シナリオ詳細
ガルグイユの礼賛
オープニング
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亜竜集落フリアノン――昼であれども、巨大な竜骨と洞窟の隙間から注ぐ光のみで薄暗さを感じるその場所で『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)はイレギュラーズを待っていた。
里長の家系に生まれ、亜竜種の生活圏を広げるべく尽力していた両親の世を見て育った琉珂はフィールドワークにも熱心だ。
だが、深追いはしない。危険区域だと自信が認識する場所には里の者の出入りを禁じていた。
それは琉珂の両親が生活圏を広げるべく活動していた最中に突如として飛来した竜種によって凄惨な死を遂げたことに起因する。
ある意味、仕方が無かったのだ。竜種など人知の及ぶ存在ではない。故に、琉珂は竜種を恐れ、尊び、その存在を脅威と認識した。
「この集落フリアノンは巨竜フリアノンの骨が洞窟と交わったものなの。
この竜骨は私達を導き、お守り下さる。どのような脅威であろうとも里の内部にまで及ばないのはこの地をフリアノンが護ってくれているからなのよ」
そう告げる琉珂がイレギュラーズを招いたのは里長として使用している一室であった。
壁には手書きの地図や注意書きなどが飾られている。
「だから、私は『砂の旅人』――ううん、イレギュラーズの皆を里の外には出したくはなかったの。
私はこの領域(クニ)の危険を知っている。もしも、アナタ達が命を落としたら……そんなことばかりを考えるのよ」
少女は出会った者全てを友人のように扱っていた。逆を返せば、特別な存在を簡単には作らぬと言うことだ。
喪うことを恐れるからこそ、少女は誰とでも手を繋ぎ簡単に離す臆病さを抱いていたのだろう。
「……まあ、そうは言って居られないわよね。同胞達がアナタ達の元に加入したのだもの。
亜竜種の皆もアナタ達を頼って様々な依頼を出してる。
なのに、里長の私が不安がってちゃあ意味が無いわよね。だから、」
少女は一旦、言葉を切った。その決断は『在る人との約束』を破ることになる。
それでも――
「私も父さんと母さんの後を継いで生活圏を広げる為の活動を再開しようと思うの。
本当はオジサマに止められてたのだけれど。これがフリアノンの里長の在り方だもの」
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『ガルグイユ』――そう名付けた亜竜が存在するという小集落があった。
フリアノンより僅かに南下、鍾乳洞を思わせる地中へ続く道を下って行くと広々としたエリアに辿り着くらしい。
ガルグイユの住処とされた小集落はその鍾乳洞の入り口付近に。
そして、鍾乳洞の奥には踏み入れぬようにと彼らはフリアノンの歴代の里長と約束してきたらしい。
その理由も、奥に住まう亜竜ガルグイユは危険の塊であるからだ。
「ガルグイユは深い眠りについていると言われているわ。
まあ、彼は危険だけれど、同時に、手出しをしなければ里を護ってくれるとも言われている。
だから、小集落の住民達は彼を尊び、慕っているわ。ガルグイユの眠りは妨げてはならないと――」
琉珂はカンテラを手に小集落の内部を進む。
フリアノンの里長である彼女が言葉を交わせば、道は開かれる。美しき鍾乳洞は一見の価値があるだろう。
「で、今回はガルグイユ退治じゃないのよ。ガルグイユの眠りを妨げる不届き者を倒したいと思ったの」
先ずはガルグイユの眠る地の周辺に沸くという小型の亜竜『ベイビーワーム』の撃破だ。
その後、まるで祭壇のように飾られたガルグイユ周辺の変化がないかを見回って今回の仕事は終了だという。
「決してガルグイユを起こさないこと。先ずはこれを約束してね」
今回は敢えて知った土地からの活動再開なのだと琉珂はそう言った。知らぬ場所に飛び込むのも良いが、無謀な行いをするのは褒められる事ではない。
故に、現状で注意を行っていたガルグイユ周辺から琉珂の『生活圏拡大事業』を開始し、その周辺から調査エリアを更に得ていこうという考えなのだろう。
「それじゃあ、一緒に行きましょう。ふふ、里長として皆と一緒に働けるだなんて夢みたいね!」
大人達の中で、幼いながらも背伸びをし続けた少女は同じ立場に立って誰かと行動できることが嬉しいと微笑んだ。
- ガルグイユの礼賛完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「……ねぇ、リュカちゃん」
