シナリオ詳細
ゴリラが全てを駆け抜けていく依頼
オープニング
●筋肉は全てを解決する
サラリーマンがいた。40台サラリーマンである。
20年近く務めた会社でやっとそこそこの中間管理職になった彼は妻も子供も持ち、そこそこの家庭でそこそこの生活を送れていた。
仕事は楽しくない。当然そういうものだと、20年ずっと自分に言いきかせていたので慣れた。
家庭は温かくない。妻の愚痴と反抗期の娘がどこか近いようで遠い存在に思えるが、どこの家庭もそうだと聞いている。特別不幸なわけじゃない。
明日にやることは決まっていて、それはおおよそ昨日と同じことだ。
特別楽しいことや、嬉しいことはない。極々小さなお小遣いの中で生きていくには感情の高ぶりに期待するのは身の丈に合わないからだ。細々とした娯楽を、細々とした小銭入れと相談しながら日々のストレスをやり過ごす。そういうすべを覚えて生きた。
子供の頃は何かのパイロットやヒーローになりたかった気がするが、それも珍しいことじゃなかった。誰もが抱いて誰もが捨て、皆同じように社会の歯車として生きていく。
ただどうしてだろう。たまに酒を飲んだ帰り道、無性に涙がこぼれ――。
「ウホッホ!」
ビルを外壁っていうかビルまるごと突き破ってコンバルグ・コング (p3n000122)が現れた。
「夢、イラナイ! 将来、考えなくてイイ! ツヨケレバ、楽しく生キテイケル!」
コングは突如サラリーマンを片手でヒョッて掴んで持ち上げるとゴリラジャンプで民家の屋根から屋根へと飛び移るように夜を駆けた。
雲も月も今月の営業成績も、全てを置き去りにしてコンバルグ・コングは大空へと飛び立った。
ビルの外壁を垂直に駆け上がり、屋上へと立ちドラミングを始めるコング。
その肩に乗ったサラリーマンは、己の心にかかっていた明けない夜のような霧がどこかへ消えていくのを感じていた。
同時に、自らの永遠に来る返されるハグルマ人生が終わろうとしていることも。
「ウホァーーーー! ホッホッホッホッホ!」
笑うコングの声は、全てをあざ笑っているようで、どこか全てに優しく微笑みかけるようでもあった。
「そうだ。僕は……僕の人生は、もう!」
「ツイテコイ、オマエ、今日から、ゴリラになれ!」
「ハイ!!!!!!!!!!!!!!」
●ビフォーアフター
「ボク、サラリーマンゴリラ! いや、サラゴリラ!」
そこにはゴリラがいた。
身長2mの毛深いマッスルゴリラ男がそこにはいた。丁寧にむいてバナナを囓ると、それを形態バナナ皮袋へ丁寧にしまって懐(ふところ!?)にしまいこむ。
黒縁の眼鏡をぶっとい指で直すと、おもむろにドラミングを始めた。
「ボク! 社会にツカレタ! モウ、中間管理職、イヤ! 会社イッテ、ヤメテクル!」
たまたま通りかかったコングの半年にわたるゴリら式トレーニングによって心身共にゴリラとなったサラリーマンいやサラゴリラは、もはやこれまでの男ではない。
屈強な肉体は全てを粉砕し、病気怪我は勿論事故や災害すらもはねのけるだろう。
更に屈強な精神はあらゆる苦難を粉砕し、己の手でつかみ取るバナナと毎日のドラミングとダンスによって幸せバラ色の人生を自ら作り出すだろう。
もはや彼が恐れるものはない。己の肉体と精神つまりゴリラさえあればいいのだ。人生の最小単位にして最強の切り札をもった彼は、これまで彼を縛り続けていた会社も家庭も人付き合いもその全てから解放されることを決断できたのである。
「だが社会は重くしつこく人生にからみつく」
そう、コングは呟いた。それまでのゴリラゴリラした口調から一転、低く重いかれの口調は賢者のそれである。
「サラゴリラだけでは、同じ糸に絡め取られた者たちから逃れられない。だからこそ……オマエタチ!」
ウホァーと叫んでこちらを振り返る。
そこにはあなた――いやローレットゴリラーズが並んでいた!
