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シナリオ詳細

密林への回帰。或いは、ハイドロピスと失われた楽園…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●三つ巴
 海洋のとある小さな島。
 年中を通して気温は温暖。
 緑は豊かで、流れる川の水は綺麗に澄んでいる。
 ひと言で表すのなら“まさにジャングル”。
 当然のように獰猛な獣や、毒を持った虫は多く、場合によっては原生のウィルスや風土病への感染も危惧されるだろう。
 そのように危険な島であるため、これまでわざわざ島に上陸しようとする者も、調査を行おうとする者も現れなかった。危険を冒して島へと立ち入り、命を失ってはたまらないというわけだ。
 ハイリスク・ローリターン。
 その島の存在を知る者の共通認識がそれだった。
 ところが、つい最近になって上記の“共通認識”に僅かな差異が発生したのだ。

『島には3つの部族が存在し、我々とは全く異なる文化を築き、今も暮らしているはずだ』
 そう言ったのは、海洋に住む若き考古学者である。
 名をハイドロピス・レンジャー。
 彼女は「密林の謎とその解明」というタイトルの本を出版。
 その後、消息を絶った。
 同僚たち曰く、彼女は件のジャングル島へ単身調査へ向かったらしい。
 ウツボの海種である彼女は、常日頃から海中へ潜り、長い間帰って来ないということも珍しくは無かったそうだ。それ故、同僚たちが彼女の行方不明に気がつくまで相応の時間を要したという。
 さて、そんな彼女の出版した書籍についてだが……書かれていた内容は、根拠に欠ける妄想を綴ったものであると世間では噂されている。
「まぁ、自分の立てた仮説を証明するために島に渡ったんだろうな。危険に身を晒すことより、仮説の証明を優先したんだ。なんで、俺たちはハイドロピスの意思を尊重してやりたい」
 ハイドロピスの本を片手に、同僚らしき男性は言う。
 困ったような笑みを浮かべてはいるものの、その目や声音には確かな期待が秘められていた。
 向こう見ずなハイドロピスの行動に、ある種の憧憬や敬意を抱いているのかもしれない。
 リスクを取らねば、リターンは無い。
 新事実の解明には、多少の無茶も時には必要なのである。
「無事だって分かればそれでいいよ。でも、俺らじゃ島に行っても獣の餌になる未来しか見えない。悪いんだけどさ、ちょっとあいつの安否を確認してきてくれるか?」
 そう言って同僚は「食糧の詰まったバッグ」と「ハイドロピスの書いた本」を差し出した。

●失われた楽園
『密林の謎とその解明』
 ハイドロピス・レンジャーが失踪直前に出版した本のタイトルだ。
 本の内容を、ごく簡単に纏めると以下のようなものになる。
 これまで“危険なジャングル”としか思われていなかったある島には、古くから3つの部族が住んでいる。イグ族、ハン族、バイアティス族の3部族は祖を同じくするものだ。
 それぞれ、蛇に似た特徴を持ち、蛇を崇める部族である。また各々の部族が一定の土地を今も守りながら過ごしている。
 書籍の中でハイドロピスは、3部族が守っているのは、まさに“島そのもの”であると予想を立てていた。それも、単なる予測では無く、ある程度の具体性を持った予測だ。
 例えば、書には以下のような記載がある。
『島を知る者たちからは「危険な場所」と噂されているジャングルの奥には、楽園のように豊かで過ごしやすい土地がある。』
 上記の記述に根拠は無い。
 強いて言うのなら、島の近海よりサルベージされた石版に『夢のような』『楽園』といった記述が見られた程度か。
 手がかりというには、なんとも頼りのないものだ。
 しかし、ハイドロピスはそれを自身の妄想であるとして片付けることはしなかった。
 わざわざ書籍を発行し、その上で実地調査へ赴いたのだから。
 ともすると、ハイドロピスは自分が帰還出来ない場合のことも考えていたのかも知れない。
 だとすれば『密林の謎とその解明』はハイドロピスの遺書……或いは、いつかの未来に現れるであろう、ハイドロピスと思いを同じくする後続へのメッセージのつもりだったのだろう。
 小さな島だ。
 しかし、木々は鬱蒼と生い茂り、道なき道はどこまでも続く。
 加えて、熱帯という気候に慣れない者は体力の消耗も激しいだろう。
 【猛毒】を備えた毒虫。
 襲われれば【ブレイク】【流血】の危険もある猛獣。
 蚊や鼠を媒介とする【疫病】。
 そして、ハイドロピスが提唱した3つの部族。それらも決して友好的とは限らないし、言葉が通じるかどうかも怪しい。島を守っているというハイドロピスの記述が真実だとすれば、積極的に侵入者の排除へ動く可能性もあるだろう。
 以上のように多大なリスクを冒してまで、ハイドロピスが島へ渡った理由は何だ。
 考えても分かるはずも無い。
 きっと彼女は、自身の命よりロマンを優先する類の人間なのだ。
 島へ渡ったハイドロピスが、今も無事でいるのかどうか。
 彼女の同僚は、せめてそれだけ知りたいそうだ。