「なあに? 焔さん」
『ガルグイユの寝所』――そう呼ばれた鍾乳洞に向かいながら『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は困惑を滲ませた。快活そうなかんばせに浮かんだのは困惑と取るしかない苦い笑いである。
「『あいつはちょっと苦い』って言ってたよね? ……あっ、ううん、ただ、その、アレって食べられるんだなぁって」
「うん。ちょっと苦いけれど食べられないって程では……」
「あ、そ、そっか……」
取りあえず何でも食べるチャレンジでもしているのだろうか。それが里の為だと身を張ったのだろうか。兎にも角にもワームを食べる珱・琉珂に焔は困惑していた。
「この歳で里長、ねぇ……いや、私より随分しっかりしてるじゃあないっスか」
ワームを食べる事はさておいても、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は里長としてこの地の調査に赴いた琉珂に好感を覚えていた。
「上に立つということはリスクを考えるということ。そんで、チャレンジすると決めたのなら……それを支えるのが年上の仕事でしょう」
「ふふ、有り難う。美咲! 頼りにしているわね」
にんまりと笑った琉珂に美咲は大きく頷いた。このガルグイユの寝所では亜竜との共存を行っているらしい。そうは言えども、ガルグイユはほぼほぼ寝て過しているようだが。
「亜竜は、恐ろしいものだと、思っていましたが……この集落は共存、しているのですね。
……眠っている内に、御供えとか、するのかしら。
なにはともあれ…まずは、ガルグイユを起こしてしまいそうな、いけない亜竜を退治するところから、ですね!」
どのように過しているのか気になると首を捻った『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)に確かに、と頷いたのは『刺し穿つ霊剣』浅蔵 竜真(p3p008541)。
「どれだけ凶暴な存在であっても、刺激せず安置しておけばさして問題はない。ただそのすぐ足元でその威を借りて安穏と過ごすというのは……。
いつ目覚めるか分からないのに、随分肝が据わった人々らしいな。
フリアノンの民は慣れているものなのか? 竜種や亜竜の脅威を目先に置いたまま生きることには」
「どうかしら? でも、何処で生きたって私達は弱者である事には変わりないし、生まれた土地が危険だっただけだもの。
けれど、そうねえ……此処の民はガルグイユが護ってくれると信じているのかも知れない」
眠りを妨げなければ、それは自身等の力になってくれる――そう信じているからこそ、民はこの地を護っているのか。
琉珂はフリアノンに直接的に住まう民達とは違う考えを持っているのかも、と鍾乳洞を振り返ってから考え倦ねる仕草を見せた。
「……まあ、栓のないことだったな。忘れてくれ。今日は安眠妨害に来たわけじゃない。仕事はやり遂げるさ」
足下に気をつけて進むネーヴェの背を追い掛けて。『ワクワクハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)は『元気いっぱい』から一転してスンッとローテンションに至った。
「あそこでガルグイユさんが眠ってるわけですね!!ㅤだったら起こさないようにしなきゃですね!!ㅤ静かに頑張りますよ!!ㅤはい」
「気持ちよく寝ている最中に、寝室に踏み込まれて騒がれたらそりゃあ怒るよね。それがベイビーワームでも、僕らでも」
だからこそサイレントモードなのだと頷くウテナにマルク・シリング(p3p001309)は柔らかに笑う。
「起こさないことを優先するなら銃の発砲音とかも結構響きそうですし久しぶりに刀だけで戦うことになりますね。……実に楽しみです」
普段と違う戦略もまた一興。『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)がそう笑えば「うんうん」と焔は頷いた。
「気持ちよく眠ってるところを起こそうとする悪い子達にはお仕置きしちゃおう」
「おー! あっ……おー」
何時もならば勢いよく飛び付きたい『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)は琉珂が『起こさないようにね』と告げた言葉を思い出す。声を潜めれば、小声のまま普段通りの元気さを滲ませた。
「うおー! 鍾乳洞! ここにでっかい竜がいるのかー! 寝起きで機嫌悪くなったら困っちゃうし今回は静かにいくよ!
