PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪夢との邂逅

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●赤い錠剤
「お願い、助けて! ここから出してよ!!」
 納屋の木製のロッカーの中に少女を閉じ込めた男は、むせび泣く少女を無視して、周囲に人気のない納屋から立ち去った。
 男はどこか異様な雰囲気でぶつぶつと独り言をつぶやき、家の中を落ち着きなく歩き回っていた。
 不意に戸棚の中からビンを取り出し、男はその中身を確かめる。中には数粒の赤い錠剤が入っていて、残りわずかになった錠剤は、ビンを傾けた男の手の中でカラカラと音を立てた。
「もうすぐ……もうすぐ、薬が手に入る」
 赤い錠剤に対する異様な執着を感じさせる男は、戸棚の中にそっとビンを戻した。

「アドラステイアと天義の中間に位置する村で、妙なウワサを聞いたんだ――」
 アドラステイアに関する調査を続けていた『探偵』サントノーレ・パンデピス(p3n000100)は、イレギュラーズにある情報をもたらした。
 ――ラッテルという男が、納屋に子どもを監禁しているというウワサだ。子どもは一晩の内にどこかへいなくなり、気がつくとまた別のみすぼらしい子どもを連れてくる。
 ――ラッテルが連れてくる子どもというのは、アドラステイアからの脱走者では?
 村の場所的に考えられないことではないと、サントノーレはその村の調査を開始した。アドラステイアに関する情報が流れてきていないかなど、サントノーレは村民やラッテルから直接聞き出そうとした。
「ラッテルという男にも接触してみたが……あいつは、明らかに怪しいな――」
 さりげなくアドラステイアのことを話題にしたサントノーレに対し、ラッテルは明らかに動揺を示したという。それに加えて、ラッテルは薬物中毒者を思わせるような不審な態度を見せていた。
「ラッテルは、脱走者をアドラステイア側の人間に引き渡している懸念がある……俺の勘が正しければ、間違いないはずだ」

●ラッテルの納屋
 イレギュラーズは、サントノーレからラッテルの納屋の調査を依頼された。
 人目をしのぶように夜闇に乗じ、ラッテルは離れた場所にある住居から納屋へと向かった。イレギュラーズはそのラッテルの様子を捉え、注意深く動きを窺った。
 ラッテルは施錠されていた納屋から1人の少女を連れ出した。10代半ばほどに見える少女は、両手を後ろ手に拘束された状態で、納屋の裏へと引きずられていく。
 イレギュラーズも身を潜めながら、死角になっている納屋の向こうへと移動した。
「いや……やめて!! お願い、殺さないで!!!!」
 距離を縮めた瞬間、少女の鋭い悲鳴が響く。
「ファザー・ルヴィエ、脱走者を捕まえました」
 ラッテルが『ファザー』と呼んだ目の前の男は、牧師によく似た格好をしていた。どこか不気味な笑顔を見せるその男、ルヴィエのそばには別の子どももいた。特に目立つのは、主に上半身を覆うプレートアーマーを身に着け、騎士のような武装をした少年。その体格からして、少女と変わらない年齢に見える。
 少女はその場から逃げ出そうと、必死にラッテルの手を振りほどいたが、恐怖に支配された少女の足取りは重かった。無謀にも騎士風の少年の横を通り抜けようとした少女は、容赦なく腹部を蹴り上げられる。
 少女が嘔吐するほど蹴りつけた少年のことを、ルヴィエは『エジル』と呼び、同じように少女に暴行しようとする他の少年らを制止した。
「彼女は連れて帰りなさい。それで、ラッテルさん――」
 ルヴィエがラッテルに向き直った瞬間、ラッテルはルヴィエに縋りついて懇願した。
「薬おをおおおおおtje"あぁはやぐううう*dt,あゔああぁああ」
 ヨダレを垂らし、両目は血走り、異常としか言えないラッテルの様子にルヴィエは顔をしかめる。やがて、ラッテルは何かに悶え苦しむように地面をのた打ち回る。
「ふむ、そろそろ時間だったか――」
 ルヴィエはその様子を見ても、落ち着いた口調でつぶやいた。
 イレギュラーズはその瞬間を見届けることとなる――。
 ラッテルの皮膚の色はたちまち蒼白へと変わり、内側から何かがうごめくように全身が膨張し、すべての細胞が引き伸ばされ、変形していく。
 混濁する意識の中、少女はラッテルの苦痛に満ちた絶叫、変身によってどこまでも折れ曲がる歪な音を聞いた。やがて音は止み、大きな白い十字架に見える影が何を意味するのかを理解すると、少女は悪夢から目をそらすことだけを考えた――。
 歪に生え揃った複数の腕や足、3つの頭を無理矢理に変形させた――浮遊する巨大な白い十字架は、聖獣と化したラッテルだった。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●独立都市アドラステイアとは
https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●成功条件
 アドラステイアから脱走した少女の保護、並びに暴走する聖獣(元ラッテル)の討伐。

