シナリオ詳細
猫と和解せよ
オープニング
●猫と温泉
にゃぁ、みゃあ、にゃあお。
見て、春がくるんだよ。
ぽかぽかの陽気にふわふわの湯気。大好きな女将さんが今日も頑張っている。看板猫のミケもふにゃぁっと伸びをして、お客さんたちに挨拶をして回る。
温泉宿に、ようこそぉ!
あったか温泉で、ぬくぬくしてってね。
儚く柔らかな白がぽかぽか空気に緩んで潤んでいけば、芽吹きと目覚めの季節が訪れる。あらぁ、そんなん困りますぅなんて女将さんが困ったお客さんに眉を下げてあしらっているから、ミケもぴょこんと跳んで近くに行った。
みゃー、にゃぁ。にゃあお。
「なんだ。猫がいるのか。猫は嫌いだ、しっしっ」
お宿の周りには暖気に誘われた可愛い薄紅桜が花ひらく。
さわ、さや。
ひらり。
風が花びらを擽って、愛らしい花がふわふわ揺れる。
ねえ、ニンゲンは風にも名前をつけるんだって。あったか一番、南から二番、つよいの三番、不思議だね。ひゅうひゅうひゅるり、気ままに遊んでいるだけなのに、一等も二等もないじゃない。
夜の温泉は人工灯りに桜が浮かびあがって艶やかで、お空を見上げりゃキラキラ小粒の金平糖をたぁんと散らばめたみたいな星の天鵞絨に抱かれているよう。
ちゃぷり、湯音は安堵を誘い、ぬくい湯温に身も心も委ねたならば、日頃の疲れも溶けていく――「でも意地悪さんは、お仕置きだぁよ」
●怪奇? ほいほい火!
「温泉にいきましょぉ?」
ギルドで依頼を選んでいるあなたに、そんな声が掛けられた。
振り返る視線が下に向いたのは、野火止・蜜柑(p3n000236)が床に正座していたからだ。両手ですすすっと差し出してくるのは、一枚の依頼書だった。
『温泉宿に『ほいほい火』が出て困っています。
お風呂に入っている人の近くでゆらゆら揺れるだけで、危害は加えないのですが、お客さんはやっぱり怯えてしまって、あの宿は怖いと噂になり、客足が遠のいてしまったのです。
『ほいほい火』が今後出現しないようにしてください』
「読んだ? 読みました?」
蜜柑少年は若干ドヤ顔な上目使いで様子を窺い、「そのお仕事すぐ解決できますよ!」と情報を打ち明けた。
「まず、『ほいほい火』ってのはお化けの火の事なんです。ですが、今回のコレは『ほいほい火』じゃありません――犯人はネコチャンです!」
情報屋いわく、温泉宿には看板猫のミケちゃんがいるらしい。そして、ミケちゃんがただのネコチャンではなく妖猫だとわかったのだとか。何故わかったかというと――「これは俺が調査してわかったというよりは、ネコチャンに詳しいかなと思ってショウのお兄さん(p3n000005)に聞いてみたら妖猫だねって教えてくれたんですけどね」と。
「『ほいほい火』に襲われてるのは、マナーが悪いお客さんばかりなんです。きっと、ミケちゃんなりにお宿を守ろうとか思ったんちゃうかな~?」
少年はそう言って宿の施設情報や料理メニューをまとめた調書を見せて、「ミケちゃんに悪戯やめよーって言ってもろて。あとはついでにご飯食べたりお風呂楽しんだりですよ! 良い仕事じゃないですか! 俺もついてっちゃだめかな……」と笑うのだった。
- 猫と和解せよ完了
- GM名透明空気
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月16日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
リプレイ
●爛漫の春に先駆けて
爽やかな緑と桜の香りを運ぶ風に独特の匂いが混ざっている。麗らかな雪解けの歓びに輝くような日差しが互いの髪をきらきらさせていた。
(……春ですね)
『木漏れ日の魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)は眦を柔らかく和ませて、到着した一行を歓迎する女将さんと看板猫をみつめた。
「女将さんと自分の身を守る為の行動なんだろうけど、結果として女将さんが困ってしまっています」
「一部のマナーの悪い客のせいで普通のお客さんに迷惑がかかる……こういうお話を現実にしましたって感じの内容なのですよ」
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)の淡い春花の瞳が共感をのぼらせた。
「ミケちゃんはミケちゃんなりに必死に頑張ってるというのは分かるけども、1人で抱え込むのはあんまり良くないのでして!」
困った時は、お手伝いしてくれる誰かの存在がとっても嬉しいのだとルシアは知っている。解決策を考える時も、意見を出し合えばひとりでは気付けなかった事がわかったりするから。
(――だからルシアに出来ることは……、「助けてくれる人」を一人でも多くすることなのですよ!)
