PandoraPartyProject

シナリオ詳細

亜竜種アーティスト、爆発する。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アーティストの苦悩
「あ~~~~~~ッ!!! 駄作ゥ~~~~~ッ!!!」
 絶叫をあげながら、亜竜種の女が石板を投げつけた。がしゃん、と音を立てて割れた石板には、よく見ると、何か顔料のようなもので絵が描かれていることに気づいただろう。
 リン・チューニル。それが彼女が自称する名である。本名は林津(リンシン)だが、古い慣習に縛られた名前などは願い下げであった。顔料で七色に染めた髪をぐっちゃぐっちゃとかき回し、苛立たし気に歩き回る部屋の中には、山ほどの砕けた石板が転がっていることに気づいただろう。それらはすべて、描きかけの絵が描かれていたもので、要するにこれはキャンバスなのだ。駄作、と先ほど叫んでいたことからもわかる通り、どうにもレイレイには、満足の行く絵が描けないらしい。
「痛ぁ~~~いっ!!!」
 叫びながらぴょん、と跳びあがった。どうやら、散らばったキャンバスに足をぶつけたらしい。自業自得である。んぎゃあお、と悲鳴を上げながら、脚を抱えて頃ぎまわるレイレイ。ゴロンゴロンと転がるたびに、足元のキャンバスに身体をぶつけまくって余計痛く、さらに悲鳴を上げて転がりまわる。
「それもこれも、私の才能がないのが悪い」
 すん、と突然真顔になり、機敏に立ち上がった。そのまま椅子に座ると、頭を抱えた。
「ハァ~~~~~~~生きる価値がねぇ~~~~~~~!
 イラストレーターが絵描けなきゃ何の生きる価値があるのよ!
 そもそも、この集落でアーティストってのがそもそも白い目で見られまくってるわよ!!」
 ぎゃん、と悲鳴を上げてのけぞるレイレイ。おっしゃる通り、この集落において、レイレイは奇人変人の類だった。別に、亜竜種たちに芸術を楽しむ文化がないわけではないが、それはこの集落から見たら都会のたしなみ。一日を生きることに精いっぱいの田舎のこの集落では、変な事をしているニートみたいな扱いである。
「おい、変なねーちゃん」
 窓の外から声がかかる。少年の声である。レイレイはののけぞったまま、逆さの体勢で窓を見た。
「透流(トオル)少年ではないか」
「相変わらず変なポーズとってんなねーちゃん」
「こうするとインスピレーションがわくのよ」
「嘘つけよ、それより、例のワイバーンが出たって噂だぞ」
「マァジで!?」
 ぎゅおん、と音がしそうな勢いで、レイレイはジャンプしてくるりと回転した。そのまま窓の所まで跳躍すると、窓枠から思いっきり顔を出して、透流少年に顔を突き合わせる。
「間違いないの?」
「間違いねぇって。回覧板が回ってきたんだよ、気をつけろって」
「間違いねぇのか~~~~~~~~!!」
 リンはがっちゃがっちゃとあたりを駆けずり回ると、小さな石板に、筆と顔料を取り出して、まとめてカバンに詰め込んだ。それから、乳鉢。
「じゃあ、行ってくる」
「いや、行くなよ」
 透流が言った。
「いくらねーちゃんが変な奴でも、流石にワイバーンに喧嘩売ったら死ぬって」
「でもでも! トルマリン・ワイバーンの鱗を砕いて顔料にすると、めっちゃいい青が出るのよ!」
「それ何回も聞いた」
 透流少年が呆れた様子で言った。
「それにね、零れ落ちた鱗を拾って砕くのももう限界なのよ! もっと! 在庫が! ほしいの!
 よって今からトルマリン・ワイバーンをボコって、私は顔料を手に入れる!!!」
「だから無理だって」
 透流少年が呆れた様子で言った(二回目)。
 つまり――こういう事である。リンは、自分のスランプを、理想の青の絵の具が欠乏しているからだと思っている。その青の絵の具は、トルマリン・ワイバーンの鱗をすりつぶしてできる顔料で、今までは剥がれ落ちた貴重な鱗をちまちま拾って顔料にしていたが、それでは消費量が足りないので。
「ここは一匹二匹三匹? くらい? 狩猟したい。正直」
「でもなぁ、ねーちゃん運動神経ゴミじゃん」
「そうなのよねぇ~~~~~~!」
 リンが頭をガシガシした。運動神経はありそうな気もするが、それはさておき、戦闘能力はない。となれば、ワイバーンを狩ることなど夢のまた夢……。
「あ、そういやさ、ほら、ローレットって奴らいるじゃん?
 最近は、亜竜種たちも、なったっていう、イレギュラーズの」
「あーあー、そうね、そんなの居たわね」
「依頼すれば? 普通に」
「依頼を? 普通に?」
 リンは目を丸くした。
「天才か? 少年……?」
「ねーちゃんが、絵以外ダメダメなんだよ」
 透流少年が呆れた様子で言った(三回目)。