「イマカラ、スベテ、ぶち壊していく! 夜が明けるまでに!」
ビルの外に日が沈む。屋上のフェンスをクロスアームで突き破って迷うことなく飛び出したコングは、両腕を広げ世界へ吠えた。
フェンス越しに重なるコングと沈みゆく茜色の太陽。
その姿は、僕たちに確信させた。
次の日が昇るまでに、サラゴリラを縛る全てを粉砕するのだと。
- ゴリラが全てを駆け抜けていく依頼完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2022年03月27日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●沈むようにゴリラ、溶けていくようにゴリラ
オフィスビル6階。鉄帝式エレベーターの扉が開き、一人のサラリーマンゴリラいやサラゴリラが姿を見せる。
勇敢なナックルウォークは通路を通りがかる社員たちを唖然とさせ、誰もがすれ違うゴリラを振り返る。
己の務める部屋の前に立った所で、サラゴリラは深く呼吸をした。
扉に手をかけ、開く。抜ける生ぬるい風とオフィス独特の人間臭さ。何気なく振り返ったスタッフの一人が『はぁ?』という顔をし、部屋の奥お誕生日席のようなデスクで貧乏揺すりをしていた上司がサラゴリラの顔をにらみ付けた。
「おい、何しに来た。半年連絡もしな――」
「ウホァーーーーーーー!!」
上司の背後。その壁がぶち破られた。営業成績のグラフが貼り付けられたボードもろとも粉砕し、姿を見せたのは『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)であった。
両手の拳を前に突き出す姿勢で出現したブレンダもといブレゴリラは『フンッ』と鼻息を鳴らし上司を見ると、自分の目の前の床を指さした。
「そこに並べ」
「は? 部外者は立ち入り禁」
「ならべ」
ゴリラプレッシャーは全てをはねのける。そう、ゴリラの社会性は協力関係をとりながらも他人は他人と割り切る姿勢を常に持っている。同情もするし愛情も注ぐが、他人が解決すべき問題は当人の課題であるとして歩み寄りを行わない。ゆえに他人から浴びせられる『自分に何かをしてくれ』という全てのプレッシャーをはねのけるのだ。
言われるまま立った上司と周囲の部下達。ブレゴリラはそれを端から眺めると、横から順になぞるようにバーーーーッてビンタしていった。
パアアアアンッ!? っていう連なった悲鳴が響き、まるでそれはハープを奏でる泉の妖精を思わせた。嘘である。連続ビンタコンボをキメたゴリラそのものである。
「責任? 慣習? うるせー!!!」
もっかい上司だけビンタするブレゴリラ。
「ゴリラにそんなものはいらない。必要なのは力だけだ!」
フンッと鼻息をならし振り返ると、『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)が『先輩ジブンもやるっす!』みたいなゴリラ顔でガッツポーズをしていた。
顎をしゃくってみせるブレゴリラ。
「ホラァ!」
「「パアアアアンッ!?」」
さっきブレゴリラがやったのとは逆向きに連続ビンタコンボをするリコリスいやリゴリス。
そこへのっそりと(エレベーターをシャフトごと破壊しながら)現れたコングが親指を立てると、ブレゴリラとリゴリスは同時に走り出した。
「ウホァァ!」
破壊は全てを飲み込んだ。ブレンダの指導のもと社長の像を引っこ抜いたリゴリスとサラゴリラはダブル遠投フォームで社屋に像を頭から突っ込ませ社員食堂のメニューを全部『バナナ(自力で取ってこい)』に書き換えた後メニューボードと食券販売機と何故か壁に貼られた『できないは嘘吐きの言葉』とかいう張り紙を粉砕した。
