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シナリオ詳細

黄昏に不吉の旗を燃やせ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その日、海洋のとある町は記録的な猛暑に苛まれた。
 気候が手伝ったのに加えて、たまたま火事が発生。周辺地域は熱風により恐ろしく空気が乾燥、恐ろしく熱が局所的に籠ってしまったのだ。
 そんな中で町を上機嫌に逃げ去る影が一つ。
「ひゃっひゃっひゃ! 火事場泥棒とはまさにこの事だよなぁ、効果は抜群だぜぇ!」
 荷車を引きながら町を出た男は素早く駆け抜けて行く。
 彼が背に引くのはただの貨物や商品というわけではない、その金属コンテナにはうっすらと霜が張り付き、中身が冷気を伴っていると示している。
 そう、男は火事に乗じて町の消火機関が有している巨大な冷却用の結晶魔石(クリスタル)を盗み出していたのだ。
「これで俺らのアジトも涼しくなるぜ! ひゃひゃひゃひゃ……!!」
 町から離れた海岸沿いに停めていたボートに乗り込んだ男は、冷却結晶魔石を積み込んで海へ繰り出した。
 向かう先は暑さに悶える仲間達の住むアジト。これで夏を越せるだろうと男は一安心して、ヒンヤリしたコンテナに頬を寄せて舌なめずりをするのだった。

●このクソ暑い中許されるわけないだろ!
 額に浮かぶ汗を拭いながら、『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)はスーツの袖を肘まで捲った。
「依頼です。今回は海洋の首都から少し離れた町からのオーダーとなります。
 依頼内容は海賊の掃討が目的とした、突入任務ですので各自準備を怠らない様にしてください。何の準備か? 水分補給です、暑いでしょう?」
 どうして夏は暑く、我々人間種は汗をかくのでしょうね。などと零す秘書さんにイレギュラーズは「はあ」とカックン頷くばかり。
「対象の海賊組織は依頼主の町にある消防機関、『火消しの塩』から消火用薬剤等を冷却する結晶魔石を盗み出しました。今日みたいな暑い日に。
 よりにもよって、火事まで起きて大騒ぎの時に、です。依頼主からの最重要課題として
 『連中に地獄を見せてやって欲しい』『絶対に手加減するな』『首魁は捕まえて来い』など、目に見えて激怒している様子です」
 それはそうだろうなぁ、と一同は思う。
 ミリタリアもこればかりは仕方ないと思ったのか、それとなく了承して依頼を受けたらしく。相手の剣幕を思い出すと「暑苦しい……」と呟いた。

「ああ、所で今回は幻想側のさる御方から皆様にバックアップとして、作戦決行日に出撃前に支援魔術を付与して下さるようです。
 ちょっと変わった方々も同行しますがお気になさらず、皆様はミッションを遂行して下さい。以上です。海洋との友好も深まって来た頃です、ここで覚えを良くするのも如何でしょうか?」

GMコメント

 ――想像して見て下さい、猛暑の中でクーラーを奪われたら……
 今回の依頼はそんな怒りを海賊共に思い知らせてやりましょう。

 以下、情報です。

●依頼成功条件
 海賊団の掃討・アジトの破壊

●ロケーション(舞台)
 首都リッツパークから離れた沿岸部沿い、小さな孤島の内部に出来た広大な洞窟に海賊団のアジトがあります。
 アジト内は入口から順に【物見櫓群】【集会場】【武器庫】【火薬庫】といった構成で、水上に立っており、
 支給された小型船か【小型船】の該当アイテムに乗って近づいてから各ポイントを襲撃する形になります。
 もしも遠距離武装による船上から敵エネミーを倒すでも、上陸して戦闘でも構いません。
 ただし、最奥の【火薬庫】だけは一定以上敵を倒すと脱出艇が降りる可能性があると調査の結果判明しており、最後に残存勢力が洞窟の奥へ集まる様子が見えたら駆け付ける事をお勧めします。
 『火薬庫に火をつけて洞窟がどうなるかはご想像にお任せします』とは情報屋のミリタリアからの言葉。

