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シナリオ詳細

“ハンター”ヒュー・ミント。或いは、スラムの喧噪…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●獲物
 鉄帝。
 とあるスラムの片隅でバクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が拾ったのは、ガリガリに痩せた少女であった。
 汚れた服に、獅子のようにぼさぼさの髪。
 頬から耳にかけて深い傷を負い、顔から胸にかけてを血で汚している。
 ズタズタに裂けた皮膚の傷は、矢で抉られたものだろうか。
「運がいいのか悪いのか。こんなスラムでガキが1匹……大怪我だが息はある。放っておけば遠からず死ぬがこれも成り行き……って、あぁ?」
 顔にこびり付いた血を拭い、少女の顔をまじまじと眺めたバクルドはおやと目を見開いた。
 その顔には見覚えがある。
 いつだったか、傭兵崩れに仲間を殺され復讐の為に戦ったスラムの子供のリーダーだ。確か名前は“リーベル”といったか。そして、彼女の率いるチームは『トレイラー』だったか。
「前言撤回だ。こいつはひどく運が悪い」
 彼女たちが拠点としているのは、今いる場所から少し離れた場所にあるゴミ捨て場ではなかったか。それがどうして大怪我を負って、こんなところに倒れているのか。
 トレイラーたちは、スラムの孤児には珍しく、組織だって行動することで生き延びて来たチームである。子供同士でグループを組んで、ゴミ捨て場を拠点にネットワークを構築。トラブルを避け、効率的に物資を集めて食い扶持を得る。
 孤児ながらに矜持は高く、大人たちの横暴に命をかけて抗った。
 とはいえ、基本的には戦う力を持たない子供ばかりの集団だ。荒事を避けて、助け合いながら生きて来たはずだが、そんな彼女が怪我をしているということはきっと何かのトラブルに巻き込まれたのだろう。
 それを指して、バクルドは彼女を「運が悪い」と評したのだ。
「よく見りゃ全身が怪我だらけだ。しかもこりゃ、わざと外して撃たれた傷だな」
 一番目立つ顔の傷はもちろん、腕や脚や胴体にも幾つもの傷が残っている。
 矢、槍、剣と傷の種類は様々だが……どれもわざと、彼女の命を奪うのではなく弱らせる目的でつけられたものだ。
「熱があるし衰弱してんな。こりゃ【致死毒】に【疫病】か? ガキ相手に使うもんじゃねぇ」
 傷は人に付けられたものだ。
 彼女は何者かに襲われたのだ。
 スラムでは人の命が軽い。ちょっとした病気や怪我、事故なんかで簡単に命を落とす。そして、誰にも知られることはないまま路傍に転がって、気の利いた誰かがひっそりと処理する。それがスラムに住む者の末路と相場が決まっているのである。
「……まぁ、こいつらのことは嫌いじゃねぇ。生きるか死ぬかはこいつの生命力次第だが」
 子供に手を差し伸べるぐらいはしてもいいだろう。
 何しろ、バクルドは“いい大人”であり“スラムの先輩”なのだから。

●狩り場
「……目を覚ましたらおっさんがいた。その時の私の気持ち、分かってくれるかな?」
 なんて。
 熱に浮かされながら、うわごとみたいにリーベルは言う。
 スラムのどこか、地下下水道の角に作られた粗末な寝床で目を覚ましたリーベルは、視線をバクルドへと向けた。埃塗れの壁に背を預け、安酒の瓶を傾けていたバクルドはくっくと肩を揺らして笑う。
「お前の気持ち? 決まってる。“良かった、助かった”だ」
 飲むか? と差し出された酒瓶を押しのけ、リーベルは上体を起こす。
 【流血】は止まっているし、その身を侵す【致死毒】および【疫病】は取り除いた。しかし、失った体力はまだ戻らない。本来であれば起き上がることはおろか、目を覚ますことも難しいほど弱っていたはずだ。そんな状態で起き上がったあたり、リーベルという少女は見かけによらず生命力が高いのかもしれない。
「何があった? 助けた駄賃ってわけでもねぇが、話を聞かせちゃくれねぇか?」
「……私も全部を知ってるわけじゃないけどね。それでいいなら」