●というわけで
「ワイバーンをボコって顔料を手に入れたい~~~~~~~!」
 と、目の前の奇抜な格好の亜竜種の女性が言った。
 なんでも自称、リン・チューニルというアーティストである。彼女はなかなかヤバ気な瞳で、あなたたちローレットのイレギュラーズへと依頼を告げる。
 なんでも、トルマリン・ワイバーンというワイバーンを討伐し、その鱗を採取したいのだそうだ。しかも、鱗の状況を確認する必要があるので、現場まで護衛もお願いしたい、とのことである。
「皆はスペシャリストって聞いたので! ぜひぜひ! お願いしたいっ!」
 ぐわんぐわんと頭を下げるリン。どうやら変人であるのは間違いないようだ。
 ……とはいえ、困っている依頼主であることは事実。ここは一肌脱いでやるのもいいだろう。
 あなた達は頷くと、リンを伴って集落の外へと向かう。
 外は青く晴れ渡り、その空を背に飛ぶ、ブルー・トルマリンのワイバーンの、悠々とした姿が見えた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 トルマリン・ワイバーンの鱗から取れる顔料。
 それが必要な事象芸術家、リン。
 彼女の依頼を受けて、青のワイバーンを討伐しましょう!

●成功条件
 トルマリン・ワイバーンの撃破。

●特殊失敗条件
 リン・チューニルの戦闘不能。

●状況
 とある集落にする変人画家、リン。スランプに陥っていた彼女は、その解決のため、美しい青の絵の具の材料となる、トルマリン・ワイバーンの鱗を採取したいと思い立ちます。
 取り合えず、三匹くらいボコって、鱗はげばいいかなー、とはリンの言。滅茶苦茶ですが、依頼主なので優しくしてあげてください。
 さて、そんな依頼を受けた皆さん。トルマリン・ワイバーンを討伐し、リンに鱗を採取させましょう!
 鱗の状態を確認するため、リンも同行します。当然ながら、リンには戦闘能力はないので、とにかく守ってあげる必要もあります。
 色々な意味で厄介な依頼ですが、歴戦の勇者であるみなさんなら、きっと大丈夫……ですよね?
 作戦決行タイミングは昼。周囲は開けた草原になっており、戦闘ペナルティなどは発生しません。

●エネミーデータ
 トルマリン・ワイバーン ×3
  青い鱗のさわやかなワイバーンです。
  氷のブレスを吐き出すほか、鋭い爪を受け手は、きっとひどく出血してしまうでしょう。
  神秘・物理両面での攻撃を行えるパラメーターの他、防御技術も高めです。他は並、といった所でしょうか。
  三匹はうまく連携して攻撃してきます。一体一体を確実に倒すか、複数をまとめて狩るかは、作戦次第です。

