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シナリオ詳細

色褪せたアメジスト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●どうして私は生きてるの?
 ――どうして、私は生きているのだろう。
 それは、あの日、あそこから帰ってきて、目を覚ましてからずっと考えていることだった。
 自分でも、なんでこのことを忘れることが出来ていたのか、シンシアには理解できなかった。
 ――たくさんの人を、導いた。
 ――たくさんの人に、それを与えた。
 そうやって導いた人達がどうなってしまうかを、私は途中から分かっていたのに。
 その結果が、どうなるかを、私は途中で分かるようになっていたのに。
 それでも、たくさんの人に救いはあるのだと、だから私の手を取りませんかと。

 私は、どうして生きているのだろう。
 多くの人々の家族を引き離して、救いのない、終わりしかない場所に人々を導いて。
 それなのに、どうして私は――のうのうと生きているの?

 どうして、どうして生きているのだろう。
 あぁ――あの時、私は確かに殺されるほどの銃弾を浴びたはずなのに。
「お姉様、私は――どうして生きているのですか?」
 言葉に漏らす。裏切り者だと、そう言って銃口を向けたのは、つい昨日まで姉だと慕っていた人だった。
 あの人の撃つ銃弾に、私は確かに撃ち抜かれたはずなのに。

 あの時に死んでいれば、私は私が追いやった人々にお詫びできたはずなのに。
 どうして、私は生きているの?

●色褪せたアメジスト
「アドラステイア中層への潜入がちらほらとあったりの近頃ですが……少しだけ、宜しいでしょうか?」
 情報屋のアナイスがそう問いかけてくる。
「皆さんに少し、様子を見てきていただきたい人がいるのです。
 名前はメリッサ……いえ、ここはシンシアのままの方が都合が良いでしょうか。
 少し前、記憶喪失の状態でローレットに保護されたイレギュラーズの少女です」
 そこまで言うと、アナイスは少しばかり思いつめた様子を見せる。
「その後、前回行なわれた中層への足掛かりをつかむあの作戦……ディダスカリアの門と呼ばれた作戦ですね。
 あの作戦中、彼女はアドラステイアの『プリンシパル』――いわば高位の聖騎士とでもいうべき人物との遭遇時、記憶を取り戻しました」
 それが問題だった、と彼女は言う。
「記憶を取り戻した彼女の言った話を総合すると、彼女はプリンシパルとして『聖獣候補』となる人間の収集を任務としていたようです」
 聖獣――この場合で言うその存在は、アドラステイアにて製造されている『イコル』なる薬物を大量、ないし持続的に摂取することで変質してしまった怪物の事をさす。
 現時点でそれが元に戻る可能性は無く、そもそも存在すらしているか不明だが。
「ティーチャー・アメリなる人物の主導する『聖別』なる行為。
 その人物の独断にて行われる、子供を勧誘あるいは攫ってイコルを意図的に大量に与えて聖獣にする行為のようですが。
 そのアメリに通じる最短の方法があります」
「そのシンシアに連れて行ってもらうってこと?」
 君達の問いに、アナイスは小さく頷く。
「ですが……現在の彼女の様子は大変よろしくないとの情報があります。
 ローレット所属のイレギュラーズであることに加え、
 その過去を知るものが多くないので現時点で問題になってません。
 ですが、ティーチャーアメリの下で行なった行為は許されるものではない。
 そのことを、シンシア自身が自罰的に考えています。
 ――どうして、私が生き続けているの? と、自身に問いかけて続けているそうです」
「それは……」
 アナイスのいう事にも理解できる。
「このままでは自ら死を選ぶ可能性は高いでしょう。
 ……ですが、正直なところ、ティーチャーアメリと彼女が行なう聖別を食い止めるためには、
 シンシアがもつ情報はこれ以上に無いものです。
 彼女の事を見てきてもらえませんか? 現在は……ここにいるはずです」
 そう言って、アナイスは1枚の紙を用意した。
 そこには1つの住所が記載されている。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 心情系依頼……の一種になるのかな?と思われます。

●オーダー
【1】シンシアの様子を見に行く
【2】シンシアに生きる意味を取り戻す(または与える)

 2の方法は自由です。
 例えば、貴方の思う生きる意味を対話の中で伝えてみるもよし。
 どこかに出かけて気分転換がてら景色を見るなり、数人で出来る簡単そうな任務をこなしてみるもよし。
 ちょっと危険かもしれませんが、彼女のした行ないと向き合わせたうえで別の道を伝えるもよし。
 その他、なんでも構いません。

