シナリオ詳細
BAD NAME
オープニング
●
「旦那様、いけません‥‥いけません‥ああッ!」
ある貴族の屋敷では、壮年の貴族が若い飛行種のメイドを書斎の机に押し倒し、スカートの中へと手を忍ばせた。
主人に逆らえないことをいいことに使用人を手込めにするのは、こうした高貴な者達の間では特筆するまでもなく日常であり、この日も貴族は枯れた身体で若い蕾を楽しもうとしていた。
いつもと違ったのはこの入って間もない新米メイドのスカートの中、ストッキングを吊したガーターベルトに短剣が挟まれていたことだ。
撫で上げた太股に硬い物が忍ばされていることに気づいたときには、既に首を切り裂かれていた。
「任務完了。撤退します」
年若いメイドの顔には最早初々しい恥じらいはなく、冷徹で老練な暗殺者に戻ると、ランプを倒しカーテンに火を付けた。
●
「助けて頂きありがとうございました。しかも送っていただいて」
身なりのよい人間種の少年は馬車の持ち主である貴婦人と隣り合い、はにかみながらも礼を述べた。
馬車の前で目眩を起こし、あわや牽かれかけた少年の見目は麗しく、たちまち夫を亡くした寂しい女を虜にしてしまったが、この少年の目的は彼女を籠絡することでは無い。
少年が徐に扉を明けて走る馬車から飛び降りると、突然の出来事に叫ぶ間もなく馬車が砕け散る。
「任務完了。目標の死亡を確認」
臈長けた婦人も、馬も御者も、皆バラバラとなって破片と共に血肉を散らしている。
少年は飛び降りて汚れた土埃を払うと夜闇に消えた。
●
「皆さん、お集まり頂きありがとうなの‥‥です」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はその呼び名の通り新米らしく気張って溌剌とした少女だが、この日、この依頼ばかりはどこか歯切れが悪かった。
今回の依頼はある街の外れにある孤児院を襲撃し、職員もろとも孤児達を殲滅せしめよというものだったからだ。
無論、ローレットではこのような虐殺や暗殺と言った後ろ暗い依頼が舞い込むことも少なくはない。
そのような依頼であっても区別することなく、依頼は依頼として引き受けるのがプロというものだが、受ける側にも仕事を選ぶ権利がある。
誰を派遣するか、イレギュラーズの人選はローレットが実績や期待により推挙する場合もあれば、イレギュラーズの方から応募してくる場合もあるだろう。
今回の場合は前者であり、ユリーカの意見もほんの少しばかり加えられているのかもしれない。
兎に角。
このメンツに意味などという高尚なものがあるとしたら、正義の為には手段を選ばず、汚名を着るのも厭わないという者か、今さら悪名の一つや二つ増えたところで掠り傷にもならないという者だと言うことだ。
ユリーカは虐殺の正当性を次のように説明した。
「その孤児院では子供を暗殺者として教育していると言うのです‥‥! でもそこは慈善団体の経営する孤児院だと思われている上に、その表向きに騙されている貴族や王族が多数出資していて簡単には潰せないのです!」
ローレックに依頼してきた者はこの孤児院こそが悪の芽を培養する機関であるとの確信を得たが、そうと立証できるだけの証拠はない。
さらに正統な手段で訴えに出ようものならこちらに暗殺の手が伸びかねない。
出資者の中には孤児院の実態を承知の上で育成された暗殺者を買い上げている者もいるだろうから。
「なのでいっそ孤児を社会のゴミみなすカルト集団か何かに襲われたことにして、その役を皆さんにやって欲しいと、そう言う依頼なのです‥‥! つまり悪事に見せかけた正義、凶行に見せかけた冷徹なのですよ」
成功しても誰からも賞賛されない、むしろ悪逆非道と世間は憎悪を向けるだろう。
けれど暗殺者によって殺められる者や、暗殺者に仕立て上げられる子供を救う道でもある。
但し、既に孤児院によって教育された子供達は別だ。
「悪い芽は早めに摘むに限るのです。それから根っこの方も絶やすのを忘れては駄目なのです。根絶やしにしないとまた芽が生えてくるのです!」
一度洗脳教育を受けた者を厚生、再教育するのは至難の業だ。
ユリーカはこの依頼の正当性を訴えたが、依頼人の名前すらこちらには明示されていない。
