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シナリオ詳細

鋼鉄のイルガ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 魔種『鋼鉄のイルガ』は極度の面倒くさがりな少女である。何もかもが面倒臭すぎて、自らの身体に滅茶苦茶な改造を施す事に何の躊躇も無い程度には。
 とりあえず自分で歩くのが面倒くさかったので、両脚を切り落として念じるだけで動く機械の足を取り付けた。
 次に物を持つのが面倒くさかったので、両腕を切り落として右腕をやはり自動で動く機械の腕に、左腕が余ったのでとりあえず機関銃を取り付けた。
 内臓があると腹が減ったり息を吸わなくてはいけなかったりして面倒くさいので、首から下の残った部分を全部機械に変えた。ついでに色々武器を取り付けた。
 痛いのは面倒だから痛覚を遮断した。味覚はもはや必要ないので遮断した。うるさいのが面倒くさくて大嫌いだから聴覚も削ろうかと思ったが、流石に必要だから残しておいた。
 あと喋るのが面倒くさいので念じると勝手に喋ってくれる機械を取り付けた。念じるって楽で素敵。
 そうして出来上がったのが、色も形もバラバラな機械群で構成された異様な巨躯に、ちょこんと少女の小さな頭部が乗っかった奇妙で気味の悪いなにか。これを人と呼ぶべきかどうかは分からない。
 だが何にせよ本人は、それまで以上に楽が出来ているので非常に満足しているのだという。

「んっんんーんーんーんんー」
 そしてこの日『鋼鉄のイルガ』は、眠たげな表情で鼻歌を歌いながら、幻想のとある町の中をドシンドシンと闊歩していた。逃げ惑う人々を手当たり次第に踏み潰しながら。
「『えー、この町にお住まいの住民の方々にお知らせ致します。突然の事で申し訳ありませんが、この町は私、鋼鉄のイルガの手で壊滅させられる事が決定致しました』」
 イルガの胸に取り付けられたスピーカーから、無機質な音声が流される。その間もイルガは人々を踏み潰し、機関銃で吹き飛ばす。一面が瞬く間に赤く染まっていく。
「んんっんーんーんんんんー」
「『付きましては住民の皆様方におかれましては、慌てず騒がず落ち着いて。その場を動かずじっとして頂けるようお願い申し上げます。皆様にとっては幸運なことに、私には人をいたぶる趣味がありません。ですのでもし動かないで頂けるのであれば、一瞬にして苦しまず、楽に殺す事をお約束致します。それがお互いにとって最も手間のかからない簡単な方法なのでは無いでしょうか』」
 散開して逃げる人々に向けて、胸部から無数の鉄の網が放たれる。網に捕らわれた人々はまともに動く事もままならず、全身をギリギリと締め上げられていた。
「んっんんーん、ん、ケホケホ……喉になんか引っかかった……咳するの面倒臭いなあ……あ、喋っちゃった。面倒くさい」
「『もし万が一苦情、文句、恨み等がございましたら、それらは私ではなく私の上司にぶつけて頂いて貰えれば幸いです。私もこんなの面倒くさいからマジ勘弁と思っていたのですが、流石に上司の命令には逆らえなかったのです。皆様も嫌、私も嫌。皆嫌な気持ちで実に平等でございますね……あーあー、私にも便利に使える部下が居たらなー』」
 虐殺の最中、イルガの全身から際限なく放たれている狂気は、着実に町の人々の精神を蝕んでいた。
 狂気に侵されてしまった人々は、先程イルガの言っていた様な、『慌てず騒がず落ち着いて、その場でじっとしている』様な状態になってしまっていた。これではただ殺されるのを待つだけである。
「………………」
「『えー、繰り返しお伝えいたします。この町は私、鋼鉄のイルガの手で……』」
 鼻歌を歌うのにも大分飽きたイルガは、その後も淡々と虐殺を続けるのであった。


