PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<13th retaliation>深草のシュト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「聖葉?」
 確かめるように口にしたファレン・アル・パレスト(p3n000188)はラサ西部、比較的深緑に近い地域の――ヴァズで報告を聞き目を丸くした。
 イレギュラーズの活躍によりアンテローゼ大聖堂を拠点に得られたという朗報と共に齎されたのは国境沿いの集落や道すがらに倒れている幻想種を救う手立てであった。
『灰の霊樹』と呼ばれるアンテローゼ大聖堂地下庭園の神木より力を分け与えられた『聖葉』を使用すれば『茨咎の呪い』と呼ばれた眠りへと誘う呪いを僅かなりともキャンセルできるのだそうだ。
「はい。ですが、『灰の霊樹』もファルカウ由来。
 力を多く分け与えれば枯れてしまう可能性があるそうです。アンテローゼからは人命救助に使用して欲しいと要請がありました」
「成程……先に進む貯めに利用すれば何れだけの負担が霊樹に掛かるか分からないから、か」
 唸ったファレンに『砂漠の幻想種』イルナス・フィンナ(p3n000169)も渋い表情を滲ませた。
「一先ずは周辺集落の保護から行いましょうか。
 ……ラサも、『良き隣人』として彼女達に力を貸しましょう」
「ああ。勿論。ヴァズや周辺の集落にも物資を集め、出来る限りイレギュラーズの救助活動をサポートしよう」
 屋敷の外に出たファレンの耳に楽しげな笑い声が聞こえてくる。
 ついで『ダカァ~』と窘めるように響いたパカダクラの鳴き声にイルナスは聞き覚えがあった。
「アルリア?」
「ああ、イルナスさん! メルメルとビックリしてたんだけど、ラダちゃんって従妹なんだって」
 にんまりと微笑んで振り返ったのはアルリア・レ・ルマール。国境線を散歩して難を逃れた幻想種である。
 彼女の前で頭悩ます仕草を見せていたのは『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。どうやら祖母に瓜二つの幻想種が血縁者である事が変名したところらしい。
「まあ、そうらしい。それでアルリアに聞いていたんだ。
 国境線沿いを散歩していたのなら、誰か見かけなかったかって」
「そう。メルメルと一緒に拾ったのは妖精ちゃんだったけど、うーん……確かに『こっちに来ちゃダメ』って幻想種に声を掛けられたかも」
 思い出そうと唸るアルリアに「落ち着いて、お話をしましょう」と促した『光彩の精霊』イヴ・ファルベ(p3n000206)の手には聖葉が握られていた。


 ――ラサも協力すべしである。
 それがラサ傭兵商会連合の出した結論だ。
 実質的TOPである『赤犬』に言わせれば「乗りかかった船だろ」であり、「『凶』は顔が怖いから幻想種が怯えるので救援は辞めた方が良いのでは」と日和る商人達と一悶着があったのは笑い話だ。
 ザントマン伝説の一件では深緑に迷惑を掛けたと認識するラサも彼女達の救出には協力的である。
 ファレン始め、ラサの商人達は自身等の幅広い人脈を駆使し救出対象を割り出してはイレギュラーズに依頼を出す事を決めたのだそうだ。
「ディルクの名代だと思ってくれれば構わない。改めて、ファレン・アル・パレストと申します。
 商家の代表として名を連ねては居ますが、若輩者……妹のフィオナ共々イレギュラーズの皆さんはどうぞご贔屓に」
 商人としての顔を覗かせたファレンの挨拶を真似たようにイヴは「ファルベライズの、『元』守護者……Jb(イヴ)」と挨拶する。
 ファルベライズに座した大精霊ファルベリヒトの心臓(Jb)を己の名とした少女はイレギュラーズと共に救出活動に当たるらしい。
「メルメルが、教えてくれた。
 国境沿いには集落が沢山ある。集落の人全てを、助けることは出来ないけど、探索して、誰かを救うことは出来る筈。
 其れ等を見捨てるのって、イヤだし……メルメルが咥えてたフロックスが『妖精達』も茨で眠ってるって」
 先の探索で集落を知っている者はそこに向かうも良い。故郷である事や、過去の冒険で心当たりがあるならば、その辺りへ向かう事を提案しても良いだろう。
 だが、それもあくまで『呪い』から逃れる範囲内だ。幸いにして国境沿いならば呪いの効果は強くはない。
「いざってなれば、外に出ちゃえば良いわけだよね?」
「そう、上手くいくかは分からないが……確かにそうだ。呪いの眠りに落ちる前に撤退はした方が良いだろうな」
 ふわふわとしたアルリアにラダは頷く。
 イヴは「纏めました」と情報屋の真似をして、胸を張って立った。