ウンウンと頷く『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)は、ミケに視線を注いでいる。
「マナーを守らないお客さんだけを驚かすなんて、ミケちゃんってかなり女将さん思いで賢いんですね。これならきちんと女将さんが困っている事を伝えれば説得できそうですね」
神使、と呼ばれるのを新鮮に感じながら『炎の剣』朱華(p3p010458)は温泉宿に来るのはこれが二回目ね、と呟いて温泉宿を彩る桜景色を楽しんでいた。
「『ほいほい火』……じゃなくて、そのミケって子の悪戯を止めればいいのね?」
琥珀(p3p010478)が緑と花が織り成す佳景に視線を巡らせている。
「ほいほい火を解決さえできれば、あとは自由に過ごせるのか」
「それだけで温泉からご馳走までいただけるなんて受けない理由がないってモノよねっ!」
2人は春めく景色に故郷の山岳を想った。
「ちゃんとした依頼は初めてだが、頑張ろう」
「この子がミケね」
朱華がミケにそーっと手を伸ばす。ミケは悪戯な目をして、指先に鼻を寄せた。
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)とメリッサが猫に挨拶をしている。
「こんにちはミケちゃん、お邪魔しますね」
春告げの鳥が鳴いていた。
通された部屋は、所謂和洋折衷。清潔感のあるベッドも使えるし、畳にお布団も敷ける。窓が大きくて、明るく広い部屋だった。
わあ、とリディアの頬から耳に薔薇色が燈る。朱華と一緒に広縁の椅子に座れば、ささめく桜が窓越しに間近に臨めて。きれい、と声が揃った。
「むむむ……浴衣でして? 羽が窮屈でして……あっ? こちらの浴衣、穴が?」
「お揃いの浴衣ですね!」
ルシアが有翼種族用の浴衣を見つけて、メリッサが嬉しそうにクリーム地にピンクや薄紫の薄桜柄が咲く浴衣を広げた。
男子部屋では蜜柑が豊穣郷は故郷と雰囲気が似てて落ち着くなぁと呟いて、イズマと琥珀の清涼な縦縞しじらの浴衣姿が新鮮だと目を輝かせた。
「ご許可ありがとうございます。おおきに!」
「いつも依頼の情報をくれて助かってるしな」
蜜柑はニコニコと思い出す――、
「危険も少なそうですし」とメリッサが。
「じゃあ蜜柑さんも」とイズマが。
「一緒に行きませんか?」とリディアが。
「ソコはついてっちゃだめかな……じゃなくて、ついて行く……でも良いと思うけどね。――さっさと荷物を準備しなさい。行くわよ、蜜柑」朱華が言ってくれて、「わーい」と付いて来たのだ。
「俺、女子部屋にお礼言いに行きますぅ!」
「ちゃんとノックするんだよ?」
「着替え中かもしれないぞ」
じゃあ一緒に、と3人で戸を叩けば、着替えを終えた女子陣が華やかに出迎える。わ~、眼福ですね、と声をあげて見惚れた蜜柑はいそいそとその場で正座をして「このたびはありがとうございます」と仰々しく頭を下げたのだった。
「タイミング的に浴衣見せてくれてありがとうって誤解されそうだね」
「それもあります」
「あるんだ」
●枝纏うつぼみは
吹き抜けの通路を歩く頬を花薫る風が撫でていく。
「朱華達は別に悪さをしに来たんじゃないわ。話がしたかっただけよ」
「ミケちゃんに相談があってきたんですよ」
朱華とメリッサがミケに語り掛けている。
にゃあ、と甘える猫のミケをイズマが抱き上げた。ミケちゃんが火を出すのには理由があるんだろう? と問いかけて。
「ほいほい火……アレを出してるの、ミケでしょ?」
「ミケちゃん意地悪な人を火を出して懲らしめてますよね?」
ゴロゴロ……♪ ――うん。
イズマは真摯な瞳でミケを覗き込んで、率直に依頼の話をした。
「ほいほい火を止めさせてほしいと頼まれたんだ」
朱華とメリッサもそうそう、と言葉を選ぶ。
「ミケの悪戯に困ってアンタの大好きな女将さんが朱華達を呼んだの」
「お気持ちはすごくえらいと思うんですが、驚かされた人が怖い旅館だって噂を流して女将さんが困ってるんですよ」
ふみゃあ? ――そうなの?