また、当シナリオにおいては各々がしたいアプローチをしてください。必ずしも全員で合わせて行動する必要はありません。

●明確な失敗条件
【1】シンシアが自ら死を選ぶ


●NPCデータ
・シンシア
 アメジスト色の瞳と髪をした15、6歳の少女。人間種。
 本来であればアメジストの宝石言葉を思わせる誠実で愛情深い性格です。

 かつてはアドラステイアにて実力だけでプリンシパルにまで上り詰め、
 プリンシパルとして『聖獣候補』となる孤児や子供を見つけてはアドラステイア中層に連れて行くことを任務としていたようです。
 その当時は『イコルを投与することで聖獣へと変化すること』までは知っていました。
 ただその聖獣化という行為が悍ましいもの、非道なものである、
 という認識はしていませんでしたし、出来ない精神状態にありました。

 何らかの時点でイレギュラーズとなって空中庭園に召喚され、
 よく分からないままアドラステイアに戻ったことで姉と慕っていた女性に殺されかけました。

 その際はパンドラ復活のおかげで死ぬことはありませんでしたが、ショックにより記憶を喪失して流離い、
 なんやかんやあってイレギュラーズとしてローレットに保護を受けています。

 現在の精神状態は最悪です。
 かつて自分がプリンシパルとして行ってきた所業の悍ましさ、愚かさに直面し、
 死んでいた方が良かったのでは?と思うようになっています。

 いつ自ら死を選んでもおかしくありませんが、
 シンシアに生きる意味を与える事は彼女がもつ情報を使って行動できるようになるともいえます。

●フィールド
 シンシアの住んでいる部屋&深緑を除くどこへでも。
 シンシアがイレギュラーズであり、空中庭園に拒絶される理由もない以上、ある程度どこへでも行けます。
 時間軸を<咎の鉄条>以後とします。深緑には行けませんが、それ以外であればイレギュラーズのいける場所はある程度どこへでも行けます。

●その他
 シンシアに関連するシナリオとして以下があります。
 参照せずとも楽しめますが、参照するとより楽しめたりするかもしれません。

『<オンネリネン>眠りの乙女は夢を見る』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6765

『<ディダスカリアの門>奪われたものを求めて』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7180

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 色褪せたアメジスト完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月26日 22時16分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


 情報屋から伝えられた住所へ足を運んだ『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は、そっと扉をノックした。
 元々どちらかといえば修道服を纏っている日の多いクラリーチェだが、今日は普段着だからではなく、意図的に修道服を着こんでいる。
 暫しの沈黙の後、扉の向こうへ人の気配があった。
「……どちら様ですか?」
「私はクラリーチェと申します。貴女のことは、ローレットから話を聞いております。
 私は修道女ですが、今日は1人の人間として参りました」
 軽い自己紹介を告げれば、暫しの沈黙の後、鍵が開いた。
 おずおずと顔をのぞかせた少女は、眠れていないのか重たい印象を受ける。
「今日はお天気もいいですし…少しお外に出ませんか?」
 笑いかけてやれば、少しだけ驚いた様子で扉が開く。
「おそと、ですか?」
「ええ、あまり外に出てないと聞きましたし、様子を見に行ってくれとのお話でしたので」
「分かりました。少しだけ、お待ちください……」
 ぎこちなく頭を下げて、少女は部屋の中へ戻っていき――時間をかけて再び扉が開く。
 着替えてきたのと、恐らくは多少の化粧をしているように見える。
 化粧の方は、顔色の悪さを隠すような意図を感じられた。
「よろしいですか?」
 小さく頷いた少女を連れて、クラリーチェは歩き出す。
 選んだのは少女の住居があった場所からほど近く、穏やかな風の流れる高台のベンチ。
「……信じたもののために、心から邁進する。それ自体はとても尊きことなのですよ」
 ただ、それは同時にあまりにも脆い状態であると言える。
 信じる根拠が根底から崩れてしまったとき、全てが崩れ落ちる。
 それこそが『妄信』というものの恐怖なのだと、クラリーチェは感覚として理解しているつもりだ。
「生命は、生まれたときから死への旅路を歩み始めます。
 自らが天に還るその時まで、命はこの世界で『生きるという枷』を嵌められます。
 いま、貴女が生きていること。それは、貴女の天命は『まだ尽きるべきではなかった』という事に他なりません」
 クラリーチェに比べれば、どれほど長くとも目の前の少女にはせいぜい残り90年あるかないか。たったそれだけの時間しかないのだから。
「もし、貴女が失わせた『命』に詫びたいというならば。天命が尽きるまで、この世界で生き抜いてください。
 決して楽しい事ばかりではない世界を一生懸命に生き抜いて……そして、考えてください。
 生きているからこそ出来る、貴女がしなければならないことを。
 ……それからでも遅くはありません」
 今でなくていいのだから。ゆっくりと。
「天命……」
 ぽつりと小さく、1つの単語が零れ落ちた。


