シナリオ詳細
冒険プロデュース。俺らヴィラン!
オープニング
●
昼下がり。とある幻想貴族の館の庭先。
「エイッ!」
燦々と降り注ぐ陽光の下、芝生の上。まだ年端もゆかぬ貴族の少年が玩具みたいな木剣で、足元にじゃれつく小型スライムに斬りかかる。
『ペシ、ペシ』と小気味よく響く打撃音とは裏腹に、スライムのダメージは皆無に等しい。
「坊ちゃま、その調子ですぞ」
危険性の低い愛玩用スライムをつかった戦闘訓練もとい戦闘ごっこ。万が一の事故に備え後ろに控える執事が、慈愛のこもった眼差しでスライムとのどかに戯れる少年を見守っている。
「やー!」
少年はがむしゃらに剣を振り回す。
ペシ、ペシ。
ペシ、ペシ。
やがて叩かれることに飽いたのか、スライムはぷるんぷるんと震えながら少年から離れ去る。
「やりましたな。見事、スライムを撃退なさりました。爺は感涙の極みですぞ!」
「さすがは我が息子!」
「儂の孫じゃ!」
ギャラリーの少年の家族の声援もひとしおだ。
「そうかな? エヘヘ」
大仰すぎる賞賛に、少年は満面の笑顔で返す。
「ああ、僕も冒険がしたいなあ」
何度も読み聞かせてもらった物語の中の主人公、浪漫あふるる冒険譚。旅人を脅かす盗賊、村を襲う魔物の群れ、そして魔王との戦い。キラキラと瞳を輝かせ、少年は冒険の夢を小さな胸に想い描く。
●
「貴族さまからの依頼だぜ」
ローレットの情報屋『酔っ払い』ジュリエット・ノックス(p3n000036)は、今日も昼間っからワインを開けながらいい塩梅。ワインはお茶がわりだぜ、とはジュリエットの弁だ。
「お前にお前。そう、お前も。悪人面にもってこいの依頼だぜ」
悪人呼ばわりされたイレギュラーズもそうでない者も耳を傾ける。
「お前らには悪役になってもらおう。そして、退治される」
おいおい、物騒なこと言い出したぞ。
「退治っても、フリだフリ。やられたフリでもいいし、逃亡してもいい。賊の一人に扮して、冒険者に倒されるって寸法だ。
辺境の有力貴族で非常に溺愛されている御曹司の話なんだが、とても冒険に憧れているんだと。ま、男の子なら冒険に憧れるなんて誰でも通る道な気もするが、貴族さまがたはその坊ちゃんが今度10歳の誕生日を迎えるにあたって、実際に冒険をプレゼントしたいんだと。ほんと豪奢な話だぜ」
親ばか、孫ばかだなーと依頼書を眺めながら、ワイングラスを口に運ぶ。
冒険といえばイレギュラーズの領分だ。餅は餅屋に。その豊富な経験を活かし、御曹司のための冒険を一つ作り出してくれということだ。但しくれぐれも坊ちゃんの安全には留意されたし。
「坊ちゃんを愉しませる冒険をプロデュースし、ついでに悪役も演じろって依頼だぜ。やってみるかい?」
- 冒険プロデュース。俺らヴィラン!完了
- GM名茜空秋人
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年08月10日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●村
「10歳の誕生日に冒険をプレゼントなんて素敵っす。良い思い出になるように、頑張ってボクも冒険の魅力を魅せてやるっす!」
冒険を演出してくれとの貴族の依頼を受けたイレギュラーズ。『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は、村で冒険の下準備に忙しく追われていた。
まずは村人たちにお願いし『村外れの洞窟に盗賊が現れ宝や娘が奪われたので何とかして欲しい』といった坊ちゃんのクエストを作るのだ。
「あと、村では洞窟は冒険者の試練場。そこを制覇した者は冒険者と認められるなんて話を作って坊ちゃんに言い聞かせて欲しいっす! お願いするっす!」
村人に周知してもらうべく、レッドは頭をさげてまわる。
「今回は、お貴族様の坊ちゃんの冒険……の、演出っと。うん。こういうの、大好き」
流れの大道芸人『たとえ街なか空のなか』ティスル ティル(p3p006151)が楽しげに笑う。
どうせなら笑顔でいたいじゃん? どうせやるなら、坊ちゃんに思う存分笑ってほしいじゃん、とティスルの芸人魂に火が付いている。とても相性がよい依頼だった。
「まぁ同じ依頼なら、楽しいのが一番だ」