 ヒュー・ミント。
 それがリーベルを襲った男の名前であった。
 ガスマスクに、軽量かつ頑強なボディアーマー、ドレッドヘアのように頭部から伸びたチューブは、背負ったタンクに繋がっている。タンクの中身は、身体能力を向上させる特殊な薬品であるらしい。
 そして腰や背には折り畳み式の槍や剣、ボウガンなどを装備している。
 【流血】【致死毒】【疫病】を付与する毒が塗られた特殊な武器だ。
 加えて、同様の毒が塗られたワイヤーやトラバサミ、設置型のボウガンなど多様な罠も使用する。リーベルに致命傷を与えないよう攻撃を加えていた辺り、ヒューはそれらの扱いに長けているのだろう。
 ヒュー・ミントと4人の仲間は、自分たちを『ハンター』と呼称していた。
 彼らはスラムの住人たちを追い回し、弱らせ、狩るのだ。
 以上がリーベルによってもたらされた情報であった。

「仲間たちはどうした?」
「逃がしたよ。幾つかのグループに分かれてスラムに散らばってる。ゴミ捨て場の拠点までバレるわけにはいかないもの」
「いい判断だ。つまりお前は、仲間を逃がすために囮になったってわけか」
 度胸の据わった少女だ。
 しかし、賢い選択とは言えない。
 リーベルの行いにより、仲間たちは生き延びた。しかし、トレイラーの子供たちにはリーベルが必要だ。リーダーである彼女を失えば、そう遠くないうちにチームは崩壊するだろう。
「“ハンター”って野郎どもは、きっとスラムの住人を狩って遊んでるんだろうな。ともすれば、開発した武器や装備の実験かもしれないが……なぁ、お前さん、どうしたい?」
「ここしか行く宛てはないからね。あいつら追い出して、もとの生活に戻りたいよ。それで、顔面に一撃パンチを入れて■■■■(*鉄帝スラング*)って言ってやりたい」
「なるほど。悪くねぇ。だが、どうせならぶちかますなら■■■■(*より汚い鉄帝スラング*)の方がいい」
 にやり、とバクルドは口元に笑みを浮かべた。
「スラムに散ってるトレイラーたちを回収する。それから、出来ればハンターどもをぶちのめす。あぁ、報酬はもらってるからな。ついでに俺が放浪者として生きる術を教えてやるよ」
 そう言ってバクルドは錆びたペンダントを取り出して見せる。

GMコメント

こちらのシナリオは『反逆者たち。或いは、誰も知らない矜持ある戦争…』のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6901

●ミッション
・『トレイラー』の子どもたちを救助&ゴミ捨て場まで誘導する
※可能であれば『ハンター』たちをスラムから排除する

●ターゲット
・ヒュー・ミント×1
『ハンター』を名乗るチームのリーダー。
ガスマスクに、軽量かつ頑強なボディアーマー。
ドレッドヘアのように頭部から伸びたチューブは、背負ったタンクに繋がっている。
タンクの中身は、身体能力を向上させる特殊な薬品であるらしい。
腰や背には折り畳み式の槍や剣、ボウガンなどを装備している。
自分たちの開発した装備の稼働実験および遊興のためにスラムの孤児や浮浪者たちをいたずらに狩っている。
武器には【流血】【致死毒】【疫病】を付与する毒が塗布されている。
また威力は低いが【流血】【致死毒】【疫病】を付与する毒を添付したワイヤートラップ、トラバサミなどの罠を設置することもできる。


・ハンター達×4
『ハンター』を名乗るチームのメンバー。
ヒュー・ミントに比べれば楽観的かつ享楽的な面が目立つ。
装備自体はヒューと同様のものであるため相応に動けるし、それらの扱いに慣れている。

武器には【流血】【致死毒】【疫病】を付与する毒が塗布されている。
また威力は低いが【流血】【致死毒】【疫病】を付与する毒を添付したワイヤートラップ、トラバサミなどの罠を設置することもできる。

