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シナリオ詳細

砂上船旅ゴールデンロード

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ザザン――ザザン――。さざ波と風の音。
 閉じていた目を開けば、そこにあったのは青空と、大きく波うつように広がる砂漠だった。
 ここはラサの大砂漠。
 砂と空しかないこの道は、誰が呼んだか……黄色商路(ゴールデンロード)という。

「ほう、『砂船(ランドヨット)』ですか。これはなかなか……」
 世にも珍しいものを見たという雰囲気で、ルブラット・メルクライン(p3p009557)は宿場町に碇を下ろした帆船のような乗り物を見上げていた。
 その隣には、松葉杖をついた恰幅のいい男。指には銀色の指輪をはめ、たくわえた髭は上品な形に整えられている。ラサ育ちの人間なら彼が有力な商人であることをすぐに見抜いただろう。そして、実際にそうだ。
「うちの自慢の逸品だよ。もう何十年も砂漠を旅してきた」
 そう語る商人の名はユーベル・ケイン・ゲラン。一代にして豪商へと上り詰めた腕利きであり、大きく運送コストも高い砂漠で『砂船』という手法を確立させたことで革命的に商路を切り拓いた男でもある。黄色商路(ゴールデンロード)は彼によって開かれたと言っても過言ではないだろう。
 そんな男が『最初に砂漠に乗り出した船』がこの『砂船』、ゴールデンゲラン号なのである。
 ルブラットが船側面にかかったハシゴをのぼってみると、甲板はかなり綺麗に整っていた。海をはしる船とは根本的に異なる匂いがする。おひさまの匂いとでもいおうか。
「昼は高温の直射日光、夜はマイナスの冷気……。オーブンと冷蔵庫を永遠に行き来するようなものだ。腐敗や湿気とは無縁なのだな」
 帆は柱に巻き付けた状態で畳まれており、通常の船と同じく舵がついている。通常の船と違うのは、骨組みに布をかぶせたテントが甲板に直接設置されているところだろう。いわば移動するキャンプテントである。
「2~3人がのれる程度のランドヨットは見たことがあったが、ここまで大きいものは珍しい。どうやって動いている?」
「砂漠に吹く風の精霊の力を特別な帆に受けて進む仕組みさ。こいつなら多くの荷物を載せても問題無い」
「なるほど……この世界に驚かされることも多いが、こういうこともあるのだな」
 感心していると、テントのなかからぴょこんと赤い髪の少女が顔をだした。
 レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
「あ、おつかれさまっす! 荷物の準備はできてるっすよー!」
 ぱたぱたと手を振るレッド。その時、ふわりとした風が船の上を抜けていった。
 これから始まる旅が待ち遠しいと、いわんばかりに。


 ローレットがこのたび引き受けた仕事は『運送』である。
 黄色商路(ゴールデンロード)に蠍型のモンスター(ジャイアントスコーピオン)が出現したことでユーベルたちが怪我をしてしまい、今回の運送が困難になってしまったことが原因である。
 なので厳密には運送と魔物退治なのだが、やはりメインは運送であり……そして旅だ。
 砂船の甲板下は巨大な倉庫になっており、ここに商品を詰め込んで運送するのだが一緒に旅用の物資も積まれている。
 レッドは物資を点検したリストを仲間のルブラットに翳して見せた。
「食料と水は余裕をもって積んであるっす。寝袋と折りたたみ式のテントも。精霊式の小型暖房器具があるので夜の冷気も安心っすね」
 鉛筆をリストの上でトントンとやってみせるレッド。
「けど、食料はほとんど『食材』なんで……料理できる人がいたら嬉しいっす。ボクもできなくはないっすけど、やっぱり上手なひとがいると旅が捗るっすからね」
「それは同感だ。よい食事は健康を作る」
 ルブラットはそう言いながら船の倉庫内を見回した。
「積み込めるスペースには余裕があるな。持ち込みで食材や道具を置いておいてもいいだろう。長い旅だ、娯楽やなにかがあってもいい」
「あー、そうっすねー」
 商人たちは特別な技能がなくてもそういった部分をなんとなくやりくりしながら旅をするというが、そうした旅を頻繁にやっているわけじゃないレッドたちにとっては専門技術を持った仲間がいると嬉しいところだ。
「それじゃあまずは、仲間の募集っす! ローレットにお願いすればすぐっすよ!」

