PandoraPartyProject

シナリオ詳細

甘くて怖い、蜥蜴イチゴ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●子供たちの冒険
 竜の住まう場所、フリアノン。危険極まりない場所であっても、そのいくつかの安全圏のうちに、亜竜種と呼ばれる人類種は生存し、集落を築いている。
 さて、人が生活しているなら、当然のごとく大人も子供もいる。子供は好奇心旺盛だ。如何に外が本当に恐ろしい場所だと教え込まれても、まだまだそれを自覚し、理解するには幼い。
 それ故に……子供達もまた、ふとしたことで、危険に身を晒してしまう事がある。
 ここに、一人の少年と少女がいる。名を、鋼牙(コウガ)と衣緒(イオ)という。どちらもまだまだ幼く、遊びた盛りの二人である。
「今日は何して遊ぼうか」
 木の棒を振り回して、鋼牙が言う。最近、集落から『召喚』されるものが増えた。何でも、彼らは『イレギュラーズ』なる者になって、集落の外に旅立ったらしい。
 すごいな、と鋼牙は思う。自分の知る限り、外に出ていった大人はいなかった。それが、こうして外の世界に旅立って……世界を救うために戦うのだとか。そうなれば、彼も男の子、あこがれないわけがない。
 そういうわけだから、伝説の剣(ひろったぼうきれ)を持って振り回しているわけだ。
「んーと、また冒険するの?」
 衣緒が言った。また、という言葉通りに、2人は、というか鋼牙に引っ張られてだが、あちこちで探検と称して遊んでいる。
「そうだな、俺達も、外に出て良いころだ」
 うんうん、と鋼牙がいう。もちろんそんなわけはない。
「だめだよぉ、真華(マナカ)せんせぇに怒られるよぉ」
 真華とは、彼らの面倒を見ている、保母のような立場の女性だ。
「男はいつか、女を振り切って旅に出るんだって、なんか本で読んだ」
 些かロマンティックすぎる本である。外から流入したものかもしれない。
「そうだ、こんど真華先生たち、蜥蜴イチゴのケーキを作るって言ってたな。
 先に蜥蜴イチゴをたくさん摘んで、プレゼントしたらきっとびっくりするぞ」
「蜥蜴イチゴのケーキ、食べたいね」
 にこぉ、とした笑顔を、衣緒が浮かべた。
「真華せんせぇが喜ぶなら、いいのかなぁ?」
「いいんだぜ。人の喜ぶ笑顔のために戦うのが勇者だ、ってなんかの本で言ってた。
 だから、いつもの所に、蜥蜴イチゴをとりに行こう!」
 というと、鋼牙は衣緒を連れて、集落の外へと走り出していってしまった。

 集落のほど近くに、小さな森がある。森と言っても、まばらに樹が生えているような程度だが、そこに蜥蜴イチゴと呼ばれる、小さな草の実が成っている。
 集落の人間も、時折この森に来てその実をとっているわけで、本来なら、ここは比較的安全な場所だ。もちろん、危険が一切ないというわけではない。この地は一歩踏み出せば危険の跋扈する覇竜領域なのだ。
 さておき、そんな場所に、鋼牙と衣緒はやってきていた。草むらにしゃがみこんで、蜥蜴イチゴの赤い実を探す。
「あった!」
 鋼牙が声をあげた。彼の小さな掌にいっぱいの、大粒の実。それを袋に突っ込んで、衣緒にいう。
「もっと探そうぜ。沢山持って帰って、山ほどケーキを作るんだ」
「ケーキ、沢山食べたいねぇ」
 にこにこと笑う衣緒。
 ……本来であれば、これも少し危険な冒険、という事で終わるはずだった。帰った二人は、こっぴどく大人に叱られるだろう。それで大泣きして、少し反省して、また明日もいつも通りの冒険を始めるのだろう。
 だが。この日ばかりは運が悪かった。
 彼らは、大人たちが噂していたのを知らない。
 森の近くに、陸生の亜竜が姿を見せたらしい、と言っていたのを。
 だから、今日は森には近寄らないようにしよう、と語っていたのを。
 二人は、知らない。

 がさり、と森の草木が揺れる。全長にして3mほど。翼と一体化した前肢を地面にたたきつけ、。四足歩行に用に歩く、巨大な亜竜の姿が一匹。それが、獲物か何かを探すように、森を徘徊している。
 ……その怪物が、子供たちを見つけるのに、そう時間はかからないかもしれなかった。

