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シナリオ詳細

<咎の鉄条>白き太陽の娘より罪をこめて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●白き太陽の娘より罪をこめて
 御天道・タント(p3p006204)へある日届いた手紙の内容を、きわめて完結に述べるならばこうだ。
 『妖精達が危ない。深緑へ至る道を探せ』

 かつて『妖精の通り道』と称された深緑にある秘密のルートは、国境線の南側に位置する魔法のゲートから入ることができた。
 といっても、今現在語られる妖精郷アルヴィオンへ至る道でも、転移門アーカンシェルでも、これはない。
 言ってみれば深緑に入ることのできない者が、可愛らしいいたずらで入りこむための隠し通路のようなものだ。
 そして隠し通路というわりに安全性は皆無であり、内部にはシャドウハウンドや人食い草など無数の魔物が出現する危険な道であった。
 通路は国境線のずっと外側から続き、深緑との行き来に全く苦労しないローレットにとっては遠回りに他ならないルートなのだが……今回は別だ。

「深緑が封鎖されたのは、知ってる?」
 ジェック・アーロン(p3p004755)の問いかけに、タントは深く頷いた。
 ラサから深緑へ向かう馬車。といっても、荷物を運ぶための小さな馬車であり、乗っているのもジェックとタントの二人だけだ。
 砂地の上をかたかたと走るそれの上で、二人は顔を見合わせる。
「概要は、それなりに……」
「アタシもそうだけど」
 ジェックは揺れを身体に感じながら、空に目をやり記憶をたぐる。
「深緑との国境線に不思議な茨が現れて、深緑への通行ができなくなった。
 空中庭園からのワープもできないし、『大樹の嘆き』の発生も確認されてるから、これは――」
「クローズドエメラルド事件ですわね」
 ROO内でおきたイベントであり、翡翠(この世界でいう深緑)の霊樹から抗体反応のような精霊が現れ無差別攻撃を行ったというものだ。
 その類似性だけで見るなら、昨今覇竜領域から出たという怪竜ジャバーウォックに反応してとみることもできたのだが……。
「『茨』は、ありませんでしたわ」
「そう。それに茨の外の住民たちも昏睡状態になったって話だから」
 再び、あのときと同じよううに深緑を調べる必要があるのだろう。
 そしてなぜ二人がこんなにも深緑の危機に対して関心を寄せたのかと言えば……理由は二つある。
 かつて妖精郷という場所で、里の存亡をかけて戦ったから。
 そしてその中で、アルベドという存在を『わがまま』で逃がしてしまったから。
 ――『けれど、わたくしは生きていたい。知識だけの海や、山や、人々をもっと見たい。わたくしという実感を、この世界で得ていたい。そんな欲望で、わたくしはこの『罪なき妖精様』を犠牲にし続けているのですわ』
 そんな言葉が、タントの記憶の中からまろび出る。
「もし、それが罪なら、わたくしも……」
 呟いたタントの手に、ジェックのものが重ねられる。向けられた瞳は、言葉なくして雄弁であった。
 そしてタントの手の下には、手紙が一通。
 先ほど話したような深緑の現状を記し、同じく連絡のとれなくなった妖精郷の様子を見てきて欲しいという旨の手紙だ。差出人不明ながら、最後に『白き太陽の娘より罪をこめて』と書かれていた。その意味するところを、タントはよく知っている。
「行こう」
 ジェックの短い言葉が、馬車の車輪の音に消えていく。

●妖精の通り道
 さて、このルートについて詳しく語るべきだろう。
 ここははるか昔に魔法使いが作ったとされるルートであり、今では一部の盗賊などが知るのみとされている。
 どれだけ高い能力があっても迷ってしまうという、特別な魔法がかけられた深い森であり、魔法のパン屑を辿ってしか抜けることができないという。
 勿論これが茨に対する突破口であるという確証はなく、まずはこのルート前半を攻略することであるやなしやを確かめるというのが実のところの目的なのだった。
 道中には森に潜み音もなく忍び寄るシャドウハウンドや、擬態して人を食う巨大な植物などが生息しており、非力なものが立ち入ればたちまち食われてしまうだろう。
 仮に戦う能力があったとしても、道中次々と襲いかかるこのモンスターを倒しながらスタミナ切れを起こさず突破することは難しい。
 歴戦の猛者となったタントたちだから任された仕事といっても、過言ではない。

