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シナリオ詳細

Territorial tears

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「はぁ、はぁ、はぁ!!」
 覇竜領域。その一角で山道を駆け抜ける幾つかの人影があった――
 翼に尻尾が特徴的なその姿……間違いない、亜竜種だ。
 ただし皆小さな子供達。全部で三人だろうか――いずれも息を切らして駆け抜けていて。
「あぅ!」
「ちーちゃん、だいじょうぶ!? もうちょっとだよ、がんばろう!」
「――わぁ! だめだ、来たぁ!!」
 刹那。一人が転んで歩みが止まった――と同時。
 その上空にワイバーンの影が見えた。
 視線を巡らせ探しているのは眼下にいる子供達だろうか。状況から推察するに、子供達が必死に走っていたのはこのワイバーンに追いかけられていたとみて間違いないだろう……子供達の背が震えあがる。幼い身ではワイバーンに抗う事など出来ず。
 このまま炎の息で燃やし尽くされるか、或いは餌として喰われるか。
 いずれの未来も遠くない――筈だった、が。
『グルァアア!?』
 直後。そのワイバーンの横っ面に放たれたのは巨大な岩だった。
 激しい痛み。生じると同時に出所を見据えれば……其処にいたのは巨大な『人』
 ――巨人、アトラスだ。
 それは魔物。覇竜領域には亜竜しかいない訳ではない……
 かの地帯で生き残る魔物もまた、強靭なる力を宿したモノがまた多くて。
「わぁ、わあ……! 巨人も来た……!」
「い、今の内に逃げなきゃ――わぁああ!!」
 そして……アトラスは別に子供達を助けた訳ではない。ただ勝手に縄張りに入ってきたワイバーンを許せなかっただけだ。小さな子供達には恐らく気付いてすらいないだろう――
 その目に抱きしは怒り。一方の亜竜もまた、己に敵意と撃を成した巨人を許しはせぬ。
 ――低い、唸り声が二つ。
 周囲を揺らす程の衝撃を発生させながら――激突すれば。
「わあああ!」
「だ、だめだぁ! そこに隠れよう!!」
 あまりの圧に亜竜種の子供達は怯え竦むのみだ。
 ワイバーンが空を舞えば突風が身を浚わんとし。
 アトラスが地を踏み染みればまるで巨大な地鳴りの如く……
 これではとても動けないと、見つけた先は小さな洞穴だ。
 外にいるよりはマシだろうと駆け込んだのだが……ワイバーンとアトラスが衝突する度に、天井に亀裂が走りて、今にも崩れそうな雰囲気を醸し出している――
「だ、だれか助けてえ……!!」
「えーん、えーん!!」
 外に出れば魔物が。内に居続ければいつかは生き埋め。
 悲しき泣き声が発されるも。二つの闘志により――掻き消えていた。


「緊急の仕事が入ったよ――亜竜種達の子供を三人、救出してほしいとの事だ」
 そしてギルオス・ホリス(p3n000016)はイレギュラーズ達に語る。
 覇竜領域の山間部で行方が分からなくなった子供達を探してほしいと。
 事の始まりは少し前……集落の近くに亜竜達が現れた事が原因だ。いや現れたというよりも近くまで迷い込んできたというのが正確な表現らしいが――ともかく。亜竜らの接近により少しだけ騒ぎが生じてしまった。
 尤も。その亜竜達は結局集落へと至る事なく去り、騒動もすぐに鎮静化したのだが……
 問題は、その際に親とはぐれてしまった子供達がいたという事。
 まさかうっかりと山の方に近付いてしまったか――?
 そう思い探しているのだが、まだ見つからぬと。
「もしも山の方に迷い込んでしまっていたらまずい――山の方には亜竜……ワイバーンの事だね。彼らが多く生息しているし……それ以外にも魔物も生息しているらしいんだ。この辺りだと最近、巨人アトラスの姿も目撃されている」
「――巨人、か」
「ああ。ワイバーンは空を飛んで火を噴くなどと言った特徴があるけれど。
 アトラスは空を飛べない代わりにワイバーンよりも堅い肉体を持っているんだとか」
 いずれに見つかっても子供達の身が危ないと――イレギュラーズ達に依頼が来たわけだ。
 子供達が迷い込んだならこの辺りにいるのではないか? という予測は付いているのでそちらへと向かってほしいらしい。もしも道中に魔物がいるのならば撃退してほしいらしいが……
「まあ必ずしも撃破する必要はない。最優先はとにかく子供達の救助だからね」
 例えば魔物がいたとしても、誰かが時間を稼いでいる内に子供達を連れて脱出しても良い訳だ。無論、魔物の脅威を排除できるのならばそれが一番だが。
「だけど気を付けてね――覇竜領域は、過酷な地だ」
 そこで生き残っている魔物や亜竜は決して弱くなどない。
 万全の準備を整えて向かってほしいと、ギルオスは言を紡ぐのであった……

GMコメント

●依頼達成条件
 亜竜種の子供達の救出!

