シナリオ詳細
ミセスグローリーはこだわらない
オープニング
●situation
ミセス・グローリーはこだわらない。
メイドが丁寧に拭いた銀食器にも、庭師が揃えた豪奢な花飾りにも。
ミセス・グローリーはこだわらない。
玄関ホールに敷かれた絨毯の色にも、ベッドルームのシーツの色にも。
――ミセス・グローリーはこだわらない。
幻想国の片田舎。雄大なる緑に囲まれ、鮮やかな空色が心の芯まで穏やかさを与えるかの如き、その場所でミセス・グローリーは過ごしていた。
零落れた貴族だと彼女を呼べば彼女は曖昧に笑う事だろう。
当の昔に期待など棄ててしまった彼女は、華やかな過去の栄光とは掛け離れた質素な生活を送っていた。若い頃に着用した真紅のドレスは埃被りクローゼットの中に眠っている。
「奥様はまだお若いのだから」とメイドが困った様に告げようとミセス・グローリーは衣服に拘る事無く息を潜め過ごしていた。
若い頃の彼女は華やかな社交界で踊り、様々な男性からその手を引かれていたのだという。
それも昔、夫に先立たれてから彼女は全ての事に拘る事を捨ててしまった。だからだろうか、残された遺産を消費せずに生きる彼女に凶刃が迫ったのは。
ミセス・グローリーはこだわらない。
使用人の質にも、性格にも、出自にも――
●introduction
「ミセス・グローリー。幻想の片田舎に暮らしてるアスター・ヒューな貴婦人ね」
ご機嫌よう、と整ったかんばせに優雅な笑みを浮かべた『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はその身を包むドレスを揺らし特異運命座標達に向き直った。
「シャガール・ブラウな気分の話だけれど、聞いてくれるかしら?
今日の華やかなデレクタブルな空とは打って変った曇空になるのだけれど」
持って回った言い回しでプルーが口にしたのは『遺産狙いの殺人』の話であった。
社交界を一度は賑わせた美女が貴族と結婚し、その夫に先立たれた。華やかな場にはよくある話だが――美女はその夫を生涯の相手とし、次の恋に走る事無く隠居したのだという。
「恋心はキューピッド・ピンクだわ。幸福な恋は私だって素晴らしいと思うわ。
ミセス・グローリーは華やかに着飾る事も、豪華な食事を取る事もなく、田舎で静かに暮らしているわ。
彼女は何にも『拘らない』から、使用人だって来るものを拒まないし、何だって笑って許してしまうの」
だからこそ、彼女に残された資産を狙って暴漢が『使用人』として潜り込んだのだという。
彼女が田舎へと居を移す前からの使用人たちはその暴漢たちの言葉を聞きすぐにローレットへと情報を齎した。
どうか、奥様を助けてください――
「私はミセス・グローリーは救われるべきだと考えているわ。セラドン・グレイの様な暗い未来は打ち払って欲しいもの。
そうね、使用人に声をかけたから、あなた達も『使用人』として屋敷に潜り込めるはずよ」
ミセス・グローリーはこだわらない。手製だけれどと冗談めかして笑ったプルーが差し出したのはミセス・グローリー邸の求人情報であった。
- ミセスグローリーはこだわらない完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月31日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ミセス・グローリーはこだわらない。
紅茶の茶葉にも、庭のヘンテコな造形にも。何もかも。
ミセス・グローリーはこだわらない。
今日増えたばかりの使用人たちの出自にも、何もかも――
「御機嫌麗しゅう、奥様。今日からメイドとして此方で働かせていただきます」
そ、とスカートを持ち上げたロスヴァイセ(p3p004262)は鮮やかな赤を細めミセス・グローリーと呼ばれる淑女の前へと立った。穏やかな表情を浮かべ――前評判通り、社交界の華であった事を伺わせる整ったかんばせは年月を重ね淑女としての魅力を感じさせるものだった――ロスヴァイセに「宜しくお願い致しますわ」と僅かに首を傾ぐ。
「奥様は首を傾がれる癖があるのよ」
冗談めかした使用人アリーの言葉にライネル・ゼメキス(p3p002044)はふむ、と小さく頷いた。その仕草は何事も拘らない、つまりは、不明点をも自分に誤魔化してしまう様な『ミセス・グローリーの保身』なのだろうとライネルは察していた。