 さあ、馬車が入り口へとたどり着いた。
 仲間達と合流し、馬車を降りるタントたち。
 ……森へと、歩き出す。

GMコメント

●オーダー
 成功条件:『妖精の通り道』へトライする
 深い森の中にひかれた魔法のパン屑を辿って進み、次々に出現するモンスターを倒して進みましょう。

●フィールドとエネミー
 深い森であるためやや薄暗く、闇にはシャドウハウンドが潜んでいます。
 また、人食い植物たちは自力での移動が可能であり茂みの中や木の上などから突如襲いかかってくるでしょう。
 そして『魔法のパン屑』を追って進まなければいけないという都合上、地面を注意深く観察しながら進めるだけの余裕をもたなければなりません。
 勢いよく駆け抜けていくと見落としてしまいスタート地点に戻されるなんてこともあるかもしれません。なので充分に注意して道を見つけましょう。

 モンスターはこちらの消耗を狙っているのかと思うほど次々と現れます。
 APやHPの消耗には充分に注意してください。
 回復方法はある程度確保し、ガス欠には注意しましょう。

・シャドウハウンド
 闇に潜み奇襲を仕掛けてくる犬型モンスター。
 噛みつきや爪での斬撃といった物理属性の攻撃を行う。

・人食い植物
 花や木、草など種類は様々だが共通して人を食う性質がある。
 なんらかの方法で移動し、触手や花粉、毒の密などを用いて攻撃を行う。そもそもが魔法撃な植物であるらしく、攻撃には主に神秘系のダメージ属性がある。

 道の終盤には特に強力なシャドウハウンド&人食い植物が出現するため、最後に向けて技を温存したり、ため込んでいたリソースを一気に吐き出すような速攻戦をしかけるとよい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <咎の鉄条>白き太陽の娘より罪をこめて完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

リプレイ

●ナーサリーマジック
 茨に閉ざされた深緑国境線。そのずっと外側に位置する花のゲートは、まるで誰かが作った遊びのようだった。
 無造作に花が咲いた樹木がアーチ状に繋がり、たったひとつだけの門になっている。何方から見てもただのアーチなのだが、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が手を繋いで門をくぐってみると……風景に微妙な違和感が生まれた。
 大きな違いは目の前に千切ったパンくずが落ちていることだ。
「所謂迷いの森……指定の手順を経なければ、通過が叶わぬ地。
 呪的逃走というわけではないようですが、はて……珠緒の知らない謂れがあるのでしょうけど、蛍さんはご存じですか?」
「『ヘンゼルとグレーテル』かな?」
 森とパン屑と聞いて思いつくのは、蛍の出身世界にもあった童話だ。あまりに有名すぎて混沌にまで(おそらく口伝で)伝わっているお話である。
「お話だと動物にパン屑を食べられて帰れなくなるって話だったけど、これは『辿っていけば』森へ帰ることが出来る仕組みなのよね?」
「らしいな……」
 『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は腕組みをしてじっと周りを観察していたが、地面に落ちているパン屑のひとつをつまみあげた。
 感触はフランスパンの切れ端っぽいが、匂いはない。『パンを真似た玩具』と言われた方がしっくりくる物体である。
