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シナリオ詳細

<Sprechchor al fine>絶望の再来

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 空駆ける黒き馬。
 その馬自体も黒褐色の肌をしていたが、さらに全身から黒い瘴気の様なものを放っていた。
 かの馬はディジィズと呼ばれる。
 瘴気に見えるのは病原菌の集まりであり、それに触れれば並みの生物では瞬く間に体が菌に侵されて死に至るという。
 そんなディジィズだが、先日、海洋、静寂の青への出現が確認され、ローレットイレギュラーズによって討伐された……はずだった。
 だが、幻想のノウェル領にそれがいたのだ。
 ヒヒイイイイイイィィィン!!
 混乱の続くこの領地には、様々な脅威がひしめいているが、ディジィズもそのうちの1体と思われる。
 撒き散らされる病原菌は、領地民の体を侵し、見る見るうちに体力を奪う。
「うううぅ」
「く、くるしい……」
 もがき苦しみながら倒れる人々。
 それらを一切顧みることなく、黒馬は空を駆ける。空を飛んでいた為、直接病原菌に触れることがなかったことで、人々も命を落とさずには済んだようだ。
 だが、ディジィズと思われる馬はこの地にある領主の館付近へと降り立っていく。
 ヒヒイイイイイイィィン!!
 再び嘶く黒馬から、夥しい量の黒い瘴気が放たれる。
 ブオオオオオオオオオオオオ!!
 それに率いられ、牛と馬という2つの頭、4本の腕を持つ人型の魔物が鼻息荒く身を蝕む病原菌に苦しんでいる。今にも手にする凶器を振り回して暴れそうだ。
 災いはまだ続く。人々に絶望を振りまいて。


 幻想ローレット。
 現在、幻想のとある領地で起こっている問題に、イレギュラーズ達は皆強い関心を抱く。
「シュプレヒコールという名前は、聞いたことのある方も多いと思います」
 今回の依頼を淡々と語り始めるアクアベル・カルローネ(p3n000045)。
 原罪のシュプレヒコールは旅人であるが、彼の活動の成果として、あちらこちらで魔種が散見されるようになったという報告がある。
 結果として滅びのアークを激増させるシュプレヒコールの活動をローレットは看過することはできず、少数のメンバーが対策に乗り出していた。
「これまでの事件によって、シュプレヒコールの本拠地と思われる場所が突き止められています」
 ラサ国境北部にある幻想貴族『アルフラド・ノウェル』領地。
 ここは驚くことに、魔種や怪王種、複製肉腫の量産に手を貸していたという。
 閉ざされたこの地の領内は多数の怪王種、一般人が複製肉腫と化した者達、純正肉腫、それらに襲われる人々で地獄絵図と化しているという……。
「そこにきて、討伐したはずの魔種ディジィズがノウェル領で確認されています」
「まさか、倒したはずの魔種が現れるなんてね……」
 レイリー=シュタイン(p3p007270)もこの事態に些か戸惑っていた様子。
 まさに動く災厄と言わばんばかりの魔種ディジィズの姿が今回の一件に関わっているらしい。
「いえ、先日、皆さんが倒した魔種とは別個体だと思われます」
 アクアベルが予知で視たのは、絶望の青に出現した個体の討伐直後。幻想に滞在していた今回の個体は新たな手下を率いており、同じだと仮定すればつじつまが合わなくなるのだ。
 これもシュプレヒコールの働きかけによるものなのか、それとも……。
「ともあれ、出現した新たなディジィズを討伐せねばなりません」
 ただでさえ、混乱続くノウェル領だ。脅威となる存在は一つずつ排除せねばならない。
 新手となる魔種ディジィズが滞在しているのは、ノウェル領主館周辺。馬小屋に陣取る敵は怪王種となった生物を従えている。
 それらは馬と牛の頭に4つの腕を持つ巨躯の人型をしている。
「馬小屋内で戦うのは手狭すぎるでしょう。おそらく、戦闘によって破壊されてしまうものと思われます」
 元々、馬や牛がいたと思われるが、怪王種となれなかった家畜はすでに息絶えてしまっているようだ。
 幸い、それらの死骸は馬小屋内にある。その為、傍に併設されている放牧用の広場へと敵を誘導し、交戦するといいだろう。