●フィールド・シチュエーション
 覇竜領域の山間部です。時刻は昼なので、視界には問題ないでしょう。
 子供達が迷い込んだとされる地点を皆さんには担当して頂きます――付近を捜索していると後述する二体の争いが見えてきます。捜索に特化した非戦などがあるとスムーズにその場所まで行くことが出来るでしょう。

 そして近くに小さな洞穴があり、そこに救出対象の子供達がいます。
 魔物達は常に争っていますので、放置していても勝手に体力を削り合ってくれます……が。近くの洞穴はそう頑丈ではなく戦闘の余波で崩れてしまう可能性もありますので、救出は急がねばならないかもしれません……

●亜竜『ペトラ・ワイバーン』×1
 空を飛ぶワイバーンの一種です。炎を吐き、空を舞います。
 元々子供達を追っていた存在です。食料にでもしたかったのでしょうか……
 優れた爪や牙を持ちますがアトラスに比べると身体能力自体は劣ります。反面、機動力や反応など素早さに特化している様です。また、遠くまで見据える事が出来る『目』を持っており狩人としての性質にも優れています。

・炎息(A):範囲攻撃です。【火炎】系列のBSを付与する事があります。
・羽搏き(A):範囲攻撃です。【足止】【痺れ】系列のBSを付与する事があります。

●魔物『アトラス』×1
 所謂巨人的な種族です。
 歩くだけで地響きが起こるなど、人を遥かに超える巨体は強靭にして堅牢です。優れた身体能力を持ち単純な殴り合いではワイバーンよりも分がある様に見られます……ただし飛行能力を持たず小回りが利く様にも見えません。

・遠投(A):近くの岩や石を放り投げ遠距離攻撃を行います。投げたモノによって威力や攻撃範囲が変わります。
・地砕き(A):単純に殴りつける。それだけの代物ですが、非常に高ダメージを齎す強力な一撃です。

●亜竜種の子供×3人
 山間部に迷い込んでしまった子供達です。
 皆、洞穴の中で身を縮めて怯えています。
 この子達を救出してあげてください――ッ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • Territorial tears完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ティヴァ(p3p010172)
笑顔を守るために
雨涵(p3p010371)
女子力(物理)
神無月・明人(p3p010400)
天邪鬼
紲 月色(p3p010447)
蝶の月
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 同胞が危険に晒されている――『紲家』紲 月色(p3p010447)にとっては十分な理由であった。例え何処の集落の子であろうと待っている家族がいるのであれば。
「急がなければな――魔物共に既に会っていないとは限らない」
 その歩みを留める理由になろう事か。
 覇竜領域の山を往く。優れた三感をもってして、周囲を索敵するのだ。
 子供達の声が、姿が見えないか。目を凝らしていれ――ば。
「チッ、ケツの青いガキどもの救出たぁな……
 クソ仕事なんてのはよぉ、さっさと片付けるに限るよなぁ、オイ?」
 同時。『天邪鬼』神無月・明人(p3p010400)は頭を掻きながらも――切なる願いの依頼を果たさんと周囲に探知の力を巡らせるものである。それは助けの声色を感知しうる術の一端。子供らが不安がっているのでれば、この術の出番であろうと。
 綿密に張り巡らせながら歩を進めるものだ。さすれば。
「これは――近くで助けを求める『声』がありますね」
「うん。リースリットさんの言う通り、間違いないと思う。こっちの方角」
 同時に『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が同様の術式を張り巡らせ『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)も、周囲を俯瞰する様な広き視点と共に子供達を捜索するもの――
 さすればその一角に捉えるものだ。何者かの『助け』を求める感情の色が。
 効果範囲内の何処かにいる、と。思ったその時。