「ここから、先。ぐーんと進むと、集落がある。
 そこから逃げようとして、眠ってる人を探そう。ラサから、援軍を送るために、道を開く準備が必要。
 先にしておかないと、ハウザーが『呪いなんか知るかよ』って飛び込んで寝ちゃう」
 聖葉をぎゅうと握りしめ、イヴは「皆を救う準備」と拳を振り上げた。
「それじゃあ、一緒に行こうかな。ね? メルメル」
「アルリア、危険では……」
「……いやあ、何というか。友達、屹度逃げ遅れてるから」
 救わせて欲しいんだと笑ったアルリアはメルメルの頭を撫でてから「斯う見えても、強いんだよ」と笑ったのだった。

GMコメント

夏あかねです。ラサから。

●成功条件
 ・大樹の嘆き、邪妖精の撃退
 ・アルリアの友人『セーレ』の救出

●状況
 ラサよりアンテローゼ大聖堂へ進む為の街道が存在しています。
 その周辺、国境沿いに『人命救助』を目標に探索しましょう。ラサ商人傭兵連合では『深緑の力になる』事で目的が決定されたようです。
『聖葉』を手に、呪いに気を配りながら一先ずは周辺探索と『セーレ』の救出を目標にしましょう。
 周辺には茨が存在し、皆さんの進軍を拒みます。(茨からは継続的にダメージが与えられます)
 また、何処からともなく邪妖精や大樹の嘆きが襲いかかってきますので撃退して下さい。

 参考:『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。
 ……が、国境沿いですのでその効果は薄いようです。イヴが敏感に察知しますので『タイムリミット』は彼女の言葉を頼りにして下さい。

●大樹の嘆き 大凡10体
 白ウサギを思わせる小さな身体をしています。
 とても素早く動き回り跳躍を行いながら近接での攻撃を中心とするようです。

●邪妖精 ユニコーン&バイコーン
 何故かとても怒り狂っている馬の邪妖精です。ユニコーンは女性をバイコーンは男性を狙います。何故か。
 非常に獰猛であり、蹴りが痛烈です。
 また、魔法にも優れているようであり連携を取ります。
 角が折られると魔法の狙いが定まりにくくなるのか、弱点であるとアルリアが情報として上げました。

●救出対象『セーレ・テンザレント』
 幻想種の少女。アルリアの友人であり、同じ郷の出身です。
 郷から逃げだそうとしたのか、道中の『どこか』に倒れています。セーレの匂いはメルメルが覚えているようです。
 茨に覆われ動くことが出来ず意識を失っています。動かそうとすると苦しみますが『聖葉』で救出可能です。

●『聖葉』
 アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
 多くは採取できないため、救出対象に使用して下さい。葉へと祈りを捧げる事で茨咎の呪いを僅かばかりにキャンセルすることが出来る他、身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救出することが出来ます。

●同行NPC
 ・イヴ・ファルベ
 ファルベライズ遺跡の『元』守護者。ファルベリヒトから別たれて生まれ落ちた精霊種。
 基本的には魔法支援を行います。メルメルの背中に乗っており、情報収集を行うようです。『聖葉』を所持しています。

 ・アルリア・レ・ルマール
 ラダ・ジグリさんの親戚。使役動物を調教する調教師の家系の少女。
 レンジャー部隊の一員であり、弓で皆さんを支援し、戦います。指示があれば従います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>深草のシュト完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月28日 22時16分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー
ジゼル・ベグラーベン(p3p010507)
特異運命座標

サポートNPC一覧(1人)