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は村から盗賊団が設定上、奪ったお宝に相応しい物がないかと物色中だ。
「なにかいい物ないか? 金目の物より大事にしてる物がいいな。って、いやいやいや、だからってパンツは要らねーよ! ああ、そりゃたしかに大事なものかもしれないが」
お宝といえばお宝かもしれないが、なんとなく自分らが奪うモノとしては相応しくない。
お宝ねえ……。ブツブツと呟きながら、ペッカートは使えそうな物を探すのだった。
●洞窟内部
「子供の頃の冒険かー。うん、懐かしいね」
今回の冒険の主要な舞台となる洞窟内で、工兵のコリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)主導のもと、ギミックが設置されていく。
「その手の冒険譚は、教訓となる失敗が付き物だったりするけれど。今回はお芝居だからね。失敗云々はぺいっと捨てて、いい思い出にしてもらおっか」
『ソノナルコ ソコニセッチシテ イイノデスカ?』
「最初の罠は簡単にして、わざと見つけてもらうつもりなんだ。発見したら嬉しいだろうしね」
縄と木で作る非常に簡素な鳴子を、わざと一か所目につきやすいところに設置しながら、相棒の球形メカ『正宗くん2号』の疑問に応える。
「正宗くんにも活躍してもらう罠、ちゃんと考えてるからねー」
「貴族さまのご子息さまの冒険。素敵な思い出にしてあげたいですね。良い思い出になるなら素敵な貴族さまに成長するだろうと神の声も聞こえますよ」
器用に罠を設置していくコリーヌに目を見張る『flawless Diva』セアラ・シズ・ラファティ(p3p000390)。同じく演出担当で、彼女は自慢の歌声で戦闘を盛り上げる予定だ。
「執事のお方が頑張っている姿を見てそれが良いものだと思わない従者は居ないでしょう。
それに……私の主はお会いした時には既にこんな行動をするような年齢ではなかったし……楽しみね」
甲斐甲斐しく坊ちゃんに使える執事に共感を覚えるのは『近衛メイド』フィル・D・オルティア(p3p006110)。一分の隙なくメイド服を凛と着こなした戦うメイドさんだ。
「『仕える家を戦闘で無くした闇落ちメイドさん』……的な敵を演じてみせますわ。それも楽しみね」
ご主人様は健在で彼女自身に闇落ちする要素は無いのだが、戦うメイドさんのキャラクターにはもってこいの設定である。
「冒険をするだけじゃなく作る! なるほど、人間とは素敵な事を考えるわね。それじゃあ、にわとりが張り切って冒険に彩りを加えましょう! こけー!」
翼をしゅたっ! と挙げて『聖なるトリ』トリーネ=セイントバード(p3p000957)がバサバサと羽ばたく。
体長50cm程度のニワトリであるトリーネだが、決して鶏頭ではない。3歩歩いても忘れないのだ! きっと依頼を最後まで遂行してくれるだろう。信じてる。
「ボクは年齢の近い子と遊びたくて、この依頼に参加したのです」
水子の少年――『生まれながらの亡霊』凍李 ナキ(p3p005177)が、さらっと言う。生前、同い年の子と遊んだ機会などなかった。そもそも産まれてすらこなかった。それ故に、この世界が、認識されることを大事に思った。ただ遊ぶというそれだけのことが、ナキにはとても眩しくみえる。
「お誕生日祝いです。華やかに苦戦させて、散りましょう」
本当はライバルキャラとかやりたかったのだが何故かラスボス役になったナキは、悪役らしい台詞を口にする。
●レッミハドリル様
『ナルコ ミツカルカナ?』
「大丈夫だよ。それに作った罠リストは執事さんに渡したし、いざとなったらフォローしてくれるよ」
コリーヌの鳴子が響くことはなく、レッドが洞窟の入り口から残した足跡を辿り坊ちゃんは最初の敵――ウィッグとつけ髭で変装したレッドの待つ小部屋に到着した。
(初めての悪役、ドキドキするっす)
大きく深呼吸をして待ち伏せるレッド。
「キーッヒッヒッ! トラップを見事抜けるとは良い度胸だ侵入者!」
「だ……誰!?」
「盗賊団下っ端レッミハドリル様が相手だ!」
徹夜で作ったお手製の木の棍棒を構え、ブンブンと殴りかかるレッド。何故か同じ棍棒が部屋入口の坊ちゃんの足元に転がっている!