 討伐に関しての情報を渡しつつ、アクアベルが気に掛けるのは、魔種ディジィズがさらに増える可能性だ。
 シュプレヒコールが活動を続ければ、大いにありうるかもしれない所が恐ろしい。
「新たなディジィズの討伐はもちろんですが、これ以上、脅威となる存在を生み出させるわけにはいきません」
 自身の出している依頼に加え、元凶となる存在の討伐も合わせ、アクアベルはイレギュラーズへと切に願うのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <Sprechchor al fine>のシナリオをお届けします。
 先日、海洋の絶望の青で討伐したはずの魔種ディジィズ。どうやら同様の個体が存在していたようです……。
 皆様の手で討伐を願います。

●目的
 魔種ディジィズの討伐

●状況
 魔種ディジィズは牛や馬をベースとした狂王種を引き連れて棲家としております。時折、外に出て病原菌を撒き散らすこともあったようですが、領地外に出ることはなかったようです。

 戦場となるのは、幻想ノウェル領領主館傍の馬小屋。馬小屋自体はさほど大きくありませんが、放牧用の広場があります。
 残念ながら、狂王種とならなかった牛や馬は全て馬小屋内で息絶えてしまったようです。
 
●敵×5体
 魔種は2~3mほど。他4体は全長3~4mほど。
 病原菌によって、魔種は高確率で。他2体は低~中程度の確率で反、棘といったダメージを負う為、対策が必要です。

○魔種ディジィズ
 黒い瘴気の様なものを纏う暗紫色の馬の姿をした傲慢の魔種。
 レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)さんの関係者でもあります。
 空を駆けて接近してくるこの馬はあらゆる者に致死性の病原菌を振りまき、迂闊に触れるだけでも手痛いダメージを負ってしまう恐ろしい相手です。
 
○怪王種:牛頭馬頭×4体
 牛と馬、2つの頭を持つ人型をした魔物達です。
 4本の腕を持ち、斧や金棒、釵(さい)、矛を手にして襲い掛かってきます。

●魔種
 純種が反転、変化した存在です。
 終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
 大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
 通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
 またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <Sprechchor al fine>絶望の再来完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年03月13日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

リプレイ


 幻想、ノウェル領。
 この地の燦々たる状況を目にしながらも、メンバー達は優先して対処すべき存在の元へと向かう。
「やれやれ、今回は屠畜業かい? 馬が相手では罵り合いも楽しめないじゃないか!」
 表面上の事情だけ最初に聞いた『魔刻福音』ヨハン=レーム(p3p001117)は相手が馬と知り、呆れつつ本音をぶちまける。
 ただ、メンバーは今回の事態に険しい顔をしていて。
「絶望の青……自分は詳しく知らないのでありますが、その時に出てきた個体が再び出てきたとは……」
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)も、報告書などに目を通し、その顛末については知っていた。
「あのとき確かに魔種ディジィズを倒したはずっす……」
 先日、その一連の依頼に立ち会っていた『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は確かに静寂の青で魔種ディジィズを仲間と共に討伐した……はずだった。
 だが、それとは明らかに別の魔種ディジィズが存在していたことが予想外だったとレッドは驚きを隠せずにいた。
 これに対し、メンバーからも様々な反応が。
「倒されたと報告を受けていたのに」
「はて、あの馬は確か以前戦った……前に討伐されたと聞きましたが、2体目とは摩訶不思議」
 『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)の言葉を受け、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が首を傾げる。
 魔種は生前の影響を受けるとばかり、利香は考えていた。
 自己増殖性があるのか、あるいは魂が近い双子の様な存在か、はたまた別の何かなのか。
「ディジィズって種族なのか。それとも誰かが産み出されたものなのか」
 レイリーの考察に、『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)の表情がこわばる。
「……病原菌が本体で魔種が増える。今回の事件のように同じ場所で魔種となった馬がディジィズ、なんてね」
「同じ魔種が作為的に増やされる可能性があるだなんて……」
「病原菌を撒き散らし自分の仲間を増やそうとしながら移動する魔種……」
 続くレイリーの考察。今度はムサシが反応する。
「予想はしてたっすけど、コレもシュプレヒコールによる仕業っすか」
「……此方が後手に回っているから、つくづく厄介なことになってるね」
 レッド、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は、この事態にも様々な事件を起こすシュプレヒコールなる旅人の名を出し、彼の研究の危険性を指摘する。
「あと、貴族が関わってってことだよな?」
 『隻腕の射手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は、こののウェル領領主『アルフラド・ノウェル』が関わっているに違いないとして。
「義賊の名において領地の資産は全て没収、魔種複製肉腫怪王種と量産してた罪は重いぜ?」
 アルヴァが考えるように、この貴族はシュプレヒコールの行いを黙認していたのか、それとも……。
「想像すると恐ろしい限りですが、まずは今目の前の脅威を払うが急務ですね」
「早めに止めないとマズい……!」
 リディアもまたシュプレヒコールを止めるべきとはしながらも、まずは致死性の高い病原菌を撒き散らす魔種を討伐すべきと主張し、ムサシもそれに同意する。
「まあいいさ。言葉は通じなくとも存分に憎しみ合うとするか! ……それとも喋れるのかな?」
 ヨハンもそれだけの相手ならばと戦意をむき出しにする。なお、先日討伐した魔種は理性ある状態も確認されていたそうだ。
「……ま、ここで潰してしまえば後の憂いを考えるまでもないですよね」
「……何であれやる事は変わりない、倒しにいこうっす!」
 利香の呼びかけに頷き、レッドは仲間と共に現場へと急ぐ。

