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シナリオ詳細

祝福されざる存在たち

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 深緑、迷宮森林。
 辺り一面に生えている木々はまるで生きているかのように入る者を惑わす。
 それは、深緑民が他国との交流を限られたものとし、招かれざる者を排するための機能だ。
 ただ、現状はそれとは別と思われる謎の存在が国土を覆っていて……。
「なんだ、これは……」
 迷宮森林警備隊を率いるラウルは視界全体に広がる茨を見回す。
 それらはさながら有刺鉄線の如く、木々の間へと張り巡らされている。
 茨は場所によっては密集しており、通るだけで傷を負ってしまう場所も存在していた。
「ともあれ、排除せねばな……」
 ラウルは部下達と共に、風魔法や風の精霊を使って排除を試みる。だが、思った以上に茨の強度は高く、広範囲の術などではほとんど効果がない。
 その為、矢を使って切り払ったり、単発の術など使ったりして地道に排除を始めたのだが……。
 グアオオオオオッ!!
 そんな茨などお構いなしに森の中を駆けてくる毛むくじゃらの邪妖精(アンシリーコート)達の姿が。
「バグベアか、こんな時に……」
 それだけではない。森の木々も枝や根を広げて動き出し、呼応するかのように所々が束なった茨が警備隊へと意志を持って襲い始めたのだ。
「隊長、これでは……!」
「うろたえるな、落ち着いてそれぞれの敵と対するのだ」
 茨、邪妖精、大樹の嘆き。
 それらに対し、深緑の民である警備隊は対処すべく布陣を固めるのである。


 深緑で起きている異常事態。
 現状、大樹ファルカウには侵入できぬ状況となっており、国土のほぼ全土が謎の茨で覆われてしまっている。
「謎の茨……場所によっては歩くのが困難なほど密集して展開されているという情報もあります」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)の説明に制裁さが欠けているのは、深緑とのワープ機能が断たれたことによるところが大きい。
 彼女が予知能力を働かせた範囲では、どこかしこも茨で覆われていたのが視認できたそうだ。
 鉄条網のようなそれらの荊を排除しようとすれば、棘に刺されて昏睡してしまったり、束なった茨に襲われて致命傷を負うこともあるという。
「それだけではありません。現状の深緑では『大樹の嘆き』が確認されています」
 R.O.Oの翡翠で散々対応に追われた大樹の嘆き。
 無差別に襲い掛かるそれらは住民である幻想種達でさえも構うことなく攻撃してくるのだという。
 実際、アクアベルは迷宮森林で茨や大樹の嘆きに襲われる森林迷宮警備隊の姿を視たそうだ。
 彼らはR.O.Oにおいては深緑の民としてイレギュラーズと敵対していた者達だが、現実世界では幾つもの翡翠の危機を救ってくれたこともあり、好意的に接してくれるはずだ。
「彼らは同時に邪妖精の一団にも襲われていて、危機に瀕しています」
 多少の力量がある幻想種であっても、一度に現れた敵の対処に苦慮してしまうのは致し方ないことだろう。
 R.O.Oではかなり邪険な態度をとっていた警備隊だが、現実の彼らには何の関係もない。できるだけ友好的に接して助けてあげて欲しい。
「それでは、よろしくお願いいたします」
 現場と敵の資料を渡したメンバーに対し、アクアベルはこの一件の解決を切に願うのだった。


 伸びてくる茨の棘に刺された隊員が意識を失って1人、2人と倒れる。
 布陣が崩れれば、そこに大樹の嘆きと邪妖精が押し寄せて暴れ、警備隊を苦しめる。
 魔法や精霊を操る隊員が癒しをもたらして態勢を整え直そうとするが、敵の侵攻は止まらない。
(相手は別々の集団のはず。共闘しているとは思えないのだが……)
 そんな考えが隊長であるラウルの脳裏にちらつくが、今は防戦が手一杯。
 今は後退すべきなのは間違いないが、茨はファルカウを覆っており、現状戻ることもかなわない。
 加えて、大樹の嘆きや邪妖精を野放しにすれば、人里を襲う可能性が高い。出来るなら、全てを可能な限り対処しておきたいのが本音だ。
 だが、大樹や邪妖精の猛攻が、また1人の隊員を倒してしまう。
「くっ……」
 傷を負い、隊員を守ることすらも厳しくなってきていたラウルは苦悶の表情を浮かべていたのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様、こんにちは。なちゅいです。
 深緑に現れた謎の茨。R.O.Oで生じていた『大樹の嘆き』を思わせる事態への対処を願います。