●NPC
・リーベル×1
スラムの孤児たちが集まって作ったチーム『トレイラー』のリーダー。
ぼさぼさの明るい茶髪に粗末な衣装。痩せた体の少女ではあるが生い立ちや苦しい生活にめげることなく矜持を胸に生きている。
どうやら彼女を筆頭に、トレイラーたちは負けん気が強いようだ。

・チーム“トレイラー”×14
リーダーである少女“リーベル”を筆頭に、20歳以下の男女で構成されたチーム。
4~5人のグループに分かれ、スラムの各所に潜伏している。

●フィールド
鉄帝の外れにあるスラム。
現在はスラムの中心部にある地下下水道に潜伏している状態にある。
スラムの距離はまっすぐ横切るのに歩いて15~20分かかる程度。
スラム北方にゴミ捨て場があり、最終的にはそこを目指すこととなる。
なお、リーベル以外の『トレイラー』は、南、東、西側に4~5人ずつのグループに分かれて隠れている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • “ハンター”ヒュー・ミント。或いは、スラムの喧噪…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月14日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

リプレイ

●篝火の前で
 湿った空気に、混じる埃と黴の臭い。
 淀んで濁った水が流れる下水道。脇の水路の片隅で、枯れ木に火をつけ焚き火をしている者たちがいた。
「ねぇ、いいの? ここでじっとしている間にも仲間たちが危ない目に合ってるかもしれないんだよ?」
 落ち着かない様子でそう言ったのは痩せ細った少女であった。
 彼女は水路脇に転がっている鉄骨を拾って、きつくそれを握りしめる。
「あんたが行かないなら、私1人でも……」
 唇をきつく噛み締めて、唸るように少女は言った。
 少女の名はリーベル。鉄帝のスラムに住む孤児だ。
「まぁ、落ち着けって。焦っても状況は好転しねぇんだ」
 焚き火に薪を追加しながら『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は言葉を返す。
 既に何度も繰り返したやり取りだ。その度にこうしてリーベルを宥めているが、彼女の我慢はそろそろ限界に近い。とはいえ、それも当然だ。何しろ、今こうしている間にも、彼女の仲間たちは人狩りに逢っているかもしれないのだから。
「……それは、そうかもしれないけど」
「あぁ、分かってるって。だが、何事にも最適な時期ってものがある。ほら……例えば、今がその時期だ」
 口元に笑みを浮かべたバクルドは、水路の先を指さした。暗がりの中から足音もなく現れたのは『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)だ。
「よぉ、どうだった?」
「人狩りなんてのが本当にいるとは思わなかったわ」
 肩を竦めてルチアは答える。
 外の様子を見て来たルチアは、そこで人狩りらしき男を目撃したのだ。
「油断なく武器を構えて、罠を張って回っていたわ。2人組だったけれど、もしかしたら他にも近くに仲間がいたかも」
 簡潔に目にしたものを言葉に乗せて、ルチアはバクルドへ向け何かを放る。
 それは金属の部品が取り付けられたワイヤーだ。
 どうやら人狩りたちが設置して回っていた罠のようである。それを受け取ったバクルドは、口元に笑みを浮かべて立ち上がる。
「スラムの子たちに同情するって訳じゃないけれど、こっちも運命の歯車が少し狂っていれば似たような境遇になっていた身だもの。助力は惜しまないわ」
「よく見てな、放浪者ってのは持ってるものと周りのもの全部使って有利に進めるんだ」
 困惑しているリーベリを置いて、ルチアとバクルドは歩き始める。
 周辺の調査は完了した。
 今頃は他のイレギュラーズが、各所で孤児の救助を行っているはずだ。
 つまり、反撃開始の時が来たのだ。