●味方NPC
 リン・チューニル
  自称画家の亜竜種です。奇抜な人。
  討伐後のワイバーンから、状態のいい鱗をはぎたいので、皆さんについてきています。
  戦闘能力は皆無なので、守ってあげる必要があります。彼女が戦闘不能となると、依頼は失敗となってしまいます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 亜竜種アーティスト、爆発する。完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
咲花 イザナ(p3p010317)
花咲く龍の末裔
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
秋霖・水愛(p3p010393)
雨に舞う
スティール・ダンソン(p3p010567)
荒野の蜃気楼

リプレイ

●亜竜種アーティスト、うきうきする。
「絶好の狩り日和じゃん~~~~~~!」
 と、依頼主のリンがめっちゃくちゃいい笑顔でなんかこう、ぐわーってポーズをとったので、同じようにぐわーってポーズをしながら『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が、うんうんと頷いた。
「そうだね! 晴れてるのは有り難い!」
「時にフランくん、なぜゆえに私と同じポーズを?」
「芸術家の気持ちがわかるかと思って……」
 おたがいに、くねっ、と身体を曲げるふたり。気持ちは分かっただろうか。
「伝わった……私の苦悩……?」
「何となく……身体が痛いポーズ……」
「そう! 私の身体は悲鳴を上げているッ! これ以上満足できる絵がかけないという現実に、張り裂けんばかりにッッッ!」
「……練達の学者でも、見たタイプですね」
 『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が、些か呆れた様子で言った。
「向こう見ずな発想力。
 危険を顧みぬ行動力 。
 ええ、とっても。やはり、一つのものに探求する性質を持つものは、こうなるのでしょうか?」
「いや、うちも音楽一家だったけれど、流石にここまででは」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が苦笑しつつ、いや、とふと口元に手をやった。
「……でも、スランプに陥った時は結構イライラしてたかもしれない……でも、流石にここまでくねくねしたりしなかった……うん、しなかったぞ……?」
 うちの一家は大丈夫だったよな、と確認しつつ、イズマが続ける。
「しかし、ワイバーンから顔料が採れるなんてね。そんなにいい色なのか?」
「そりゃもう! 全然違うッ!!」
 有名映画の怪物みたいなポーズしながら、リンが言う。
「なんというかねー、空の青と水の青、瞳の青と花の青、全部違うじゃない? ワカル?」
「ああ、それ位は」
「ワイバーンの青ってのは、そのどれとも違うの! なんていうのかなー、私は観たことないんだけど、海? の青? にも近いのかもしれない! 見たことないけど!
 そう言うなんて言うのかな、深い青? 懐の深さ、心の落ち着き……そういうものが表現できるのが、ワイバーン・トルマリンブルーってわけ!」
「そうなんだね。青い石を砕いて作るのと違いがちょっと私には……わからないかも 」
 苦笑する『雨に舞う』秋霖・水愛(p3p010393)に、リンはにひひ、と笑った。
「絵の具の段階だと、そうかもね。でもね、それを「わかる」ようにするのが私達芸術家ってわけ!
 水愛くんは、ローレット・イレギュラーズ……問題解決のスペシャリストでしょ? 私はアートのスペシャリスト! 君たちがばーっと問題を解決するように、私はばーっと絵を描くのだ! わはははは! まぁスランプ状態なんだけどさ」
 どぅん、と肩を落とすリンに、水愛は頭を振った。
「ううん、私だって、イレギュラーズになったばかりだから……まだまだスペシャリストだなんて。
 でも、うん、なったからには、しっかり成長したいなぁ、って思ってる」
「いい心がけ! でも、いいなぁ、イレギュラーズ。どうやったらなれるのかなぁ。私も外に出たーい! 海とか山とか変な生き物とか見たい!
 やっぱあれ? インゲン豆食べられないとなれない?」
「それは……わからないけれど。お野菜は食べた方がいいかな?」
 苦笑する水愛に、おぎゃあみたいな声をあげてのけぞるリン。
「やれやれ、騒がしい奴だ」
 そういうのは『夕陽のガンマン(少年)』スティール・ダンソン(p3p010567)だ。実際騒がしいので何も言い返せない。テンションの高いリンに対して、スティールは静かなものだ。当然である。ガンマンはとはクールなものだ。それに、遠足気分のリンだが、実際にはそうではない。これが今生の別れとなる可能性もある。故にスティールは、周囲の警戒を怠っていない。
