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シナリオ詳細

<13th retaliation>ビューティフルアフターワールド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●荒廃した世界を立て直すのに数百年がかかるなら、単に数百年続ければ良い
 遙か昔に崩れ去ったハイウェイらしき残骸の上を、リュックサックを背負って歩くスケルトンがいた。
 ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)である。
 空は青く、そして空気ははるかに澄んでいる。
 深呼吸をしてみたが、空気は肺どころかあばら骨を抜けていくばかり。
 そんなことにカラカラと笑い、彼は歩を進めた。
「さあて、この世界にどんな娯楽を広めましょうか。夢がひろがりますぞ!」

 今からおよそ十年ほどまえ、この世界にはゾンビウィルスが蔓延したという。
 たしかハンバーガーのピクルスだかに入っていたそれは瞬く間に全人類に感染し、全人類がゾンビになった。
 もしこれがゾンビアポカリプス映画であったならここで終わったのかもしれないが、世界はそれでも続いたらしい。
 路上をウーアーいいながら歩いていた彼らはもうその必要がなくなり、周りの奴にも『もうウーアーしなくていいんだぜ?』て言いきかせ彼らは……彼らは……なんといえばいいのだろう?
 強いて言うなら、『自由』になったのだ。

 ゾンビはゾンビである。永遠に食べなくても死なないし、眠ることもない。生殖し増えることがない代わりに死なないので、種の保存の欲求がそもそも湧かない。
 はじめは突然ふってわいた自由に困惑する彼らだったが、次第に人類だった時の記憶を思い出し、彼らなりの暇つぶしを始めた。
 とはいえ滅び去った世界には何もない。殆どの娯楽は壊れ、あるいは朽ちている。
 本が読みたくても、誰かの声が聞きたくても、ドライブに行きたくても物はないのだ。
 だからあるものは本を書き、あるものは電波と機材を整えラジオを放送し、あるものは車を組み立てドライブをはじめた。元々自分のためだけに始めた暇つぶしは、それを羨む他人に分け与えるようになり、次第にそれらはシェアされはじめ、いつのまにか暇つぶしは世界を覆った。
 彼らはコレを娯楽と呼び、あるいは人生と呼んだ。
 娯楽はイコールで人生だった。路上に大の字に寝転がったまま百年微動だにしなくても死なない彼らにとって、『暇』こそが敵だったのだ。
 娯楽は発展し、発達し、そして拡散していく。
 よりよい暇つぶしを。何年でも続けられる遊びを、あるいは今よりもっと刺激的な瞬間を。それを追い求めて、ゾンビたちは『生きる』ことにしたのだった。

 これは――そんな『夢』のおはなし。
 あなたはゾンビのひとりとなって、この末永きビューティフルアフターワールドで、楽しい楽しい暇つぶしを作るのだ。
 他ならぬあなたの手によって。

●深緑と呪いと『眠りの世界』
 そろそろ背景を語るべきだろう。
 深緑を茨の呪いが覆ってしまったことで、ローレットとその協力者たちは依頼を受ける形で事件解決のために動き出した。
 妖精郷の助けを借りることでアンテローゼ大聖堂へのアクセスに成功し、はげしい戦いの末大聖堂奪還をまず成し遂げたローレット。
 次に目指すのは大聖堂という拠点の防衛と、新たな拠点の確保と勢力の拡大。そして探索範囲の拡大である。
 そんななかで障害となったのが、呪術に巻き込まれることで誰かの中に発生したという『眠りの世界』であった。
 ファルカウを包む猛吹雪に触れることで侵入できるこの『世界』は外界とは切り離された奇妙な独立世界である。
 まさに夢の中と呼ぶに相応しい、あるときは不条理なあるときは不思議な世界がそこには広がっているのだ。
 これは、そんな眠りの世界のひとつ――『ビューティフルアフターワールド』と仮称された世界を解きほぐし、救うための物語だ。