「やあ、皆。急な呼び出しにも関わらず集めってくれてありがとう。早速だけど本題に入らせて貰うよ。なにせ自体は一刻を争うからね……『魔種』とおぼしき敵が現れたんだ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は集められたイレギュラーズ達を前に事件の説明を始める。
「事が起きたのは幻想の片隅に存在する町、ルファム。この町に突然、『鋼鉄のイルガ』と名乗る何者かが現れ、大虐殺を始めたんだ」
 既に町の人々の多くが殺された。そしてその数は現在も増え続けている。
「数少ない生存者の証言によれば、イルガは巨人の様に巨大でカラフルな巨体をしているらしいんだけど……その頭部には可愛らしい少女の頭が乗っかっているらしい」
 何故そんな姿をしているかはよく分からないが、とにかくイルガはその巨体駆使して人々を踏み殺したり、鋼の身体に搭載された武器を用いて人々を虐殺している。
「更に何故か町の人々の間では、『急に活力を失った様子で動きを止め、その場に留まってしまう』という現象が広がっているらしい。恐らく『魔種』が放つ狂気の影響だろうね」
 その現象が犠牲者の数を増やす大きな要因となっている事は間違いないだろう。
「魔種が単独でこんな派手な活動を行うというのはこれまでにはなかった動きだけど、例のサーカスと関わりがあるかどうかまでは分からないけど……どうやら幻想国内に限らず、外国でも似たような事件が起き始めているらしい」
 分からない事も多いが、何にせよ放置できる様な事件では無い。
「敵の戦力は、相当高いと推測されている。この場で討伐出来るのならそれに越したことはないけれど……確率はかなり低いだろうね」
 だが最低限イルガを撤退させる程度のダメージを与えられなければ、ルファムは完全に壊滅。イルガの虐殺の手が更に広がることも考えられる。
「詳しい情報はこれから収集していく予定だ。恐らく今後の戦いは厳しくなるだろうけど……まずは目の前の相手、鋼鉄のイルガの対処をよろしく頼んだよ。決して油断せず、決して負けないように。君たちの無事な帰還を祈っているよ」

GMコメント

 のらむです。魔種です。滅茶苦茶強いです。どうぞよろしくお願いします。

●成功条件
『鋼鉄のイルガ』の撃退、または殺害。

●ルファム
 イレギュラーズ到着時点でイルガの狂気は町の全体に広がっており、イルガの攻撃音を除けば驚く程静まり返っています。狂気に耐えられた幸運な人々の大半は既に逃げ延びた様です。
 その場に呆然と立ち尽くす人々や死体こそ存在していますが、別段戦闘に支障が出るレベルではありません。

●狂気感染者
 狂気感染者は例外なく全員呆然と立ち尽くしており、声をかけようが殴ろうが一切反応を示しません。
 ですが狂気の侵食度としてはまだ浅い段階の為、イルガが町から撤退するか死亡すれば、徐々に元の状態を取り戻すと推測されています。

●『鋼鉄のイルガ』
 面倒くさがりを極めた結果全身を無茶苦茶に改造した女の子です。ですが面倒くさがりながらも戦闘能力は非常に高く、常に冷静。ほとんど油断も焦りもせず、引き際も心得ています。
 が、やはり根は極度の面倒くさがりの為、イレギュラーズ達がイルガ的に面倒くさい戦い方をすれば、撤退までのボーダーラインが多少緩くなる事も想定されます。
 OPにもある通り巨躯を活かした肉弾攻撃と、全身に搭載した兵器を用いて攻撃します。
 ステータスとしてはHP、防御技術、特殊抵抗がとてつもなく高く、それに次いで攻撃力と命中がかなり高いです。回避、クリティカル、EXAはそんなんでも無いです。
 判明している能力は以下の通りです。