「覇竜領域か。確かに、俺の故郷のように厳しい所であるようだ」
「うむ……だが、そんな所でも、吾輩たちはたくましく生きているのである」
 と、『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353が頷いた。
「そして、そんな地でも剛毅にワイバーンの鱗をむしって絵の具にしようとは! まさに剛毅であるな! いやいや、己が願望の為に危険を厭わぬその姿勢気にいった、この覇竜一の知識人にしてスゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアである吾輩が力を貸そうではないか!」
 ガーッハッハハ、と笑う練倒。ノリはリンと似ているかもれしれない。
「所で御仁、レイレイって名乗ってなかったであるか?」
「名乗ってた! でも名前間違えやすいから、リンに戻した! 本名だしね!」
「なるほどである!」
 その節は大変申し訳ございませんでした。
「さておき。
 他人と違う事をすれば、それが個性というわけでもないと思うのだが。
 理由を付けて、名前が嫌だ、駄作だと、ただ否定するばかりでは何も見えてこないのではないだろうか? 」
 『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)が至極真っ当な事を言う。リンがうぐっ、って唸った。
「いや……名前は……まぁおっしゃる通りなんだけど。
 でもでも、これはなんていうの? 過去からの脱却……? なんかこう、そう、伝統は良い事もあるわ。でも鎖でもある……」
「もっともらしい事を言って煙にまこうとしても僕には通じないぞ」
「うぐっ」
 リンが唸った。
「……別に名前が嫌いとか、奇抜なことしたいってわけじゃないのよ。
 そうよ、これは子供っぽい意地だわ。私の集落じゃ、画家なんて変なニートよ。親にもよく怒られたし……そういうのよ。ありきたりでしょ?」
「僕にはその辺の機微は詳しくわからんが。
 だが、知識として語るなら、実に人間らしいと思う。
 ……僕が他人を人間認定するのも滑稽かもしれない」
 ふむ、と小首をかしげる愛無。が、すぐに真顔になると、
「それより――標的のお出ましだ」
 刹那、その上空を、青い影が通り抜けた。巨大な翼を持ったそれは、美しい青の鱗を持ったワイバーンである――。
「うっひょおおお! あれよあれよ! あれがトルマリン・ワイバーンよ!!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねるリン。『花咲く龍の末裔』咲花 イザナ(p3p010317)が、感嘆の声をあげた。
「成る程、確かに鮮やかな色合いの鱗であるな。
 まあ、鱗の色合いなら小生も負けてないが。うむ」
「えっ、素敵な鱗を剥いでいいって話?」
 リンがぐわーって飛んできたので、流石のイザナも嫌そうに顔を歪めた。
「嫌である。なんでそういう話になる」
「話の流れから……」
「コミュニケーション能力が最低であるな……」
 げんなりするイザナ。リンもがっかりした。
「いい顔料になると思うんだけどな……イザナ・ブルーってどう?」
「絶対に嫌である……ほらほら、さっさと追いかけねば、逃げられてしまうぞ」
「おうおう、その通りだぜー!」
 リンがカバンをかけ直し、一目散に走り出――そうとして、その首根っこを水愛が掴んだ。
「だめだよ」
「ひゅんっ」
 リンが奇声をあげる。ダメである。一人で突っ込んだら依頼失敗になりかねない。
「リンさんは戦えないんだから、私たちの後ろに隠れてて。
 そうだ、私達の戦い、きっといい絵の題材になると思うんだよね。
 スケッチとかするの、どう?」
「鱗に関しても、心配しないで。倒した後に好きなだけ鱗を採れるから、今は我慢してくれ 」
 イズマが続ける。
「鱗の様子が見たいなら、双眼鏡を渡すよ。これなら良く見えるだろ?」
「水愛くん、イズマくん……おっしゃる通りね!」
 イズマから双眼鏡をうけとると、リンはたたたっ、と木の陰に隠れながら、小型の石板と鉛筆を取り出すリン。
「ここでスケッチしてるわ……みんな、ファイト!」
「……助かります、水愛さん、イズマさん」
 アッシュが言うのへ、二人は頷いた。
「うん……ああいうタイプ、野放しにしちゃいけないタイプだし……」
「彼女の護衛も兼ねているからね。おとなしくしてくれるなら一番だ」
「さておき、お客さんだ」
 スティールの言葉通り、三体のワイバーンが此方を見つけて飛来する。イレギュラーズ達は、一斉に武器を抜き放った。
「それじゃあ、その鱗。悪いけどいただくよ」
 イズマの言葉を合図に、両者は激突する――!