「このままだと女将さんが温泉旅館を続けれなくなるかもしれません」
にゃぁ。――女将さん、困ってる……?
しょんぼりするミケを朱華が優しく取りなした。
「別に何もするなって訳じゃないのよ。ミケの悪戯も女将さんを思ってだったり、アンタに乱暴しようとした奴に向けられたものだって事……ちゃんと知ってるから。ただ今度からはそんな奴らにあったら誰かに伝えなさい」
「私たちと一緒に火で驚かす以外の懲らしめ方法を考えましょう!」
「火を怖がって宿のお客さんが減ると女将さんは困ってしまうんだ」
「女将さんや宿の人達には朱華からミケの声にもっと耳を傾けるように伝えてあげるから」
ミケは頷いた。もう火で脅かすのはやめる、と。
「そうだ、悪い事をしてる人がいたら俺が止めさせるから案内して?」
ミケを抱っこして、イズマがお宿を巡回して、明るい渡り廊下でルシアとすれ違った。浴衣姿のルシアは、お宿の環境や掃除方法などを調べているようだった。
このお宿での体験に、お客さんは何を求めてくるだろう。
それは、癒しや安らぎ。非日常の楽しさ。ちょっとした特別。
「ミケちゃん、人間はね、悪意があって悪い事をする人もいれば、偶々機嫌が悪かったりその場の勢いでうっかり悪いことをしてしまう人や、その気はないし悪いことをしている自覚もない人がいるんだ。俺が見たこのお宿の人は、後者の二つが多いかな」
一方、リディアは女将さんに声をかけていた。
「このお宿のお困り事が他にないかをお伺いしたいんです」
「困っている事です? あらぁ……」
おっとりと頬に手を当てる女将さんに、リディアは「依頼のためなので、言いにくい事も言ってください」と言葉を添えた。緑の瞳が円かで、純真な煌めきを魅せるのを見て、女将さんは頷いた。何処もそうかと思うのですけどね、と語ればリディアはやっぱり、と仲間と視線を交わした。琥珀が気づかわし気に懸念を伝える。
「ほいほい火の調査をしていたが、警備が少ない気がするのだが」
女将さんは、大柄な亜竜種を見上げて鋭い目に優しい色が宿っている事に気付いた。
「マナーの悪い客などがいたら大変ではないだろうか、人を雇えるのなら客もより安心して訪れられるのでは……」
リディアも言い添えた。
「護身術を覚えるか護衛の雇用も検討した方がいいかもしれません」
「そうですね、ありがとうございます」
ルシアが話に加わったのは、その時だ。
「人手を増やしたり、今いる人の働く効率アップを目指してみるのはいかがでして? こう見えてもルシアはその辺りの作業は得意なのでして!」
ルシアさんは家庭的なんです、とメリッサが口添えをする。例えば、と和室に皆を連れて行って実演する幼く愛らしい天使のようなルシアの姿はとても堂々として自信に溢れている。
「ここを先に片づけて、こっちを、こう……」
「まあ。確かに、その順番のほうがお仕事が早く済みますね!」
女将さんが絶賛している。こうですね、と自分でも試してみる女将さんにルシアはにっこり。
「……そうそう! そんな感じでして! それとここの掃除はする機会が多いからこうすれば……これできっと作業が今までよりさらに早く楽に終われると思うのですよ!」
イズマは先刻を思い出して、なるほど調べていたのはこのためだったのかと思い至った。
ミケちゃん、とリディアは浴衣の裾に気を付けながらちょこんとしゃがみ、安心させるように優しくミケの背を撫でた。
「この子を看板猫としてアピールしたら猫好きなお客さんも増えると思うんです。人の目が増えればミケちゃんに乱暴な振る舞いをする人も減るのではないでしょうか」
「それは素敵ですね!」
ミケが目を細めてにゃぁと鳴く。満更でもなさそうですねとリディアが安堵する隣で、イズマはミケの秘密を明かす事にした。
「実は、ミケちゃんは妖猫で、宿のマナーを守ってほしくて火を出してたんだ。大好きな女将さんの力になりたかったんだよな」
――にゃあ!