・マーク・ブロック不可
・崩し耐性
・凍気耐性
・足止耐性
・自動修復機能(自身の行動終了時に、HP・APが一定量回復する)
・脚撃(物近範・ブレイク・乱れ・崩れ)
 巨大な金属の脚で近くの敵を蹴ったり踏みつけたりします。
・機関銃連射(物遠貫・流血)
 左腕に取り付けておいた機関銃を滅茶苦茶撃ちまくります。
・鉄網投射(物遠域・万能・停滞・苦鳴)
 胸部から投射した無数の鉄の網で、捕らえた敵の動きを封じ締め上げます。
・やる気ゼロビーム(神超遠単・封印・麻痺・呪縛)
 イルガの狂気が練り込まれたビームを腹部から照射し、一気に敵のやる気を削ぎます。
・握りつぶし(物至単・必殺・防無・超高威力)
 右手で敵を思い切り握りつぶします。イルガ的には最も楽な攻撃です。

 以上です。皆様のプレイング、お待ちしております。

  • 鋼鉄のイルガLv:6以上完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年08月13日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
セララ(p3p000273)
魔法騎士
蜜姫(p3p000353)
甘露
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
神埼 衣(p3p004263)
狼少女
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
一条院・綺亜羅(p3p004797)
皇帝のバンギャ

リプレイ


「『えー、この町にお住まいの住民の方々に……っていうかこれまだ聞いている人居る?』」
 現地に到着したイレギュラーズ達は、早々にイルガの巨体を遠巻きに発見する。その鋼鉄の身体は話に聞いていた通り、あるいはそれ以上に巨大で、そして不気味な様相であった。
「止められるのか、これ……? こんなの、まるで災害じゃないか……」
 死を振りまく異形、蔓延する狂気、広がる血溜まり。魔種が生み出した小さな地獄を前に、 マルク・シリング(p3p001309)は思わず呟いた。
「すごく、怖い。あんな相手に自分に何か出来る自身も無い……でも、やるしかないの」
 『甘露』蜜姫(p3p000353)はこの状況にはっきりとした恐怖を感じていた。しかしそれでも尚、蜜姫はそれに立ち向かうだけの意志を保ち続けていた。
「……ん。楽しそう。斬っても殴っても簡単に死ななそう」
 そんな2人とは対称的なのは、タバコをすぱすぱと吸いつつ呟いた『狼少女』神埼 衣(p3p004263)。表情こそ普段と変わり無い様に見えるが、強敵との戦いを前に思わず胸が高鳴っていた。
「……さて、それじゃあ行くとするかの。最大限めんどくさく抵抗してやるのじゃ」
 『鉄乙女』一条院・綺亜羅(p3p004797)の呼びかけを切欠に、イレギュラーズ達はそれぞれのルートでイルガを包囲する様に接近していく。
 戦闘の開始が迫り、イレギュラーズ達の間には否応なしにヒリヒリとした緊張感が張り詰めていく。イルガはそんなことはお構いなしに、相変わらず気の抜けたスピーチを繰り返していたが……。
「全員配置に付たな……? よし、行くぞ!! この腐りきった三流バッドエンドの脚本を打ち砕いてやれ!!」
 『GEED』佐山・勇司(p3p001514)が大号令を上げ、イルガの頭部目掛けて魔力の弾丸を撃ち放つ。
「…………なんなの?」
 額に弾丸が直撃したイルガが面倒臭そうに辺りを見回すと、足元が 『魔法騎士』セララ(p3p000273)の魔力によって爆破される。
「愛と正義の使者、魔法騎士セララ参上! イルガ、キミの悪事もここまでだ!」
「あいとせいぎ……あー、『愛だか正義だか知りませんが間に合っています。どうぞお引取り下さい』」
 直後、足元に迫った『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)がその巨体をふわりと投げ飛ばす。
「それは此方の台詞ですよ、半端者さん。さっさと死ぬかお帰り頂けますか」
「『そうしたいのは山々ですが、色々と此方にも事情が……主に上司の』」
 ドンガラガッシャンと喧しく尻もちを付いたイルガ。『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)はそんなイルガに冷たい視線を投げ、その頭部に光の砲弾を叩き込む。
「ふん、怠惰を貪る魔種が働きに出なければならないとは、上に恵まれんようだな」
「まあ………………確かに」
 一通りの攻撃を受けたイルガは身体を捻り立ち上がりながら周囲を見渡す。
「『確認出来る敵影は8。増援の有無は不明。敵の力量はそれなりだがまだ未知数の部分も多い……多分勝てる』」
「ん、じゃあ、まあ、お互いに退く気なさそうだし……やろうか、面倒臭いけど」
 そうして戦いは始まった。


