PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バステトたちの、救出劇

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●子猫のレスキュー
 ラサの南西部には『ウルル』と名付けられた街がある。中規模の川ほとりに作られたこの街は、砂漠でありながら比較的涼しげな気候を持ち、行商人や観光客の行き交う都市になっている。
 この街の特徴としては、とにかく『猫が多い』事だ。街のあちこちに、猫がいる。野良猫、飼い猫、地域猫……いたるところで、猫がくつろいでいる姿を見ることができるだろう。
 ここは、かつて猫好きの旅人(ウォーカー)と、その賛同者によって興された都市だ。この街では、猫たちの事を旅人の世界で、猫の神である『バステト』の名を借りて、バステトさん、と呼び、街ぐるみでとても可愛がっている。
 さて、そんなわけだからかどうか、外から猫がやって来ることも多い。行商の隊に紛れてついてくるもの、旅行者のカバンに隠れてやってくるもの、下僕(しゅじん)である人間と一緒に移住してくるもの。そして、猫同士のネットワークでもあるのか、外から猫の楽園であるこの場所を目指してやって来るものも、いる。
 さて……此処に、一匹の猫がいる。子猫だ。砂漠の砂に紛れるみたいな、砂色の毛皮の可愛らしい子猫。本来ならふわふわのその毛並みは、今は砂漠の砂に汚れて、ペタペタになっている。
 ここは、ウルルから、人の足でも少し時間がかかるだろう場所だ。街と、街の間の、街道。そこから少しだけはずれた、猫しか通らないような、人間には少し険しい道。その木の影にうずくまって、茶色の子猫ははぁ、と息をついた。
「もうすこし、もうすこしなのに」
 なぁ、と悲し気に鳴く。……言うまでもないが、猫は崩れないバベルの影響外。つまり、言葉をしゃべる種族ではない。が、今回に関しては、特別意訳のような形で、猫の言葉を記載している。
「もうちょっとで、楽園につくのに」
 子猫がなあ、と鳴いた。脚はもう動かない。相当の距離を、無理して動いてきた。
 子猫は天涯孤独の身だった。母は、自分を生んでしばらくして、不幸にも病で亡くなった。母は死ぬ前に子猫にこう言い残した。
「ここから南に、ウルルという街があるの。そこは猫の楽園だから、私が死んだらそこに行きなさい」
 子猫はは母の遺言に従って、一生懸命に歩いた……そして、もう少しで、ついに力尽きた。流石に子猫に、長旅はつらい……。
「そこで何をしているの? お昼寝?」
 と、鳴き声が響いた。子猫が顔をあげてみれば、四匹の子猫が、こっちを見ていた。
「あなた達は……」
「僕は、猫だよ」
「それは観ればわかります」
 別の子猫がそういう。
「僕たちは、ウルルに棲んでいる地域猫です。僕はサテン。残りのは、プレゥ、クレッシ、ノモモ」
「なにそれ」
「名前よ」
 子猫が尋ねるのへ、ノモモが言った。
「ニンゲンが、私達を呼ぶのに使うの」
「なるほど、私は名前がない」
「という事は、外の猫だ。ウルルの猫なら、人間が勝手に名前を付ける」
 クレッシが言う。
「外から来たの? 外からから来たから知らないかもだけど、実はここ、昼寝には適してない」
「知ってる。ここで力尽きてるの」
 子猫が言った。
「疲れたの?」
「そうなの。ウルルに行こうと思ったのだけど、もう動けない」
「そりゃ大変だ」
 プレゥが頷いた。
「知ってる? ウルルの人間は、猫に優しい。今からここに、人間を連れて来よう。上等の、蔓で編んだバスケットに、ふわふわの毛布を乗せて、持ってこさせよう」
「それがいい。人間は、僕たちに甘いですからね。きっと喜んで、あなたを運んでくれますよ」
「少し待っててね」
 ノモモが言うのへ、クレッシが、咥えていた小さな植物の葉を、子猫の傍にやった。
「これ、少し水があるから、舐めて待ってると良いよ」
「ありがとう、ありがとう」
 なぁ、なぁ、と子猫が鳴く。
 果たして四匹は、とてとてとウルルへを引き返した――。