●敵エネミー
 『したっぱ海賊』
 アジト中にいます。武装は曲刀やR1の槍などで、特筆する能力は無いと予測されますが【物見櫓群】に待機している8人の敵は全員『ライフル』等の遠距離武器で狙撃してきます。
 彼等はとあるタイミングで残存勢力で固まって【火薬庫】へ逃げるようですが……詳細は不明です、状況に応じて対処して下さい。

 『海賊団長』
 【武器庫】にて現れます。素手での至近徒手格闘を得手とする大柄な首魁のようですが、皆様の苦戦する相手ではないでしょう。
 とりあえずボコって、依頼主の話を覚えていたら思い出すと良い事があるかもしれません。
 彼を倒してしばらくすると……?

●依頼における支援
 なんかマッチョな黒子の皆さんが撮影しについて来ます。彼等のおかげで割とパワーアップしているので、普段は戦闘とか出来ないあなたも勇気を出して攻撃してみましょう。
 吹っ飛びます。敵が。

 この依頼の情報精度はBですが、成功失敗判定に関わる程ではありません。
 以上、情報となります。

 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 黄昏に不吉の旗を燃やせ完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月31日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
ルーティエ・ルリム(p3p000467)
ブルーヘイズ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
イアン・フォン・ベルヌウェレ(p3p006209)
赤銅
リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)
勝利の足音

リプレイ

●洞窟から拠点を移せばいいのにこだわる男達
 真夏の洞窟は多少涼しいとは言えまるで蒸し風呂。とにかく涼しい場所への避難しか考えられない。
 だったら海賊なんてやめればいいのに。とは、かつてその海賊団の団長から去って行った妻の言葉。
「お頭……もうちょいそっち詰めて下さい……」
「なんでだよ」
「あんたの汗がこっちにベタついて気持ち悪いんでさぁ」
「ああ、スマン」
 そんな訳でデバファー海賊団は中央にデカデカと置かれた、肌を撫でる様な冷気漂う結晶魔石を囲んで一部を除いた全員が集まっていた。
 本来は全体の半数しか入れない集会所はそれだけで満員である。
「そろそろ櫓の連中と見張り交代かー」
「果実水ちゃんと持ってけよ」
「塩もな」
 ふと、立ち上がった下っ端の男が背筋を鳴らす。
 暑い熱い一日はまだまだこれからなのだった。

●そんな男達に忍び寄る影
 日差し避けで自身を扇ぎながら、見えてきた孤島を睨んで『ブルーヘイズ』ルーティエ・ルリム(p3p000467)は一言。
「くそあつい。
 いやほんともう……ないわ、さっさと殺そ……」
 猛暑による大雑把な殺意。
「夏という概念は好きだけど、こうも猛暑が続けば気が滅入るわね……」
「依頼主さんも殺意剥き出しだったみたいだし。あーあー、この暑いのに命に関わるようなものを盗むから……」
「そんな時に冷却結晶魔石を盗まれれば、相手に地獄を見せたくなるのも分かるわ」
 海面からの照り返しにうんざりしている『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は小型船の船内から顔を出す。『こそどろ』エマ(p3p000257)は船の甲板で戦闘準備に動き始めた所である。
 波によって削られた断崖の側面に見える大空洞の奥に、薄っすらと灯りが点々としているのが分かったのだ。
 遠目に見て未だ海賊たちに気付かれた様子は無い。
「海賊たちはわざわざ加減してやる必要もありませんが、止めを刺したりする理由もないですね。とまぁそれより……」
「ああ……」
 『特異運命座標』リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)が振り向いた方をルーティエも首を回して視線を向ける。
 小型船の後部では八人の、背丈が八尺近くあろうかという筋骨隆々な全身黒タイツの男達が肩に撮影機材を背負っていた。その磨き抜かれたレンズが映すのは当然、イレギュラーズである。
(この黒子なんなんだ?)
「……撮影しにくる人は証拠を撮りに来てるのかな?」
「撮影されながらの依頼ってなんだか緊張するかも、一人じゃなんかあれだし、サクラさんを巻き込んでみたらいいよね」
「こら、スティアちゃん! 真面目にお仕事だよ!」
 首を傾げる『特異運命座標』サクラ(p3p005004)を盾にしようと、背に隠れる『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が「えへへ」と笑う。
 何やらその様子を撮っていた黒子二人は互いにサムズアップしている。本当に何をしに来てるのだろうか。
 一つはっきりしているのが、彼等はイレギュラーズに今も継続して支援魔術や魔法で何らかの補助を行っているのは確かである。
「あ、っと。そろそろ戦闘領域に入りそう……行こう、みんな!」
 いきなりスティアの背後で飛び上がったサメをバックに、溢れんばかりのカリスマをそのまま絵にして見せる。