●目的
 迷宮森林警備隊の生存
 茨の伐採。
 邪妖精並びに大樹の嘆きの討伐。

●状況
 迷宮森林に現れた茨、大樹の嘆き、そして、邪妖精。
 それらの殲滅に動き出した迷宮森林警備隊が窮地に陥っていますので、救出及び支援を願います。

●敵
 様々な敵が同時に現れ、それぞれが暴れております。

○茨×3体
 さらながら有刺鉄線のように一定空間へと張り巡らされる謎の荊です。
 そのうち、束なった2本が敵対するもの目指して伸び、絡みついてきます。また、強引に排除しようとする者を昏睡状態へと陥らせたり、体力、気力を奪いつくして死に至らしめようとすることも。
 茨は戦場のどこからでも束なることができるようで、その出現の把握はかなり難しいでしょう。
 ただ、茨を傷つけることでその活動は低下します。
 戦場に張り巡らされた状態では範囲攻撃に耐性を持つ為、非常に厄介な相手ですが、束なった茨は耐性が無くなるため絶好のターゲットとなるでしょう。

○大樹の嘆き×3体
 樹高6~7m程度の樹の姿をしており、根を動かして移動も可能です。
 根を使った広範囲の突き出し、絡ませてからの締め付け。枝を使った薙ぎ払い、槍のごとき突き出しなどを行います。

○邪妖精(アンシリーコート):バグベア×5体
 人間大の大きさをした全身が毛むくじゃらの邪妖精。
 非常にタフで、体当たり、食らいつき、爪での引っかきを主体に攻撃してきます。

●NPC
〇迷宮森林警備隊×10体
 隊長、弓の名手であるラウルをメインに、弓、風魔法、風精霊を操る幻想種で構成された警備隊です。後方、樹上からの攻撃を得意としています。
 ただ、現状、上記の敵の襲撃によって半壊状態。立っている者も相当消耗しているようです。
 「<大樹の嘆き>森に捕らわれた流浪の民」など、R.O.Oシナリオで登場していますが、こちらは本物です。R.O.Oとは違い、深緑の危機を幾度も救っているローレットへと好意的に接してくれます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 祝福されざる存在たち完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月28日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者
オクタヴィア・ルリエ・クルールゥ(p3p010511)
グレート・ワン

リプレイ


 深緑、迷宮森林に至るメンバー。
 『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)は、少しだけしか関わった経験のないその地を見上げて。
「まだ、どんな場所か知らないのに、知る前に終わらせたりしないよ!」
 多数の木々が生い茂る深緑は現在茨で閉ざされており、森林の向こうに聳える大樹ファルカウには立入ができない状況とか……。
「え、今ファルカウ帰れないんですか!?」
 『ワクワクハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)はこの事態に戸惑いを隠せない。
「うちの実家が!ㅤ里帰りを拒否している!ㅤこれはめそめそハーモニアですよ!!ㅤ泣いちゃいます!!」
 ともあれ、張り巡らされる茨を気にかけつつ、一行は森林迷宮内にへと立ち入る。
 進めど進めど、邪魔をしてくる茨に、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)の表情が陰る。
「この茨、どこまで続いてるのかな……。手前のほうだけなら良いけど……」
 そんな淡い期待も抱くキルシェだが、転移できぬ状況はファルカウにまで至っている可能性が高いことを示している。
「もうこの茨なんなの!? 私の領地経営もこの茨のせいで支障が出てるんだけど!!」
 『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)も大きく余波を受けていたようで、苛立ちを露わにしていた。
「なんだっけ? 『あーる・おー・おー』?」
 オクタヴィア・ルリエ・クルールゥ(p3p010511)はゲームを良く知らないそうだが、それと今回の事態が絡んでいるのではと推論を語る。
 現状、R.O.Oと繋がる確固たる情報はない。ただ、深緑を模した翡翠と今回の事態は重なっている感が強い。
「とにかく、今は問題の根源に至るべくなんとかしていかないと!」
「ううん。きっと大丈夫。一歩一歩進んで行けば、きっと茨ぬけられるし、この事態解決できるのよ!」
 この事態の解決にとアリアが奮起すると、キルシェも一つずつ確実に事態の解決をと気合を入れる。
「森の状況も気になるけど、今は救助が最優先だ……!」
 そこで、マルク・シリング(p3p001309)が改めて目下の問題を取り上げると、ウテナがなにやらのっぴきならない状況だと感じて。
 どうやら、幻想種の迷宮森林警備隊10名がこの茨に加えて大樹の嘆きと邪妖精に襲われるそうなのだ。
「これは早く助けなければ!!ㅤ同族のよしみってやつですよ!」
「ええ、今はまず警備隊の人たちを助けるわ!」
 ウテナにキルシェが同意し、瑞希も力強くその救出をと意気込む。
「もしかしたら、原因に竜種が関わっているかもしれないね……」
 瑞希はその推論が正しいかどうかを確かめるべく、まずは今回の事件の解決を目指すことにしたようだった。


