PandoraPartyProject

シナリオ詳細

願いの桜

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海に映る月の唄

 Rapid Origin Online――。
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界。練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境。そんな世界もつい最近まで大変なことになっていたのだが、それも嘘だったかのように世界は廻り出していた。
 そんなR.O.Oは無辜なる混沌における海洋……ネクスト『航海』。
 島嶼部に存在する勢力であり、造船技術と航海技術に優れた国である。その島嶼の中でも極めて小さな離れ島。その島に一人住む海月婦人が一人……ジェーリー・マリーシュ。彼女は御年八十歳、今は穏やかな余生を送っていた。
「ここの海域は穏やかね……」
 ジェーリーの寝室に吹き込む潮風に彼女の髪が微かに揺れる。率直に言って彼女はもう長くない。彼女なりの『魔法』、或いは『おまじない』でこの少女の姿を保たせていたが、いくら海月魔女と呼ばれた彼女であってもこの寿命をどうにかすることは出来なかったようだった。
「漸く楽になれる……のかしら。けれど何か物足りない……」
 彼女には最愛の夫もいたが、それももう暫く前に死別していた。
 彼とまた会えるのならば死ぬことも特に怖いとは思わなかったけれど、好奇心の旺盛な彼女はこのまま死にゆく自分を『物足りない』『つまらない』等と表した。
「そうだわ! これから春の巡り……どうせなら桜を見てから逝きたいわね……」
 それはただの桜のことではないのだろう。
 彼女が思い馳せるのは自身が魔法でこの航海の土地に生成した『海桜』。彼女曰く呪物らしい。
「アレが咲いたところをもう一度見てみたいわね……ああでもこの身体では難しいかしら……」
 その桜は『ある条件』を満たせば一気に満開になるのだが、どうやらジェーリーではその条件を満たすことは厳しいらしい。





「あなた方がかの有名な勇者様ね、ごきげんよう」
 結論から言えば彼女の願いは特異運命座標へクエストとして執行された。
「私なんかの願いも聞いて下さるなんて……勇者様は優しいわねぇ」
 ふふふとのんびり笑う彼女は穏やかに静かに願う。
「そろそろ春が来るでしょう? 桜が……見たいの。でもこの身体では動けなくて……ん? あら、私これでも老いぼれなのよ? 余命宣告もされてしまっててね……自分でも死期が近づいてること、身を持って感じているところなの。……ってそうではなくて」
 ジェーリーは特異運命座標の一人の手を両手で包み込むようにそっと握る。
「若い子達……じゃなくても良いのだけれど、希望に満ちている勇者様達と桜を見たかった……こんな願いでごめんなさいね。でも今生で最後の願いよ、どうか一緒に来て下さるかしら……?」
 彼女は申し訳無さそうに特異運命座標へそう願い、彼らの返事を待った。

NMコメント

 月熾です。お久しぶりのノベルは初めてのクエストテイルになります。
 穏やかな雰囲気になりますが、よろしくお願い致します。

●世界説明
 ネクスト『航海』の数ある諸島のうち一つ。
 大きく不思議な桜の木が生成されているお屋敷ですが、リアルタイムよろしく三月上旬頃なので桜が咲く気配はありません。

●目標
 満開の桜をジェーリーに見せる。

●桜について
 ヒントはオープニングに記載されていますが、結論を言いますと『人々の希望』でこの桜は咲きます。しかしジェーリーは死期が近いことを悟り、希望を抱くことが出来ない為に勇者様改め特異運命座標の皆さんへお願いしていたのでした。

 希望さえあれば比較的何をして下さっても大丈夫です。
 どんちゃん騒ぎな花見や静かに桜を眺めるでもと思います。
 ジェーリーに昔話を聞くのもいいでしょう。但し、勇者同士の喧嘩などはジェーリーとしても眉を顰めてしまうかもしれませんのでご注意下さい。