●子供たちを救い出せ
「ろ、ローレットの皆ぁ~」
 ぱたぱたと手をふりながら、亜竜種の女性である真華(マナカ)が、あなた達イレギュラーズに向って走って来るのを確認する。
 普段は穏やかでぽやぽやした印象の彼女が、今日はひどく焦っているように見えた。そうなれば、これは一大事に違いない、とあなた達が確信する通りに、真華は息を切らせながら、あなた達にこういうのである。
「実は、子供が二人、集落の外の森に行ってしまったみたいなの……」
 真華が言うのは、こうである。なんでも、鋼牙と衣緒という、2人の亜竜種の子供が、近くの森へ出かけてしまったのだという。比較的安全な場所であり、普段ならまだ問題はないのだが、どうやらここ最近、森の方に陸生の亜竜が姿を現したという報告がなされたのだそうだ。
 このままでは、亜竜に見つかってしまい、子供たちが襲われてしまう可能性がある……。
「お願い。今すぐ森に向って、2人を見つけてくれないかしらぁ?
 私もすぐに駆け付けたいのだけれど、他の子供たちの確認や、ご両親への説明で、とても手が足りないの……」
 申し訳なさそうに言う真華へ、あなた達は力強く頷いた。
「そういう事なら、まかせてほしい。すぐに現場に向かおう」
 あなたの仲間の一人がそういう。
「ああ、ありがとう! 相手はワイバーンよ、くれぐれも気を付けて頂戴ね?」
 真華がそういうのを背にうけて、あなた達は走り出した。
 事態は一刻を争う。
 速やかに現地に向かい、子供たちを救出せよ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 二人の子供を救出し、森から離脱してください。

●成功条件
 鋼牙と衣緒の救出
  オプション――ナックルザウラの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 亜竜種たちの集落に棲む子供、鋼牙と衣緒。二人は冒険気分で、集落の外の森に、蜥蜴イチゴをとりに行ってしまいます。
 普段は、多少危険とは言え、集落の人達も木の実などを積みに行く森です。安全は確保されています。
 ですが、タイミング悪く、森でナックルザウラという陸生の亜竜の姿が発見されています。
 このままでは、子供たちが亜竜と遭遇し、襲われてしまう可能性は非常に高いです。
 皆さんは、すぐに現場に向かい、子供たちを救出してください。
 皆さんがナックルザウラと遭遇する可能性は、非常に高いです。子供たちを庇いながら戦う準備をしておいてください。
 斃す必要はありませんが、倒せれば、集落の安全も確保できるでしょう。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は森になっていますが、さほど深いわけではないので、視界の確保などにはさほど苦労しないでしょう。

●エネミーデータ
 ナックルザウラ ×1
  陸生のワイバーンです。翼の先端に拳のような手がついており、『渾身』の一撃で殴り掛かってきます。
  攻めに転じている時は非常に強気ですが、追い込まれると非常に弱気になる、イキリヤンキーみたいな生態をしています。
  ある程度は相手をする必要はありますが、ある程度ダメージを与えて、追い返してやるのでも充分でしょう。

●救助対象
 鋼牙と衣緒
  亜竜種の少年と少女です。森の中で蜥蜴イチゴをとっています。
  当然ながら、戦闘能力は皆無です。いう事はしっかり聞いてくれますが、ちゃんと守ってあげる必要があります。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。

  • 甘くて怖い、蜥蜴イチゴ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シラス(p3p004421)
超える者
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
冬越 弾正(p3p007105)
終音
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼
嶺 繧花(p3p010437)
嶺上開花!

リプレイ

●森の亜竜と子供達
「鋼牙(コウガ)ぁ、イチゴはいつも、こっちで取ってるよ?」
 と、衣緒(イオ)は森の入り口あたりを指さす。集落より、少しだけ離れた森だ。大人にとっては近場でも、子供にとっては遠い場所。それくらいの距離の場所。
「そうだな。でも、いつもとってるって事は、もう残ってない事だろ? 衣緒」
 鋼牙が言った。
「そっかぁ、いつもとってるものね。残ってないのかなぁ?」
 鋼牙が、にっ、と笑った。
「だから、ちょっと奥に行こうぜ。いつもいってないから、残ってるはずなんだ」
「でも、奥の方は危ないよ。せんせぇとか、おかあさんや、おとうさんとかがいないとダメだって」
「今日は冒険に来たんだぜ? 少しくらいの危険が、男を強くするんだ」
「本で読んだの?」
 衣緒がにこにこと笑った。一つ年上の鋼牙は、一人っ子の衣緒にとっては、頼れるおにいちゃんだ。
「そうだぜ。衣緒も今度、里長の家に見せてもらいに行こうぜ」
 二人ははしゃぎながら、森の奥へと向かってしまう。一方、ずしん、ずしん、と地に響く音があった。不吉なそれに、2人はまだ気づいていない――。