 そうしている内に、彼女達の船は遂に洞窟へ入り込み進んで行く。
 籠った熱気というか潮の匂いが肌に纏わりつき始めた事で、外とはまるで違う空気に変わったのだった。

●海賊、散る。
 小型船が海賊団のアジトへ到着して間もなく、戦闘は開始された。
 尤も、それはイレギュラーズ達が先手を取った事で有利になっているのだが。
「奪った後、報復される可能性を考えていない……或いは、報復行動で敗れる可能性を考慮していないのかしら」
 エマと桟橋へ降り立った久住・舞花(p3p005056)は鳴り響く警鐘の音を聴きながら首を振った。
 気付くのが遅過ぎる。誰かが襲撃に来る可能性を考えていないにしては、物見として作られた櫓は迎撃の要としてよくできていた。
 つまり。
「これだけ暑いと頭が回らないって事なんですかね?」
「いや、どう見てもサボってただろあいつら」
「来るよ銃撃!」
 次々に桟橋へ降り立ち、岩場の上に組まれた櫓へ駆ける。
 見ればその上では射撃体勢に入った海賊の姿。目を細めて呆れるルーティエ達の横でサクラが警戒を促した直後、無数の火花が散った。
 リリアーヌが櫓上へ飛び上がったのを見た舞花は銃撃の隙間を掻い潜り、エマやサクラも上手く弾丸を避けて岩場へ飛び乗った。
 真下を狙う銃口。刹那、信じ難い速度で組み木の合間を足場に駆け上がる姿を捉え切る事が出来ず、発射された弾丸は眼下の岩場で弾けるのみとなる。
 下から上へ、視界を通り過ぎた影に男達は短い悲鳴を上げた。
「下の女ども、速過ぎて当たらねえ!!」
「馬鹿、上を撃て! 屋根の上に今、一人――――
 震える手から弾が零れ落ちる。
 装填。真下から一気に駆け上がろうとした舞花を撃とうと引き金を引き絞った。
「……!!」
 銃口を向けられた舞花の眼に、直後に来るであろう弾丸が頭の中で閃いた。彼女は手にする長刀で眼前に迫る『筈の』弾丸を斬り払った。
 甲高い音と彩色の火花。一歩、二歩と跳躍した舞花は更に一閃。ライフルごと男を斬り飛ばした。

「ひ、ひぃい!? …………がッ……
 仲間が横へ滑り込んで来たのを見た下っ端海賊が悲鳴を漏らすが、櫓へ上がって来た舞花を狙おうとした彼の意識はそこで途切れる。
 倒れた彼の背後に立っていたのはエマだ。
「オーダーは絶対です。一切加減せず行くとしましょう」
 横合からジェットパックで飛び込んで来たリリアーヌが一人巻き込んで櫓から落とすと、舞花が近くの男を切り伏せ、エマが屋根上へ飛び上がり姿を一度消す。
 が、直後に姿を消した位置とは反対から蛇の様に入り込んだエマによって瞬きの内に二人が血飛沫と共に沈んだ。
「あ、わわわ! 命だけは助けてくれぇ!」
「……自業自得とはいえ、ここまで恨まれる海賊も哀れだな」
 銃撃が止んで一息に登って来た『赤銅』イアン・フォン・ベルヌウェレ(p3p006209)が僅かに同情した。だがエマの告げた通り、残念ながら依頼主の意向に形だけでも従わなければならない。
 ということで。
「少し痛い目には遭っていただきます」
「うひぃ!?」
 下から飛び上がって来たリリアーヌの拳が数度振り抜かれ、死なない程度にボコボコにして男達を倒すのだった。

