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シナリオ詳細

カースドタイフーン:デストラクション

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●瘴気渦
 その日はよく晴れた朝だった。
 幻想の東外れ山間に位置するミーディアス村の住人は、照りつける太陽の光に目を細めながら、平和を謳歌していた。
 楽しげに歌う少年少女達の声。仕事に精を出し笑顔を浮かべる大人達。茶を啜る老人がホッと幸せに包まれた吐息を漏らした。
 ――しかし。
「お、おい。なんだありゃ……」
 村人が声をあげる。指さした先、遠くに見えるはどす黒く螺旋を描きながら立ち上る風。最初は一本の線だった風は、時間がたつほどに太く大きくなり――竜巻を思わせる柱となった。
 あんなに晴れていた空、照りつける光を放つ太陽は暗雲によって遮られ、どこか甘く生臭い――腐敗臭を齎す強風が村を襲う。
 犬や猫、家畜たちが暴れ出し、人々も吐き気を催す程の不快感を感じる。
 柱は――徐々に村へと近づいていた。
 一歩、また一歩。ゆっくり、ゆっくりと。
 知識持つ老人が言った。
「アレは……瘴気渦(カースドタイフーン)じゃ……」


「瘴気渦の発生が確認されたわ」
 慌ただしく依頼書を書き記す『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)がイレギュラーズにそう告げた。
「カースドタイフーンってなんなんだ?」
「読んで字のごとく。呪われた台風ってところかしら。
 発生のメカニズムは不明。周囲の生物を低級な魔物に変化させる瘴気をばらまきながら進む暴風域よ。
 その中心はまるで瘴気の竜巻ね。螺旋に渦巻く柱が触れる物を飲み込み破壊し尽くすと言われているわ」
 ――言われている。その言葉に首を傾げる。
「ええ、そう。実際に破壊された事例が起こったことはないの。
 今まで瘴気渦が確認された場所は全て海上の上だったのよ。被害もなく数時間後には自然消滅するから問題視されてなかったってわけね」
 それが、今回幻想の東外れに出現したらしい。
 ゆっくりとした足取りで、山間の村――ミーディアス村に近づいている。
「それを止めろって言うのか? さすがに自然災害は無理なんじゃ?」
 イレギュラーズの疑問ももっともだろう。頷きながらリリィは話を続ける。
「瘴気渦は中心点の螺旋の『柱』が力の根源だと考えられてるわ。過去の観測からも中心にある『柱』が消失すれば同時に周囲の暴風域も消滅することがわかっているの。
 ……不自然なのはその『柱』ね。まるで作られたかのように存在し動いているわ。
 だから、何らかの力を加えれば――衝撃を加える、或いは破壊すれば――その力を弱め、霧散させるのも早まるんじゃないかと考えたみたい。
 そんなわけで発生してすぐ、領主様による調査を兼ねた破壊作戦が行われたわ」 
 周辺を治める貴族コルト・ミルース卿は直ちに自兵による作戦を開始したが、甚大な被害を受けた上で持ち帰れた情報は『不思議な障壁が柱を守っていた』という事だけだった。
「コルト卿はすぐにローレットへ援護を要請すると共に、その情報を提供したわ。
 この情報は私のギフトで得た情報とも一致する」
「障壁が力の根源を守るか……」
「そう、まるで台風の目には入らせないようにしているみたい」
「と、なると、仕事は――」
「ええ、オーダーはその障壁を破壊すること。
 確証はないけれど、障壁を破壊すれば自然消滅する速度も上がって村が破壊されずに済むはずよ」
 逆に言えば、障壁が破壊できなかった場合、村に中心点が到達することになる。そうなれば村のほとんどの家屋が破壊されることになるだろう。
「村の方は、避難とか終わっているのか?」
「まだよ。瘴気渦の影響で近隣の動植物が低級の魔物に変化して多くが村を襲っているようなの。そのせいで避難が思うように進んでないわね。
 けれど、安心して。そちらも経験少なめの特異運命座標ちゃん達にお願いしているから」
 そう言ってリリィは別の依頼書を見せる。
「瘴気渦は『中心に近いほど』その影響を強く発揮するわ。
 それに障壁を攻撃した兵士によれば、攻撃をした際に自分にその衝撃が返ってきたとも言っていたわ。
 危険度はそう高いわけではなけれど……気をつけて頂戴ね」
 そう言って依頼書を渡すリリィは、すこし顔を曇らせて、
「少し気がかりなことがあるからメモに残したけれど……確証のない情報だからあまり気にしなくても良いわ。
 とにかく貴方達が無事に帰ってくること。それだけは約束してね」
 リリィはそれだけ言うと、椅子から立ち上がり忙しそうに駆けていくのだった。