 興味を無くし地面へ落とすと、まるで磁石でも仕込まれているかのようにヒュッと地面を滑って元の位置へと戻った。
「このパン屑を見失うと森を抜けられないわけか」
 『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は十メートルほど先に転がっているパン屑に目をこらす。
 もしこのルールを知らなければ見つけることなくさまよってしまうかもしれない。しかも奇妙なことに、『もう一個のパン屑』は見つけられるのに更にその先へ続くパン屑が見つからない。試しに二つ目のもとへ歩いてみると、三つ目がふと視界に入った。木々に隠れていたわけではない。最初からあったのにうっかり気付かなかったかのように、ふっと現れたのだ。
「これは、気を引き締めていかねば」
「狂暴な魔物がいなければただのパン屑遊びで済むんだがな……」
 『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)が嘆息して言うと、ナイフで木の幹に傷をつけてから進んだ。
 何気なく振り返って確認してみると、先ほど付けたはずの傷が木の幹から消えていた。
 『げ』とギザ歯をむき出しにして顔をしかめる。
 まるで見えない平均台の上を渡らされている気分だ。補助やズルが通用しない、誰かの定めたルールから外れたら容赦なく転げ落ちるようにできているらしい。
 防衛手段として適切な魔術だが、使う人間は不便にならなかったのだろうか。いや、非常通路なのだとすれば当然の処置なのだろうか。
「妖精の通り道、か。懐かしいな。
 幾つもあると聞いてはいるけど、今回通る道はずいぶん厄介な道なんだね。
 はぐれたり大怪我したりする事がないよう、気を付けて進むとしようか」
 一方で、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は慣れた様子で歩いている。
「こういうのを他に知ってるのか?」
「まあね。玩具の木馬に跨がると通れる鏡だとか、歌いながらでないと歩けない泉だとか……そう言う意味では、モンスターが潜んでるここはちょっと特殊かもしれないね」
「……」
 『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)はきょろきょろと周りを見回し、そしてなにもない空間に向けて手をかざした。まるで蝶が止まるのをまつように指を立てると、指先で小さな妖精がバレエダンスを踊り始めた。
「妖精の通り道、『可愛い悪戯の』というには少し過激な道みたいだわ」
 踊る妖精は低位のものらしく、茨の呪いをうけていないのだろう。
 低位妖精は言葉が交わせるくらいの自我はないが、一緒に踊ったり花を咲かせたりする程度の力はあるらしい。最後におじぎをしてパッと消えた妖精にポシェティケトは微笑んだ。
「このまま放っておくと、妖精さんたちが危ないのよね?」
 妖精郷は閉ざされただけで済んだようだが、ファルカウに移住している妖精たちは今頃どうなっているかわからない。
 それはかつて妖精郷で知り合った子達とて例外ではないだろう。
 『白砂糖の指先』ジェック・アーロン(p3p004755)は己の胸に手を当て、目を瞑った。
(あの子について、多くを語ることはよそう。
 それはアタシが言うべきじゃない。
 この状況を打破する可能性を示唆してくれたんだ。
 ……今はそれで、十分だよ)
 心の中で唱えて、そして目を開ける。
 ジェックはライフルを手に、歩き出した。
 危険な妖精の通り道へと。