 仲間がやられた事は直ぐに分かった。
「……どうしやすお頭」
「ここから出たくない」
「正直すぎでしょう」
 本来! デバファー海賊団とは実は海洋貴族達に多少なりとも使われるような、海の傭兵でもあるのだ!
 そんな彼等のアジトへのこのこと入って来れば、間違いなく男共に蹂躙される。はずなのである!
 だがしかし! 何故か誰一人として物見櫓へ助けに向かう者は居なかった! 何故か!!
「畜生……来やがれってんだ、ぶっころしてやるぜぇ」
「やめてくれえ! 窓を開けないでくれ! あいつらが帰るまでこの集会所で籠城した方が絶対良いって!」
「叫ぶなよ暑苦しい……」
 そう、誰も暑い外へ出たくないのである!
 誰も!! 出たくないのである!!

「いやとっとと出て来いよ!」
 がしゃーん!! と盛大に窓や扉を蹴破って来たのはその手に槍持つルーティエと、アルテミア達だった。
 集会所に吹き荒れる熱風と湿気が海賊団の全身から悲鳴を上げさせた。
「やってやらぁ!!」
「うおおおおお!!」
 涙を流して襲って来る海賊達。しかし彼等の猛攻はそれを上回る猛威によって薙ぎ払われる。
 スティアの魔導機から放たれた衝撃波に打たれ、そこを後方から一気に追い付いて来たサクラが地を這う姿勢から鯉口を鳴らし。刹那の一閃で敵を斬り飛ばした。
 ショーテルや曲刀を片手に襲い掛かって来る男二人を相手にルーティエが振るう槍が悉く弾き、脚を払った直後に加速した穂先が空気を切り裂き、男の心臓を穿つ。
 その時、確かにルーティエの首筋を冷気が撫でるのを感じた。
「あれ。集会所の卓上にある白いのって、例の結晶魔石じゃないかしら?」
「中央……でも、吹っ飛ばす方向にさえ気を付ければ大丈夫だよね? 範囲攻撃の出来る人はいないし私達!」
「予想通りここで涼んでたんだ……貴方達のやった事は大惨事に繋がるかも知れない事! 天義の騎士見習いとして、ここで断罪します!」
 サクラが一歩進み、納刀しながら駆ける。
「天義だァ!? チッ、なにしてやがるお前ら! たかが数人だろうが!」
「アンタこそ結晶持ってなにしてんだコラー!?」
 集会所の奥から逃げ出した団長が抱え込んでいるのは結晶魔石。「ちべてー!」と笑顔で叫びながら逃げて行く姿に、イレギュラーズ以上に殺気が高まる海賊達が叫んだ。
 それが結果的に士気を高めたのか、圧されていた彼等は本来の動きを取り戻してサクラ達を囲み始める。
「サクラ! 推して参る!」
 居合の構えを解かず、赤い軌跡を描いてサクラの姿が集団の中へ飛び込んで行く。
 彼女の脇を抜けたスティアの放った黒い魔弾……呪印が、槍を構えていた男に直撃。そこへサクラの一閃が通り抜け、左右から迫る刃を素早い納刀からの居合抜きで打ち払って斬り払った。
 怒号が辺りを埋め尽くす最中、アルテミアは卓上にあった酒をレイピアの切先に引っ掛け、近くの下っ端へ叩き付ける。
 再び呼吸の合間を縫い潜り、繰り出されたアルテミアの無数の刺突が無防備な敵を一瞬で無力化する。
 投げられた椅子を蹴り壊した彼女は自身の背後に居る存在に気付いて思わず顔を背けた。
「どうしたの?」
「いや……それにしても付いて来てる人達、黒づくめの服装で見ているだけで暑苦しいから視界に入れたくないわ……って」
 襲い来る海賊を相手取りながら後ろを向く彼女達。
 視線の先では黒子も襲われていたが、溢れんばかりの筋肉で叩き伏せていた。
「うん……そうだね」
 スティアとサクラが頷く。
 ちなみにルーティエは余りに暑苦しいのは時折視界にチラつく時点で気付いていたので見ようとしない。
「とにかく、この場に残ってる海賊たちを蹴散らして追いかけよう!」
「……それなら任せて貰おう」
 簡素な剣を頭上から振り下ろして海賊の一人を曲刀ごと弾いて、後から来たイアンが構える。
 彼の他にも、舞花やリリアーヌも駆け付けて来る。
 いつの間にか海賊の下っ端たちも三分の一が逃げ出し始めている。この勢いに乗じて攻める選択は間違っていないだろう。
 暫くの間、海賊達の悲鳴や怒号が集会所の周囲で飛び交う事となる。