「らんらんらん♪ おさんぽ、おさんぽ、らんらんらん♪」
 身体を揺らしながら一人の少女が歩いてる。
「ふふふー、キラキラ、ピカピカ、みんな幸せそうー。
 いいなー、一緒にまざりたいなー、あそこまでいったらまぜてもらえるかなー?」
 思い悩みながら、一つ頷いて。
「よし、いってみよー! いつもとちがう道だけどきっとだいじょうぶだよね!
 ふふふー、キラキラ、ピカピカ、楽しみだなー」
 少女は歩く、その道を。
 少女は歩く、災禍を振りまきながら――。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 台風の季節です。
 魔物生み出す瘴気の渦に立ち向かいましょう。

●依頼達成条件
 瘴気渦中心の柱を守る障壁の破壊

■大成功条件
 少女との邂逅及び、瘴気渦をその場で消滅させる。 
 (難易度HARD相当の達成要件となります。
  しっかりとした行動指針、プレイングが必要となります)
 
●情報確度
 情報確度はBです。
 想定外の事態が起こる可能性があります。

●瘴気渦について
 周囲の動植物を低級な魔物に変化させる瘴気が暴風域となって渦巻いています。
 戦場となる中心点付近では中心に近い者ほど、瘴気の影響を強く受けます。
 また、低級の魔物も毎ターン一体出現します。
 本依頼に参加するイレギュラーズであれば難なく倒せますが、放っておけば無駄に傷を負うことになるでしょう。

 ・カースドストーム
 (神特レ特)全体範囲・常時呪い、不吉、窒息、毒、乱れの効果
 中心(障壁)から離れるほど、呪い以外の効果が弱くなる。

 中心点は直径十メートルほどの竜巻のような螺旋の柱になっている。
 障壁を破れば柱へ突入することも可能かもしれないが、より強くなる瘴気の効果に重傷は免れないだろう。

■障壁
 反射機構を持つ魔力障壁。
 高耐久高抵抗だが、防御、回避共に低い。
 毎ターン攻撃はせずに全力防御を行う。

 六十ターン経過で中心点が村へと到達することとなる(時間切れ)

■魔物達
 通常攻撃だけ行います。野生の狼や小動物、植物などが魔物かしてます。弱い。

●リリィのメモ
 障壁を破壊したら瘴気があふれ出す可能性もあるわ。すぐに退避してね。
 それと、どこかに女の子がいるようなの。
 見つけたら保護してほしいけど……。
 行きたい場所があるみたい、何か説得が必要かもしれないわね。

●想定戦闘地域とその他
 山間の森の中での戦闘になります。
 木々が生えていますが、戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
 天候は暗雲。午前十時ですが陽の光が届きません。
 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。 

  • カースドタイフーン:デストラクションLv:6以上完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
アト・サイン(p3p001394)
観光客
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
リジア(p3p002864)
祈り
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
フルート(p3p005162)
壊れた楽器

