PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ビター・スイーツ・フィルム・ノワール

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻想の、菓子店
 幻想。とある、名もない街にある、小さな菓子店。
 知る人ぞ知る、その名店の名を、フェァリー・サークル。妖精の気まぐれのイタズラ、そんな可愛らしいお菓子が並ぶ、老舗の洋菓子店だ。
 タクト・レイナードはこの日、主の使いを受けて、フェアリー・サークルへと訪れた。気弱そうな男である。少しだけ身なりのよさそうな服に、細い体を隠し、保冷の魔術の込められたバスケットを片手に、タクトは主に献上するためのビター・チョコケーキを買いに来たのである。
 タクトが店にはいった時に、目についたのは、菓子店に似つかわしくない、明らかにカタギのそれではない風体の男であった。威圧するようにカウンターをけ飛ばす男は、タクトが入ってきたことに気づいて舌打ちをすると、
「次までによぉく考えといてくださいよ」
 と、威圧するようにカウンターの老婆にそう言った。タクトが怯えた様子を見せるのを、男は軽蔑するような眼で見据え、出口へと向かう。タクトは扉から飛びのくと、男はそのまま扉か外へと出ていった。
「おばあさん、大丈夫ですか」
 タクトが声をあげる。老婆は「ええ、大丈夫よ」と苦笑してみせた。
「今の……ギャングですよね。この辺の、フォータル・ファミリーだ」
「よくご存じねぇ。そう。ここ最近ね。よく来るのよ」
「客……じゃないですよね。
 まさか、脅されて……?」
 タクトの言葉に、老婆は項垂れた。
「……地上げが目的みたいなの。この辺りの土地が欲しいみたい。
 この辺は、少し前までさびれていたけれど、この間新しい街道が整備されて、観光客がよく来るようになったわ。
 それで、私達のお店にもお客さんが増えたのだけれど……」
「なるほど。連中、この辺に自分たちの息のかかった店を出して、小銭を稼ぎたいんだ」
「そうみたいねぇ」
 老婆が笑った。
「……何度も、脅しに来てねぇ。そのたびに、何とか断ってるの。
 ……このお店はね、孫に受け継がせたいのよ。今は、街の外に修行に出ているんだけど、もうすぐ帰ってくる。
 おじいちゃんとおばあちゃんのお菓子の味を、ずっと未来まで伝えていきたいって、頑張ってくれて……。
 でも、ダメなのかもね……周りの店も、脅しに屈して店を明け渡してるそうだし……」
「そんな……」
 タクトが哀しげな顔をするのに、老婆は頭を振った。
「おお、ごめんね、こんな話をしちゃって。
 予約の、ビターチョコレートケーキ、出来てますよ。
 タクトさんのご主人には、いつもお世話になってるねぇ。
 本人にはあったことは無いけれど、タクトさんが仕えてるくらいだ、きっといい人なんだろうねぇ」
「いえ……ありがとうございます」
 タクトが苦笑する。老婆は、保護容器からケーキを取り出してラッピングすると、カウンターの上にのせた。
「……長い事、ひいきにしてもらったけど……ごめんよ」
 そう項垂れる老婆の姿は、酷く小さく見えた……。