「アリシス・シーアルジアと申します。ローレットから参りました」
 再び、暫しの沈黙があって――かちゃり。
 開いた扉の向こうから、おずおずと少女が姿を見せる。
「お久しぶりです、シンシア様。お体の方は、大丈夫な御様子ですね」
 微笑みかけるようにしてやれば、少女は少しばかり驚いた様子を見せた。
「貴女は……こんにち、は……その節はお世話になりました」
「貴女が悩んでおられるという話を聞きまして。もし良ければお話を伺っても……?」
 頷いたシンシアが扉を開けてアリシスを招き入れてくれた。
 身体を横にして導かれるまま部屋の中へ入れば、清潔感のある――もとい、生活感のない部屋があった。
 殺風景な部屋の中、ベッドとテーブルだけがある。
(意外に掃除が行き届いているのは、習慣のようなものなのでしょうね)
 それから、椅子に座ったアリシスは、隣で座るシンシアに声をかけた。
「……なるほど、真面目で優しい方ですね、貴女は」
「そんな……私は、そんなこと……だって、私は、たくさんの人を――」
 声を震わせ、膝の上で重ね合わせた手を、ぎゅっと握る少女に、アリシスはそっと手を重ねた。
 アリシスの外見から抱く聖職者というイメージもあってか、縋るような雰囲気がある。
「貴女は『そうである』というアドラステイアの教えの通りにしていたのでしょう。
 それが『救いである』と教えられてきたのであれば、救いたいという思いは、その行いを肯定するのは当然の帰結です」
 言い聞かせるように、そう言えば。
「……生きる資格が、救われる資格などないと思っていらっしゃいますか?」
 シンシアの身体が微かに強張った。
「……自分を許せ等と出来ない事は申しません。
 ですが貴女にも、今尚犠牲にされ続けている子達にも。生きる資格も救いを得る資格もあるのですよ」
「犠牲になってる子達だけじゃなくて、私も……そんな資格があるのですか?
 私は、私だって捌かれるべきはずで……」
 そう言って声を詰まらせた少女の表情は暗い。
「……アドラステイアで行われてきたことを真に捌き、犠牲にされている人々を救う資格を誰が持つのかといえば、
 きっと、貴女達のような、犠牲されてきた者であるのだと思います」
「私達、が……?」
 震える声で、少女が言う。
 それは、どちらかというとそれまでの信仰への反逆にもつながること。
 ――だが、それでも。
「貴女の良く知るティーチャーアメリのような者達が、今尚実行させている行いを許せない事であると思うのなら。
 ……貴女の力を貸してくださいませんか」
 真っすぐにアリシスが見据えた瞳に、少女の瞳は揺れているように見えた。


「アドラステイアの大人のせいにしていいんですよ」
「えっ――」
 シンシアの下へ姿を見せた『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は、椅子に腰を掛けてすぐ、言葉に出した。
 驚いた様子で顔を上げた少女に視線を向けて。
「罪があろうとなかろうと生きる者は生き、死ぬ者は死ぬのです。
 まずは、生きている幸運を喜びましょう。
 死んでしまっては何もできませんから。後悔も、反省も、償いも、何もかも」
「……でも、私はたくさんの人に酷いことをしてしまいました」
「聖獣候補として子供を中層へ連れて行っていたことですか」
 ぎゅっと拳を握り、こくりと小さく頷いた少女へ瑠璃は小さく笑うと。
「それは保護者であるところの大人が推奨して――指示を受けてしたことでしょう。
 仮にそれに異を唱えたとして、崖から落とされてしまうだけです。
 それに……周囲が歪んでいる中でまっとうな心を抱えて生きるのは、とてもとても大変ですから。
 同じように歪んでも子供なら仕方がないんです」
「ほんとうに、そうなんでしょうか……私は、そうなっても良かったんですか……?」
「ええ、だから……アドラステイアの大人のせいにしていいんです。
 それに、仮に今、償いのために死を選んだとして、アドラステイアは別の子供をプリンシパルに据え悪夢の終わりまで歯車を回し続けるでしょう」
 ――あぁ、全く。すげ替えのきく者に『主要人物』とは、ふざけた呼び方だ。
 腹立たしさは胸の奥に秘めて、瑠璃はそれを告げる。
 あまりにも容易に想像できるその未来に、シンシアが表情を強張らせた。
「――別の、子を……別の子が、私と同じように……?」
「ええ、間違いなく。それを悍ましいと思うなら、アドラステイアの解放に力を貸して頂けませんか?」
 今までを思い出しているのか、緊張した面持ちでどこか遠くを見る。
 彼女にとっては、それはある種、信じていたモノへの反逆――その決断は直ぐには出来そうになかったが。