GMコメント

●オーダー
 砂漠の上をはしる船にのり、数日間の旅に出ましょう。
 シナリオは二つのパートに分かれています。

●戦闘パート
 ジャイアントスコーピオン退治です。ぶっちゃけていうとでっかいサソリの集団です。砂漠の上でこれらと戦い、残らずやっつけましょう。
 多少怪我はするかもしれませんが、皆さんで協力して戦えばきっと達成できるでしょう。

●船旅パート
 船で旅をします。このとき一人でなんでもこなそうとするとプレイングが散るので、『自分はこれが得意です!』といった感じに得意分野を書いてみましょう。
 特にそういうものがなくても、「キャンプ飯がやってみたかった」とか言って急にカレーやワッフルを作り始めてもOKです。
 いっそのこと『よぞらきれい……』ていいながらゆったり過ごすプレイングを書いてもOKです。(なぜなら戦闘パートで役目の殆どはこなせているからです)

 砂船での旅は主に砂漠の上をすいすい進む感じになりますが、基本的には船の上でゆったり過ごす時間が長くなります。
 船上テントは広いので寝るスペースには困らず、料理も深緑製の魔術式クッキングツールがあるので火を使わずに料理ができて安全です。
 いかに旅を楽しく過ごすかや、この旅を満喫するかをがんばってみてください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 砂上船旅ゴールデンロード完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
レッド(p3p000395)
赤々靴
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人
標・預安(p3p010378)
悩める子竜
紲 暁蕾(p3p010390)
緋を紲ぐ者
凛・詩楼(p3p010438)
特異運命座標

リプレイ

●旅は道連れ世は情け
 さざ波の音に、それは似ている。
 『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は砂船(ランドヨット)の甲板から外を眺め、なみうつ砂漠の風景に目を細めた。
「確かにこりゃ立派だ。砂船も他所で乗った事はあるけれど、この規模となるとそう見かけないな」
 ラダの知る砂船というのは、主に一人用のヨットだ。海でいえばサーフボードに帆をつけたような物体で、風をうけてさらさらの砂を滑っていく。たまに3人くらいを詰め込めるイカダサイズもあるが、大体砂上スキーと似たような乗り物だという印象である。
 ここまで大きいものは珍しく、そしてだからこそこの事業は素晴らしかったのだろう。
「運送仕事がんばっていこーっす」
 おー! と拳を突き上げる『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)。
「そういえば料理ってできるっす? 私干し肉をふやかしたスープぐらいしか作れないっす」
「できるが……自分が食べるものと他人に食べせせるものは違うからな」