●子猫、救出
「あら? 皆、この間の子猫ちゃんたちやったねぇ」
 と、ウルルの街角で、蜻蛉(p3p002599)が声をあげる。ウルルの近くの、ローレットの出張所に用があった蜻蛉。そのついでに、ウルルへとやってきたのだが、その蜻蛉を見つけたのか、四匹の子猫がたたたっ、と走り寄ってきたのだ。
 四匹の猫、確か名前は、プレゥ、クレッシ、ノモモ、サテン。以前、地震で出土した迷宮に迷い込んでしまったのを、街の依頼でローレットが助けたことがある。
 四匹は、蜻蛉の足元にとびついて、にゃあにゃあ、にゃあにゃあ、と鳴いている。それから、くいくい、と視線を街の外の方に送っているようである。
「うーん、どうしたん? お腹がすいた……んとは、ちがうよね?
 ちょっと、困ってるん?」
 蜻蛉が言うのへ、通りがかりの女性が声をかける。
「あら、私、少しくらいなら意思疎通できるわよ?」
 ウルルの人なら標準装備のスキルなのかもしれない。女性は、しゃがみこんで、猫に何事をかを話しかける。
「にゃー、にゃ」
「まぁ、外に、猫さんが」
「にゃんやーにゃ」
「ええ? 動けなくて困ってるの?」
「にゃんにゃんにゃにゃにゃ」
「それで、助けに行きたいのね」
 ふふ、と女性が笑う。
「確か、貴方……ローレットの方よね?」
「ええ、そうです」
 蜻蛉が柔らかく笑うのへ、女性は頷いた。
「じゃあ、この子達の頼みを、聞いてあげて頂戴?
 この街は、猫の困りごとなら、街の行政がしっかり助けてあげることになっているの。
 私は、このことを役場に申請に行くから、貴方はローレットのお友達を集めて頂戴。
 役場から、ローレットにお仕事として依頼をお願いすることになるはずよ」
「ええ。じゃあ、皆を呼んで、すぐに助けに行きます。
 待っててね、皆」
 蜻蛉が、猫たちに笑いかけると、にゃあ、とプレゥが鳴いた。
 そして、猫たちの先導の下、救出の旅が始まるのである――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方の依頼は、蜻蛉さんが子猫たちから、依頼されたものとなります。

●成功条件
 四匹の子猫を護りつつ、『旅の子猫』の下へたどり着く。

●特殊失敗条件
 プレゥ、クレッシ、ノモモ、サテンが、ダメージを受けるなどしてやる気をなくす。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 ……何せ、情報を持ってきたのが猫なので……。

●状況
 猫の沢山いる街、ウルル。あなた達イレギュラーズは、何らかの理由で底に滞在していました。
 そこで突如発布された依頼は、子猫たちからの嘆願が元になっています。
 断片的な情報を繋げれば、どうやら街の外からやってきた猫が、ウルルに向かう途中に立ち往生してしまったとの事。
 猫たちは、そこに案内するから、ついてこい……という事らしいのです。
 皆さんは、この猫たちの先導の下、砂漠を進んで、『旅の子猫』の下にたどり着き、救助してあげてください。
 猫に先導される形ですが、そこは猫の道。ちょっと人間が進には、難しい場所かもしれません。
 細い岩道。高低差のある崖。或いは、ストレートに魔物が現れる可能性もあります。
 しっかりと対策しつつ、猫と、砂漠の旅路を行きましょう。
 作戦決行タイミングは昼。作戦エリアは、前述したとおり、狭い岩道や、高い崖、魔物の出るけものみち……などです。
 移動する際の警戒や、猫なら難なく進める険しい道を怪我せずに進む方法など、対策をしっかりしておきましょう。