「なんつーか、どの場所もヤンチャな子供に悩まされるってのは一緒なんだな」
 森に通ずる道を行きながら、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は呟く。自身が、真華へと告げた言葉を思い出す。『大丈夫だぜ真華さん。子守からモンスターの討伐まで俺達イレギュラーズにドーン任せておきな』。そう告げた時に、心配げだった彼女の瞳が、信頼のそれに輝いたことを。
「やれやれ。せんせぇのお願いをきくなんて、ほんとにガキの時以来だ。ま、今は悪い気はしねぇけどな?」
「ふふ。真華せんせぇには、夢見る男を女がどんな気持ちで待ってるか……是非教えてあげて欲しい所ですね」
 『音撃の射手』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)が、優し気に笑う。
「確かに子供とは、いつの時代もどの世界でも、勇者の心を持つのですね。
 特に男の子とは、止められるほどに尚更飛び出してみたくなるでしょう」
 穏やかな言葉には、千尋のことも含めれているような気がして、千尋は気恥ずかし気に頭をかいた。
「……なんっつーか、そのおかあさんムーブ? くすぐってぇっす。いや、嫌とかじゃなくて」
「ふふ。わかります。母ですので」
「お母さん的には、子供たちの行先もわかりそうか?」
 『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)が声をあげるのへ、マグタレーナは頷いた。
「まず、森に向かったのは確実でしょう。目撃証言や、足跡などからも確証が取れます。
 そして、おそらく、普段とは違う場所……つまり、遠足で向かうような森の入り口ではなく、さらにその奥へと向かったであろうことも、推察できます」
「……子供は冒険したがるから、ってやつか?」
 ひゅう、とシオンが囃し立てつつ、頷いた。
「ま、わからんでもないな。
 大人になると忘れがちだが、ガキはガキなりの理論と利益を基準に動くもんだ。
 鋼牙の欲望を考えれば、冒険心と沢山のイチゴ。他の奴らとは違う場所で、他の奴らより一歩抜きんでたい、か?」
「ま、そんな所だろうな。可愛い欲望だ」
 『竜剣』シラス(p3p004421)が頷いた。
「で――ナックルザウラって言ったか。3m級の亜竜が出歩いてるって?」
 シラスの言葉に、仲間達は頷く。情報によれば、陸生種のワイバーンが、付近を徘徊している可能性があるとの事だ。
「やれやれ、嫌な予感がする。こういう時は当たるんだ。特に、トラブルが重なった最悪の時はな。
 さっさと子供たちを見つけて、ワイバーンを追い払う……いや、やっちまうか。その方があとくされがない」
「それには賛成しよう」
 『Utraque unum』冬越 弾正(p3p007105)が頷いた。
「放っておいて、集落の方に現れたらそれこそ大事だ。もちろん、集落でも撃退策は練っているだろうが、俺たちが討伐してしまった方が話が速い」
 ナックルザウラの討伐は、依頼の達成条件ではない。が、倒してしまって損をすることはないだろう。
「……集落の子達が迷惑をかけてごめんなさい、ローレットの先輩方……!」
 『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)が、申し訳なさそうに表情を歪めた。
「でも、あの子たちの気持ち、私もわかるんだ。
 小さい頃に、外に冒険を夢見ていたから……。
 だから、どうしても助けてあげたい。その気持ちを、間違ってるとか、怖い事だけだって否定したくないんだ。
 ……ローレットの先輩たち! どうか、力を貸して下さい!」
「うん、うん! 当然力をお貸しいたしますぞ!」
 ははは、と『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)は陽気に笑い、
「ですが……少しだけ、間違えております。
 スケさん達は、既に皆、あなたの仲間。
 この問題は、ローレットに持ち込まれた時点で、スケさん達全体の問題なのですぞ!
 故に、力を貸すのは当たり前。そういう時は、こういうのです。
 『一緒に頑張ろう』と!」
「ま、そういう事だ」
 『一ノ太刀』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が笑った。
「仕事だからってのもあるし、子供がなんにでも興味を持つのは当たり前だ。アタシもよく冒険に出たがったりしたもんだ。
 その子供が今回の体験を後に生かせるようにするためにも、ちゃんと助けてやらないとな」
「ありがとう、皆……!」
 繧花が顔をほころばせた。
「けど、安心するのはまだまだだ?
 森が見えてきた……入り口には、やっぱりいないか……!」
 エレンシアが言う通り、件の遠足に使う森が見えてくる。が、入り口のあたりに人影はない。
「やっぱり、奥に行ったみたいだな。草木をかき分ける音がする」
 シオンが耳に意識を集中させる。
「……小さいのが一つ。デカいのが一つ、だ。流石に距離までは分からないが、とにかく、森に子供もワイバーンもいるのは間違いない!」
「今はとにかく、子供達と合流することを最優先としましょう」
 マグタレーナが言う。
「ああ、逆に派手に音を立てて歩くぞ。子供たちより先にワイバーンに遭遇したとしても、それはそれで子供たちが安全だからな」
 弾正の言う通り。情報によれば、子供達に直接的な害をもたらすのは、ナックルザウラだ。それが此方に襲い掛かって来るならば、その間子供たちの安全は確保されているという事になる。
「うーし! じゃ、勇者サマの探索と行きますか」
 千尋が、ばしっ、と拳を打ち合わせる。仲間達は武器を抜き放ち、臨戦態勢をとった。
「行くぞ、皆!
 鋼牙、衣緒! 迎えに来たぞ! 真華先生がケーキを焼いたってさ!」
 シラスが声を張り上げた。子供達、或いはナックルザウラ、どちらかに届くように声を張り上げながら、イレギュラーズ達は森の中へと入り込んだ。