●戦闘場所について
 大体20時頃、村の外れにある納屋の裏。
 納屋の裏には、逃げ込めそうな鬱蒼とした林が広がっている。林を抜けた方角にアドラステイアがあり、その反対の方角には家屋が集中している。

●敵について
 ファザー・ルヴィエ、聖銃士エジル、洗脳兵4人、(聖獣化したラッテルを含めた)聖獣5体。
●ラッテルについて
 イコルの常用によって聖獣化したラッテル(全長3メートルほど)は、ルヴィエが引きつれている聖獣に比べて過剰に暴走している。放置しておけば、家屋が集中している場所に向かう恐れがある。
 血のように赤い光線(神超貫【ブレイク】)を放ち、耳をつんざくような怪音波(神中域【ブレイク】【呪縛】)を響かせることで攻撃を行う。
●ルヴィエについて
 ルヴィエはエジルとは別の方角へ撤退しようとし、洗脳兵の少年4人を従えている。
 ルヴィエは洗脳兵4人を捨て駒として利用するつもりで、『全力移動』や『全力防御』の行動に傾く。
 共通の攻撃手段は『物近単』。また、毒性のある煙幕(物近扇【停滞】)を利用することで、相手の動きを鈍らせようとする。
 ルヴィエを失った場合、洗脳兵の統率は容易く崩れるだろう。
●エジルについて
 聖銃士のエジルは気絶している少女を抱え、4体の聖獣を引き連れ、アドラステイアへの撤退を図ろうとする。
 4体の聖獣は、首なしの天使像の姿をしている。首の断面から流れる血を硬化させ、自在に飛翔する血の刃(神遠扇)で対象を攻撃する。また、断面から膨れ上がる肉腫を破裂させることで、周囲に毒霧(神近範【識別】【疫病】【毒】【痺れ】)を充満させる。
 エジルは魔力が込められたブーメラン型のナイフ(物特レ【万能】)を駆使して戦う。放たれるナイフは自在に飛翔し、エジルが視界に捉えた相手に向かっていく。副行動は常に移動を行う。だが、少女を抱えているのでマイナス補正あり。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。

  • 悪夢との邂逅完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
すずな(p3p005307)
信ず刄
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

リプレイ

 ――そんな、目の前で、人が……聖獣に……。
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は、異常な変化を遂げたラッテルの姿を目の当たりにし、強いショックを覚えた。
「イコル欲しさにファザーと取引するなんて」
 『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)のその一言を皮切りに、イレギュラーズは一斉にファザー・ルヴィエやエジルたちの前に姿を現す。リュコスも我に返り、共にフルヴィエたちと対峙する。
 イレギュラーズが姿を見せた瞬間に、ルヴィエたちはわずかに後ずさる。
「そんなところで盗み見ていたのか……やれやれ、悪い子たちだ」
 ルヴィエの口調は穏やかなものに聞こえたが、イレギュラーズへの敵意が見え隠れする。
 ルヴィエは手にしていたステッキで、そばにあった木の幹をこつこつと打ち鳴らす。それはエジルら、子どもたちに指示を出すための合図だったようで、エジルたち5人は即座に行動を開始する。
 流れるような動きで少女を抱きかかえたエジルは、ルヴィエや子どもたちとは別の方角へ駆け出した。二手に別れたアドラステイアの一味は、鬱蒼とした林の向こうに姿をくらまそうとする。
 イレギュラーズはまず少女の保護を優先し、エジルを追うために戦力を分散させた。
 唯一その場に残された聖獣――ラッテルに対処するため、『辻斬り』すずな(p3p005307)は青白く輝く刀身を抜き放つ。
 ――……イコルと言う薬は、これ程まで人を堕落させるのですか。挙句、人でなくなってしまうなど……あまりにも救い道がない。
 ファザーに手を貸し、薬に依存して堕落したラッテルの惨状を目にしたすずなは、そう強く感じた。
 怪物と化した哀れなラッテルを葬る覚悟を決め、刃を掲げたすずなは言い放つ。
「此処で散って頂きます――ラッテル!」
 ――申し訳ないですが、貴方に向ける慈悲はありません。