●エネミーデータ
 砂漠の魔物達 ×???
  砂漠に潜む、魔物達。あまり強い敵ではありませんが、おそらく子猫を庇いながら戦う事になります。
  蠍のような魔物、砂オオカミのような魔物、ハゲタカのような魔物……などが確認できます。
  それぞれ、毒、出血、麻痺、等を付与してくるでしょう。
  基本的には格下の相手ですが、前述したように、猫を護りながら戦わなければなりません。

●味方?NPC
 プレゥ、クレッシ、ノモモ、サテン ×1匹ずつ
 戦えません。HPもさほど多くはありません。なので、しっかり守ってあげてください。
 かばう、等を行うほか、すべてのパラメーターが低下することを引き換えに、『猫を抱いて守る』こともできます。猫を抱いて守る、状態なら、猫に一切のダメージは発生しません。が、戦いづらいので、先述した通り『すべてのパラメータが若干低下します』。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • バステトたちの、救出劇完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月25日 23時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強のダチ
藤袴(p3p009289)
猫とたわむれ
暁 無黒(p3p009772)
No.696
エア(p3p010085)
白虹の少女
風花 雪莉(p3p010449)
ドラネコ保護委員会

リプレイ

●まずは下準備
「うむうむ、噂を聞いて来てみたが良き町じゃの、ウルル!
 猫と人間が見事に共存しておる。どの猫も満足そうで何よりじゃ」
 にこにこと、ウルルの街の商店街を行くのは『猫とたわむれ』藤袴(p3p009289)だ。耳や尻尾があったならば、猫のように興味深げにピン、と立っていたに違いない。藤袴が視線をやれば、あちこちに猫が過ごしていて、人間もそれを当然のように受け入れている。店先で眠る猫は、飼い猫ではないのだろうが、しかしいて当然、と人間も猫も思っている。
 猫と人が深く共存する街、ウルル。藤袴がこの街に来たのは、そもそもその評判を聞いての観光だったが、ついでにローレットにもたらされた依頼にも、そのまま参加することにした。
「猫(どうほう)の頼みと危機とあらば、手を貸さぬわけにもゆかぬからのう」
 うんうん、と微笑む藤袴。さておき、隣には『No.696』暁 無黒(p3p009772)が居て、近くの雑貨店で、大きめのカゴを抱えている。
「これとかどうっすかね! 大きさとか、心地よさ? とか?」
「うんうん、良い香りじゃ。上等の植物でおったものじゃろうな。これなら心地よく昼寝ができるじゃろ!
 あとはほれ、そこの毛布を乗せておけば完璧じゃ!」
「おやつは、どうしましょうか?」
 こくり、と小首をかしげるのは『舞い降りる六花』風花 雪莉(p3p010449)である。両手に、干し肉と干し魚を持っていて、視線の先には、ペースト状にしたおやつの入った袋もある。
「お魚が好きなのでしょうか。それともお肉。硬いのが嫌なら、ペーストのものも」
「そうっすね、困ったときは全部買うのがいいっすよ。経費は役場が払ってくれるらしいっす!」
 無黒がそういうのへ、雪莉は、まぁ、と声をあげた。
「では、少し多めに……途中で飽きてしまっては、困ってしまいます」
 買い物用のかごに、おやつを詰め込む。購入している物品からもわかるだろう。これからイレギュラーズ達は、猫と遊びに行く……というわけでは、勿論ない。