それにやはり皆殺しというのは躊躇いもあるのか、視線を合わせず一抹の罪悪感を隠した。
- BAD NAME完了
- GM名八島礼
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月12日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●偵察
依頼人は名乗りもせずに汚名を着ろと言った。
だが二階に向かう男女二組に疑念を抱く様子はない。
(今更汚れたところで気にすることもねぇ)
『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)はルーキーだが、汚れ仕事など向こうの世界で慣れている。
むしろこっちでも早い内に経験しておきたいと考えていたところだし、ペアを組む『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)に至っては悪名が服を着て歩いているようなものだった。
『戦神』御幣島 戦神 奏(p3p000216)と『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)もまた、可憐な容姿に似合わず中身の方はイカレている。
奏は戦闘兵器として。
Loveは怪物として。
「ゲハハハッ。さあ、パーティー会場へ到着だ。下見ならぬかりねぇ。なぁ? 嬢ちゃん」
『喋ると感づかれますよ? 相手は暗殺者ですから』
Loveがグドルフを筆談で窘める。
グドルフは献金を考える慈善団体と巧みに嘯き内部偵察をしたが、預け先検討中の孤児としてLoveを同行させたことも効を奏した。
何故ならLoveの上目遣いは、儚き花の如くそこはかとない性的な魅力を醸し、寝所に潜り込ませるのに仕込み甲斐があると、そう思わせたのだ。
「そうだよ、静かにしないとね!!!!」
声は潜めていても弾む心は抑えられない。
元いた世界の学校のことやセーラー服着用の理由は分からなかったが、奏は学校が好きだった。
しかも教師も生徒も全部殺していいと言うのだ。
こんな美味しい話はない。
「二階に巡回はいない。誰か回ってるなら下だ」
Loveと共に夜目を利かせて先行偵察を行ったサイモンが断じる。
ギフト『ナイトウォーカー』は彼が別の世界で吸血鬼であった名残だ。
「それじゃ一足先にLoveちゃんと子供達のいる部屋に行くよ。一匹も逃さないように頑張ろうね!」
「はい、みんな優しく愛するの」
Loveにとって愛は殺すことだった。
●工作
「なぁ、一服していいか?‥‥匂いでバレるかもしれないからダメ? ‥‥チッ」
一階では『破られた誓紙』松庭 和一が取り出しかけた煙草をしまい舌打ちする。
胸クソ悪い依頼だった。
裏組織に「掃除屋」として育てられた昔の自分を見ているような錯覚を覚えて。
だが今回の相方、『刃に似た花』シキ(p3p001037)は和一の苛立ちなど涼しい顔だ。
(一人残らず、斬っていいんだ‥‥嬉しい。たくさん、たくさん‥‥殺さなきゃ)
いい刀だと思って誰かの手に取って貰えるように。
暗くて退屈なあの場所に一人きりでしまわれないように。
もし和一が今ギフト『神のみぞ知る』を発動させたなら、シキの隠れた不安と願望を読み取っただろう。
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)はカンテラを掲げて丹念に抜け道を探しながら、選別される子供を仕方が無いと割り切った。
生きるか死ぬかは全て幾多の選択と偶然とが重なった結果。
機会は平等でも結果は平等じゃない。
子供達が暗殺者になりきれずに殺されるのも。
自分が暗殺者としてここで彼らを殺すのも。
「カティア君の推理通りだったわぁ。真上は大人の部屋のフロア、子供を囮にして逃げるつもりなのかしらねぇ。ふふ」
『とにかく酒が飲みたい』祈祷 琴音(p3p001363)がこの依頼を受けたのは、二つ名通り酒代目当て。
手加減や議論いらずの仕事を有り難がっていた。
しかしその言葉にはどことなく毒。