●バッドラックパイレーツ
 武器庫の中を転げる様に、海賊団長デバファーは冷気纏う結晶魔石をどうしようどう隠そうとばかり。仲間が次々と減って行くのは聞こえて来る声の数で分かる。
 あれだけの人数が短時間でゴミのように蹴散らされるなど、尋常では無かった。
「お前達は奥の火薬庫にある練達から奪った非常時の『アレ』で逃げろ。ここに残るのは俺と一緒に戦ってくれる奴だけでいい
 少し前にこんな事もあろうかと情報屋って奴にイレギュラーズから逃げ切る方法を聞いていたんだ。シュトラーセとか言ったか……あの探偵。上手くすれば逃げ切れる筈だ、いけ!」
「そんな……お頭」
 集会所が静まった瞬間、中から数人の影が飛び出したのを見てデバファーは叫ぶ。
 ここは俺に任せて、先に行けと言っているのだ。
「お頭……ご無事で!!」
「応」

 十数人の下っ端たちが奥へ向かうのを尻目に、デバファーは拳を構えた。
「『ディフェンドオーダー』、『シャドウステップ』、『マッスルパワー』」
 複数の身体能力強化の付与を行い、彼は僅か十一人の手下と共に武器庫の棚を倒して数秒後に飛び込んで来る敵目掛けて突進した。
「海賊の誇りを! 今こそ見せてやれぇぇぇえぇ!!」
 そう言ってフェイントかけて逃げようとしたデバファーを手下達は殴り倒す勢いで捕まえた。
「……えひひ、お取込み中でしたかね……?」
「うおおお!! おま、お前ら! 後ろ後ろ! イレギュラーズ来てるからお前ら!!」
「チクショウお頭ふざけんな! アンタ思いっきり俺ら囮にして逃げるつもりだっただろ!? こうなったら一蓮托生だー!!」
「ば、馬鹿野郎離せ!! 死ぬ死ぬ! やばいから、来てるから!」
 下っ端達を振り払い、一気に駆け込んで来たエマと接敵するデバファー。次の瞬間、デバファーの拳が空を切り裂いてエマを打とうとするが、それらは全て紙一重に躱されてしまう。
 エマの足捌きがデバファーを上回る。
 滑るような動きで翻弄し、横殴りの一撃を側転で回避した事で体勢を崩したデバファーに、エマの両足が下から顎を打ち上げる形でクリティカルヒットしたのだ。
「ぐぼ、ァあっ!? つ、つええ……! やっぱ無理! お前ら身代わり!」
「もう海賊やめてやっからなここから生きて帰れたら!!」
 喧々囂々。次々とイレギュラーズがやって来ているのが見えているのに、血を吐き捨てながら海賊はその場から逃げようとしない。
 駆け付けたスティアがその様子にドン引きする。
「喧嘩してる……」
「暑さでおかしくなったのかも」
「ひひっ、それはそうとさっき奥に下っ端の皆さんが逃げて行きましたね」
「首魁が居るようですね。私は周囲の雑魚を相手取り露払いを引き受けましょう」
 リリアーヌが飛び出す、彼女は周囲の下っ端を抑えるつもりらしい。
「有り難い……!」
 イアンもそれに続き、彼はその場の突破を目指そうとする。デバファーと数人の下っ端が迎え撃とうとする……が、彼等の頭上を槍を棒高跳びの要領で飛び越えたルーティエが薙ぎ払う事で火薬庫までの道が拓いた。
 僅かに滲んだ汗を払う彼女が先へ行け、というジェスチャーをした。
 スティア、サクラ、舞花が周りの敵と打ち合いながらも応じて、一気に武器庫を突破する。
 当然それを阻止しようとデバファーが動く。しかし、ルーティエの槍がそれを許さない。瞬時に石突で全身を打たれたかと思った時には、鞭の如く振られたエマの鋭い回し蹴りが側頭部を打ち据えた。
 更に隙を突いたのはアルテミアである。錐揉みして倒れようとした大男をレイピアで切り裂きながら立たせたのだ。
 そこへ、トドメが入った。
 エマの爪先が鳩尾を突き飛ばし、海賊団長デバファーは遂にその意識を手放したのだった。
 後は、残る団員のみ。