 その声とは別の、激しく響き渡る激突音も耳が直接感じるものだ。

 一体何事かとリースリットが、かの方向を見据えれば……
「この状況は……ワイバーンと巨人が相争って……?
 まさか子供達はワイバーンに追われて、巨人の縄張りに迷い込んだ?」
 ワイバーンと巨人――両者の攻防が目に映るものだ。
 空より炎を撒き散らし、近くの岩を掴んで投げる応酬。
 ……まさかあの渦中に? 恐らく『そう』なのだろうと思えば。
「ドコカナ……子どもダカラ、キット岩の隙間とかに隠れてイルヨ。
 探シテ見ツケヨウ。多分、ソンナニ遠クニハ、居ナイト思ウ」
「そうだね……でもその為にもまずは、あの巨人たちを退かさないといけない、かな」
 『笑顔を守るために』ティヴァ(p3p010172)が周囲の温度で妙な点が無いかを探し――更には『女子力(物理)』雨涵(p3p010371)は戦闘の前に一度、耳を澄ますもの。近くでは巨人たちが動く大きな音で探りにくいが……しかしまだ探しようはあるものだ。
 子供達の発する……物音とは違う『声』を聴き分ける事。
 どこだろうか。小さい子達の筈だ、怪我をしたら大変である。
(……早く助けに行ってあげないと)
 彼女は、強き意志と共に此処に在るのだ。
 ……覇竜領域は過酷な地。であるからこそ、雨涵の様な亜竜種は常に危機に晒されてきた。
 あらゆる脅威に。こんな事ばっかりで嫌になる事も一度や二度ではない――

 だからこそ、もう、乗り越えるのだ。

 亜竜や魔物の横暴を許し続けてたまるか――
「魔物を引き寄せる事は俺達がする。子供達の救助は頼んだぞ!!」
「ええ! 巨人たちの注意が逸らすわ! 朱華達も行くから、任せたわよ……!!」
 直後には即座に『黒狼』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)に『炎の剣』朱華(p3p010458)が動き出すものである。
 子供達をハッキリと目にしている訳ではない。しかし、もしも本当に子供達が此処のどこかにいるというのなら――危険だ。このままアレらを暴れさせることは。故、奴らの注意を引かんとベネディクトは己がワイバーンと共に飛翔し滑空する。
 ワイバーンと巨人。それぞれの視界に入る様にわざと飛び回りて。
 であれば朱華も、その動きに呼応する様に前に出るものだ。
 戦闘の余波で子供達が隠れている場所が壊されぬ様にと結界を巡らせて、往く。
「どこだ――くっ、急がねば……! 必ず、必ずこの辺りにいる筈だ……!」
「ガキ共の背丈なら大仰なスペースはいらねぇ……こまけぇ洞穴の方が本命か――?」
 であれば。注意を引きつけている間に救出を託された月色と明人が急ぐものである。
 子供達は近い筈だと。だから急ぎつつも焦らぬ様に。集中し、意識を研ぎ澄ませて――

『えーん! えーんっ!』
『おかあさーん!!』

 刹那。月色の耳に『声』が聞こえた。
 それは幼き同胞達の声。
 悲鳴の色に染まりつつも……しかしそれはまだ、子供達が無事なる証でもあった――


 ベネディクトが名乗り上げる様にワイバーンと巨人の間へ往く。
 そこでぶつかり合う訳ではない。先述の様に、あくまでも彼らを引き付ける為の軌道だ。
「同じワイバーンが横から仕掛けて来たんだ。気にならない訳じゃあるまい?
 さぁ此方へと来い。思う存分、望むがままに相手をしてやろう」
『――!!』
 直後、放つは槍の投擲。全身の膂力から投じた一閃がワイバーンを狙い穿ちて。
 さすれば怒れるワイバーンがベネディクトへと炎の吐息を紡ぐもの。
 いいぞ、狙い通りだ――更にワイバーンへと紡がれたのは、遠撃の一手。
「……だいぶ、こいつの扱いにも慣れてきたかな」
 ハリエットの一撃だ。研ぎ澄まされた集中から放たれた射撃は、空の壁すら突き破る。
 ……子供達の為にも彼らを自由にさせる訳にはいかない。
 きっと怖い想いをしているだろう。震えて泣いているに違いない子供達を――これ以上怖がらせない為にも、だ。ハリエットの集中が更に研ぎ澄まされ……第二射へと備える。
 不思議だ。『なら、助けに行かなきゃ』と思えている自分の姿が。
 ……だって。自らはずっと『死ぬなら死ね』の世界で生きていたから。
 もしも子供達が死んだとしても『仕方のない事』と受け止められていた筈なのに――
「ワイバーンをもっと引き付けないと。
 子供達が近くにいるなら……地面に攻撃が届くだけでも危険かもしれないし」
 直後。続く形でワイバーンの攻撃を受け止めんとするのは雨涵だ。
 周囲、もしもワイバーンやアトラスの攻撃が放たれても被害が軽減される様に保護の結界を巡らせているが……意図的な攻撃であれば結界があろうと崩れ去る。故、子供らの安全の為にも更に強く、注意を引き付けねば。
 ワイバーンがその爪をもって攻撃してくれば、反撃する様に強かに叩く。
 炎を撒き散らして来れば子供達の方面には行かせぬ様に跳躍し立ち回らんとして――