 対象となるのはある退屈なハーモニア女性。
 呪術に巻き込まれたことでこの『ビューティフルアフターワールド』を生み出し、ファルカウを覆う結界のひとつとなっている。
 あなたはこの世界に入り込み、『ゾンビ』のひとりとなって世界に娯楽を広め、そして満たすのだ。
 『ビューティフルアフターワールド』は世界に娯楽が満たされ、退屈を殺すことによって解放されるという。

 さあ、夢へと旅立とう。

GMコメント

●『ビューティフルアフターワールド』
 あなたは『眠りの世界』という異空間に入り込み、この世界の解放を目指します。
 解放には条件があり、それを満たすことでシナリオクリアとなります。

 今回の『ビューティフルアフターワールド』の解放条件は『世界を娯楽でいっぱいにすること』です。
 あなたはこの世界で永遠に生きることの出来る『ゾンビ』となり、あなたなりに娯楽を作り出すことができます。
 時間はほぼ無限にあるので、どんなことでもほぼほぼ可能となるでしょう。
 また、今回に限っては『無辜なる混沌』のルールは一旦忘れて下さい・なにせ夢の中なので。

 皆の考える娯楽が広まり、世界がいっぱいになったなら、この夢は解放されることでしょう。

●『ゾンビ』と『ゾンビにできること』
 あなたはゾンビですが、他のゾンビたちが確立した技術によって人間とかわらないボディスキンを得ることができます。お好み次第で猫耳をつけたりロボみたいなボディになることも可能でしょう。そういうものがもはやファッション感覚で行われています。
 ヴェルミリオさんは今のところスケルトンボディですが、極論ここまでできるようです。
 そしてあなたは時間と自由が無限にあるゾンビなので、この世界にありとあらゆるものを作り出すことが可能です。
 ですので、プレイングではできるだけ『何か一つ』に絞って作り出すことにしてください。
 あれやこれやと思いつくことはあるかと思いますが、このゾンビ社会ではあえてひとつに絞ることで拡散力は最大限に高まるはずです。
 絵をかくなら、絵をかくで、サーカスを立ち上げるならサーカスを立ち上げるで、ゲーセンをつくるならゲーセンをつくるで――どんどん拘っていきましょう。

 しっかりと『条件』が満たされたなら、この夢は解放され、ファルカウを覆う結界もまたひとつ破壊されることでしょう。
 ついでにいうと、この呪術に捕らわれているハーモニア女性も解放することができます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <13th retaliation>ビューティフルアフターワールド完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合

リプレイ

●『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)のアフターワールド
 大きな枕の上で目覚める。自分がキングサイズのベッドの中心に沈んでいたと気付いて、ラダはゆっくりと身体を起こした。睡眠は、本来必要なことではない。腐敗すらせず人体のほぼ全てを置き換えた結果生者との境すらなくなった、『人工的な哲学的ゾンビ』となったラダにとって、睡眠とは暇を潰すための手段に過ぎない。
 そして暇を睡眠程度で潰そうと考えられることは、ゾンビ社会にとって幸せな贅沢なのだ。
 ベッドから立ち、クローゼットにかかったスーツのひとつに着替える。女性物だが、すらりとしたパンツスーツだ。胸のピンバッジは二つ。ジグリ商会のロゴマークと、ラダが経営する――カジノのロゴマークだ。