イヴ・ファルベ(p3n000206)
光彩の精霊

リプレイ


「赤犬にイルナス、アル・パレスト……ラサも動くか。ついに本格的な反撃開始と言ったところだな」
「遅いくらい、だよ」
 こくんと頷いた『光彩の精霊』イヴ・ファルベ(p3n000206)の言葉に『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)はふ、と笑みを漏した。
 情報屋の真似事をするファルベライズ遺跡群の元守人はアルトゥライネルが心待ちにする居場所(ラサ)から故郷(深緑)を救うという作戦に大いなる期待を抱いているのだろう。彼は里帰りの足掛かりに、イヴにとってはイレギュラーズとラサが交われば何でも出来ると言う期待のように。
「それだけ期待をして下さっているのなら、より一層気合いを入れて救助活動を行わねばなりませんね。
 ラサから深緑への道が開けるのであれば、ここから先の深緑の攻略もより良い方向に進むでしょうか――いえ、進ませなくてはなりませんね。国境沿いにまでその影響を及ぼす呪い、恐ろしいものですが、ええ」
 イヴへと柔らかに微笑みかける『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)。星に祈りと願いを込めた小さな精霊種を彼女は大層可愛がっていた。
 正純と辿々しく呼びかける彼女は「出来るよね」と期待を孕んだ眸を向けている。
「いやあ、深緑から遠路はるばるやって来ましたよっ。砂漠なんて初めて来ましたね……お花が咲いてない。
 ラサの皆さんに助けて頂けるように頑張って道拓いて行きましょう!! やれますやれます!!」
『いえーい』と言いたげに拳を上げた『ワクワクハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)にイヴの乗っていたパカダクラ『メルメル』が呼応したように頭をぐわりと上げる。
「あはは、メルメルも大丈夫だって。……ね、大丈夫だよね。セーレ」
 不安げに紡ぐアルリアの横顔を眺めて、『雪風』ゼファー(p3p007625)は肩を竦め嘆息する。
 友達を助けたい。それはそこそこ親しい間柄の国――特に、交易を行う者がおりささやかな交友を繰り返している――であれば山ほど聞くことになるかも知れない言葉であった。幻想種であるアルリアのルーツは勿論のこと深緑だが、深緑の幻想種がラサに嫁いでその血統が『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の側にも分けられて行くと言うのはあり得なくもない話だ。
「探してあげましょ、セーレを。それに……今回の要になるメルメルには頑張って貰わなくっちゃ」
「ああ。メルメルの事は頼りにしている。
 ……それにしても『灰の霊樹(アンテ・テンプルム)』か。その様な者が実在していたとは……現況を叩くまで打つ手なしと思って居たところに、有り難い」
 少しでも手立てが見付けられるだけでも心が軽くなると云うものだ。ほっと胸を撫で下ろすラダにアルリアは「そうだね、司祭様達に感謝しないと」とむんっと胸を張る。
「今後の為ではもちろんあるが……助けられるやつを放っておくつもりなんざ、さらさらないってな。一人でも多く助けるに越したことはない」
「私のおとーさんやおかあさんも?」
「ああ。必ず」
 それがイレギュラーズというものだろうなと『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は頷いた。ラサの国境沿いならばあまり感じることはないが深緑に近付けば初夏さえ忘れるような涼やかな空気が感じられる。
「さっむ!」
 ウテナが身を竦めれば「まるで冬ね」と赤いルージュに彩られた唇を歪め、首を捻った『特異運命座標』ジゼル・ベグラーベン(p3p010507)が地を這いうねる茨に不快感を示して見下ろす。
「セーレ、こんな寒いところにいると風邪引いちゃう……」
「うふふ、仲良しさんなのね? それなら早く助けてあげないと」
 風邪を引かないようにね、と淡い笑みを浮かべるジゼルにアルリアはこくこくと頷いた。
「参りましょう。アンテローゼ大聖堂へ向かうために。深緑の現状を打破するために沢山の勢力人が動いている。
 私の力は微々たるものかもしれませんが、その一助を担うからには精一杯を」
 それでも、脚が竦む感覚を覚えたのは『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)にとって知らぬ過去が存在している可能性があるからだ。
 その先に待っているのが『自分が知らない過去』であったとしても――それを恐れる心が悲鳴をあげていても。
 それは、まだ先。『今』、足を止める理由ではないとクラリーチェは国境沿いより故郷へと踏み入れた。