 『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)が鎧のフェイスガード部分を人差し指と親指でスッと縦になぞるようにした。
 そしてゆっくりと『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)のほうを向く。
 ルブラットは顔を見合わせ、そしてゆーっくりと顔を左右に振った。
 よおく耳を澄ましてみると小声で『NO』と言っているのがわかる。
「船というのはひとつの世界だ。物思いにふけるだけでも得るものはあるが……」
「料理は嗜好の極みとも言う。水と焼いた小麦粉さえあればなんとでもなるが、ふむ……」
 飲食不要の怪物とものを食べるのか不明な怪人が顔を見合わせ料理について語るというのはなかなかシュールだが、言ってることはもっともだ。
 彼らはゆっくりと視線をうつし仲間達の顔を順に見ていって……『特異運命座標』凛・詩楼(p3p010438)で止まった。
 何かを求められていると悟ったのか、詩楼がビッと親指を立てて見せる。
「覇竜仕立てならかなり行けるぜ」
「「頼もしい」」
 プロって程じゃねえがなと照れ隠しみたいに言ってから、改めて船と、そして風をうけてふくらむ帆を眺めた。
 丁度風の力を受けて進み始める頃合いだったようで、船が揺れたかと思うとまっすぐに進み始める。
「ほーほー、砂漠を泳ぐ船ってか! 砂の海とは上手い事言ったもんだ」
「初めての船旅!しかも、海原ではなく砂上を掛ける船とは……何とも珍しい!
 此度の依頼、旅も戦いも存分に楽しませてもらうとしようか!!」
 『緋を紲ぐ者』紲 暁蕾(p3p010390)は腕組みをして笑い、独特の揺れをする砂船の上で微妙に前後にぐらんぐらんしていた。
 どっかで酔いそうだなと思ったが、それもまた経験。良きにつけ悪きに付け、新鮮な世界を知ることができるだろう。これぞ冒険というやつだ。
 『血反吐塗れのプライド』百合草 瑠々(p3p010340)が不敵に笑って椅子に腰掛ける。
「ほー、良いんじゃねえの? 風は良さそうだし。こういう船旅も気分のいいもんだ」
「本で読んだことはあったけど、この目で見たのは……」
 『悩める子竜』標・預安(p3p010378)がデッキの手すりにてをかけ、目を大きく見開いて風景を眺めている。
 その顔を両サイドから覗き込んでにやりと笑うと、預安はすぐさま咳払いをした。
「別に驚いてはいないしはしゃいではいないよ?」
「本当かぁ?」
「本当だってば」
「船が砂を走ってるのに驚いてんじゃねえか?」
「それは…………うん」
 さすがにかなりね、と預安は顔をあげた。
 いくら砂がさらさらしているからといって、帆をはっただけでこんなに大きな船がすいすい進んでいくというのも不思議な話だ。
 どうやら風の精霊の力をうける特別な帆であるらしいが、それにしたって随分なものである。
 彼らは始まる船旅に胸を高鳴らせ、そして非日常の数日間を楽しむ事になる。