「しかし……猫の依頼者、か。死霊が依頼者だった、という依頼は受けたことがあるが……」
 苦笑しつつ言うのは、『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。今回の依頼は、『子猫たちが、見つけた行き倒れた子猫を助けに行く、という依頼を持ってきた』のだ。猫ゆえに、完全な意思疎通ができるわけではないが、とにかく何とか、その情報を確認することはできた。そうなれば、ウルルの役場や町内会などが、猫を助けるためにローレットに依頼として報酬などを用意してくれる。
「面白い街じゃな!」
 藤袴がそういうのへ、ラダは頷いた。
「うん。動物の保護に町が力を尽くすのは、良い事なのだろうね。少し過保護な気もするけれど……ま、それで誰かが不幸になるわけではない」
 ラダが頷いた。ラダの足元には一匹の子猫が居て、それが今回の依頼者、という事になる。
『今回は変わった人間が多いね』
 と、その子猫、プレゥが言った。これは人間には理解できない、猫たちだけの言葉だ。崩れないバベルに該当するものではないが、特別に意訳しているものと思ってもらいたい。
『特に、私達みたいな匂いのする人間が多いね。仲間なのかな?』
『あっちの女の人は、以前同じ匂いを嗅いだ事があります。人間のような猫のような、不思議な黒猫。ほら、この間地面から顔を出した、洞窟の中で』
 ノモモの言葉に、サテンが言った。サテンの視線の先には、『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)の姿がある。前回、子猫たちを助けた時には、蜻蛉は猫の姿をしていたが、今回は人間の姿をしている。
「初めて逢うた顔せんで、うちようち。匂いは同じやから、お久しゅう元気しとった?」
『うーん、やっぱり匂いが一緒だ。でも、人間だよね? むむむ?』
『こっちの人間も変だよ? 別の獣の匂いがする』
 プレゥの言葉にクレッシが相槌を打った。クレッシの目の前には『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)がいる。
「コャー、コャー。
 ねこさんねこさん。大変なのね。
 そういう事なら任せてほしいの。頑張るの」
『ねこかな』
『人間では?』
『でもこゃーって言ってる』
『猫っぽい感じするわよね』
『でも猫の匂いじゃないね』
 にゃぁにゃぁ、と猫たちが目の前で鳴いているので、胡桃はその背中を優しく撫でてやった。クレッシは背中をピーンと張って、撫でられるがままにしている。
「ふふ。かわいいのね」
「ああ。それに、猫ってのは幸運の象徴だ。幸運のお守りとして、旅の友として、宇宙船にのせてる奴もいた」
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が頷いた。
「もっとも、銀河の猫だから羽が生えていたり、途中で存在が希薄になったり普通じゃない猫も色々いたが。
 なんにしても、そういう毛玉の友人の頼みだ。しっかり叶えてやらないとな」
「そうですね! 今まさに、行き倒れて困っている猫さんが居るのですから!」
 むむ、と声をあげる『優しい気持ち』エア(p3p010085)。目の前の猫と戯れたい気持ちはあるが、それはそれ。今は依頼達成を優先しなければ。
「……終わったら、おやつとかあげても大丈夫でしょうか?」
 思わず口元がほころぶエアであった。