暗殺者に仕立て上げられるのも、いざとなったら見殺しにされるのも大人の都合。
そして悪の芽と見なされて皆殺しにされるのもまた大人の都合。
だからといってどうという事はなく、超嗅覚で感じたわずかな匂いの漏れ出す家具の後ろ、カティアの見つけた擦過痕の残る壁の前に食堂のテーブルと椅子とを積み上げた。
「そっちは、済みましたか?」
ランプを掲げたシキが階段のバリケード作りを終えて尋ねる。
もう片方の手には付喪神であるシキの本体、巡回者の血を吸った妖刀「シキ」が握られていた。
●赤い眼
サーチ&デストロイ。
物質透過の能力を持つサイモンの前に壁も扉も通用しない。
中から鍵を開けグドルフを手引きすると、壁をすり抜けて敵の背後に回り込み、退路を断って挟み討つ。
「おっと、逃がしゃしないぜ。恨むならアンタらを売ったヤツを恨みな」
気配を消して隠し部屋に忍んでいた男を見つけると、あたかも事前に情報を得ていたかのように振る舞った。
サイモンは信頼の脆さを知っている。
人と魔物が争う世界、彼は吸血鬼を狩る吸血鬼部隊『ブラッドジャケット』の一員であった。
同族が同族を襲うことは吸血鬼達の信頼関係を大いに揺さぶり結束を弱めた。
だが因果応報、部隊は仲間の裏切りによりあっけなく壊滅した。
誰が裏切ったのか。
何故裏切ったのか。
秘密を知られてしまったという焦りと、誰を信じて良いのか分からぬ不信感。
揺さぶりは覿面に暗殺指導者の心をも突き崩す。
皮肉なものだ。
裏切られた経験が生きることも。
命を拾い二度目の生を歩んでいることも。
「おっと、死ぬ前に一つ教えちゃくれないかな?」
遮光眼鏡を外して見つめる目は赤。
魔眼よる催眠はこの孤児院に隠された部屋と通路を全て吐き出させ、男を情報を売った裏切り者に仕立て上げる。
「じゃあな。外道に生きる資格はねぇ。きっちりあの世に送ってやるぜ」
サイモンは手刀を叩き込み、男を送る。
異世界ではなく、二度と目覚めぬあの世へと。
●黒い十字架
「無駄だ、誰も助けになんざ来やしねぇよ。恨むならカミサマを恨みな。ただ見ているだけのモンにな!」
グドルフはサイモンと共に大人達を殺して回り、廊下で子供と出くわすと子供も殺した。
金さえ積めば依頼人が誰かもどんな仕事かも関係ないのがプロの傭兵。
未来ある子供の命を奪うことを躊躇わず、グドルフはぶちかましをかけた。
刃毀れした山賊刀に骨ごと叩き切られるのはさぞ痛いだろう。
逞しい腕に羽交い締めされ首を折られるのはさぞ辛いだろう。
だが神は助けない。
ただ神は見ているだけ。
如何なる蛮行もただ見ているだけ。
非情なる悪逆も天罰一つ下さずに。
「逃げて‥‥逃げて、逃げて‥‥生きて──‥」
子供達を逃がそうと立ち塞がって斬られた世話係の女が、息も絶え絶えにグドルフの足下で呻く。
血の海に沈んだ年若い女は、炎の中の記憶の少女に似ていた。
グドルフに願いという名の死ねぬ呪いをかけた永遠の少女に。
「あばよ」
グドルフは手にした山賊刀で譫言を繰り返す女に止めを刺す。
朽ちた信仰は神への叛逆に代わり。
潰えた希望は生への執着へと代わる。
愛しき面影は煤けた記憶にしまわれ。
懐かしき声は荒んだ心に繰り返される。
かつて胸を飾った銀のロザリオは磨かれることなく黒ずみ果てた。
けれどそれを捨てることなど出来やしない。
「生きてやるさ、悪名を背負ってでもな」
全ては約束の印、生きた証を歴史に刻むため。
●黒い制服
白い刀身は年長の子を骨ごと砕き、黒い刀身は年少の子の腹を貫く。
『戦神』に与えられし戦神制式装備第五壱号雪風Rと戦神制式装備第七壱号狐ケ原丸Rの二振りに、今は星を断つ力は無かれども、小さな子らを討つには十分なほど。
奏は鍵の掛かっていない大部屋に入ると、真っ先に窓へと向かった。
窓から逃げられないように。
Loveと挟み討つために。
「お、立ち向かってくるんだ、えらいね! でもざーんねん! その程度なら治っちゃうんだよ? じゃあね!」
果敢な迎撃が黒いセーラー服を切り裂いても戦闘兵器は気にしない。
破れた脇から赤い血が滲んでも自己再生してあっという間に元通り。
十字星の瞳を眇めて繰り出す技はぽこちゃかパーティ!