●クルーズ
 一日か二日たったころだろうか。
 砂上の生活も慣れてきた頃、甲板で警備をしていた暁蕾が砂を割ってのびる赤い物体にめをこらしていた。
「あれは……蠍の尾か?」
「どこだ」
 反対側の警備をしていたラダが、砂避けのゴーグルをあげて振り返る。
 暁蕾が指さす先には確かに、赤い尾のようなものが伸びている。
「なるほど、確かに蠍の尾だな」
「けど一本だけだぜ? 俺が行って適当に潰しとくか?」
 砂の上ならダッシュで追いつけるだろ、と腕をぐるぐると回しながら言う暁蕾。
 瑠々が『なるほど?』という顔で手すりに寄りかかるが、一方のウォリアは手をかざしてそれを止めた。
「蠍が砂から尾を出すというのはなかなか不自然だ。意図があるように思える。例えばだが、自分がわざわざ外敵に見つかるような姿勢で棒立ちしていたとしたらどんな理由がある?」
「お? おお……」
 ウォリアに言われ、暁蕾とついでに瑠々が考えこんだ。
「遠回りな自殺か?」
「もしくは、敵を引きつけて……ああ」
 合理的な理由が思いついたらしい、暁蕾はウォリアの肩を金物でがんがん叩いて仲間を呼び寄せた。
 テントの中からレッドや詩楼、預安やルブラットたちが姿を見せる。
「お、早速敵か?」
「奇襲っすか!? アンブッシュっすか!?」
 やってやるっすと言いながらシュッシュとシャドウするレッドは、砂から一本だけ出ている蠍の尾を見て指をさした。
「って、一匹だけじゃないっすか! あんなの楽勝っす! ぴゃっと行ってガッてやってそれで――」
 と言ってる間に、砂から身体を震わせた蠍およそ10匹が一斉に現れた。
「……滅茶苦茶いるっすー!」
「やはり囮か」
「合理的な生物だ」
「効率化は狩りの基本だからな」
「なんでみんなそんな冷静でいられるっす!?」
「お喋りは後だ。来るぜ」
 詩楼は格闘の構えをとると、翼を大きく広げ威嚇するように羽ばたかせた。
 砂から姿を見せたジャイアントスコーピオンたちは脚をじゃかじゃかと走らせ船へと接近してくる。乗り込まれると非常に面倒なので、ここは降りて戦うべきだろう。帆を畳んで船がとまったことを確認すると、詩楼は翼をばたばたとやりながら船から飛び降りる。
「ぱぱっとぶちのめしちまおうぜ!」
 彼を捕まえようと巨大なハサミを突き出してくるジャイアントスコーピオン。それを正面から両手で受け止めハサミの上下をがっしりと掴んで『わざと閉じさせる』ように押さえ込んだ。通常の蠍がどうなのかは知らないが、このジャイアントスコーピオンはハサミを閉じる力は凄まじいが開く力は弱いらしい。
 がっちりと掴まれ、もがきながら引き離そうとするジャイアントスコーピオンの顔面に思い切り蹴りをうちこむ詩楼。
 その直後、甲板から助走を付けてジャンプした暁蕾が着地と同時に繰り出すパンチでジャイアントスコーピオンの背を打ち砕いた。
「我が名は暁蕾! 此の拳を以て、道を拓かせてもらうぞ!!」
 吠えるような叫びに、二匹のジャイアントスコーピオンが同時に襲いかかる。
 オラッと威嚇の声をあげその攻撃をうけとめる暁蕾。
 止めると言っても思い切り両腕をハサミではさまで、今にも左右に引きちぎられそうな勢いだ。
 が、暁蕾はギラギラするような獰猛な笑みでそれをこらえ、力業で左右のジャイアントスコーピオンを押さえ込む。
 押さえ込まれるというかむしろ、やけにしぶとい獲物にムキになるような調子で食らいつくジャイアントスコーピオンだが、そこへ預安と瑠々が勢いよく襲いかかった。
「一人で押さえ込むなんて無茶だって」
 スッと横向きに飛ぶことで射線を確保し、預安は両手を前に翳す。溢れた嵐の魔力が砲撃となり、ジャイアントスコーピオンを穿つように貫いた。
 そして、思わず手を離したジャイアントスコーピオンと暁蕾の間に割り込むと広い範囲に向けて魔力障壁を展開。詩楼もまとめて庇いはじめる。
「船旅では役目がなかったからな。ここでキッチリ仕事させてもらうぜ」
 一方瑠々はフリーになったジャイアントスコーピオンめがけて突進。大きく赤い旗を振ってみせるとジャイアントスコーピオン数匹の注意を引きつけた。