●救出の旅路
 さて、猫を伴い、砂漠に出て。ぴょこぴょこと、尻尾を立てて歩くのは、プレゥだ。
「うーん、意気揚々、威風堂々、ってかんじっすね」
 無黒が苦笑する。その腕の中には、先ほど購入した籠(バスケット)が抱えられていて、ふかふかの毛布が敷かれたその中には、残りの三匹、クレッシ、サテン、ノモモがくつろいでる。
 今回の依頼では、この子猫の先導に従わなければならない。簡単な意思疎通はできても、完璧な言葉を交わせるわけではないのだ。猫に詳細な地図を見ることは不可能だし、ましてや行き倒れている猫のいる場所を、事細かに説明することも不可能だ。
 それはさておき。
「ううん、案の定、街道からは離れていくな」
 ラダが言った。猫たちは、楽しいお散歩の最中に、件の子猫を見つけたのだ。そうなれば、ルートは必然、猫たちの使う道(キャットウォーク)になってくる。ラダが地図を広げる。大まかに猫の行く道の方向を見てみれば、
「……岩場だ。地図に情報だと、結構険しい奴だぞ」
「ふむ。猫(わし)らにとっては他愛のない道でも、人の身では苦しかろうて……いや、わしも今は人の姿、もしかして、わしも苦しいのかの?」
 藤袴が、うむ? と唸る。元の世界では猫だった、と語る藤袴であるが、混沌世界では人の姿。ましてや混沌肯定で本来の力が発揮できないとなれば、かつての敏捷さは発揮できないかもしれない。
「まぁ、実際見てからの判断っすね! お猫様も、意外とのんびりした道を進んでくれるかもっすよ!」
 と、無黒は笑う。まだまだこの時は、気楽なものだったのだ。それから数十分ほどした後に、無黒は目をまん丸に見開くことになる。
「……中々に奇抜なルートっすね……。
 流石お猫様の案内っす……」
 項垂れる無黒を慰めるつもりか、それともなんとなくか。籠の中のサテンが、無黒の頬をぺしっと叩いた。
 一行の目の前に広がっていたのは、複数の大きな岩場が断続的に続く、崖の多い山道にも似たようなルートだ。岩を登って行けば、数メートル間隔の空いた裂け目を、プレゥは涼しい顔で飛び跳ねていく。人間が飛ぶには、少々厳しい。
「やれやれ、『跳べる(ジャンプ)』かい? それとも『飛べる(フライ)』かい?」
 ヤツェクが言う。さすがのヤツェクも、プレゥの後に、涼しい顔で続くのは難しいだろう。
「この辺りの岩は、人間が飛び跳ねても大丈夫なくらい頑丈なはずだ。だから、自身がある奴は跳んでみてもいいんじゃないか?
 おれは……此処では無理はしたくないね。雪莉、サポートを頼めるかい?」
「はい、喜んで」
 雪莉がこくりと頷く。
「じゃ、ヤツェクさん、猫たちのバスケットを頼むっす!
 せっかくっすから、俺はアクロバティックなジャンプに挑戦っすよ!」
 無黒の言葉に、ヤツェクは頷いた。無黒からバスケットを受け取った。
「幸運を」
 ヤツェクが言うのへ、無黒が頷く。
「えっと、わたしもジャンプ、試してみます!」
 エアが声をあげる。その身体をふわり、と風が吹き抜ける感覚。同時、エアは駆けだし、軽やかにとんだ。まるで、羽が風に舞いあげられたかのよう。ふわり、と跳んだエアが、対岸に静かに着地する。にゃあ、とプレゥが鳴いた。褒めているように、エアには感じた。
「ふふ、ありがとうございます……えへへ、思いっきり体を動かすのも悪くないですね♪」