破壊は一階から順に行われ最上階までを瓦礫にかえると、呆然と見つめる社員たちを前にブレゴリラ、コング、そしてサラゴリラはドラミングを始めた。
入社いや入ゴリラ一年目のリゴリスもそれにならってドラミングを始める。もはや彼女も立派なゴリラだ。リゴリスからゴリゴリスに進化した。
そう、ゴリラは学び成長する。会社などという檻に縛られず、己の力だけで世界に対応できるのだ。もはや、恐れるものなど何もない。
「クレームの多い顧客対応、メモの字が汚かったことによる連絡ミス、マシントラブル、書類提出前日に突然言い渡される仕様変更、そんなネチネチとした社会の闇や小賢しい足の引っ張り合いなんざ知ったこっちゃねえ!」
ゴリゴリスはあえて残しておいた分厚い書類の束をビリィって引きちぎると、粉々にして空にぶちまけた。
あっけにとられ見つめる社員達。
「ビジネスマナーってなんだ! 相手が不快にならないためのマナーなら、最初からそんなことするな! お互いキツいだけだろ!」
「た、たしかに」
「ファミレスでポテト食いながら話してたほうが上手くいくだろどう考えても!」
「たしかに!」
ドラミングを終え、瓦礫と化した社屋と立ちすくむ社員達を前に、サラゴリラはもう一度深呼吸をした。
空気は、世界のにおいがした。
そんな彼の肩に、コングが手を置く。
「嫌なときは、逃げてもいい。身の丈以上の背伸びもしなくていい。
会社(群れ)の本来あるべき姿は、穴の埋め合いだ。己の穴は、あっていい。さらけ出す必要も、隠す必要もない。ただ共に生きるだけで、穴は埋め合えるのだから」
●家族とはゴリラとは
夜の住宅街を歩き、門のレバーを開く。キィっというさび付いた音と共に開いた門の先には、玄関の扉があった。
扉を開き、暗い玄関に明かりを付ける。靴を脱いであがると、リビングでなにかせかせかしている妻がいた。
こちらに気付いただろうが特になにもいわない。これが冷え切った家庭なのだろうか。それとも普通の風景なのだろうか。
妻が手を止めずに、洗濯物出す時裏返しにするのやめてよねと文句を付けてくる。
だが――サラゴリラの気持ちに棘はささらなかった。
目を瞑り、そして――。
「ウホッホ(わたしはとらごりら!)!!」
クロスアームでベランダから飛び込んだ『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)もといマリゴリラがリビングへとエントリーした。
悲鳴を上げる妻。おりてきて『ハァ?』って顔をする娘。白い虎柄のゴリラとなったマリゴリラはゆっくりと立ち上がり、右手に摩耗。左手にMアタ。両手を合わせてゴリラダブルハンマーにするとリビングのテーブルめがけてフゥンってやった。
突如として一軒家のAPがゼロを通り越し放射状のヒビがはしったかと思うと音をたてて崩壊した。
「私だってヴァリューシャと早く結婚して家庭を持ちたい!!!!! うおおおおお!!!!
ソウダ ツマトムスメモリッパナゴリラニスレバカイケツ! サラゴリラトナカムツマジクシアワセニクラセバイイ!」
一瞬煩悩を晒したマリゴリラだが、ゴリラ破壊は止まらなかった。
崩壊しつつある家屋の二階へゴリラジャンプをしながら一直線に破壊する。娘の部屋が崩壊し、四方八方に散っていく。
そこへナックルウォークをかましながら『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がゆっくりと現れ、そして騙されて買ったという絵を瓦礫の中から見つけるとゴリラパンチで粉々にした。
「オレたちはゴリラ!オレたちはカシコイ!オレたちはツヨイ!サラゴリラもツヨクなる!
そのタメにはカテイコワス!ゼンブコワス!!