大きな子はみんなバラバラにして。
小さな子もみんなに粉々して。
みんなみんな星屑に変えたら、みんなみんな天に送ろう。
「おーあーいむすかーりー。そーあーいむすかーりー。びっくりしたよ、かくれんぼかな? 撃ち漏らしはないかな!?」
飛び出して来た子は振り抜き様に斬り捨てて、鬼ごっこのように隠れた子供を探す。
月が沈むまでに一人残らず見つけ出して、太陽が昇るまでに一人たりとも生かさずに。
殺して。
殺して。
殺して。
戦い終えた黒い学生服の戦神は、夜が明けたならまた黒い巫女服の神託の少女を訪ねに行くのだろう。
太陽の昇る空中庭園に、黒い膝丈の襞スカートを翻しながら。
●黒い子供
ギフト『七色の愛』はLoveの姿を窓と同じ色に変え、誰も気づかない。
だけどサイバーゴーグルを嵌めたLoveの目は闇に紛れて逃げようとする子供を捉えた。
(駄目だよ、一人だけ逃げちゃ。怖いの? だったらLoveが優しく愛してあげる)
窓から外に逃げようとした子供を待ち受けていたのはLoveの白く細い腕。
忌み嫌われて縊られるより辛くないから。
憎み恨まれて斬られるより痛くないから。
優しく愛された方が寂しくないから。
慈しみ抱きしめた方が悲しくないから。
子供は自分と同じ年頃の下半身が溶けかけた異形の少女に怖れ戦き飛び退いた。
だけど愛からは逃れられない。
一度囚われたら逃れられない。
子供の胸に魔弾が当たり、マジックフラワーの火花が肉を焦がす。
黒く焦げた子供をLoveは優しく抱きしめた。
(痛かった? 辛かった? すぐに楽にしてあげるの)
だけど筆談じゃ無い言葉は事切れた子供に届かない。
Loveはアイギス・レプリカの大盾で身を守りながら今度は壁の色へと変わる。
姿は変わって見えども、愛は変わらない。
形は捕らえ所なけれども、愛は変わらない。
大人も子供も、生者も死者も、みんな等しく容赦なく愛するだけ。
Loveは焦げて黒くなった死骸をさえも抱きしめ、奏をライトヒールで癒やす。
「Loveちゃん、ありがとう!」
そんな仲間の言葉と、己の愛とを噛みしめながら。
●赤い酒
「みーつけた。ふふ、隠れたつもりでも匂いで分かっちゃうんだよねぇ」
二階へ上った琴音はカティアと共に大人達の部屋を回り、隠れた者、逃げた者を捜索しては一人一人潰していった。
猟犬の如き優れた嗅覚を持つ琴音と、捜索を得意とするカティアは、殊に探索においては強力なペアだった。
「子供を暗殺者にするなんてよく考えたものだわぁ。幼い子ほど意表を突かれて油断しちゃうものねぇ。需要あると思うわぁ」
酒瓶を持ったまま迫る琴音の吐息は酒気を帯びているのに、吐き出す賞賛の言葉はどこか醒めていた。
本当は酔っ払ってなぞいないのかもしれない。
考えたくない何か、思い出したくない何かがあるだけで。
だが本当にそうなのかは誰にも分からない。
恐らく彼女自身でさえも。
「子供なんて幾らでも代わりがいるもんねぇ。理想を押しつけといて、いざとなったら置いて逃げるの、分かるわぁ。だからこっちの事も理解して貰えるかなぁ」
琴音は手にしたソリッドジョッキで敵の刃を受け止め、どこからか取り出した一升瓶を豪快に喇叭飲む。
その豪胆ぶりは逃げようとした大人も子供も驚かせて目を惹き付けると、揺酔撃の予想だにしない動きが敵を捕らえる。
殴る。
殴る。
殴る。
飛び散った赤い飛沫が葡萄酒なのか血なのか分からない程に。
「ふふ、酒代になってくれてありがとうねぇ」
赤い雫を拳で拭う琴音には最早酒のことしか頭になかった。
●黒い猫
毒を受けた琴音をキュアイービルで回復させたカティアは、隠れていた美しい年長の少年と向き合った。