「(さあ執事の助言で拾え、そして)勇気を持ってかかってくるが良い!」
タイミングを狙っていたセアラが不気味な歌を奏で始めた。
『レッミハドリルー。邪悪なる下っ端、その棍棒は哀れな侵入者の命を刈り取る~』
不安を煽るように蠢く歌を耳にして一瞬怯む坊ちゃんだが、執事に促され棍棒を拾うとレッドに向かってくる。
「盗賊団! 悪いやつめ、やっつけてやる!」
「ヒヒヒ。返り討ちにしてやる」
繰り広げられる棍棒によるチャンバラ。坊ちゃんの棍棒を余裕をもってレッドは防ぐ。避ける。
そろそろいいかな? 数回打ち合った後、レッドは手を抜くと坊ちゃんの攻撃をわざと喰らう。
「うわーん! 痛いー! 覚えてろよー!」
痛みに耐えきれないレッミハドリル様を演じ、レッドは泣いて捨て台詞吐いて逃走する。
「か……勝った?」
「坊ちゃま、やりましたぞ! おや、こんなところに宝箱が……」
レッドが依頼主の貴族から預かり仕込んでいたものだ。
坊ちゃんは、なんと勇気の剣を見つけた!
●サングラスなるトリ
「うわー!」
罠に引っかかった坊ちゃんが坂を滑り落ち、魔物の待つ穴に落ちる。
「落とし穴の先にはスライムが! クッション代わりで安心の安全設計! 倒して危機を脱しようってやつだね」
コリーヌの作った第二の罠だ。
『スライムサンニハ スグ ニゲテモライマショー』
「ふん……一人倒したぐらいでいい気になっちゃ困るわねぇ?」
罠を無事抜け出てきた坊ちゃんの前に、サングラスをかけたグレたにわとり――トリーネが登場する。艶やかで純白な毛並、神々しいちっちゃなトサカ、そしてなんか丸っこい姿にサングラス。うん、どう見ても可愛らしい。
『飛べないー飛べないー美味しいー飛べないー飛べないーけど美味しいー(繰り返し)』
セアラの奏でる不気味な歌がエンドレスループな曲に変わり音量があがる。
「……!?」
こけー! くちばしでつっつけば良いのかな? まあ何とかなるわよね!(なりませんでした)
ジャンプしてキックするトリーネ。(足が短くて届かない)
「くっ……必殺キックをかわすとはやるじゃない! まさか子供がこんな身体能力を持っているなんて……!」
召喚したヒヨコに突撃をかけさせるトリーネ。(そのまま『ぴよぴよぴー!』と走り去っていった)
「まさか、こんな力を…!?」
とにかくわざと攻撃を外しては坊ちゃんを上げて上げて持ち上げまくるトリーネに、坊ちゃんの攻撃が当たった。
よろめいてサングラスを落とすトリーネ。
「きゃああ!? まさか私の弱点、サングラスがバレるなんて……くっ、覚えてなさーい!」
適当に苦しがってる振りをして、トリーネはすたこらさっさと奥に逃げだした。
「ふっ、いい演技をしたわ」
●不良娘ティスル
「やあ、正宗くん。今回の罠は凶悪だよ。足元の罠に引っかかったら丸太が襲い掛かるって寸法だね!」
『ハイ コリーヌ ソレッテダイジョウブ』
「心配ご無用だよ! そこは頑張って坊ちゃんの身長よりだいぶ上を通過するように作ったからね! 万が一を考えて棒には布を巻き付けて、速度、威力も控えめだよ。これには坊ちゃんもドッキドキだね」
『うわっ!』と、坊ちゃんの驚く声が響き渡った。
坊ちゃんの前に盗賊の三番手、ティスルが現れた。
(さあ! 大芝居、やってやろうじゃない!)