「ほらほら、殺して見な」
 標的を瑠々にうつし、その身体からは想像もつかないような俊敏さで跳躍。襲いかかるジャイアントスコーピオンたち。
 無数のハサミが瑠々の首や腕、胴体や足に食らいつくが、まるで鋼を掴んでいるかのように食い込まない。
「蠍に期待するたあヤキが回ったかな」
 自嘲気味に笑う瑠々。
 蠍の知能では瑠々が物理攻撃無効化結界を体表にはっていることが理解できないのだろうか。それとも瑠々の防御の秘密を探ろうと試行錯誤しているのか。今度は閉じたハサミをハンマーのように叩きつけてくる。
「デカい蠍っす! きっとロブスターみたいな味する筈っす!」
 できれば食べたいっす! と言いながら飛びかかるレッド。旗槍をジャイアントスコーピオンに突き刺すが、その先端が僅かに甲に刺さる程度だ。が、それで充分。レッドは至近距離から魔力を直接注ぎ込んだ。
 ぶくっと風船のようにふくらんだジャイアントスコーピオンが、赤い魔力の爆発を起こす。
「砂漠の蛋白源……って、間違えて破裂させじゃったっす!?」
「なんだ。身を残して殺したいのか」
 ウォリアがなるほどとつぶやき、剣を振りかざす。大上段に構えた姿勢のままドッと走り出し、砂を舞い揚げながら跳躍。
 その重量を思い切り乗せた斬撃を、別のジャイアントスコーピオンへとたたき込む。
 爆発のような音と共に吹き上がる砂。
 砂のはれた後には、左右真っ二つに切断されたジャイアントスコーピオンが残っていた。
「こうか?」
「完璧っす!」
「……完璧、なのか……?」
 砂漠で倒したモンスターをそのまま食うことは、まあそんなに珍しくはない。
 ジャイアントスコーピオンは毒をもっているし、食材として適しているかといえば微妙な筈なのだが……。
「ん?」
 ラダはライフルで的確に残りのジャイアントスコーピオンを牽制しつつ。違和感に気がついた。
 ウォリアの倒したジャイアントスコーピオンは身が綺麗に残り、どういうわけか毒を作り出す部位だけを見事に外した状態で敵を切断していた。
「可食に適した倒し方だと? やるな……」
 ウォリアの装備の効果だろうか。ラダは感心したように頷き、そして新たな標的をスコープにとらえる。
 トリガーを引けば、ジャイアントスコーピオンの頭部がパキャッと爆ぜるように破壊されその場に崩れ落ちる。
 身体に分泌されているであろう毒のある体液が流れ出し、すぐに砂漠の砂に吸われていった。
 たとえ崩れていない身を食べようとしても、全身に行き渡った毒液でしびれやめまいをはじめ様々な症状に苦しむことになるはずだ。
「理屈ではこうなる」
 などと一人で納得していると、ルブラットが懐からメスのようなものを取り出し指の間に三本挟むように握り込む。
「さて、残りは……」
 瑠々たちが引きつけていたジャイアントスコーピオンが我に返ったように頭をあげ、ルブラットへと向き直る。
 が、その時には既にルブラットがジャイアントスコーピオンの上を飛び越えていた。
 棒高跳びでいうところのベリーロール(またぐようなフォーム)での飛び越えだが、残した腕がひっかけるようにジャイアントスコーピオンへメスを突き刺し、ごろんと砂を転がったあとにはビクビクとけいれんし、泡を履いてその場に崩れ落ちるジャイアントスコーピオンが残った。
「これでよし……と」
 ルブラットは起き上がり、そして仲間達の様子を見る。
「怪我をしている者はいるか?」
「大丈夫そうだ。皆無事だな!」
 暁蕾がカッと目を見開いて笑う……が、暁蕾の両腕がなんか青紫色になっていた。しかもなんか3割増しくらいに膨らんでいる。
「…………」
「…………」
 視線があつまる。
「めちゃめちゃ毒にやられてるっすー!」
「本当か!? 本当だ!」
 戦いの興奮で気付いていなかったのだろうか。暁蕾がぎょっとしているが、ルブラットが任せたまえと言って膨れ上がった部分に手をやった。
「ただの毒だな。タランテラで治るだろう」
「たらん……てら?」
 聞いたことないなという顔で目をぱちくりさせる預安。
 そして――。