「成程。まあ、俺……『私』達はアリーの紹介で職にありついただけだ。執事の心得はないがミセスの役には立ってみせるよ」
「ふふ、楽しみにしておりましてよ」
シルクのシンプルなワンピース姿のミセスはどこか肌寒いと言った仕草を見せてきょろりと周囲を見回している。まだまだ、早朝だ。使用人アリーが新たな使用人を連れてくると聞いてお茶会を行いたいと計画していた彼女は「まだ早いかしら」と小さく呟いている。
「まだ朝の寒さが残ってますから。お初にお目にかかります、ミセス。執事見習いの夏子です」
こちらを、と。『駆け出し』コラバポス 夏子(p3p000808)が差し出したのは厚い膝掛だ。暖炉に火をくべたばかりの室内の寒さにロスヴァイセは「何か温かいものをご用意しましょうか」と柔らかに声かけた。
「温かいもの! 余が何か用意しようではないか。ふむ、茶会があるならばアフタヌーンティーとは被らぬような……そうさな、ホットワインもありだが――」
饒舌に夏子の傍へと寄った『特異運命座標』エンヤス・ドゥルダーカ(p3p000069)はきょとんとした瞳を向けるミセス・グローリーに向き直りこほん、と小さく咳ばらいを一つ。貴族としての高潔なる気配を隠すことはできないが礼儀作法ならばその身にしっかりと刻まれているのだとエンヤスは僅かに目を伏せる。
「失礼、『私』が何かを用意しよう……用意致しましょう。ミセス、嫌いなものは?」
「ございませんわ。あと、お話の口調も気になさらないで。わたくし、そういった事には『こだわりません』のよ」
ティーカップの用意をとアリーと共にキッチンに向かう『黒白の傭兵』メル・ラーテ(p3p004228)はキッチンに佇む一人のメイドの姿を両眼に映す。何処か暗い雰囲気さえも感じさせた女はメルの視線に気づき、直ぐ様に俯く。
(なんだ……? あいつ……あいつが、今回の『暴漢』か? 女を暴漢って呼ぶのは、可笑しいかもしれないけどな)
慣れないスカートを気にしながらもメルはじ、とその女の様子を見詰めた。厚い眼鏡のせいで表情は伺えないがアリーとメルから視線を逸らさんとしていることが伺える。
(向こうも『訳アリ』なんだよな――……)
薔薇が植えられた庭園はこじんまりとしながらもきちんと整えられていた。屋敷の様子から見るに『こだわらない』は徹底されているのだろうと『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)は実感する。調度品は誰かが誂えた物やプレゼントなのだろう、雰囲気から察するにミセス・グローリーの趣味と言う訳でもなさそうだった。
「この薔薇は――……」
「ミセスの趣味っぽくはないっすよね」
小さく欠伸を噛み殺した『侵森牢河』ロキ・グリサリド(p3p004235)はきょろきょろと周囲を見回した。暴漢として聞いていた庭師と執事の男が庭で談笑している様子にロキはちらりと縁を見遣る。
小さく頷く縁はゆっくりと彼らへと近づき『一般人』のフリをしながらひらりと手を振った。
「よろしく頼むぜ、旦那。正直な所、庭弄りの経験は殆どなくてなぁ。先輩として色々教えてくれや」
「新入りかい? そういえばアリーが言っていたな……。よろしく頼むよ」
小さく頭を下げたロキは窓から庭を見下ろす『純粋なクロ』札切 九郎(p3p004384)の姿に気付く。袖口に隠したナイフの存在は今は誰にも気づかれていないのだろう。新たな職場を見て回ると言った雰囲気の九郎に目配せしながらロキは人好きする笑みを浮かべる。
「こちらこそっす。そういえば……ペット? っすか?」
庭の向こう、その庭園には似合わぬ羆の姿にロキが瞬けば大仰な様子で驚いて見せた縁が「こりゃデカイな」と手を叩く。どこか表情を曇らせて曖昧な笑みを浮かべた執事と庭師は「よく躾けてあるんだ」と濁す様に二人へと告げた。
●
庭でお茶会をしましょうと提案するミセスからの言葉を受けて、庭の整備を整えていたロキは執事の男がそわそわとその身を揺らした事に気付く。
「どうかしたスか?」
「……いや、君も茶会に参加するならここは任せてくれよ」
ロキがペットを目で追うのを受けて執事の男はバツが悪そうに頬を掻く。その魔物は羆と呼ぶに相応しい。巨躯を丸め、ぐるると喉鳴らした獣は『かわいいペット』像からはかけ離れている。