 アドラステイアから脱走してきた少女の保護を成し遂げると共に、すずな、『求道の復讐者』國定 天川(p3p010201)、『闇に融ける』チェレンチィ(p3p008318)の3人は、ラッテルが周辺の村に被害を及ぼさないよう対処する。
 イレギュラーズは2チームに分かれて行動し、他の5人はエジルの跡を追った。
 林の中を駆け抜ける間にも、ぼんやりと浮かぶ白い影が木々の間から垣間見えるのがわかった。
 エジルやイレギュラーズの動きを察知したように、4体の聖獣がエジルの下に集まりつつあった。
 追走してきた『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は、聖獣4体がエジルを守るように立ち塞がるのを認め、臨戦態勢に入る。
「こいよ、ガキ共。ベテランのガキが、遊んでやるぜ」
 聖獣の姿を見たサンディは、子どもたちがラッテルのようにイコルを常用した成れの果てではないかと推測していた。その背景がどうであれ、サンディは自身がやることをただ成し遂げるため、聖獣たちの前に姿をさらす。
 サンディが聖獣たちを引きつける間にも、タイムはエジルを止めようと一気に駆け抜ける。
「聖獣たちは頼みます!」
 タイムの声に応えるように、『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は攻撃を開始した。
 音もなく揺らめく魔力の糸を展開し、帳は石こう像のような聖獣の翼を絡め取る。
「はい、それ以上はダメだよ、君たちはボクらの担当だ」
 そう言った帳の糸は、聖獣の動きを制限し、絡ませた糸を自在に引き絞ることでその体にヒビを刻んでいく。
 聖獣らが攻撃にさらされる中、『群鱗』只野・黒子※はエジルの進路に回り込み、対象を確保することに専念する。
 リュコスはエジルの不意を突くために、夜闇に乗じて気配を悟られないように行動する。リュコスは鋭敏な嗅覚と聴覚を働かせ、深い闇の中でもエジルの位置を正確に把握することができた。
 黒子に回り込まれたエジルが背後を振り返ると、そこにはすでにタイムの姿があった。
「初めまして聖銃士様。そっちの子に用事があるの」
 声をかけるタイムはエジルをけん制しようと、黒子と連携しながらじりじりと距離を詰めていく。
 断面から血を流す首なしの天使像という恐ろしい見た目をした聖獣は、帳が操る糸の拘束から逃れようと必死に身を捩る。その内の1体――聖獣Aは、片翼がボロボロの状態になりながらも拘束を解いて飛翔した。すると同時に、首筋から聖獣の体を滴る血のしずくが、不自然に宙へと舞い上がる。
 赤い玉のようにこぼれたしずくは、無数の鋭利な刃へと変形、硬化し、サンディや帳に向けて放たれる。
 帳はあらゆる魔法を駆使することで応戦し、サンディも嵐を操る力で血の刃をはね退け、疾風を巻き起こすことで対抗する。
 ――見た目も「天使サマ」の残骸あるけど、これも元をただせば子ども達なんかね。
 サンディは、聖獣の姿を観察しながら心中でつぶやいた。
 サンディはかつて電子の仮想空間――R.O.Oの世界の住人として、別の人生を送るもう1人の自分自身を目にしていた。聖銃士となっていた自身の姿を振り返るサンディは、自分が目の前の聖獣のようになっていたかもしれない運命について、わずかな間考えを巡らせる。
 ――今の俺は、多分、人語じゃなくても分かる。ここでは天義に行かなかった俺の、せめてもの手向けだ。
 サンディは音もなく浮遊する聖獣に向けて、一言言った。
「言い残したことがあれば言っていけ」