カテイはイロイロなオモイデアル!だからこそコナゴナにスル!」
「オモイデ……コワス……?」
振り返るサラゴリラに、イグナートもといイグゴリラはサムズアップを返した。
「ジンセイは続いていく。過去は過去でしかない。昔がどんなによくても、過去がどんなに辛くても、今の選択肢が消えたりしない。将来のチョチクも、卒業アルバムも、関係ナイ!」
そう言いながら外に止めてあった家族用のミニバン馬車を粉砕するイグゴリラ。
「今! 今ツヨクナケレバ、フシアワセになる! 将来百億円手に入っても、今不幸ならイミナイ!」
「その通りだ」
家の柱を両手で持ってぼきってへし折るコング。
「過去の不幸が今の不幸を決めるなら、今幸福でなければ未来も幸福でいられないことになる。思い出。記念。素晴らしいかもしれない。だがそれは『素晴らしいだけ』だ。
今を生き、今を幸福にしろ。方法はヒトツだ!」
ホアァーと叫びドラミングを始めるコング。
瓦礫から全てを守り妻と娘を小脇に抱えていたサラゴリラは、共に吠えた。
将来が不安なら、不安をはねのける強さを得れば良い。強さとは、感じ方にすぎない。
心にゴリラをもつだけで、人は幸福になりえるのだ。
「コレはサラゴリラがダマサレテ買ったハンガ! コレはサラゴリラがツマに買ったユビワ! コレはサラゴリラがムスメに買ったヌイグルミ!」
一つ一つ瓦礫の中から見つけ出し、イグゴリラは丁寧に粉砕していった。
全ては過去の遺物だ。捨てられないから持っているだけものもだ。
「なぜ捨てない。何故モッテイル!? フアンだからだ! ケレドモウ、ヒツヨウナイ! ゴリラにナッタカラ!」
イグゴリラはぬいぐるみを引き裂き綿を散らすと、歯をむき出しにして吠えた。
ゴリラ式トレーニング。それは筋肉を鍛えることでもドラミングを上手にこなすことでもない。群れで生き、今を感じ、世界を感じ、宇宙を感じ、己が本来自由であることを知るトレーニングなのだ。
「ウホッホ!?」
気付けば妻も娘もゴリラとなっていた。
心のゴリラを獲た彼女たちに、もはや恐れるものはない。将来の不安も、世間体も怖くない。サラゴリラも妻ゴリラも娘ゴリラも、もはや誰かに依存せず生きていけるゴリラだ。その上で、自然に群れることのできるゴリラだ。
「コレガ……真の家族(群れ)……」
見つめ合い、寄り添う家族ゴリラ。
イグゴリラは結婚指輪をぎゅって握りしめて鉄屑に変えると、それを放り投げた。
祝福のドラミングが始まる。
マリゴリラはゆっくりと胸を叩き、そして星のまたたく空に向けて叫んだ。
「トラァーーーーーー!!」
祝福の声を受け、家族ゴリラたちは走り出した。
住宅街の舗装された道ではない。遠くに見える山に向け、ブロック塀も誰かの犬小屋も民家の屋根も飛び越え、自由にそしてまっすぐに走った。
持っていくものなどない。
家族ゴリラはもう、家族に必要なすべてを持っていたからだ。
そのすべてにしてひとつを、マリゴリラは知っていた。
●踊れゴリラ、ダンスを感じろ
「サラゴリラ……立派なゴリラになったんですね。いわしゴリラとして誇りに思います。
ですが未だに非ゴリラが貴方に纏わりついている。
ゴリラの旅立ちに相応しくありません……同じゴリラ仲間として僕が元貴方の人間関係を終わらせましょう」
『いわしゴリラ』アルプス・ローダー(p3p000034)がそのゴリラ車体をヴォンと唸らせると、何でか知らないけど生えた二本の足とゴリラアームでエンジンルームをドカドカとドラミングした。
「なぜイワシ」
「イワシは、足がはやい!」
行きますよ! そう叫んだいわしゴリラは既に走り出していた。
行き先は決まっている。サラゴリラを自分達と同じ生ぬるい人生に引きずり落としたい『友達』という名のしがらみだ。
彼らは安い居酒屋に彼を呼び出し、仕事の愚痴を言い合って『だってしょうがないよね』と言い合う集まりを開こうとしていた。
だがもう遅い! もう不要!