 下っ端達はまだ脱出できていなかった。
「なんであの団長はかっこつけてこんな物を脱出艇扱いにしちまうかな……」
 哀愁漂う下っ端海賊達のいる桟橋の先に停められていたのは、海賊船と、十台程の『水上バイク』と呼ばれる乗り物だった。
 速度も申し分ない筈の練達製。しかし最大の問題は彼等にはそれがどうやって操る物なのかさっぱりだという事だった。
 そんなわけで、一気に距離を詰めたスティア達を前にしても彼等は逃げ場も無く。そのままあっさりと倒され、洞窟の外へボコボコにされた上で流されて行った。
「……? これが脱出艇?」
「みたいだね。とりあえず戻ろうか、下っ端は多分全員だろうし」
「後は安全を確認した上で向こうの火薬庫に火をつけるか……」
 早速スティア達も引き返し始めると、イアンは雑嚢から取り出したロープを見た。
 長めの物を用意しようとしたが、それでも店売りの10mとは違い半分の物。果たしてこれでどの程度の時間が稼げるか。
(一先ず準備はしておくか)
 二階まである倉庫へ彼は向かい、油の入った小瓶とロープを手に中へ入って行った。

「よいしょ、っと。あー、重かった。あとは火薬庫爆破してアジトぶっ壊して終わり! 暑い帰る!」
 櫓のあった入口の傍にある小型船へルーティエはデバファーを投げ込み、結晶魔石の入ったコンテナと共に乗船すると甲板に座り込んだ。
 黒子達から「オツカレ!」の看板が出る。
「スティアさん達もそろそろ来ますかね。逃げられた様子もみたいですし?」
「そうね。静かだもの」
 と、その時集会所の方からスティア達が手を振って来ているのに気づく。
「私達はこっち乗り込んでますから! 火薬庫に火をつけて大丈夫ですよー!」
 エマが応じると、遠くで頷く様子が見える。
 黒子の一人が船を出す準備を始める。後は脱出するだけだった。

●黄昏に不吉の旗を燃やせ

 思ったより火が燃え移るのが速かった。とは、イアンとスティアの言。
 安全確保して遂に火薬庫から火薬やロープ、油で距離を伸ばしてはみたのだが……僅か十数秒無い内に大爆発が襲ったのである。
 追い詰められた三人。崩れ行く洞窟。燃えるアジト。
 最早ここまでか、と思った彼等に降りてきた天啓は燃える海賊船の旗だった。
 正確にはその下。水上バイクである。
「キーは刺さってる!」
「フルスロットルで飛ばせ!」
 何故か都合良く刺さっているカギ、そして初めてなのに上手い事乗りこなすサクラ達。
 崩れる洞窟の瓦礫を避けながら加速する彼女達は小型船の仲間と共に洞窟を駆け抜ける……!
 そして、彼等の視界を黄昏に染める外の世界が見えた時!

────────── チュドオォォォォォン!!!!

 吹っ飛ぶ島をバックに、イレギュラーズ達は見事脱出したのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 割と怪我をしましたがマッチョな黒子さんのおかげで事なきを得た様です。
 依頼主の町へ結晶魔石が届けられた事もあり、皆様には火消し組織の方々から感謝されている様です。
 今回の撮影された映像はどこかの貴族が映画として観たとか。

 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様、またのご参加をお待ちしております。

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