●妖精の通り道
 薄暗い森の中で、どっしりと地に足を付け構える義弘。
 闇を滑るように、あるいは泳ぐように現れるシャドウハウンドの姿に、義弘は素早く振り向いて回し蹴りを放った。
 青白いオーラを纏って激突するシャドウハウンドの顔面と革靴の踵。ギャッと声を上げて転がったシャドウハウンドに、義弘はすくい上げるような鋭いパンチを繰り出した。
 闇に潜むといってもやはり物体をもったモンスター。打撃を受ければぐったりと力をぬき、闇の中へと沈むように消えていく。
 一方、黒くぴっちりとしたボディスーツを着こなしたブレンダは長くはためく赤い布を巧みに振り和すことで迫る無数のツタを払っていた。
 布は時に盾であり、時に槍だ。ヒュッと腕を鞭のようにしならせ、巨大な花のようなモンスターの花弁を破壊した。
「あまり離れすぎるな。パン屑の効果範囲も不明なままだ」
「ああ、分かってる」
 ブレンダは周囲からビリビリと向けられている敵意を敏感に察知しつつも、仲間と離れないように隊列先頭を進んでいく。
 が、進む方向を間違えれば一部のメンバーだけがスタート地点に戻され、最悪隊が分裂することもありうる。
 ブレンダは守りを固めながらもポシェティケトへ目を向けた。
「次のパン屑の位置は」
「大丈夫。わかってるわ」
 ポシェティケトは杖をゆったりと翳すと、楽器を奏でるかのように空中をなで始めた。
 魔法の弦がはじかれ、竪琴のような音楽が鳴り響く。
 音楽ののって踊り出した低位妖精たちが、義弘やブレンダが僅かながらも負った傷へと口づけをした。擦過傷や出血部分が塞がり、綺麗な肌へと戻っていった。
「このパン屑は誰が落としてくれたのかしら。妖精さんたちは知っている?」
 問いかけに答えはない。独り言だったのだろうか。ポシェティケトは魔法の音楽を奏でながら次のパン屑へと歩き始める。
 その行く手を阻むように、複数の巨大な花が根をわしゃわしゃと動かしながら集まり始める。その中でも巨大なタンポポの花が綿毛を飛ばし、その全てが意志をもったかのようにポシェティケトへと襲いかかった。
 いや、襲いかかろうとしたというのが正解だ。
「蛍さんっ」
「まかせて、珠緒さん」
 蛍と珠緒が二人同時にぴったり息のあったコンビネーションで前へ出ると、蛍が舞い散る無数の教科書ページを盾に変えて綿毛を防御。ぶつかるそばから小さな花火のような爆発が起こるが、蛍の防御の前にはかすり傷を負わせるのがやっとだ。
 そんな蛍の盾に守られるようにしながら剣を抜く珠緒。
 いや、放出された血が固まり刀の形を成したといったほうが正しいか。珠緒は深紅の刀を握りこんで飛び出そうとしたその瞬間に、まるでそうすることを完全に理解していたかのようなタイミングで蛍の盾が左右にバガッと開いた。
 踏み込みと斬撃がほぼ同時に行われ、タンポポの花たちが斬り割かれる。
 その時、薄暗い森のずっと向こうで何かがざわりと音をたてたのが分かった。
「――」
 素早くライフルを構えるジェック。音からしてシャドウハウンドの足音だ。
 闇にすっかりと紛れてしまったシャドウハウンドを肉眼でとらえることは難しい……が、ガスマスク越しに目を細めたジェックは視界を暗視モードへと切り替えた。
 常人では見通せないような闇の中、うっすらと浮かび上がる犬型の影。
「見えた。見えたなら――絶対に外さない」
 ガスマスクの内側でそう小声で唱えると、ライフルのトリガーをひいた。
 ぷしゅんというサイレンサー越しの銃声が鳴り、自分が撃たれたのだと気付いたシャドウハウンドがドッと吹き飛ばされたように跳ねて転がった。
 そうしている間にもポシェティケトがとことことパン屑を追って歩き出す。
 ウィリアムはマッダラーへと視線を向けると、片眉をあげて首をかしげた。『次へ行こう』のサインである。
 マッダラーは頷き、そして両手をあえてだらんと垂れ下げたまま歩き始めた。
 まるで無防備な彼の身体に次々とシャドウハウンドが食らいついていく。
「……二人の子供は家に帰れるように白い石を目印にして歩いてゆく。……この道を作った魔法使いの能力の高さはさることながら童話のような抜け道を準備するのは深緑の地との相性のようなものだろうか……」
 独り言をいいながら歩くマッダラーに苦痛の色は見えない。耐えているのか、感じないのか、あるいはどうでもいいのか。
 それでも肉体の損傷はかなりのもののようで、ウィリアムはその後ろに庇われるようにしながら治癒の魔法を唱えた。
 連想魔方陣が展開し、マッダラーのはげしく損傷した肉体を逆再生でもするように修復していく。
「……大した回復力だ」
「こういうときは有効な力だよね」
 ウィリアムはかなりの威力による治癒を行ったにも関わらず、周囲の森から得られるエネルギーを片手に作り出した小さな魔方陣から吸収していた。その吸収効率たるや凄まじいもので、治癒の魔法を水道蛇口を開くがごとく出しっぱなしにしたところで満タン状態が維持されるほどだった。
 そしてウィリアムは『君にも』といってマッダラーの背に緑色の魔方陣をぺたりと貼り付けた。手のひらサイズのそれは、マッダラーの消費エネルギーを半減させるというものだ。
「なるほど……これは助かる」