いわしゴリラローダーはローリングアタックによって居酒屋ごと粉砕すると、ぼうっと突っ立って煙草吸っていた人間たちをボーリングのピンみたいに吹き飛ばした。
「ヒューゥ、のっけから全速力だぜ」
『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は真っ赤なタートルネックの上に黒いジャケットを羽織ると、くわえていた煙草を投げ捨てた。
唇の上にできたうっすらとした口ひげと太い眉。なんかちょっと瑠璃雄サンっぽい風貌となった千尋はもはや千尋ではない。千尋ゴリラ……いやAKI-GORI-RAである。
「貪り尽くせ、夜明けまで」
オーオオオーオーというゴリラコーラス。リズミカルな足踏みと手拍子(ドラミング)を背に、ライトアップされた路上へと現れたAKI-GORI-RAはラップのリズムで指を鳴らすと起き上がったサラゴリラの自称友人たちの顔面を掴んで高速回転を始めた。
「ホアアァァァーーーーーーーーーーッ!!!!」
「「ウワァーーーーーー!?」」
遠心力いやゴリラ心力で彼らを放り投げると、AKI-GORI-RAは大空へと跳躍。ついでに24連勤させられてる居酒屋の店員とその制服と居酒屋の狭っ苦しいスタッフ休憩室をもろとも粉砕するとそのへんになぜかなってるバナナをもぎ取って皮ごと囓った。ニヤリと不敵に笑うと、自称友人たちを見る。
「傷をなめ合うのも悪くない。けどな、共に踊れなきゃそれはダチじゃないぜ」
そこへ巨大なアンプを両肩に担いで現れるコング。
その後ろからはリズミカルに踊りながらサラゴリラの元同僚社員ゴリラや上司ゴリラ。像を破壊された社長ゴリラ以下ゴリラたちが巨大なバックダンサーとなって続いていく。
彼らがドラミング姿勢のまま一斉に停止した途端、ザッと左右に分かれた群れの中央にはAKI-GORI-RA(千尋)とサラゴリラが現れていた。
更にザッと分かれた群れの中からいわしゴリラローダー、トラゴリラ(マリア)、イグゴリラ、ブレゴリラとゴリゴリスも現れ全員がそれぞれ思い思いのポーズをとっていた。
「yeah!」
AKI-GORI-RAの叫びと共に始まるゴリラダンス。
そう、ゴリラとは常に今を生きるもの。まるでダンスを踊り続けるように、『今』を感じ続けるのだ。
それは同じダンスである必要はない。踊っている限りリズムは生まれ、リズムがある限り共に踊ることができるのだ。それは人生という壮大なダンスでも例外ではない。
「コレが共に踊るってことだサラゴリラ」
行き先は一緒じゃない。ダンスのリズムも振りも全てがバラバラかもしれない。けれど共にあることで自分のリズムが分かってくる。そして『踊るべきダンス』も『将来目指すダンス』も無いことがわかるのだ。
「心を縛る鎖を引きちぎり、自由なゴリラとなれ。
今を感じ、越えてゆけ。この空の彼方へ」
AKI-GORI-RAとサラゴリラは全くバラバラなダンスを踊りながら、しかし刻む最低限のリズムは自然と合っていった。
踊りながらゴリラたちは町をゆく。舗装された道路も横切る馬車も関係ない。彼らの進む先にビルがあろうが砦があろうが粉砕し、彼らの歩いた跡こそが道となるのだ。
やがて妻ゴリラと娘ゴリラが、そして友ゴリラたちもが合流し、ダンスの規模は膨らんでいく。
やがてゴリラは町を粉砕し、町はゴリラダンスで包まれていく。
彼らのゴリラダンスは夜が明けるまで続き、そして――。
●そして人生に『今』がくる
気付けばサラゴリラは路上に立っていた。
明滅する街灯。夜が明けつつある空。
終電を過ぎ道を歩く人々の顔には、不思議とサッパリとした明るさがあった。
立ち並ぶビル街も、派手に光る広告看板も、手に提げていたコンビニ袋も、サラゴリラ……いや40代サラリーマン男性にはなんてことはなかった。
近くのカプセルホテルから知った顔が出てくる。それはブレンダとリコリスに挟まれるように肩を組んだ上司だった。
「おはよう! 今日は会社来るかい? オレは行く」
そう声をかけてくる上司に、爽やかに笑うサラリーマン。
「今日は行きません。妻や娘と行きたい場所があるんです」
「そうか!」
歩いて行くと、ビール瓶を持ったまま歩く千尋がアルプスローダーのシートに跨がっていた。隣では黒光りするバイクに跨がった友人たちがイカしたライダージャケットを誇らしく見せつけながらこちらを見た。
「よう、俺たちいまから飲みに行くんだ。黒ビールのみてーんだよ。あと餃子うめー店みつけてさ」
一緒に行くか? とジェスチャーする友人に首を振り、サラリーマンは歩いて行く。
我が家の前に立つと、ぱたぱたという足音がドア越しに聞こえた。ドアがむこうから開き、オシャレをした妻と娘がいる。
庭ではマリアとイグナートが野良猫をじゃらして遊んでいる。
妻がパッと笑って言った。
「ねえ、山に行かない?」
突拍子もない提案にサラリーマンは笑い、コンビニ袋を放り投げた。
「いいね、行こう!」
家族と手を繋いで住宅街の道を走っていくサラリーマン。
その背をコンバルグ・コングは見送り……そして手にしていたバナナを囓る。
あれは一夜限りの夢だったのだろうか?