GMコメント

●ミッション
ハイドロピスの安否確認

●ターゲット
・ハイドロピス・レンジャー
海洋の女性考古学者。
海蛇の海種。
『密林の謎とその解明』というタイトルの本を出版した後、消息を絶った。
同僚たちの話では、おそらく密林の島へと向かったらしい。
生死は不明。
彼女の安否を確認することが今回の依頼の内容である。
また、彼女の同僚から「食料の詰まったバッグ」と『密林の謎とその解明』を1冊預かっている。

・3つの部族
島を守っているという3つの部族。蛇に似た特徴を持つらしい。
イグ族、ハン族、バイアティス族。部族ごとに集落をつくって暮らしている。
彼らについての情報は少なく、ハイドロピスが「いる」と本に書いているだけだ。
本当にいるのかどうかも定かではないし、会話が可能かどうかも定かではない。
場合によっては敵対することも考えられる。

・原生生物
毒虫、獣、蚊や鼠といった原生生物たち。
個体としてはさほどに強力でも無いが、数に襲われると厄介だ。
また、ジャングルという場所柄、常に不意打ちの危険と隣り合わせとなる。
原生生物たちとは違って、人は密林を自由に歩けるように出来てはいないのだ。

毒虫→【猛毒】
獣→【ブレイク】【流血】
蚊・鼠→【疫病】

●フィールド
海洋。
海の真ん中にポツンと存在している熱帯の島。
島の規模はさほど大きくはないが、道などは無いし、鬱蒼とした木々が生い茂っているため移動速度は低下する。また死角も多く、原生生物による奇襲など多くの危険が付きまとう。
そういった理由もあり、島を知る者たちからは長い間、避けられてきた。
島に上陸するだけで多大なリスクを負う割に、何の見返りも期待できないからだ。
ハイドロピスは自身の本に『島を知る者たちからは「危険な場所」と噂されているジャングルの奥には、楽園のように豊かで過ごしやすい土地がある。』と書いていたが、真偽のほどは定かではない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 密林への回帰。或いは、ハイドロピスと失われた楽園…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
すずな(p3p005307)
信ず刄
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者
カフカ(p3p010280)
蟲憑き

リプレイ

●密林への帰還
 空は快晴。
 気温、湿度ともに高くただそこにいるだけで汗が頬を伝って落ちる。
 周囲には鬱蒼と生い茂る緑の木々。
 時折、どこかから獣の唸る声が聞こえる。
「この手の小難しい本はどうにも読む気が起こらねぇなぁ…見ただけで眠くなっちまう。
 自分の命より仮説を証明する方が大事とは、つくづく学者ってのはわからんモンだ」
そう言って『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)はあくびをひとつ。手にした本を後ろへ放る。
「そこに謎があるならば挑まずにはいられない……その思いはわかる気がしますぞ。学者と冒険者、職業は違えど未知への挑戦者であることは違いないですな!」
 投げられた本……『密林の謎とその解明』を受けとって『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)は呵々と笑った。
 ヴェルミリオとて冒険者。
 骸骨の身体になっても、胸の高鳴りを押さえられない。
 高鳴る心臓は無いが。
「興味があろうが無かろうが関係ねぇ。大自然をナメちゃいけねぇぜ。気ぃ抜いてたらすぐにお陀仏さ。解ってる原生生物だけが驚異じゃねえからな。島全体がこっちを殺しにかかってきてると思っていい」
 そう言った『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)の視線はヴェルミリオの顔へ向いていた。ヴェルミリオの頬を這いまわる見慣れぬ虫に興味津々であるらしい。
「流石の俺も密林での訓練は受けてねぇな……まぁ気を付けて探索しようや」
 熱帯な気候の大樹海。
 危険な島に、いるかもわからぬ3つの部族。
 顎を伝う汗を拭って『求道の復讐者』國定 天川(p3p010201)はそう呟いた。