女将さんは目を丸くして、ミケが妖だったなんてねぇ、と口元を覆った。
「そう、ミケなりにお宿を守ろうとしてくれたのねぇ、ありがとぉ」
ミケが妖で怪奇な火の原因と知っても、女将さんはミケを怖がったりはしなかった。愛猫の毛並みを撫でる手は優しく、愛情に満ちていた。夏に肝試しでも企画しては、とイズマが提案すると女将さんは「素敵」と前向きな顔になる。
今後の為に、と。イズマはお宿での振る舞いについての注意書きを一覧にして掲示板に貼り、お客さんに配るパンフレットの見本を作って渡した。
「ミケちゃん、意地悪を見付けた時はお知らせするんだよ」
「にゃあ!」
「もしミケちゃんが手伝ってほしそうにしながら来た時は、もしかすると困ったお客さんに何かされたかもしれないので助けてあげてほしいのでして!」
ルシアが言えば、女将さんは感激の面持ちで何度も頭を下げて、お礼を告げた。
「ええ、ええ。警備も増やすことにします。本当にありがとうございます!」
「マナーの悪い客を減らせれば猫もわざわざ悪戯などしないはずだ。その羽のない猫は女将の事が好きなようだし、見境なく悪戯するわけでもなさそうだしな」
琥珀がそろそろと手を伸ばせば、ミケは愛らしく鳴いて頬をすりすりとした。
「ドラネコに似ているな」
「ね!」
朱華が頷いた。依頼は完了、と琥珀が男子を誘う。
「岩露天風呂で氷菓子を楽しんでみたいな、ワクワクする」
●夜灯りの温泉に
露天の岩風呂は開放感があって、特別な感覚が胸を浮き立たせた。
リディアにとって温泉はたくさんの思い出がある。お湯を掛け合い羽を濡らす朱華とルシアとメリッサを見渡せば、自然と笑みが零れる微笑ましいやりとりをしていた。
「ふぁぁ……これはすごいですね」
「んー、やっぱり豊穣の温泉って最高ね。効能もそうだけど風情がある……って言うのかしら?」
みんな、まるで本当の姉妹みたい。今日の私は一番お姉さん! と、リディアは密やかに胸に意気込んだ。
(しっかり面倒見ないと!)
桜の花色に膚を上気させる皆をちらり。これからを萌すつぼみのような、控えめで清純な、咲き始めの花のような彼女たち。
(私も少し前はあんな感じだったんですよね。最近ちょっと育ってきてますが)
――朱華とは年齢が近いから、特に気になったのはリディアの心の中だけの秘密。
「こういう時は羽洗い大会でして!」
ルシアが可憐に聲を綻ばせて、メリッサが小鳥めいて首を傾げて。
「羽洗い大会?」
「洗いっこ、いいと思いますよ」
リディアはちょっと背伸びするような心地でメリッサの羽に湯をかけた。朱華が「大会って事は競うの?」とくすっと加わる。並んで並んで、と声を華やがせて順番に白い石鹸を泡立たせて、滑らかな肌を優しく洗ってあげる。呼吸にあわせて上下する肩に皆揃って結わえた髪の遅れ毛がかそけく濡れていて、朱華が竜尾をぴょこりと揺らして面白がるみたいにメリッサを擽っている。「くすぐったいです」とメリッサが笑えばリディアはお姉さんぶって朱華の竜尾をきゅうっと捕まえて「めっ」と笑った。ぴゃっと笑う朱華にルシアがくすくす笑って、湿らかな羽先で悪戯する。
「きゃっ。目を塞いじゃだめ~!」
「ふふふ……♪」
「頭に桜の花が咲いてますよ、可愛い」
洗い終わった4人は、一緒にせえのでお湯に入っていく。白い湯気充ちる中、ちゃぷりと耳に心地よい湯音を立てて足の先をしずめて、熱い湯に少しずつ全身を浸からせて、のんびり手足を伸ばせば身も心もぽか、ぽか。
「桜を見ながら温泉に入れるなんてとっても贅沢ですよね」