「くっ……」
 迷宮森林警備隊隊長のラウルが痛みに呻く。
 横たわる者もいたが、半数の隊員には意識があるようだ。
「ああ、良かった! 起きている方がいらっしゃいました!」
 茨は触れる者に眠りをもたらすという情報もある。ハンナは彼らが目を覚ましている事実に安堵……しかけたが。
「……いえ、安心している場合ではありませんね!」
 現状、警備隊は邪妖精アンシリーコートと大樹の嘆き、そして、時折束なるこの一帯の茨に襲われていたのだ。
 3勢力によって警備隊は半壊し、半数は倒れてしまっている。
「それに茨ならうちにも出せますし!ㅤこっちの方がすごいですし!!」
「まー、よく分からないが、アタシの前でウネウネしてるとか喧嘩売ってるじゃないか」
 植木鉢を持つウテナが茨を出現させ、下半身が触手であるオクタヴィアも束なる周囲の茨に敵意を抱いていたが、それはさておき。
「森にとって異物である我々を排除するための連合軍みたいな様相を呈していますねえ」
 それら3勢力もまた互いに異物。
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそれらが同士討ちをしたならと楽観論を口にするが、3勢力が仮に争うにしろ、その決着がつくまで警備隊が無事である保証などない。
「まあ、駄目というなら仕方ありません。丁寧に根絶やしと参りましょうか」
 瑠璃の言葉を受けて。いや、それよりも早く、数人のメンバーが動き出しており、警備隊と3勢力の間へと瑞希やウテナが割って入る。
「助太刀に参上しましたよ!!」
「あんたらは……ローレット……!?」
 救援に現れたイレギュラーズに、ラウルら警備隊隊員の瞳に光が差す。
 そこへ、突然近場の茨が空中で束なり、一直線に伸びてきたが、割り込む瑠璃がその一撃を受け止める。
 相手の気を受けたと感じた瑠璃が身構えた近場では、樹木の姿を借りた大樹の嘆きも根を伸ばしてきたが、それをアリアが受け止めて。
「おっとっと、ここから先のお相手は私! よろしくね♪」
 挨拶代わりに、アリアは呪詛の歌を披露する。
 その旋律は空中で紅蓮の蛇となり、大樹へと襲い掛かっていく。
「もうこれ以上、誰も眠ってほしくはありません。必ずお助け致します!」
 一言いい残したハンナはそのまま、敵勢力と交戦する。
「敵は我々で対応します」
 瑠璃は戦場を見回し、他の敵が大樹の陰に隠れていないかとテン型からくり人形「自在絡繰・黒貂」を配備し、死角に敵がいないか探らせ、自らもまた戦いへと乗り出す。
 一方で、この場に残るメンバーも数人いて。
「お兄さんたち大丈夫!?」
 警備隊を助けるべく、キルシェが動けそうな者達に桜色の慈雨を降らせ、マルクも聖体頌歌を響かせて癒しをもたらす。
「助かった、すまない」
 礼を告げるラウルを横目に、マルクがさらに歌を重ねる。
 キルシェも意識のない隊員へと福音を紡いで傷を塞ぎ、体力回復に当たる。
「ルシェたちも戦うから、一緒に頑張りましょう!」
 2人の手当てもあり、少しずつ持ち直す警備隊。
「動ける人は、まずは戦闘不能射を連れて退避を!それでも戦闘可能な人が残るなら、こちらに合わせて支援射撃をしてほしい!」
「わかった……!」
 R.O.Oではあちらの事情もあって敵対していた警備隊だが、現実では幾度も深緑を救っているローレットに彼らは好意を抱いて助力してくれるようだった。


