シナリオ詳細
血染桜の恋心
オープニング
●
「本当に綺麗に咲いたなあ、美人さんだ」
私を見上げて笑うあなた。
私をずっと見てくれていた大好きな人。
昨年の私が散って、葉になって。冬が訪れて見窄らしい姿になってもずっと一緒にいてくれた人。
蕾の頃から綺麗になった私を見て欲しくて、傍にいたくて焦がれていた。
そして季節が巡って、暖かな陽気には鳥が唄うこの春に私は咲いた。
あなたの笑顔を見ていたらこっちまで幸せになるのよ。
「それにしても今年の桜は長く咲くなあ……雨も降らなかったからかな?」
私は簡単に散ってしまう。
柔らかな恵の雨だってわたしには恐怖でしかない。一秒でもあなたと長くいたいから、一回でも多く綺麗だって言って欲しいから。
その為なら私なんだってするわ。
「やめて、来ないで! 誰か、誰かぁ!!」
枝を伸ばして逃げる少女の足を捕まえる。
宙ぶらりんになった哀れな少女は、ガタガタと震えて必死に逃げようと踠いている。
ああ、駄目よ。あんまり暴れたら余計に苦しませちゃう。
先日、小さい女の子がわたしの足元で転んで血を流した。その地は地面に染みて根を通してわたしの体に染み込んだ。そしたら、みる みる力がみなぎって私の色は鮮やかに美しくなったの。
もっともその効果はたった一日だけだけどね。
でも、わたしその時わかったわ、あなたとずっと一緒に居られる方法。
散りたくなかった。
次に私が咲いたとて、それは私じゃない私だから。
貴方が「綺麗だ」と愛でてくれた私ではないから。
だから、私散りたくなかったの。
「たす、たすけ」
メリメリと音を立てて少女の華奢な身体を締め上げる。
ゴキと嫌な音を立てた後、少女がだらんと動かなくなった。綺麗な深紅が伝い落ちて染みてわたしの身体に流れ込んでいく。
冷たくなっていく彼女をわたしの下に埋めた。
「これでわたしもっとあなたと長く居られるわ」
――綺麗な桜の下には、死体が埋まっている。
●
「すっかり春だな。こないだまで雪が積もっていたと思ったら桜の絨毯ができてやがる」
黒衣の境界案内人、朧はあなた達の前に依頼書を差し出した。
「お前さん達へのオーダーはこの桜の妖の討伐だ」
一人の庭師に恋をした儚い生命。人の倫理など彼女にはわかるはずもなく、ただ傍に居たいから奪い続けた。
「もし、もしお前さん達の大切な人の傍にいる唯一の方法が他者を犠牲にすることしかないとしたら」
――お前さん達ならどうする?
朧の言葉があなた達に重くのしかかった。
- 血染桜の恋心完了
- NM名白
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年04月28日 22時15分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●真夜中の妖桜
静かな夜だった。
小高い丘の上に一本しっかりと根を張り聳え立つ桜は、濃い闇の中で妖しい光を帯びて雪洞の様に浮かび上がっていた。
此処に吟遊詩人が居れば、屹度目の前の絶景に感嘆の息を漏らし詩を歌ったに違いない。
――最も、今回はその絶景こそが標的そのものなのだけれど。
『……私を殺しに来たのかしら』
自身に近づいてくる敵意に桜は目を開けた。
「その前に君と話がしたいと思ってね」
親しい友人にする挨拶の様に軽く右手を上げながら『鏡の中』アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)は、桜へと歩み寄る。
「夜に咲く桜。ああ、綺麗だね。
なんて幻想的で儚げで、美しい光景なんだろう」
でもね、と『鏡の中』アレンは言葉を続ける。
「庭師はこんな君の姿を見て、綺麗なんて言ったのかな」
『彼は私が意思を持ってることすら知らないわ』
苦笑を浮かべたアレンはそれでもと説得を試みる。
「褒められたら嬉しいよね。側にいてくれたら、嬉しいよね。好きに、なったんだよね。
僕にもずっとずっと大切にしたい人がいるから、そのために何でもしたくなるのは分かるよ」
足元を撓る枝が打つ。「おっと」と小さく呟き、鞭の様な触手を躱した。
「僕の恋だって……、ううん、僕のことは別にいいんだけど……
元のままの君が庭師を幸せにできるんじゃないかな」
暫く沈黙が続いた後に、ざわりと枝が風に揺れた。
『貴方は雨に打たれるだけで、愛しい人にも見てもらえず無様に地面に墜ちるのがいいっていうの?