 腹に矢を受け、息絶えた男の遺体が1つ。
 人狩りの罠にかかった孤児だろう。見開かれた目をそっと閉じさせ『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は拳を握る。
「罠まで使ってご苦労なことだ」
「たった5人で人狩りをしようって連中だ。そこら中が罠だらけだぜ」
 男の腹に刺さった矢を抜き『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は瓦礫の角へと視線を向ける。目立たないようカモフラージュを施されているが、簡素なボウガンが設置されている。
「場所さえわかれば、解除するのは簡単だな」
「じゃあ1回外して付けなおそうか。子供たちが引っ掛からない場所にね」
 周囲の様子を警戒しながら、2人はそっと物陰を出た。
 瓦礫の山へと近づくと、素早く罠の解除に移る。

 作戦は素早く、そして思い切りよく。
「先ずはトレイラーの救助! 無抵抗のアイテをなぶってイイ気になってる連中のハナを明かしてやろう!」
「懸念事項は救助対象が素直に従ってくれるかどうかです。リーベルの名を出せば信頼を得られるでしょうか?」
「リーベルから合言葉を聞いてきた。問題ナイよ」
 スラムの通りを駆け抜けるのは『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)と『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)の2人である。
 まっすぐに、孤児たちが隠れている場所を目指して走る2人を、物陰から浮浪者たちが見つめていた。

 悲鳴をあげて、少女が道に倒れ込む。
 ボロボロの服に乱れた髪。痩せた手足は傷だらけ。
 疲労と恐怖に憔悴している彼女は、リーベルの率いるチーム“トレイラー”のメンバーだ。
 少女を庇うように立ち止まった『竜眼潰し』橋場・ステラ(p3p008617)が、転倒した少女の脚に手を伸ばす。倒れた際に膝を酷く擦りむいているが、応急処置を施せば走るぐらいのことはできるようになるだろうか。
「危ない!」
「っ!」
 少女が叫ぶ。
 直後、包帯を取り出したステラの頬を1本の矢が掠めていった。
「……ふざけた狩人ごっこをする手合いには、一切の容赦は無用ですね?」
「橋場殿、子供たちの誘導や罠対処を頼む! ワシは護衛をしよう……っ!」
 反撃に打って出ようとしたステラを留め『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が前へ。両腕を広げ、立ちはだかったオウェードの胴に鉄の矢が2本突き刺さった。
 唇の端から血を零しながらも、オウェードは腕を下げることはしなかった。
 物陰に隠れ、こちらを狙う人狩りの数は3人ほどか。
「逃げおおせると思うかね?」
「罠さえなければ。そして、罠は解除できます。なにしろエキスパートですから!」
 5人の子供を引き連れて、ステラとオウェードは合流地点へ向けて移動を開始した。

●反撃の狼煙
 子供たちの歩みが遅い。
 人狩りたちの襲撃と、数日にわたる緊張状態の継続、逃走の途中で負った傷に、慢性的な栄養欠乏。それらの要素が折り重なったうえ、精神的な支柱となっていたリーベルの不在が響いているのだ。
 だからといって、足を止めるわけにはいかない。
「走って! さぁ、余所見をせずに! しっかり付いて来てください!」
 荒れた通りを駆けながら、ステラは両手に光を灯す。
 青と赤の魔光を纏った両腕を、力の限り振り下ろせば、途端に衝撃と魔力の奔流が散った。
 放たれた光の色は黒。
 まるで獣の顎のような魔力の渦が、瓦礫や撃ち込まれた矢を飲み込んでいく。
 人狩りたちは、表に姿を現さない。
 絶えず移動を続けながら、遠くから矢を撃ち込むばかりだ。
「……これじゃあ怪我の治療も落ち着いて出来ない」
「耐えてもらうしかあるまいよ。ぬぅ……それにしても、嫌な位置を狙って来よるわ!」
 子供へ向けて撃ち込まれた矢を腕で受け止め、オウェードは怒鳴った。
 口ひげは吐血に濡れているし、背中には矢が刺さったままだ。手に灯した燐光を胸に当てたオウェードは、流れる血を止め、身を侵す毒を取り除く。