顔と身体をフード付きローブで隠し翼もしまったティスルは、人間種の不良娘を演じている。
「ガキは帰んな! アタシ等は遊びでやってんじゃないんだよ!」
雰囲気をだすため口調は悪い。
……これ、後で執事さんに怒られるかもね? チラりと横目で窺う先で、執事は慈愛の眼差しで坊ちゃんを見守っていた。大丈夫そうだ。
『――♪』
セアラが聞くものを不快にさせる不安定な旋律の『不良娘の歌』を歌い始める。音量がさらに上がった。
「そうかい、帰らないのかい。死ぬ前に、名前を聞かせな!」
恭しく執事が坊ちゃんに返答を耳うちする。
「あ……悪党に名乗る名前などない……!」
この執事、ノリノリである。
「吠えてろ!」
ティスルは銃を坊ちゃんに連射する。激しい発射音が響いたが、実は空砲だ。
「当たらない、だと!?」
坊ちゃんの放つ剣劇を軽く受け流し、空砲で反撃する。
「くっ!? 覚えてやがれ!」
何度かの攻防を繰り返した後にわざと銃を弾かれると、ティスルは悪党らしい捨て台詞を残して全力で逃走した。
●その悪魔、卑怯につき
「さて。最大の罠だよ。見せ場だよ!」
『……』
狭い隧道を通る坊ちゃんの背後から『ゴゴゴゴゴ』と地面が揺れる音が聞こえる。
恐る恐る振り返った坊ちゃんの視線の先には、遠くから転がり迫る鉄球が。
「!?」
全力で走り出す坊ちゃん(と執事)。
ゴロゴロと、間抜けな侵入者を轢殺すべく追っかけてくる鉄球。
――ハァハァ。
走って走って走りぬいて、坊ちゃんはその先に広がる小フロアに飛び込んだ。後ろを振り返ってみると、鉄球はフロア手前の石の凸部に引っかかり、そこから逆走を始めるところだった。
「はい、正宗くんオツカレー」
『イワノフリトカ ハツタイケン デス……』
コリーヌの慰労に、正宗くん2号が鉄球の中から出てきた。勿論鉄球はハリボテで、中の正宗くん2号が坊ちゃんとのギリギリの距離と速度を維持していたのだ。
『まぁ悪魔っぽく頑張るか。一人くらいこういうのがいても良いだろ? 安全第一ね。了解』
「はぁ、助かったー」
小フロアに飛び込み安堵する坊ちゃん。肩で息を切らして油断している隙をつき、ペッカートが入口の死角から襲い掛かる。
「おっと動くなよ。大事な使用人がこの世からおさらばしても良いなら話は別だが」
執事を後ろから羽交い絞めにし、人質にとるペッカート。ナイフを首元に突きつけると、少しづつ坊ちゃんと距離を開け始める。
「他は知らないがここは俺のテリトリーなんだ。帰ってくれ」
「坊ちゃま、爺のことは心配なさらずに!」
「卑怯だぞっ!」
「卑怯? ボスは俺の好きにしていいって言ったからな。好きにしているだけだ」
仮面をつけ、胡散臭くて話の通じない魔物を演じるペッカート。
「一つ、チャンスをやろう。その銃はお前の心に従って狙いを撃ち抜く。お前の心が正しく純粋なものであれば【俺だけ】を撃てるってわけ。だが、失敗すればこいつも道ずれだ。さぁドウスル?」
一寸考えるフリをして、坊ちゃんの足元に拳銃を放る。勿論、中身は空砲だ。
『その者、心を汚染してー。その者、人の闇を覗くー。撃ちなさいー暴発するー』
セアラの歌がまた変わり、さらに音量があがり、それを聞く坊ちゃんの不安を増大させ逡巡させる。
「坊ちゃま、心配いりませぬ。爺は誰より坊ちゃまが正しいと知っておりますれば。撃つのです!」
迷いをかき消したのは、忠実なる執事の声。
BANG!