リプレイ

●接近
 午前、陽の光も高くなりそうな時間にあって、その一帯は暗曇に包まれ、光届かない暗がりに包まれていた。
 瘴気渦。
 カースドタイフーンと呼ばれるその呪われた暴風が、ミーディアス村の南の森を薙ぎ払いながら、村へと牛歩の如く近づいていた。
 依頼を受け、瘴気渦の破壊――可能かどうかはともかく――を目指すイレギュラーズは、村の南の森を瘴気渦の中心、聳え立つ瘴気の柱へ向け進行していた。
「呪われた台風であるか。
 自然現象を人工的に変化させるような者が居るのであるか?
 はたまた天が齎す厄災であるか?」
 三つの顔で疑問を口にしながら、興味がつきない。『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256) は視線の先に聳える『柱』を睨む。
「だいぶ瘴気が濃くなってきてるね……。うっぷ、吐き気がすごいやチクショウ。
 レストは大丈夫? いつ戦闘になるとも知れないから僕から絶対離れないでね!」
 瘴気に当てられ口元を押さえる『観光客』アト・サイン(p3p001394)はそう言って隣を歩く『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)へ視線を送った。
「うふふ~。ありがとう。おばさんは大丈夫よ~。
 でもすごいわね~。どんどん木が倒されてる。あれが村まで来たらめちゃくちゃになってしまうわね~」
 レストの言うように、イレギュラーズの目と鼻の先で、轟音を立てながら木が倒れ飛ばされて行ってるのがわかる。中心はまさに大型の竜巻にも似た力を持っているのかもしれない。
「瘴気渦も気になるけれど、情報にあった女の子というのも気になるわね。
 ――こんな場所にいる……なんて、普通ではないのでしょうけど保護の必要があるのであればそのつもりで頑張りましょう」
 『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)がそう言いながら武器を振るう。生まれたばかりの魔物が、為す術無く倒された。
 すでに瘴気の影響で、森に生息していた動物や昆虫、怨霊とも言うべき魂が変化、実体化し魔物となって襲いかかってきている。
 低級の魔物故、かなりの戦闘経験を持つイレギュラーズ達の敵ではないが、その数は多く煩わしい。
「ごめんなぁ。私達がなんとか状況を変えるから、大変だろうけど少しの間だけ縄張りや住処を預けてくれ……!」
 まだ魔物に変わっていない動物達にお願いし、魔物に変わってしまう数を極力減らすように手を打つのは『魔剣殺しの』ヨルムンガンド(p3p002370)だ。
 動物同士でも伝え合うように願い、周辺で生き残る動物たちを動かしていく。小さな命だろうと犠牲にはしたくないというヨルムンガンドの思いは通じ、大きく魔物の数を減らすことができた。
「……生き物というのも大変だな。
 なに、どういう現象であれ、生まれたからには滅びがあるのは道理だが……自然現象に近しいそれを早めようというのだからな」
 物質の誕生と崩壊を見届けることをその存在意義とする『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)は、人の都合による不必要な破壊を『大変』と捉える。
 とはいえ、リジアも自分の為すべき事は理解している。素直じゃないだけでその言葉に悪気はないのだ。
 カンテラの光を照らしながら、どこぞから湧き出てくる魔物を頑強な盾で殴り倒す『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)は、少しだけ悲しそうに目を伏せる。
(……ただ巻き込まれただけの命を刈り取る。心苦しいものだね。けれど、一度こうなってしまってはもう戻らないからね)
 そう自分に言い訳するように、思いを強く持ちながら魔物達を倒していく。願わくばヨルムンガンドの呼びかけでその数が少しでも減ってくれますように。そう祈る。
「だいぶ近づいてきたねぇ……。
 ただの嵐じゃなくて猛毒の瘴気の渦だなんて、普通じゃ立ってられないよ」
 そう言って「ぐふふ」と変な笑い方をする『壊れた楽器』フルート(p3p005162)。情報をくれた情報屋に良いところ見せるのだと意気込む。――そう情報にあった少女を見つけて見せるのだと、追えない標的はないのだとマフラーに隠した口の端を歪につり上げた。
 イレギュラーズは森を進む。
 瘴気渦の中心に近づけば近づく程に、その不快な甘く腐った臭いが鼻を突き、息を吸うごとに、全身の神経に異常を感じるような呪詛めいた魔気に犯されていくのがわかる。
 依頼を受けた以上、目的を果たすまで引くことはできないわけで、イレギュラーズは身体を襲う不調をねじ伏せながら進み、ついにその場所へと到達する。
 瘴気渦。その中心。
 轟音渦巻く瘴気の柱。目の前に立てばそれはもはや壁のようであり、耐えがたいほどの圧迫感を与えてくる。
 そんな壁が、意思を持つように、ゆっくりと村へ向けて進んでいた。
「なるほど。なかなか厄介そうね」
「見て、木がぶつかったときのアレ」
 威降が指さした先、瘴気渦にぶつかった木がへし折られて飛んでいくのがわかる。そのぶつかった時に瘴気渦を守るように実体化する魔呪術的な障壁。
「あらあら、とても頑丈そうね~」
「ぐへへ、これは骨が折れそうだね」
 暢気に言うレストとフルートの二人は、しかしすでに武器を構えやる気は十分だ。
「時間は有限だったか。……早速始めよう」
 リジアの言葉にイレギュラーズは頷いて、武器を手に取り構えた。
 瘴気渦の奏でる轟音は、まるで唄うようだった――。