「墨染烏、黒星一晃、一筋の光と成りて鈍色の巨人を打ち倒す!」
 奇襲の勢いそのままに、一晃は再び光の斬撃を幾重にも撃ち飛ばし、着実にダメージを蓄積させていく。
「『……いややっぱりやめませんか? 勝手に逃げてくれる分には追いかけませんし。どうですか?』」
「くどいですね。そもそもそんなに面倒くさいなら何もせずにさっさと死ねばいいと思うんですよ」
 足元に張りつくヘルモルト。同様に至近距離に張り付くセララと共に攻撃を仕掛けていた。
「『鬱陶しい』」
 イルガはまずヘルモルトに狙いを定め、右手を大きく振りかぶる。
「やはり動きは分かりやすいですね。そう安々と大技は打たせませんよ」
 注意深くイルガの動きを観察していたヘルモルトは、右手の動きを確認した直後、迷わずヘルガの真正面から接近。素早いスライディングで股の下を潜り抜け、その足を掴み上げる。
「セララ様、合わせられますか」
「もちろんだよ!!」
 そのやり取りの直後、ヘルモルトは渾身の魔力(物理)を込めてイルガの足を再び掬い上げ。一気に体勢が揺らいだイルガの巨体は倒れ、地面が揺れた。
 すかさずセララが魔力を込めた剣を鋼鉄の足に突き立てると、剣先から流し込まれた魔力が体内で爆発を引き起こす。
「……ちぇっ」
 イルガは不満げな表情を浮かべると、片腕を支えに横倒れの状態からグルリと一回転し、纏わりつくヘルモルトとセララに強烈な蹴りを浴びせかけた。
「ここまではまだ想定通り、なの」
 イルガの蹴りが放たれたのを確認した蜜姫は、鮮やかな魔力をヘルモルトの足元に撃ち込む。するとそこから咲き上がった無数の光の花弁がその全身を包み込み、受けた傷を瞬く間に癒やしていった。
「『いいじゃないですか、別にこんな町の1つや2つ。というか、本気で私をどうにかするつもりで?』」
 継続的な回復役を完全に放置するのは面倒臭いと判断したイルガ。蜜姫と同様に回復役を担うマルクから大きく距離を取ると、一切のやる気を奪うビームを撃ち放つ。
「確かにあなたは大きくて、凄く強い……でも、目の前に広がる虐殺と狂気を放置なんでできない……したくないの」
 どれだけ怖くても、恐ろしくても。蜜姫のその思いだけは決して揺らがなかった。
 そして蜜姫は戦場に癒やしの奏を響かせた。美しく優しい音色はマルクの心をも直接響かせ、心を縛り付けていた重い鎖を根こそぎ取り払った。
「ありがとう、蜜姫さん……やっぱりまだまだだな、僕は。僕が仲間の支えにならなきゃいけないのに」
「ん……気にしないでほしいの。怖いのは、私も同じなの」
 敵は強大。だからこそ、イレギュラーズ達は互いに力を合わせ立ち向かわなくてはならない。
「どうじゃイルガ、わらわ達は凄くしつこくて面倒くさくて執念深いのじゃ。なんせ死ぬ気で来とるからの!!」