「このペット、触っても襲われねースか? ていうかミセスが拘らないって言ったってマズくないです?」
「い、いい子なんだ」
誤魔化す様に告げる執事にロキは「へえ」と小さく呟いた。ミセスを伴って庭先に出てくる冒険者達の背後では俯いている暴漢一派のメイドの姿が見える。
(……何もなければいいんですが)
視線を揺れ動かした九郎は兎の耳をへこりと折り動向を見守っていた。袖口に控えたナイフの切っ先を確かめるように指先添えて暴漢の動向をしかと見守っている。
ふと、ミセスと目が合った獣がぐるると喉を鳴らし始めた事にロキは気付く。同時に九郎はトレーとして持っていた盾を構え「奥様」とミセスを呼んだ。
「下がっていてください」
「……いかがいたしまして?」
首を傾いだミセスに縁は「ペットってのはしつけが大変なんだそうだ」と『誤魔化す様に』告げた。
「……この熊、確か使用人のペットね? 躾けのなってないこと」
ミセスを目掛ける様にゆっくりと歩き出した獣の姿にロスヴァイセの表情が曇る。
神秘への親和性を高めた彼女の紅玉の瞳が細められる。足元の影からずるりと飛び出したのは彼女にとって慣れた盾。
ぐん、と一気に距離詰めた羆の一撃を受け止めてロスヴァイセが小さく息を吐く。
「ッ――」
「奥様、下がって――なんてな? クマ公、喧嘩なら受けて立ってやろうじゃねぇか!」
八重歯を覗かせたメルがくつくつと喉を鳴らす。直感的な危機を察知したメルは慣れないメイド服のスカートを盛大に持ち上げて地面を踏み締めた。
くるりと指先が狙撃用武器の感触を確かめる。得物の感覚がその細い指先には良く馴染む。傭兵としての矜持と、仕事であればどのような戦闘も熟して見せる攻撃重視の姿勢を崩さぬままにメルが喉鳴らす。
「ペ、ペットなんです!」
やめて、とわざとらしい悲痛な声を聴きエンヤスは「淑女の悲鳴も絶妙なるスパイスである!」と手を打ち合わせる。
「だが、しかし! 余は前に出ぬぞ! 絶対に出ぬ! 荒事は向いている者に任せる!」
「任されました」
その執事服を纏っていれど隠しきれない高貴さを前面に押し出すエンヤスに夏子は柔らかに一つ頷いた。
暴漢たちにとってかわいいペットが『暴れている事故』なのだ。ちら、と様子を見る夏子の視線が僅かに揺れ動く。
「あっとっと…! 失礼、危うくカップに粗相をしてしまうところでした」
おっちょこちょいを装って、テーブルから毀れるカップをくるりと拾い上げた夏子のシールドが羆の一撃を受け止める。
振るい上げた腕の衝撃に僅かに腕が軋む感覚を覚え、粘り強く耐え忍ぶ闘士は野生の羆でなくペットであることを思い出し「余興ですよ、ミセス」と笑った。
「随分と『躾けられた羆』だな」
冗句めかすライネルの一言に執事の表情が蒼褪める。暴漢達にとってはあくまで新たな使用人でしかなかった8人が咄嗟に戦闘行動に出た事は予想の範囲外である。
その為か、己たちの思惑がバレてしまっているのではないかという不安さえも彼らは覚えていた。
(――逃げるか?)
ライネルの視線がぎょろり、と動く。
息荒げ唸り声を上げる羆へと放たれた術式がぐるりと周囲へと展開してゆく。
その隙に、一歩前進したのは執事だった。長い燕尾服の陰に隠した暗器がぎらりと光る。羆の暴走に合わせ、ミセスと『新たな使用人』を処理せんと決めたのであろう。羆を受け止める夏子を目掛け、ゆっくりとその暗器が放たれんとし――
「がら空きスよ」
羆と『使用人』の戦闘を見守っていた暴漢たる執事の背後から迫り寄ったのはロキの一撃。組技を掛け、そのままの姿勢で体を落としてゆくロキに暴漢が瞬時に息を飲む。
「『地図を覚える』のも仕事の内ッスから」
に、と唇を歪めたロキはそのままその身を反転させる。執事の体を投げる様に一転させた彼を支援するように縁は一気に距離を詰めた。
「どうだい、大人しく捕まっちゃくれねぇか。怪我はしたくねぇだろ、お互いによ」
クリティカルリングを飾った無骨な指先が煙管を掴む。馨るのは紫煙。縁の一撃を受け止めて、一歩後退した庭師が小さな舌打ちを漏らした。
ぐん、とその身を回転させるように放たれた蹴撃にぐん、とその身を肉薄させて縁は小さく笑う。
「――言っても無駄か」
「何を考えて……! 奥様、助けてくださいっ!」
まるで被害者のように声上げたメイドにミセスはぱちりと小さく瞬いた。彼女の傍を離れぬようにとロキより聞いていたアリーの表情が僅かに曇る。