「……そのケーキ屋を何とかしろっての?」
 と、首をかしげたのはシラス (p3p004421)である。ローレットの出張所。その打ち合わせ用に区切られたエリアで、シラスはタクトと名乗る男に、名指しで呼び出されていた。
 タクト・レイナード。見た目はひょろそうな好青年だが、しかしシラスは彼から剣呑なにおいをかぎ取っていた。例えば、ぶかぶかの衣服。その服のたれ具合から、何か硬いもの……おそらく、ナイフの類を仕込ませていることは、シラスにはわかる。
 さる貴族に仕えるものである、と彼は名乗った。その貴族が何者かはわからないが、「『竜剣』に用があるのですが」と言ったことからも、彼が誰に仕えているのか、おおよその予測はつく。だからシラスも、こうして顔を突き合わせているわけだが。
「ええ。どうやら、実際にあの一帯、地上げにあっているようですね」
 タクトが資料を手渡す。シラスは「ふぅん」と面白く無さげに、資料をパラ読みした。
「今日日地上げねぇ。随分と古臭い事をなさるギャングで」
「古き良きヤクザなのでしょう」
 肩をすくめるタクト。
「ですが、問題があります。あのような下っ端ギャング、当然ながら、別の大組織の下部組織にすぎません。その上部組織も、さらなる別の組織の下部組織です。言うまでもありませんが、この様なギャングも、探っていけば何かしら、貴族とのつながりを見いだせるものです」
「アンタんところも?」
「コメントする必要が?」
「ないね。ちょっとした世間話だよ。今日はいい天気ね、くらいの」
 シラスが紅茶を口にした。
「ですので……シンプルに、壊滅させるの不味い。こういう化石のような連中は、仁義だなんだと言い訳をつけて、自分のプライドが傷つけられるのを極端に嫌う狭量な連中ばかりですから」
「つまり、中途半端にボコれば、その上が、その上が、最終的にお貴族様が、と、面倒なことになるってわけか」
 シラスは目をそらした。
「……なんだ、適当に殴って終わりにしようと思ってたのに」
「ええ。主人も、貴方ならどうせそうするだろうな、と。こう仰せつかっています。『血なまぐさい事はやめろ、小僧』」
「見透かされてんのかよ……」
 シラスが目を細めた。さておき、とタクトが言う。
「こちらからの依頼は、シンプルです。
 穏便に、地上げから店を救う事。
 ついでに、美味いケーキを買ってくること。
 以上、二点」
「前者はともかく、後者は何なんだ」
 シラスは苦笑した。タクトは肩をすくめる。とはいえ、これは単なる『お貴族様のお使い』ではないだろう。むしろ、シラスが如何にこの場面を突破するか。それを試されているのだ。
(……これくらい穏便に済ませねぇと、使い物にならねーぞ、って事かね)
 シラスは胸中でぼやくと、
「OK。なるべく穏便に済ませて、美味いケーキを買ってくるよ」
 そう言って、不敵に笑ってみせた。

●仲間達と共に
「っつーわけで、智慧を借りたい」
 と、シラスは仲間達にそういう。シラスの声により集まったのは、6名のイレギュラーズ達だ。
「下っ端が来たところを、制圧して捕まえるのは無しかい?」
 モカ・ビアンキーニ (p3p007999)が言うのへ、シラスは頭を振った。
「なしだ。血なまぐさいのは厳禁」
「そうです。エルも、お菓子屋さんで、らんぼうするのは、よくないって思います」
 むぅ、とエル・エ・ルーエ (p3p008216)が言った。
「ま、確かにそうだね。お菓子屋さんにも迷惑になるか」
 モカが言うのへ、猪市 きゐこ (p3p010262)が、ふむ、と頷く。
「でも、ほかに手段ってあるかしら?
 迂闊に手を出したら、上の組織が出てくる……」
「……例えばだけどよ、夜中に敵の事務所みたいな所に忍び込んで、悪事の証拠をつかむかとか、無けりゃでっちあげるとかして、それを騎士団に通報して……ってのはどうよ?」
 オラン・ジェット (p3p009057)がそう言った。
「これなら、直接潰したわけじゃねぇし、あくまでドジったのはギャングたちになる。まさか上部組織まで、あの小さな商店街を狙ってるわけがないだろう?」
「ふぅむ、ありだな」
 ヤツェク・ブルーフラワー (p3p009093)が頷いた。
「今後を考えると、根こそぎ潰した方が……いや、再編される可能性はあるが、ひとまずしばらくは安全を確保できるだろうな」
「そうでなければ、いっそ我々も、商店街を盛り上げる策をとるか、ですね」
「商店街を盛り上げる?」
 古田 咲 (p3p007154)の言葉に、きゐこが尋ねる。
「はい。詰まる所今回の問題は、件の菓子店を始めとする商店街の弱体化により、対抗策が取れないことが問題です。
 付近の商店が活発化し、組織だった同盟を組むことができれば、ギャングの嫌がらせにも対抗ができるはずです。
 商店たちがスクラムを組み、耐えらえる土壌があれば、割に合わぬビジネスになると撤退するでしょう」
「それは、すてきです」
 エルが笑った。
「エルも、お菓子屋さんや、他のお店の、お手伝いをしたい、って思います」
「元々、観光客が増え始めた時期だ。そこをうまくつけば、商店街に力を持たせることは可能か……」
 モカが頷く。
「さて、どうする? シラス」
 ヤツェクが言った。
「今回の集まり、メインはアンタだ。俺たちはどう転んでも、付き合うぜ?」
「うーん……」
 その言葉に、シラスは唸った。
 そして、出た答えは――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 地上げにさらされる菓子店を救いましょう!