●障壁破壊
 螺旋を描く黒巻の禍風。触れる物を全てを薙ぎ払い巻き上げていく。
 こんなものが人の住む村へと到達すれば、待っているのは破滅に他ならない。それを黙って見過ごすような心ない者は、この場にはいなかった。
 イレギュラーズはともすれば、壁のようにも思える柱――瘴気渦へ向け、攻撃を仕掛けていく。武器や術式が渦巻く風の防壁に触れる直前、硬質的感触に阻まれる。
 瘴気渦を守るように出現する障壁。障壁は渦への攻撃を完全に防ぐと同時、向けられた敵意を反射する。
 稲光が走った。敵意を返す、反攻の光だ。
「なるほど、渦を守ろうという障壁であるか」
 それにこの瘴気の濃度。至近で攻撃を繰り出すたびに息が詰まり身体が毒素に悲鳴をあげる。
 だが、我那覇は止まらない。修験者たる我那覇は険しき道に挑む者だ。
 耐性強化魔術を施し、六本の手、両足に力を入れると、地を蹴り渦へと肉薄する。叩きつけるように無数の拳を振るい障壁に負荷を与えていると、おまけとばかりに回し蹴りを見舞った。反射機構による稲光が身体を蝕むが、構うことはなかった。
「強固な障壁。どれほどのものか試してみようか」
 距離を取り、背中の青白い光翼を広げたリジアが目を細め渦を視界に収める。リジアは視覚情報を歪ませ、はじき飛ばす。それはそのままリアルに反映されて瘴気渦、その障壁に負荷を与える。
「――ッ!」
 遠く離れているリジアだが当然反射の光は返ってくる。肌を焼く痛みに奥歯を噛む。だが、手を休めることなる障壁への攻撃を続けて行った。
 瘴気渦の進行方向に向かって立ち、レストの位置を基軸にヒット&アウェイを繰り返すアンナ。
「なるほど、これは戦いにくいわね。……けど、押し通す」
 出し惜しみはしない。持てる最大の攻撃をぶつけるまでだ。
 アンナは自身の身体と脳の能力を、一瞬だけ極限まで引き上げると、無数の刃で障壁に負荷を与える。壊すという事に関して恐ろしく特化しているアンナの一撃は重く鋭い。それは同時に反射のダメージも高くなることに繋がるが、その回復は仲間に任せてある。
 また、それらは不運をもたらしそうな危うさがあったが、この時においては運が味方し、的確に攻撃を成功させていた。
 アンナはその小さな身体に内に秘めた力を発揮し、障壁破壊に向けて猛攻を続ける。
「おっと、そっちへはいかせないよ。お前達の相手は、風巻流小太刀皆伝の俺だ――!」
 湧き出でる魔物達を相手にするのは威降だ。名乗りを上げて注意を引きつけると、間合いを詰めて、装備した騎士盾で魔物の鼻っ面を殴り飛ばす。
 仲間達が障壁を攻撃する間、途切れること無く現れる魔物の相手をし続けることはかなりの労力だ。威降の存在なくして、障壁への効率的な攻撃はできなかっただろう。
 イレギュラーズの攻撃は続く。幾重に叩きつけられた攻撃は確かに効果を生んでいた。小さな綻び、障壁に傷が入ってきたのだ。
 しかしまだ壊れる気配はない。
 アトが必死にブロックを続けているが、少しばかり遅くなった程度で、瘴気渦の移動速度は大きく変わることはなかった。もし、あと一人ブロックする者がいれば、結果は変わっていたかもしれない。
 攻撃を開始して六分が過ぎた頃、周囲の光景が変わる。森を抜け、村の入口が見えてきたのだ。
「くっ、もう村が見えてきたか。ここで決めさせてもらうよぉ……!」
 リジェネレーターたるヨルムンガンドは傷付いた身体を再生しながら、繰り返し自殺行為とも取れる――障壁に身体ごとぶつけるような――捨て身の攻撃を繰り出していく。
 『星海』と『星天』。二対の腕を振るう様は、流星群降り注ぐ星空だ。当然ながら反射による稲光に身体が焼かれていくが、すぐに再生される。
 今この戦場に置いて一番傷が浅いのは彼女だろう。