 難なく、という言葉が相応しい。
 八人はモンスターが次々と襲いかかる森の中を迷うことなく進み続け、慎重かつゆっくりパン屑を探し時には立ち止まるということを繰り返したにも関わらず、完全なガス欠を起こした仲間は居なかった。
 誰のおかげかといえば、それは勿論ウィリアムのおかげである。
 クェーサーアナライズ、幻想福音、ソリッド・シナジーを無限に使い放題という燃費の良さは、長い戦いにおいてスタミナ切れを一切起こさせない素晴らしいものだった。
 故に――。
「ここが最後の関門、って所なのかな?」
 小首をかしげたウィリアムの前に、巨木が姿を現した。
 根っこを足のようにうねうねと動かして歩き、道を塞ぐように立ちはだかるという形で。
 真新しい切り口のある太枝を鼻に、偶然のように並んで空いた洞を目と口にみたてて、巨木は洞をぱちくりとうごかした。
 ブルルッと身体をゆすると頭上の枝から大量のリンゴが転げ落ち、その全てが牙を剥いて襲いかかる。
 だが、フルパワーの彼らにとってもはや敵ではない。
「珠緒さん、後ろに!」
 蛍はページを展開したような壁を作り出して頭上を守ると、ドコドコとぶつかるキラーリンゴの突撃を防御。その間に珠緒が飛びかか――ろうとしたところへ通常の二倍以上のサイズをもったシャドウハウンドが割り込んだ。
 見た目からは想像もつかないような硬質な毛皮が、珠緒の刀をがきんと弾く。
 が、珠緒とてむやみに刀を振るったわけではない。
 血の結束を解いて液状に戻すと、パッと散った滴の全てを針の形状に変えて巨大シャドウハウンドへと解き放った。
 毛皮の防御を抜け次々と突き刺さる針にうめき声をあげるシャドウハウンド。
 マッダラーはそれを勝機とみたようで、自らをシャドウハウンドの牙の前へと割り込ませた。
 いや、割り込ませるなどという生易しい動きではない。開いた相手の口に自らの両腕を肘まで突っ込んで『食わせた』のである。
 上下に踏ん張ることでかみちぎることをギリギリに防いだマッダラー。ギッと歯を食いしばる。
 踏ん張る時間は一瞬で充分だ。
 それだけあれば……。
「弾は届く」
 ジェックがスゥッと息を吸い込み、呼吸を止める。わずかにブレていたスコープ内の景色が停止し、時間が引き延ばされたかのごとく集中し、そして絶妙なタイミングでトリガーをひいた。
 弾丸は正確にシャドウハウンドの眼球を潰し、穴を通って脳へと達したらしい。
 シャドウハウンドはその場にズズンと沈むように倒れた。
 義弘とブレンダがその上を飛び越え、動く巨木へと迫る。
 巨木は木の洞から空圧を放射することで吹き飛ばそうとするが、義弘の繰り出した強引なドロップキックが樹幹へと激突。
 ブレンダは腰に下げていたふたつの剣を抜くと、それを同時に振り込んだ。
 炎と氷の魔力をもった剣が、樹幹をごぎりと切り裂き始める。
「ねえ、ウィリアム君。よかったら一緒にどうだい?」
 ウィリアムがダンスにでも誘うみたいに手をかざしてみせると、杖を翳して治癒の魔法を使おうとしていたポシェティケトがハッと瞬きをした。
「いいの?」
「最後くらいはね」
 ポシェティケトは『わかったわ』と微笑むと、杖をトンッと垂直に地面へ立てた。
 それだけだ。それだけなのに、森の中に霧がたちこめる。
 低位妖精たちがクスクスと笑い始め、そのことに巨木は困惑したようにきょろきょろと幹をねじっている。
 どうしていいかわからないという困惑は、しかし次の瞬間に終わった。
 樹幹に手のひらをそっと当てる、ウィリアムの存在によって。
「お疲れ様。土へと還って、よく眠るんだよ」
 ウィリアムは微笑みと共に魔力を解放し――とてつもない衝撃をもって巨木を粉砕した。

●そして道の向こうへ
「これは……」
 ガスマスクを外し、歩いて行くジェック。
 見上げるとそこには、巨大な茨の壁があった。
「『妖精の通り道』ですら、この茨は塞げるっていうのかしら……」
 ポシェティケトは小さく首を振って、振り返る。
 するとどうだろう。
 これまで進んできた道にパァッと光が通ったかとおもうと、はじめに潜った花のアーチがすぐそこに現れた。
 ブレンダ、そして蛍と珠緒がおそるおそる近づいてみると……間違いない。あのアーチだ。
「道が開け、結界が解けたということか……」
 マッダラーのつぶやきに、義弘がなるほどと頷く。
「というより、『通り道』が僕たちを認めたんだよ」
 ウィリアムはアーチの前までいくと、再び茨へと振り返る。
「ここまで来たのは、無駄じゃない。この先の戦いできっと役に立つはずだよ」
 そうだよね、と森に語りかけると、まるで微笑むようにそよ風が吹き抜けていった。

成否

成功

MVP

ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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