●剛腕の亜竜
「鋼牙! 衣緒! 迎えに来たよ! おねがい、返事をして!」
 ――声が聞こえる。イチゴをとって、袋にいっぱいにつめていた鋼牙と衣緒は、一緒に顔をあげた。
「誰だろう? せんせぇかな?」
 鋼牙がそういうのへ、衣緒は少しだけ、怖がるような表情をした。
「お、おこられるのかなぁ。真華せんせぇ、おこるとこわいの」
 うう、と衣緒が口元を抑えた。
「知ってる……顔が笑ってるけど、なんか怖いんだ……」
 流石の鋼牙も、うう、と泣きそうな顔をする。
「どうしよぉ、鋼牙ぁ。ごめんなさい、ってしにいく?」
「逃げたら、もっと怒られるよな……それに、困難から逃げちゃいけない、って本で読んだ」
「じゃあ、かえろっか」
 衣緒がそういうのへ、鋼牙が頷いた。その手を取って、袋にいっぱいのイチゴを抱えて、ゆっくりと声のする方へ。
 その眼前に、奇怪な怪物が姿を現したのは、まさにその瞬間だった。
 たとえるなら、翼の生えた筋肉質なトカゲである。ゆっくりと二人に迫る、その狂ったような瞳が、2人を睥睨していた。
 幼い二人の身体に、震えあがる様な何かが駆け上った。それは、圧倒的な死を前にした恐怖だった。
 その恐るべき恐怖を前にして、一歩、鋼牙が前に出たのは、勇気か、楽観か。
 ただ、友達を……衣緒を護ろうとした。それは、確かな事だった。
「良いぜ。その意気は買う」
 こえが、聞こえた。気づけば、鋼牙の前に、男が立っていた。
 仲間達の前に立つ男。これまでも、多くの仲間達をその背に控えさせ、チームを引っ張ってきた、ヘッド。
「よう、初めましてだ。俺は千尋。『悠久ーUQー』の伊達千尋だ。
 えーと、お前は鋼牙って言ったか。人の喜ぶ顔の為に戦うのが勇者、いいなお前。
 その考えカッコいいぜ。だから衣緒とそのイチゴをちゃんと護れよ。
 それを護るお前らを、俺達が護ってやる」
 その男は、伊達千尋。『悠久ーUQー』の伊達千尋――!
 千尋が跳んだ。目の前の、ナックルザウラ、その顔面に向けて! 振り上げたこぶしを叩き込む!
「大丈夫!? 二人とも!」
 繧花が飛び込んできて、鋼牙と衣緒を抱きしめた。二人は目を丸くして、
「繧花おねえちゃん?」
「どうして?」
 と声をあげるのへ、
「迎えに来たの! もう大丈夫……!」
 安心した様で、繧花が言った。
「よぉし、千尋殿! 相手を抑えるのはスケさんにお任せください!」
 ヴェルミリオが、その両手を高らかに掲げ、声をあげる。
「スケさん、名をヴェルミリオ=スケルトン=ファロと申しますぞ!
 さぁさぁ、暴虐なるナックルザウラ! 殴る相手をご所望なら、このスケさんが御相手いたしましょう!」
 ごあ、と声をあげたナックルザウラが、ヴェルミリオに向けて走る! 巨石が落下してくるかのような、強烈な拳の一撃が、ヴェルミリオに振り下ろされた!
「ぬぅぅ、強烈!」
「でも、攻めている間だけだろう!?」
 エレンシアが、白の麗刀を翻し、跳躍した。ナックルザウラの拳をよけるように地をかけ、一気に接敵。
「アタシたちを舐めるなッ!」
 目にも止まらぬ三段撃、三つの急所を貫くそれが、ナックルザウラの皮膚を斬り飛ばした! ぎゃおう、とナックルザウラは怒りに声をあげる。がちんがちん、と両手を打ち合わせ、周囲を振り薙ぐように、その拳を振り回した! エレンシアは跳躍して、それを回避! 空中で姿勢制御しつつ、
「こいつを子供たちの方に行かせるな! スケ! シオン! 脚を止め続けるぞ!」
「了解ですぞ!」
「任せろ!」
 シオンが、アステラの短剣を逆手に構えた。その刀身の紋様が怪しく輝くや、振りぬかれた刃から、黒顎の巨大な影が、ナックルザウラに襲い掛かる!
「攻めに転じている間は強気らしいからな。
 なら、さっさとでその鼻っ柱を叩き潰してやるに限る!」