●成功条件
 菓子店『フェアリー・サークル』を救う事。
  オプション――ついでに、ケーキを買って帰る事。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 さる大貴族に仕える青年、タクト。彼からシラスに持ちかけられた依頼は、フォータル・ファミリーなるギャングから地上げにあっている菓子店フェアリー・サークルを救え、というもの。
 ただし、血なまぐさい事は抜きで……とあれば、その手段に悩むというもの。
 シラスは仲間達に助言を乞います。その中で、例えば以下のような案が出ました。

1.フォータル・ファミリーの屋敷に忍び込み、何らかの悪事の証拠をつかむor捏造し、騎士団に密告する
 文字通り、夜中にフォータル・ファミリーの屋敷に忍び込み、何らかの悪事の証拠をつかむか、いっそ捏造した証拠を残して、騎士団に密告。騎士団にファミリーを解体させます。
 この場合は、広大な屋敷に侵入するスキルや手段、悪事の証拠を見つけるためのプレイングが必要になるでしょう。
 悪事の証拠は……まぁ、悪徳ギャングなので、山ほどあります。捏造するまでもないかもしれません。
 また、流石に警備などはいますので、多少の戦闘は発生します。

2.商店街の各種店舗に助力し、商店街自体を盛り上げて力をつけさせる。
 此方は、最近観光客が増え、客が増え始めた商店街に、お店の経営アドバイスや、シンプルにお店のお仕事を手伝うなどして、奥の客を定着させるのが目的です。
 商店街自体が活気づけば、フォータル・ファミリーもなかなか手を出しづらくなりますし、強固になった商店街同士のつながりがあれば、フォータル・ファミリーも地上げが割に合わない商売だと諦めるでしょう。
 この場合は、商店街の活気づけるためのスキル、例えば情報を扇動したり、地元の友人たちに口コミを任せたり。シンプルに料理スキルで名物を作ったり……等、お店を盛り上げていくプレイングやスキルが重要です。
 また、地上げ屋が嫌がらせをしてくるかもしれません。殺しはご法度ですが、追い返すための手段は少し考えた方がいいかもしれません。

3.上記以外の何かを考える。
 ノーヒントで別の解決策を考える道です。何せノーヒントなので、よっぽどうまい事理屈をつけなければ、成功に導くのは難しいでしょう。おすすめはしませんが、何かいい案が思いついた……とあれば、チャレンジしてみてください。

 以上の案があります。これらの中から、菓子店を救う方法を選んで、取り組んでください。


●エネミーデータ
 フォータル・ファミリーの構成員
  いわゆるギャング・ヤクザの類です。皆さんより格下の相手ですが、今回は殺しはご法度ですので、そのあたりの対策はしておいてください。
  基本的には、近接・単体の攻撃を主に行ってきます。刃物を持ってもいますので、出血などにはご注意を。
  屋敷に忍び込む場合には、少々強めの構成員も出てきます。真面目な戦闘にもなりますので、屋敷に潜入する場合にはご注意ください。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングを、お待ちしております。

  • ビター・スイーツ・フィルム・ノワール完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年03月27日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

シラス(p3p004421)
超える者
古田 咲(p3p007154)
フィッツバルディガチ勢
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
オラン・ジェット(p3p009057)
復興青空教室
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計