 カランコロンと鐘が鳴る。
 仕掛けたワイヤートラップを、誰かが踏み抜いた音だ。
 それから宙を旋回する小鳥が1羽。
「ようやくお出ましね」
「じゃあ、やるか。付いてこれるな? 特等席でアイツラの吠え面見せてやる」
 スラムの中心部。
 倒壊した馬車の影に隠れていたルチアとバクルドが立ち上がる。
 音のした方向へ視線を向ければ、人狩りの男が1人、訝し気な様子で足元を見ている。
 自分たちが仕掛けた罠の位置がいつの間にかずれているのだ。
 訝しむのも当然だろう。
 惜しむらくは、彼に危機感が足りないことか。罠の位置がずれているのを見つけた時点で、彼は逃げるか、仲間にそれを報告するべきだったのだ。
「どうするの? まだ距離があるし、気づかれたら」
「気付かれても問題ないの。見てて」
 立ち上がったルチアは、両手を広げて人狩りの前に姿を晒した。
「無抵抗な相手をいたぶるの、そんなにお好きかしら?」
「……狩りってのはそういうものだ。俺たちの罠を張りなおしたのはお前か?」
「えぇ、そうよ。ところで、そんな距離から当てられるの?」
 嘲るようにルチアは口元に笑みを浮かべた。
 油断なくボウガンを構えたまま、男は数歩前に出た。
 その様子を、リーベルは黙って見つめている。
「何がしてぇんだ? お前の所属と目的を……うぉっ!?」
 油断は無くとも、注意は足りない。
 設置された罠を踏む抜いたのだ。トラバサミに足首を挟まれ、男は悲鳴をあげる。
 拍子にボウガンのトリガーが引かれ、明後日の方向へ矢が飛んだ。
「狩人が罠に嵌るなんてどっちが獲物か分かんねぇなぁ、ん?」
 男が姿勢を崩すと同時に、剣を手にしたバクルドが駆ける。
 その後に続いて、鉄パイプを握ったリーベル。男は慌ててボウガンに矢を番えなおすが、バクルドの方が速い。
「っ……やっぱり仲間がいやがった!」
 振り抜かれた剣がボウガンを弾く。
 男は腰から下げた槍に手を伸ばすが……それを抜くには距離が近すぎる。
「ガキ相手に試すよりも身を持って味わったほうが確実なんじゃねえのか?」
 顔面に一発、バクルドの拳を浴びた男は鼻血を噴いてよろめいた。
「この■■■■(*汚い鉄帝スラング*)野郎!」
 無防備になった顔面に、リーベルの振るう鉄パイプが叩き込まれる。

 まずはマリアとサンディ。
 次にイグナートとオリーブが子供を連れて帰還した。
「……見られている感じはしますね」
 顔を顰めオリーブは言った。
 視線をイグナートへと向ければ、彼は首を横に振る。
 付近に誰かが居るのは間違いないが、巧妙に身を隠しているのか姿は見えないのだ。
 リーベルと、救出した孤児たち。
 それを囲むようにイグナートとオリーブ、バクルド、ルチアが隊列を組んだ。周囲の哨戒に向かったマリアとサンディの姿は見当たらない。
 リーベルの頭の上で、小鳥が鳴いたのはその時だ。
「一網打尽だ! プランはCへ変更! 追い込め!」
 それと同時に男の声が辺りに響く。
 拡声器でも用いているのか、ノイズ混じりの声は大きい。おそらく、声の主が人狩りのリーダー、ヒュー・ミントだろう。
「合流は出来た様じゃな……さてと今度は」
「決まっています」
「逃げるんだよ!」
 先陣を切って駆け出したのはイグナートとオリーブだ。その後にバクルド、ルチア、ステラにリーベルとトレイラーの子供たち、最後尾はオウェードだ。
 向かう先はスラムの北側。
 トレイラーの子供たちが住むゴミ捨て場だ。