 両開きの扉を抜けると、華やかな世界が広がっていた。
 美しいシャンデリアと高級な絨毯に挟まれた広いフロアにはポーカー台やブラックジャック台、そしてルーレット台が並び、シガーボックスを持ったバニーガールが横切っていく。
 並ぶスロット台は派手な音を出し、時折バケツをひっくり返したかのようにカジノチップをばらまき始める。
 人々はチップの増減に一喜一憂し、増やしたチップを愉快なグッズと交換することに躍起になっていた。
 この世界に金(カネ)という概念はほぼない。交換の効率化、価値の均一化、あるいは社会の統制という意味をもつカネは、暇つぶしこそが生き甲斐であるゾンビ社会にとって不要なのだ。経済サイクルが破綻しているともいう。
 なので、ここでのチップはチップとしての価値しかもたず、故に人々はその増減に一喜一憂する『だけ』で済むのだ。
 ラダは『ごきげんよう支配人』とスタッフたちに挨拶されながらバースペースへと座り、カクテルを注文した。
 ここではチップとドリンクを交換するのがルールだ。
 ふと隣を見ると、ハーモニア女性がラダと同じ物を注文していた。
「楽しんでいるかい?」
 ラダの問いかけに、女性は美しい笑みで答えた。
「――」

●『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)のアフターワールド
 生きるために生きなくてよい。
 その概念は、イルミナにとってひどく懐かしいものだった。
 この世界で「食うために働く」なんて状態を長く続けたせいでわすれかけてすらいたほどだ。
「イルミナはっスねえ、毎日おうちの掃除をし続けるだけの人生って結構好きだったんッスよ。たった一人に奉仕するために数千人がいる。イルミナたちにとって幸福は実行されたプログラムコードのひとつに過ぎなかったし、感覚器官へのフィードバックでのみ観測されるものでしかなかったんです。だから勝手に偽造できたし、必要としなかった」
 ゆっくりとまわる観覧車。上昇していくゴンドラの中で、椅子に座ったイルミナが外を見る。
「だから、『退屈が敵だ』って思ったことはなかったッス。そして暇つぶしが人生だというなら、その究極は……やっぱり非日常ッスよ」
 見下ろした風景は、イルミナのいう『非日常』そのものであった。
 別の言い方をするなら『夢の国』である。
 楽しげに回るメリーゴーランドや、様々な国や時代の風情を繁栄させたテーマパーク。非日常的なキャラクターが陽気に出迎え、彼らは(肉体ごと置換することも可能であるにも関わらず)誰かが着込んだような着ぐるみの形態をあえてとっていた。
「この遊園地を作ろうって周りに話したら、みんな協力してくれました。沢山スタッフが集まったし、みんなこの……『夢の国』の一部になることを楽しんでいるみたいッス」
 気が遠くなるほど永い年月をかけてこのテーマパークを作り出しながら、イルミナは思ったことがある。
 どれだけ自由があったとて、ひとが一人でできることなどたかが知れているということだ。
 全て思い通りに管理できたとて、思い通りの場所にボールが落ち続ける釘無しピンボールができあがるだけだ。そんなものは暇な人生の極地かもしれない。
 そこへ多くの人々が入り、彼らが彼らなりの良さを主張することで、テーマパークは見事『楽しさの集合体』となったのだ。
「この調子で、世界を熱狂の渦に包んでやるッス!」
 笑顔で語るイルミナに、向かいに座ったハーモニア女性が美しく笑った。

●『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)のアフターワールド
 並ぶ木のテーブルにはそれぞれ仕切りがつけられ、椅子をひくとスゥーッという布がフローリング床をこする音がする。
 ウィリアムはその椅子にこしかけ、手にしていた本を開いた。
 今読んでいるのは詩篇だ。ひとりの人間が世界中をただただ歩いて回って、その時々に思ったことを圧縮した言葉で表現したものが1ページずつ書いてある。
 たとえばこれだ。
 『まっすぐな道でさみしい』
 俳句のなかでも自由句と呼ばれるもので、より語彙や並びの選択が求められる実に難しい文芸である。
 そしてそれらは短ければ短いほど強い意味をもち、であるからこそ正しく伝えることも難しい。間違って伝わるかどうかなど、本人にしかわからないというのもまた痺れる要素だった。
 ウィリアムはこうした詩を読むとき、いつも読み手を思う。わずか十文字かそこらの文章に誰かの生活をみて、価値観をみて、あるいは人生を見るのだ。
 ウィリアムは深く呼吸をし、そして本を閉じ、そして……顔をあげた。