リプレイ

●ナイト・ワルツ
「ふーむ……いや、なんというかな……」
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が、苦笑交じりで顎に手をやった。
 照明の落とされた、屋敷の中である。ヤツェクたちがいるのはその屋敷の一室で、そこは随分と豪奢な飾りと、大げさなテーブルと椅子のおかれた、なんとも下品なインテリアの一室である。
 例えるならそう――分不相応な権力を握った悪党が、とりあえず自分のちっぽけなプライドを満足させるために、自分の力を誇示させるための部屋。
 それが、フォータル・ファミリーと呼ばれるギャング団のボスの執務室であることを知れば、「ああ、そうだろうな」と誰もが納得するだろう。
 もちろん、ヤツェクが苦笑したのは、そんな理由からではない。
「いや、悪事をでっちあげるのも一つの手、と思っていたけれどな。
 まさかこう……叩いたらほこりが出てくるどころか、叩いたら噴火したみたいな気分だ」
「それだけ……なんだ、雑な組織なんだろう。今どき分かりやすい地上げをするくらいだからね。
 それもバックの組織、ついでに貴族が、この辺りじゃそれなりに有力というのもあるのだろうけれど」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が肩をすくめた。念のためにと口元には布を巻いて顔を隠しているが、その布の下は苦笑か冷笑を浮かべて居る所だろう。
 二人は前述したとおり、フォータル・ファミリーの屋敷に潜入していた。その目的はもちろん、弱みを握るためだ。今回の依頼では、依頼主から『穏便に済ませろ』と言われている。皆が知恵を出し合って選んだ作戦の一つが、そもそもとして、フォータル・ファミリーの弱みを握って、首根っこを押さえるやり方だ。流石に悪事の証拠などそう簡単に出てこないと思っていた二人だが、出るわ出るわ。これ以上は必要ない、という位には。
「ま、そうだろうな。フォータル・ファミリーとは直接関係していないものの、騎士団にもその上部組織、或いは貴族の息がかかった奴もいるらしい。
 ある程度、これまでお目こぼしされていたのもそういう理由だろう」
 ヤツェクが言う。モカは、ふぅむ、と唸った。
「とは言え、これだけの証拠を出されたら騎士団も動かざるを得ないだろうけどね。でも、それだとすこし、心残りがある」
「解散させても、こいつらは害虫みたいなもんだ。どうせ別の所に集まって巣を作る」
「後ろ盾があるからそれも容易だろう……となれば。
 社会のゴミは官憲にチクって壊滅で散らばるより、生かさず殺さず組織として纏まっていてくれる方が対処しやすいものだ」
 ふ、と目を細めるモカ。ヤツェクは頷く。
「そうだな……やれやれ、甘いもの好きの御仁のためとはいえ、幻想の政治回りに首を突っ込むことになるとはな。人生何が起こるかわからんもんだ――」
 その時、かつん、と足音が響いた。二人は目くばせして、身をひそめる。やがて扉を開けて入ってきたのは、見回りの男だ。男はランタンを照らしながら内部を睥睨すると、ろくに確認もせずに外に出ていく。
「……間抜けで助かる」
「けれど、戦わずに切り抜けるのは難しいだろうね。あんな間抜けでも、数名いればそれなりに、だ」
 モカが言うのへ、ヤツェクは頷く。
「だが、ま……此処でおれたちが失敗したら元も子もない。
 やるぞ、相棒」
 ヤツェクの言葉に、モカは頷いた。手にした書類は、明確に、フォータル・ファミリーの悪事の証拠が記されたものだった。