 そうやってエアがプレゥを抱き上げる。プレゥは労うように、肉球をエアの頬に押し当てた。その隣に、ぴょい、ぴょい、と無黒が飛び跳ねてやってくる。
「ふふん、俺も大したもんっすよね?」
 にこにこと笑う無黒に、プレゥはにゃあ、と楽し気に鳴いた。
 上って、おりて、飛び跳ねて。岩場の地帯を、猫に先導されながら、イレギュラーズ達は進んでいく。
「うーん、ねこさん、すごい道を行くのね」
 飛行する雪莉に抱えられて、胡桃が声をあげる。足元を見てみれば、少々の段差などものともせずに、ぴょんぴょんと飛び跳ねて進んでいくプレゥの姿が見えた。
「はい。とても元気で、俊敏です。
 ……あ。冷たくは、ないですか?
 私、体温が、低くて」
「大丈夫よー。ぎゃくに、わたし、熱くないかしら。
 こう見えても、蒼い炎を纏う精霊種なので。コャー」
 そう尋ねる胡桃に、雪莉がふるる、と頭を振った。
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」
 わずかに微笑む雪莉。
「おーい、そろそろ岩場も終わりだ」
 ラダが、足元から声をかけた。
「いったん休憩しよう。プレゥがご機嫌斜めのようだ」
 と、言葉を聞いてみれば、確かに、プレゥが、ラダの足元に飛び掛かる様にくっついている。疲れたから抱き上げろ、という事だろう。
「胡桃さん、辺りに動物とかはおります?」
 蜻蛉が尋ねるのへ、胡桃が頭を振った。
「大丈夫、この辺りは安全よ」
「じゃあ、ちょっと休みましょ? 立ち往生してる子には悪いけど、この子達が疲れたら、元も子もないものねぇ」
 蜻蛉の言葉に、仲間達は頷いた。
 岩の木陰で、一同はバスケットを真ん中に、休憩をとる。といっても、人間にとっては、まだまだ体力を消耗したというほどではない。どちらかと言えば、子猫たちのご機嫌取りのためのものだ。
「プレゥちゃん、やったねぇ。ここまでお疲れ様。えらい、えらい」
 やさしく頭をなでると、こすりつけるように、プレゥは蜻蛉の掌に頭をぶつける。目を閉じてごろごろと馴らす喉が、リラックスの証明だ。
「ほら、籠の中のお前達も、水分をとっておくといい」
 ヤツェクが冷やしておいたポットからミルクを取り出すと、バスケットの近くに置く。バスケットから三匹が飛び出してきて、ぺろぺろとミルクを舐め始めた。
「日傘もさしておくわね」
 胡桃が、バスケットを隠すように、日傘を地面に固定した。隣では、雪莉がぱたぱたと仰いで、冷たい風を送っている。
「うう、かわいい……できればこのまま遊んでいたい~」
 エアがうう、と肩を落とした。そういうわけにもいかないのは、わかっている。
「あとどれくらいなのでしょうか……?」
「猫の移動距離だ。さほど遠くはないだろう」
 ラダが、地図を確認しながら言う。
「意外と、縄張りを持っている猫は、そこから遠くまでは離れないもの……らしい。
 ウルルの街を縄張りだとすれば、距離だけならさほどな問題にはならないと思う。問題は……」
「道、やねぇ」
 蜻蛉が苦笑した。先ほどまで進んだ岩道、距離は大したものではないが、人間が軽々に進むほど易しくはない。
「仕方あるまい。猫は人間の作った道などには縛られないのじゃ」
 わはは、と藤袴が笑う。蜻蛉は、もう一度苦笑した。
「……ちょっと、気持ちがわかってまうの……うちが子猫の時は、どうやったかなぁ」
 少しだけ、思い出を紐解きながら、休憩する猫たちを見つめるのだった。