「ガキ共ぉ! いるかぁ!? 今の内だ、早くこっちに来ぉいッ!!」
「助けに来たぞ! ああ、よく無事でいてくれた!」

 そして。ワイバーンらへの攻撃が紡がれている頃――明人と月色らは遂に洞穴を発見していた。
 ここまで至れば意識を集中させなくても耳に子供達の声が届くものだ。中を覗き込めば、三人で寄り添うように固まっている子供達がおり……故に手を伸ばして彼らの身を確保せんとして。
「わぁ、わぁ……っ! こわかったよ――!!」
「よく頑張ったな。もう泣かなくていい。すぐに集落へ帰してやるからな――もう少しだけの辛抱だ」
「怪我、ナイ? 痛いトコロ、ナイ? 大丈夫?
 ミンナ、心配シテルヨ。一緒に帰る、あともうチョット、ガンバル。ガンバロウ」
 そして子供達の手を掴むものだ。安心させる様に抱きしめて、救援である事も示してやる――子供達は極度のストレスで疲弊していようから。故にティヴァも子供達を安心させる為の言を齎せば、抱えて脱出を試みる。
 月色が一人を。ティヴァが二人を。そして明人が周囲を警戒する盾の役目として。
 故、洞穴より出る前に周囲の確認を明人がすれば――
「ッ! 重い、一撃ね……でも負けないわよッ!
 この程度で朱華を倒せると思ったら大間違いなんだから!」
 刹那、大轟音が轟く――それはアトラスと朱華の攻防の余波だ。
 恐らくアトラスが近くにいた朱華へと拳を降り注がせたのであろう……その巨体から繰り出される一撃は数こそ多くないものの、激しい。迂闊に防の構えが遅れれば、致命的な一撃ともなり得るかもしれない――
 だが、アトラスは後だ。
 朱華はアトラスからの撃に注意は向けつつも、狙いは空を舞うワイバーンへと。
「打ち落としてあげるわ……! 絶対に、乗り越えてみせるんだから!!」
 彼女の刃が真なる力を纏う――
 それは炎を纏いてより苛烈に。振るえば彼方まで貫く一撃と化そう。
 ワイバーンには負けられない。亜竜の脅威に屈しては、いつまで経っても穏やかに暮らせる日など訪れないから。だから、朱華の全霊は今この時を乗り越えんと振るわれてッ――!
『ガ、ガガ……! ァ――ッ!!』
「動きが鈍ってきましたね。アトラスとの戦闘が既に始まっていた事もあるのでしょうが……このまま確実に削っていきます。仕留めましょう」
 ワイバーンの金切り声。先程までは威嚇する様に、或いは威圧する様に声に張りがあったものだが――段々弱まってきているとリースリットは感じるものだ。
 アトラスとの攻防。そこから加わったイレギュラーズ達の攻勢は、主にワイバーンに注がれていたのが主な理由だろうか。空を自由に舞うワイバーンを残していては、また同じ事が起きるやもしれぬ――その懸念があったが故に。
「迷い込んだだけやもしれませんが、これも運命でしょう。お覚悟を」
 彼女は紡ぐ。己が風火の理。雷の魔術を纏わせた――一閃を。
 ワイバーンを叩き落すように。さすれば死間際の抵抗かワイバーンが風を発生させ、イレギュラーズ達を幾人か巻き込むが……しかし、その一撃だけではイレギュラーズを打ち倒すには至らぬ。
 ――落ちる。空を飛翔していた、ワイバーンの影が。
 だが。
「投石が来るわよ――気を付けて!」
 雨涵の警告が飛んだ。
 それは残っていたもう一体。アトラスからの一撃――
 子供達が離脱するまでのあと一時、この『力』を凌ぐ必要がありそうだと、誰かが直感していた。