(うーん……うーん……むずかしいな……)
 瑠璃と同様にシンシアの下へ訪れた『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は少しばかり頭を抱えていた。
(悪いことをしていた自分がゆるせない、ってことだよね……
 アドラステイアは従わないと“魔女”呼ばわりされて、最悪殺されるようなところだし、それが『当たり前だ』って教え込まされるようなとこだから)
 それは確かに琉璃が言っていた通りで――きっとシンシアだって理解しているはずだ。
「だから、うん。ぼくは君が悪い人だって思わないけど……どうなるかわかっててやった、そんな自分がゆるせない気持ちもわかる……」
 少しとはいえ自覚もあった加害者でもあり、同時に環境の被害者でもある。
 だからこそ、難しい。
「……でも、ぼくがゆるせないのはアドラステイアがやったことで、君みたいな被害者でもあり加害者でもある人たちを憎むことじゃないんだ。
 ぼくは、そういう子たちも助けたくてアドラステイアと戦ってるんだ」
 リュコスは言葉を探るようにしながら自身が紡ぐ一つ一つを、シンシアが静かに聞き入っているのを感じ取った。
「アドラステイアと……戦う」
 こくりと頷いてから、リュコスはシンシアの方に近づいた。
「それに、もう一つ」
 静かに見上げた少女は、来た時とも少し表情が違うように見えた。
「アドラステイアが『おかしい』って思えたシンシアはすごいんだってこと……
 そのせいで余計傷ついたと思うけど、アドラステイアではそれに気づけないまま悪いことをし続けてる子がたくさんいる……」
「それは……そう、ですね」
 何かを――誰かを思い出したのか、小さく頷いたシンシアは、そのまま表情を沈ませた。
「またシンシアみたいな人たちを作り続けて、命が助かっても罪悪感で死んじゃうかもしれない。
 だからね! 罪滅ぼしがしたいなら死ぬより生きて、いっしょに戦おう!」
「いっしょに……戦う……出来るんでしょうか……私にも」
「空中庭園に転移できたのも、きっとそういうことなんだと思うよ! ぼくはそう……思いたいかな」
 リュコスは少女が膝に置いていた手をぎゅっと握るのをみた。


「シンシア殿。ここは以前、小さな国だったんですよ」
 極寒の北方、鉄帝国の北東に足を運んだ『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)がシンシアを連れてきたのはかつての祖国――『鳳圏』と呼ばれていた場所。
 鉄帝国に併呑され、迅も含めたイレギュラーズによる管理に移行した場所。
「ここが、ですか?」
 あまりにも小さく、そしてそれほど豊かともいえぬ土地。
 迅は、未だ名も無き領地を歩み行く。平穏を目指し少しずつ進む場所、その一角で足を止めた。
「ここは、僕が生まれる前から常に周辺勢力と戦争状態で、僕も周りの皆と同じように兵士として戦場へ向かいました。沢山殺しましたし、沢山死にました。
 敵と戦い勝利する事が幸福への道で、朝に隣で笑っていた戦友が夕暮れには物言わぬ屍になっていたとしても、それは仕方のない事だと思っていました」
 それは一般的に言えば壮絶な道であろうとも、それこそが『当たり前』だった。
「召喚されてからもそれは変らず……祖国からの依頼で、我らが鳳王陛下が魔種であった事。
 最初はともかく、その後はずっと不要な戦いを続けていたと知った時は衝撃でしたね」
 そう言った意味では、同じなのかもしれない。
 黙々と、共に汗を掻きながら、ふと一休みして、真っすぐにシンシアの方を見た。
「シンシア殿。過ちを犯さぬ人間などいません。
 もちろん、だから罪を犯しても良いというわけではありません。
 その罪はシンシア殿が一生抱えていくもので、そのためにきっとこれからも苦しむ事でしょう。
 それでも貴女は生きていかなくてはいけません。何故なら死んでしまえばそこで終わりだからです」
「死んでしまえば、そこで終わり……」
 その言葉は、此処では重い。沢山の屍を敷いて、その上で崩れ、持ちなおそうとするこの場所で。
 だからこそいう意味がある。それはきっと、ある種では似た境遇である自分にとっても、重要な事だから。
「死んで詫びるというのはですね、シンシア殿。
 頑張れるだけ頑張って、それ以外にもうやれる事が無い人がする事です。
 貴女は違います。何処へでも行けて、戦う為の術があり、心優しい貴女はきっと多くの人を救えるでしょう。
 救うかどうかはシンシア殿の自由ですが、どうせならやる事をやり切ってから詫びに行くのが良いと思いますよ」
「やれることをやり切ってから、詫びに行く……そういうのでも、いいんでしょうか」
 そういう少女の声には、来た時よりも生気がある。
 それが働いたからなのか、それ以外なのかまでは迅には分からないが。