●子猫救出
 何度か先導の子猫を入れ替えて、イレギュラーズ達は先に進む。猫がやっと通れるくらいの細道や、小さな草藪の中。普段なら通ろうとは思わないようなところを、猫たちは意気揚々を進んでいって、イレギュラーズ達はびっくりしつつ苦笑しつつ、その後を追っていく。
 猫たちは本当に、道に頓着しないようで、砂オオカミの狩場の近くを通った時などは、イレギュラーズ達の緊張は張り詰めたものだ。おおん、と遠くから遠吠えが聞こえて、イレギュラーズ達は警戒するが、その時の先導役だったプレッシはのんきなのか、全く気にも留めていない。
 結果として、5匹の砂オオカミに襲撃されたわけだが、そこはイレギュラーズ。後れを取ることは無い。が。
「やれやれ、子猫を抱えながら戦うのが、これほど難しいとはな」
 ヤツェクが苦笑する。その手に猫の乗ったバスケットを抱えているのだ。当然ながら、動きは阻害される。狼たちはそれを敏感に感じ取って、ヤツェクに飛び掛かっていった。
「いけません!」
 エアが飛び込んで、その両手をかざした。巻き起こる風の結界が、自身を守る様に、狼を阻む。
「えーっと、縄張りを荒らしてごめんなさい! すぐ出ていきますからっ!」
 反発するように結界を操作すれば、狼が風によって押し飛ばされていく。地に落下した狼が、ぎゃん、と悲鳴をあげる――そこへ、胡桃の、蒼の狐日が、地を走る様に殺到する! ぼう、と吹きあがる蒼の炎が、狼たちを再び吹き飛ばした。
「手加減はするわー」
 胡桃が言う。
「でも、向かってくるなら、ごめんだけれども。容赦はしないわよー」
 コャー、と声をあげる胡桃。狼たちも、流石に実力差を理解しているのだろう。少しばかりの抵抗をつづけたものの、すぐに姿を消し、撤退していった。
「ヤツェクさん、大丈夫でしょうか? 治療、いたしますね」
 雪莉がヤツェクへと駆け寄り、ヒールの術式を編み上げる。ヤツェクの傷が癒えていく中、その傷を包む光の粒に、バスケットの中のノモモが手を伸ばして、じゃれつこうとしていた。
「やれやれ、命の危機だったんだぞ?」
 ヤツェクは苦笑する。
「しょうがないよねぇ? 猫やもの、ね?」
 蜻蛉が苦笑してノモモの喉元を撫でてやった。
 今度のはノモモを先頭にして、砂漠を進む。今度はシンプルな砂漠の道行きだ。熱さはあるが、獣道ほど進みづらくはない。意気揚々と進むノモモのしっぽを頼りに、先に進む――と。ノモモが立ち止まり、なあ、と鳴いた。すると、どうだろう。草木の木陰から、なぁ、と返事のような声が聞こえるではないか。
「おっ、この辺っすね!?」
 無黒が声をあげる。バスケットを抱えながら、ゆっくりと草木の影へと、一行は進んだ。するとどうだろう、そこには随分とくたびれた様子の、一匹の子猫の姿があった。
「……大変だな。見てわかる、随分と消耗している様だ」
 ラダがそういうのへ、ヤツェクが頷く。
「ああ。確か、ペーストのおやつがあったな。あれをやろう。水分と栄養が同時に取れるはずだ」
 子猫は、少しだけこちらを警戒していたようだが、ノモモが近づいて、な、な、と鳴くと、どうやらこちらを救助の人間だと理解したらしく、警戒を解いて、ペタリ、と地面に座り込んだ。
「た、大変です……! ほら、これ、おやつですよ?
 焦らないで、食べてください……!」
 エアが差し出したペースト状のおやつを、子猫はぺろぺろと舐め始めた。勢いは弱いが、今は仕方ないだろう。
「……仰いで、冷やしてあげた方が、良いでしょうか?」
 雪莉の言葉に、藤袴が頷く。
「うむ、流石に砂漠は暑いからのう。ねこはぽかぽかした所が大好きじゃが、ここは昼寝には適しておらんしの!」
「はい……!」
 雪莉がぱたぱたと仰いで風を送る。子猫が目を細めて、その風を受け取っていた。
「……すこしおやつをあげて休ませたら、連れて帰ろう。
 帰りは、抱いて帰っても良いわ。きつねのうえにねこ」
 胡桃がコャー、と声をあげるのへ、猫たちも頷くように、にゃー、と鳴いた。
「はい! ちゃんと連れて帰ってあげましょう! そうしたら、沢山遊んであげたいです♪」
 エアが、ペーストおやつをあげながらそういう。
「一応、警戒は怠らないでくれ。弱っている動物を狙うものもいるだろう」
 ラダの言葉に、
「了解っす!」
 無黒は頷いた。果たしてしばらくの休憩の後、子猫は落ち着きを取り戻したようだった。バスケットによろよろと入り込むと、そのままこてん、と寝てしまう。
「お疲れ様。大変やったねぇ。そや、お礼はこの子たちに言うてあげてね。ここまで連れて来てくれたんよ」
 蜻蛉が、子猫を優しく撫でた。くるる、と喉を鳴らす。
「皆も、良く教えてくれたねぇ。ありがとな? 帰ったら、いーっぱい、おやつ食べよな?」
 蜻蛉の言葉を理解したのか、猫たちが、にゃあ、と声をあげた。
 そして一行は、帰り道を戻っていく。
 帰り道は、流石に地図を頼りに街道に復帰して進んだため、行きの半分以下の時間で戻ることができた。
 かくして、子猫たちの依頼は成功に終わり、ウルルの街には、新たな一匹の猫が住民として加わったのである――。

成否

成功

MVP

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強のダチ

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、子猫は無事に、ウルルの街に到着することができました。
 今は、この子の名前を絶賛募集中なのだとか――。

PAGETOPPAGEBOTTOM