 茨や大樹の嘆きは、明らかにイレギュラーズや警備隊を敵視している。
 どこから現れるか規則性のない茨もそうだが、大樹の攻撃は引付役となるアリアへと集中する。
 そして、その戦いをよそに、警備隊へと近づく魔物が……。
「「グルルアアアァァッ……!」」
 祝福されざる者という意味を持つ毛むくじゃらの邪妖精、アンシリーコートである。
 それらはイレギュラーズや幻想種らを獲物と見定め、鋭い爪を振るってくる。ずたずたに切り裂いて食らうつもりなのだろう。
「飛ばしますよ!!ㅤあっち行ってください!!」
 そうはさせじと、ウテナがノーモーションで衝術を使い、近づいてくる敵を弾き飛ばす。
「警備隊の人たちは樹の上に避難して、そこから攻撃して下さい!」
 キルシェに従って警備隊は樹を登っていくが、まだ動けぬ者もいる。全員が動けるようになるまで、キルシェはマルクと手分けして回復を急ぐ。
「後ね、樹の上からならルシェたちより色々見えると思うから、茨の動き教えてください!」
「分かった。こちらは頼む」
 とりわけ、どこで束なって襲ってくるか分からぬ茨は恐ろしい。
 警備隊も快く返事し、警備隊は邪魔な茨をできる限り振り払おうとしていた。

 さて、茨が引いている間は、イレギュラーズも大樹の嘆きの排除を優先して。
「お相手は私……とは言ったけれど、デカブツさんに私が捕まえられたら、だけどね?」
 異形朋友を使い、アリアは大樹の嘆きとコミュニケーションを……いや、露骨に挑発してみせる。
 ………………!!
 相手は一層暴れ、枝や根を彼女へと突き出してくる。
 それらから全て逃れるとはいかない。
 枝に突き刺され、根に絡まれるアリア。複数体の引きつけはさすがに負担が大きいようで、マルクはキルシェに残る隊員に癒しを任せて彼女の回復支援を始める。
 マルクがもたらす福音によって傷が塞がるアリアへと皆の注意が集まれば、別勢力が牙をむく。
 キルシェに迫る5体のバグベアへと、瑞希が声を響かせる。
「さぁ、ボクの歌を聴いて! キミの絶望は、ボク達に出会ったこと!」
 現地点では足止めさえできればいい。
「「グ、グルル……!」」
 かつての絶望の海を瑞希が歌えば、2体の邪妖精が魅了され、同士討ちを始める。
 オクタヴィアもまた、瘴気を保つバグヘアへと自らをアピールして。
「食べてみるかい? どっちの意味でもお勧めの逸品だよ。それとも、食らわせられるのが御好きかな?」
 ただアピールするだけでなく、獲物として、性的な対象として見えるよう、オクタヴィアは持ち前のスキルも働かせる。
「グアオオオオオ!!」
 まさに野獣と化したバグベア。だが、その続きを許さぬ存在が。
「茨がくるぞ!」
 警備隊ラウルの声で、周囲の茨が束なって襲い来るのを察した瑠璃。
 すでに近未来予測によって力を高めていた瑠璃は、茨へとある程度距離を詰める。
 束なる茨がうねり、突き出してくるその攻撃を避け、瑠璃は出現させた黒い棺で茨の先端を包みこんでいた。
 だが、茨は別個体として束なる1体が襲い来る。
「今度はこっちからくるよ!」
 こちらは瑞希が広域俯瞰で捕捉していた。
 近場にいたハンナがアリアの抑える大樹から茨へとターゲットを移し、至近にまで迫ってから銃刃を三連撃で刻み込む。
 守るべき深緑の民がいる。敵の攻撃を引きつける仲間を考えればできるだけ早く排除したいと、ハンナが武器を握る手も強まる。
 茨自体は束なればかなり防御面が脆くなるようで、纏めてハンナが切り裂いた茨はあちらこちら切り裂かれて、束なる力も弱くなっていたようだ。
 そんな茨を敵視していたウテナは一気に仕掛ける。
「うりゃ!ㅤうちの茨の方がすごいですから!!」
 手にする植木鉢から茨を急成長させたウテナ。
 ばらばらになりかける敵方の茨を、ウテナは自前の茨で縛り付けようとしたのだが、強く縛り付けたことで、逆にその生命力が尽きた敵方の茨は、急速に枯れていく。
 それに伴い、この一帯の茨が一部枯れ果て、ぽとり、ぽとりと地面へと落下していたのだった。