(アドラステイアで聖銃士となり、そのままイレギュラーズとして召喚される。
 私が言うのもなんですが、神様は残酷なものです。彼女へ、こんな苦難を与えるなんて)
 少しだけ後ろを歩く少女を気にかけながら、『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)が向かう先は正純の住まう星の社――高天京の郊外に存在する大きな社。
 夜には満天の星空に包まれる場所は、蕾の薄く開いたばかりの桜が開花の日を待ちわびている。
「普段行かない場所、行かない土地で心を落ち着かせるのも良いでしょう?」
 正純の視線の先で、シンシアはぽつんと佇んでいる。
 圧倒されているのか、その表情は不可思議なものを見ているよう。
「その木が気になりますか? 桜、といいます。これから先、あとひと月もすれば、とても綺麗な華を咲かせます」
「桜……綺麗、ですね……」
 まだ満開には程遠い花に、少女が言葉を漏らす。
「毎年、この季節になるとそうやって多くの人へ春の訪れを知らせるのです。
 どうです? お花とか好きですか?」
「大好きです。すごく久しぶりに、ゆっくり見た気がします」
 視線を正純に向けたシンシアに緊張が見受けられなくなったのを確認して手招きすれば、不思議そうにしながらも歩み寄ってくる。
「シンシアさん、貴方はこれからどうして行きたいですか?」
「私の、これから、ですか?」
「ええ、死を選ぶことは簡単です。でもそれは贖罪の手段じゃありません。
 それに、今のあなたはプリンシパルでもなんでもなく、イレギュラーズなんです」
「イレギュラーズ……あそこでは、酷い人だって言われてました。
 でも、そうじゃないんですよね……」
「イレギュラーズは、基本的にはみんな自由です。自由に、やりたいことをやってます。
 やりたいことをやって、結果的に多くのものを救いました。
 だから貴方も、やりたいことを探しましょう。
 見つかったのなら、私はそのお手伝いをしますし、それはきっと、他の方々も同じでしょう。
 だから――今は生きましょう。生きて、生き抜いて、これ以上大切なものが奪われぬよう頑張りましょう。
 その力をイレギュラーズ(わたしたち)は持っているから」
 真っすぐに見つめて告げた言葉に、シンシアが小さく息を飲んだ。
「……さて、お茶が冷えてしまいましたね。
 また、桜が咲くようになったら星の社へ遊びに来てください。約束ですよ?」
「……はい、もちろん。私も、あのお花が満開になるのを見てみたいですから」
 そう言って、少女がぎこちないながらも笑みをこぼした。