 現場となるのは、ノウェル領領主館傍にある馬小屋及び放牧広場。
「ふむ……海洋にも似たような個体がいたってことは此処が原産地? ってことになるのかな……」
 館の方を見回し、ラムダは異様な空気を感じ取る。おそらくは、一連の事件の元凶だろう。
 その空気とは別の威圧感が馬小屋内にはあった。
 ゆっくりとその内部へとメンバーが踏み込むと……、レッドは足元に転がる息絶えた家畜を目にして。
「可愛そうっす……」
 だが、残念だが、家畜を弔う暇すらもない。
 黒い体躯をした馬がイレギュラーズの接近を察してか、空中へと浮かび上がっていたからだ。
「私はヴァイスドラッヘ! 害を齎す汝を討たせてもらう!」
 討伐すべき敵を視認したレイリーは軍用馬ムーンリットナイトに跨って高らかに名乗りを上げると、黒馬は瞳を光らせてイレギュラーズを見下ろしてくる。
「おい馬公、流石にしつこいぞ! 別個体だか知らんが、根絶やしにされる覚悟出来てんだろうな?」
「元の存在が何であったであれ元には戻せない……故に哀れではあるけれどその命狩らせてもらうよ?」
 ブルルルル……!
 アルヴァ、ラムダが続けて呼びかけると、魔種ディジィズは唸り声を上げてこちらを威嚇してきた。
 すると、ディジィズの体を覆う黒い瘴気が敵を中心に広がって。
「ふうむ。病原菌、病原菌ねぇ」
 ヨハンはあの病原菌の集まりである瘴気を避けるのは難しく、何処にいても影響を受けそうだと直感で判断する。
 特に、直接殴り掛かるメンバーだと、直撃濃厚接触となってしまう。
 脅威となるのはそれだけではない。
 ブオオオオオオオオオ!!
 爛々と目を輝かせた牛と馬の頭を持つ4体の怪王種、牛頭馬頭が4本の腕に武器を手にし、後方から歩み寄ってくる。
 黒馬をレイリーが抑え始めているのを目にした利香はそちらを任せ、自身は怪王種の対応をと魔剣を抜く。
「見た目が華奢だからって舐めないでくださいね!」
「リディア・レオンハート、全身全霊で参ります!」
 名乗りを上げたリディアも仲間達に続き、魔種と怪王種の掃討を開始するのである。