「微かに楽しげな声は聞こえるんだけど……渦の音がうるさすぎてうまく把握できないね」
 戦闘開始すぐ、ジェットパックによる低空飛行で周囲を探索したフルート。彼女の目的は情報屋から伝えられた少女の探索にある。
 周囲には人影がない。しかし、ハイセンスによる聞き耳に微かに聞こえる楽しげな声。ギフトによる直感でも何処かへ向かっているのは間違いなさそうだ。つまり、姿は見えないが、瘴気渦の近くに誰かがいるのは間違いなさそうではあった。
「……行きたい場所があるってまるでこの渦みたいだねぇ。
 ま、渦の邪魔はするんだけど! 悪く思わないでね!」
 少女のことは別として、渦は止めなくてはならない。フルートは超大型のド級火器で障壁に負荷を与える。
「喉が! 目が! 全てが痛い!
 でも、もうちょっとのはず! はずだよね!? お願い、壊れてくれぇ!」
 一人騒ぎながら、瘴気渦の侵攻をブロックし続けるアト。
 その並々ならぬ再生能力のおかげでそう大きく傷付いてるわけではないが、叫んでいる通り高濃度の瘴気の影響をモロに受けている。
 瘴気渦の移動速度は微々たる程度しか低減できなかったが、それでもアトの働きは回復役たるレストを守り、増えすぎた魔物に対処するなど、その役割を十全に発揮したと言えるだろう。
「あらあら、傷がいっぱいね~。
 は~い、お手当てしましょうね~」
 本依頼に参加したイレギュラーズの要であり、七人を支えるレスト。四種のスキルを駆使し、障壁の反射や、瘴気暴風による影響で傷付いた身体を癒やし、治していく。
 暗闇に包まれる瘴気渦の周囲において、レストが生み出す柔らかな癒やしの光によるフィールドはまさに生命の息吹を感じさせる安らぎの空間だ。
 削り取られた精神力を回復し、今一度、障壁破壊へと向かうことができた。
 村の入口はもう目と鼻の先にある。
 肩で息をつくイレギュラーズも満身創痍だ。至近で戦い続けた者、特に大ダメージを与え続けたアンナの消耗は激しい。
 だが、同時に障壁もイレギュラーズの度重なる攻撃によって、ヒビだらけとなり今にも壊れそうなところまで来ていた。
 そしてついに、その時がくる。
「これで終わりである」
「いい加減に――」「壊れろぉ!」
 我那覇、アンナ、そしてヨルムンガンドの攻撃が障壁に直撃する。
 瞬間、攻撃受けた場所を基点に障壁に大きな亀裂が入り――。
「――壊れるぞ!」
 リジアの声と同時、障壁が鼓膜に響く音を立てて砕け散った。そして障壁が壊れるのと同時、内側に押し込まれていたこれまで以上の高濃度の瘴気が、爆発的な暴風となって弾けだした。
 アトがレストに覆い被さるようにして庇う。中心点から大きく離れていたリジア、フルート、威降は難を逃れたが、接近していた我那覇、アンナ、ヨルムンガンドはその衝撃の直撃を受ける。
 まるで生命を吸い尽くすような高濃度の瘴気はイレギュラーズ達の体力を大きく奪う。力尽き膝を付く我那覇、レストを庇ったアトと直撃を受けたアンナはパンドラへと縋り、再生能力を自己付与していたヨルムンガンドはギリギリ踏みとどまった。
「くっ……なんて瘴気」
 立ち上がったアンナが目の前で荒れ狂う瘴気渦の中心を見据える。
 そこにはこれまで以上の渦が生み出されては外へと向けて放たれていた。こんなものを放置していて本当に消滅するのか? そう疑問をもってもおかしくない光景だ。
「……! 中に誰か居るわ……!」
 アンナはそう言葉にすると、覚悟を決めて瘴気渦の中心へ向けて走り出す。
「いけない、一人では危険だ――!」
 そのギフトで直感的に危険性を感じ取ったリジアがアンナを止めようと声を上げる。
「私がついていくよぉ!」
 レストに治癒して貰っていたヨルムンガンドが、アンナを追うように突入する。
 荒れ狂う瘴気渦の歩みは止まらない――。