ちょっと余所見をした隙に風に攫われて散っていくだけの私が彼を幸せにできるっていうの?』
「それは……」
『人間は良いわよね、雨が降っても傘がある。強い風が吹いても家の中に居れば安全だものね。でもね、私は違うのよ』
アレンの穏やかに語り掛ける姿は相手が人で在れば一考の余地を与えたかもしれない。だが、相手は人の常識など知らぬ桜だ、それも恋に焦がれ血で染まってしまった人を喰う桜だった。
(説得は難しそうだ)
ひとつ溜息を吐いた後にアレンは薔薇のレイピアを静かに構えた。
「……ふん、くだらんな。殺しを咎める気など無いが、貴様のその思いは実に気に食わん」
苛々した様子を隠そうともせず『闇夜に包まれし神秘』レーツェル=フィンスターニス(p3p010268)は目の前の血を吸って生きる桜を睨め付けた。
(この身勝手さ、奴にそっくりだ、腹立たしい)
かつて自身を一方的な恋慕で追い回した挙句、周囲の人々を奪っていった忌々しい魔女と自身の為に犠牲を生み出し続ける桜が重なった。
『お姉様』
鈴を転がした様な声で、太陽の目で全てを焼いて、妬いて。無邪気というヴェールで包んだ残酷さが脳裏に蘇り、思わず舌打ちが漏れる。
「まぁ、動けん事だけには同情してやるがな。つまらんだろう? 自分はろくに周りへ干渉できなくて、見ているだけとは」
『ええ、つまらないわ。手を繋ぐどころか、あの人に駆け寄ることさえ出来ないもの』
まるで幼子が拗ねる様な口ぶりだった。当然だ、彼女に人の倫理など判る筈もない。人ですら正しく認識できない者もいるのだから。
「……ワタシも昔はそうだった。周囲ごと断絶されていない分貴様の方がマシではあるのだろうがな」
『もし、もしお前さん達の大切な人の傍にいる唯一の方法が他者を犠牲にすることしかないとしたら
――お前さん達ならどうする?』
此処に来る前、朧から静かに告げられた問い。
なんていえば正解だったのだろうか。
否、屹度この問いに正解なんてなかった。
(……大切な者の、大事な者を失った。選べる立場であれば、俺は……身を引いただろう)
『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
『でも今は、兄さんの大切な人を守りたい』
今でも耳に残り、焼き付いて離れないあの言葉。
真っ赤な炎にその白はよく目立ち、うっすら微笑みすら浮かべていた様に思う。護られ、庇われ、今ここに自分は立っている。瞳を閉じ深く息を吐いたアーマデルはそれでも前を向き、金の眼を開く。
「だが、死ぬべきは自分であったとは、決して言えない。それは彼の覚悟と想いを蔑ろにする言葉であるからだ」
だからこそ、大切な者の元へ生きて帰るためにアーマデルは柄を握りしめる手に力を込めた。
「ご機嫌麗しゅう……こちらに、かくも悲しき血染の仇花が咲いているとお聞き致しまして、是非その散り際を一眼見たく参りました……」
その枝を、蕾を、花弁を、いつも側で眺めて、優しく触れてくれる人が居る。
羨ましい、わたくしは傍らに寄り添う事すら許されなかった。
『えにしを縫う乙女』弟橘 ヨミコ(p3p010577)の口調は穏やかそのものであった。射干玉の黒髪は闇夜に融けて、彼女の艶やかさと華やかさを引き立てている。するりと抜いた針の様な細身の剣の切っ先が鈍く反射し浮かび上がる。
「どうぞご堪能下さいまし。此れよりご覧に入れますは、生きながらに身を焦がす忌業。
わたくしの、彼の方に対する未練と、貴女の恋慕……何方の炎がより熱いかの一番勝負」
風が吹き、ひらりと桜の花弁が舞う。目の前に降ってきたそれを瞬く間に切り裂いたヨミコは柔く微笑んだ。
「そして、貴女の糧となり散って逝った乙女達に捧ぐ弔い合戦となりましょう……」
『貴方は平気なの? 私には耐えられない』
桜の問いにはヨミコ唯静かに微笑むだけだった。
人生で一番幸せになる筈だった日に、人生で一番の絶望を味わった。
目の前で自分を庇い斃れたあの人。白無垢が真っ赤に染まって、狂った様にその名を呼んで抱き起したけれど。
『君が無事でよかった』
弱弱しい微笑みと最期に、それだけ言って――。
「わたくしめが、貴女の散り際を、この世で最も美しき最期にして差し上げましょう」
そうすれば、記憶の中でずっと共に。
永遠に共に在り続けられるのだから。
「ほら、とっとと諦めて散ってしまえ。その恋心とやらと共にな」
言葉と共に幹を殴りつけた拳が痛いが、その痛みに呻く暇もなく視界を薄紅が染め上げた。
「煩わしいが、位置は変わらんのだろう?」
ならば、やることは変わらぬと再度拳を握りしめた時だった。
『ああ! 私だけのお姉様! 私だけを見てくださるのね!』
「なっ……!」
拳が思わず鈍った。忌々しいあの声に、忘れようもない鮮烈すぎるあの瞳。
幻覚だ、と知覚した時には足首を絡めとられていた。ギリギリと骨が折れそうな程の強さに締め付けられ、奥歯を噛みしめ激痛に耐える。アレンのレイピアが触手を切り裂き、レーツェルは解放された。乱れた呼吸を整えながらもレーツェルは桜から視線を逸らさない。
「どのみちここで止まった方が身のためだと思うぞ?