 空から矢が降り注ぐ。
 周囲の家屋の窓や屋根から身を乗り出して、矢を撃っている4人の男。そのうち1人がヒューなのだが、装備からは誰が彼かは見分けられない。
 降り注ぐ矢をイグナートとオリーブが弾く。しかし、幾ら何でも数が多い。
 肩に、腕に、次々と矢が突き刺さった。
「おじさんたち! 血が!」
「毒が回るよ。死んじゃう!」
 零れた血を見て、子供たちが悲鳴をあげた。
 その顔は恐怖に引き攣っている。きっとどこかで、毒に侵され死んだ者を見たのだろう。
「毒が回る前にアイテをぶっ飛ばせばイイんだよ! 簡単でしょう?」
「突破口を切り開きます。その間に逃げてください!」
 努めて笑顔を浮かべた2人は足を止め、左右の家屋を睨みつける。
 ボウガンの矢は高い位置から降り注ぐ。
 ならば、高い位置を無くしてしまえば問題ない。
 オリーブは長剣を、イグナートは拳を振り上げ同時に左右へ疾走を開始。
 怒号と共に、それぞれの得物を家屋へと叩き込む。
 衝撃、轟音。
 元より老朽化の進んでいた家屋に罅が走った。
「うぉぉっ!!」
 男の悲鳴は都合2つ。
 家屋の倒壊に巻き込まれたか、それとも逃げたか。
 どちらにせよ、一時的に矢の雨は止んだ。

「2人は下から追い立てろ! 俺たちは先に回り込む!」
 ヒューの声が響くと同時に、瓦礫の中から男が2人飛び出した。
 思いのほか人狩りたちは頑丈だ。背負っているタンクから供給される薬品により、身体能力が上昇しているのだろう。
 子供たちを連れたイレギュラーズでは、逃げ切ることも難しい。
 けれど、しかし……。
「なら、追いつかせなければいいだけの話だよな」
「もう大丈夫! お姉さん達が君達を絶対に守る! だから安心して先へ行ってくれたまえ!」
 道を挟んで身を潜めていたサンディとマリアは、同時に手元のワイヤーを引く。
 ピン、と張ったワイヤーに足を取られ、追手2人が転倒した。顔面から地面に倒れた2人へと、まず駆け寄ったのはサンディだ。
「なかなか動けるようだが……種が分かれば対処もしやすい。道理だろ?」
 逆手に握ったクナイを振るい、人狩りたちの足首を裂く。
 傷は浅いが、クナイに仕込んだ呪詛は強力なものだ。
 苦痛に顔を歪めながらも、男たちは得物を振るう。サンディの腹と右脚を、槍と剣とが切り裂いた。傷口を押さえ、サンディは転がる。
 それを追って、上体を起こした男たちは得物を高く振り上げた。
「そう。いい位置だ」
 にぃ、と口角をあげてサンディは笑った。
 刹那、空気の爆ぜる音。
 奔る赤い稲妻と、男たちを襲う強い衝撃。
 側頭部に蹴りを叩き込まれて、1人が意識を失った。
 そして、もう1人……。
「この……っ!」
「命までは奪わないけど……二度とこの街に足を踏み入れるな。次見かけたらどうなるかは分かるね?」
 男が剣を振り抜くよりも一瞬速く。
 その顔面を、マリアの蹴りが撃ち抜いた。

●狩る者と狩られる者
 子供たちの呼吸が荒い。
 もう少しでゴミ捨て場に辿り着くというところで、狩人の1人が前方に回る。塀の裏に身を隠し、罅割れた隙間からボウガンだけを覗かせて矢を撃って来た。
「あっち! 向こうから迂回して行ける!」
「駄目だ。そっちは罠だらけだ! 地雷原みたいなもんだぞ!」
 逃走経路をリーベルが示すが、即座にバクルドはそれを否定する。ゴミ捨て場へと至るルートは罠だらけだ。
「塀が邪魔だ!」
 お返しとばかりにバクルドが銃弾を撃ち込むが、塀に阻まれ届かない。
 足止めを喰らっている間に、後方からも攻撃が開始された。
「それ以上先に進ませるな! 矢を射かけ続けろ!」
 後方から響く声はヒューのものだ。
「お前さんらもつくづく面倒な奴らに絡まれるなぁ」
 リーベル目掛けて撃ち込まれた矢を剣で弾いて、バクルドは一つ溜め息を零した。顔を強張らせたままリーベルは肩を竦めてみせる。