●ジェーリーについて
 少女のような身なりをしていますが、その実態は余命幾ばくかのお婆ちゃんです。この姿は魔法で保っているとかそうでないとか……真意は不明です。
 屋敷内の桜ではありますが、余命宣告されている身体ですので移動するには介護が必要となるでしょう。

●サンプルプレイング
 こんな女の子が婆さんで余命も宣告されてるとか何の冗談だよ!
 でもまぁ嘘とも思えねぇし……よし!
 どうせ桜見んならパーッと楽しもうぜ! 花見でどんちゃん騒ぎだ!
 ……こんだけ騒げば、その湿気た顔も笑わせられるよな?

  • 願いの桜完了
  • NM名月熾
  • 種別クエストテイル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年03月23日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

桜聖(p3x004665)
旅する
ダリウス(p3x007978)
尾を喰らう蛇
イルシア(p3x008209)
再現性母
ウーティス(p3x009093)
無名騎士

リプレイ



「希望、希望ねぇ。
 あいにくチンピラな俺にゃそんなモノとは縁が無ぇとは言わないが、そこまで御大層なモノを意識した事も無かったからなぁ」
 ま、ありきたりなモノくらいで当たってみるかね。とニヒルに笑うのは『尾を喰らう蛇』ダリウス(p3x007978)。
「つーわけだ、飲むぞ!!!!」
「こら!!」
「あでッ?!」
 今からでもどんちゃん騒ぎを起こし出そうとしていたダリウスの頭を叩いたのは彼の友好的な知り合いらしい『旅する』桜聖(p3x004665)。
「んだよ、飲んで酔っ払って騒いで明日もこんな風な一日が来るって希望で以て桜を咲かせようって魂胆だろぉ?」
「君はタダ酒が飲みたいだけだろう!」
「こんな場面ならタダ酒くらいは貰えるはずだろ呑まなきゃ損だろ!!!! な!!!!」
「ふふふ、勇者様は面白い方々ね? 良いわよ、生前夫が大切にしていたお酒が確かあったと思うから……そうね」
 ダリウスと桜聖のやり取りに微笑ましそうに笑うジェーリーはメモ書きをダリウスに渡す。
「私はこんな身体だから……取りに行くのが大変で。お客様にお願いするのは申し訳ないのだけれど……この場所のお酒を見に行ってみて下さる? お気に入りがあったら好きに飲んで下さって構わないから」
「んとか?! 仕方ねぇから見に行ってやらァ!」
「ダリウスさん……」
 酒が飲めると嬉々としてこの部屋を出たダリウスを、桜聖は少し申し訳なさそうに見送っていた。
「ふふ、気にしなくていいのよ。私今とても楽しいから……」
「それなら……あ、ジェーリーさん、絵の具とかの画材ある?
 屋敷の天井や壁とか紙とかに、『海桜』を囲うように希望の桜を描いて、満開の桜森景色を作ってみたいなって思ったんだけど……」
「あら! そんな事して下さるの? 聞いただけで素敵だわ……是非、お願いしたいわね……ええっと……」
 絵の具……画材……と呟きながら桜聖の手を取りその上に自分の手を翳して。
「え、わ!」
「ふふ、これでいいかしら? この絵の具と画材は貴方が完成したと思ったらすぐ消えるけど、それまでは絵の具の中身や紙とか諸々尽きる事はないから思う存分書くといいわよ」
「……まるで魔法のようだ」
「ふふ、これでも魔女だもの!」
 ニッコリ子供のように笑うジェーリーに桜聖はなるほどね! と笑顔で返した。