 綺亜羅は即席塹壕からイルガの頭部をめがけとにかく光を撃ちまくる。
「死ぬ気……はー、そういうのが一番面倒くさいんだよね」
「知った事かよ。確固たる目的も意志もなく、只々怠惰にこんな事しやがって……! 平穏無事に帰れると思うなよ!!」
 機関銃の如く放たれた勇司の魔力の弾丸がイルガを襲う。また頭狙いか、とイルガが思わず顔をしかめた。
「……さてどうしようかな。やっぱり強いの相手は楽しい。折角楽しいんだから簡単には死んであげない。目一杯楽しんでから死……あ、死んだら駄目だ。とにかくやれる事をやる。うん」
 そんな中、衣はタバコを吹かせながら超巨大な大剣を構えイルガを見据え、軽快に屋根の上を飛び跳ねながら攻撃のタイミングを見図る。
「『……タバコ臭い。あの、そこの獣っぽい人。臭くて面倒臭いからタバコの火消してもらえま』」
「やだよ」
 微かに臭ったタバコの煙にイルガが顔をしかめ振り向いた直後、衣は大剣を勢いよく振り抜いた。
 巨大な刃から放たれた更に巨大な斬撃は、空を切り裂き轟音を上げながらイルガの顔面に直撃し、おびただしい量の血飛沫が辺りに飛び散った。
「美少女の面になんて容赦のない……それでも君人間? 本当は魔種だったりしない?」
「いや、狼だから」
 間髪入れず放たれた更なる斬撃。これもまたイルガの顔面を斬り裂き、イルガの顔面に十字の傷が深々と刻まれた。
「ふー……いや、違うか。違う違う。下手に手出したら余計面倒くさい事になる」
 衣を捻り潰したいという欲求を抑え込み、イルガは足元の2人に再度目をやる。現状最も仕留めやすいであろう2人に。
「駄目駄目、そんな遅い右手じゃボクは掴めないよ!」
 間一髪、不意に迫り来たイルガの右手をセララは左手側に移動して回避。
「まだまだ倒れないよ……これ以上、誰一人殺させない!」
 手にした2本の剣にセララは自らの魔力を込める。そしてこれまで繰り返し狙い続けてきた足の関節目掛け、一気に突撃した。
「正義の剣を喰らえ! セララ爆彩剣!!」
 赤と白。2色の魔力が込められた2連の斬撃はイルガの足を抉り、そして吹き飛ばす。
「『ハァ……いい加減、大人しくして貰えますか』」
「ッ!! しまった……!!」
 しかしその快進撃もつかの間、イルガの剛腕が今度こそセララを捕らえた。抵抗する間もなく、イルガは全力でセララを握りつぶした。
「『さてさて、ようやく1人。こっからはちゃっちゃと数を減らして……ん?』」
 恐らくイルガはこれまで経験した事は無かったのだろう。確実に仕留めたと思った相手が、確固たる意志を持ち再び立ち上がった事が。
「tん…何度でも立ち上がってやる! 絶対に! 悪には負けない!!」
 理不尽とも言えるパンドラの力によって、セララは再び立ち上がる。
「はぁー?? 何それ、滅茶苦茶じゃん……超絶面倒くさい」 


