星と月に囲まれたような場所に現れた、死の匂いと叫び。この叫びがなくなるまで、群れは止まらない。

 元々の死を受け入れられもしないのに、再びその魂で歩みだそうとするだなんて。そんな人たちにはお友達になってもらわなくては。

 赤色が呑み込まれたのを見届けて、マリカは笑う。これでずっとずっと、マリカちゃんの「お友達」❤


・愛と悲しみ

 死者を繋ぎとめる為に命を削る道具。よくもまあそんなものを考えつくものだ。牡丹の香りを感じながら、『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)は息を吐いた。

 自分たちのような「力」ある者には、こんな道具は要らない。だけど、一般人には魅力的ではあるのだろう。
 ただ、死者を繋ぎとめる為に命を削り、魂を摩耗させ、輪廻転生すら出来なくするなんて、到底許せるものではない。だから何と言われても、阻止させてもらおう。

 薄暗い中を進んでいると、草木に囲まれた場所に人影が見えた。一見するとただの男女の逢瀬のようだったが、様子がおかしい。まだ一緒に過ごしたいと、女が泣いているのだ。
 なるほど、あれが道具を使った人間か。

「その道具は、てめーの思っているような代物じゃねーのだ」

 ヘルミーネの言葉に、女がこちらを向く。濡れた睫毛から、ぽたりと雫が零れた。

 あれは、美しい夢を見せてくれるものではない。死者を縛り付けて手元に置いたところで、一緒に居られるのは一時だけ。その後にあるのは、完全な死と、愛しい者との完全な別離なのだ。

「辛いだろうけれど、もうそれは使わないでほしいのだ」

 信仰蒐集を使って語り掛けているが、女の涙は止まらない。それどころか、嫌だと首を振り、いかに彼を愛しているかを零し始めた。
 説得は効かないらしい。ならば仕方ないと神気閃光を使い、不殺を心がけながら手に持っていた物を奪い取った。

 ヘルミーネの手に大切な物が渡ったと分かると、彼女はこちらに縋り付いてきた。お願い、これが必要なの。私、まだ彼と一緒にいたいの。

 こちらの服を掴む手を引きはがし、眉を寄せる。

「テメーの為にやってやるのだ……。何より死出の番人(ニヴルヘイム)の巫女として見過ごせない」

 恨むなら恨めばいい。そう呟いて、鎮魂歌を奏でる。
 これで鬼の魂は成仏した。もう、女の元に戻ることはないだろう。

 地面に崩れ落ちる女の姿を見ないようにしながら、ヘルミーネは再び夜の世界を歩む。泣き声から耳を塞ぐようにして、先を急いだ。

 一時の逢瀬の為に相手を縛り付けるほど、誰かを愛せるものなのだろうか。どうして来世での再開を望み、その為に精一杯生きようと考えなかったのだろう。
 自分には、命を削ってまでそんな願いを叶えようとする気持ちなんて、理解できない。

 なんだか人でなしと言われているような気がして、目の前が余計に暗く思えた。

成否

成功

状態異常

なし

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