 シオンの叫びに応じるように、黒顎はがあ、と吠える。ナックルザウラの翼に、力強く噛みついた黒顎。ナックルザウラがその身体をよじった。反撃で殴り返したナックルザウラの拳に、黒顎がはじけて消え去る。ナックルザウラの体力はまだ健在のようだ。暴れ出すようにその身をよじり、拳をでたらめに振るう。周囲のイレギュラーズ達に、強烈な拳と拳風が襲い掛かる!
「ちっ、強気に出るだけの実力はあるつもりか! だがな!」
 再度振るわれるアストラの刃。再び生み出された黒顎が、ナックルザウラを押させつけるように食らいつく!
「呪鎖、葬送の曲と知りなさい」
 マグタレーナがゆるりとその指を指示した。その先端から迸る呪が鎖となって、ナックルザウラの身体を縛り付ける! ぎりぎり、となる呪鎖から響く、葬送の呪歌! 四方から迫るその旋律に、ナックルザウラが悲鳴をあげた!
「怯えているのですね。ですが、それは先ほど、あの子達が味わったものと知りなさい」
 わずかに冷たく、マグタレーナが言った。母は強し――子なるものを護るためなら、怜悧にもなろう。マグタレーナの葬送に、ナックルザウラが悲鳴をあげる。暴れるように振るわれる拳は、先ほどまでの精彩を欠いていた。恐らく、体力が減じ始めたのだ。
「さっきまでの威勢が嘘みたいだな!」
 シラスが飛び込み、その両の手に魔力を纏わせた。鋼のそれの如き、魔力による硬質の拳! 拳による三点の打撃(スリー・バースト)! 顔面、喉、胸に叩き込まれたそれが、ナックルザウラの呼吸を止めた。
「ぎぃ、ぃ」
 苦しげにうめくナックルザウラ! その動きは、明らかに逃げ腰になっている。後ろを気にし、さながら退路を探すかのように。
「ハッ、俺の拳骨の方が固ぇ!」
 とはいえ、これまでにシラスがナックルザウラから受けたダメージは相応に。だが、そんなことを気取られぬように不敵なポーカーフェイスを見せて見せる。あるいはその表情は、ナックルザウラにとっては、いくら殴っても表情を変えぬ、強者の余裕に見えたかもしれない!
「命が惜しければ……いや、これは嘘だ。
 ここで仕留める。悪く思うな、とは言わねぇ。だが、こっちも必死なんでな!」
 シラスが再びとんだ。跳躍、そこから放たれるは無拍子の一撃! ナックルザウラが認識する間もなく放たれたその拳は、再び胸を叩きつけ、その衝撃を体中へと巡らせた! ぎゃあああ! ナックルザウラが雄叫びをあげる! ナックルザウラは、イレギュラー児たちを振り払うように身体を翻すと、森の中へ逃げようと足をあげる――が。
「逃すものか、貴様は俺達が倒す!」
 弾正が、その脚を止めた! 蛇鞭剣が翻る、残像の無限斬撃が、その脚を切り裂く! 太くたくましいとはいえ、それだけの斬撃を受けては、亜竜といえどひとたまりもない!
「威勢がよかったのは最初だけか? まだ殴り合えるだろうよ。さぁ、さぁ! さぁ!!」
 弾正の挑発の言葉も、弱気になったナックルザウラには恐ろしいおたけびとして聞こえる。ナックルザウラは派手に転倒! ぎあ、ぎあ、と雄たけびを上げながら、身をよじる!
「とどめを刺すんだ」
 弾正が声をあげた。
「わあああああっ!!」
 繧花が叫び、飛んだ。その両の手に、雄叫びに呼応するように輝く手甲。繧花は拳を振り上げると、倒れたナックルザウラの眉間に向けて、拳を叩き込む! ずどん、という強烈な音が響いた。脳天に拳を叩き込まれたナックルザウラが、ぐるり、と白目をむく。ず、とナックルザウラの力が抜けて、地面に力なく倒れ伏した。数度、痙攣する様子を見せてから、すぐに動かなくなる。
「……やった……」
 繧花が呟いた。ナックルザウラは逃げることもかなわず、イレギュラーズ達の手によって討伐されたのだった。
 そしてもちろん、守るべきもの達も。
 確かに、その手で守り切ったのである――。