 順調にイルガを包囲し、勢いよく奇襲を仕掛け攻勢を続けてきたイレギュラーズ。しかし時間を重ねる事により、その勢いは弱まりつつあった。
「まだ、倒れてなんかやるもんか……! ボクの背には、街の人々の命が……!!」
 歯を食いしばり、前線に立ち続けていたセララ。しかしイルガの執拗な攻撃についに倒れ、意識を失ってしまう。
「私もそろそろ結構ヤバイですね……いいですか皆様、このデカイのは結構動きが分かりやすいです。注意深く観察すれば、完璧ではありませんがある程度は挙動を読める筈です」
 イルガと同様パンドラの力を使用し、前線に立ち続けてきたヘルモルト。仲間たちにそう呼びかけると渾身のフランケンシュタイナーでイルガの頭部を打つも、その直後イルガの右手に捕まり握りつぶされ、ヘルモルトもまた意識を失った。
「『次はあなた方の番です、覚悟を』」
「くっ……BSごときでふぬけになると思うたか! オマエにせめてもう一太刀あびせねば死んでも死にきれぬ!」
 狙いを付けられた綺亜羅は、放たれた銃弾を防御体制で受け止める。蜜姫やマルクの回復を受けるも、イルガの猛攻は止まらない。
「しつこい奴じゃのう……!! じゃがわらわのHPも尽きかけ……既にパンドラ復活も使用した……ならば受けとるが良い、わらわの爆彩花(おもい)!」
「なんて?」
 傷だらけとは思えない機敏な動きで屋根から滑り落ちた綺亜羅。そして勢いのまま跳躍すると、魔力を込めた片腕を突き出した。
「これがわらわの爆彩花(おもい)! 攻撃集中アターック!」
 言ってる事はよく分からないが、とにかく強烈な魔力が居る我の身体に叩きつけられ、勢いよく吹き飛んだ機体から黒煙が上がる。
「見たかイルガ、死亡上等のわらわの本気を……」
 やりきった表情の綺亜羅にイルガは強烈な踵落としを放ち、綺亜羅が3人目の戦闘不能者となった。
「『敵は残り5人。クソ面倒くさい技……恐らくパンドラの力のせいで二度潰さなければ沈まないものの、依然こちらが優勢……どうですか? まだ逃げませんか? 逃げる分には止めませんよ?』」
「当然断る。貴様のようなものと戦える絶好の機会、みすみす逃してたまるのもか!」
 撤退を促すイルガの言葉を一蹴し、一晃は刀を構える。そしてその刀身に自らの気を集中させ、イルガの一挙一動に神経を集中させる。
「『だったらもうさっさと倒れて下さい』」
 イルガは左手を大きく振りかぶり、その銃口を一向に向ける。そして銃弾が放たれる直前、一晃は凄まじい速度で跳躍。嵐の如く放たれた銃弾を回避し、その側面に回り込む。
「遅いな。そして確かに、貴様の動きは分かりやすい……斬らせて貰うぞ」
 居合の構えからの抜刀。放たれた眩い斬撃はイルガの側頭を直撃し、血まみれの頭部を更に血に塗れさせた。
「『無駄でございますよ。貴方達には私を殺せません。ですからさっさと帰って下さいお願いですから。私の右耳も取れた事ですし』」
「本当に頑丈だな、貴様の身体は……俺達よりも余程面倒くさいしぶとさだ」
 まさに底なしと言えるイルガの耐久力。だが魔種であろうとも決して殺せぬ相手ではないと、イレギュラーズ達は知っている。
「……さぁ、まだまだ行くよ美少女……あれ、どうしたのその顔の十字傷。誰にやられたの?」
「お前だよ殺すぞ」
 戦いが長引き近接戦闘を挑まざるを得なくなった衣が、大剣を叩きつけながら顔にタバコの煙を吹きかけ挑発するというエキセントリックな技を仕掛け、攻撃を引き付ける。
 しかし全力の回避にも限界が訪れ、衣もまた必殺の握りつぶしを受け倒れた。残るイレギュラーズは4人のみ。
「グ……!! まだ、まだだ!! まだ俺達は負けちゃいない!!」
 この絶望的な状況の中でも、勇司は希望を捨ててはいなかった。むしろより一層の気概を持ち、イルガと相対する。
「『イいカゲンあ』……ん、スピーカー壊れた……いい加減諦めたら? もう無理だって……お互い損だよ、こんなの」
「うるさい……!! 自惚れるなよ、鋼鉄のイルガ! 俺に、俺達に残された最後の力が枯れ果てるまで、これ以上この町の人達を傷つけさせはしない。絶対の、絶対だッ!!」
 もはや勇司には僅かな魔力も残ってはいない。だがその両手にしっかりと剣を持ち、鬼気迫る勢いでイルガに飛びかかった。