●ミッドデイ・パレード
「マジか? マジでこれで外出るの?」
 と、それは言った。
 着ぐるみである。
 双頭の……なんだろうか、ウツボ……?
「そんなに嫌がらないでほしいわね、結構渾身のデザインよ?
 それから、『これ』じゃないわ。『ふたボちゃん』よ」
 『炎熱百計』猪市 きゐこ(p3p010262)が胸を張った。その口元がわずかに緩んでいるのに、ふたボちゃんは気づく。
「楽しんでないか?」
「せっかくだもの、楽しんでこそ、じゃない?」
 きゐこがそういうのへ、頷いたのは『フィッツバルディガチ勢』古田 咲(p3p007154)だ。
「そうです。それに、これも伊達や酔狂でたてた作戦ではないのですよ。
 ゆるキャラは節操なしにやっても効果は薄いですが、まずはインパクトを重視するというタイミングでは重宝します。
 この街はハブ都市として近年にぎわってきたようですが、その為には客を素通りさせるのではなく、ここでお金をおとそう、と思わせる印象が重要です」
「それで、ウツボ?」
 ふたボちゃんが双頭をぶらぶら揺らすのへ、咲は頷く。
「ええ。それに、やんわりとですが、この街にのバックについている貴族を印象付けさせる……そんなデザインにしています。
 あ、お腹のあたり、隠さないでくださいね? 服飾店のロゴが入ってます。布や詰め物を用意してもらっていますので。スポンサーです」
「大丈夫? これみせて公に怒られないか?」
 苦笑するふたボちゃん。双頭の竜ならぬウツボである。
「実際に、一般人に察せられちゃだめだからねぇ。なんとなく、言われてみれば確かに、くらいでいいのよ」
 きゐこがうんうんと頷いた。ふたボちゃんが肩をすくめ……ようとしたが、可動域の関係で分かりづらい。
「で? まさかゆるキャラ? だけで何とかなるとも思ってないだろ?」
「はい。フェアリー・サークルの、レネおばあちゃんに、いっぱい、いっぱい、お菓子を、作ってもらいました」
 『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)が、にこにこと笑う。その手にしたトレイの上には、黄色のクリームの乗ったモンブラン風のお菓子や、にょろっとしたふたボちゃんのロールケーキなどが乗っている。
「他のお店の人にも、ふたボちゃんを、イメージした、食べ物や、アイテムを、作ってもらっています」
「すまないねぇ、なにからなにまで」
 と、菓子店、フェアリー・サークルの店員でもある老婆、レネが何度も頭を下げた。
「タクトさんの紹介だっていうから驚いたけれど、皆、すごいのねぇ。私や主人……店主のラッドじゃ、お菓子を作るのが精いっぱいよ」
 申し訳なさそうにしつつ、しかしどこか楽しそうなのは、イレギュラーズ達の頑張りを見ているからだろうか。エルは、ふるふると頭を振って、
「いいえ、レネさんや、ラッドおじいちゃんは、沢山、お菓子を作ってくれました。
 エルたちだけじゃ、作れませんでした。すごいです」
「そういう事だ。持ちつ持たれつで行こうぜ」
 ふたボちゃんが頷いた。
「こう言っちゃなんだが、俺たちも100%善意で助けてるわけじゃないんだ。タクトから依頼料ももらえるからね。
 だから、そう、頭を下げたり感謝しないでもいいんだ。ドライにやってくれよ」
 ふたボちゃんの言葉に、レネは、ふふ、と笑った。
「ありがとう。優しい子だね」
 ふたボちゃんが、バツが悪そうに頭をかこうとして、巨大な被り物に妨げられていることに気づいた。
「でもさ、他の店に協力を頼むとき、話を通してくれたのはおばあちゃんだぜ?」
 『復興青空教室』オラン・ジェット(p3p009057)が、にかりと笑いながら言った。
「いきなり現れて、商店街を活性化したいなんて言ったって、そりゃ怪しいもんだ。
 スタンプラリーだっけ、これも、他の店に協力してもらわないとできねーことだしな。
 だからさ、俺たちがミッションを達成する点でも、おばーちゃんたちにはすげぇ助かってるって事さ」
 オランがそういうのへ、レネは、いえいえ、と頭を振った。
「お話をしてくれたのは、きゐこさんですよ。私達だけじゃ、商売の先行きなんて説明できませんからねぇ。
 それに、オランさんにも助けてもらいましたよ。ホスト、というのは分からないけれど、酒場みたいなものなのかねぇ?
 そこで働いてたって言うけど、色々と教えてもらったのは助かるよ。フードロス? ってのは思いもよらなかったねぇ。確かに、日持ちのする焼き菓子なんかは、旅の人なんかにも買ってもらいやすい」
「そ、色々手を入れる所はあるんだ。おばーちゃんたちには、いきなりやり方を変えてくれってのはゴメンだけど、何せ相手はヤクザだからなぁ」
 オランがそういうのへ、レネは心配げに頷いた。
「大丈夫かい? あの人たち、乱暴を働くかもしれないよ?」
「そこは、まぁ。穏便に解決いたしますよ」
 咲が微笑んだ。
「ええ。こんな素敵なお菓子屋さんに、乱暴狼藉は似合わないわ? そうよね、ふたボちゃん?」
 きゐこがそう言って笑いかけるのへ、ふたボちゃんはおどけてこくこくと被り物を揺らして見せた。