 領主館傍にある馬小屋は貴族所有の家畜とあってそれなりに広いが、所詮馬小屋。お世辞にも戦闘を行うには向いていない。
 加えて、怪王種とならなかった家畜の死体があちらこちらに放置されたまま。状況を考えれば、併設されている放牧用の広場へと敵を誘導したいところだ。
「初めましてよね、ディジィズ。私は倒れないわよ、貴方の瘴気や攻撃なんて弱いから」
 早速、レイリーは黒馬に宣戦布告し、挑発しつつ注意を引きつけようとする。
「いい加減、その馬面も見飽きてんだよ!」
 ふわりとレイリーに向かって飛ぶ魔種へ、同じく浮遊するアルヴァも呼びかける。
 馬小屋の外に出たディジィズは高く飛翔する可能性があり、アルヴァはそれをブロックする役目を担う。
 ブルルルル……。
 ディジィズも煽られたと理解したらしく、2人を敵視して黒い瘴気を放って来る。
「聖なる守護よ、降り掛かる災厄から俺を守りやがれください」
 それを目にしながら、アルヴァは携帯品によって自らに聖なる守護を施すのである。

 他メンバー達はディジィズが配下とした怪王種の気を引く。
「牛頭馬頭も余所見しないで見る所はコッチっすよ!」
 ブオオオオオオオオオオオオ!!
 レッドも大声で牛頭馬頭に呼びかけてから放牧広場へと走る。
 4体の牛頭馬頭も病原菌に苦しみながらも、現状自分達を支配する魔種ディジィズに仇名す敵と判断し、レッドを追う。
 上手く誘い込んだことにほくそ笑むレッドの傍を、ラムダも並走する。
「魔種相手で長くはもたない。手早く片づけたいけれど……」
 ラムダはディジィズを引きつける2人の身を案ずるが、今は怪王種をディジィズから引き離して殲滅するのが先だ。
 リディアはレイリーやレッドら盾役が体勢を整えたところで、自らを中心とした連携をとって多くの仲間達の命中精度を高めるべく強化を施す。
「少しでも怪王類にダメージを与えて、速やかな撃破を狙えれば……!」
 ムサシが魔種を抑えるメンバーに一度視線を向けた後、牛頭馬頭へと一気呵成に攻撃へに出る。
 攻勢に出るムサシは何処からともなく砲弾を降り注がせ、敵陣へと叩きつけていく。
 ヒヒイイイイィィン!!
 そこで、吠えるディジィズが瘴気を撒き散らすと、牛頭馬頭の視線がそちらへと向きかけるが。
「おや、よそ見は禁止ですよ?」
 利香はそいつらへと近づき、負の夢魔術を行使して虚空より数え切れぬほどの影の槍を呼び寄せ、串刺しにしていく。
 ただ、牛頭馬頭どももまた、病原菌に侵された身。
 攻撃を仕掛ければ、その病原菌がこちらにも襲い掛かってきてしまう。
 だが、利香も桃色の煙を発することで対抗し、それらで牛頭馬頭らを包み込む。
「私の特製の瘴気の毒ガスを味あわせてやりましょう……ほら、効いてきたでしょう?」
 ブォ、オオオォォ……。
 元より粘り強い戦いを得意とする利香だ。彼女は病原菌に対抗しつつ、自らの瘴気でも敵を侵す。
 そんな利香の戦いを見ていたヨハン。
 幸い、利香を始め多少の戦いで倒れる仲間達ではないと判断し、ヨハンは癒しの円陣を描いて回復支援に当たる。
 改めて、前線。レッドは牛頭馬頭の4本の腕に握られた刃物で切りかかられ、溜まったものではないと感じて。
「安らかな安息に誘ってあげるっすよ……!」
 ラムダと示し合わせるかのように、レッドはラムダと共に舞踏を披露する。
 そのステップは死を想い、死を誘う。
 ブオオォォ、オオオォォォォ……!
 すぐに、異変が起こる牛頭馬頭達。2体が鼻息荒く仲間へと刃を振りかざし、血飛沫を飛ばす。
「よし、今なら……」
 ラムダは一旦足を止め、正気を保つ牛頭馬頭目掛けて肉薄し、魔導機刃による魔力斬撃をその体深くへと食い込ませていくのである。