●少女
 瘴気渦の中心に向かってアンナとヨルムンガンドの二人が進む。
 しかしその瘴気の濃さ、暴風の強さたるや、障壁存在時とは比べものにならないもので、アンナは自身の体力では中心点まで持たないことを理解した。
 すぐにヨルムンガンドを庇うように前に立ち、体力の続く限り、瘴気の影響を肩代わりする。
 結果として、アンナは中心点まであと一歩のところで、力尽き暴風に弾き飛ばされてしまった。「この先に、誰か居るわ――」そう言葉を残して。
 一人残されたヨルムンガンドは再生能力を高めながら中心へ向けて進む。
 高濃度の瘴気と暴風に、パンドラへと縋りながら幾許か進むと、不意に瘴気が、暴風が消えた――否、瘴気暴風はその背に張り付くように存在する。まるで境界ができたように、暴風と無風の層ができていた。
 台風の目。そう呼ぶに相応しいその場所に、その少女はいた。
「らんらんらーん。……あれ、おねーさんだれ?」
「それはこっちの台詞だよぉ」
 まるで外の出来事など知らないような口ぶりの少女に、何をしているのか尋ねるヨルムンガンド。
「あっちにね、キラキラ、ピカピカ、楽しそうな人達に会いに行くんだー。
 私もまぜて貰うのー」
 その方角は村がある。
 瘴気渦の中心にいる少女。この少女が瘴気渦の発生源なのだろうか。だとすれば少女はキラキラピカピカ――幸せの気配――を求めて出てきたということなのか。
 しかしそれは叶わない望みだろう。少女が瘴気渦を発生させているのだとしたら、少女の行く先は破滅しかない。
 ヨルムンガンドは少し思案した後、どうにか向かう場所を変えようと話しかける。
「後で一緒に行くのじゃダメか? お弁当も持ってきてるし一緒に食べればきっと美味しいし楽しいぞぉ……!」
「おべんと? なぁにそれ?」
 うまくかかったかな? リッツパークで人気のお弁当を見せながら、気を引こうとしたその時、少女が不安げに虚空を見つめた。
「ど、どうした?」
「……やだ、怖い。ギラギラ、グチャグチャ。いっぱいされてる……!」
 急に態度を急変させた少女。何が起こったのか中心点にいるヨルムンガンドに知る術はなかったが、この時、外にいたイレギュラーズが村に近づく瘴気渦に攻撃を加えていた。
「やだやだやだ、やめて、いやだよぉ!!」
「あ、待て! そっちは――!」
 村の方角へ走り出す少女。同時に中心点にも瘴気と暴風が溢れかえり、ヨルムンガンドは為す術無く飲まれてしまった。
 巻き上げられ空へと放り出されたヨルムンガンドが目にしたのは、村の入口を破壊しながら進む少女――瘴気渦とその勢いを止めようとする仲間の姿。その姿を見てヨルムンガンドは思う。
 瘴気渦。その中心にいた少女。
 瘴気渦の発生源が少女なのだとしたら、あの障壁は少女を護る為のものだったのではないか?
 あれが少女を守るための防壁なのだとしたら、それを壊したことで、直接的に少女に敵意を向けることになったのではないか?
 もし、イレギュラーズが瘴気渦の中心へと突入する人員――少女に会いに行くのだという行動――を増やしていたのならば、必然的に少女へ向けられる敵意は減り、多くの攻撃によって少女を不安にさせることはなかったかもしれない。
 残念だが、外にいる仲間達には状況を知る術はなかった。重傷を負って放りだされたアンナを目にし、村へと迫る瘴気渦を見れば攻撃してしまうのも仕方の無い話だ。
 あと一歩、個々の動きに確かなものがあれば結果は変わっていたかも知れない――。
 村の入口を破壊した瘴気渦は、まるで急激に力を使い果たしたかのように突然その勢いを減らし、霧散していく。
 あとに残るのは、壊れた入口の残骸と、唖然とその光景を見ることしかできなかったイレギュラーズだ。
「終わった……?」
「あの子は……」
 消え去った瘴気渦。その中心点と思われる場所に少女の姿はなく、暗雲を切り裂くように降り注ぐ、明るい陽の光が残るだけだった。
 嵐のように現れ、去って行った瘴気渦と少女。少女と瘴気渦との関係は残念だが不明のままとなった。
 イレギュラーズはただ起こった天災に翻弄されただけなのだと、その場に立ち尽くすのだった。

成否

成功

MVP

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。
結果詳細はリプレイをご確認ください。

実に惜しかったです。
大成功要件の邂逅は果たせましたが、説得が足らずという所です。
おまけをして大成功でも良かったのですが、説得するために柱へと突入するプレイングが三人(内一人は魔物排除)と非常に少なかった為、この結果となりました。
説得プレイングはバッチリなのに肝心の少女へ近づくプレイングが欲しかったですね!
また突入時にヒーラーがいれば説得人数が増えてワンチャンあったかもしれません。

MVPは攻撃スタイル、ハッキリとした突入とかばうプレイングで邂逅へとつなげたこと、そして語彙の少ない少女に対する説得プレイング(できませんでしたが)が良かったアンナさんへ。
称号報酬はアンナさんと、プレイングも良く、邂逅を果たせたヨルムンガンドさんへお送りします。

何はともあれ依頼は成功です。
お疲れ様でした。次の依頼に向けてゆっくり休んでください。

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