「皆さん、この街の商店街へようこそ!」
 咲が大通りで声を張り上げる。商店街は旗や看板などで可能な限り飾りつけをして、外を歩いただけで中の商品が分かる様に、店先に見本を並べて賑やかさを表現している。正午前後のこの時間は、旅の人や観光客たちがごった返す、まさにかき入れ時。ここ数日、この地で同様の宣伝を行ってきたイレギュラーズ達だが、その旅の人達や観光客の口コミもあったのか、日に日に、確実に、客足は増えていた。それは、フェアリー・サークルだけでなく、イレギュラーズ達が協力を要請した、多くの店舗もそうであった。
「お菓子、ぬいぐるみ、たくさん、あります。
 ふたボちゃんが、刺しゅうされたカバンも、かわいい、ですよ」
 エルも一生懸命に声をあげた。手に持ったカバンには、ふたボちゃんが、刺しゅうされている。
「へぇ、娘への土産にいいかもな」
 そんなことをつぶやきながら歩いていく観光客たちに、エルは「おねがい、します」と頭を下げる。
「商店街のマスコット、ふたボちゃんが来てるわよー!」
 きゐこが、両手をメガホンの形にして声をあげた。ばたーん、と大げさにフェアリー・サークルの扉を開けて、おどけるように飛び出してきたのアh、ふたボちゃんだ。
(ひぇぇ、連日これ被って歩いてるけど、ホント疲れるぜ。荒事で解決した方がつかれなかったんじゃないの?)
 胸中でぼやきつつ、ふたボちゃんは気さくそうに手を振った。ふるふると、双頭が揺れる。街の子供達が、きゃっきゃと騒いでふたボちゃんを指さしているのへ、観光客や旅の一座なども、愉快気にそれを見ていた。
「ふたボちゃん、ほらほら、スタンプ配って!」
 オランが声をあげるのへ、ふたボちゃんは「しまった!」みたいなジェスチャーをして見せた。観客達から笑いが上がる。ふたボちゃんは、オランから用紙を受け取ると、近くの客たちに、たどたどしく配ってみせた。
「ふたボちゃんのスペシャルスタンプだ! いろんなお店で買い物して、スタンプをためてくれ!
 ちょっとしたアイテムと交換できるぜ?」
 オランがそういうのへ、ざわざわと観光客たちが声をあげる。
「オランさん、接客任せていい? 私、やっぱり向いてないわ……」
 ぼそぼそときゐこがそう告げるのへ、オランは笑った。
「いやいや、きゐこサンも華があるぜ? ほらほら、ふたボちゃんと一緒に手を振って!」
 とん、と背中を押されるきゐこ。これから、裏方の仕事もあるのだが……と文句を言う暇もなく、ふたボちゃんにがっしと肩を掴まれて、前に押し出されてしまう。
「よ、よろしく~! 楽しいスタンプラリーよ~」
 何とかそういうきゐこは、しかし胸中で(お、覚えてなさいよ、あなた達……!)とぼやくのであった。
「えっと、騎士団の皆さん、どう、でしょうか?」
 見回りの騎士達に、試食品のお菓子を振る舞うのは、エルだ。
「とっても、とっても、おいしい、とおもいます。困っていたら、お菓子屋さんを、助けてあげてください」
「そうだなぁ、こんだけうまい菓子を焼いてくれるならな」
 ははは、と騎士たちが笑う。そこへ咲がこそり、と耳打ちをする。
「まぁ、実際のところ……ですよ。この街がにぎわえば、必然、騎士団に、上から降りてくる予算も潤沢になるでしょう?
 どうでしょうか、一緒に商店街を盛り上げてくださるのは? 両得の関係になれると思いますけれど?」
 ここは大人の話である。咲の言葉に、ふむぅ、とか唸ってしまう騎士たちは、些か不真面目ではあったが、しかしこの街を守る警察機構なのは事実。こうしてしっかりと、印象付けておくのは悪くあるまい。
 ――と。
「おいおい、何の騒ぎだこりゃあ!」
 そんな場に似つかわしくない怒声が響いたのは、そんな時だ。