●亜竜種アーティスト、スケッチする。
 飛来する、三体のワイバーン! さわやかな青の鱗を持ったそのワイバーンは、挨拶代わりとばかりに、イレギュラーズ達に、氷のブレスを吐き出した!
 自身の鱗を思わせる、文字通りに身を切る寒さのブレス! ダイヤモンドダストはイレギュラーズ達の肌を切り裂き、その寒さが動きを凍結したかのように鈍らせる!
「ふむ。流石にワイバーン、奇襲とはいかなかったが、その逆を避けられたのは良しとしよう」
 愛無が言う。なにせ、相手は上空からいつでもこちらを襲えるのだ。それを回避できたのは、ひとえに皆が確り警戒してからと言えるだろう。真面目に遊んでいたのはリンくらいなもんである。
「相手は凍気のワイバーン……なら、この歌だ!」
 イズマの奏でる魔術の旋律が、青の光となった仲間達に降り注いだ。凍えたようにこわばっていた体が、いつものように動き始める。
「ありがとイズマさん! それと見ててねリンさん、あとでちょーかっこよく描いてー! 」
 フランが声をあげ、ワイバーンに向けてその手を掲げる。ぶわり、と風花のように舞う花弁が、フランの身を隠すように包み込んだ。その可憐な姿に、ワイバーンは不思議と引き寄せられてしまう。
「うっひゃー! 任せて! 今めっちゃ絵描ける!!!!」
 リンが雄叫びをあげるのを確認しつつ、フランがワイバーンを引き寄せる。
「まずはこっちにひきつける!」
「では、攻撃手たちの楯は僕が担当しよう」
 愛無が『咆哮』した。文字通りの、雄叫び。だが、それは物理的な衝撃波を伴って、ワイバーンを貫く! 肌を叩く衝撃に、ワイバーンは反撃を行うべく降り立った! 猛禽の鳥がそうするように、上空から爪を使ってのダイブ! 愛無は自身の爪で振り払うと、そのまま横っ飛びに跳躍。ワイバーンはそれを追う!
「させません」
 アッシュは静かにそう告げると、己の武器を振り抜いた。同時、飛翔する斬撃は、銃弾や矢のごとく宙を飛び、その銀の一閃は、まさに宵闇を切り裂くがごとく、ワイバーンの皮膚を切り裂く!
「うっはぁぁぁ! あのワイバーンの鱗を切り裂く攻撃! 流石スペシャリスト、やっべーわ!」
 アッシュの背後の木に隠れて興奮するリン。アッシュはこほん、と咳払い。
「なるべく鱗は傷つけないようにしますが――」
「あー、大丈夫大丈夫! 気にしないで戦って!」
 と、何やらガリガリと石板にスケッチをしているのを見て、守るには護るがほっといても大丈夫か、とアッシュは頷く。
「一体一体、確実に仕留めましょう」
「うん。最悪、リンさんは私が首根っこ掴んでおくから」
 水愛の言葉に、アッシュが目を細めた。
「……それは本当に、お願いします」
「あはは」
 渇いた笑いを浮かべる水愛である。さて、それはさておき、戦いの方は進行している。攻撃が進む連れて、リンのスケッチも進み、イレギュラーズ達の激闘が次々と描かれていく。
 宙を裂き、ワイバーンの翼を穿つ、練倒の魔砲。
 同様に、鱗の隙間を縫ってワイバーンの身体を穿つ、スティールの銃弾。
 そう言ったものが目の前で繰り広げられるたびに、スケッチされ、小さな石板はイレギュラーズ達の果敢な戦いの絵で埋まっていく。
 リンの絵は写実的とは言えないが、しっかりと再現されているといえるだろう。さておき、スケッチが増えるにつれて、戦いは激化し、そしてワイバーンの数も減っていく、という事だ。
「首を落とす!」
 イザナが、その戦斧を携え、跳躍した!
「了解だ、足止めと行こう」
 スティールの銃弾がワイバーンの被膜を撃ち抜き、僅かに体勢を崩させる。その隙をついたイザナが、大上段からワイバーンの長い首へ、戦斧を叩き落した!
「せいっ!」
 気合の言葉と共に叩き落される、超重の一撃! ぶん、と音を立てて振りぬかれた戦斧が、ワイバーンの首を叩ききった! 青の体が、地面にへと落着する!
「うっひょー! 早速鱗を」