「……先手はお任せを! 必ずや機会を作り出してみせます故!」
 すずなは天川らにそう告げた直後、ラッテルへと攻めかかる。
 疾風のような勢いで踏み込んだすずなは、その切っ先で捉えたラッテルの体に切創を刻んだ。その勢いを止めず、すずなはラッテルの真横をすり抜けるようにして、後方へ滑り込んだ。
 斬りつけられたラッテルは、弾かれたようにすずなに向き直り、赤い輝きを十字型に歪められた体の中心に集束させていく。
 ラッテルは瞬時に光線を放とうとする動きを見せたが、天川はその攻撃を止めるようにラッテルへと斬りかかった。
 二刀の小太刀を構える天川は、神速の動きから放つ斬撃によってラッテルを翻弄し、怯ませる。
 浮遊するラッテルは、赤い光線を放ちながら2人から距離を取る。
 チェレンチィは、連続で放たれる光線にも臆することなく突き進み、助走をつけた動きから並外れた加速を見せる。音速と化した勢いのままに突撃したチェレンチィによって、ラッテルは納屋の壁に叩きつけられるほどの衝撃を受けた。
 人のものとは思えない恐ろしいうめき声を発しながら、ラッテルは赤い光線を放射し続ける。
 ラッテルは3人の攻撃にさらされながらも屈する様子を見せず、攻撃を受けてなお再起する動きは目を見張るものがあった。
 夜闇を切り裂く光線が放たれる度に、異常な増殖を遂げた複数の手足や頭が絡み合い、十字架状に捻り上げられた蒼白の体――歪な聖獣と化したラッテルの姿が不気味に照らされた。
 すずなは隙を生むことなく刃を構え、積極的に攻めかかる。
 果敢にラッテルへ接近したすずなは、刹那の間に無数の斬撃を放つ奥義を披露する。すずなの刀さばきに一瞬見入った天川は、すずなの手腕を讃えた。
「はっ! やるじゃねぇか! すずなの嬢ちゃん! 頼りにしてるぜ」
 ラッテルから視線をそらさないようにしつつも、すずなは天川の声に応えた。
「私も頼りにしていますよ、天川さん――信用はしていますが、もたついてると先に獲っちゃいますからね」
 すずなの挑戦的な一言に対し、天川は苦笑を浮かべつつ言った。
「おいおい! 信用してくれるのはいいが、あんまり俺みてぇなおっさんを無茶させるんじゃねぇぞ?」
 無数の切創を負ったラッテルの動きはどこか鈍り、手足は痙攣(けいれん)するようにうごめいている。傷口からは血ではなく、光線と同じような赤い輝きが漏れ始めていた――。