「ええ、短命種の方々は本当にすぐに寿命が尽きてしまうものね
 でもその分世代交代が速いから、後の世代が前の世代の常識に囚われずに次々に新しいものを作ってゆくの……それはきっと私には解らない喜びなんだわ!」
「ええ、ええ! そうなのよ!」
 無邪気に笑うジェーリーに尤も中の人はまだ還暦にも満たないから本当に全く解らない、という事を『再現性母』イルシア(p3x008209)は胸に秘める事にして。
「……長寿種に憧れた時期が私にもあったのだけれど……でも短いからこそ美しいものがある、賭けられるものがある……私はそう思って生きてきたわねぇ……例えば子供たち、とか」
「それならわかるわ! 私もエルシアちゃんが可愛くて仕方ないの!」
「あらあら! まぁ!」
 イルシアの背後からひょっこり顔を出したのは八歳ぐらいと思われる少女。
「いいわねぇ……懐かしい。これでも私にも子供が居たのよ、男の子ばかりだったけれどね!」
「じゃあ女の子はいなかったの? なら、エルシアちゃんと遊ばない?」
「この子と? 良いのかしら……?」
 イルシアからの思わぬ提案にジェーリーは驚いた様子を見せる。
「ええ、ええ! きっとエルシアちゃんもジェーリーお姉さんと遊ぶ事、喜ぶと思うわ!」
「あらあらお姉さんだなんて……こんなお婆ちゃんにありがとう。じゃあどう遊ぼうかしら……せっかくだし魔法を使った遊びが楽しいかしらね?」

 楽しそうなジェーリーの姿を見ながら三人より少し離れた位置から見守っているのは『無名騎士』ウーティス(p3x009093)。
(……時の流れには逆らえぬ。私もいずれ死ぬ身だ。桜の花は儚いが、人の命もまた同じく。
 最期に美しい思いを抱いて逝けるならば、それが一番だ)
 そう静かに目を伏せていると
「そこの貴方もこちらへ居らして? ……一人はきっと寂しいわ?」
「マダム……」
 彼に気づいたジェーリーはそう手招きをして、ウーティスはそれに応えるように静かに彼女の方へ寄った。
「ふふ、貴方は紳士な方なのね? マダムだなんて初めて呼ばれたわ?」
 そう楽しそうに微笑む彼女に対してウーティスはその貧弱な小さな手をそっと取る。
「時にマダム、外へ出てみてはどうだろう? 桜を見る為という事もそうだが、マダムの気分転換になればとも思うのだが」
「……ふふ、優しいのね。なら……その、少しだけ……手を、貸して……下さる?」
 一人では動けなくて……と、これまでの笑みとは一転して申し訳無さそうに苦笑を浮かべるジェーリーに、ウーティスは静かに頷いた。





 ジェーリーの庭先に枯れ木が見える。
 彼女が生み出したというその木は彼女と共に生きてきたと言っても過言ではない。彼女の家族のこともこの木は知っている。何せその『時代』の彼女には希望が満ち溢れていたのだから。
「うおおーーーーい!! 酒見つけてきたぜー!!」
「こらダリウスそんな大声で!!」
「なんだよ桜聖〜こういうのはパーッと楽しまなきゃ損だろ〜?」
 ブーブー桜聖に反論するダリウスを見てジェーリーは楽しそうに、可笑しそうに。
「ふふふ! ダリウスさんは楽しい方ねぇ……お酒、気になるものは見つかったかしら?」
「それがお宝尽くしでよぉ! どれ持ってくるか悩んじまったから全部持ってきちまった!」
「ぜん????」
 余程酒が好きだったのか、つまりはそういう事らしい。確かに彼の手元には何本か酒瓶が抱え込まれて入るが。そんなダリウスの知り合いを続けて良いものかと桜聖の脳裏に一瞬過ぎった事は心に留めた。
「まぁダリウスさんったら! 余程お酒が好きだったのね! なら飲んでちょうだいな、私が持っていても腐らせてしまうと思うから……ね?」
 だがダリウスがどんなに常識外れなことをしていても許してしまうのがこのお婆ちゃんである。
「ただ花見酒になるかは……少し微妙かしら……」
 楽しそうに笑っていても桜の木を見た次の瞬間にはジェーリーは憂いを見せた。