 鬱蒼と茂る迷宮森林は青々とした草木の気配よりも尚、地を這い獲物を探すように蠢く茨の存在感を主張する。
「イヴ、準備はいいか?  少々忙しい仕事になるぞ」
「大丈夫。これでも、ファルベライズを護ってた」
 ラダはアンティーク銃を構え、耳を、目を、そして鼻を生かしての不意打ちに備える。その感覚こそが索敵では活かされるとエイヴァンは「任せる」と声を掛けた。
 救助活動を最優先とするが、森の中には邪妖精達の姿も見られる。呪いの所為で活動時間が限られる以上、全員が其ればかりに注力してしまうことは命取りになるか。
(イヴさんのおそばにいれないのが心苦しいですが、……いえ、先程のご様子ならもう1人でも大丈夫でしょう。少しづつ、強くなられている)
 自慢げなイヴの横顔を見遣ってからほっと胸を撫で下ろした正純はユニコーンとバイコーンとの接敵時にはメルメルとイヴを先に行かせる為の戦闘役を担っていた。
「……いい加減、見慣れてしまいそうで嫌になるが」
 これだけの茨だ。茨に閉ざされた王城といった御伽噺が脳裏に過るのも不愉快でしかないが、捜索を行う面々の視界を開くが為にアルトゥライネルは『茨刈り』へと尽力する。
 ざわめく木々の声に、語らう言葉と嘆きを聞く。蹄の音や生き物の跳ねる音一つ、そうした者を聞き漏らさぬようにと警戒心を剥き出す少年の傍でリトルワイバーンに騎乗していたウテナは「セーレさーん!! どこですかー!!」と声を掛ける。
「うーん、返事をくれれば楽なんですけどね、意識を失っているんですよね。メルメルさん、頼りにしてますよ!」
「ダカァ~~」
「良いお返事!」
 首をぐいんぐいんと動かすメルメルは可愛らしい。獣を使役する術に優れているアルリアが良く飼い慣らしているからだろう。メルメルはこの茨の中でも怯える空気も醸し出さない。
「それにしても……とっても邪魔ね? 不愉快だわ。メルメルの脚にも絡むし、彼女の居場所も覆い隠してしまいそうだもの」
 嘆息するジゼルはタイニーワイバーンの背に乗り、その姿を探す。セーレが移動した痕跡なども地上と上空の何方からでも見付けることが出来ればと早期発見の術をイレギュラーズは怠らない。
「呪いのせいで行動可能時間が限られているのが厄介ですね。今回、回復は最低限にして、相手への攻撃への比重を高めにまいりますね」
「ええ。さくっと倒しちゃいましょ。……イヤな気配ね。
 此の調子だと、お友達は茨に抱かれてたりなんてのも大いにありそうね。ぞっとしないでもないけど……」
 クラリーチェに堪えたゼファーはそっと身の丈ほどの高さのある一振りを構えた。不安げな表情のアルリアに「大丈夫」と囁き手を取るクラリーチェは小さく頷いて。
「――なに。何とかなるわよ。何とかするために来たんですから、ね」
 果たして何方が招かれざる客となるか。
 ゼファーの言葉に頷いたラダは周囲の茨を音響弾で払い除け、聞こえた物音の主をその地へと招き入れる。蹄が地を蹴り、首をぐいんと動かしたそれを双眸に映し、ラダは「メルメル、アルリア、行けるか?」と問いかけた。
「うん。……やばいやつが近いって事だね?」
「ああ。アルリア、深緑では森で迷ったりして助けを待つ時はどうすると習うんだ? どんな所に潜むとか、何か印を残すとか。
 それを教えてくれ。メルメルの匂いを頼りに、私達は其れを探して直ぐにセーレを抱えて脱出を狙う」
 アルリアの集落では木々に感謝と謝罪を伝えて一筋の線を残すのだそうだ。木の洞に身を隠している事を伝え、そして己を護ってくれれば後の感謝は忘れぬと刻み込むように――その疵を探せば良いと聞き、ラダは警戒心を露わにしたエイヴァンとゼファーに頷いた。
「……それでは、私達は此方で迎え撃ちましょう。
 嘆かわしいことですが本来、深緑を守るべき存在が私達を敵と見做している状況自体がおかしいのですよね。今は難しくとも、これを何とかしなければ……」
 どうして、と問いたくなったのは己の過去を握る存在も『大樹の嘆き』であったからだ。クラリーチェの囁きにバイコーンとユニコーンの襲来を認識したエイヴァンが大盾をどしりと構えた。
「みなさーん!!ㅤしゅーごーでーす!!!!!」
 あっちあっちと指示をしてワイバーンの背に乗ってからウテナは業火の呪印を描き、ワイバーンの吐息の如く吐き出した。
「ワイバーンさん!ㅤやっちゃってください!!」
 びしりと指差すウテナの声に応えるリトルワイバーンは『ギャイ!』と応じる。
「森で火はご法度だろうと今は緊急事態だからな」
 指先に纏わせたのは爆煙。アルトゥライネルの傍で揺らぐ美しく儚い長布は無数の命を纏わすようにふわりと揺らぐ。
 正純の弓が狙うのは勢いよく飛び出してきたユニコーン。角が弱点だというならば、それを狙い穿てば良い。
「さて――闇雲に狙っても仕方はありませんが、確実に仕留めましょう」
 ギリ、と音を立て撓りを上げた天星弓。その様子を一瞥し、ゼファーの目配せを受けてからラダは駆けだした。
 ウテナの集合合図を耳にして、急行するクラリーチェの目的は仲間の支援と神聖なる光を持っての露払い。
「ごめんなさいね、今はあまり遊んであげられないの。大人しくしてちょうだいね」
 唇に笑みを浮かべて、ジゼルはセーレを発見すべく道を開いた。ウテナ、ジゼル、ラダに引き連れられるようにアルリアとイヴを乗せたメルメルが駆け出して行く。
「抜けさせるか」
 地を蹴り飛ばしは知るバイコーンを受け止めたエイヴァンの腕の骨が軋む。拭えぬ忠誠心により練り上げられた相容れぬ肉体と精神の有様。
 エイヴァンが惹き付けるバイコーンが我を失ったように頭をぐわりと動かし、狙いを定めたと告げるように大仰に立ち上がる。
 それはゼファーを狙うユニコーンとて同じか。獣の槍術を以て、眼前の馬を制する。
「然しまあ、なんだってユニコーンは女に狙いを絞るのやら。いや……狙われる心当たりは無きにしも非ずですけど」
 ユニコーンは何かを喜ぶように地を蹴って、勢いよくゼファーに向けて飛び込んだ。