そう言えばここの鍾乳石はどんな味がするんだろ……ちょびっと食べちゃダメかな?」
「良いと思う」
「やったー!」
ユウェルはすべてを小声で済ませていた。お食事許可も出るならば俄然やる気も漲る訳である。
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「あれが例のガルグイユで、あっちが今回のお尋ね者か。
本当に竜の系統なのか疑いたくなるな……どこからどう見てもただの馬鹿でかい蚯蚓だ。しかもあれ食べれるって本気か?」
指さす竜真に琉珂は首を捻ってから「勿論」と頷いた。「ええ……」と呟いたのは焔。
どう見ても大きな蚯蚓だ。そのフォルムを見ても「食べたくならない」というのが第一の感想だろうか。
「それじゃあ、ガルグイユを起こさないように作戦を、開始しましょう。うう、亜竜と聞いていましたが……竜らしくは、ない、ですね……」
兎の長耳を揺らして存在感を示したネーヴェは魔力の込められた爪先に僅かな気配を宿した。それは、蠱惑的に彼女を引き立て、不運を笑う魔女の如くベイビーワームを引付ける。
「さあさ、鬼さんこちら。静かに移動して、いきましょう」
静かに迅速に。静音戦闘を心掛けた竜真が指先を引っかけたのは風魔忍軍の隠密刀。忌むべき存在たり得る彼らは音もなく県を引き抜く事に適す刃を用いているらしい。
青年が刃を引き抜くと同時、こっちだよと言わんばかりに静かに『カグツチ』の炎を掲げた焔はベイビーワームを引きつけるかの如く一歩ずつ後退して行く。ガルグイユから引き離し、眠るそれに衝撃を与えぬ位置を確かめるようにネーヴェと合わせ、一歩、二歩。
「お眠の人を無理に起こしちゃダメだからね!」
膝を曲げて力を込める。支配属性は『空』であるユウェルが感じ取った僅かな風の流れ一つでも眠り妨げるものとなるだろうか。壁や地面への攻撃は反響して音となる――ならば、とハルバードを振り上げた。修行の『成果』を魅せるべく豪運を持って狙い定める。
跳ね上がったユウェルが出来うる限り静寂を求めてハルバードを振り下ろす先には蠢いたベイビーワーム。
動かれては狙いも逸れる。出来る限りは足止めを担って見せんとウテナはつけひげをくい、と指先で弄ってから指先から茨を伸ばした。自らの気配を殺していたウテナが一気に伸ばした魔性の茨にのたうつようにベイビーワームが蠢いた。
「っと、動かれても困るんですけどね! 先輩達ばしっとキメちゃってください。これが連携ぷれーってやつですね」
頷いたマルクは手書きの本を一瞥する。攻撃に適した最適解は自身の経験と、培った修練により導き出した後だ。引付けられたベイビーワームを纏めて邪悪を焼き払うが如く一網打尽に魔力の炎で閉ざせば良い。
「ああ、可能な限り音を立てないようにしよう。それにしても、ベイビーワームは随分とお邪魔虫だね」
「そうなのよね。屹度、此処は暗くて居心地が良いのね。ガルグイユが眠っている場所だから」
「そう言う見方もあるんだね」
成程、と頷くマルクに琉珂は「多分だけど」と付け加えた。ベイビーワームはその名の通りワームの幼体なのだろうか。暗く居心地の良い場所で産卵をしたワームの卵が孵り食物を求めてガルグイユの祭壇へと迫り来たのだとすれば。
「……あまり知性はなさそうっスね。ガルグイユを狙わせないようにさっさと倒しましょう」
里長の為でもあると付け加えた美咲に琉珂はにんまりと微笑んだ。美咲の傍で不思議そうに首を傾いでいるバーベ――彼女のリトルワイバーンは腹を空かせたか美咲が攻撃するベイビーワームを興味津々と眺めている。
「あ、こらバーベ。それは天ぷらにするんだから喰うなッ! 後で胃とか解剖して学術的に食性の目安を立てるんスから」
叱りつけるような美咲の言葉にバーベは首をこてんと傾いでから「ぎゃあ」と相打ちの様に鳴き声を上げた。
どうやら、リトルワイバーンもベイビーワームを食事として認識しているようである。竜真は不思議そうに見遣ってから、ベイビーワームが逸れぬようにと審判の一撃を振り下ろす。