 聖獣は無数の血の刃を連続で放つことで、サンディや帳を相手に徹底的に攻撃を仕掛ける。
 帳はあらゆる魔法を駆使して聖獣を迎え撃つ。紫の毒霧を発生させることで、聖獣の周囲を紫に染め上げる帳はつぶやいた。
「――注意を逸らしたら、溶け落ちるよ」
 強烈な毒によって侵食される聖獣Aは弱体化を示し、幾重にも刻まれた深いヒビが目立ち初めていた。
 一方で、エジルに追いついた黒子は、狙撃銃による攻撃でエジルの注意を引きつける。
 エジルは木々の間に隠れて銃撃をかわしながら、戦線を展開するイレギュラーズからどうにか逃れようとしていた。
 黒子と共にエジルを挟撃する形で、タイムはエジルの逃亡を阻止することに傾注する。
「その子を連れ帰ってどうするの?」
 そう尋ねるタイムの言葉に、エジルは耳を傾ける素振りを見せた。
「――裁判にかけて、疑雲の渓に突き落とす?」
 エジルは答える代わりに、手にしていたブーメラン型の武器をタイムに向けて投げ飛ばす。しかし、タイムはエジルの動きに機敏に反応し、鋭く放たれた刃をかわしてみせた。
「その行いは自分に返ってくる。今ここであなたが死ぬかもしれないのよ」
 エジルの逃走を阻むのと同時に、タイムは説得を続けるが、エジルは険しい表情で言い放つ。
「うるさい! お前らの言うことなど信じない」
 黒子は冷静にエジルの視線の動きを見極め、背後から迫ったブーメランの刃から身をそらした。回転しながら宙を飛んだ刃は、再びエジルの手に収まる。目の前の黒子やタイムを追尾するエジルのブーメランは、予測し難い動きで宙を飛んでいく。
 エジルが立ち塞がる黒子やタイムに傾注している隙を狙おうと、リュコスは茂みの影などに身を潜めながらエジルとの距離を縮めていく。
 ぐったりとした状態の少女を脇に抱えながら、エジルはイレギュラーズを振り切ろうと抵抗を続ける。その間にも、聖獣らを相手取るサンディや帳は聖獣Aの体を打ち砕く。
 戦況を推し量ることのできない聖獣に痺れを切らしたのか、エジルは指笛を吹くことで聖獣の注意を自身に向けた。
 聖獣Bは指笛の指示に従うようにエジルの方へ浮遊し、即座に攻撃に移る。
 接近する聖獣を警戒するタイムを前にして、聖獣Bはその首の断面から、異様な速さで膨れ上がるグロテスクな膿腫を発現させる。膨張し切った膿腫は一瞬の内に破裂し、周囲に膿を撒き散らすと共に毒霧を発生させた。タイムは反射的に口元を覆い、聖獣のそばから速やかに飛び退いた。
 エジルは聖獣Bと共にタイムらを一掃しようと、攻勢を強めていく。一方で、魔力の糸を自在に張り巡らせる帳は、聖獣の動きをまとめて封じようと立ち回り、より強力に拘束しようとする。
 聖獣Cは力任せに拘束を振りほどくことで、砕けた石こうのような腕を地面に落としながらも、サンディに向かっていく。
 膨張した直後に強烈な勢いで破裂する膿腫を防ごうと、サンディは強風を巻き起こすことで至近距離に迫った聖獣Cを押し返す。
 立ち込める毒霧と共にむせ返るほどの悪臭が充満し、聖獣らはイレギュラーズの心身を毒によって蝕むことを図り、膿腫を繰り返し破裂させる。エジルもその衝撃に注意を奪われ、接近するリュコスに対する反応が遅れた。
 影のようにエジルの体に伸びたそれは、プレートを貫く勢いで狼の牙を突き立てた。前触れもなく現れた現象にエジルの理解は追いつかず、リュコスはわずかな間に少女からエジルを引き剥がす。
 リュコスに突き飛ばされる形で態勢を崩したエジルだったが、少女を支えるリュコスの姿を認めた途端に顔色を変える。
 エジルは怒りを露わにした表情でリュコスへ向かっていこうとするが、黒子の銃撃がエジルを襲う。黒子はエジル戦意をくじこうと足元を狙ったが、同時にエジルの怒りを煽る結果となった。
「邪魔するな!!!!」
 冷静さを失ったエジルは黒子に対し、怒りに任せて刃を向けた。

 無数の切創を負うと共に、ラッテルの全身は傷口から漏れ出る輝きによって赤々と発光を始める。
 ラッテルの始末を請け負う3人は、より激しい攻撃にさらされる。切創の数に比例して幾重にも放たれる光線は、3人をまとめて貫こうと襲い来る。
 ラッテルの攻撃に対して、すずな、天川、チェレンチィの3人は、怯むことなく反撃を仕掛けていく。徐々に追い込まれるラッテルだったが、機敏な動きが目立つようになる。
 宙を滑るラッテルの体は必死に3人の攻撃をかわしていく。しかし、すずなと天川に攻撃をつなげようとするチェレンチィは、鋭く振り抜いたナイフから自在に雷撃を飛ばす。
 チェレンチィの雷撃がラッテルを捉えた瞬間、すずなと天川も果敢にラッテルの間合へと踏み込んだ。
正面からラッテルを引きつけた天川に対し、すずなは即座に回り込むことで、ラッテルに攻撃を防ぐ機会を与えないようその刃を向けた。
 ラッテルはわずかな差ですずなの動きにも反応したが、すずなの切っ先は蒼白の表面をなぞった。すずなの刃が達した瞬間、ラッテルの体にある3つの口腔の器官は、絶望に満ちた絶叫を響き渡らせる。不快な叫声は、やがて激しい耳鳴りに変わって聴覚を苛む。
 目の前が眩むほどの強烈な刺激にも耐え、天川は小太刀の柄をきつく握り締めながら自身を奮い立たせる。同様に、すずなもぐらつく体を支えて踏み止まる。
 光線を放つ兆しを見せるラッテルに対し、すずなは瞬時に攻撃に移る。鋭く切り込んだすずなは、ラッテルに一層の痛手を負わせようとこん身の一太刀を放った。
 ラッテルを深々と斬りつけたすずなに続き、天川は一瞬の内にラッテルを十字に斬りつける。
 すずなと天川の太刀筋によって、ラッテルの体が切り崩されるのを見届けたチェレンチィは、恐ろしくも美しいその剣技に感嘆するばかりだった。
 ミイラのように退化し、ボロボロの状態になって沈黙する聖獣の死骸を残し、息を整えつつあるすずなは少女の保護にも意欲を示した。
「私たちも追いましょう。タイムさんも居ますし、大丈夫とは思いますが……」
 ラッテルとの戦闘で少なからず消耗しているものの、3人は余裕を感じさせる動きで各々行動を開始した。
 すずなと天川がエジルたちが逃げた方角に向かう一方で、チェレンチィはファザー・ルヴィエの動向をつかもうと動き出す。
 ――やはりイコル……薬って怖いですねぇ。あんな風になってしまうとは。
 チェレンチィはひとり林の中を駆け抜けながら、変貌したラッテルの姿を思い返していた。
 同じ悲劇を繰り返さないためにも、チェレンチィはルヴィエの容姿、特徴だけでも確かめておこうと追跡を続けた。