ペッカートの胸から血飛沫があがる。仕込んでいた血糊を破ったのだ。
「っち。俺の一張羅が台無しじゃねぇか。おぼえてろよ」
執事を解放し、ペッカートは逃走した。
●闇落ちメイド
「おや、これまた不思議なお客様。本当はこのような所に貴方達が来るのは良くないのですが……」
マフラーを目元まで巻いたフィルが、冒険を続ける坊ちゃんの前に立ちふさがる。
由緒正しきヴィクトリアンタイプにブレストプレートを備えた近衛メイド兵仕様のフィルは、明らかに手強く映った。
『――♪』
セアラが『闇落ちメイドの唄』を歌い始め、洞窟に響き渡る。
「まぁ、来てしまった以上は死んでいただきましょうか……この偶然の出会いに感謝を……本当に、不幸な方達」
「坊ちゃま、強敵です。油断はなりませぬぞ!」
珍しく執事が最初に動き、引っ張られるように坊ちゃんが続く。
(うまいですね。坊ちゃんに自然に攻撃させましたね)
徒手空拳の格闘スタイル故に、間違っても攻撃を当てるわけにはいかないフィル。適切に坊ちゃんの攻撃を受け流す。
「甘いっ!」
坊ちゃんに確実に外れるタイミングで放った一撃が大きく壁を穿つ。
動きに合わせて大きく跳躍すると、銀色に光る長髪を靡かせ坊ちゃんが先程までいた地面を抉る。
(そろそろ、かしらね)
フィルは執事に目くばせを送り、大きく拳を振り上げる。拳と坊ちゃんの間に、執事が盾になるように割り込み構える。
「私が死んでも坊ちゃまは守ります!」
予め決めてあった執事の台詞で、振り下ろす拳をフィルは止めた。
まじまじと見つめあうフィルと執事。
「興が冷めた、その忠義と忠臣を大切に」
やがてフィルは呟くと、踵を返して洞窟の奥に去って行った。
『――♪』
いつの間にか、セアラの奏でる歌が女の泣き声を思わせる唄に変わった。
「君は?」
洞窟内の水辺で、すすり泣くように唄を歌うセアラに坊ちゃんが声をかける。
「悪人に捕まってしまい、ここで歌わされることを強要されております……」
人魚形態のセアラの尾ヒレには足枷が目立つ。
「それは……? 逃げれないの?」
「鍵は恐らくボスが……。ああ、お願いです、助けてくれませんか?」
「判った。待ってて」
子供な故か、深く考えずに簡単に承諾する坊ちゃん。
「おお、感謝します。その優しい心に祝福を」
セアラは勇気を讃える歌を奏で始める。
●ラスボス戦
マグマ溜り(に見立てた赤いスライム)の溢れる洞窟の最奥で待っていたのは仮面で顔を隠したナキ。
後ろの牢屋には、役立たずと無残に捨てられた【囚われの鶏姫】トリーネと変化を解き半人半長の村娘を演じるティスル。
「よくここまで来ました。親愛なるボクの手下たちをけちらし罠を抜け奪った宝をかすめ取り……油断ならない少年です」
勇気の剣、盾、兜、防具、装飾――『立派な冒険者になって貰うっすよ!』とレッドが各敵エリアに配置した勇気シリーズ一式に身を包んだ坊ちゃんを前に、ナキが口を開く。物陰からこっそり覗いているレッドも、感慨深い。
「……ここはボク自身が相手するしかなさそうだ。一騎打ちと行きましょう」
剣をくるくると回すナキ。
「ボクはナキ、亡霊騎士のナキ……! いざ参る!」
器用に坊ちゃんの剣だけに狙いをつけ剣を振るうナキ。
――剣劇は男の子の浪漫。格好だけはつけましょう。
「うぅ、こんな薄情なボスなんて思わなかったわ! 私の仇を取ってー!」
「頑張って……! 貴方なら、きっと勝てます……!」
牢の中からトリーネとティスルが応援する。
「お願いぴよちゃん! 聖なる祝福を授けるのよー!」
手乗りサイズのヒヨコが召喚され元気良くぴよぴよと歌って踊りだす。
「私も一緒になって踊るわ。意味は全くないけど!」
『――♪』
(さあ、アナタの勇気で強大な敵に立ち向かってください)
セアラの奏でる勇気を奮い立たせる歌が最大音で響き渡る。
「くっ……応援や祈りか……それにその武具……もしや伝説の武具か……」
亡霊騎士らしく祝福に苦しそうに振る舞うナキが、徐々にマグマ際まで追いつめられる(ように誘導する)。
坊ちゃんの剣がかすり仮面が落ちる。ナキの儚げな素顔が覗く。
カキン!