少年が憐れみを乞うて媚態を作る。
まるで朧げな記憶の中の旅芸人のように。
「子供を利用することをとやかく言うつもりはないよ。そういう人達がいるからこそ生きられる子供もいるからね。僕みたいに」
カティアもまた和一のように旅芸人を隠れ蓑に黒い仕事をしてきたが、根は真面目で優しかった。
摘み取られる命を仕方ないと諦めつつ、心のどこかにやりきれないものを抱えているのも同様に。
気まぐれな猫を装い、命に関わる仕事は気が乗らないと断る。
なのにこの仕事を引き受けたのは、自分のような子供を見たくなかったからなのかもしれない。
記憶が曖昧なのは、境遇を受け入れることへの精一杯の抵抗なのかもしれないと。
「キミもそんな風に誘惑して寝首を搔いてきたのかい? でもね、身体を道具にすれば心に見えない傷がたくさん付くんだ。だから──」
かつての誰かのように口唇を求めながら刃を隠す少年を、カティアは抱きしめる。
拘束して逃がさないために。
慈悲による一撃を与えるために。
少年の脳天が琴音のハードボトルに砕かれ、赤い飛沫が飛び散る。
「苦しまずに逝けたかな」
カティアの琥珀と碧の双眸に哀れみはない。
エコーロケーションで周囲の状況を確認しながら、長く苦しませずに済んだことを、猫被りの良心が安堵するだけだ。
●赤い紐
シキはゆっくりと階段を上り二階へと向かう。
もし万が一廊下に逃れた者がいたならば、必ずこの階段を通るはずだから。
その目論見通り子供達が廊下へと飛び出してくると、シキはそれらを待ち受ける。
足止め工作さえなければ、一人くらいならば、すり抜けられたかもしれないけれど。
和一に挟まれ戻ることも適わず、進むしか無くなった子らが流れてくる。
混乱しそうな小さい子から先に狙い、大きい子らも一刀両断に斬り捨て。
遠巻きな弱い子は飛翔斬で強襲し、強い子は絢爛舞刀で切り刻む
刀であるシキの心に慈悲はない。
妖であるシキの心にあるのは願いだけ。
「殺し方を、知っている、ってことは‥‥自分が殺されても、いい、ってこと‥だよね? じゃあ遠慮無く行くよ」
長い髪が翻り、鞘に巻いた赤い結紐が踊る。
斬って。
斬って。
斬って。
多くの人を殺し、多くの血を浴び、証明するのだ。
この姿によく似た美しい髪の女に愛された頃のように。
やがて儚き雫のような少女に携えられる日が来るまで。
ギフト『狂い咲きの桜と踊れ』が舞い散らす桜の花びら。
無残に斬られた子らの身体から飛び散った血の飛沫。
シキより先には手足の残骸を浮かべた血の川が流れる。
「少しは、いい刀だって‥‥思って貰えるかな‥」
シキは赤い紐を手に取り口付ける。
それはこの紐が結ぶ絆が解けませようにと、切に祈るように見えた。
●黒い羽根
和一のデザート・イーグルから放たれた弾丸が死闘の末に男の胸を貫く。
スーサイドアタックは和一に傷を与えたが瞑想により疲労だけは回復し、倒れることを逃れていた。
和一は死人と化した男を見下ろすと憎しみさえ覚えた。
なのに子供に銃口を向けたときには、その手に微かに震えを覚えた。
よく似た顔の男児二人。
恐らく双子か兄弟だろう。
今銃口を向けているのは過去の自分達。
親に捨てられた後、兄と共に組織に拾われた頃の。
優秀とは言えない自分が兄の背に隠れていた頃の。
幼い子の大人に対する怯えや死にたくないという叫びを見て取ると、いたたまれなさに苛ついた。
二人身を寄せて闇の世界で生きていた頃の自分はいない。
二人励まし合い大人の中を生き抜いた時に兄はいなかった。
親は自分を置いて消えた。