「返せ!!!!」
 少女を確保したリュコスに対し、エジルはなりふり構わず奪い返そうと躍起になる。タイムと黒子は詰め寄られそうになるリュコスを援護し、エジルを引き離すことに尽力した。
 エジルがリュコスらとの攻防に気を取られている間にも、サンディや帳は残る2体の聖獣を追い詰めていく。
 天川とすずなは、その現場に颯爽と駆けつけた。青白い刀身が夜闇に閃いたかと思えば、刃を構えたすずなは一気に聖獣Cへと飛びかかった。すずなの攻撃を受け止めた聖獣Cの体はたちまちひび割れ、上半身がもげる形で地上へと落下した。
 残る聖獣はすずなたちに任せ、天川は少女を確保している状態のリュコスらに加勢する。
天川と合流したタイムは、殺さずに済むのならそれがいいと、エジルを生け捕りにする意思を示した。その意思に応じ、天川もエジルの戦意を削ごうと立ち回る。
 天川も加わり、いよいよ追い詰められたエジルは、イレギュラーズの攻撃に対処し切れずに地面へと突っ伏した。なおも起き上がろうとするエジルに向けて、子守唄を歌うタイムは慈悲の力を発揮する。
 慈愛に満ちたタイムの歌声が響くと共に、エジルの全身は淡い光に包まれる。抗い難い光の温もりによって、エジルのまぶたは重くなる。そして、エジルは完全に意識を手放した。
「すずなさん、みんな、無事!?」
 タイムは息をつく間もなく、聖獣の始末に尽力するすずなたちに注意を向けた。
「――さあ、決着をつけましょう」
 福音となるタイムの言葉は、癒しの力となってすずなに注がれる。傷を癒す糧を得たことで、タイムに後押しされたすずなは一挙に攻勢を強めた。
 サンディが巻き起こした旋風によって、聖獣Dの体が大きく傾いた瞬間、すずなの一太刀によって聖獣Dの体は寸断された。
 辺りが静寂を取り戻す中、黒子はすでに気を失っているエジルの拘束を完了させていた。少女と同様に、騎士団に保護を求めるための処置である。
 ――……報告書は読んで理解はしてたけど、じかで見るとイコルって本当にエグいお薬だね。
 帳はそう思いながら聖獣の残骸を眺めていたが、「もう大丈夫よ」と優しい眼差しで少女の頭をなでるタイムの一言を聞いて、少女の顔を覗き込む女性陣に視線を移した。
「しかし、ここはおっかねぇ世界だな――」
 天川は女性陣の輪にいるすずなを見つめながら、1人つぶやく。
「俺の半分も生きてねぇ嬢ちゃんがあれほどの技量。嫌になるな!」
 そのどこか楽しげな様子に気づいたすずなは、天川のことを見つめ返す。不思議そうにしているすずなに対し、天川は言葉を返す。
「なぁ、すずな嬢。今度なんか技でも見せてくれよ――」

 ルヴィエの追跡を試みたチェレンチィは、鬱蒼とした林を抜けて荒野に出た。そこにはすでにルヴィエらの姿はなかった。
 ルヴィエもまた、岩場の影からチェレンチィの姿を窺っていた。
「とんだ邪魔が入りましたね……まったく、今後はやりにくくなりそうですねぇ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。

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