湯気の中を桜が揺れて、優しい春に抱かれているみたい。メリッサが子猫みたいに目を細めると、ルシアが羽をぱしゃっとさせてお湯を跳ねた。たぷんと波打つ湯に檜升が流れて、入った氷菓子をつまむと棒付のお菓子は白桃味で、見た目も可愛らしく乙女心を擽るし、ひんやりしてて――「美味しい!」
男子風呂ではイズマと琥珀が湯を楽しんでいる。琥珀が肩まで湯に沈んで視線を上下させていた。はらり、零れ落ちる桜の花弁を手のひらで受け止めてそっと湯に浮かべれば、朧明りに透明な湯面がきらきら花流し。ゆらめきが心地よい。
「贅沢な時間だ……」
「温泉は温かくて癒やされる……なんて、俺も疲れてたんだな……」
蜜柑もアヒルの玩具をぷかぷかさせながら「ノウェル領ではご活躍だったときいてますよ」と微笑んだ。
「俺は縁がないですが、魔種の狂気って大変そうですね」
少年の視線が鈍色の金属部分に移り、お湯につけて大丈夫なのかな、と好奇心を煌めかせながら。
「琥珀様、鉄帝首都ってどんなところでしたか? 俺、行った事がないんです」と話をねだった。
「そうなのか」
「俺は昨年の末に混沌に来たんですよ」
琥珀は歯車大聖堂の展望台を思い出して両手でお湯を掬いながらゆったりと言の葉を夜気に遊ばせた。イズマは初めて鉄帝の闘技場で戦った依頼を思い出語りして、氷菓子が口の中で溶ける冷たさが北の国に降る雪を想わせた。そうそう、琥珀さんの住む集落では青いワイバーンと追いかけっこしたよとイズマが微笑んで。
夜風に舞う桜が星の煌めきの狭間で儚い春を散らせていく。灯りに浮かび上がる枝垂れの咲花は刹那の春を奇しく妖しく魅せていた。
●満開の季節を夢見て
「ご飯、一緒に食べましょう」
リディアが誘い、夕食会場に皆が集まる。
「「成功を祝って!!」」
声を揃えて、喜びを分かち合う宴席にひょっこりと顔を出したミケを見てメリッサはふと思いつき、ミケに囁いた。
「意地悪する人のご飯のおかずを一品つまみ食いするとかも、いいかもしれませんね!」
にゃあ♪ ――楽しそう!
「バレないように……♪」
お姉さん顔のリディアが笑いながら優しく窘める。
「ふふふ、ごめんなさい。リディアお姉さん!」
朱華がお肉をぱくっと頂いて、柔らかくて上品な味わいににこっとした。
「温泉もそうだけど料理も本当に最高ね」
「……これはどう食べるんだろうか」
船盛りに目を瞠る琥珀は初めての海鮮を箸で攫う。醤油を漬ければ濡れてつやつやとして、透き通る身は柔らかい感触。持ち上げるとくたりとしていた。見様見真似で口に運べば、ひんやりぷるんとした舌触り。噛みしめれば肉の旨味は優しさが強く、脂は上品だ。成程、新鮮――美味い。海の幸やねと蜜柑が燥いでいる。
イズマがおろしたれを絡めた牛肉を丁寧に切り分けてから行儀よく味わっていた。美味しいね、と語る声に共感の華が咲く。
「お肉なんだけど、たれのおかげで油っぽくなくて優しい感じだ。それに、柔らかい」
山菜釜めしをメリッサとシェアするルシアに朱華がエビ茶碗蒸しもおすすめ、と教える背景でリディアは自分も食事を楽しみながらさりげなく年下の娘達が食べ終わった後のお皿をまとめたり、テーブルを拭ったりしてお姉さん力を発揮している。
年上のお兄さん達はそんなリディアを微笑ましく見守り、手伝った。
食後は、
「お部屋にある半露天も入ってみませんか!」
リディアが言えば、朱華、ルシアもメリッサも頷いて。
「お布団も敷いて並んで寝ませんか」
仲良く半露天を楽しんでお布団を敷く女子達はお話に花が咲いて――楽しくてなかなか寝付けな~い!