じゃ、と靴底の擦れる音。其れに気取られては殲滅のスピードが落ちる。出来うる限りの静音を心掛けようとも隠せぬ動作の一音を消すように竜真は息を呑んだ。
呼吸を整え、狙い定める。
動きを食い止められたベイビーワームののたうち回った音を消すようにその命を奪うユウェル宜しく、起こさぬようにするには最短での戦闘が一番だ。
ユウェルの一振りは全てを薙ぎ払う爪の如く。
切り裂く一撃に合わせて剣戟と魔術を鐘合わせた一撃を放ったクリムは普段では経験の無い近接攻撃に高揚していた。音をも気を配った結果だ。銃を控えて刀のみを駆使するのはまたとない戦闘経験である。
焔とネーヴェは引付けたベイビーワーム達の猛攻を受ける。焔は父に倣い炎の斬撃を槍の先から叩き込む。
雷鳴の神も今日はお静かに。そう言わんばかりにネーヴェの指先が手繰り寄せた雷撃は焔の生来の力である炎の神と混ざり合い、二対の神々の力をその地へと顕わした。
「イレギュラーズって、本当に不思議ね」
呟く琉珂にマルクは「三者三様。戦い方は人それぞれ。工夫だって、その時々で違うからね」と頷いた。マルク・シリングは学才と商才を買われて商家に引き取られるまでは貧困なる寒村の少年だった。そんな彼が冒険者として身に付けた知恵――それは、この領域の更に狭い場所で生きてきた琉珂にとっては想像も付かぬものなのだろう。
「こうして協力するってのも面白いもんでスね」
「そうね。アナタが里長として私を認めてくれたように、ね」
くすりと笑った琉珂に美咲は「まあ」と肩を竦めた。人との関わりはあくまでも仕事の一端。そう捉えがちな美咲を理解しているのか、居ないのか。琉珂は『里長』として彼女が好感を抱いてくれたことが嬉しいのだと声を躍らせた。
「ガルグイユの眠りも深そうだ。此の儘、ベイビーワームの早期『駆除』を終わらせよう」
耳を欹てた竜真に「お願いします」と琉珂は頷いた。跳ねるように、それでも音は鳴らさぬようにと慎重に。岩の反響は『食う』者としてよく知っているとユウェルはベイビーワームを穿つ。その動きを食い止めていたウテナは直感的にベイビーワームが野が連と動いたことに気がついた。
「いやいや」
首を振ってから付け髭を撫で付ける。ジェントルは優雅に、そして穏やかにその動きをも阻害する。
「行かせませんよね。うちの茨捌きを舐めちゃ行けませんよ」
そう、逃すわけには行くまい。地を踏み締めたクリムに続き竜真は距離を詰めた。
蠢いたベイビーワーム。ずりずりと地を這う不快な音さえも、遠く消え去るように突き刺した刃はその地に静寂を齎した。
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「近付いても?」
「ええ。祭壇の辺りまでなら……」
ガルグイユを辛うじて目視できるであろうか。民が整えた祭壇までならば立ち入りも難しくなさそうだとマルクはそろそろと距離を詰める。
その後ろをついて行くウテナの心は躍っていた。
「ガルグイユさんを見に行きますよっ。本物の亜竜を見るのは初めてですね……これはワクワクハーモニアっ! おっとテンションが。
ううー、触ってみたいですね。でも起こしたら大変だって琉珂さんも言ってたので我慢です。うち我慢出来る子なので」
「ワイバーンも亜竜だけど、あの子はどちらかと言えば竜種そのものに近いものね。姿も、在り方も」
だから信仰されているのと微笑んだ琉珂にウテナはこくこくと何度も頷いた。
「練達を襲った竜達と、同等の力を持っているのかな?」
「ジャバーウォック達? ううん、それには劣るわね。あれは竜種だもの。この子は亜竜だと言われているから、その眷属のようなものかしら」
「成程……。常時人が暮らすならここまで、採取や狩猟で一時的に踏み込むならここまで、と線を引けるといいね」
此の辺りで話す程度ならば出来ても生活音だと中々難しいだろうかとマルクは呟いた。ベイビーワームと戦った位置まで下がれば、その辺りまでは平時も利用しても構わない予感もする。