 そこに広がっていたのは本棚である。
 本棚であり、本棚と本棚と、また本棚だ。壁一面。高い場所ではハシゴを用いるほど大量に設置された本棚にはそれぞれ本が収まり、それぞれどこかの誰かが書いたもののコピーだ。
 ウィリアムがこの世界において退屈を殺そうと作り出したのは、この『図書館』であった。
 そもそもこの世界に『本を買う』という文化がろくにないせいで、本の貸し借りは常識化していた。コピー技術、あるいは製本技術も発達したことで誰かが適当に書いた文章が何百冊の本になってばらまかれるなんてこともしばしばである。
 しかし個人の『ばらまき』などたかが知れたもので、そんな誰かがより多くの本に触れたいと思ってもそのハブ(中継)が存在しない。
 だからこそ、ウィリアムはそんな人々を集めた。
 本を読みたい人に本を貸し、代わりに一冊の別の本を寄付して貰う。あるいは書いて貰う。
 多くの人々の考えや知識や、或いは空想が本という形になって、風景を埋めているというのは……。
「なかなか、いいものだよね?」
 ふと横を見ると、椅子にこしかけ本を読んでいたハーモニア女性がこちらに振り返った。
 女性は美しく笑って――。

●『返の風』ゼファー(p3p007625)のアフターワールド
 グリーンの液体が入った棒状のボトルが、青い空を回転しながら飛ぶ。
 それが放物線を描き、網状の床をカツンと硬質な音を立ててはねた――その瞬間に女性の白い手がボトルを素早くキャッチする。
 と同時に始まる緊迫感のあるミュージック。カメラは引き、女性の上半身を映した。わずかに汗ばむ女性は髪を後ろで縛り、薄いシャツを着ていた。
 更にカメラを引けば、ジーンズパンツをはいていた女性が走って行くその更に向こうで次々に爆発が起きるのがわかった。
 爆発はリズミカルに、しかりせき立てるようにその間隔を狭め、やがて空をヒュルヒュルと火のついた爆弾が通り抜けた次の瞬間、激しい爆発を背に女性――ゼファーはビルの屋上から飛んだ。
 滞空。それも僅かな時間がスローに引き延ばされ、吹き飛ぶ破片や武装した男達や半分になったドーナツと葉巻がゆっくりと煙をぬけて流れ、そのずっと先のゼファーはゆっくりと視界の端から現れた縄ばしごに手を伸ばす。
 がしり、と手は縄ばしごのバーを握った。
 爆発し倒壊を始めるビルを背に、ヘリコプターからおりた縄ばしごに捕まり、手にしたボトルを一瞥するゼファー。 振り返ると夕日が町のずっと向こうに沈みゆくのが見えた。
 そこで、スクリーン中央に大きくENDの文字が躍った。

 パチパチ、という拍手がおこる。
 最前列のシートに座っていたゼファーが立ち上がり、観客達の拍手を受け止めた。
「なるほどね、やった甲斐があるってもんだわ」
 ゼファーは主演兼映画監督兼配給会社兼映画館オーナー兼諸々全部として、観客全員の拍手を受けている。
「今日と変わらない明日が続くのなら、其れは屹度、何よりも退屈なこと。
 頑張ることも、楽しむことも。どっちも忘れてしまったのなら……。
 身体は生きていても、心は死んでいるのと一緒だもの」
 ゼファーはそう言って、彼女の隣の席に座っていたハーモニア女性に手を伸ばした。
「だから続けましょう。どうしようもなく騒がしくて、うんざりするぐらいに忙しない日々を」
 女性はその手を美しい笑顔でとって――。