「タイムさん! フランさん! ちゃんと太もも隠しました!? お腹も出しちゃ駄目ですからね!?」
「うん。それは大丈夫。でもジャングルの探検、って聞けばわくわくなんだけど……未開の部族とか行方不明とか、ちょっと怖いなぁ」
 ここから先は、道も地図も目印も無い未知の領域だ。
『忠犬』すずな(p3p005307)と『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は互いに装備を確認し合う。
その横では『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)が虫よけスプレーを振りまいていた。
「密林の奥の楽園、島を守る部族。う~ん、ロマンを感じちゃうの分かる」
「……めちゃくちゃ虫多そうやなぁ、嫌やわぁ」
「虫よけスプレーあるけど、みんなも使う?」
「使わしてもらうわ。虫は嫌いなんやけど特に足が沢山あってモゾモゾしてる系だけはあかんのよなぁ。まじで」
 タイムから受け取った虫よけスプレーを受け取り、『ケイオスイーツ』カフカ(p3p010280)は弱った笑みを浮かべた。
 しゅー、とミントの香りがするスプレーを腕や首に振りまけば、これで準備は万端だ。

●いざ密林へ
 草木を掻き分け、岩を乗り越え、沼地を渡って。
 遠くで聞こえる波の音をBGMに、一行は密林を奥へ奥へと進んで行く。
「はぁー、こんなジャングルみたいなとこもあるんやなぁ。びっくり」
 先頭を進むのはカフカだ。
 注意深く、視界は広く。
 視線は前へ、下へ、上へ。
 前を向かねば、先へは進めない。
 足元へも注意を払わなければ、沼や倒木、茂った蔦に足を取られる。
 上方への警戒も怠ってはならない。木々の上には姿の見えぬ獣の気配。時折、ムカデや蜘蛛といった毒虫の類も降って来る。
「悪い足場はギフトのおかげである程度問題なく動けるけど……他の人もおるさかい、隊列から離れんように気をつけなね」
 ふぅ、と熱い吐息を零してカフカは1度、足を止めた。
 周囲に生物の気配は無い。
 だがしかし、だからといって警戒を解くわけにもいかない。
 緊張感を保ち続けるというのは、存外にカフカの精神に負担をかけ続けているようだ。
「フランちゃんやタイムちゃん、すっずーなちゃんにカフカくん、色々任せたぜ! 俺は虫に食われたりヒルに噛まれたりしないようにするだけで精いっぱいだ!」
 そう言って千尋は、カフカを励ますように肩を軽く叩いた。
 彼とて疲労が溜まっているだろうに、こうして明るく振舞っているのはカフカたちを鼓舞するためか。身体的な疲労はどうしたって蓄積するが、千尋が明るく振舞うことで精神的な負担は幾らかマシになるだろう。
「って、おい! あれ、コーカサスじゃねぇか! ほら! 見ろよカフカくん! フンコロガシだコレ!」
 否、単純に自分が楽しいだけかもしれない。
 今だって、コーカサスオオカブトらしき何かを見つけ元気よく駆けて行ったではないか。

『ジャングルっつったら危険とお宝がいっぱいの大冒険! 危険な原生生物に怪しい部族、危険な罠! 今回全部盛りじゃねーか!』 

 島への道中、そう言えば上のようなことを言っていた。

 強く1歩、踏み込んで。
 鞘から抜いた刀を一閃。
 茂みを掻き分け、飛び出して来た豹の前脚を斬り付けた。
 血飛沫が散って、豹が悲鳴をあげて転がる。
 この島における生態系では、獣は上位に位置するのだろう。なるほど確かに、音も無く近づき、一気呵成に獲物へ襲い掛かる様は熟練のハンターのそれだった。
 弱肉強食とはよく言ったものだ。
 事前に十夜が仕入れた情報では、過去、島へ訪れた者の半数近くが獣と虫に襲われ命を落としたという。
「いざって時のために戦闘は極力避けてぇんだが……勝手に襲って来るんだもんな。俺に勝てそうか? あぁ?」
 血を流し、後退していく豹を見据えて十夜は問うた。
 暫し、睨み合いを続けた末に豹は撤退を選んだようだ。
「しかし、ハイドロピスの嬢ちゃんは自衛できてんのかね? 彼女が残した手掛かりがねぇか確認できた奴はいるか?」
 刀を鞘へと仕舞った十夜が、仲間たちへと問いかける。
「ちょっと聞いてみる。えっと……こんにちは、人を探しに来たの。見慣れない人を見なかった?」
 十夜の言葉を受けたフランが、近くの古木へ手を触れた。
 言葉を離さないだけで、草木は確かにそこに居て、その場で起きたあらゆる事象を知っている。問題は、人には草木と意思の疎通を図る術がないことだ。
 しかし、フランであればその問題を突破できる。
 果たして、有益な情報が得られるかどうかは……草木の気分次第ではあるが。