「――行け! 今の内だ、岩の影に隠れながら進めェッ!!
 遅れれば死ぬぞ! キリキリ動きなぁ!!」
 衝撃。それは、アトラスによるモノだ。
 奴が生じさせる拳や岩を用いた投擲はあまりにも威力がある――既に、先程子供達が隠れていた洞穴は崩れ去っていた程に。危ない所であった……保護なる結界による時間稼ぎや、数々の綿密な索敵行動があったが故にこそ間に合ったが後一歩遅れていたら……
 ――いや、斯様な想像をしても仕方ない。
 それよりも明人は周囲を統制する様に声を張り上げるものだ。
 自らは壁として前に出て、衝撃の余波などがあればガキどもを護ってみせよう――
 ああ、クソ。
「面倒な仕事だぜ……! さぁ行きなッ! クソガキ共の泣き声なんざ耳障りなんだよ!」
 こんな面倒、仕事だから引き受けているだけなのだと――
 天邪鬼な彼は乱暴な言葉と共に子供達を護らんとする。
 その意思は、瞳には確かなる意志を宿しながら……
「ワイバーンは――おらぬか。しかし巨人の方がまだ残っているようだな……!
 だが片方いないだけでも、随分と気が楽になるものだ……!」
「皆、モウチョット我慢、シテネ。安心シテ。ティヴァ、必ず皆を集落に届ケルカラ」
 そして月色が向こう側の戦況を確認しつつ、ティヴァが子供達を抱えて――往く。
 ワイバーンとアトラス両方がいる場合、二方向からの追撃を警戒せねばならなかった。しかしどちらかがいなくなれば、一方向からの警戒だけで済むのは、護衛の観点からして大きかったのである。そして何より、子供達に気付かれてもなお、奴の往く手は味方が塞いでくれる事も可能なはず。
 故に月色が成すは全霊をもってしてこの場より離脱する事。
 ティヴァも警戒しつつ子供達と共に――さすれば。
「ッ! 岩、破片が飛んでクル! 危ナイ!!」
 刹那。アトラスが飛ばしたであろう巨岩が砕け――破片が飛来。
 即座に動いたティヴァが子供達を庇うものだ。身を抉る様な痛みが体に走るも、しかし。
「わ、わぁ……! だいじょうぶ!!?」
「ウン、大丈夫ダヨ――」
 それはティヴァを脱落させるには足らないモノだ。