兄もまた自分を置いて逃げた。
残される度に背の羽根は闇の色に染まるようで、心は悲しみの果てに凍っていく。
「さようなら、来世ではどうか幸せに」
和一は引き金を引いた。
やがて兄にも裏切られることを知らぬまま逝けるように。
今でも組織から抜け出せない自分を解き放つように。
二発の弾丸が孤児院に響く。
掃除したのは自分。
掃除されたのは過去の自分。
「‥‥らしくねぇ」
感傷は眼帯の奥へと隠し、黒い羽根の男は花と血を撒くシキを見る。
渇いた口唇に咥えた煙草の先、弔うように煙は流れた。
●隠蔽
「おい、金目の物くすねてんじゃねぇよ」
『私達はカルト集団ですから』
隠蔽工作を計っていた和一とLoveが、どさくさに紛れて盗みを働こうとするグドルフを窘める。
グドルフは現場を荒らし強盗の仕業に見せかけることを提案したが、カルト集団の方が「らしい」という結論に至っていた。
「隠し部屋ももう一度確認してみたが、隠れているヤツはいなかったぜ」
「こちらも抜け道も探したけど、通った形跡はないね」
一方、サイモンはそれぞれの能力を生かし、もう一度隠し部屋を捜索。
孤児院の地下から下水口へと通じる抜け道は、無論カティアによって最初に外から封印済み。
さらにカティアは今後のことを踏まえ、孤児院の出資者を記載した名簿まで徴収していた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、あれ? 手が一本多い? あれ?」
「バラバラに、しましたから‥‥頭の数を数えた方が」
奏は死体の数を数えたが、自身とシキとで斬り捨てた結果、都合良く猟奇バラバラ事件が出来上がっていた。
「ゲハハハッ、んじゃさっさとズラかろうぜ」
「そうそう。早く新しい酒を飲みたいわぁ」
グドルフと催促すると、琴音は最後の仕上げに火を付けた。
燃えた孤児院はやがて焦げた残骸と化すだろう。
赤は生。
黒は死。
それぞれの胸に赤と黒とを秘めながら、イレギュラーズ達の名は語られるだろう。
汚名であれ。
悪名であれ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
私の初めてのリプレイになりますが、皆様のそれぞれの想いをプレイングから膨らませて書かせて頂きました。
思えば悪属性依頼は多々あるのに、それぞれどんな思いでこの依頼を受け、どんな思いで悪を成すのか。
また大義名分のある悪事というのもあまりなかったように思います。
●構成について
皆様のプレイングを見たとき、大人と子供、どちらを先に潰すか、ペアを組まれる方との間に齟齬があるなと感じ、それならいっそお一人ずつの場面でじっくり心理描写をと、このような構成になりました。
●描写について
描写に関しては皆様のキャラクターデータも大いに参考にさせていただきました。
とは言え、皆様のPCの過去や現在の設定全てを把握出来ている訳では無く、想像で書いた部分は若干表現をぼかしてあります。
あくまでこういう解釈も出来ますよ、という提示の一つと捉えて下されば幸いです。
●テーマについて
善と悪とは表裏一体、「BAD NAME」は汚名とも悪名とも訳され、本質が善ならば汚名、悪ならば悪名となります。
また皆様のプレイングとキャラクターデータを見比べてみると、多くの方に赤か黒が含まれていて、そこに意味性を感じたのでもう一つのテーマに据えてみました。
エピローグを読んで読み直してみると、なるほどなと思えるかと思います。
このたびはご参加いただき誠にありがとうございました。
お気に召して頂けましたでしょうか?