「踊れ、踊れ、毒が抜けるまで」
 6/8拍子の速いテンポで奏でられる太鼓の音。
 ウォリアがそれを演奏しているのだが、大柄なフルプレート鎧が小さな太鼓をハイテンポで叩き続ける光景というのはそれだけで結構なシュールさである。
 しかもその前では両腕青紫の暁蕾がテンポに合わせて踊り狂っていた。
 なんだこの光景はという顔で預安と瑠々が眺めていると、ルブラットが当然だという顔で頷いている。
「ナポリ発祥の舞踏療法だ。毒蜘蛛に噛まれた者はタランテラにのって踊り続けなければならない」
 うそだあ、という顔で振り返る二人にルブラットが『見ろ』と指を指す。
 もう一度見てみると、暁蕾の腕のはれは収まり、なんだか爽やかに汗を流しながら踊り続けている。
「効いてるぅ……」
「当然だ。瀉血と武器軟膏も試そうと思ったが、なにぶん毒だけだからな」
 ルブラットがううむとか言いながらペストマスクのような仮面の顎を撫でている。
 暫くすると、ウォリアは太鼓の音に合わせ器用に片手でハーモニカを吹き始める。
 低い音で旋律をつくった綺麗なメロディだ。
「死に向かって踊ることで生きる……か。この世界はなんでもありだなあ、おい」
 苦笑し、その場にどかっと座り込む瑠々。
「所で武器軟膏ってなんだ」
「怪我をしたら怪我を負わせた武器の側に薬を塗ると治る」
「何故……」
「ミアズマ病理論を知らんのか?」
「知るか。アズマって誰だ」
 気付くと毒の治療はいつのまにかダンス大会となり、タランテラのソロダンスがレッドとのペアダンスになり、いきなり誘われた預安たちを交えた愉快なダンスにかわっていた。
 特にレッドが纏う不思議な香りが赤い幻影のようにひいて、風景を美しく彩っていくのが印象的だ。
「随分と楽しそうだが……」
「いいんじゃねえか? 飯食って踊って星見て暮らすもんだろ、人間ってのは」
 詩楼がかなり大味なことを言いながら、採取したジャイアントスコーピオンの肉を調理している。
 本当なら調理に適さないはずのジャイアントスコーピオンだが、ウォリアが倒した個体の一部は可食に適した状態になっていたらしい。ちなみに味と食感はロブスターと鶏胸肉の中間みたいな感じである。
「夜に食うもんなら、寒さに備えて暖まるもんが良いな。生姜も交えたスープに、ポトフとか……シンプルに、焼いた肉に辛めの香辛料を使うのも良い」
「香辛料なら任せておけ。ある意味専門家だ」
 ラダは冗談のように笑うと、取り出したスパイス缶の蓋をひらいた。中身が八つに仕切られた缶には赤黄色緑と様々なパウダーが入っており、独特な香りをさせている。ラサの情緒を一缶に詰め込んだような有様だ。
「こいつをソースにして焼いた肉に塗る。臭みもとれるし、かなり美味くなるぞ」
「ラサ民やべえな」
 やがて時間は夜更けて、預安の作ったカレーも一通り食べ終わり船のそばにテントをはって眠る時間になったころ。
「なんだか、今日は初めて見たものばっかりだったな……」
 砂の船に巨大な蠍。男の料理に謎の治療法。初めて料理に挑戦してみたりもした。
 瑠々がいれたコーヒーを持ってくる。
「夜の星がこんなにも綺麗なのは初めてだ。アンタもそうか?」
「僕は……ほら、亜竜集落の出だから」
 基本地下暮らしの亜竜集落。星空自体は珍しくないとはいえ、ゆっくり眺める者は少ないかもしれない。
「アタシの生まれは……こう、そこらじゅう灯りだらけだったからな。星ってのはもっとまばらなモンだと思ってた。しかもなんか、見下されてるみてーで癪だったんだよ。ほら、よく言うだろ? 人気者のことをスターつってさ」
 そう言いながら、腰を下ろした瑠々が空をぼうっと見つめている。
「この星は違えのか?」
 残った野菜をコンソメブロックで煮込んだスープを持ってきた暁蕾が椀を差し出す。
 瑠々は肩をすくめ、そして星を見上げた。
 同じように見上げる暁蕾。
 降ってくるような星空なんて表現があるが、まるで自分が星の畑に落ちていきそうな気分さえした。
「ハハハ! なるほどな、こいつはいい!」
 声をあげてげらげら笑う暁蕾。空ひとつでそんなに笑うかという感じもするが、ここまでの星空を見ると笑ってしまうのも無理はないなと、預安は思った。
 一方テントの中では。ルブラットが日記を付けていた。
 横でウォリアがテントの外を眺め、じっとしている。物思いにふけっているのだろうか。
 レッドはぐっすりと眠り、ラダはまだ眠れないのか空をぼうっと見つめていた。
「慣れぬ者にはつらい旅だと思っていたが……」
「……ん?」
 眠りにつこうとしてつけていない詩楼が薄目を開ける。
「案外、楽しい旅になりそうだ」
 ラダのつぶやきに、詩楼は薄く笑った。
 レッドが『もう食べられないっす』と寝言をいう。
 ルブラットやウォリアがくすくすと笑ったように見えた。
 なるほど、たしかに……。
 詩楼が再び目を瞑ると、不思議とストンと眠りにおちた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――おつかれさまでした。おかえりなさい。

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