 交戦の間、全ての警備隊隊員が持ち直したことで、キルシェも宙を仰ぐ。
「束になった所から倒しちゃうのよ!」
 隊員は全て樹上へと避難しており、矢や風魔法などによる援護射撃を行ってくれる。
 束なる茨がそれらの牽制で動きを硬直させたところで、瑞希は植物疎通でその考えを探ろうとする。
「なんだろう、これ……」
 だが、得体のしれないその茨の考えを読み取るには至らず、底冷えすら感じさせる冷たさが伝わってきたのみだった。
 茨は束なれば防御面がかなり弱くなる。
 それが分かったハンナは今度こそ猪・鹿・蝶の三撃を見舞い、束なった茨の生命力を完全に断ち切ってしまう。
 もう1体の茨は姿を現していなかったが……。
(さて、なんとかみんな連れてこれたかな……)
 大樹を率いていたアリアだが、茨は不意を突いて大樹もろとも彼女目掛けて巻き付き、締め上げてくる。
 束なる茨の攻撃は思った以上に強力で、アリアは瞬く間に体力を奪われてしまう。
「体力には気遣っていたはずだけれど……」
 パンドラを使い、自らへと大天使の祝福を使って体力回復をはかるアリアへと、マルクもすぐさま福音を紡いでいた。
(連合軍……というわけではなさそうですね)
 瑠璃は3勢力の思惑が違うことを感じながらも、残る茨と大樹を纏めて虹の如く煌く雲で覆う。
 大樹も茨も力を奪われても耐えていたが、アリアが持ち直したことで、キルシェが彼女を襲う茨を絶対的冷気で包み込む。
 動きを鈍らせる為の一撃だったが、その氷は茨を完全に固まらせた後、完全に砕け散っていった。