●『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)のアフターワールド
 エルシアは生命を解放と定義した。
 あるいは人生を逃避と定義した。
 何からの解放であり逃避であるのかといえば、それは苦痛と死からである。
 死から逃れるために生き、苦痛から解放されるために工夫する。
 生き足掻くということは、すなわち死と苦痛の存在なくして成立できないのだ。
 少なくとも、エルシアはそう考えていた。
「ですから……私が創り出したい娯楽は、『苦痛と死』です」

 時間が限りなく存在したゾンビたちにとって、幸福や快楽を『実行』することは難しくなかった。脳(あるいは脳として機能している非実体的な何か)を解析し尽くし、いかなる部分にいかなる刺激を与えればいかなる反応を生み出せるかを理解したのだ。
 多くはそれを不健康な(そしてゾンビにとってはノーコストな)幸福や快楽の確保のために用いたが、エルシアはその逆をもたらすことにした。
 まず作成したのは苦痛と、そして一時的な死を体感できるチップである。
 これを埋め込み、後輩しきった町にも似た閉鎖空間へと放り込む。
 人々は飢えや渇きに苦しみ、奪い合い、時として苦しみから逃れるべく他者を苦しめる。
 力をもった者はそのアドバンテージを自らの苦痛からの解放と死からの逃避にあて、それはすなわち他者の苦痛と死を対価とした。
 それらを続ける内に弱者は数を集め強者を死においやり、自らの死から逃れる。
 やがて集まった彼らは互いを信じることの苦痛を得て、また死と苦痛が嵐のように吹き荒れるのだ。

 町は荒廃しきり、誰かの死体は道ばたにおちた小石と同価値となっていく。
 死を経験したものはまたこの町に肉体を得てやってきて、苦痛と死をむさぼるように生きるのだ。
 よりよい苦痛を。
 よりよい死を。
 そしてその先にある、よりよい生を求めるのだ。
「私もそろそろ夢から覚めて、幸せの為足掻く日々に戻りませんと……」
 教会の屋根からのびた十字架に腹から突き刺さったエルシアは、そんな事を言って笑った。
 あなたもそうでしょう?
 問いかけた相手のハーモニア女性は血塗れの顔で、美しく笑った。

●『神威雲雀』金枝 繁茂(p3p008917)のアフターワールド
「みんなのーーーーアイドル!」
 パンキッシュな格好をした女性が飛び跳ねる。
 身体を海老反りにし踵が尻につくほどまげ、両手をたかく広げたその姿勢は非現実的でありながら、しかし開放的な何かを観客達にもたらした。
 振り乱されるサイリウムスティック。
 ステージは最高潮に盛り上がり、歌うアイドルたちを輝かしい世界で一杯にしていく。
「…………」
 観客席の端から立ち見していた繁茂は、その様子に満足げに頷いた。
 ネームプレートには繁茂の名と共に『891事務所』という所属、そして『社長』の肩書きがあった。
 彼がこの退屈な世界にもたらそうとしたのは、他ならぬ『アイドル』である。
 日常の対義である非日常をもたらす存在であり、信じることで自らも非日常へ少しだけ浮かび上がることが出来る存在だ。
 世の中に存在する無数のゾンビ達の中から、アイドルになりたい者や素質のある者をあつめ、ステージや曲や衣装といったセンスをもつスタッフたちを集め、やがて集まった人々は事務所となり、宣伝されたことで広まった『アイドル』はこうしてステージに立ち、集まる人々はその一部となる。
「『こんな子が本当にいるなんて』……それを信じることが、アイドルの本質なのかもしれません」
 ネクタイを僅かに緩め、繁茂は歩き出す。
「輝かしい世界。常に笑顔でいてくれる誰か。それを求め、人々が集まり……そして自らもまた世界になっていく。アイドルとは世界を照らす光なのです」
 何かをしてくれるわけでも、施してくれるわけでもない。例えば太陽のようにそこにあるだけの存在だが、同時にそれは、この世界が捨てたもんじゃないと証明してくれる存在でもあった。
「そして私もなるのです。アイドルに!」
 歌いましょう! そう叫び、繁茂はステージへと飛び上がった。
 観客席でサイリウムを握るハーモニア女性が、笑顔で叫ぶ――。