ご感想などお寄せ頂けますと幸いです。
GMコメント
このたびはお目に留めて頂きありがとうございます。
八島礼(やしま・れい)と申します。
皆様のPCの活躍、そして人生の一コマを彩るお手伝いをさせていただきたいと思っております。
お気に召しましたらどうぞ奮ってご参加くださいませ。
●目的
暗殺者を育成する孤児院を襲撃し、一人残らず皆殺しにする。
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点として「依頼人の名前や依頼の正当性」、また「抜け道・隠し部屋等の可能性」があります。
●ターゲット
「大人」が10人、「子供」が60人ほどいます。
「大人」も「子供」も暗器や薬品の類いを携帯し、種族は様々です。
「大人」のうち5人はそれぞれ暗器、薬、格闘、房中術、隠密、演技の6分野の教師です。
残り4人は生徒の身の回りの世話をする者で特筆すべき技能は持ちません。
「子供」は3歳から15歳までいます。年齢が上に行くほど暗殺者としての熟練度・洗脳度か上がります。
年齢が下の者ほど技術は拙く、子供らしさも残しています。
●時間
「昼」に襲撃するか「夜」に襲撃するかはご相談上お決めください。「昼」と「夜」とでリスクが変わります。
「昼」は光源がいらず、戦闘・探索に有利です。
但し通りかかった街の人に見られて自警団に通報されてしまう可能性があります。
子供達や大人のいる場所は屋敷中に分散されています。
「夜」は誰にも見られることなく任務を遂行できます。
しかし暗いため夜目を利かすか光源を持っていないと不利が生じる場合があります。
一部の職員がたまに夜間の見回りを行うくらいで、基本的に子供達も大人も各自に宛がわれた部屋で眠っています。
●屋敷
ちょっとした田舎の学校風の地上二階建ての建物です。出入り口は正面厳寒と裏口の他、各部屋に窓があります。
子供は全員二階の大部屋で、大人は二階に各自個室を有して寝泊まりしています。
一階には実技指導の教室が大小いくつかと、調理室・食堂・風呂があります。
上記は一般に知られている情報ですが、どこかに抜け道・隠し部屋等が用意されている可能性も否めません。
一人でも逃げられたら任務は失敗となります。
●描写
戦闘描写より心理描写、ゲームとして成功・不成功よりもロールプレイを重視して描きます。
例えば。
この依頼を聞いたときにどう感じたか。
何故この依頼を受けることにしたのか。
いざ任務遂行に当たりどのような想いを持ったのか。
暗殺者にしたてられた子供に対する感情。
子供を暗殺者に仕立てる大人に対する感情。
殺人を行うときに感じること。
そして。
上記のような思考や感情の元となる生い立ちや経験、信仰などのバックボーンも重視します。
プレイングの他にPCの設定も合わせて見ますので、行動の裏付けとして設定の見直し・補足もお願いします。
また、ロールプレイ重視ということで、「現場に行ってみたらやはり殺すことが出来ず、見逃そうとした」といった行動も『途中経過』であれば許可します。
但し任務と反する行動をとっても、最終的には殺さなければならなかったという方向に持って行って下さい。
勿論、どのような方法で殺戮を行うかも大切なことなのでしっかりお書き下さいね。
●参加に当たって
私がこのシナリオを通じて描くのは、貴方のPCの「生き様」です。
プレイングに書かれていない行間だとか設定の裏だとかを読んで盛る可能性があります。
むしろ盛るのが大好きです。
またアドリブで喋らせることもあります。
(明確ではない情報は確定的な書き方ではなく、予想や他者視点など、ぼかしたり表現をとりますが)
設定の盛り込みや台詞のアドリブを許容できる方、むしろどんどんやってくれと言う方に向いています。
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