 障害を突破する方法は、大きく分けて2つしかない。
 避けて通るか、壊して通るかの2択だ。
 前へと飛び出すルチア目掛けてボウガンが飛ぶ。顔の前で腕を交差し、ルチアは矢の掃射を受ける。
 注意を引くことが目的だ。
 自身に治癒を施せば、早々倒れることも無い。
「今っ!」
「応! 自分が行きます!」
 ルチアに攻撃が向いている隙に、オリーブは前進を開始。男はオリーブの接近に気付くが、迎撃は間に合わない。
 大上段に構えた剣に駆ける勢いを乗せて振り下ろす。
 否、叩きつけるといった方が正しいか。
 男が盾にしていた塀を撃ち砕き、突破口を切り開く。
「迅速に突破いたしましょう!」
 顕わになった男の身体を魔力の渦が飲み込んだ。
 
 ステラの手により男は倒れる。
 進行を阻む者は消えた。先行していたオリーブとルチア、次いで子供たちを連れたバクルドとステラがゴミ捨て場へ駆ける。子供の数が多いのは、マリアの生んだ幻影が混じっているからか。
「このまま手ぶらじゃ帰れねぇぞ!」
 追いかけようヒューが前へ。
 しかし、その足元へサンディがトラバサミを投げ込んだ。
「うぉっ!?」
「ミイラ取りがミイラに、っつってな」
「ナイスだよ、サンディくん!」
 転倒するヒューへ、マリアが果敢に蹴りかかる。ボウガンを手放したヒューは、折り畳み式の槍を伸ばしたマリアを迎撃。
 振り抜かれた脚首を槍で貫くが、衝撃までは殺せない。足首に槍を刺されたまま、マリアは足を旋回させた。傷は広がったが、衝撃で槍がへし折れる。
 よろけたマリアを瓦礫の山へと投げ捨てて、ヒューは慌てて跳び起きた。
「ブッ潰す!」
 地面が揺れるほどの踏み込み。
 砲弾のような速度で拳を振るう。
 身体は槍のようにまっすぐ。
 イグナートの正拳突きがヒューの腹部に突き刺さる。
 血と胃液を吐き散らし、顔を覆っていたガスマスクが外れた。白目を剥いて、ヒューは再び地面を転がる。
 背中に背負ったタンクが割れて、薬液が地面に溢れだす。
 ボウガンも槍も失った。
 残る得物は剣だけだ。
 苦悶に顔を歪めたヒューは、背負った剣へ手を伸ばす。
 直後、飛来したクナイがヒューの手首を貫いた。
「……っ!?」
「おっさん、やっちまいな!」
「おぉ! 敵将ヒュー・ミントッ! このオウェードが討ち取ったッ!」
 散々、矢で射貫かれたのだ。
 怒号と共に振るわれた、オウェードの拳には強い怒りが込められている。
 まずは顔面に一発。
 鼻を砕き、前歯をへし折る。
 白目を剥いたヒューの顎に、追撃のアッパーが突き刺さる。
 殴打、殴打、殴打のラッシュ。
 薬物で強化されたヒューは、意識を失うこともできずに長い時間、殴られ続ける結果となった。

 西の空に夕日が落ちる。
 ゴミ捨て場の片隅に、肩を並べてバクルドとリーベルは座っていた。
 視界の隅では、子供たちがステラの治療を受けている。治療が終われば、バクルドたちはこの町を去ることになる。
「お前さんらはこれからどうする? 宛がねえなら俺のところに来るか?」
「……この人数の孤児を面倒見切れるの? まぁ、でも、教えてほしいことはまだ多いからね。いつか、今日のお礼をするからさ……その時にまた、色々教えてくれると助かる」
 なんて。
 視線を交えることもないまま、2人はしばらく静かに言葉を交わしていた。

成否

成功

MVP

オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

状態異常

オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
高貴な責務
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護

あとがき

お疲れ様です。
リーベルおよび“トレイラー”の子供たちは元の住処に帰還。
人狩りたちは大怪我を負って撤退しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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