馬と牛の叫びがこだまする放牧広場。
 前線では、レイリーがディジィズの発する身体の奥底まで蝕まんとする病原菌に耐える。
 合わせ、防御攻勢によって煩わしい状態異常を振り払い、レイリーはしっかりと反撃も叩き込む。
 できる限り敵の攻撃を受け流してダメージを軽減し、盾役の任を全うすべく立ち続けるレイリーだ。
「おいテメェ、安全圏に逃げようとするんじゃねぇ」
 ふわふわ浮かぶディジィズを空中殺法を使うアルヴァが真上から抑えつける。
「ここから先は通行止めだ馬公、絶対に逃がしたりしねぇからな」
 敵は瘴気を発することが主体。直接的な攻撃が控えめなのは、それだけ病原菌の力を信頼しているからだろう。
 事実、抑えつけるアルヴァも一喝して地上へと押し下げる際、瘴気を浴びていた。
 焦れば敵の思うつぼ。相手が病原菌に絶対の信頼を置いているからこそ、慌てて攻撃するのはNGだとヨハンも考える。
「病原菌なんてそう長く吸い込みたいものじゃないし、不本意だが……」
 じっくりと敵を始末していく正攻法こそが正しく正攻法とヨハンは断言する。
 魔種対応に本腰を入れる為、怪王種を手早く倒したいが、こちらも劣化版とはいえ病原菌を持つ。
 怪王種に手間取ってはそれまで。ヨハンは日和らず、仲間達の支援を徹底する。
 その甲斐もあって、怪王種も弱ってきていた。何せ、自身をも侵す強い菌。体へのダメージは相当なもののはずだ。
 加えて、レッド、ラムダの2人に惑わされ、牛頭馬頭は同士討ちすることも出始めていた。
 それらへとムサシは接近し、虚無から生み出した光纏う剣で敵陣を薙ぎ払う。
「出し惜しみなしで全開で行くであります!」
 さらに、ムサシは敵複数を薙ぎ払い、そのうちの1体を地へと伏してみせた。
「ふふ、逆にビョーキ野郎にしちゃうわよ」
 レッドが響かせる聖体頌歌を耳にする利香はチャームの魔力で、逆に敵を魅了する。
 同士討ちして固まる怪王種目掛け、利香は負の夢魔術で生み出した影の槍で貫き、こちらも1体を屠っていく。
 数が減れば、メンバーの攻撃対象も集中する。
 長引く戦いによる消耗も気にかけ、リディアは輝剣に蒼炎に似た闘気を宿し、牛頭馬頭を攻め立てる。
「とはいえ、本命が控えてます」
 効率的な立ち回りを意識するリディアは刹那殺人剣の極意をその身に秘め、黒い顎を発して牛頭馬頭の上半身を食らわせ、その活動を止めてしまう。
 残る1体はムサシがリボルバーによる援護射撃を繰り出し、ラムダも至近から斬撃を刻んで緋の花弁を散らす中、レッドが仕掛けた。
 敵の強力な斬撃や撒き散らされる病原菌もあって疲労していたレッドだが、相手の夢想を現実にまで侵食させる。
「ゆっくりおやすみをっす」
 強制的に身体を作り替えられ、病原菌に苦しむ牛頭馬頭へと、レッドが優しく告げると、そいつは糸が切れたように意識が途絶えて牧草の上へとつんのめったのだった。