 幾度となくダメージを与え続けてきた足に勇司が渾身の一撃を叩き込む。振り払われたオーラの刃が鋼鉄を砕き、イルガは否応なく膝を付かされる。
「片足がイカれた、面倒臭い……面倒くさい面倒くさい面倒くさい面倒くさい……さっさと死ね」
「グ……グァアアアアアア!! 誰が、死ぬかァアアアア!!」
 僅かに動きが鈍ったかに見えたイルガが機敏な動きで勇司を捉え、そしてまた握りつぶす。しかしその勇司もまた、強い意志とパンドラの力により、再び立ち上がる。
「勇司……! すぐに、回復するの……!!」
 握りつぶしを受けた勇司に蜜姫は癒しの力を放つ。だが、そろそろ限界が近づいている。幾度となく仲間の傷を癒やしてきた蜜姫の魔力も、そう長くは保たないだろう。
「しぶといなぁ……まだ退かないの?」
 度重なる攻撃を受けてきたイルガの身体は、目に見えて損傷し始めている。壊れたスピーカーに潰れた右脚。血塗れの頭部。イルガは大体いつでも面倒臭そうだが、その中でも今日は特に面倒臭そうな様子だった。
「退かないよ、絶対に。どれだけ君が強くとも、僕達は君を倒すことを諦めはしない」
 確固たる意志。そして決意。イルガが放つ銃弾の嵐に巻き込まれ、マルクの身体は血塗れだったが、その瞳はまだ、確かな輝きが宿っていた。
「……嫌だよ。無様に逃げて怒られるのも面倒だし。退いてよ、お願いだから」
 イルガの懇願にマルクは応えず、代わりに杖をイルガに突き付けた。仲間を回復する魔力はもう無かったが、嫌がらせをしかける程度の力は残っている。
「……さあ、まだまだ攻撃を仕掛けよう、みんな! 僕達の攻撃は確かに効いてるよ! このまま一気に攻めきろう!!」
 残るイレギュラーズ達は長期戦により各々が疲弊していたが、マルクの呼びかけに応え、怒涛の勢いで攻撃を仕掛けていく。
 放たれた攻撃の数々はイルガの身体の鋼鉄を砕き、脳天を穿つ。イルガは歯ぎしりをしながら鉄網を投射して応戦するが、イレギュラーズ達の攻撃は止まらない。
「あぁ、面倒くさい面倒くさい面倒くさいなぁ……!! イレギュラーズってこんなに面倒くさい生き物なの?」
「……そうだよ。僕達は目的の為ならどこまでもしつこく執念深く、面倒くさくしぶとく捨て身で行動するような生き物だ」
 そう言って、マルクは杖を振り上げ僅かに残った魔力を解き放つ。するとマルクの眼前に、霜を纏った白く巨大な魔法陣が現れる。
「それが理解出来たのなら……早く家に帰ることをおすすめするよ」
 次の瞬間、魔法陣から放たれた巨大な氷の槍が、凄まじい速度でイルガの鋼鉄の身体を貫いた。
「…………今のは、痛いなぁ……いや痛覚は切ってるけどさぁ……んー……」
 イルガはしばし思案した。自身の損壊具合と敵の損耗具合から想定出来る現在の勝率。自身が死亡する可能性。撤退すべきか否か。
「………………」
 そしてイルガはイレギュラーズ達を見回した。自身を見返す彼らの表情からは、まだまだ戦意が薄れていない事を読み取れた。
「これって私の負けだよね……嫌だなあ謝るの。ハァ……二度と会いたくないよ、イレギュラーズ……じゃ、さよなら」
 一方的にそう言うや否や、イルガは潰れていない片脚で器用に立ち上がると、片足飛びでガシャンガシャンと喧しくそして高速でその場から撤退していく。
 町に溢れていたイルガの気怠い狂気も、時間と共に薄まっていくだろう。
 苦しい状況が続いた戦いだったが、イレギュラーズ達は粘り強く、そして面倒くさく戦いを続ける事で、勝利をもぎ取り。狂気に囚われた多くの人々の命を救ったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)[重傷]
強襲型メイド
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
佐山・勇司(p3p001514)[重傷]
赤の憧憬
神埼 衣(p3p004263)[重傷]
狼少女
一条院・綺亜羅(p3p004797)[重傷]
皇帝のバンギャ

あとがき

 お疲れ様でした。明確な力量差のある敵を相手取る厳しい戦いでしたが、優れた戦術と根性が勝利を決定付けた様です。
 またのご参加、お待ちしております。

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