「ねぇジェーリーお姉さん? この桜はどうやって生成したのかしら?」
 そんな彼女に優しく話しかけたのはイルシアだった。
「この木は……魔法で生成したわ。希望で満ち溢れていた時代に……そうね、主人も子供たちも生きていた頃に」
「……この魔法を受け継いでる人はいるのかしら……?」
 ジェーリーのこの物言いにイルシアは少し引っかかりを覚えた。
「いいえ。子供たちは興味を持ってくれていたけれど……皆病気で私より先に死んでしまったから……」
「皆?」
「ええ、流行病だったわ……だからこの魔法を継承してる方は居ない、わね……」
 彼女には温かな家族に恵まれたが、不幸も舞い込んできてしまっていたようだった。
「なら……エルシアちゃんが引き継ぐわ!」
「え?」
 突然のイルシアの言葉に驚いていると、イルシアの傍に居た少女がそっと前に出てきた。
「ジェーリーお姉さんが一生を掛けて磨いてきた魔術をエルシアちゃんが学ぶの! とっても素敵だと思わない?」
「でも……良いのかしら?」
「良いのよ! エルシアちゃんもきっと学びたいと思っているわ!」
 だから彼女の死と共に失われるものではないはずだという希望を……イルシアはそう彼女に微笑んだ。

「マダム、夢を見るには良い日だ。違わぬか」
 ジェーリーがその声に振り返ると桜の木の側で姫君に仕える騎士のようにかしずくウーティスがいた。今日は甘く、かりそめの主従関係を。そう演出する彼にジェーリーは彼の手を取る。
「本当に紳士な方ね、お姫様にでもなったみたいだわ?」
「きっとそう思って頂いても構わない」
「まぁ」
 その目は閉じたままなれどその頬は少しだけ赤みが見えたような気がした。
「貴公――いや、我が貴婦人、貴女の見て来た道のりを話してもらいたい」
 穏やかに話を聞こう。貴女が見てきた美しい景色を、喜ばしいことを知りたい。そして今日の桜が、その中で最も美しい物になれるよう――この身を尽くそう。彼のそんな気持ちを知ってか否か静かに語り始める。
「私にも希望を持っていた時代はあったわ……それこそこの桜を生み出した頃ぐらいになるのだけれど」
 主人も居た、子供も居た。ただ……運がなかった。流行病の猛威にジェーリー以外の家族は倒れた。彼女だけが助かったものだから、彼女が殺人でも引き起こしたのではないかと親戚達の目が怪しく光った時代を駆け抜けて、そして一人を選んでから数十年が経過していた。ただそれだけの事なのだけれど。
「だけど……一人は寂しいわね」
 ほんの少しだけ本音が溢れてしまった。
「さあ、踊ろう、お姫様」
「え?」
「花まだ遠い桜の下で、ひたすらゆっくりと体を合わせて緩やかなダンスを。私にもたれかかるだけでも、良い。
 ジェーリーからはゆっくりと美しい景色を、記憶を語って欲しい。貴女の人生には美があり、喜びがあり、その物語を聞くのが私の喜びで、希望だ」
「……ええ、ええ……そう、ね……」
 彼女の感情が溢れそうになった。少しだけ我慢したのはきっと年甲斐もなくと思ってしまったから。

「こんなに楽しい時間は久しぶりだったわ……!」
 楽しげに笑う彼女の部屋への帰路。
「出来たよジェーリーさん!!」
「あら桜聖さん……え?」

 彼に手を引かれるままついて行き、そして彼女の目に飛び込んできたのはさっきまでの真っ白い部屋の桜色に染まった姿だった。
 嗚呼、彼女は崩れ落ちる。そう、そうだ。思い出した。
 もう、もう忘れないと思っていたのに。

「とても綺麗だわ」

 彼女の笑みはほんの少し震えていた。

成否

成功

状態異常

なし

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