 その間、思うままに暴れていたバグベアの相手をしていたのはオクタヴィアだ。
(へっちな状況にはならなさそうかな)
 やや悠長なことを考えていた彼女だったが、茨の出現によって仲間の狙いがそちらへと向き、正気を取り戻す邪妖精らから集中攻撃を受けてしまっていた。
「アタシは絡むのは好きだけど、絡まれるのは嫌いでねえ」
 パンドラを砕きつつ倒れないよう堪えたオクタヴィアは、茨だけでなくバグベアとて絡まれたくない相手だったらしく、自らに絡んできた1体に組み付いて投げ飛ばす。
 さながら、タコ足再現式山嵐というべき技で空中へと巻き上げられたバグベアはそのまま地面へと落下し、首の骨を折って絶命してしまっていた。
 その間に、イレギュラーズは大樹の嘆きを排除しに当たる。
 その体には茨を打ち付けられた後がいくつもあり、かなり体力を減らしていたようだ。
 どうやら、茨と大樹の嘆きが対立していたのは間違いない。
 大樹は茨が無くなったことで、アリアだけを狙っていたが、時に枝や根を樹上の警備隊に向けようとしていた。
 だが、ハンナがその前に立ち塞がって。
「治癒に長けたマルク様とキルシェ様がいらっしゃいますから安心して無茶が出来るというものです!」
 やや狙った大樹の間合いが遠いこともあり、逃がさじの殺人剣を繰り出す。
 その斬撃に幹を切り裂かれた大樹は力なく枝を下ろして動かなくなっていた。
「ルシェも回復のお手伝いは出来るんだから!」
 ハンナへと癒しをもたらすキルシェは、仲間の体力が戻ってきたのを見計らい、再度絶対的冷気を放つ。
 それに包まれた大樹目掛け、瑞希が死者の怨念を束ねて幹を穿つと、2体目の大樹が力尽きる。
 もう1体はそれまで抑えていたアリア自身が攻勢に出る。
 神秘的破壊力を見た目がナイフのような細剣に込めて突き入れると、最後の大樹も根が動かなくなり、瞬く間に枯れ木と化していった。
 大樹の嘆きを倒し、ウテナが残る邪妖精へと向き直って。
「もじゃもじゃしてるやつを茨で足止です! モンスター知識によると爪が厄介!ㅤ両手上げといてください!!」
 再び、ウテナが植木鉢から伸ばした茨がバグベアを締め上げる。
「休むな、攻撃を続けるんだ!」
 加えて、樹上からは、オクタヴィアが劣勢だったことで、警備隊がバグベアへと攻撃を集中させており、1体の心臓を貫いて倒して数を減らす。
 警備隊のおかげで、疲弊していたメンバーも比較的楽に邪妖精と対することができていた。
「もう一度、聞かせてあげるよ。絶望の歌を!」
 瑞希が歌うディスペアー・ブルーは邪妖精らに残された体力を削ぎ落とす。
 1体が耐えられずに崩れ落ちる中、警備隊がさらに1体のバグベアの身体を風魔法で巻き上げ、精霊が発する風の刃で仕留めていた。
 ウテナもまた刃を飛ばしており、不可視の刃が敵の胸部を貫通し、その命を奪い去る。
「うちにもできるんです!!」
 仲間達のアシストをと繰り出した一撃で仕留められたことに驚きつつ、ウテナはサムズアップしていたのだった。


 イレギュラーズ一行は無事にすべての敵対勢力を撃破し、警備隊を救うことはできた。
 それでも、茨が晴れたのはこの近辺、ごくわずか。
 ハンナは広域俯瞰で周囲の様子を探りつつ、木々へと語り掛ける。
「森が何かに怯えてる……」
「すごく怖がっているのよ」
 同じく、キルシェも周囲の植物と意思疎通し、恐怖の感情が流れ込んでくるのを感じていた。
 大樹の嘆きは外敵に対して反応すると、ハンナはこれまでの事件などで聞いている。
 加えて、森を闊歩していた邪妖精。そして、深緑全域に張り巡らされる茨……。
「今のところあの茨は人々を眠らせている様子ですが……」
 そうだと、ウテナが警備隊へと現状について話を聞こうと近づいて。
「うちの家は無事なんですか!!」
「ねぇ、深緑で何が起きてるのか、何でもいいから教えて?」
 キルシェもまた、少しでも森の現状についての情報が欲しいと、警備隊へと詰め寄る。
「ルシェたち、深緑に帰りたいし、守りたいの。お願い」
「僅かでも情報が欲しいところ!」
 隊長ラウルを始め、目覚めた隊員に知っていることを教えてほしいと懇願するキルシェやアリアだが、
「すまない。我々も何が何だか……」
 さらに奥へと向かえば、茨の密度が高くなって立ち入ることすらできなくなっているとのこと。
 そして、茨に覆われた場所にいる住民はほとんどが眠りについていることくらいしか情報はないそうだ。
 根絶やしにするのも難しい状況であるこの茨。瑠璃はこの茨を調べる人の為、寝ごと掘り返して鉢植えにしたいとも考えていたが、一部だけ持ち帰るのもなかなかに難しそうだ。
「そういえば、R.O.Oで同じ現象が起きてたね」
 アリアが改めて、R.O.Oでの事件について、警備隊へと語る。
 似て非なる仮想空間の話を、警備隊も完全には受け入れられずにいた。
 むしろ、如何にして解決に導いたのか、逆にイレギュラーズ側が質問攻めにあってしまったくらいだ。
「警備隊の皆は無理は禁物だよ。この場は僕らが引き受けるから」
 現状、ファルカウへと戻れぬ幻想種達へ、マルクは自分達の安全を第一に考えるよう伝えたのだった。

成否

成功

MVP

アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは身を挺し、大樹の嘆きを引きつけていた貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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