 フランが古木へコンタクトを取っている間、タイムとヴェルミリオは『密林の謎とその解明』の頁を捲る。
「本に根拠ないなんて言っても何かあるでしょ、何か!」
「他人にはわからずとも、ハイドロピス殿をこの島に呼び寄せるほどのきっかけについても記載はあるかもしれませんな!」
 ハイドロピスは、この本を書いた直後に失踪したという。
 その行動から、何かしら島に渡る決め手となる事実を知ったか、仮説を立てるに足る情報を得たものと思われる。
「……ここまで情報は無し、ですか」
 本に視線を落とした2人を、少し離れた位置からすずなが見守っていた。
 腰から下げた刀へと指を這わせた彼女は、油断ない眼差しで周囲をぐるりと見まわした。
 と、その時だ。
 木の幹に沿わせたすずなの手に、モゾとした奇妙な感触が走る。
「……っ!? ちょっ、このダンゴムシでっか! や、やだぁ!!」
 一瞬前の鋭い視線は何かの幻想だったのだろうか。
 涙目で悲鳴をあげたすずなは、手の甲に這う全長20センチはあろう巨大なダンゴムシを見て悲鳴をあげた。
 刀を引き抜くことも忘れて、すずなは腕を振り回す。
 ひゅん、とダンゴムシが宙へと舞った。投げ飛ばされたダンゴムシは、空中で器用にトランスフォーム。球体となったダンゴムシは綺麗に弧を描いてタイムの頭部にシュート。
 ゴン、と自棄に重たい音をたててぶつかった。
 クリーンヒットという奴だ。
「ひゃあああっ!! すずなさんびっくりしたからってこっちに投げ わああんっ!」
 衝突の直後、ダンゴムシは体を伸ばしてタイムの頭部に張り付いた。
「おっと、原生生物には気をつけませんと!」
「ストラーーーイク!!」
 慌ててダンゴムシへ手を伸ばすヴェルミリオと、喜色満面といった様子の千尋。しかし、タイムは腕を振り回してダンゴムシを明後日の方向へと投げた。
「ぬぉぉぉ、おま、それはあかんて! こっち投げんなや! ほんまあかんねんて!!!」
 次に悲鳴をあげたのはカフカであった。
 咄嗟に後方へと退いたカフカは、泥に足を取られて転倒。盛大に泥をはね上げた。
「ねぇ、ここから北に集ら……ぶべっ!?」
 跳ね上げた泥は、今まさに古木から情報を得たばかりのフランへとヒット。顔面を黒く汚したフランが仰け反って、後頭部を古木へぶつけた。
 衝撃により、古木の枝に巣を作っていた虫が無数に降り注ぐ。
 ムカデに毒蜘蛛、毛虫に蟻にゲジゲジと雨のごとく降る虫を見て、さらに誰かが悲鳴をあげた。
 まさに地獄絵図。
「おいおい、阿鼻叫喚とはこのことだな」
 なんて。
 その様を見て天川は、呆れたような溜め息を零した。
「……なぁ、あんたもそう思うだろ?」
 それから。
 天川は、茂みの奥へと視線を向けて問いかける。
「いあ! いあ!」
「菴戊??□」
「バビゾギビビダ?」
「・・-・ ---」
 茂みの奥に潜んでいたのは、蛇の頭部と鱗の生えた細い体躯を持った数人の男たち。
 言葉は通じないものの、その形相や、手にした槍や斧を見るに歓迎されているとはとてもじゃないが思えない。