「ねえ、リュカちゃん。あの辺りって穴があるよね?」
ベイビーワームの侵入経路と思わしき横穴を指差す焔は自身が入り込むには少しばかり心許ないかと先見として小動物を放った。
「琉珂様。被害はなさそうです、……が、あの穴を塞いでしまった方が良いでしょうか?」
「そうだね。見てきたら小さなモンスターの糞があったりするみたい。穴を塞いでしまった方が安全かも」
首を傾いだネーヴェはワームもこの近くに卵を産んだのだろうかと穴を覗き込んだ。穴からひょこりと顔を出した焔の使い魔は指示を待つようにちょこりと座っている。
「この穴の先は、どの辺りかしらね……地図なら、荒野の方かしら。モンスターが住める別の洞窟があるのかも」
「なら、穴を広げてそこを探し当てるのもありかしれないね」
マルクは地図を作り、荒野の下方に生活圏を拡大するのも手だと提案した。常時人が暮らすことを考えればその穴から安全な『生活圏』を確保したい。もしくは、穴を完全に塞ぎきるかのどちらかだろう。
「一先ずは穴の位置を確認して出入り口だけ塞いでおこうか?」
「そうだな。祭壇の方には問題はなさそうだが……ガルグイユに何らかの危害を加える存在が入り込むかも知れない」
ガルグイユの周辺を確認していた竜真は眠るそれには異変はなさそうだと告げた。ただ、耳を欹てれば穴は遠くまで繋がっている予感をさせていたからだ。一先ずは塞ぎ、時間が出来れば探索経路の一つにしてみるのも構わないだろう。
「ガルグイユ自体の体調変化はなさそうだ」
「そう、良かった! それじゃあ、穴は民の皆に埋めて貰いましょうか」
帰りましょうと微笑んだ琉珂を呼び止めたのはクリムである。
「……そういえばベイビーワーム、食べる事が出来るんでしたっけ。
この肉を食べに別の生き物が寄ってくるかもしれませんしなるべく持って帰った方がいいかもしれませんね」
リトルワイバーンしかり、ベイビーワームを食物と認識する生き物が居る可能性もある。傷の手当てを受けながらも提案するクリムにマルクは「そうしようか」と頷いた。
「じゃ、ベイビーワームを料理してみて胃の中身でも確認してみまスか。そうすれば間接的に周囲環境の目安がー……」
美咲は小集落の人々にも挨拶をしたいと提案しながらもワームの解剖と死骸の処理――つまり、食用に出来ると聞いたからには料理である――を行っていた。
「里の皆に挨拶、する?」
「はい。琉珂氏が良いなら同行させて下さい。ローレットとしては今後依頼を受けたり探索拠点として世話になったりするかもしれませんしー……。
琉珂氏も新任。私と同じでまず認知が必要な立場でしょう。新人里長の手腕、見せてくださいねー?」
「ふふっ、私の父さんと母さんの名前を出せば『あの小さかった娘さんが!』って受け入れられるかも」
にまりと笑った琉珂に美咲はうんうんと頷いた。自身は仕事のために繋がりを求める。そして、その関係を『いつ消費するか』という話にもなるが、今はその辺りは気にしなくても良いだろう。あれだけの事件があった後だ。各地のコネクションは持っていても損はない。
「さとちょーさとちょー。ワーム食べていいかな? あとここの鍾乳石も!」
「もしかすると、石の方が美味しく感じるかも知れないけど……大丈夫?」
焔があれだけ驚いた顔をしていた『蚯蚓』だ。ユウェルがちょびっとだけ食べたいと告げたことに驚いたか琉珂は鍾乳洞を一瞥してから、そろそろと問いかけた。勿論、鍾乳石を食べる事が出来ることは琉珂には「ちゃんと食べられるのです」と伝えておいた。
「住民の皆に聞いてみるわね」と歩いて行った琉珂の後ろ姿を長めながら、僅かに息があるのかびくびくと動きを繰り返すベイビーワームをユウェルは見下ろしていた。
「え、皆さん食べちゃうんですか。なんだかとっても虫っぽいですがっ」
「まあ、料理しましたし」
食べられそうだと差し出す美咲にウテナは「う」と呻いてから息を呑んだ。
「……いや!ㅤ女は度胸ですね!ㅤうちも食べますよ!ㅤうん、苦い!ㅤあんまり美味しくないですね。食べられなくはない、かな?