ワタシ達とそこらの人間の価値観は、あまりに違いすぎるのだからな」
『ええ、そうね。だから止まらないのよ』
だって止まったら、もう一緒に居られないじゃない。
「……はっ、憐れな奴め」
その呟きに混じった嘲りは。憐憫は。
桜と自身、どちらに向けられたものだったのだろうか。
桜吹雪が視界を覆い尽くし、アーマデルに幻覚を見せる。自分の大切な人と全く同じその姿に一瞬怯めど、刃を止めるには足りない。切り裂かれた桜が空に舞い上がって消えていく。
もしも、その他者が大切な人にも自身にもまるで関係のない者であればどうか?
正直なところ、それは相手によるとしか言えない。
「俺は元々、死を運ぶもの。必要ならば、躊躇いはすまい。人殺しと言われても甘んじて受け入れよう。だが無差別に、という訳ではない」
不意を突いて背後から襲い掛かる枝を斬り捨て、アーマデルは桜を見上げた。
この美しさの全てが、他人の命を犠牲にして成り立っている。
「お前のそれは庭師の誇りを踏み躙る行為なのではないか。そいつは冬を越えても共にいてくれたのだろう?」
『……そうよ、でも私は長く咲いていたいの』
「……ヒトを食らって長く咲き続けるよりも、幾度もの冬を越えて花開く春を重ねることで、より深く愛着も湧くものであるだろうに」
『――来年に咲く私は、もう『私』じゃないから』
アーマデルは目を見開いた。
ああ、そうか。彼女は――。
咄嗟にアーマデルが声を掛けようとした時には既に、彼女は業火に包まれていた。
血染めの桜と言われた怪物の最後は余りにも呆気なかった。
美しかった薄紅の花弁は炎を纏って燃え上がり、大きく広がっていた枝は灰に変わっていく。大切な人に何一つ残せぬまま、看取られぬままで。
「ご覧になって……燃え盛る満開の桜、なんと美しい眺めでしょう」
こっそり胸の中に仕舞い込んだ愛しい人へヨミコは杯を傾ける。
「お酌をひとつ、いかがでしょう? ねえ、『あなた』……」
炎に照らされた横顔はぞっとするほど美しい。
その隣をアーマデルが通り抜け、全て灰になった彼女を掬い上げた。
「……俺の大切なものは、永く秋に迷い、冬を越せず、見えぬ春を待ち続けていた」
もう少し、もう少しだけ冬を越すのが早かったなら。屹度……。
寂し気な呟きと手の中の灰は、風に吹かれて消えていった。
●血染桜の恋心
「そんな……! 一体何があったんだ……!」
いつもの様に桜の様子を見に来た庭師は、春を思わせる楽しそうな笑顔から一転、真冬の極寒の海の様に真っ青になり桜へと駆け寄った。
鮮やかに咲き誇っていた花も、大切に育ててしっかりと育った幹も、そよ風に優しく揺れていた枝も。
全部、全部、燃え尽きていた。
「どうして……?」
がっくりと膝を落し、懸命に灰を集めるその背中は見ていて痛々しい。
ぽたりぽたりと大粒の涙が庭師の瞳から零れ落ちて、地面に染みを作る。
その透き通る雫が、庭師がどれほど大切に桜を想っていたかを証明していた。
嗚咽を漏らし、小刻みに震えるその背を少し離れた所から四つの影が見守っていた。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
初めましての人は初めまして。
そうでない人は今回もよろしくお願いします。
ノベルマスターの白です。
また桜の季節が来ましたね、今回は桜に因んだお話です。
●世界説明
現代日本のどこか。混沌で言うと再現性東京に似ているでしょう。
●目標
血染桜の討伐
●環境
時間帯は夜、一本の見事な桜が咲き誇る見晴らしの良い丘です。
周囲に人は居ません。
●敵
血染桜
一人の庭師に叶わぬ恋をし続け、彼と共に居たいがために人を殺し、その血を取り込んで咲き続けています。
自我が在り、意思の疎通はテレパスの様な物で可能かもしれませんが倫理観は期待できないでしょう。
能力は以下の通り
・触手
根を伸ばし足元を払い、救う様にして捕まえようとします。
・締め上げ
触手につかまった後ものすごい力で締め上げます。一人での脱出はなかなか難しいでしょう。
・桜吹雪
視界を奪い惑わせます。精神状態に何かしら影響を及ぼすかもしれません。
彼女は、樹であるがゆえに一歩も動けません。
●その他
OPの庭師は今回は登場しません。
●サンプルプレイング
そう、わかるわよ。あたしもアンタのこと強く言えないわ。
恋って人を狂わせるのよ、アンタは桜だけどさ。
あたしもかつて……でもこんなの間違ってるわ。其処に直りなさい、化け物。
こんな感じです。それではいってらっしゃい。
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