 都市国家セフィロト――通称を『練達』。
 怪竜ジャバーウォックの襲撃を受けて、新たなる不安を帯びつつも復興に向けて歩みを進めるその国にある、希望ヶ浜にシンシアを連れてきたのは『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)だ。
「急に連れ出してこんなお手伝いまでさせちゃってごめんね?
 でも、あのままシンシアさんを放っておくことも出来なかったから」
 注文しておいたドリンクが来るのを待ってから、花丸は少女に声をかける。
 練達へとシンシアを連れだした後、2人は復興支援を手伝っていた。
「いえ。ありがとうございます。気を使っていただいて……それに、この飲み物も」
「ううん、気にしないで! それより、お話しよう!」
「お話、ですか?」
「貴女がやってきたことを聞いたんだ。それに、貴女が悩んでることも」
「……はい」
 ジュースに一口。花丸の雰囲気が変わったことに気づいたのか、シンシアの表情は真剣な物になりつつある。
「……少しだけ厳しいことを言うよ。
 ――犯した罪は消えないし、無くならない。
 その上で罪を償いたいって気持ちがあるのなら、目を背けないで。
 出来る事を精一杯やっていこうよ。追いやってしまった人の分まで!」
 からん、とグラスにある氷が音を鳴らす。
「……追いやった人の分、まで」
 グラスに映る自分を見つめながら、少女が小さく呟いた。
「うん、直ぐに立ち直るのは難しいかもしれない。
 これから進もうとする道は険しいのかもしれない。
 ――けど、いつか。いつか、険しい道を超えたその先で。
 地獄の先にも、笑顔の花が咲いてほしいって。
 誰かの笑顔に満ちている優しい明日を生きてほしいんだって、そう願うんだ」
「誰かの、笑顔に満ちている……明日……私も、見てみたい、です。
 それが――赦されるのなら」
「なんて、言ったけど、願うだけじゃいけないよね!」
「――へ?」
 きょとん、というのはこんな顔なんだろう、きっと。
 綺麗なまでにぽかんとした表情を浮かべた少女へ笑いかけて。
「私達はこうして出会ったんだ。私達自身の力で、そんな未来を見てみようよ!
 出会って、言葉を交わした以上、私も支えてみせるよ」
「どう、して――そこまで、貴女は、貴方達は……」
「友達になりたいって、そう思ったからだよ。友達なら、助け合うのも当然だよ」
「とも――だち……私の、友達……に?」
 驚いた様子を見せた少女が、眼を見開いて、その瞳が潤んだ。
「あ、あれ? ど、どうしたの?」
「あ、い、いえ、ごめんなさい――友達、なんて……初めて、だから――」
 そういう少女の瞳から、小さな涙が零れ落ちた。


「アドラステイアにいたって事は元は天義に住んでたのかな?」
 シンシアをフォン・ルーベルグへ連れ出した『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は、買ってきた軽食を手渡しながら問いかける。
「はい。今ならちゃんとわかります……私は、元々この国に住んでました」
「それなら、天義の悪いところは分かってるよね……」
 あまりにも過剰な正義によって、その輝きは国民の目を焼いた。
 強烈な光の後ろ側、より濃い闇の中で悪事を働いたものも多くいた。
「そんな中、光を盲信して罪のない人、大きな罪を犯した訳じゃない人を大勢断罪してきた。まるで今のアドラステイアだよね……」
「それは……それじゃあ――」
 あの頃の天義と、あそこは何も変わらない、と、その言葉をシンシアは言葉にしない――いや、出来ないのか。
「あの頃の事は罪だと思う。この国の、沢山の人が共有している大きな罪。
 でも、だからこそ思うんだ。私達が犯してしまった大きな過ち。
 それを誰かに繰り返させちゃいけない……繰り返させたくないって」
 それは半分以上、サクラの個人的な考えだ。
 ぽて、と足元に触れた感覚に視線を向ければ、ボールが転がってきていた。
 それを持ち主の子供へ投げて渡しながら、サクラは視線をシンシアに戻して、そっと手を取った。
「ねぇ、シンシアちゃん。私達の罪は消えないよ。それでも誰かを助ける事は出来るんだ」
「……私にも、誰かを助けることが出来るのですか?」
「出来るよ。だからこれ以上アドラステイアに住む人が罪を重ねないよう力を貸してくれないかな」
 サクラが取った手が、少しだけ握り返された。
「……私に出来ることを――」
 少女が目を閉じた。
「サクラさん、私達の罪は消えないんですね。
 私、初めてできたんです、お友達が。見てみたい景色が、出来たんです。
 だから――協力させてください。あの国を、あの国で苦しんでいる私の罪が、少しでも戻れるかもしれないうちに」
 そう言った少女の声には、覇気があった。
「私の命がある限り、生きてあの人を――あの国を止めたいです」
「……ありがとう!」
 握手を交わしてサクラが微笑めば、少女も笑ってくれていた。

成否

成功

MVP

笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

状態異常

なし

あとがき

スーパー書きすぎ容疑者春野紅葉です。
大変お待たせしました、イレギュラーズ。
MVPは少女にとっての初めてのお友達となった貴女へ

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