●勇者たちの帰還
「さて……」
 じろり、と弾正が子供たちを見やる。子供たちが、びくり、と身体を震わせるのへ、弾正は少しだけ、困ったような顔をした。
「……まて、怒っているわけではない。
 ……俺は強面なのは理解しているが……」
「そういう事。怒るのは俺らじゃないんでね」
 シラスが肩をすくめた。
「とりあえず、怪我は無いか?」
 シラスが尋ねるのへ、子供たちはこくこくと頷く――が、
「あ、あれ?」
 と、鋼牙が声をあげる。酷く震えていた。恐怖が今になって、身体を震わせているのだろう。
「……しょうがないよ。大丈夫」
 繧花が鋼牙を抱きしめた。
「うう、繧花おねえちゃん……」
 年相応の幼さと、泣きそうな、甘えるような声を、鋼牙が言う。
「さてさて……冒険に出ようとするその心意気やよし! しかし、自身の力を省みず危険に飛び込むのは勇気ではなく、蛮勇と呼ぶのです。それは我々のような冒険に慣れたものの命すら奪うもの……。
 誰かを喜ばせたい、未知へ繰り出したいと願うのであれば、身の丈を知ることが大切なのです。そう、誰かに頼るということが大切なのですぞ!」
 ヴェルミリオがむむ、と声をあげた。子供たちは、はい、と頷いた。
「人の為に勇気を出して行動するのは良い事です。
 これからもその気持ちを忘れず、胸を張って蜥蜴イチゴを渡してあげて下さい。
 でも、せんせい達いっぱい心配を掛けた事には、きちんとありがとうとごめんなさいを言える子にもなって下さいね?」
 マグタレーナが、諭すように、そういう。
「よしよし、だ。
 冒険もいいが、冒険の基本は情報収集だ。出る前に大人たちに話を聞くなりして、外は今どんなかなど情報を得ておいた方が良いぜ」
 鋼牙、衣緒の頭をなでながら、エレンシアが言った。
「はい、ごめんなさい……」
 衣緒が言うのへ、鋼牙は頭を振った。
「ちがうよ、俺が無理やり連れてきたから、衣緒は悪くないんだ」
「良い奴だな、アンタは。大きくなったら、きっと強くなれるぞ」
 エレンシアが楽しげに笑う。
「そうですなぁ、とても良い子です! その心はなくしてはいけませんぞ!」
 ヴェルミリオも頷いた。
「これからは気をつけろよ。親とか、センセーとかに、心配かけんなよな」
 シオンが嘆息しつつ、言った。
「で、イチゴはもう充分なのか? 足りないなら、手伝うぞ?」
「そうだな。ついでだ、俺たちにこの辺の事、教えてくれよ。
 そうしたら、俺たちも嬉しい。な、いいだろ?」
 千尋が笑ってそういうのへ、
『うん!』
 子供たちは笑顔で頷いた。
 そうして、皆で詰んだイチゴを使ったケーキは、きっと最高の味がするはずだった。

成否

成功

MVP

伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、子供たちは無事に救出。
 ナックルザウラも撃破され、集落の安全も確保されました!

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