男子部屋では、蜜柑がすっかり調子に乗って枕投げを仕掛けている。
「そおれ! いっとう当たったひとは罰ゲームですよ!」
ひゅーんと飛んでくる枕をイズマが受け止めて、投げ返す隙を狙って琥珀がぽぉんと枕を投げた。
「勝ったら何かあるのか?」
「な~んもないっ!」
でも、と悪戯な瞳がきらきらしていた。
「――こういうの友達って感じがしません?」
燥いでいると軈て女子が戸を叩いて――「ちょっと男子~!」――お約束!
「そっちだって夜更かししてたのでは!?」
仲良しの楽しさをお供に、早春の夜が更けて――。
「心安らぐ時間が過ごせたよ。ありがとう」
翌朝、出立の時。イズマが代表して女将とミケに別れを告げる。
声に送られて一行の冒険は終わりを迎えたのだった。
にゃーあ!
『また逢おうね!』
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おかえりなさいませ、神使(いれぎゅらーず)の皆様。
依頼へのご参加、まことにありがとうございました。
温泉宿の女将さんは「おかげで宿がまた賑やかになってまいりました。ルールやマナーが文章として目に見えることで、今まで自由奔放だったお客さんがお得意さんも含めて全体的に振る舞いに「これはだめなんだな」と気を付けるようになったようです。警備の人たちは幸い猫好きでミケを可愛がってくださり、猫好きのお客さんも増えて、看板猫ニケはますます人気者になっています。またぜひ、機会があればお越しください」と皆様宛に感謝のお手紙を贈りました。MVPはルールを掲示板に一覧にして貼り出したあなたに。
蜜柑もとても楽しかったようで、今度は鉄帝にも行ってみたいなあと言っています。
「このたびはありがとうございました! また遊びに行きましょうね!」
GMコメント
透明空気です。今回は温泉です。安心安全、ゆるふわエンジョイ系でシナリオです。
猫好きな方、温泉好きな方、のんびりしたい方、ゴハンたべたい方、桜が観たい方、などなど、楽しくお楽しみください。
●オーダー
・入浴中のお客さんを驚かす「ほいほい火」が今後出現しないようにしてください。
●場所
・豊穣郷の温泉宿『藍染花林亭』。
残雪と早咲き桜の景観を満喫できる閑静な温泉宿。
温泉は無力透明な自家源泉。効能は20種類以上、薬湯としても知られています。
・温泉
岩露天風呂(男女別と、混浴もあり。混浴は水着か湯あみ着着用)、檜造りの内風呂(男女別)。貸し切り風呂(予約制)、部屋には半露天もあり。
泉質は単純泉、かけ流し。効能は疲労回復、美肌効果などなど。
檜升に入った氷菓子や地酒を味わいながら温泉に入ることができます。
●犯人(犯猫)
・妖猫『ミケ』ちゃん
温泉宿で飼われている看板猫・三毛猫です。現地の人々はただの猫だと思っていますが、正体は妖猫。
戦闘能力は低いです。
精神性は人間の子どもとよく似ていて、女将さんの事が大好き。
女将さんを困らせたり、ミケに乱暴な振る舞いをするお客さんには、宙に浮かぶ火を出して脅かしています。
●おまけのお楽しみ要素
調査(?)段階や事件解決後に温泉に入ったりご馳走を楽しんだりできます。
・『藍染花林亭』のお料理
夕食は会場食、和食膳。座敷席と椅子テーブル席あり。
季節の和食膳【山海合戦】…地元産の牛肉のおろしたれ陶板ステーキと迫力のある海鮮舟盛りをメインに、磯椀やエビ茶碗蒸し、山菜釜めしなどを堪能できる料理長の創作会席プランです。
・野火止・蜜柑(p3n000236)
依頼の役には立たない情報屋。OPで温泉宿行きたいアピールをしていますが、連れて行っても連れて行かなくても自由です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。安心!
以上です。
それでは、よろしくお願いいたします。
Tweet