(倒れないわよ!)
 一方で、レイリーは奥の手のアクアヴィタエを使い、倒れることを拒絶する。
 パンドラを使うとまではいかないが、今度追い込まれればそうなるのは間違いない。
 だが、ここまで耐え忍んだことで、仲間達も怪王種を全て撃破し、こちらへと駆けつけてくれる。
 まだ空中にいた敵へとムサシがリボルバーで弾丸を叩き込み、ラムダが敵を灰と化すべく眩い光を撃ち込む傍らで、リディアが叫ぶ。
「レイリーさん、大丈夫ですか!? お待たせしてごめんなさい!」
 仲間が来たならば、レイリーも回避主体から行動阻害へと立ち回りを変え、仲間の攻撃の隙を作る為、ディジィズの体へと白い槍や自身の体を絡める。
 ただ、レイリーもかなり疲弊している。利香はそれを察して。
「ふふ、そうはさせませんってば」
 魔種の相手をと相手を魅了する利香は、さらに雷を纏わせた魔剣を突き入れる。
「ダメですよ、ちゃぁんと全員満足させなくちゃ♪ ……じゃないと、『おにいちゃん』と一緒になっちゃいますよ?」
 彼女の言う『兄』とは、先日レッドらが静寂の青で倒した個体のこと。
 ヒヒイイイイイィィン!!
 それがわかっているのか、敵も苛立ちげに咆哮し、激しく暴れる。
 そこで、リディアも赫焉瞳を使って僅かだが病原菌の侵食を食い止めつつも、輝剣で切りかかる。
「今です! 皆さん、一息に決めてしまいましょう!」
 ヨハンが後方から仲間を支えるべく回復に当たる合間を縫い、火炎弾を撃ち込んで魔種の体を燃やす。
 落下してきたところで、モード・スレイプニルをアルヴァが発動させて。
「お仲間がいなくなって寂しいな。同じ場所に今すぐ送ってやるよ」
 アルヴァは敵へと密着し、激しい雷撃でディジィズの体を焼き焦がす。
「それにしても、領地から一向に出ないディジィズってもしかして……」
 レッドは邪推しすぎたと首を振り、仲間の癒しに注力する。
 ヒヒイイィィィン!!
 荒れ狂う魔種は一層濃い瘴気を発する。
 ムサシはそれを垣間見ながら、絶望の青……今は静寂の青と呼ばれる海での一戦についてのレポートを思い返す。
 その時のメンバーに比べれば、足手纏いかもしれない。それでも。
「……それでも! 自分に出来ることを全力で果たすであります!!」
 ムサシは最大火力をと、全力で光り輝く刃でディジィズの体を切り裂いて見せた。
 続けざまに、ラムダが連携をとり、相手の死角から魔力斬撃を見舞う。
 ムサシが自分も役立てたと笑うのに対し、ラムダはただの気まぐれだと手を振る。
 ヒヒイィィィン!!
 力こそ強力だが、力の行使の仕方を知らぬといった印象の魔種。だが、これが外へと飛び出せば、災厄となるのは確実。
「さぁ、ここで汝は滅びるの。覚悟しなさい」
 必死にしがみつき、レイリーは魔種が飛翔するのを防ぐ。
「毒や病気を扱う敵との戦いはこうやるのさ」
 そんな彼女に無理をさせまいと、ヨハンが陽光を降り注がせる。
 その間、ディジィズは頭上がダメなら直進をと駆け出そうとするが、前方へとすでにレッドが回り込んでいて。
「いくっすよ!」
 仲間達へと退避を促し、レッドは万物を砕く鉄の星をディジィズへと降り注がせていく。
 ブルルルルル……!!
 首を震わせ、それに耐えきる魔種。タフネスはこれ以上なく強化されており、ディジィズは強引にこの場から逃れようとする。
「皆さんが文字通り身体を張って、ここまで追い詰めたんです! 逃げる暇など与えるものか!!」
 中には、退避せず捕まったままの仲間がいる中、リディアは彼らの抑えつけるディジィズに黒い顎を食らいつかせる。
 貪り喰らわんと咀嚼する顎にも、ディジィズも激しく抵抗してリディア目掛けて食らいつく。
 一直線に向かってきた敵に対処できず、リディアはパンドラを砕いてしまうが、最後の悪あがきにすぎず。
 再度飛翔しようとした敵目掛け、魔導鋼翼と追装着型エンジンスラスターを使ったラムダが肉薄し、魔力斬撃によってその首を跳ね飛ばす。
「早々何度も使える技でもないので、ね」
 いくら魔種とはいえ、首を跳ねられて生きている者などそうそういない。ディジィズ別個体もまたイレギュラーズの手にかかって倒れ、纏っていた瘴気も霧散していったのだった。


 討伐を終え、イレギュラーズは一息ついたが、これで終わりではない。
 シュプレヒコールを討伐せねば、第三のディジィズが現れかねない。新たな惨劇を防ぐべく、メンバー達は次なる戦いの場へと向かっていくのである。

成否

成功

MVP

レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは魔種を抑え続けたあなたへ。
 今回はご参加、ありがとうございました。

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