さらに追撃が鋭い音を立て、ナキの剣が弾き飛ぶ。
「くっ、ボクの負けか」
剣を失ったナキが、悔しそうに坊ちゃんを睨む。
「ボクを、殺しますか? それとも、生かしますか?」
「もう悪いことしないなら、殺すつもりはないよ!」
「敵の情けなど……不要です」
マグマに身を投げようとするナキ。坊ちゃんが手を伸ばすも、間に合わずにそのままマグマ溜り(実は安全なスライム溜り)に落ちていく。
「きゃー! さすがよー! すごい! えらい!」
「怖かった……! 怖かったよう……!」
牢屋から助け出された二人――トリーネが翼を広げて跳びはねる。ティスルが坊ちゃんに駆け寄り抱きついた。
Congratulations!
囚われの娘を助け、宝を見つける。良い冒険だ。一生の思い出になるだろう。依頼は達成された!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
坊ちゃんのよい思い出になったことと思います。
またご縁がありますように。
GMコメント
悪人ですが、悪依頼ではありません。
お化け屋敷的なノリで悪人ハウスを作っちゃおう!
こんにちは。茜空秋人です。
以下、シナリオ補足情報です。ご活用ください。
●依頼成功条件
貴族の御曹司の冒険をプロデュースする。
●情報確度
Aです。想定外の事態は起きません。
●冒険者
・貴族の坊ちゃん。戦闘力は皆無。
・執事が安全の為にお目付け役として随伴します。また、冒険プランは事前に全部知っており、イレギュラーズの指示があれば従います。(たとえば坊ちゃんを罠の解除装置発見に誘導するとか)
戦闘の際には、坊ちゃんの応援、支援に徹します。
●ロケーション
・貴族の領地にある安全な村と、村はずれにある洞窟。
村人には領主の声がかかっており、イレギュラーズに協力的です。
・洞窟内部
基本、一本道の長い洞窟。ランタンが設置され、視界は確保されます。勿論、演出で灯りを消す、なんてことも可能です。
メタですが、アクションに都合のいいように内部は変化します。
罠などを設置する場合、貴族の援助である程度のことはできます。
●ヒント
・坊ちゃんが冒険を楽しめるシチュエーションやアイディアを!
・ギフトやスキルを使い、村や洞窟内でそれっぽい冒険を演出しましょう。
・罠を設置するのもいいかもしれません。(安全には気を付けて)
●戦闘
・思う存分、悪党ロールをしましょう。
・道中でソロで戦うもよし、ラストに集団で戦うもよし。
ただしあくまで戦闘のフリだけに徹してください。決して本気で戦ってはいけません。坊ちゃんが重傷を負うと、依頼失敗のみならず貴族に恨まれます。
必ず負けてください。負ける必然性や設定を考えるのもいいかもしれません。
最後は捨て台詞を吐いて逃亡がお奨めです。
●その他
・安全なのが前提ですが、色々と貴族の支援が受けられます。例えば愛玩用スライムなど頼めば貸し出してくれます。
・ラストは戦わずに、悪党に囚われたお姫様を演じるなんてのもアリです。
・シナリオの性質上、アドリブ描写が多用されるかもしれません。
プレイングやステータスシートにアドリブ度合、『アドリブNG』等記入くだされば対応いたします。
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