 ――ティヴァ、子どもの笑顔スキ。ミンナを必ず集落に届ける。
 ティヴァはキット、ソレが幸せダカラ――

 再度、足に力を入れる。肉体の損傷を回復する加護と共に。
 あと一歩。あと一歩守り切れば――幸福なる結末が見えてくるのだからと。
「くっ。流石、覇竜領域に住まうモノでしょうか……二体目となると、厳しいですねッ」
「散開しましょ! 纏まってるとアトラスが狙ってくるわよ――ッ!」
 一方でアトラスとの戦況は一進一退であった。
 数の上では有利なイレギュラーズ側だが……しかしワイバーンを気にする必要がなくなったアトラスもまた、全力を目の前に投じればいいだけの事。縄張りに侵入してきた愚か者たちを仕留める為に拳を振るい巨岩を投げつけるものだ。
 それらに対しリースリットはアトラスの動きを鈍らせる高位の霧氷魔を展開。
 更に朱華の更なる炎の斬撃が巨人へと振るわれ、その身を削らんとする――
 が。アトラスは堅い。堅牢な耐久性そのままに押し攻めて来るものだ。ワイバーンからの炎や風によるダメージがイレギュラーズ達を蝕んでいれば、単純に数が勝っているからと楽観視は出来ず……
「でもあと一歩。なんとか耐えてみましょう……子供達が出れば、退ける」
「ああ。当たれば大きいが、付け入る隙は十分にある。落ちついて行こう。
 ワイバーン程動きが素早く無い点を重視するんだ――俺達も必ず、無事に帰るぞ」
 しかし、だからこそとも言えるが――ワイバーンを先に倒したイレギュラーズ達の判断は間違っていなかったと言える。もしもワイバーンが生き残っていれば、素早く子供達を見つけて空を舞う機動力の儘に護衛側に追いついていたかもしれない。
 そうなれば、はたして子供達は無事だったかどうか。
 アトラスならば深くは追ってきまい。追って来たとしても素早くない存在なら逃走も十分可能と雨涵やベネディクトは冷静に状況を鑑みるものだ――雨涵がアトラスからの攻撃に耐えるべく自らの傷を急速に癒し続け、ベネディクトは再び己がタイニーワイバーンと共に。
 いつまでもいつまでも張り付いてやる。奴が鬱陶しいと思う程に。
 槍を振るいてその身を削る――さすれば。
『ガアアアアッ!!』
「また大きな岩を――そうはいかないよ、こっちを向いてもらう」
 刹那。再びアトラスが岩を掴む。
 どこへ投げるのか。ベネディクトなどの方に投げればまだ良いが子供達のいる方向に重なっても困ると――撃を紡いだのはハリエットだ。狙撃しやすい位置に常に移動しながら放つ彼女の一閃が、アトラスの腕部を穿ちて。
 故、というべきだろうか。
 アトラスが怒りの儘に――ハリエットのいる方へと巨岩を投げつけた。
 絶大なる衝撃がハリエットを襲う。岩の破片が頭部に直撃して――
「――あぁ」
 でも『良かった』と思ったんだ。
 これが、また子供達のいる方向に投げられなくて。
 額が切れ、流血を伴っても尚に安堵の感情が強く……そして。

「――っし! おぃ、ガキ共は集落方面に迎えたぞ! 撤退しろ撤退ィ!!」

 直後。明人の声が響き渡れば、子供達の方面に気を向けていた雨涵の耳にも届くものだ。
 それは子供達の安全が確保されたという事。
 ならば魔物の討伐が主ではない場にてこれ以上留まる意味はない――或いはアトラスを撃破寸前であればまだ戦っても良かったかもしれないが、しかし子供達の護衛に人数を裂いた状態でワイバーンもアトラスも両方体力を削り切るには今一歩手が足りなかった。
「仕方ないわね、退くわよ! 急いで!! アトラスが次の岩を掴む前に!!」
『――!!』
「怒ってるの? でも悪いわね――こっちにも事情があるんだから!」
 故、朱華も含めて撤退行動に移るものだ。アトラスは己が縄張りで行動し続けたイレギュラーズ達に憤慨している様子を見せているが――しかしこれ以上付き合う道理もなければ、退くものである。投げつけられる岩を躱し、身を隠して集落方面へとそれぞれ……

 やがて闘争の気配が完全に消える――撒いたか。

「わーん! おにいちゃん達、ありがとう!!」
「ああ。今度は親から逸れないようにな――さぁ、家族の下に帰るのだ」
「怪我などはなかったのか? 次は迷子にならぬ様にな、十分注意しておくのだぞ」
 そして、集落の傍にて合流するイレギュラーズ達。
 月色やベネディクトが子供達へと声を掛ければ。
「助かってよかったね。怪我はない?」
「うん! おねーちゃんもありがとー!!」
 負傷しているハリエット達に、子供らは御礼も紡ぐものだ。
 ……あぁ、ほんと、よかった。
「……『助からないいのち』は少ないほうがいいし、ね」
「バイバイ――マタドコカデ、会おうネ」
 ティヴァを始め、手を振って別れるイレギュラーズ達。
 なにはともあれ子供達が無事で本当によかったと……
「お前もお手柄だったな。よくやってくれたぞ」
 そして。グルル、と。
 主人たるベネディクトに首を撫ぜられご満悦な様子のタイニーワイバーンもあらば。
「はぁ全く……こんな仕事、二度はゴメンってもんだぜ」
 最後に、明人が紡ぐものだ。
 最後まで口からは粗暴な言の葉を零しながら。
 しかしその胸中には、子供達が助かったという確かなる成果を――実感しながら。

成否

成功

MVP

ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

状態異常

ハリエット(p3p009025)[重傷]
暖かな記憶
雨涵(p3p010371)[重傷]
女子力(物理)

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 覇竜領域には様々な危険がありますね……
 亜竜種達と言えど、きっと毎日楽に暮らせるという訳でもないのかと思います。

 ありがとうございました。

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