「あら、随分とか弱い声を上げるのね?」
首を傾いだロスヴァイセが地面をたん、と踏みしめる。助けてと走り寄るメイドの手に握られていたナイフを弾く様に盾を構え、そのままに魔的な力を純粋なる破壊力へと変換し、深く放った。
「い、一体何が――」
「ペットの羆に奥様を襲わせて財産戴こうって魂胆だ」
悪党が言わぬのならばすべてのネタバラしをしてやろうとライネルが唇を釣り上げる。ぎょ、とした表情の暴漢達に視線を送りエンヤスは「賤しい事だ!」と大仰に告げた。
「可憐なるミセスに凶刃を振るうとは!」
「嘘をつかないで頂戴、ミセス、彼らの方が悪党です!」
庭師の言葉にミセスの困惑は深くなる。しかし、暴れ回った羆の様子を見るに『この場の誰かを信じる』という事は拘らない女には難しい事だったのだろう。
「……」
「奥様」
ゆっくりと彼女を呼んで夏子は肩を竦める。守って見せるとミセスを庇うその様子にも冒険者側が悪党である事を否定する要素となるのだろう。
「わたくしは――……拘らない事が罪でしたのでしょうか」
「そうだな。クマ公で鍋をしたってミセスは『拘らず』食っちまうだろ?
ナンセンスだ! 『もっと拘って』見ろよ。この場は救ってやるんだからよ!」
拳固めたメルの一言にミセスはアリーをぎゅ、と抱き締める。庇う様に立っていたアリーの眼前には夏子の背中。
鼓舞するように前線を支援するエンヤスに僅かな目配せを送ってライネルは深く一手を踏み込んだ。
「羆はそろそろ『おしまい』だが、どうする?」
「ッ――この!」
冒険者たちの連携により羆の消耗は激しいものとなる。後方よりせめて、ミセスだけでもと狙うメイドの眼前に滑り込み九郎は首を小さく振った。
「悪者は許しませんよ」
庭師の一撃を受け止めた縁がぐん、と一歩引く。空いた好き前へとロスヴァイセは飛び込みその身を深く穿った。
ぐん、と後退する執事を追い掛けてロキは前線へと踏み込んでゆく。
(ミセスに血を見せたくねーし)
ぼそ、と呟いたロキは拳をぐ、と固める。敢えて自身を追い込みながらも戦うロキの攻勢を支援するのはエンヤス。前線は任せた以上、後方からのバックアップは怠らない。
ロスヴァイセの影からぞろりと武器が現れる。指先は只、それを握る事無く照準を定めていた。
「観念なさい、執行者たる我が槍の穂先は、罪人を逃しはしない、穿て!」
●
「さて、ミセス。余の高貴さが溢れ出して居た事には気付いていただろう!
改めて名乗らせて頂こう。余は幻想国貴族にして特異運命座標、ドゥルダーカ家エンヤス!」
執事であった頃の口調は今の彼には必要あるまい。椅子に腰かけたミセスはぱちりと瞬き「まあ」と口元に手をやっている。こだわらないと言えど、貴族であるエンヤスが己の執事役だったのだ。これには驚きも隠せないだろう。
「 折角の美しい華、田舎で萎れるのは忍びない。資産もまた狙われよう
何ならこの余と婚約し………いや資産だけでも………前途有望な余への投資をだな………まあ、折角の縁である。また何かあれば力になろうぞ! むふふふ!」
「ドゥルダーカ様」
窘める様なアリーの声にエンヤスが肩を竦める。その様子に喉をくつくつと鳴らして笑った縁は「失礼」と一つ告げ、煙管へと火をやった。
悪事を働く輩が居なくなったのだからと整えた茶会の席で煙管はマナー違反かと遠慮がちであった彼にミセスは「拘りませんので」と寧ろ彼に喫煙を勧めていた。
「……社交界から身を引き随分と経ちましたが、こうして皆様とお話しできる事はわたくしにとっても嬉しい事です」
掘り返された土や荒れた庭に気を払う縁は「そりゃよかった」と常の様に口元に笑みを浮かべる。庭師役として教わっていた技術はここでも十分役に立ちそうだ。
「あの……貴女の夫は、貴女に不幸が起こる事を望んでるでしょうか。
どうでしょう――もう少しだけ……拘って生きる、ってのは……」
暴漢による凶行を目にしていた夏子はたどたどしくもミセスへと告げる。
首を傾げた儘のミセスに対してライネルは頬を掻く。心配そうに寄り添ったアリーを気遣う様に肩を擦ったロスヴァイセは「もう安心して頂戴」と暴漢達を退けた事を伝えた。
「何か、わたくしは間違っていたのかしら――?」
「間違い……ではないのかもしれないけれど、こだわりが無さ過ぎるのも問題かもしれないわ」