もしそうだったとしてもいい。だって僕たちはもう知ったのだ。
心のゴリラを。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――gorira complete
GMコメント
●あなたはゴリラです
突然ですがあなたはゴリラです。心のゴリラです。
コングと共にゴリラトレーニングをしたあなたは今夜の間だけですが何でも粉砕できるゴリラパワーを手に入れました。手に入れてなくてもそういうことにしてください。
ここは鉄帝にある普通の町です。フッツーの町です。
そこで暮らしていたサラリーマン男はコングとの劇的な出会いによってゴリラになることを決意し、身体と心を鍛えめでたくサラゴリラになりました。
種族も何もかわってないしシステム的にはなんの変化もないかもしれませんがゴリラは心にやどるものだとおもうのでそういうことにして下さい。
もはやサラゴリラに恐れるものはありません。
己と家族をゴリラボディとゴリラハートが一生守り切るでしょう。
ですがそんな彼を常識とかいうものが絡め取ろうとしています。
それらを粉砕し、彼を真にゴリラとするのが皆さんの役目です。
長々語りましたが覚えておくべきは一つだけです。
ゴリラパワーで全てを粉砕して下さい!
●常識とか社会とか人生とかいうやつよ!
全部に対してウホウホしてると大変なので、ここはゴリラ分担をしましょう。
いまから三つのことがらを説明するので、三チームにわけて粉砕してください。ちなみにどのチームにもコングとサラゴリラは同行します。
・会社とかいう檻
サラゴリラがかつてサラリーマンだった時の檻。つまり会社です。
いいかげんな態度で責任を押しつけてくる部下。慣習に捕らわれて無駄なことばかりする上司。中間管理職の苦しみを凝縮したようなこの檻では、サラゴリラが半年出社しないとかいうわかんねー理由でネチネチサラゴリラを責めるつもりのようですので全部粉砕して下さい。
上司もスチールデスクもコピー機も営業成績グラフも全部です。社長の像もです!
・家庭とかいう沼
妻と娘が世間体とかいう食べられないものを理由にサラゴリラを縛ろうとしているようです。もはやそんなものは必要ないので全て粉砕してしまいましょう。3LDKの家も昔騙されて買った版画も妻と娘の部屋もシステムキッチンも全てです。
そもそもここは鉄帝なんだから、ゴリラになればそんなもん必要ないってことを物理的にわからせてやるのです。
・人間関係とかいうやつ
サラゴリラはもう立派なゴリラであり健全な群れを作れます。ですが古い付き合いの人間達は彼に今まで通りぬるく生きることを求めました。自分達は弱くて狭くて将来の見えない労働者なのだからこれからもそれを共有しようとかいうドラミングで伝わらないようなわけわかんないことを吠えています。
うるせー! しらねー! ぶっ壊せ! 安い居酒屋も眼鏡も全部だ!
全員ゴリラになればそんなもんいらねーんだよ! ということを友人達に分からせるのです。安酒のむのが人生じゃねえってことをバナナとドラミングで教えてやりましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はGです。
GはゴリラのGです。深く考える暇があるならバナナ食って筋トレでもしたらいいんだ!
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