●アフタヌーン・トラブル
 騒ぎの方に目を向けてみれば、何とも下卑た顔の男が、供を連れてやってきていた。見ればわかる、明らかに悪漢のそれの空気。言うまでもない、フォータル・ファミリーのボス・フォータルだ。
「さびれた菓子屋が随分と元気そうだな? ええ? 所で、商売の話はどうなってる?」
「土地の話なら断ったはずだが?」
 オランがそういうのへ、フォータルは鼻で笑ってみせた。
「ああ、代理人だってテメェらが、うちの部下を追い返したとかでな?
 ふざけるなよ、ジジババと話をさせろ」
「お断りですね」
 咲がきっぱりと声をあげた。後ろでは、きゐことエルが、店を守る様に、きっ、とフォータルを睨みつけている。
「ビジネスの話に貪欲なのは結構ですが。しかし一度切れた縁に縋り付くのは、商売下手と言って差し支えない。
 あなたとの対話の時間は終わりました。お引き取りください」
「……おい」
 フォータルが声をあげると、供の男二人が前へと出る。一触即発か、そんな空気の中、前に出てきたのはふたボちゃんだった。
「それ位にしとけよ」
 ふたボちゃんが声をあげる。
「なんだと?」
「止めとけってんだ。こちとら、荒事はなしって決めててな。今なら水に流してやる」
「あぁ?」
 フォータルが笑う。
「馬鹿にしてんのか!? そのなめた着ぐるみの中身はどんな間抜けなツラしてやがるんだ!?」
「はっ――じゃあ、見せてやるよ」
 そう言ったふたボちゃんが、その被り物を外す――中から現れたのは、幻想でも名高き、勇者の称号を拝命した一人――。
「テメェ……竜剣の……」
 『竜剣』シラス(p3p004421)だ! 観光客たちにもその顔は知れ渡っていたのだ折る、おお、とどよめきが走る。
「そういう事だ。良いのか? この場で、俺たちを相手にするってのがどれだけ分の悪い事かくらいわかんだろ」
 じり、とシラスがにらみつける――同時。
「よぉ、フォータルさん? おれ達も混ぜてくれないか?」
 現れたのは、ヤツェクとモカだ。モカはひらり、と紙を滑らせると、フォータルの足元に狙って落とす。
「それが何だかわかるかい? 此方からは何とも言わないが、既に複写はしてある」
 足元に落ちた紙を見たフォータルの顔が、露骨に青くなる。
「てめぇ……」
「引き下がって欲しいね。何もこれをこれから暴露して、組を潰そうってわけじゃない。手を引いてくれれば、それでいい」
「そういう事だ」
 ヤツェクが言った。
「アンタ、頭は悪くないだろう? じゃあ、どう立ち回ればいいのかくらい、わかってるはずだ」
 その言葉に、フォータルは悔しげにうめいた。
「くそ……退くぞ。
 いいだろう、ここでの商売は終いだ」
 苛立たし気に石畳を蹴って、フォータルは踵を返した。供の者がそれに続いていく。ふう、とイレギュラーズ達が息を吐いた。何とか、衝突は避けられたらしい。
「さて、みなさん。少しばかりトラブルはありましたが、もう何も問題はありません。此方には、竜剣の勇者がついていますからね。
 引き続き、お買い物をお楽しみください!」
 咲がそう声をあげるのへ、観光客たちから歓声が響き渡った、シラスは小脇にふたボちゃんがの被り物を買駆けつつ、ヤツェクとモカに笑いかける。
「助かったぜ、お二人さん。どうやら首尾は上々なようで」
「任せてくれよ、この位軽いものさ」
 笑うモカだが、ふたり些か傷ついて見えるのは、やはり衝突があったからだろう。
「しかし、どんな悪事を暴いてきたんだ?」
 そう尋ねるのへ、ヤツェクは笑った。
「それは秘密だ。向こうは退いてくれたんだからな。こっちも心に秘めておくものさ。仁義ってやつだなぁ」
 そう言って、手にしたギターをじゃらん、とならして見せた。

 それから数日をかけて、イレギュラーズ達は商店街の盛り上げ作戦を続けた。商店街の店々のつながりが強くなるにつれて、当初は参加を見送っていた店舗も、少しずつ参加を頼み込んでくる。やがて強固な一枚岩となった商店街は、この街にて大きな力を持つことになるだろう。
「そこまでは、私達の関与するところではありませんが。少なくとも、地上げは避けられるでしょう」
 咲の言葉に、仲間達は頷く。いつものローレットの酒場だ。作戦の完了に、仲間達は祝杯を挙げていた。
「騎士団さんたちも、よく、見回りにきてくれる、そうです」
 エルがにこにこと笑う。
「これで問題解決ね! ふふ、変わった依頼だったけど、終わってみたら楽しいものだったわね」
 きゐこが笑いかけるのへ、オランは、あれ? という顔をした。
「……シラス、何か忘れてねぇ? 依頼の目的って、地上げの回避と、後……」
 そういうオランに、シラスは小首をかしげて……それから、ああっ! と大声をあげた。
「ああ"っ、ケーキ買い忘れたー!」

成否

成功

MVP

古田 咲(p3p007154)
フィッツバルディガチ勢

状態異常

なし

あとがき

 一番重要な事を忘れてどうする。
 詰めが甘いな、小僧。

PAGETOPPAGEBOTTOM