「だめ! まだ! すてい!」
「きゅんっ!」
 飛び出そうとたリンの首根っこを、水愛が掴んだ。行き場を失ったリンがすごすごと木陰に隠れる。
「ガッハッハ! やはり剛毅な方であるな! しかし今しばらくお待ちいただきたい!」
 練倒が声をあげ、残る二体のワイバーンの片割れに魔砲を撃ち込む。ワイバーンはフランからターゲットをそらすと、練倒へと襲い掛かった! 強烈な尻尾の一撃が練倒を狙うのを、練倒は受け止めつつ、跳躍して勢いを殺した。
「おおっと!」
「よし、此方の楯にうつろう」
 愛無が、その爪を構えてワイバーンに斬りかかる。肉を切断する強烈な爪に、ワイバーンが苦悶の声をあげた。
「肉を喰らうでもなく、芸術のため……とは人の傲慢かもしれないな。
 まぁ、良い。僕は僕の仕事をするのみだ」
 再度振り下ろされた爪が、ワイバーンの翼、その被膜を切り裂いた。ぎゅお、と悲鳴を上げたワイバーンが地に落ちる。すぐには飛べまい。ワイバーンは威嚇の声をあげ、再度氷のブレスを吐き出すが、
「悪いけど、そいつは本領を発揮できない」
 イズマの青の加護は、未だに健在だ。凍結の力は、今はイレギュラーズ達の足を引っ張ることはない。
「連携なら俺達にもある、ってことさ。
 それに……青い者同士、負けたくないな!」
 その細剣を振るうと、黒の大顎が生み出され、大地を疾走した。ワイバーンのそれにも負けぬ巨大な大顎は、獣が食らいつくように、ワイバーンの首元に食らいつく。ぎゃあ、とワイバーンが悲鳴を上げる。ワイバーンは体をひねって、大顎を振り払うべくもがいた。「ぎゃー、亜竜大戦争って感じ! すごい迫力! やばい、筆進むわー」とか後ろの方から聞こえたが、イズマは無視して細剣を振るい、大顎を生み出して攻撃を行う!
「よし、このまま脚を打ち落とす!」
 イザナが戦斧を構え、ワイバーンの懐へもぐりこむ。横なぎに振るった戦斧が、ワイバーンの脚を強く叩いた。勢い足りず、切断にまでは至らなかったが、強烈に喰い込んだ刃は、ワイバーンに強烈な出来を与える。ワイバーンが悲鳴を上げて転倒! 続いたアッシュの放った銀の一閃が、ワイバーンの喉を切り裂いた。ワイバーンは断末魔と共に倒れる。
「フランさん、交代を」
「うん! バトンタッチだよアッシュさん、思いっきりいっちゃえー!」
 フランが駆け寄ってきて、言葉通りにアッシュと手を叩き合わせてバトンタッチをした。アッシュが頷き、残り最後のワイバーンへ向けて走る。
「リンさん、どう? インスピレーション、沸いた?」
「いうまでもねー!!」
 眼の色を変えてスケッチを続けるリンに、フランは思わず嬉しそうな笑みを浮かべるのだった。
 さて、戦いは最終局面へ、残る一体のワイバーン、亜竜のプライドがあるのか、逃げる様子も見せずに攻撃を仕掛ける。が、虎の子のブレスはイズマによってその本領発揮を防がれ、数に勝るイレギュラーズの攻撃に、次第に体力は削られていく。むしろ、残り一体となった状態で、全力攻撃に転じたイレギュラーズの猛攻に、耐えられるはずもない。
 イズマの指揮する青の術式支援を背に受けて、イレギュラーズ達が戦う! アッシュの気糸の斬撃が、ワイバーンの身体に絡みついてその肉体を切り裂き、痛みにワイバーンは空を飛ぶことも忘れて地に落下する。その状況で、
「この一撃は避けられまい!」
 イザナの斬撃が、ワイバーンの右翼を付け根から斬り落とした。ぎゅおお、と悲鳴を上げるワイバーン。その身体に突き刺さる、スティールの銃弾。
「止めを刺してやれ」
 そういうスティールに、水愛はワイバーンに向けて手を突き出した。
「ごめんね、これも人助けなんだ……!」
 放たれた氷結の鎖が、ワイバーンを締めあげる。ぎゅお、と悲鳴を上げるワイバーン、その身体に、鎖から侵食した冷気が迸り、その生命活動を停止さえる。それが、戦いの終わりを告げる合図になった――。