うち的には焼くより煮る方が好みな感じが。いえもう食べたくはありませんがっ」
「にがい……。お口直し……」
――やはり『食べられないことはない』という結論に落ち着いてしまったワームではあるが、非常食の扱いにはなりそうだ。
お口直しに囓った鍾乳石のおいしさに頬を緩めたユウェルは「さとちょー」と琉珂を呼んだ。
「美味しい?」
「おいしい。琉珂さとちょーがわたし達亜竜種のために頑張るならわたしもお手伝いしたいな」
本当に、とぱちりと瞬いた琉珂に勿論だと微笑んだのは焔。
「まだ少しづつだけど、これからも生活圏を広げられるように頑張ろうね! もちろんボクもいっぱいお手伝いするから!」
覇竜領域はまだまだ未知に溢れている。少しでも、進む場所が広がれば――屹度、それは大きな力になるのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。琉珂里長と行く生存戦略(?)第一歩。
覇竜領域には様々な居住区や文化がありますね。
皆さんが芋虫を食べて下さって琉珂も驚いていることでしょう。ね……芋虫とかってちょっとドロっとしてるんですよね……。
GMコメント
夏あかねです。琉珂ちゃんの『父さんと母さんの夢』のお手伝い
●成功条件
・ベイビーワームの撃破
・『ガルグイユの寝所』周辺の確認
●『ガルグイユの寝所』
そう呼ばれる鍾乳洞です。その入り口付近にはガルグイユを信奉し、不届き者を通さぬ為にと集落を築いた亜竜種達が住んでいます。
彼らは『ガルグイユの寝所』の守人を名乗っており、フリアノンの里長と代々、守人を行う為の支援を得る事を約束してきました。
カンテラを手に美しい鍾乳洞を下って行きましょう。足下は少し滑りやすいため注意して下さい。
案内人の琉珂は最後まで辿り着くと広々とした洞窟に辿り着くと言って居ました。
その周辺に現れる小型の亜竜『ベイビーワーム』を撃破しましょう。
また、『ガルグイユの寝所』ではガルグイユと呼ばれる亜竜が眠っているとされます。
故に出来る限り騒がしくしないなどの注意を行って下さい。琉珂は「絶対に起こさないでね」と何度も注意しています。
●ベイビーワーム 10匹
小型の亜竜です。約50cm程の大きさをした蚯蚓です。糸を吐く他、消化液を撒き散らすなどの攻撃を行います。
攻撃方法は非常に単調ですが時折回復などを行う個体が混じって居る可能性があるようです。
琉珂は「あいつはちょっと苦い」と言って居ました。どうやら食べる事が出来るようです。
●ガルグイユ
眠っています。とても巨大な亜竜と想定されます。姿は見えませんが、民達が作った祭壇を思わす飾りの内側に存在するようです。
ちょっとやそっとでは起きませんが、余りに騒ぎすぎたりワームの攻撃が飛んで行くと目覚める可能性があります。
非常に凶暴な個体であり、手出ししなければ被害は出ませんがそもそも起こすべきではなさそうです。
●珱・琉珂
亜竜集落フリアノンの里長。イレギュラーズです。
竜覇は火。支援行動及び多少の攻撃を行います。獲物は巨大な裁ち鋏。
フリアノンの里長として亜竜種達の活動域の拡大を目標としています。先ずは知ったところから!第一歩!
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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