●『特異運命座標』フーガ・リリオ(p3p010595)のアフターワールド
「おいら、世界を音楽で満たしてみようと思う」
 フーガのそんな言葉から始まったマーチングバンドは、今大陸を東から西へ横断しきったところだった。
 海の見える場所まで到達し、引き返す。また西から東へ横断しきり、引き返す。
 フーガがやっていることは極論すればこれだけだ。
 これだけにも関わらず――。
 気付けばトランペットを吹きながら歩くフーガの後ろには無限にも思えるほど巨大なマーチングバンドができあがっていた。
 それぞれが思い思いの楽器をとり、勇壮のマーチを奏でている。ぴったりと合わさった演奏なれど、巨大であるがゆえにすこしずつすこしずつ遅れかすかな輪唱のようにさえ聞こえた。
 最初は退屈していた誰かが手を叩きながらフーガに続いたことで。続いて楽器を作ったはいいが一緒に奏でる者のいない誰かが続き、その列は徐々に伸び、誰も彼もが加わって、時には手を叩くだけの者や勝手に歌い出す者も一緒になって巨大なマーチングバンドが行進するようになっていた。
「ゾンビは体の疲れがないだろうから、遠くまで歩いたって苦労はないかもしれねえ……けど心はやっぱ疲れる。
 そうなった時は、途中で抜けたっていい。
 石の上に座って静かな音に耳を澄ませるだけでいい。
 行列に戻りたきゃ戻ってもいい。マーチは自由だからよ」
 マーチングバンドはいつまでも続き、フーガが世界中を音楽で包んだと、確かに言えた。
 それに新たに加わったハーモニア女性が手を叩き、そして笑って歌い出す。

●『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)のアフターワールド
「さあ、冒険をはじめますぞ!」
 鋼のつるぎを手に、ローブを纏ったヴェルミリオは塔第一階層の扉をあけた。
 たいまつを左手に持ち、薄暗い通路を進む。
 慎重に壁や天井、あるいは曲がり角の先に注意を向けたその隙を突くかの如く、踏んだ床がガクリと下がり慌てて脚を引いた瞬間に飛び出した鋼の槍がヴェルミリオの胸と顔を貫いていく。
「ア゛ア゛ア゛ーーーー!?」
 派手に身体をぶち抜かれ……たというか、頭蓋骨から目の穴にかけて槍が通り抜けただけのヴェルミリオは悲鳴をあげながらじたばたと暴れた。

 ヴェルミリオがこの世界に作り出したのは、ひとつの塔だった。
 天にも届く、あるいは雲を突き抜けるほどの塔の入り口は一階層目のひとつのみ。
 挑戦者に待ち受けるのは数多のトラップとモンスターたち。
 時には巧妙なトラップを解除しながら進み、時には難解なパズルやクイズを解き、時には強大なモンスターと戦う。
 そのたびに手に入れる剣や盾、あるいは弓を装備し、また新たな階層へ挑むのだ。
 階層を登る度にその難易度と複雑さが増していく塔は何のためにあるのか。それはただシンプルな理由によるものである。
「人生の醍醐味はスリル&トレジャーそして、大冒険でございましょう!」

 塔に挑戦し、共に戦うハーモニア女性がいた。
 ヴェルミリオから槍を抜き、苦笑する彼女にヴェルミリオもまた笑いかける。
「ありがとう。なんだかみんな、派手で刺激的で、時に滅茶苦茶だったけど……」
 ハーモニア女性がヴェルミリオの手を取り、歩き出す。
「おかげで分かったわ。退屈なんて、きっとどうにでもなるのね。人生は、『素晴らしき暇つぶし』だわ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 夢が覚めていく。そしてまた、素晴らしき暇つぶしが始まるのだ。

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