●亜竜種アーティスト、感激する。
「いやぁ、助かった~! ほんとありがとね!」 
 と、何個もの籠いっぱいの鱗を抱えて、リンがにこにこと笑った。
「いや、いいさ。それより、肉体の方は必要ないんだろ?
 しっかり埋葬してやりたいんだがね」
 スティールが言うのへ、愛無が言った。
「いや、肉は僕が食らおう。これも敬意だと思ってくれると嬉しい」
「ああ、それならな。余りをくれ。死の寝床くらい用意してやりたい」
「いやぁ、中々の重労働であったな」
 イザナが苦笑する。
「うむ! 吾輩たちが総出で、結構はぎ取るのに時間がかかってしまったな!」
 ガッハッハ、と笑う練倒。鱗の剥ぎ取りはイレギュラーズ達も手伝ったのだが、中々大変だったようだ。
「でも、これでスランプも脱出できるかな?」
 水愛が言うのへリンは頷いた。
「もちろん! あ、絵ができたら見に来て! ワイバーンの青、見せてあげるから!」
「ああ、それだ。気になってたんだよな、どんな青なのか」
 イズマも笑う。
「素敵な色合いの、青の鱗でした。きっと、素敵な色となるのでしょう」
 アッシュが言うのへ、仲間達も頷く。
「ああ、絵が出来上がったら、是非教えてくれ。
 ラサにムゥ・ル・ムゥという商人の知り合いがいてな。
 もしかしたら、外でも通じる価値を見出してくれるかもしれない」
 愛無が言うのへ、リンが目を丸くした。
「外!? 外に私の作品を!?」
「あ、いいね、それ。
 それに、リンさんの事、外にも案内してあげたいよね。きっといい刺激になると思うんだ。
 オータムハバラとか、再現性ブクロとか。
 いい芸術、いっぱいあるんだぁ……ぐふ、でゅふふ」
 フランが言うのへ、リンは興味深げに目を丸くした。
「マジで、行きたい……どうやってイレギュラーズってなるのかなぁ。やっぱピーマン食べなきゃダメか~~~!?」
 そう言ってぎゅわぎゅわ頭を揺らすリンに、イレギュラーズ達は笑ってみせた。
 なんにしても。
 めでたしめでたし、である。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 後日、リンはスランプを脱し、立派な絵画を描き上げたそうです。
 タイトルは、『青の亜竜と八人の勇者』――だったとか。

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