 イグ族、ハン族、バイアティス族。
 ハイドロピスが本に書いていた、島に根付いた部族の名である。
「突然の訪問、申し訳ない。敵意がないことを最初に伝えさせていただきたい。人を探していてな。この人に見覚えがあったり、居場所を知ってたりしないか?」
 言葉は通じないが、意思は疎通できるはず。
 腰の小太刀へ伸ばしかけていた手を止めて、天川は両手を顔の横へとあげてみせた。敵意が無いことの証明だ。
「諤ェ縺励>螂エ縺?」
 しかし、蛇男たちは警戒態勢を説くことはしない。
 それどころか、槍を構えて1人が前へ。
「いあ! いあ!」
「--・-・ -・ ・- ・-・・ ・・ ・・- ---- ・・ ・- ・-・-- ・- -・--・ ---・ ・・」
 槍を天川へと向けたまま、蛇男はヴェルミリオを指さした。
 どういった意図か、測りかねた天川は言葉を濁すしか術がない。
 意思の疎通は無理でも、感情の共有程度はできるか。次に打つ手は幾つかあるが、まずは警戒を解いてもらわねばどうにもならない。
「どうしましょう。お土産のお肉ここで焼いてみる? 同じものを食べれば友好の印になると思うし」
「おぉ、いい案だと思うぜ、タイムちゃん!」
俺に任せておけ、と千尋が前へ出たではないか。
 ゆっくりとした動作で千尋が取り出したのは“海洋せんべい”である。
「これ、海洋の美味い食いもんでよ」
 袋から取り出したせんべいを千尋は1枚、齧ってみせる。
 ほのかに鼻に抜けるエビの香ばしさ。
 海鮮の出汁による旨味。
 興味を惹かれたのか、槍の穂先が僅かに下がった。
「へへへ……良ければこれ、差し上げますよ? ですからへへへ……情報の方をですね……」
 千尋はチャンスを逃さない。
 努めて下手に、彼は袋を蛇男へと差し出した。

 警戒心が緩んだ隙に、天川は交渉へと打って出た。
 ハイドロピスの顔写真を見せ、身振りと手振りでその居場所を問いかける。
 4人の蛇男たちは、写真を一瞥し、首を傾げた。
 写真に写ったいかにも学者然とした線の細い女の顔と、イレギュラーズたちを交互に見やった末……蛇男たちはヴェルミリオへと視線を向ける。
「ゴバゲロボ?」
 それから、4人は何事かを話し合った末、ついて来いと言う風に8人を手招く。
 そうして向かった先は、奇しくも先ほど、フランが得たのと同じ北の方向だった。

 頬を掻いて、タイムが眉根をぎゅっと寄せた。
 見れば、彼女の白くてもちもちとした頬が赤く腫れているではないか。どうやら蚊に刺されたらしい。
「……この先、開けた土地と花畑、それに遺跡があるみたい」
 ポツリ、とタイムは呟いた。
 先行させたファミリアーの小鳥を通じて見た光景を、仲間たちへと伝えているのだ。
 それからタイムは、ぎょっとしたように目を見開く。
「獣の群れが遺跡に向かってる! 誰か戦っているわ!」
 タイムが声を張り上げる。
 何事か? と、驚いた顔をする蛇男たち。
 そんな彼らを追い越して、十夜とすずな、天川がまっすぐに北へと駆け出した。

●誰も知らない楽園
 遺跡に湖、花畑。
 そこに攻め込む獣の群れと、相対している蛇男たち。
 しかし、獣が多すぎる。槍や斧は既に折れて、蛇男たちは全身に傷を負っていた。
 このままでは、そう遠くないうちに獣が遺跡に侵入してしまう。
 けれど、その時……リィン、ゴォンと響く清らかな鐘の音色を、蛇男たちは耳にした。

 降り注ぐ燐光。
 蛇男たちの傷が癒える。
 それと同時に、藪を蹴飛ばし跳び出して来た見知らぬ者たち。
「すずな! 刀を樹に引掛けるんじゃねぇぜ? お前さんなら樹ごとぶった斬っちまうかもしれんがな!」
 呵々と笑って小太刀を振るう天川は、素早く獣の1匹を微塵に斬り付け絶命させる。
 転がるように地面を駆けて、今まさに蛇男へと襲い掛かろうとしていた獣の脚を薙いだ。
 バランスが崩れた獣の元へ、駆け込んだのはすずなであった。
「むっ! 自分は小太刀だからって! こ、これでも長尺刀扱ってる分気をつけているんですからね、もう!」
 大上段から刀を一閃。
 獣の眉間を断ち割ると、その場でくるりと踵を返して次の獲物へ狙いを定める。
 直後、カツン、と鈍い音。
 すずなの刀が、太い樹木の幹に刺さっているではないか。
「……あ」
 野生において、一瞬の隙は命取り。好機と見たか、2匹の獣がすずなへと襲い掛かったではないか。
 しかし、横合いから差し出された十夜の刀が獣の爪を受け止める。
 