寛容は怠惰と似ている。ロスヴァイセは己が罪たる寛容さを思い浮かべながら僅かに肩を竦めた。メイドとしての職務が終わり、自身たちがミセスを救いに来たのだと告げれば彼女は更に首を傾ぐ。
「奥様を殺して財産を奪うなんて計画はあまりいい物じゃないですからね。阻止出来てよかった」
ほっと胸を撫で下した九郎にロスヴァイセはゆっくりと頷いた。何にせよオーダーを完遂できた事で任務は終了だ。
「差し出がましい提案だけど奥様、使用人のペットくらいは小さな犬猫にこだわってもよろしいのでは?」
冗談めかして笑ったロスヴァイセにミセスは小さく笑う。こだわる事を忘れてしまったから――そんな彼女の傍らでロキはくい、と袖を引いた。
「終わったらさ。ミセスミセス! 話聞かせてよ。夫さんとの思い出話。
どんなことがあったのかとかさ、俺超聞きたい! ……ぇ、片づけ……? ぐぬぬう!!」
茶会の用意が整えばある程度の片付けも使用人の仕事だ。むくれたロキにメルはメイド服のスカートを気にする素振りを見せ「さっさと片付けて着替えと茶会だ」とふい、と視線を逸らした。
「執事服のメイドでもよろしかったのですよ。ねえ、奥様」
「ええ。……似合っておりましてよ」
くすくすと笑ったミセスにメルは頬を掻く。ああ、そんな様子を見ていれば拘らない事が勿体なく感じてしまって――
「……貴女はまだ愛されてるんです」
呟いた夏子の言葉にゆっくりと頷いてライネルはテーブルの上へとポットをセッティングしていく。
「ま、拘らん生き方もそれはそれでいいが自分を心配してる奴らの事はちょっとは気にかけてやれよ」
首を傾げ、そのままにゆっくりと頷いたミセスは「それでは、わたくしのこだわった『友人』として皆様と楽しみたいですわ」と笑み溢した。
ミセス・グローリーはこだわらない――友人の出自にも、友人の性格にも。
けれど、ミセス・グローリーは一つだけ拘って見せる。大切なものが何か、という矜持を一つ胸に抱いて。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
ミセス・グローリーに対してのお声掛けも素敵でした。
またご縁がありましたらどうぞ、宜しくお願い致します。
GMコメント
菖蒲(あやめ)と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。
●成功条件
ミセス・グローリーの生存
●ミセス・グローリー
年の頃は40代半ばですが、美しさの面影は残っている未亡人です。
早くに夫に先立たれて以来、片田舎に屋敷を移し夫の遺産で生活をしています。
その生活ぶりは質素そのものです。穏やかな気質で何かに文句を言う事も拒むこともありません。
●使用人アリー
メイド。ミセス・グローリーが社交界に出ていたころからの使用人。今回の情報元です。
何か屋敷で困ったことが有れば彼女と協力することが可能です。邸内の地図と出入口の場所を事前に教えてくれています。屋敷で使用人をする際には教育係の名目で同行してくれます。
●暴漢(使用人) 3名
3人組の暴漢です。庭師1名、執事1名、メイド1名。ミセス・グローリーを庭へと呼び出し、控えさせた魔物に事故に見せかけ殺害させようとしています。
戦闘能力を有しており、前衛(庭師、執事)、後衛(メイド)の布陣です。
●『ペット』 1体
巨大な羆。庭師が連れて来たペットだそうですが、困った事によく教育されている魔物です。
ペットによってミセス・グローリーを事故死させようとしています。得意技は殴る。とても痛いです。
●ミセス・グローリー邸の求人情報
メイド、執事、庭師の募集です。特記事項としては『ミセス・グローリーはこだわりません』とだけ書かれています。
男性がメイド、女性が執事をするのも大歓迎です。ミセス・グローリーは新たな使用人たちと茶会をするのが楽しみね、と微笑んでいるとプルー情報です。
ギルドから派遣された冒険者である事が暴漢たちに知られれば、殺害方法が変更されてしまう可能性がある為に使用人として邸内に入ることをお勧めします。
普通に邸内である程度、執事、メイド、庭師として働きながら暴漢の動きを確認・牽制してみてください。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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