 木々の中を駆け抜け、茨や周辺掃討を行いながら駆け抜けるラダは「アルリア!」と名を呼んだ。祖母に瓜二つの親戚は大仰に頷く。
「セーレ!」
 ジゼルが振り返り、狙わんとする茨を払い除けウテナが「うちもやっちゃいますよっ!!ㅤそれっ!! それそれっ!」と勢いよく茨を包み込む。
 樹の洞。幼い頃に教えられたとおりの『遭難の手はず』か。線を一筋入れて合図をしたその大樹の根元に身を屈めるようにして一人の前奏手が眠りに落ちている。その身に絡みついた茨は痛ましくゼファーが言う『ぞっとしない光景』でさえあった。
「セ、セーレ……」
「落ち着いて? 聖葉があれば、茨からの解放の傷みだって緩和されるそうだもの」
「で、でも……」
 不安げなアルリアにジゼルは「そうでしょう?」とメルメルとイヴを振り返る。こくりと頷く精霊種の少女に「それなら、大丈夫だって起こして上げましょう!」とウテナは勢いよく宣言し快活な笑みを浮かべた。
「アルリア、イヴ。セーレを救出した後は任せても良いか? 退路が必要だ」
「うん」
 こくりと頷くイヴはセーレに聖葉を捧げた。血の匂いが鼻につく。怪我をしているのか、顰められ苦しみ呻いたその声が徐々に深い呼吸へと変化する。
「こっちはーー! 終わりましたよーー! さ、やっちゃいましょ! ワイバーンさん!」
 セーレの救出を終えた事をアピールするウテナに続きラダが周辺を掃討するように弾丸の驟雨を降らす。
 ずる、と。音を立てた茨が深土と残した轍を乗り越えて、跳ねるように攻撃を投じるジゼルの姿を確認し、クラリーチェは頷いた。
「早期に攻略しましょう」
 静かなクラリーチェの声音と共に。鳴り響いた鐘の音が広がって行く。
 膂力を活かしていたエイヴァンが受け止めたバイコーンの僅かな隙。其れを逃さぬ訳には行かぬと正純の矢は鋭く投じられる。
(何時もならここまで力を入れて戦闘はしませんが……今日はあの子の成長が見られたので気分も良い。
 一人きりで立てるようになったのならば、どれ程喜ばしいことでしょう――彼女は、私よりも長い時間を生きる可能性があるのだから)
 庇護してばかりではいられない。無表情ながらも手を握り、華やぐ空気を纏うイヴを大切に護るだけではこれから先もない。
 バイコーンの角がばきりと音を立てれば、それは勢いよく地を蹴り上げて叫ぶように身を捻り上げる。
「ッ、後ろ足で蹴るのだけは避けて貰おうか」
 バイコーンの横っ腹目掛けて叩き込んだのは長布に込めた魔術。そして、布は鋭い剣のように変貌しバイコーンの腹をも裂く。
 アルトゥライネルの不意打ちに驚いたのはバイコーンだけではない。相方であったユニコーンの首が其方に向き威嚇するように地団駄を踏む。
「――其の無駄に立派な角、圧し折って深緑のお土産屋にでも並べてやるわ!
 戦闘中に眼前を疎かにするだなんて良い度胸ね。槍の扱いはこっちの方が上だってこと、教えてあげようじゃない!」
 勢いよく跳ね上がったゼファーの見様見真似。未完成の師の殺しの業。あらゆる手を打って、あらゆる技術を模倣した絶技の贋作は出来損ない故にゼファーの身を軋ませる。
 その刹那を睨むようにクラリーチェの鐘が響き、ゼファーの細腕に走った激痛を緩和した。
「サポートします」
「あら、素敵じゃない?」