 突然の見慣れぬ乱入者。
 連れているのは、護衛の交代に来たハン族の者たちか。
 仲間か、敵か……警戒心を強くするイグ族の戦士たちへ、声を投げかけた者がいた。
「彼らは私の同郷です! 決して手を出さないように!」
 遺跡の上からかけられた声に、イグの戦士たちは即座に「いあ!」と答えた。神の使いのお言葉に逆らう者など、この島にはただの1人もいない。
「よぉ分からんが、敵じゃないって分かってくれたなら何よりや」
「手当の続きをするから後ろに下がってましょう」
 武器を失った戦士たちでは、戦場にいても足手まといにしかならない。
 カフカとタイムは戦士たちを引き摺るように遺跡の付近へと下がる。

 遺跡の上に立っているのは、白い衣に花の冠を被ったハイドロピスだった。
「珍奇な恰好をしてるが……崇め奉られちまってんのか?」
 獣を1匹、斬り倒しながら十夜は疑問を口にする。
 ハイドロピスを直に見るのは初めてだが、なるほど確かに白い肌や整った顔立ち、そして腕や頬に生えた蛇の鱗など、ある種神秘的な雰囲気を纏った女性である。
 蛇の特徴が濃い原住民族たちに比べればなおさらだ。
「まぁ、どうだっていいがね。何にせよ、後は無事を確認して仕事は終いだ」

 獣の群れが、フランへ向けて襲い掛かった。
 華奢な彼女なら餌にしやすいと踏んだのか。
「ほらほらおいしいよー!」
 否。
 獣たちは、フランに誘き寄せられたのだ。
「さあ! スーパースケさんがお相手いたしますぞ!」
 燐光の鎧を纏ったヴェルミリオが、フランを庇って前に立つ。獣の爪が、牙が、次々と突き刺さるがヴェルミリオはそれを一切意に介さず、無言のままにただその場所に立っていた。
 こうして敵を一ヶ所へ集めることが出来れば、後は仲間たちが片をつけてくれる。
 何と簡単な仕事だろうか。
 適材適所、冒険においてそれが何より必要だ。
「っしゃ! 俺もちょっと本気になっちゃうかな!」
 ドレッドヘアを靡かせて。
 拳を握った千尋が獣の群れへと殴り込んでいく。

 獣たちは退けた。
 死体は今頃、外でカフカが調理をしているはずである。
 遺跡の中で、預かっていた食糧をバックと一緒にハイドロピスへと受け渡す。
 同僚たちからの手紙を読んで、ハイドロピスは大きくひとつ頷いた。それから暫く、一通の手紙を書きあげると、それをタイムへと預ける。
「帰らないの?」
「えぇ、皆にはハイドロピスは無事です、と伝えてください。私はまだ、調べたいことが多くあるので」
 そう言ってハイドロピスは、遺跡の壁へと目を向ける。
 そこには見慣れぬ文字が無数に刻まれていた。彼女は現在、これの解読に勤しんでいるらしい。
「そう。ところで……何の確信があって、この島へ?」
 そう言ってタイムはハイドロピスの本を掲げた。
 島へと渡る根拠がそこには、一切記されていなかったのだ。まるで神話を頼りにしたかのような曖昧な理由で、ハイドロピスは単身危険な島へと渡った。
 けれど、事実として島にはハイドロピスが本に記述していた「原住民族」も「楽園」も、そのどちらもが存在したのだ。
 タイムの問いに、ハイドロピスは困ったように笑って、こう答えた。
「夢を見たんです。それから、誰かに呼ばれた気がして」
 笑っちゃいますよね、なんて。
 ハイドロピスは言うけれど……果たして彼女は“何”の啓示を受けたのか。
 タイムの背筋に、得体の知れない悪寒が走った。

成否

成功

MVP

國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
すっかり返却が遅くなってしまい、申し訳ございません。
ハイドロピスの無事は確認されました。
依頼は成功となります。

縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
この度はご参加ありがとうございました。

P.S.
ダンゴムシ、どこから出て来たんですか?

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