 目配せ一つで鮮やかなアメジストの眸に喜色が滲む。修道女の導きに、応えるゼファーを強敵と認識したかユニコーンの視線は彼女に釘付けとなる。
 それこそが、狙い目だ。思った通り都合良く事が進むタイミングは爽快だ。調子が良ければそんなときもあるものだ――引き金に指を掛け、息を呑む。
 放つ銀弾は気まぐれだが、チャンスは二度限り。一度は角を外したが、ラダは『二度目』を外さぬように息を呑む。
 コンディションは最高だ。
 ――放つ。
 弾丸により砕かれた角が飛び散れば、防戦状態であったバイコーンがユニコーンを確かに見た。
「奴(ユニコーン)も言われていただろう。目を離すな――!」
 勢いよく叩き込むエイヴァンの氷拳がバイコーンの体を地へと転がした。
 メルメルに乗せられたセーレを護るように護衛役として布陣するアルリアとイヴ。二人を護らんと意識を配っているエイヴァンを支えるクラリーチェは勝利の確信が芽生えた。
(……それにしても、ここまで踏み込めば身に感じる呪(おも)さも随分と苦しいものですね)
 まるで踏み入る者全てを眠りに誘うかのような深き倦怠感。それが反映されたようにじわじわと身をも蝕むのだろうか。
 その倦怠感こそが新緑を包み込む恐怖の象徴だ。アルトゥライネルは伸びる茨一つでも不快だというように払い、まるで動物のように伸びる茨にウテナは「こいつ生きてるみたいでイヤですねー!?」と声を上げる。
 その中でも自由に動き回る邪妖精は最後の力を振り絞るとでも言いたげに勢いよく飛び上がった。
 一方はエイヴァンに、もう一方はゼファーに向けて。荘厳に鳴り響いた永訣の鐘の音に発砲音が重なった。
 続くのは強烈なる破壊。脳内麻薬物質が伝達し、ジゼルを怪物の域へと導いた。武人の刃がユニコーンの足を挫き、狙い定める正純が静かに囁く。
「さっさと撤退しなくてはなりませんね。――では、お暇頂きましょう」
 ――そして、ずんと音を立てた邪妖精を確認し、ゼファーは「行きましょ」と笑った。
 砕け散った角はお土産屋にも並べられぬ代物だと揶揄うような彼女にメルメルは「ダカァ?」とこてんと首を傾いだのである。
 メルメルの背に乗せられたセーレは穏やかな眠りについている。心配そうに見下ろすアルリアに「大丈夫よ」とゼファーは声を掛ける。
 助けられただけ、良い。森には何れだけの眠りに囚われた人が居るかは分からない。
 アルリアのように友を心配する声は厭と言うほどに聞こえてくるだろう――屹度、不安の影が擡げこの異様な木々の変容に怯えて暮らしている。
「確実に。一歩ずつ、だ」
 そう呟くアルトゥライネルにアルリアは草臥れた顔で頷いた。草臥れましたね、と頷く正純に相槌を打ったイヴは「帰ったら、美味しいの、たべたい」とメルメルにぐったりと体を預けている。
 蠢く茨と、身へとのし掛かる倦怠感を払い除け燦々と注ぐ砂漠の太陽の下へと踊り出したイレギュラーズは安堵する。
 一つずつでも、救える命が存在することに。
 そして――この降り注ぐ砂漠の旭日のように、必ずやあの森に雪解けを齎せる筈だと感じられたから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 パカダクラ君も頑張りました。ダカァ。

PAGETOPPAGEBOTTOM